はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位。
29人の医師がチェック 227回の改訂 最終更新: 2018.07.12

肺がんの抗がん剤治療にはどんな薬を使う?

肺がんの治療には多くの場合抗がん剤が欠かせません。一口に抗がん剤といっても様々な種類があります。肺がんの治療の中でもたくさんの種類の抗がん剤から選んで適材適所で使っていきます。

また、抗がん剤の副作用に対する予防・対処目的で、ほかの薬を組み合わせて使います。

このページでは抗がん剤の種類や特徴、また一緒に使われる薬について詳しく説明していきます。

1. 肺がんで使う抗がん剤の種類は?

肺がんで使われる抗がん剤は大きく細胞障害性抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)と分子標的薬に分かれます。

細胞障害性抗がん剤はその名の通り、がん細胞を殺す働きを現す薬です。作用の仕組みによっていくつかの種類に分かれます。細胞増殖に必要なDNA複製を障害する薬、細胞分裂の過程を障害する薬などがあります。使い方としては、単剤(抗がん剤は一種類のみ)で治療する方法もありますが、複数の抗がん剤を併用する治療法も行われています。細胞障害性抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞(特に増殖が活発な細胞)にも影響を及ぼすため、骨髄抑制、粘膜障害、脱毛などの副作用が現れる場合があります。

一方、分子標的薬はがん細胞の増殖などに関わる特定分子を狙い撃ちにすることで抗腫瘍効果を現す薬です。選択的にがん細胞に作用するため、細胞障害性抗がん剤でみられる骨髄抑制、粘膜障害、脱毛などの副作用は比較的現れにくいとされています。その一方で、分子標的薬特有の副作用が現れる場合があります。

プラチナ製剤(白金製剤)(細胞障害性抗がん剤)

プラチナ製剤は、細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する抗がん剤です。

薬剤の化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むためプラチナ製剤と呼ばれます。

シスプラチン(CDDP)(商品名:ランダ®、ブリプラチン®など)やカルボプラチン(CBDCA)(商品名:パラプラチン®など)、ネダプラチン(NDPまたはCDGP)(商品名:アクプラ®)といった薬があり、病態や年齢などによって適する薬剤が選択されます。

肺がん治療においては非小細胞肺がん、小細胞肺がんのどちらでもプラチナ製剤を使用することがあります。

プラチナ製剤は、他の抗がん剤と併用して使われることも多い薬です。特にシスプラチンは多くのレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われる薬剤です。例として、トポイソメラーゼ阻害薬のエトポシド(ETP)とシスプラチンを一緒に使う治療法をPE療法と言います。イリノテカン(CPT-11)とシスプラチンを一緒に使う方法はPI療法と言います。ほかにも、タキサン系の微小管阻害薬であるドセタキセル(DTX)とシスプラチンを使うCD療法などがあります。

カルボプラチンもシスプラチンに匹敵する抗腫瘍活性を持つ薬剤です。カルボプラチンも他の抗がん剤と組み合わせて使われることが多い薬です。エトポシドとカルボプラチンを使うCE療法、微小管阻害薬のパクリタキセルとカルボプラチンを使うCP療法などがあります。

ネダプラチンも肺がん治療で使われる場合があるプラチナ製剤です。ドセタキセルとの併用療法などが治療の選択肢となっています。

プラチナ製剤で注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、骨髄抑制、末梢神経障害、胃腸障害、血栓塞栓症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどが現れることもあります。カルボプラチンはシスプラチンに比べて腎毒性や胃腸障害などが軽いとされます。病態などにもよりますが高齢者などに対してシスプラチンの代わりとしてカルボプラチンが使われることもあります。

ネダプラチンもシスプラチンに比べて腎毒性などの軽減ができる薬です。ただし骨髄抑制には注意が必要で、特に血小板減少などは遅れて比較的強く現れる傾向もあるため、休薬期間であっても出血傾向や感染症などには十分注意が必要となります。

治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の増悪などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかりと守ることも大切です。

トポイソメラーゼ阻害薬(細胞障害性抗がん剤)

トポイソメラーゼ阻害薬は、細胞分裂が進まないようにする作用により、がん細胞の増殖を阻止することでがん細胞を殺す細胞障害性抗がん剤です。

細胞の増殖は細胞分裂によっておこります。細胞分裂に必要なトポイソメラーゼという酵素があります。トポイソメラーゼ阻害薬は、トポイソメラーゼを阻害することで細胞分裂を途中段階で阻害し、抗腫瘍効果を現します。

肺がん治療ではエトポシド(ETP)(商品名:ペプシド®、ラステット®など)やイリノテカン(CPT-11)(商品名:カンプト®、トポテシン®など)といった薬が使われます。再発の小細胞肺がんにおいて、ノギテカン(NGT)(商品名:ハイカムチン®)が治療の選択肢になる場合もあります。

エトポシドは肺がんでも主に小細胞がんにおけるプラチナ製剤のシスプラチン(CDDP)やカルボプラチン(CBDCA)との併用療法で使われます。トポイソメラーゼはトポイソメラーゼIとIIの2種類に分かれます。エトポシドはトポイソメラーゼIIの方を阻害する作用を現します。

イリノテカンもシスプラチンなどと一緒に使われます。肺がん治療ではイリノテカンが小細胞がんだけでなく非小細胞がんの治療の選択肢になることもあります。イリノテカンはトポイソメラーゼIを阻害する作用を現します。

同じトポイソメラーゼ阻害薬でも、薬によって阻害する酵素のタイプが異なることもあり、注意すべき副作用に違いもあります。

イリノテカンは骨髄抑制、間質性肺炎などのほか、特に下痢に対しての注意が必要です。イリノテカンの下痢は薬剤の投与中から直後で現れる早発性の下痢と投与から数日経って現れる遅発性の下痢の2種類があります。それぞれ下痢に合わせた対処が必要となります。イリノテカンによる下痢はこのページの「がん化学療法に使う漢方薬とは?」の章でも解説しています。

エトポシドは骨髄抑制、間質性肺炎、消化器障害、肝機能障害などの他、脱毛にも注意が必要です。治療の内容などにもよりますが、50%にも及ぶ(もしくはそれ以上の)確率で脱毛がおこるとされています。事前説明をしっかり聞いておくことやウィッグの準備なども大切です。

微小管阻害薬(細胞障害性抗がん剤)

細胞分裂における途中段階を阻害することで、がん細胞の増殖を阻止することでがん細胞を殺す細胞障害性抗がん剤です。

肺がん治療で使われるタキサン系という種類の薬は、細胞分裂に必要な微小管(びしょうかん)というタンパク質の形成段階を阻害することで抗腫瘍効果を現します。この薬はイチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により、学名からタキサン系の名称がついています。

肺がん治療では、パクリタキセル(PACまたはPTX)(商品名:タキソール®など)、ドセタキセル(DTX)(商品名:タキソテール®、ワンタキテール®など)といった薬剤が使われます。非小細胞がんのステージがIIIやIVの段階において、プラチナ製剤のカルボプラチン(CBDCA)とパクリタキセルの併用(CP療法)、プラチナ製剤のシスプラチン(CDDP)とドセタキセルの併用(CD療法)などの治療法があります。

パクリタキセルやドセタキセルの製剤には添加物や添付溶解液にエタノールを含むためアルコール過敏症の体質を持つ場合には注意が必要です。タキサン系製剤の中にはパクリタキセルを加工してエタノール(及びヒマシ油)を含まないようにしたnab-パクリタキセル(ナブパクリタキセル、商品名:アブラキサン®)という製剤もあります。この製剤は血液由来の成分が含まれますので、諸般の理由で輸血を望まれない人は使うことが出来ません。

パクリタキセルやドセタキセルで注意すべき副作用には過敏症、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害の他、脱毛などにも注意が必要です。

投与に際し、過敏症などを予防するため、副腎皮質ステロイド抗ヒスタミン薬などの前投与などが考慮されます。

◎他の微小管阻害薬(ビノレルビン)

微小管に作用し細胞分裂を阻害する抗がん剤はタキサン系だけでなく、ビノレルビン(VNR)(商品名:ナベルビン®、ロゼウス®)もその一つで、非小細胞肺がんの治療に使われる場合もあります。ビノレルビンはニチニチソウ(旧学名:Vinca rosea)というマダガスカル島の植物成分を元に造られた薬で、旧学名を由来とするビンカアルカロイド系という種類の抗がん剤です。先ほどのタキサン系と作用するポイントは異なりますが、微小管に作用し細胞分裂を途中で阻害することで抗腫瘍効果を現します。

非小細胞肺がんでは主にプラチナ製剤のシスプラチン(CDDP)と併用する治療法で使われることがあります。

ビノレルビンは、ビンカアルカロイド系のほかの薬に比べて神経軸索に対する作用が軽度ではありますが、末梢神経障害には注意が必要です。また血管への刺激が比較的強く、注射部位が赤くなったり痛みを感じる場合を考慮し、血流がよく太い血管(静脈)から投与されることもあります。その他骨髄抑制、便秘イレウスなどにも注意が必要です。

代謝拮抗薬(細胞障害性抗がん剤)

細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNA合成を阻害することにより抗腫瘍効果を現す細胞障害性抗がん剤です。

ゲムシタビン(GEM)(商品名:ジェムザール®など)、テガフール・ギメラシル・オテラシル配合剤(以後、S-1)(商品名:ティーエスワン®など)といった薬が肺がん治療に使われています。非小細胞肺がんのステージ(病期)IVにおいてプラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)と併用する治療法が選択される場合も考えられます。

ゲムシタビンは、ピリミジン塩基というDNAの成分に類似した構造をもつ薬剤です。ゲムシタビンがDNA鎖の中に取り込まれることで、細胞の自滅(アポトーシス)を誘発させる作用などにより抗腫瘍効果を現します。

肺がん(非小細胞肺がん)以外にも膵がん卵巣がん胆道がん乳がん膀胱がんといった多くのがんに保険適用を持つ抗がん剤です。

注意すべき副作用は、骨髄抑制、間質性肺炎、胃腸症状(吐き気、食欲不振など)、肝機能障害などです。また点滴時間が長くなると副作用(骨髄抑制など)の増強がおこる可能性があるため、点滴時間を可能な限り30分程度にするなどの対処がとられます。

S-1はテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムという3種類の成分からできている配合剤です。作用の中心となるのはテガフールです。テガフールは体内で変換され、ピリミジン系の代謝拮抗薬であるフルオロウラシル(5-FU)となります。5-FUの作用として、細胞増殖に必要なDNA合成阻害作用やRNA機能障害作用により抗腫瘍効果を現します。

S-1の効果の中心はテガフールによる抗腫瘍効果です。他の2種類の成分がテガフールを補助する役割を果たします。ギメラシルはテガフールが体内で変換されてできた5-FUの効果を高めます。オテラシルカリウムは5-FUの主な副作用である消化器症状(消化管粘膜障害)を軽減する作用を現します。

S-1は元々、胃がんの抗がん剤として承認を受けました。のちに頭頸部がん、大腸がん、肺がん(非小細胞肺がん)、乳がん膵がんといったがんに対しても追加承認されました。

肺がんでは、プラチナ製剤であるシスプラチン(CDDP)やカルボプラチン(CBDCA)と併用される場合があります。

S-1の副作用として、オテラシルカリウムによって負担が軽減されているとはいえ食欲不振、吐き気、下痢、口内炎などの消化器症状には注意が必要です。他に骨髄抑制、肝機能障害、間質性肺炎などにも注意が必要です。

また、皮膚や爪などが黒くなる色素沈着や流涙(涙管が狭まり涙があふれ出る)といった症状が現れる場合もあります。

S-1は内服薬(飲み薬)ですが、嚥下機能の状態などによりカプセル(ティーエスワン®配合カプセルなど)が飲み込みにくい場合には口腔内崩壊錠(ティーエスワン®配合OD錠)や顆粒剤(ティーエスワン®配合顆粒)といった剤形の変更も可能です。

◎ペメトレキセド(葉酸代謝拮抗薬)

ビタミンの一つでもある葉酸(ようさん)はDNA合成に必要な物質です。葉酸は体内でいくつかの酵素によって代謝されることによってDNA合成に関わります。

ペメトレキセド(PEM)(商品名:アリムタ®)は葉酸代謝拮抗薬と呼ばれる抗がん剤の一つです。葉酸を代謝する複数の酵素を阻害する作用により、DNA合成を抑え、がん細胞などの増殖を抑えます。肺がんでは非小細胞肺がんの中でも主に腺がんと大細胞がんに対して、単剤またはシスプラチン(CDDP)などのプラチナ製剤との併用で使われます。

ペメトレキセドは葉酸代謝酵素を複数阻害することで高い抗腫瘍効果を現す一方で、正常組織にとっても必要な葉酸やビタミンB12の不足を招く可能性があります。そのため副作用の軽減を目的として葉酸(通常、パンビタン®末を内服)とビタミンB12製剤の筋肉内注射を併用します。

副作用として骨髄抑制、間質性肺炎、皮膚障害、腎障害、神経障害、消化器障害(食欲不振、口内炎、下痢など)などに注意が必要です。

またペメトレキセドを単剤で使用した場合の吐き気のリスクは軽度ですが、特にシスプラチン(CDDP)と併用する場合には高度となるため、制吐薬などの前投与が必要になってきます。

抗がん性抗生物質(細胞障害性抗がん剤)

細胞障害性の抗がん剤には土壌などに含まれる微生物を由来とした製剤があります。この抗がん剤を抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質、抗悪性腫瘍性抗生物質)と呼び、がん治療における選択肢の一つになっています。

肺がんでは主にアムルビシン(AMR)(商品名:カルセド®)という抗がん剤が非小細胞肺がんや小細胞肺がんの治療における選択肢となっています。

アムルビシンはアントラサイクリン系という抗がん性抗生物質に分類されます。アムルビシンはがん細胞の増殖に必要なDNAを切断する作用や、がん細胞などにダメージを与えるラジカル産生作用によって抗腫瘍効果を現します。

アムルビシンによる治療は通常、ほかの抗がん剤を併用しない単剤で行います。吐き気のリスクが中等度(中等度催吐性リスク)になるため、吐き気止め(5-HT3受容体拮抗薬)及び副腎皮質ホルモンなどの併用が推奨されています。またアムルビシンは投与中(点滴中)に血管痛や血管炎が生じる場合があり注意が必要です。また薬液が血管外へ漏出した際、注射部位に硬結や炎症などが現れる場合もあります。

他にも骨髄抑制、間質性肺炎、心筋障害、消化器障害、脱毛などに注意が必要です。

ベバシズマブ(抗VEGF〔血管内皮増殖因子〕ヒト化モノクローナル抗体)(分子標的薬)

がん細胞が増殖するには、がんに栄養を送るため新しく血管をつくる必要があります。血管新生と言います。血管新生や血管内皮の増殖に関わる物質が血管内皮増殖因子(VEGF)です。

ベバシズマブ(商品名:アバスチン®)はVEGFと特異的に結合することでがん細胞増殖に必要な血管新生を抑制することなどにより、抗腫瘍効果を現します。ベバシズマブは分子標的薬の中でも特定分子に結合するモノクローナル抗体という種類の薬です。

肺がん治療にベバシズマブが使われる例として、非小細胞肺がんの中でも扁平上皮がん以外の場合に使われる治療で、カルボプラチンなどのプラチナ製剤と他の細胞障害性抗がん剤の併用療法にベバシズマブを加えた治療法があります。

ベバシズマブの副作用として血栓塞栓症、高血圧、出血(血痰、粘膜からの出血など)、消化器障害(消化管穿孔など)、タンパク尿、創傷治癒遅延(傷が治りにくくなる)、骨髄抑制(特に他の抗がん剤との併用時)などに注意が必要です。

またベバシズマブなどのモノクローナル抗体では インフュージョンリアクションという過敏症が現れることがあります。インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状の総称です。

ベバシズマブは体内で薬物が代謝される時間が比較的長い(治療内容などによっても異なる可能性があるが血中半減期が約2〜3週間と考えられる)こともあり、一度の投与によって現れた有害事象が1ヶ月あまり続く場合も考えられます。日々の血圧測定喀血吐血の有無、腹痛や胸痛の有無、呼吸の状態など日常生活の中での変化を見逃さないようにすることも大切です。

ラムシルマブ(ヒト型抗VEGFR-2モノクローナル抗体)(分子標的薬)

ラムシルマブは、ベバシズマブ(アバスチン®)と同様、がんの増殖因子となる血管内皮増殖因子(VEGF)に関わることで抗腫瘍効果を現す分子標的薬です。

ラムシルマブも特定物質に結合するモノクローナル抗体です。ベバシズマブがVEGFそのものに結合するのに対して、ラムシルマブは本来VEGFが結合する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR−2)に結合することでVEGFR−2の活性化を阻害し、腫瘍組織の血管新生などを阻害します。

ラムシルマブ(商品名サイラムザ®)は、2014年に胃がん、2016年の5月に大腸がんの抗がん剤として承認され、2016年の6月に非小細胞肺がんの抗がん剤として承認されました。

肺がん治療では微小管阻害薬のドセタキセル(DTX)とラムシルマブの併用療法が非小細胞肺がんのステージIVにおける2次治療などで選択肢の一つとされています。

本剤はモノクローナル抗体ですので、インフュージョンリアクションという過敏症が現れることがあります。インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状の総称です。

ラムシルマブの投与前にはインフュージョンリアクションの軽減目的のため、ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬などの投与が考慮されます。

他の副作用として、心筋梗塞や脳血管障害などの動脈血栓塞栓症、肺塞栓症などの静脈血栓塞栓症、出血、消化器障害(消化管穿孔、吐き気、下痢など)、骨髄障害(好中球減少症など)、高血圧、創傷治癒遅延(傷が治りにくくなる)、タンパク尿などにも注意が必要です。特に発熱性好中球減少症(FN)は死亡率の高い病気ですので、好中球数が減っている状態で体に異常が出た場合は検査しなければなりません。また発熱、疲労感、体重減少、血圧変動などは副作用のサインである可能性があるためこれらの症状がみられる場合は医師に連絡・相談するなど適切な対応をとることも大切です。

EGFR‐TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬)(分子標的薬)

EGFR-TKIは、EGFR(上皮成長因子受容体)チロシンキナーゼという物質を阻害する薬です。EGFRチロシンキナーゼは、がん細胞の増殖に関わる物質です。EGFR-TKIは、EGFRチロシンキナーゼを阻害することによりがん細胞の増殖能を低下させる分子標的薬の一つです。

主にステージIVにおけるEGFRの遺伝子に変異が確認された(EGFR遺伝子変異陽性の)非小細胞肺がんで使われます。

現在(2016年11月)、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ®)、エルロチニブ(商品名:タルセバ®)、アファチニブ(商品名:ジオトリフ®)といった薬が使われています。

◎ゲフィチニブ(イレッサ®)

最初に承認されたEGFR‐TKIです。

EGFRチロシンキナーゼ阻害作用によりがん細胞の増殖能を低下させ、細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。また、がん細胞増殖に関わる血管内皮増殖因子(VEGF)という物質にも作用します。VEGFの産生を阻害することで腫瘍内の血管新生を阻害する作用なども、抗腫瘍効果に寄与することが確認されています。

注意すべき副作用は間質性肺炎、下痢などの消化器症状、皮膚障害、肝機能障害、出血性膀胱炎などです。

ゲフィチニブは胃内の胃酸が減っている状態では薬剤の吸収が低下する可能性があります。このため、PPI(プロトンポンプ阻害薬)H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)といった胃酸抑制効果が高い薬剤との併用には特に注意が必要となります。

ゲフィチニブは通常であれば食事の有無に関わらず服用可能です。ただし、食後の方がややAUC(体内の薬物量)などが増加することが確認されています。そのため高齢者など胃酸が減少傾向にある場合に食後の服用が指示されることも考えられます。

◎エルロチニブ塩酸塩(タルセバ®)

国内で2番目に承認されたEGFR‐TKIです。

ゲフィチニブ同様にEGFRチロシンキナーゼ阻害作用により細胞増殖を抑え、細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。また細胞周期におけるG1期と呼ばれるDNA合成準備期に対する停止作用なども確認されています。

注意すべき副作用に間質性肺炎、下痢などの消化器症状、皮膚障害、急性腎障害などがあります。エルロチニブの服用は通常、食事の1時間以上前または食後2時間以降に行います。特に高脂肪・高カロリー食(一般的に、1食あたり1,000kcal程)を食べた直後に服用すると、AUC(体内の薬物量)が増加することが報告されているため、処方医から指示された服用タイミングをしっかりと守ることも大切です。

またゲフィチニブ同様、胃酸抑制効果の高い薬(PPI、H2受容体拮抗薬)などとの飲み合わせにも注意が必要です。

エルロチニブは肺がん(非小細胞肺がん)の他、膵がんの治療にも使われることがあります。

◎アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ®)

アファチニブは2014年に承認されたEGFR-TKIです。他の2種類のEGFR-TKIと異なるのは、EGFRチロシンキナーゼ以外のチロシンキナーゼを阻害する作用を現す点です。

EGFRは別名をErbB1といいます。EGFRすなわちErbB1は、EGFRに類似した形をもつErbBファミリーという種類の一つです。

ErbBファミリーにはEGFRの他、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、HER4(ErbB4)といったものがあります。これらはがん細胞の増殖、血管新生、アポトーシスの抑制、浸潤・転移などに関わります。

アファチニブはEGFR以外に、HER2、HER4のチロシンキナーゼを阻害する作用を持ちます。そしてHER2、HER4による異常シグナルを遮断することで抗腫瘍効果を現します。

アファチニブの副作用として、他のEGFR-TKIと同様、間質性肺炎、下痢などの消化器症状、皮膚障害、肝機能障害などには特に注意が必要です。

中でも下痢(及び重度の下痢)はゲフィチニブやエルロチニブよりも一般的に現れやすいとされます。脱水症状や急性腎臓障害などを引き起こすことも考えられます。

そのためロペラミドなどの止瀉薬(下痢止め)を携帯するなどの対処が必要になる場合もあります。

本剤の服用時点は通常「空腹時」で、具体的には食事の1時間以上前または食後3時間以降に行います。エルロチニブ(タルセバ®)とは逆に、アファチニブを食後間もなく服用するとAUC(体内の薬物量)などが低下する報告がされています。

◎オシメルチニブ(タグリッソ®)

ゲフィチニブなどのEGFR-TKIによる治療を行っていく上で問題となる一つが治療への抵抗性(耐性)です。

耐性が確認された患者の約半数にT790M変異というEGFR遺伝子の変異が存在することが確認されています。このT790M変異をもつEGFRはゲフィチニブなどのEGFR-TKIに対する立体障害などの作用の仕組みにより耐性を現すと考えられています。

オシメルチニブはこれまでのEGFR-TKIとは異なる構造(分子構造)を持ちます。EGFR T790M変異がある肺がんが、ゲフィチニブなどのEGFR-TKIに対して治療抵抗性を示す場合にも、オシメルチニブはEGFRチロシンキナーゼの活性を阻害する作用を現します。

他のEGFR-TKI同様、間質性肺炎などには注意が必要です。また日本人への投与において発疹、皮膚乾燥、ざ瘡などの皮膚症状が多くみられたという報告もあります。血球減少や不整脈(特にQT延長)も見られるので、異常を感じたら検査をすると良いでしょう。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)阻害薬(ALK-TKI)(分子標的薬)

肺がん(非小細胞肺がん)において、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)という細胞増殖のシグナル伝達に関わる物質の異常がみられる場合があります。ALK遺伝子の転座という現象により、ALKが他の遺伝子と融合することで、この物質に内在するチロシンキナーゼが常に活性化してしまい、がん細胞の増殖が引き起こされます。

ALK-TKIは、ALKやALK融合タンパク質のチロシンキナーゼを阻害することで抗腫瘍効果を現す分子標的薬です。主にステージIVの非小細胞肺がんにおいて使われます。

2012年にクリゾチニブ(商品名:ザーコリ®)、2014年にアレクチニブ(商品名:アレセンサ®)が承認されました。

ただこれらのALK-TKIに対して効果不十分であったり、一旦効果があったものの薬に対して耐性ができることで増悪する症例も少なくありません。セリチニブ(商品名:ジカディア®)はクリゾチニブが効かなくなった症例に対するALK阻害薬として2016年に承認されました。セリチニブは既存のALK阻害薬では治療が難しくなった症例に対しても効果が期待できる薬とされています。

ALK阻害薬の副作用としては間質性肺炎、肝機能障害、血液障害(好中球減少症など)、血栓塞栓症、消化器障害(吐き気、下痢、便秘など)、神経障害などがあります。

また薬剤によって頻度などは異なりますが眼に症状が現れる場合があり、視力低下や霧視などの視覚異常が現れる可能性があるため、自動車の運転など危険を伴う操作に十分に注意が必要になります。

肺がんの抗がん剤治療に入院は必要?

肺がんの治療をする場合は入院になることが多いです。ですが、入院しないで治療を行う場合もあります。入院になるときとならないときの違いはどこにあるのでしょうか?

ここで忘れてはいけないのは、「入院する必要がないのに不安だから入院する」ということは長期的に見ると良くないことです。入院すると身体にデメリットがあるのです。

  • 入院することで体力が落ちる
  • 入院することで耐性菌など治療しにくい細菌に感染する

この2つはすぐには自覚できない場合が多いので、あまり脅威に感じないかもしれませんが、長く治療していく上で大きな問題となってきます。

入院すると普段やっていることも看護師がやってくれたりして、生活における行動量が減ってしまいます。人間は動かなくなると脚力を含めて容易に筋力が落ちます。また、心肺機能も身体を動かすことで保っているため、身体を動かさないと心肺機能も落ちてしまいます。体力がないから治療ができないといった状況がその後起こりかねないのです。

また、病院には特殊な細菌が多いことは知っておかなければなりません。色々な患者さんが院内にいますし、抗菌薬を多く使うと耐性菌が増えることは分かっていますから、どんなにきれいな病院の中にもあまり近付きたくない細菌がいるのです。抗がん剤を使うと体力も落ちますし、免疫力を落とすこともしばしばです。必要のない入院は避けるようにするべきです。

それでも入院する必要があるときは入院して抗がん剤治療をします。それはどういった場合でしょうか?

  • 抗がん剤の点滴を連日投与する場合
  • 副作用の強く出る抗がん剤を投与する場合
  • 初めての抗がん剤を投与する場合

これらが抗がん剤を使うために入院する主な理由になります。もう少し詳しく説明しましょう。

抗がん剤の点滴を連日投与する場合

抗がん剤は3-4週ごとに4回投与することが基本です。多くても6回までと考えられています。ペメトレキセドやベバシズマブのようにその後延々と使っていけるものもありますが、これは特殊例です。3-4週ごとに使う抗がん剤も、3-4週間の中でずっと点滴しているわけではありません。たいていの場合は、1日目、8日目、15日目のいずれかの1日に点滴します。

しかし、シスプラチンという抗がん剤を使った場合は少し特殊です。シスプラチンは心臓や腎臓への負担が強い薬で有名です。そのため、生理食塩水などを大量に点滴して、シスプラチンが心臓や腎臓を攻撃するのを和らげる必要があります。最近はこの大量の点滴も外来で1日の中で完了させる方法も出てきていますが、基本的には3日間生理食塩水を投与するのが普通です。そのため、入院が必要になります。

副作用の強く出る抗がん剤を投与する場合

抗がん剤を投与すると副作用が出ます。副作用が軽いか重いかには個人差がありますが、全く副作用が出ないということは非常に珍しいです。

治療のために抗がん剤を使っているとはいえ、薬を使うと体調が悪くなり生活がままならなくなることもあります。特に食欲がひどく落ちてしまう場合と、白血球が激しく減って感染のリスクが高くなる場合は入院が必要です。

初めての抗がん剤を投与する場合

抗がん剤は4回から6回投与することになりますが、初回投与する場面は要注意です。抗がん剤には、食欲の低下や脱毛、血球減少など出やすい副作用がありますが、個々人にどんな副作用が出るかは使ってみないと分かりません。確率が1%以下の副作用が出ることもあります。使う前から正確に予測することはできないのです。そのため、よほどの理由がない限り基本的には初回投与時は入院する方が安全です。

最近は副作用の出にくい分子標的薬と呼ばれるものが多く出てきています。これらはほとんど飲み薬ですので、外来で治療する場面も多くなってきており、いかに自分らしい生活を自宅で過ごすかということが重要になってきています。

最近話題のニボルマブ(オプジーボ®)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)(ヒト型抗ヒトPD-1モノクロナール抗体)(分子標的薬)

ニボルマブ(商品名:オプジーボ®)は分子標的薬の中でも、特定分子に結合するモノクロナール抗体という種類の薬です。

本来体内には、がん細胞などを異物として攻撃するリンパ球T細胞という免疫機能があります。

しかし、がん細胞は自らPD-1リガンドという物質を作り出し、リンパ球T細胞の表面にあるPD-1という受容体に結合させることで、リンパ球の活性化を抑えてしまいます。これにより、がん細胞は免疫反応から回避でき、がん細胞の増殖が行われてしまいます。

ニボルマブは世界初のPD-1に対するモノクロナール抗体で、PD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し、がん細胞により不応答となっていた抗原特異的T細胞を回復・活性化することで抗腫瘍効果を現す薬です。

ニボルマブは日本ではまず2013年に悪性黒色腫に対する抗がん剤として承認されました。次いで2015年には一部の肺がん(切除不能な進行・再発非小細胞肺がん)に対しても保険適用が認められました。また、2016年には腎細胞がんの保険適用も認められました。

ニボルマブは、抗がん剤の中でも高額な薬価(発売当初はオプジーボ点滴静注100mgにおける1瓶の薬価が約73万円)で注目を集め、公的医療保険財政への影響を懸念する声が相次ぎました。こうした背景もあり、2017年2月以降は半額の100mg1瓶あたり約36万5,000円に引き下げられましたが、それでも体重60kgの患者さんに1年間投与を続ければ年間1,800万円という巨額の薬価になるという事実は変わりません。

ニボルマブで注意したい副作用には間質性肺炎甲状腺機能障害、肝機能障害、下痢、1型糖尿病などがあります。またインフュージョンリアクションという過敏症が現れることがあります。インフュージョンリアクションの危険性や頻度が高いとされる薬剤を使うときには、解熱鎮痛薬や抗ヒスタミン薬などを抗がん剤の前に投与する前投与が行われています。

またニボルマブの使用中は免疫機能が活性化しているため、ワクチン接種を行った際に過度な免疫反応が現れる可能性があります。他にも発疹やかゆみなどの皮膚障害や胃腸障害などにも注意が必要です。

ニボルマブを投与後に、効果があるにもかかわらず腫瘍が大きくなっているようにみえること(Non-conventional response, あるいはPseudo-progression)があります。これはニボルマブによって活性化したリンパ球が腫瘍周囲に集まることで起こる考えられています。そのため、ニボルマブを使ってから腫瘍が大きくなった場合は、薬が効いていない場合と、上記のnon-conventional responseの両方を考慮する必要がありますが、ほとんどの場合は薬が効いていないケースなので、non-conventional responseを期待しすぎて、効いていないニボルマブを漫然と投与し続けるのは避けたいものです。

新しい種類の薬で、値段の高さからもニュースなどでよく取り上げられた薬ですが、決して夢のような薬ではないということには注意が必要です。確かにいったん効き始めると長期間腫瘍の勢いを止めてくれることがあるのですが、そもそも効く人の割合はその他の一般的な抗がん剤と比べて決して勝っているとは言い難い面もあります。

ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)

2017年2月に保険適応となった薬で、肺がん領域ではニボルマブの次に承認された免疫チェックポイント阻害薬です。作用や副作用は概ねニボルマブと同様と考えられていますが、薬の投与間隔や、体重に依る用量調整などの点でニボルマブと違いがあります。また大きな違いとして、ニボルマブでは既に他の抗がん剤が投与されていることが使用の必要条件となっていますが、ペムブロリズマブでは細胞のうち50%以上がPD-1リガンドを出しているという条件を満たせば、初めて抗がん剤を使う患者さんでも使用可という適応上の違いがあります。

薬価の面では、一般的な体格の患者さんに使うぶんにはニボルマブとほぼ同額です。しかし、ニボルマブは体重に比例した投与量、ペムブロリズマブは体格に依らない固定量を使用するため、その点で薬価に差が出てくることはあります。

2. 肺がんの治療で使う抗がん剤以外の薬は?

抗がん剤による化学療法には抗がん剤以外の薬を使う場合もあります。

抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、骨髄などが影響されます。新陳代謝や細胞の増殖が活発な細胞が影響を受けやすくなります。これらの臓器への影響によって現れる骨髄抑制、粘膜障害、脱毛などが一般的な抗がん剤(殺細胞性の抗がん剤)の副作用として現れます。

これらの副作用を予防または軽減するために、化学療法では抗がん剤と一緒に抗がん剤以外の薬を併用し、抗がん剤による体への負担をできる限り減らす方法がとられています。

例として、肺がんの治療で使うペメトレキセド(PEM)(商品名:アリムタ®)という薬には通常、葉酸やビタミンB12といったビタミン剤が併用されます。

このPEMは細胞増殖に必要なDNA複製に必要な複数の酵素を阻害することで抗腫瘍効果を現す薬ですが反面、体内で葉酸やビタミンB12の過度な不足を招きます。

そのため骨髄抑制や粘膜障害などの症状が現れる可能性があり、これを予防もしくは軽減するために葉酸(通常、パンビタン®末などを内服)とビタミンB12(通常、メチコバール®注射液などを筋肉内注射)を併用します。

肺がん治療では分子標的薬という種類の薬も使われています。

分子標的薬はがん細胞の増殖などに関わる特定分子を狙い撃ちにすることでその作用を阻害する薬です。肺がんの中でも非小細胞肺がんでは推奨されることも多い薬です。

一般的な抗がん剤(殺細胞性の抗がん剤)に比べると正常細胞に対する影響は比較的少ないとされていますが、分子標的薬特有の副作用が現れる場合もあります。

モノクローナル抗体と呼ばれるベバシズマブ(商品名:アバスチン®)やニボルマブ(商品名:オプジーボ®)などの分子標的薬ではインフュージョンリアクションという過敏症が現れることがあります。

インフージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状の総称です。この症状の危険性や頻度が高いとされる薬剤では解熱鎮痛薬や抗ヒスタミン薬などを抗がん薬の前に投与する前投与が行われています。

この他にも、味覚障害が現れた場合に対する亜鉛含有製剤のポラプレジンク(商品名:プロマック®など)、皮膚皮膚乾燥に対するヘパリン類似薬含有製剤(商品名:ヒルドイド®など)や尿素含有製剤(商品名:ケラチナミン®など)、皮膚の亀裂などに対するステロイド外用剤などの薬も使われます。また、次の章にある吐き気止めなど、がんの化学療法では抗がん剤以外の薬も重要な役割を果たしています。

ちなみに「肺がんの治療中に咳止めを使ってもよいか?」という質問を受けることが時々ありますが、自己判断で咳止めをむやみに使うのは止めたほうがいいです。肺がん治療で使われるゲフィチニブ(商品名:イレッサ®)などの抗がん剤には時として重篤な副作用である間質性肺炎が現れる場合があります。

咳(空咳)が副作用による間質性肺炎の初期症状であった場合、咳止めによって発見が遅れ危険な状態へ移行する可能性も考えられます。間質性肺炎の主な初期症状は「空咳」「息切れ(呼吸困難)」「発熱」などですが、抗がん剤による治療を行っていてこれらの症状が現れた場合は、担当医や薬剤師に早急に連絡し適切な対処をとることが非常に大切です。

3. 吐き気に使う薬は?(抗がん剤の制吐管理)

抗がん剤治療の間には、がん自体の症状や抗がん剤の副作用として吐き気・嘔吐が現れる場合があります。吐き気に対しては吐き気を抑える薬が使われ、多くの場合で対策ができるようになっています。

がん患者に現れる悪心(吐き気)・嘔吐は、がん自体によっておこるもの、治療の副作用によるもの、治療により誘発される精神的なものなど色々な原因によって生じます。

中でも抗がん剤による悪心・嘔吐の発生は薬剤の種類などによっても異なりますが、決して少なくありません。近年では、新しい吐き気止めの開発や治療方法の進歩などにより、以前に比べてかなり悪心・嘔吐の発生を抑えられるようになってきました。

しかし、悪心・嘔吐は患者にとって不快度が高い症状の1つであり、生活の質(QOL)の低下や、抗がん剤による治療のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)にも大きな影響を与えます。

ここでは抗がん剤によって生じる悪心・嘔吐の分類と、どのようにして悪心・嘔吐が引き起こされるのかをみていきます。

吐き気の種類

抗がん剤によって生じる悪心・嘔吐は次のように分類されます。

  • 急性悪心・嘔吐
    • 抗がん薬の使用後、数時間以内に起こり24時間以内に消失するもの
  • 遅延性悪心・嘔吐
    • 抗がん薬の使用後、24時間以降に起こり、数日間続くもの
  • 予期性悪心・嘔吐
    • 以前に抗がん剤治療や放射線療法を受けた際に悪心・嘔吐を経験した場合、その不快な感情や記憶、治療への不安などによって次回以降の抗がん剤による治療の際、条件反射的に誘発されるもの
  • 突発性悪心・嘔吐
    • 適切な催吐予防の管理にもかかわらず、突然現れるもの

この分類は、悪心・嘔吐の症状が生まれる原因の違いに対応しています。原因に対応する薬を使うことで、効果的に治療ができます。

例えば、急性悪心・嘔吐の多くは、NK1(ニューロキニン1)受容体という物質を介して、脳に刺激が伝わるしくみで引き起こされます。ほかにも、体内で生産されるセロトニンが5-HT3受容体という物質と結合することで起こる悪心・嘔吐があります。

そこでNK1受容体の作用を抑えるアプレピタントや5-HT3受容体の作用を抑える5-HT3受容体拮抗薬を使うことで症状が抑えられます。

NK1受容体拮抗薬のアプレピタント(イメンド®)及びホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド®)など新しい吐き気止めが治療に使われています。また、薬の組み合わせを工夫して、例えば抗不安薬を併用するなどにより、遅延性の悪心・嘔吐や予期性の悪心・嘔吐もかなり抑えられるようになってきています。

抗がん剤の悪心(吐き気)・嘔吐の予防について

抗がん剤の催吐性(吐き気を催す作用)の程度は催吐性リスクといって薬剤によって異なります。一般的に、嘔吐性リスクが中等度以上(中等度及び高度)の抗がん剤を使用する場合には急性嘔吐を未然に防ぎ遅延性の嘔吐を抑えるため、複数の制吐薬を用いた制吐療法が行われます。

◎高度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法

高度催吐性リスクの主な抗がん剤はシスプラチンなどです。

また、複数の抗がん剤を併用する化学療法においても高度リスクとなる場合もあります。

高度の催吐性リスクの抗がん剤に対しては、主にアプレピタント(またはホスアプレピタントメグルミン)、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン(ステロイド薬の一種)の3つの薬剤が使われます。急性の悪心・嘔吐の予防にはこの3剤を併用し、遅延性の悪心・嘔吐の予防にはアプレピタント(またはホスアプレピタントメグルミン)とデキサメタゾンの2剤を併用することが推奨されています。

◎中等度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法

中等度の催吐性リスクの主な抗がん剤はイリノテカン、カルボプラチンなどです。

急性の悪心・嘔吐の予防には主に5-HT3受容体拮抗薬及びデキサメタゾン、遅延性の悪心・嘔吐の予防にはデキサメタゾンの使用が推奨されています。

ここでは抗がん剤の催吐性リスクに伴う制吐療法について推奨とされる薬剤の組み合わせを紹介しましたが、ここで示したのはあくまでも推奨とされる例です。化学療法で使う薬剤の組み合わせによっては抗がん剤を単剤で使うより強い悪心・嘔吐が現れる場合もあります。患者の体質やその時の体調によっても悪心・嘔吐の度合いは異なる場合があり、中等度催吐性リスクの抗がん剤に対しても高度催吐性リスクの制吐療法が検討されることもあります。

またここで紹介した薬以外にも患者の状況に応じた薬を用いることもあります。

悪心・嘔吐の中でも心理状態が大きく関与する予期性の悪心・嘔吐の予防にはアルプラゾラム(商品名:コンスタン®、ソラナックス®など)やロラゼパム(商品名:ワイパックス®など)といった抗不安薬が使われています。

抗がん剤によって起こる食欲不振や胸やけなどが吐き気を伴う場合もあり、これらの症状を和らげるため胃酸分泌を抑えるH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)といった薬の使用が考慮されます。

その他、吐き気や消化管の運動などの改善が期待できるプロクロルペラジン(商品名:ノバミン®)、メトクロプラミド(商品名:プリンペラン®など)、ドンペリドン(商品名:ナウゼリン®など)などの薬が用いられることもあります。

日常の生活においても配慮が必要です。例えば吐き気があるときの対処として、室内の換気を行う、氷など冷たいものを口に含んでみる、などが有効の場合もあります。逆に芳香の強い花や香水などは吐き気を助長する可能性があります。抗がん剤の悪心・嘔吐に対しては薬による管理の他、日常生活における工夫や対処方法などを担当医や薬剤師などとよく相談しておくことが大切です。

4. がん化学療法に使う漢方薬とは?

抗がん剤にはさまざまな副作用があります。副作用の予防法・対処法として、漢方薬は重要な手段のひとつになります。

新しい抗がん剤の開発、副作用の予防法や対処法の進歩などによって、抗がん剤による副作用はかなり抑えられるようになってきています。しかしそれでも副作用が全く出ないということはありませんし、副作用の出方には個人差もあります。

がん治療を行っていくにあたってつらい症状を減らし、生活の質(QOL)を維持することは非常に大切です。近年では漢方薬によって抗がん剤の副作用を軽減する治療が注目を集めてきています。ここではいくつかの例を紹介します。

口内炎や下痢に対する半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

抗がん剤による口内炎は、抗がん剤が口腔粘膜の細胞に作用し細胞死を引き起こした結果、粘膜表面の層が破壊されて潰瘍となった状態です。口内炎ができることにより食欲低下がおこるなど、様々な好ましくない影響が考えられます。

半夏瀉心湯は元々、口内炎の保険適用をもつ漢方薬ですが、最近では口内炎への確かな作用の仕組みがわかってきました。

粘膜組織が障害される原因の一つに細菌などの口腔内感染症があります。抗がん剤によって免疫力が低下すると口腔内の感染症もおこりやすくなります。半夏瀉心湯は口腔内の細菌への抗菌作用を現すとされています。また体内の炎症を抑える作用や、細胞に障害を与える活性酸素の抑制、細胞修復機能の促進と、いくつかの作用によって口内炎を治療することができるとされています。

半夏瀉心湯は吐き気・食欲不振・軟便傾向の状態に適するとされる漢方薬ですので、口内炎以外にも吐き気や下痢などの消化器症状が現れる抗がん剤に対して有効な治療の一つとなっています。

肺がん以外にも多くのがん治療に使われるイリノテカン(CPT-11)(商品名:カンプト®、トポテシン®など)の主な副作用には下痢があります。そこでイリノテカンと一緒に下痢を抑えるロペラミド(商品名:ロペミン®など)などの薬が使われます。イリノテカンの下痢には早期性の下痢と遅発性の下痢の2種類がありますが、半夏瀉心湯は速効性と持続性の両面の作用により、どちらの下痢にも有効であるとされています。

食欲不振への六君子湯(リックンシトウ)

食欲不振は抗がん剤の副作用によって起こる場合も、がんそのものによって引き起こされる場合もあります。食欲不振があると生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、食欲不振による栄養状態の悪化などの好ましくない影響を与える可能性もあります。

六君子湯の特徴は消化管の運動機能やそれに伴う食欲の改善が期待できるところです。最近では、食欲を高めるホルモンであるグレリンの働きを増強する作用により食欲不振を改善することがわかってきました。また六君子湯には胃の機能の改善や抗ストレス作用もあるとされ、食欲低下や胃もたれや膨満感などが現れる機能性ディスペプシア(FD)などの状態を改善する効果が期待できます。

しびれ(末梢神経障害)への牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)

抗がん剤によるしびれなどの症状は末梢神経(まっしょうしんけい:体の各部分に分布している神経)への影響によるものと考えられていますが、ハッキリと解明されてない部分もあります。牛車腎気丸は元々高齢者などがかかえる白内障前立腺肥大などに伴う排尿障害、下肢のしびれ、腰痛、かすみ目などに使われてきました。

最近では、牛車腎気丸の鎮痛作用には主に脳などの中枢性の鎮痛作用と血管などの末梢性の鎮痛作用があることがわかってきています。

抗がん剤に対する末梢神経障害にはビタミン剤や抗うつ薬(SNRIという種類の薬など)が一般的に用いられていますが、効果が十分でないこともあります。牛車腎気丸は抗がん剤による末梢神経障害に対して効果が期待できるとされていて、抗がん剤のパクリタキセル(微小管阻害薬(タキサン系)の一つ)などによる末梢神経障害に対する有効性が確認されています。

もちろん比較的安全性が高い漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎などがあります。これらの副作用がおこる可能性は非常にまれと考えられていますが注意は必要です。例えば間質性肺炎では、発熱、咳嗽、呼吸困難(息切れ)、動作時の呼吸困難や微熱など、初期症状を見逃さないようにすることが大切です。

先ほどの半夏瀉心湯の例をみてもわかるように漢方薬は複数の症状に効果が期待できるため、複数の副作用がおこる可能性があるがん治療に対しては非常に有用な薬と言えます。

ここで紹介した薬の他にも、全身倦怠感への補剤(十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)や補中益気湯(ホチュウエッキトウ)など)、術後や麻痺イレウスに対する大建中湯(ダイケンチュウトウ)など多くの漢方薬ががん治療に使われています。