はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 357回の改訂 最終更新: 2024.10.08

肺がんの症状

肺がんになると出やすい症状があります。しかし、症状の出ない肺がんも少なくなく、症状がないからと言って肺がんではないとは限りません。また、この症状があれば肺がんと分かるというような症状もありません。

1. 肺がんの初期症状は基本的にはない

肺がんの初期段階から見られる症状という意味では、基本的に肺がんに初期症状はありません。むしろ、がんが進行するまでは症状が目立たないことが肺がんの特徴になります。

炎症が強かったり粘液を作るようなタイプの肺がんであれば初期段階から症状の目立つようなことがまれにありますが、基本的には症状が出てくるようになるのはがんが進行してからと考えて良いです。

2. 肺がんは進行するまで症状が出にくい

肺がんはある程度進行しなければ、基本的には症状をあらわしません。これは、肺の中に小さながんがあっても、正常な肺組織は壊されないし炎症も起こらないからです。同じようなことが原因となって、肺がん以外のがんも初期の段階では症状がないことが多いのです。

また、肺がんが肺の端っこ(末梢)にあるときは症状が出にくいです。よほど炎症の強いがんや粘液を作ってしまうようながんでない限りは、進行するまでがんの存在に気づくことは難しいです。

それでは、がんを早期に見つけて治療するためには何をすれば良いのでしょうか。

そのためには、症状ではない客観的な物差しが必要になります。その物差しが、肺のX線写真(レントゲン検査)であったり、胸部CTの検査であったりします。

症状だけに頼らず肺がんに適した検査を行うことで、肺がんを早期に見つけることができるのです。

3. 肺がんになるとどのような症状が出るか

肺がんと分かる症状があるわけではありません。しかし、肺がんになった時にあらわれやすい症状はあります。

【肺がんになったときに出やすい症状】

  • 咳嗽(がいそう):咳(せき)のこと
  • 喀痰(かくたん):痰(たん)が出ること
  • 血痰
  • 発熱
  • 呼吸困難感
  • 胸痛
  • 全身倦怠感:だるさ、疲れやすい、脱力感
  • 体重減少

しかし、これらの症状は他の病気でも出るものです。例えば、発熱は風邪でも腸炎でも骨折でも出現する症状ですので、発熱したからといって肺がんが疑わしいとは限りません。ですが、理由もなく上にある症状が続く場合は、肺がんの可能性を考えたほうが良いかもしれません。

また、症状がないから安心とは言えないことには注意が必要です。症状がない肺がんは決して少なくないのです。

咳が出たらどんな病気が考えられるか

肺がんが進行すると咳が出ますが、当然肺がん以外でも咳は出ます。どんな病気になると咳が出るか、肺がん以外の主なものを以下に記します。

これらの病気以外にも咳の出る原因は考えられるため、症状が咳だけのときは肺がんを心配する必要性は低いです。

血痰が出たらどんな病気が考えられるか

血痰は咳よりも肺がんの可能性が高くなります。とは言え血痰を出すような病気は肺がん以外にも多く、血痰が出たからといって肺がんである可能性はさほど高くはありません。

以下に血痰が出る肺がん以外の主な病気を記します。

これらの病気の中で、どれが最も疑わしいのかを状況から考えていくことになります。

胸の痛みが出たらどんな病気が考えられるか

胸の痛みが肺がんによって出現する場合は、がんがある程度進行している可能性が高いです。がんが進行して神経や胸膜に影響を及ぼすようになって初めて胸痛が出るため、初期の肺がんで胸痛が出ることは少ないです。肺の内部に痛みを感じる神経は殆どありませんが、肺の表面つまり胸膜には痛みを感じる神経が走っています。

さらに、胸の痛みを起こす病気は肺がん以外にも多く、胸痛を感じただけで進行した肺がんを疑うというのは少し早計かもしれません。以下に胸痛の出る主な病気を並べてみます。

胸痛の原因には多くの病気が考えられるので、肺がんによって胸痛が出現しているのかどうかを判断するには、状況をしっかりとみる必要があります。

肩の痛みが出たらどんな病気が考えられるか

肺がんによって肩の痛みが出る場合は特殊です。脇の下にある神経が集まっている部位にがん細胞の影響が出た場合か、肩の骨などに転移している場合に肩の痛みが出てきます。いずれの場合も肺がんの初期の段階では起こらないので、肺がんで肩の痛みが出た場合はがんの進行を考えなくてはなりません。

とはいえ、肩の痛みを起こす病気はがん以外にもたくさんあるので、肩の痛みが出てきたから進行肺がんになってしまったというわけではありません。以下に肩の痛みを起こす病気を記します。

肺がんによる肩の痛みなのかどうか疑わしいときは、痛みの状況やその他の症状を考えて、総合的に判断する必要があります。

腰痛が出たらどんな病気が考えられるか

肺がんで腰痛が出る場合は、背骨(胸腰椎)にがんが転移していることがほとんどです。がんの骨への転移が悪化すると、骨折することもあり注意が必要です。初期のがんが急に骨へ転移することは少なく、たいていの場合がんが成長してから骨転移が起こります。

しかし、腰痛を起こす病気は肺がん以外にも多く、腰痛の人が肺がんである確率はあまり高くありません。以下に腰痛の出る主な病気を記します。

腰痛はよく起こる症状ですが、危険な病気が隠れていることも多いので、もし腰痛が1-2週間治らないで持続する場合は、クリニックあるいは病院を受診したほうが良いでしょう。

微熱が出たらどんな病気が考えられるか

微熱は非常に多くの病気で起こります。微熱が出たから肺がんということはありませんし、肺がんだから熱が出るということでもありません。

微熱が続く場合は原因を調べる必要はありますが、微熱だからといって肺がんを気にしすぎる必要はありません。

4. 肺がんの症状:咳

咳は空気の通り道(気道)に異物が入ってきたときに異物を身体の外に出す自然の作用です。主に気道に通常とは異なる刺激が加わったときに出ます。

肺がんになると咳が出ることがあります。どういったことが原因で咳が出るのでしょうか?

肺がんになると咳が出る理由は大きく2つ考えられます。

  • がんが大きくなって気道に顔を出すことで、空気の通り道が変形する
  • がんによる炎症が気道の粘膜に及んでしまい、気道が敏感になる

いずれのパターンも肺がんの初期の段階では起こりにくい状況ですので、肺がんの有無を咳の症状だけで判断することは難しいです。

肺がんで咳が出ないこともある

肺がんで咳が出る原因は上に述べたものが主です。特に初期段階の肺がんであれば、咳が出ることはほとんどありません。(もちろん、肺がんが小さいときにも、風邪などほかの原因で咳が出ることはあります。)肺がんが進行しているとしても咳が出ないこともあります。

また、咳が出るような肺がんでも、薬で咳が出にくくなる場合があります。肺がんによって骨や胸などに痛みのある場合には鎮痛薬が使われることがあります。痛み止めの中でもオピオイドと呼ばれる薬(モルヒネ、オキシコドン、コデインなど)は咳を止める強い作用があります。これらの薬を飲んでいる際は、気付かない間に咳が出にくくなっていることに注意が必要です。

咳だけで肺がんかどうかの判断は難しい

おそらくどんな名医であっても、咳の特徴だけで原因が肺がんであることを見抜くことは難しいです。それほど咳の原因は多様であるため、判断が難しいのです。

とはいえ、熟練した医者であれば、咳や呼吸の仕方の特徴から、気道や肺のうちどの部分に異常があるかはわかります。実際に診察する現場では、そうやって段々と咳の原因を推測していくことになります。

肺がんは種類や存在する位置で特徴が違うため、出てくる症状も変わってきます。咳の様子だけで肺がんであると見抜くことは困難と考えてください。

咳で肺がんのステージはわからない

肺がんのステージは咳などの症状で決まりません。腫瘍の大きさやリンパ節への転移、肺以外の臓器への転移の状況から決まります。

強いて言えば、肺がんの初期段階では症状が出にくいため、肺がんで咳が出たら進行している可能性があるということくらいですが、だからといってステージが分かることはありません。

肺がんは咳でうつらない

肺がんは感染症ではないので、咳でうつることはありません。咳の際にがん細胞が他人の身体に入ったとしても、他人の細胞を身体が取り込むことはありませんので気にする必要はありません。

5. 肺がんの症状:背中の痛み

肺がんが原因で背中の痛みが出てくるときは2つのことが考えられます。

  • 肺がんが背中側の胸膜に影響を及ぼしている(浸潤している)
  • 肺がんが背骨(胸椎)に転移している

いずれの状態も肺がんの進行をあらわすものですので、肺がんの患者さんが今までなかった背中の痛みを感じた際は、きちんと精査して原因を探す必要があります。

6. 肺がんの症状:胸の痛み

肺がんで胸の痛みが出るときは、主に胸膜(きょうまく)にがん細胞の影響が出た(浸潤した)場合です。浸潤とは、がん細胞が周りの正常組織に浸み込むように入り込んで広がっていくことです。胸膜には痛みの神経が走っており、神経に影響があると痛みが走るのです。

胸膜は肺を覆っている胸膜(臓側胸膜)と肋骨の内側にある胸膜(壁側胸膜)の2種類があり、臓側胸膜と壁側胸膜の間には胸腔(きょうくう)というスペースが存在します。肺がんは臓側胸膜に包まれた肺の中から出てくるので、臓側胸膜にあらわれたときよりも、壁側胸膜にがん細胞が出現する場合のほうが重症です。壁側胸膜にがん細胞があらわれることを胸膜転移と言います。

7. 肺がんの症状:胸水

胸膜転移の状態になると、胸水が出てくることが多いです。これを胸膜炎(がんせいきょうまくえん)といい、胸水によって肺がしぼんでしまい、息苦しさが目立つようになってきます。癌性胸膜炎以外にも、がんが進行して栄養状態が悪くなることで胸水がたまることもあります。

いずれにしても、肺がんの患者さんが突然息苦しさを感じたら、次の予約の日を待たずに医療機関で診てもらったほうが良いでしょう。

8. 肺がんの症状:むくみ

肺がんでむくみ浮腫)が出ることがあります。肺がんに限らずむくみの出る主な原因は以下のものになります。

  • 栄養状態が悪い
  • 全身に炎症が起こっている
  • 心臓の機能が悪い
  • 腎臓の機能が悪い
  • 肝臓の機能が悪い
  • 点滴の量が過剰である

肺がんが進行してくると、栄養状態が落ちて全身に炎症が起こります。また、抗がん剤を投与するときには、腎臓の機能を守るために大量の点滴を投与しますので、その影響でむくみが出ることがあります。

あまりにむくみすぎると肺に水が溜まって息苦しくなることもありますので、明らかにむくみが悪化しているときは医療機関にかかるようにして下さい。

9. 肺がんの症状:食欲不振

例えば、胃がんであったり食道がんであれば、食欲が落ちてしまうことはなんとなくわかります。しかし、どうして肺がんで食欲が落ちてしまうのでしょうか。

肺がんで食欲が落ちてしまう主な原因は以下になります。

  • がんの炎症が全身を駆け巡ることで疲弊してしまう
  • 痰や咳がひどくて食事している場合でない
  • 化学療法(抗がん剤)の副作用で食欲が落ちてしまう

抗がん剤の副作用以外のパターンは肺がんが進行してから出てくるもので、肺がんの初期段階では起こりません。

口当たりの良いもの(アイスクリーム、フルーツなど)を食べるなど、ひと工夫することで多少食欲を戻すことができます。

10. 脳転移した時の症状

がんが進行すると肺以外の臓器に転移します。時に脳に転移することもあります。

肺がんが脳に転移すると、以下のような症状が出てきます。

  • 頭痛
  • 手足のしびれ
  • しゃべりにくさ
  • けいれん(症候性てんかん
  • 認知機能の低下
  • 性格の変化
  • 意識朦朧(もうろう)
  • 意識消失

これらのどの症状が出るのかは人それぞれですが、いずれも生活に支障をきたします。脳転移に対しては状況に応じた専門的な治療を行うことになりますので、これらの症状が出てきたらできるだけ早く医療機関を受診してください。

11. 肺がんの末期の症状

がんには末期という言葉があります。この言葉は患者にもその家族にも医療者にも簡単に使える言葉ではないですが、その意味はどこかおぼろげです。がんの末期とはどういった状態なのか考えてみましょう。

肺がんの末期とはどんな状態か

実は、「がんの末期」の明確な定義はありません。治療も難しく以前の日常生活ができないほど身体が蝕まれている状態と考えて良いです。

これとは別にがんにはステージという分類があります。一番重症にあたるステージ4と末期がしばしば同一視されがちです。ステージ4とは基本的にはがん細胞が他の臓器へ転移している状態ですので、確かにがんの状態は進行しています。しかし、決して以前のような日常生活が送れないわけでもなく、普通に働いていたり、いつものように運動したりしている人もいます。

また、ステージ4でも治療することはできますし、治療がうまくいっていつもと変わらない生活をずっと続けている人もいます。

それでは、末期の状態の肺がんではどんな症状が出るのでしょうか?

肺がんが末期になった時の症状

肺がんになると出現する症状は上で説明しましたが、肺がんが末期になったときの症状は基本的にそれらが非常に強くなったものになります。例えば、それまでは軽い息苦しさ程度で済んでいたのに、酸素吸入をしていても息苦しくなるようなことが起こります。

上に挙げた症状以外には、以下の症状にも注意が必要になります。

  • 何をしてもひどいだるさ(倦怠感)が感じられる
  • 何を食べても体重がどんどん減っていく
  • 身体がひどくむくんでくる
  • 意識がもうろうとする

これらの4つの症状は、いずれもがんが進行して身体のバランスが乱れてしまっている状態で見られやすい症状です。この状態になると体重が減ることに対して点滴で栄養をとっても、栄養を吸収できないどころか、点滴で身体に入ってきた水分が血管の中に保てなくなり、むくみ(浮腫)がひどくなってしまいます。

また、栄養状態が悪くなっているのでさらに食事をとる元気もなくなってしまい、全身状態はどんどん悪化してしまいます。この状態になると回復することは難しいことが多いですが、それでも苦しい思いを和らげることはできます。つらい状態を上手に和らげるために、緩和治療を行うこととなります。

では、肺がんが末期となった場合はどんな準備をするとよいでしょうか?

肺がん末期の症状が出たらどういった準備をすればいいか

肺がんが末期の状態になると、残念ながら積極的な治療は難しくなります。しかし、末期になれば症状が強くなっていきますので、治療の必要も増えてきます。つまり、がんを排除するための治療ができなくても、症状を和らげる治療(緩和治療)の出番が多くなります。

がんの症状が強くなると、患者さんもその家族も不安が強くなってくることでしょう。

実はこの不安こそが非常に重要な問題です。人間は不安が強いと苦痛を感じやすくなりますので、末期の状態では特に不安を取るように配慮する必要があります。

それでは実際にどんなことに気をつければ良いのでしょうか?

不安を取る方法は個人個人で違うので一概には言えませんが、いつもと同じように生活することが最も望ましいです。いつもと同じ、不安の少ない生活を送るために、患者本人と家族と医療者が協力しあって、過ごしたい時間を作ることが大切です。

それでも不安が大きい場合も多いです。どうしても不安が強いときには、不安を取るような薬を使うことも大切になります。

薬が必要なほど不安が強い状況になると簡単にはバランスが取れません。治療が難しくなってきたときに有用なのが、医師や看護師で形成された緩和医療チームです。緩和医療チームをうまく利用して、症状のある中でも自分らしく過ごす時間を確保してください。