肺がんの統計:患者数、生存率、余命など
肺がんは日本人に多い
目次
1. 肺がんになる人の数
肺がんを患っている人は国内におよそ13万人以上いると言われています。男女の内訳はおよそ男性が9万人で女性が4万人です。これはがん全体のトップ3(大腸がん、肺がん、胃がん)に入ります。
また、肺がんによる死亡数を見ると、年間で7万人以上が肺がんで亡くなっています。これは全てのがんでトップです。つまり、肺がんが最も患者が亡くなっているがんになります。(「がんの統計2024」より)
最近の変化をみてみますと、肺がんの患者数はここ30年ほど徐々に増えています。高齢化が進んでいますので、高齢者が増えている影響を受けているのは間違いありません。さらに、年齢の要素を抜いても肺がんの患者は増えています。

また、肺がんの死亡者数も増えています。これも高齢化の影響が作用していますので、年齢の要素を抜いて考えなければなりません。肺がんの死亡者数は年齢の要素を抜くと減っています。

つまり、年齢の要素を抜いた肺がんの状況は、患者数はわずかに増えているが死亡者数が減っていることがわかります。この原因には肺がん治療の進歩が考えられます。
2. 肺がんのステージごとの生存率
肺がんでは組織型と
とは言え、これらは統計でまとめられた平均的な数字です。ご自身の肺がんに当てはまるとは限らない、ということはぜひ覚えておいてください。仮に余命が1年と言われても5年以上生きる人はいますし、残念ながら3か月ほどで亡くなってしまう人もいます。
数字は参考程度に捉えてください。
なお、ステージはローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)で表記するのが一般的ですが、本サイトでは読みやすさのためアラビア数字で表記しているところがあります。
生存率とは?
生存率を考えるときによく使われる数字が、
がんの生存率を語るときには基本的に5年生存率を用います。しかし、あまりにがんによって亡くなる率が高い場合は、5年生存率がほとんど0に近い数字になってしまいます。その場合は1年生存率を用いて考えます。
組織型、ステージごとの生存率
肺がんは、腺がんや扁平上皮がん、小細胞がんといった多くの種類の組織型に分けられます。それぞれ性質が異なり、治療法も異なります。しかし、その性質から小細胞がんとそれ以外の非小細胞がんに大別されることがあります。
生存率に関しても、小細胞がんと非小細胞がんで分けて考えることが多いです。以下にステージごとの生存率を表にします。
*実測生存率:死因に関係なく、すべての死亡を計算に含めた生存率
*ネット・サバイバル:がんのみが死因となる状況を仮定して計算する方法
【非小細胞がんのステージと生存率】
| ステージ | 5年生存率(実測) | 5年生存率(ネット・サバイバル) |
| 1 | 74.8% | 82.6% |
| 2 | 48.6% | 53.6% |
| 3 | 28.9% | 31.1% |
| 4 | 9.0% 1年生存率 40.9% | 9.6% 1年生存率 41.7% |
国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計(2015年5年生存率)」 より
上の表は肺腺がんも肺扁平上皮がんもまとめて考えていますが、肺がんの種類によって治療法が少し変わってくることがあります。がんの種類ごとの治療法に関して詳しくは、「肺腺がんの治療」のページ、「肺扁平上皮がんの治療」のページを参考にしてください。
次に小細胞がんに関してです。
肺小細胞がんは、肺がんの中でも最も進行が早いがんです。身体の中にどれだけ肺がんが広がっているかによって、限局型と進展型にわけられます(
【小細胞がんのステージと生存率】
| ステージ | 5年生存率(実測) | 5年生存率(ネット・サバイバル) |
| 1 | 40.6% | 45.4% |
| 2 | 26.1% | 28.5% |
| 3 | 16.3% | 17.4% |
| 4 | 2.4% 1年生存率 34.8% | 2.5% 1年生存率 35.4% |
国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計(2015年5年生存率)」 より
3. 肺がん手術後の生存率
肺がんに対する治療で最も成績が良いのが手術(外科的治療)です。手術では実際どの程度の治療成績があるのか、 肺がんのステージごとにデータをまとめたものがあるのでここでご紹介します。
ただし、例えばステージ2といっても体調や年齢などがまちまちですので、ここで出て来る数字がそのまま自分に当てはまるわけではないことに注意してください。また、小細胞がんに関しては、手術がほとんどできませんので、ここで挙げる数字は非小細胞がんに対して手術を行ったときのものです。
【非小細胞肺がんのステージごとの手術治療成績】
| ステージ | 5年生存率 |
| 0 | 97.0% |
| 1A1 | 91.6% |
| 1A2 | 81.4% |
| 1A3 | 74.8% |
| 1B | 71.5% |
| 2A | 60.2% |
| 2B | 58.1% |
参考文献
日本肺がん学会「肺がん
Okami J, Shintani Y, Okumura M,et al. Demographics, Safety and Quality, and Prognostic Information in Both the Seventh and Eighth Editions of the TNM Classification in 18,973 Surgical Cases of the Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry Database in 2010, J Thorac Oncol. 2019 Feb;14(2):212-222. doi: 10.1016/j.jtho.2018.10.002. Epub 2018 Oct 10.
肺がんのステージが進行するほど治療成績が下がってしまいます。そのため、肺がんの検診や人間ドックなどを用いて早期発見に努めることが重要です。日本では40歳以上を対象に、1年に1度「肺がん検診」が公的な検査として実施されています。お住まいの自治体のホームページなどで確認してみてください。
肺がんの生存率は、手術する場合としない場合で変わるのか
肺がんの治療は、手術(外科的治療)・
ステージ1の非小細胞肺がんに対して手術を行った場合の5年生存率は70-80%程度です。それに対して、手術を行わなかった場合はどのくらいの生存率があるのでしょうか?
1980年代の日本のデータでは、ステージ1の非小細胞肺がんに対して放射線治療を行った時の5年生存率は22%としています。この数字を見ると圧倒的に手術を行うほうが治療成績が優れていることがわかります。そのため、手術を行える場合は手術をするべきという方針になっています。
しかし、このデータは80年代という古いものです。最近では、ステージ1の非小細胞肺がんに対して放射線治療のやり方が改良されて来ています。例えば、体幹部定位放射線照射や画像誘導放射線、治療陽子線や炭素線照射などを用いて、線量を一部に集中し高い線量を肺がんに対して照射する放射線治療が行われています。
ステージ1の肺がんに対して48Gy/4分割の定位放射線照射を行ったところ、1A期肺がんの3年生存率は83%で、1B期肺がんの3年生存率は72%という報告があります。この報告では、重篤な
このように、今や放射線治療は手術と同じ程度の成績が出てきつつあります。手術だけでなく放射線治療も化学療法も日々苦心改良されています。そのため、数年前にやっていた治療もやり方や成績がめざましく変わる可能性があります。
自分に合った安全で効果的な治療を行うために、ぜひ自分の気になっている情報をお医者さんに伝えてみてください。患者と医療者で相談しながら治療法を決めていくことが大切なのです。
また、インターネット上には根拠のない推論や個人意見が、さも世の真理かのように発信されています。こうしたエセ情報に引っかからないようにしなくてはならないので、より中立的で最新情報をカバーした発信源を見つけてください。エセ情報を流しているサイトは、仮にそれを信じてあなたが取り返しのつかない損をしたって、なんの補償もしてくれません。おそらく「ネット情報を採用するかしないかはあなたの判断だったはずです。」と言われるのがオチです。損をする可能性があるのは患者さん自身なのですから、ぜひ慎重に判断してください。
インターネットでの情報の見つけ方
信頼できる情報を見分ける手掛かりをいくつか紹介します。
大学や政府関係機関、有力学会が発信している情報は基本的に信頼できます。URL(サイトのアドレス)に「.ac.jp」(大学)、「.go.jp」(政府)と入っているサイトは信頼度が高いと言えます。また、がんで言えば、国立がん研究センターによる「がん情報サービス」は非常に参考になります。
私的団体や企業によるサイトの場合、執筆者情報が明らかにされていることは大切です。サイトの見つけやすい場所に運営者の記載があり、どんな団体なのか詳しく書いてあること、特に複数の医師が中心的なメンバーであることは信憑性が高い要素です。
執筆者が個人名のときは、たとえ所属や経歴を明かした医師であっても、極端な意見や根拠不明の意見を発信している場合があります。どれが正しい情報かがわからない場合は、一度主治医に見てもらってもいいでしょう。
大手製薬企業が有益な情報サイトを作っている場合もあります。製薬企業は法的規制を受けていて、虚偽・誇大広告などが禁止されているので、事実無根のことは書きません。「薬を使うように誘導されるのではないか?」と心配に思えるかもしれませんが、状況としては、「薬は悪だ」と主張しているサイトにこそエセ情報が書かれていることが圧倒的に多いです。
4. 肺がんが再発した時の生存率
肺がんは再発することがあります。再発した場合も治療法がないわけではありません。治療することでがんを根治あるいは制御できる見込みがあれば治療します。治療に入る前にがんの状況と進展度(ステージ)を再度評価し、その評価をもとに治療できるのかどうかを判断します。
手術した後に再発したがんが、小さくリンパ節転移も
手術ができない場合には、再発に対する治療法として化学療法や
前回治療で抗がん剤を使っている場合は、もう一度同じ抗がん剤を用いても効果が低いため、違うものを選んで使用します。
しかし、肺小細胞がんの場合は少し違ってきます。肺小細胞がんの再発では、治療が終了してから90日以上経ってから再発した場合は、前回使用した抗がん剤を使って良いことになっています。
これには主に2つの理由があります。
- 肺小細胞がんに使用できる抗がん剤は少ない
- 肺小細胞がんに対して抗がん剤が非常によく効く
そのため、再発した肺小細胞がんに同じ抗がん剤を投与してみても、肺がんに対して効果を発揮することがあります。
再発性肺がんに対して治療を行う場合、治療法の選択肢が狭まるのは事実です。また、2種類目3種類目と抗がん剤を変えていくごとに、どうしても効果が薄れる(奏効率が落ちる)ことがわかっています。つまり、
5. ステージ4の余命とは
ステージ4の非小細胞肺がんの余命はおよそ平均で1年です。近年の治療薬(特に分子標的薬)の改良によって余命は伸びている傾向にあります。なかでも分子標的薬が奏功する場合は何年も生きることができますが、一方で分子標的薬が奏功しない場合は余命が数ヶ月伸びる程度です。
ステージ4の肺がんは平均で1年の余命ですが、個人差も大きいです。分子標的薬の使える人やタバコを吸わない人や体力のある人などは、平均の余命より長生きできる可能性が高いです。わからないことがあれば質問しつつ、しっかり主治医と相談しながら治療を決めていくことが重要です。
肺がんが脳転移した時の生存率
肺がんは脳に
脳転移が起こると非常に状況が悪くなります。というのも、脳転移に対して手術は難しいのと抗がん薬が効きにくい背景があるからです。また、脳に転移するということはがん細胞は全身に到達しうる状況でもあります。このようなことから脳転移が起こった肺がんの余命は長くないです。
実際にどの程度の余命なのかは、脳転移の数や大きさにもよるので一概に言うことは難しいです。それでも一つの指針となるものとして、脳転移に対して効果の高い治療法である放射線療法を行ったときの治療成績のデータがあるので紹介します。
非小細胞肺がんの多発脳転移に対して全脳照射を行った際の生存期間は3.5-7.5か月程度といわれています。数が少なく大きさが小さい場合には、定位放射線照射も効果的であることがわかっています。放射線治療を行ってもこのくらいの生存期間である一方で、化学療法と放射線療法などを用いて長期間生存できる人もいます。一人ひとりによって状況は異なりますので、統計の数字を気にするよりは前向きに治療を捉えつつ、今の時間を大切に過ごすことを考えてみてください。
参考:日本肺がん学会「肺癌診療ガイドライン 2023年版」Ⅳ.転移など各
6. 肺がんで余命宣告を受けたらどうすればいいか
肺がんであることを告知されるとき、その段階の推測から余命が宣告されることがあります。その数字に少なからず
余命を告げられたら、どういうふうに考えたら良いのでしょうか。
余命1年と言われたら
余命1年と言われることは、しばしばあります。というのも、非小細胞がんのステージ4や小細胞がんの進展型(ED)の余命がおおよそ1年だからです。
突然、余命が1年と言われた場合に受けるショックは計り知れません。これを受け入れるには努力と時間を要します。多くの場合、家族や友人などのサポートが手助けになって受け入れる体勢ができていきます。そのため、余命を告げられた場合には、少し心が落ち着いたら信頼している人と話してみると良いかもしれません。詳しくは、「肺がんを告知された時」のページも見てください。
余命1年は平均の数字です。その人その人の身体の状態で実際の余命は変わってきます。例えば、分子標的薬(EGFR-TKIやALK-TKI)が使用できるタイプの人は、予想よりも長く生きることもあります。そのため、自分の詳しい状況と治療法について主治医とよくよく相談してください。
さらに、1年という数字は色々なことができる時間でもあります。自分のやりたいことや、やらなければいけないことを一度まとめてみるのが良いかもしれません。治療しているうちにどういったことになるかは推測できませんので、自分らしい時間を作ることができるうちに、やるべきことをやると良いかもしれません。
余命1ヶ月と言われたら
余命1ヶ月と言われた場合は、余命1年とは状況が大きく違います。多くの場合は体力も落ちており、日常生活を送るのがやっとで、ベッドの上で生活しているような状況になります。
この状況から治療を行って元気になる可能性は低いです。たいていの場合は、積極的な治療は行わずに、緩和治療を中心に行うことになります。この状況になるとしんどい症状が多く出てきますので、緩和治療は非常に重要です。詳しくは、「緩和医療」のページを見てください。
この時期はいかに自分らしく生活を送るかも重要になります。親しい人と過ごしたり、自分の好きなこと(音楽鑑賞、映画鑑賞など)をすることもよいでしょう。
余命半年と言われたのに元気なのはなぜか
余命半年と言われたのに自分は元気でおかしいなあ、と思うこともあると思います。実はこれには2つ原因が考えられます。
- 平均的な余命から6か月と推定されているが、実はもっと状態が良い
- がんの進行が症状となってまだ出てきていない
これらは一体どういったことでしょうか。 詳しく考えていきましょう。
■平均的な余命から6か月と推定されているが、実はもっと状態が良い
多くの場合、余命はがんの種類とステージから推定されます。しかし、その推定は今までの統計の平均値を表しているに過ぎません。つまり、本当はばらつきがあるので、自分が平均よりも長生きすることは多々あるのです。
また、ステージ自体も実は幅広いものをひとまとめにしています。ステージは、腫瘍の大きさ・リンパ節転移の程度・遠隔転移の有無で決まります。これを画一的に評価してステージは決められるのですが、例えば、同じステージ3Aでも腫瘍の大きさや周りの臓器への影響、リンパ節転移の程度は一人ひとりで異なります。つまり、同じステージでも人によって状況は結構違うということです。
■がんの進行が症状となってまだ出てきていない
がんはある程度進行しないと症状として出てきません。実はステージ4でも症状の自覚がほとんどないといったことはあります。がんは進行してくると、あるところで突然つるべ落としのように状況が悪くなります。このターニングポイントの手前にいる場合は、本当に元気なんだけどどうしてだろうと言ったことが起こりえます。
7. 症状で余命は分かるか
症状で余命を推測することはかなり難しいです。
なぜなら、がんは進行するまで症状が出ないことが多いですし、進行した際に出る症状もさまざまだからです。また、症状が出てきたときも、実際に肺がんによって症状が出てきたのかはわかりにくいです。
ただし、データから大まかに見当がつく状況もあります。骨転移で骨が痛くなってきた場合と脳転移で症状が出てきた場合です。
骨転移で骨が痛くなってきた場合
肺がんはしばしば骨に転移します。骨に転移すると強い痛みが出たり、時には壊れた骨が神経を圧迫してしびれが出たりします。これに対して放射線療法や薬物療法(デノスマブやゾレドロン酸)を行います。
一般的に、骨転移が起こったら余命は12か月以内と言われています。
脳転移で症状が出てきた場合
脳転移が起こると一般的には余命は6か月以内と推定されます。脳転移の症状はさまざまですが、起こりやすいものは以下です。
- 物が二重に見える
- 左右どちらかの手足がしびれる
- しゃべりづらい
- 頭痛がする
- 認知機能が落ちる
- けいれん
肺がん患者にこれらの症状が出た場合は脳転移を疑わなくてはなりません。もし自覚があれば、必ず医療機関にかかって検査を受けてください。
参考文献