はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 297回の改訂 最終更新: 2024.03.05

肺小細胞がんとは?

肺がんにはいろいろな種類があります。肺小細胞がんは肺がんの中で3番目に多いがんです。肺がんの種類は非常に重要です。種類によって性質が違います。このページでは肺小細胞がんの特徴を説明していきます。 

1. 小細胞がんと非小細胞がんの違いは?

肺がんはよく小細胞がんと非小細胞がんという2種類に大別されます。非小細胞がんというのは小細胞がん以外の肺がんのことです。小細胞がんと非小細胞がんで、治療法と治療効果が大きく違います。

原因に違いはあるの?

肺小細胞がんは肺扁平上皮がんと同じく喫煙の影響を強く受けます。喫煙している人は喫煙していない人と比べて10倍以上肺小細胞がんになりやすいと言われています。肺腺がんは喫煙によって2倍程度にリスクが上がると言われていますが、小細胞がんと扁平上皮がんははるかに強く喫煙の影響を受けるといえます。

治療による効果は違うの?

肺小細胞がんは化学療法放射線療法が効きやすいです。これは非小細胞がんと違う大きな点です。

基本的に手術が可能であれば手術を行うことになりますが、肺小細胞がんは症状が出にくい上に進行が早いため手術が行えることは少ないです。手術ができない場合は化学療法や放射線療法を行うことになります。

小細胞がんは化学療法や放射線療法が効きやすいですが、再発も起こりやすいです。

治療法は違うの?

小細胞がんであろうと非小細胞がんであろうと基本的な治療方針は変わりません。治療としては手術が最優先で、手術ができなかった場合に化学療法や放射線療法を行うことになります。

しかし、以下の2点は違います。

  • 小細胞がんでは全身状態が悪くても化学療法を行うことがある

  • 小細胞がんでは頭に明らかな転移が見つかっていなくても予防的に頭の放射線療法(予防的全脳照射)を行うことがある

それぞれ説明します。

全身状態が悪い場合、非小細胞がんでは化学療法を避ける場合が多いですが、小細胞がんでは化学療法を行うことがあります。

抗がん剤治療をすると体力が奪われるため、非小細胞がんの治療では全身状態が悪いときは抗がん剤治療を行うことは難しいです。しかし、小細胞がんは抗がん剤治療の効果が出やすく、がん細胞が効果的に駆逐されることで、急速に体調が改善されることがあります。そのため、肺小細胞がんの患者さんは、肺がんによって全身状態が悪い場合は化学療法を行う方が良い場合があります。

全身状態の評価にはPS(パフォーマンスステータス)という評価方法が使われます。PSは次の5段階で評価します。

  • 0:全く問題なく日常生活ができる

  • 1:軽度の症状があり激しい活動は難しいが、歩行可能で、軽作業や座って行う作業はできる

  • 2:歩行可能で自分の身のまわりのことは全て行えて日中の50%以上はベッド外で過ごすが、時に軽度の介助を要する

  • 3:身のまわりのことは限られた範囲しか行えず、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす

  • 4:自分の身のまわりのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

PSが3か4のときに、小細胞がんと非小細胞がんで治療方針が大きく違います。

小細胞がんの治療では予防的全脳照射をすることも非小細胞がんと違います。

肺がんが頭に転移して症状が出たときや、転移した肺がんが急速に大きくなって症状が出てきそうな場合には、小細胞がんでも非小細胞がんでも、頭に放射線療法を行うことがあります。

さらに、肺小細胞がんの治療では、脳転移が見つかっていない場合でも頭に放射線療法を行うことがあります。予防的全脳照射と言います。

予防的全脳照射を行う場合は、リンパ節にあまり転移がない限局型肺小細胞がんで、化学療法が有効だった場合です。非小細胞がんでは予防的全脳照射は行いません。

脳転移に対する通常の放射線療法は、がんだけを狙って放射線を当てます。対して予防的全脳照射では脳全体に放射線を当てます。正常な脳細胞に放射線を当てると一部の細胞が死んでしまうため、正常な脳細胞には極力放射線を当てないほうが良いのですが、肺小細胞がんは進行が早くどこにがん細胞がいるのかが分からないため、予防的に全ての脳細胞に放射線を当てます。

2. 小細胞がんが進行するとどんな症状が出る?

小細胞がんは肺がんの一般的な症状に加えて、まれに特殊な症状を現します。

小細胞がんの症状とは?

全ての肺がんに言えることですが、肺がんの初期は症状が出ないことが多いです。進行した場合にはいろいろな症状が出てきます。詳しくは「肺がんの症状は?」のページで説明していますので参考にして下さい。

肺小細胞がんでは太い気道が変形することが多いので、血痰や呼吸困難感が出やすいです。

以下が肺小細胞がんの代表的な症状になります。

  • 咳(咳嗽)

  • 痰(喀痰)

  • 血痰

  • 発熱

  • 呼吸困難感

  • 息苦しさ(全身倦怠感

  • 体重減少

  • 胸痛

肺小細胞がんの患者さんで、これらの症状が突然現れたり強くなったりしてくる場合は、がんが進行している可能性が考えられます。かかりつけの医師に相談してください。

小細胞がんによる「低ナトリウム血症」とは?

肺がんになると低ナトリウム血症になることがあります。低ナトリウム血症というのは血液中のナトリウムが異常に少なくなった状態です。原因は色々と考えられますが、主なものは以下になります。

  • 異所性ADH産生腫瘍

  • 塩喪失症候群(腎臓や脳の影響で塩分のナトリウムを吸収できなくなる)

  • 希釈性(水分過剰)

  • 薬剤性(利尿薬、降圧薬など)

これらの中でも特に異所性ADH産生腫瘍について説明します。

肺がんはまれにホルモンを作るようになります。ADH(バソプレシン)というホルモンを作るがんを異所性ADH産生腫瘍と言います。「異所性」というのは、本来ADHを作っている脳とは違う場所にあるという意味です。ADHは尿を減らすホルモンです。がんがADHを作るせいでADHが過剰になると、尿が出にくくなり、身体に水分が溜まります。水分が過剰になると血液中のナトリウムが薄まることで低ナトリウム血症になります。

肺がんが異所性ADH産生腫瘍となる場合の9割が小細胞がんです。

低ナトリウム血症になると様々な症状が出てきます。以下がその代表的な症状です。

  • 初期から見られやすい症状

    • 倦怠感(だるさ)

    • 頭痛

    • 吐き気

    • 嘔吐 

  • 重症化すると出現する症状

    • 浮腫むくみ

    • 脱力

    • 傾眠

    • 意識障害

    • けいれん

肺小細胞がんを治療中に、特にだるさや頭痛や吐き気が現れてきた場合は、低ナトリウム血症を考えて一度検査をしたほうが良いかもしれません。

異所性ACTH産生腫瘍とは?

肺小細胞がんはACTH副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンを出すことがあります。この状態を異所性ACTH産生腫瘍と言います。肺がんがACTHを出す現象は肺小細胞がんに多いことがわかっています。

本来ACTHは脳の下垂体から出されるホルモンです。ACTHは副腎という臓器を刺激します。副腎がACTHを受け取ると副腎皮質ホルモンを放出します。そのため異所性ACTH産生腫瘍が体内にあると副腎皮質ホルモンが増えてきます。

副腎皮質ホルモンが増えたときに出る主な症状は以下のものになります。

  • 体幹が太る(中心性肥満

  • 顔が丸くなる(満月様顔貌)

  • 肩が盛り上がる

  • 皮膚に赤紫色の線が走る

  • 毛が濃くなる

  • 筋力が低下する

  • 骨がもろくなる(骨粗鬆症

  • 精神症状

    • 意識が朦朧とする

    • 幻覚が起こる

    • 認知機能が低下する

    • 抑うつ状態になる

    • 不安が強くなる

ACTHを出すのは肺小細胞がんの中でもごく一部ですが、万が一こういった症状が現れた場合は、一度ホルモンの検査を受けた方が良いかもしれません。

3. 小細胞がんの検査

肺小細胞がんは進行が速く、症状が出てきたときにはすでに進行していることが多いです。そのため、検査によって早くその存在を見つけることが重要になってきます。

どんな検査が行われるのでしょうか?

胸部X線検査(肺レントゲン写真)

通常の健康診断でも行われるのが胸部X線検査レントゲン写真)です。X線検査には直接法や間接法といった細かい違いもありますが、基本的にはどれも同じ原理です。X線を胸部にあててその吸収率を測定することで肺の中身をみることになります。

胸部X線検査をすると、検出感度(がんがあった場合、それを正しくがんと指摘できる確率)は60-80%と報告されています。しかし、肺がんが肺やその周囲の正常構造に重なってしまうと、肺がんを指摘することは非常に難しくなります。

肺の中にある結節影(3cm以下の丸い影)や淡い陰影を胸部X線写真で正しく検出することは非常に難しく、より詳しく調べるために胸部CT検査を行う必要が出てくることも多いです。また、いかに正確に肺がんを見つけるかは、医者の熟練度も関連してきます。

胸部CT検査

胸部CT検査は肺のレントゲン写真よりも得られる情報量の多い検査です。より詳細に肺がんの大きさや形を調べることができます。

胸部CT検査の検出感度(がんがあった場合、それを正しくがんと指摘できる確率)は93.3-94.4%と言われており、肺がんを見つける検査としては非常に優れたものになります。しかし、小さながんを診断することは簡単ではなく、6mm未満の結節では検出感度は70%程度になってしまいます。

レントゲン写真もCT検査もX線を使う検査です。X線は放射線です。レントゲン写真で体に当たる放射線は微量ですが、胸部CT検査による医療被曝量はレントゲン写真よりも明らかに多く、人体への悪影響が心配されます。

放射線の人体への影響力を表す単位としてシーベルト(Sv)というものがあります。数字が高ければ高いほど人体への影響が強いことになります。胸部X線検査と胸部CT検査の被曝量は様々な報告がありますが、およそ以下のようになると考えられています。

【検査と被曝量の表】

検査内容

被曝量

胸部X線写真

0.2mSv

胸部CT検査

7.0mSv

胸部X線検査線写真の被曝量は、およそ飛行機で東京とニューヨークを往復したときに受ける被曝量と同じになります。単純計算で言うと、CT検査を行うとX線写真を35枚撮影したときと同じくらいの被曝をすることになり、何度も撮影すると人体への影響が一層危ぶまれます。しかし、CT検査が原因で人体に障害が出たというはっきりとした証拠は見つかっていません。

通常よりも放射線量を抑えた低線量CTを用いて肺がん検診を行っている施設もあります。まだ日本人に対する有用性は証明されていませんが、海外では55-74歳の喫煙者を対象とした研究で肺がん死亡率を約20%減少させた、との報告があります。喫煙者や喫煙していた方は検討しても良いと思います。

CT検査を用いる時は造影剤というものを血管に入れて検査することがあります。これを用いるとCT画像がより鮮明になるため有用です。まれに造影剤アレルギーを引き起こすので、造影剤を点滴した後に体調が悪くなった(特に吐き気や意識が遠のく感じに注意)場合は、近くにいる医療従事者に症状をすぐ伝えてください。また、腎臓の機能が落ちたりすることがあるので、造影剤を使用したあとは点滴したり多めに水を飲んで腎機能低下を予防します。

頭部MRI検査

肺がんが見つかったときには、治療する前に転移がないかを調べる必要があります。肺がんの治療では全身の状態やがんの進行の程度によって治療方法が変わるため、転移しそうな部位はきちんと調べておく必要があるのです。

肺がんは頭にしばしば転移します。頭に転移していないかをみる上で最も精度の高い検査が、頭部MRI検査になります。頭の断面の画像が得られる点は一見CT検査と似ています。しかし、画像を撮影する原理が違います。CT検査では放射線を体に当てますが、MRI検査では放射線は使いません。放射線の代わりに磁力を利用します。

頭部CT検査はあまり脳転移を調べるのに向いていない検査ですので、何らかの事情があってMRI検査ができない場合のみ施行することとなります。

【頭部CT検査と頭部MRI検査の比較】

頭部CT検査検査

頭部MRI検査

解像度

低い

高い

費用

比較的安い

(撮影1,020点+診断450点など)

高い

(撮影1,620点+診断450点など)

時間

数分

20−30分

頭部MRI検査では非常に精密な画像ができますが、検査時間が長いことが欠点となります。20−30分ほど身動きが取れない状態になります。その間、とてもうるさい音が出る機械の中でじっとしていなければなりません。腰が痛い人や認知症の方が行うことは難しい検査になります。

ほかにもMRI検査ができない人がいます。磁石の原理を使って画像を作る検査ですので、磁性のある金属(磁石に引っ張られる金属)が体内にある人はMRI検査ができない場合があります。例えば、ペースメーカーの入っている人や関節に人工関節を入れている人、入れ墨を入れている人(墨に金属が混じっていることがある)は特に、MRIを受ける前に医療者に伝えて、調べてもらってください。磁性のない金属を使っていてMRIが問題ない可能性もあります。

MRI検査を用いる時にも造影剤を血管に入れて検査することがあります。造影剤を使うことでMRI画像がより鮮明になりますが、まれに造影剤アレルギーを引き起こします。造影剤を点滴した後に体調が悪くなった(特に吐き気や意識が遠のく感じに注意)場合は、近くにいる医療従事者に症状をすぐ伝えてください。また、腎臓の機能が落ちたりすることがあるので、造影剤を使用したあとは点滴したり多めに水を飲んで腎機能低下を予防します。

PET検査

FDG-PET(ペット)検査は、ブドウ糖に似た物質(FDG)を体内に点滴して、どこに集まるかを調べる検査です。FDGは放射線を放出するので、放射線を測定するとFDGが集まっている場所がわかります。この検査では、がん細胞は自分に栄養をたっぷりもらえるようにブドウ糖を集める作用があることを利用します。がん細胞がブドウ糖を集めるので、ブドウ糖に似ているFDGもがんに集まるのです。

つまり、以下のことが検査中に体内で起こります。

  1. 放射線を放出するFDGが体内に入る
  2. がん細胞がブドウ糖とFDGをたくさん集める
  3. がん細胞の周囲から放射線が多く検出される

こうして、がん細胞が身体のどこらへんに集まるかが調べられます。しかし、PET検査の検出感度は100%ではなく、およそ83-96%と報告されています。つまり、PET検査でがんを見逃すこともないとは言い切れません。

PET検査にはどういった欠点があるかを下にまとめます。

  • 特に初期のがんではブドウ糖が集まらないことがある
  • がんでなくても感染などの炎症が起こるとブドウ糖が集まってしまう
  • 放射線に被曝する

最後の被曝に関して補足します。シーベルト(Sv)という単位で表すと、とある調査ではPET検査を1回行うことでおよそ2.2mSvの被曝量と報告されています。参考までに、胸部X線検査では0.2mSv、胸部CT検査では7.0mSvです。

また、FDG-PET検査を施行する場合には、以下の問題もあります。

  • 脳転移の評価が難しい
  • 肝転移の評価が難しい
  • 高血糖の人は検査精度が落ちてしまうので行いづらい

しかし、その欠点以上に全身の転移の状態を早い段階から把握することのメリットが大きいため、肺がんの全身の転移の状態を把握するためによく使われています。

また、脳はFDGを多く集めてしまうので、脳の転移の検査にはFDG-PETは使用できません。そのため、近年ではFDGの代わりにメチオニンという物質を用いたPET検査を行うことがあります。

肺小細胞がんの腫瘍マーカー

肺がんに限らずがんの検査として腫瘍マーカーが用いられています。腫瘍マーカーは血液に微量に含まれている物質です。採血して腫瘍マーカーの量を調べることで、がんの診断の参考にします。

肺小細胞がんに対しては、NSEやProGRPという腫瘍マーカーを調べることがあります。しかし、ここで忘れてはいけないのは、腫瘍マーカーは決して精度の高い検査ではないということです。

腫瘍マーカーの中で検出感度が良いと考えられているCYFRAでも感度は56.1%です。肺がんがあっても40%以上はCYFRAに変化が見られないという意味です。肺がんが隠れている人を腫瘍マーカーだけで見抜くことは非常に難しいと言えます。(参考:American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2016;193:427-37

要約すると腫瘍マーカーを使って良い場面は実は限られているということになります。

  • 腫瘍マーカーを使うのに適している場面

    • 肺がん治療の効果判定

    • 肺がんが再発していないかを診断する際の補助

    • 肺がんの種類がどうしても判断できない際の補助

  • 腫瘍マーカーを使うのに適していない場面

    • 検診でがんの有無を判断する

腫瘍マーカーは使うのに適した場面で使えば非常に役に立ちます。しかし、その価値が低い場面で使うと、数値が高くても低くても診断はどちらとも言えないといった状態になります。現段階の精度から言うと、検診で腫瘍マーカーを使ってもほとんど意味がないということになります。

細胞診断

細胞診断という検査は、がんかもしれないと疑われた場所に針を刺したりして細胞を採ってきて、顕微鏡で調べる検査です。細胞を染色したりして特徴を出すことで、細胞診断の診断力は非常に高いものになっています。

たとえば、肺には肺がんと似ている良性腫瘍(りょうせいしゅよう)ができることもあります。画像だけでは良性腫瘍か悪性腫瘍か、つまりがんかがんではないか区別しにくいことがあります。そんなときに細胞診断が役に立ちます。

とはいえ、がんの中にも正常な細胞が含まれていることがあるので、針を刺して採ってきた細胞の中にがん細胞がない場合は、がんではないと決めることができません。特に肺がんでは喀痰細胞診といって、痰の中にがん細胞がいるかを調べることがあるのですが、喀痰細胞診の検出感度は40%程度と言われており、がん細胞が見られなかったからといって肺がんを否定することは難しいです。

組織診断

組織診断では、肺がんを疑う組織の一部を検査するために(たいていの場合は、気管支内視鏡での肺生検、CTを用いて体外から針を刺して行う肺生検、VATS呼ばれる内視鏡手術のいずれかを行います)切り取ってきて顕微鏡で調べます。この検査では細胞診断よりも大きな組織を取ってくることになるので、がん細胞の見逃しが少なくなります。

しかし、手術を行うため身体へのダメージがあり、いつでも気軽に行える検査ではありません。細胞診断を行ったけれども結果がはっきりとしない場合に行われることがほとんどです。

また、診断が確定していなくてもまず腫瘍を取ってしまい、取り出した腫瘍の中にがん細胞があるかどうかを調べ、もしがんだったときには相応の治療を続けるという方法もあります。この方法は、がんが見つかった場合に適切な治療をする準備ができている場合にだけ使えます。

4. 小細胞がんの治療は?

肺小細胞がんの治療は、非小細胞がんの治療と原理原則は同じである一方で、少し異なる部分もあります。

小細胞がんに治療ガイドラインはあるの?

小細胞がんの治療を行う上で指針となるガイドラインが存在します。主に2つのガイドラインが参照されていますのでご紹介します。

世界的にはNCCN(National Comprehensive Cancer Network、国際包括的ネットワーク)の出したがんのガイドラインである「Clinical Practice Guidelines in Oncology」がよく用いられています。NCCNのガイドラインは肺がんだけでなくほとんどのがんについて書かれています。25カ国のデータに基づいています。非常に多くのデータが集まったものであることで信憑性が高い一方で、日本人に特化した情報でない部分が欠点になります。

もうひとつが、日本肺癌学会が出している「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」です。これは国内の抗がん剤の承認状況を踏まえて、日本人に適した治療法を追求したものになっています。

ガイドラインは当然尊重されるべきもので、最もうまくいく確率の高いものが書かれていると考えて良いです。しかし、実際の臨床の現場ではさらに個人個人の状態を加味して治療方法がアレンジされるのも事実です。さらに、新薬の登場や新しい治験の結果によって治療方針はどんどんと変化するものです。もし自分の治療法がどういった位置づけなのか気になる方は、一度主治医に話を聞いてみると良いでしょう。

小細胞がんの治療

小細胞がんの治療法は、非小細胞がんと比べて考えかたは大きく違いません。つまり、手術が可能であれば手術で治療し、手術が可能でなければ化学療法(抗がん剤)や放射線療法を行うということになります。

しかし、いくつか相違点もありますので、次の章で説明していきます。

小細胞は手術できない?

小細胞がんに対して手術は可能です。しかし、小細胞がんは症状が出にくい一方で進行が早いため、手術可能なことは珍しいです。たいていの場合は気付いたときには手術ができない状態になってしまっています。

手術ができるのは、腫瘍が5cm以下でリンパ節転移遠隔転移もない状態で、全身状態も良好な人のみになります。

小細胞がんの化学療法

小細胞がんの治療に用いる抗がん剤は非小細胞がんに使う種類に比べて多くありません。主に使うものは以下のものです。

  • シスプラチン+イリノテカン(CDDP+CPT-11)

  • シスプラチン+エトポシド(CDDP+VP-16)

  • カルボプラチン+エトポシド(CBDCA+VP-16)

  • アムルビシン(AMR)

  • ノギテカン(NGT)

  • イリノテカン(CPT-11)

場合によっては、カルボプラチン+イリノテカン、シスプラチン+エトポシド+イリノテカンといった抗がん剤の組み合わせを用いることもあります。また、2019年からカルボプラチン+エトポシド療法に上乗せして、免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)を使用することもできるようになりました。また、2020年からはシスプラチン/カルボプラチンに上乗せして、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)を使用することもできるようになっています。

◎シスプラチン、カルボプラチン

細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する抗がん剤です。

シスプラチン(CDDP)(商品名:ランダ®、ブリプラチン®など)やカルボプラチン(CBDCA)(商品名:パラプラチン®など)などは薬剤の化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むためプラチナ製剤(白金製剤)と呼ばれます。

肺がん治療においては小細胞肺がん、非小細胞肺がんの両方で使用されることがあり、他の抗がん剤と併用して使われることも多い薬です。

特にシスプラチンは多くのレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われる薬剤です。

トポイソメラーゼ阻害薬のイリノテカン(CPT-11)やエトポシド(ETPまたはVP-16)とのPI療法やPE療法などが小細胞肺がんの治療で行われています。

カルボプラチンもシスプラチンと匹敵する抗腫瘍活性を持つ薬剤です。この薬も他の抗がん剤と組み合わせて使わることが多く、エトポシドとのCE療法などがあります。

プラチナ製剤で注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、骨髄抑制、末梢神経障害、胃腸障害、血栓塞栓症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。カルボプラチンはシスプラチンに比べて腎毒性や胃腸障害などの軽減が期待でき、病態などにもよりますが高齢者などに対してシスプラチンの代わりとして使われることもあります。

治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の増悪などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかりと守ることも大切です。

◎イリノテカン、エトポシド

イリノテカン(CPT-11)(商品名:カンプト®、トポテシン®など)、エトポシド(ETPまたはVP-16)(商品名:ベプシド®、ラステット®など)などはトポイソメラーゼ阻害薬と呼ばれる薬に分類されます。

細胞の増殖は細胞分裂によっておこりますが、細胞分裂にはトポイソメラーゼという酵素が必要となります。トポイソメラーゼ阻害薬はその名前の通り、トポイソメラーゼを阻害することで細胞分裂を途中段階で阻害し、がん細胞の増殖を阻止することで抗腫瘍効果をあらわします。

トポイソメラーゼにはトポイソメラーゼIとトポイソメラーゼIIの2つのタイプがあります。

イリノテカンはトポイソメラーゼIを阻害する作用をあらわし、肺がん治療では小細胞がんだけでなく非小細胞がんの治療の選択肢になることもあります。小細胞がんではシスプラチン(CDDP)との併用療法など使われます。イリノテカンは骨髄抑制、間質性肺炎などの他、特に下痢に対しての注意が必要です。イリノテカンの下痢は薬剤の投与中から直後であらわれる早発性の下痢と投与から数日経ってあらわれる遅発性の下痢の2種類があります。それぞれ下痢に合わせた対処が必要となります。(イリノテカンによる下痢は「肺がんの抗がん剤治療にはどんな薬を使う?」でも解説しています。)

エトポシドはトポイソメラーゼIIを阻害する作用をあらわし、小細胞がんにおけるプラチナ製剤のシスプラチン(CDDP)やカルボプラチン(CBDCA)との併用療法などで使われています。エトポシドは骨髄抑制、間質性肺炎、消化器障害、肝機能障害などの他、脱毛にも注意が必要です。治療の内容などにもよりますが、50%にも及ぶ(もしくはそれ以上の)確率で脱毛がおこるとされています。事前説明をしっかり聞いておくことやウィッグの準備なども大切です。

◎ノギテカン(NGT)(ハイカムチン®):トポイソメラーゼ阻害薬

ノギテカンはトポイソメラーゼIに結合することで細胞分裂に必要なDNA合成を阻害し細胞の自滅を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。

肺がん治療では再発した小細胞がんなどに対する選択肢となっています。(ノギテカンは肺がんの他、卵巣がん、小児悪性固形腫瘍、子宮頸がんなどで使われることもあります。)

ノギテカンによる治療は通常、1日1回の点滴を5日間続けて行いその後、少なくとも16日間の休薬を挟むという方法によって行われます。5日間の連日点滴治療が必要ですので多くの場合、入院治療で行われます。

骨髄抑制(骨髄抑制による発熱性の好中球減少など)、腎機能障害の他、間質性肺炎、消化器障害(消化管出血など)、肺塞栓症などにも注意が必要です。

◎アムルビシン:抗がん性抗生物質

小細胞がん(再発の小細胞がんなど)や非小細胞肺がんの治療でも使われる場合があるアムルビシン(AMR)(商品名:カルセド®)は抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質など)と呼ばれ、土壌などに含まれる微生物を由来とした製剤です。「抗生物質」という名前がついていますが、細菌感染症に使われる抗生物質(抗菌薬)とは違う物質です。

アムルビシンはアントラサイクリン系という抗がん性抗生物質に分類されます。がん細胞の増殖に必要なDNAの切断作用やがん細胞などにダメージを与えるラジカル産生作用によって抗腫瘍効果をあらわします。

アムルビシンによる治療は通常、抗がん剤としては単独投与で行われ、吐き気のリスクが中等度(中等度催吐性リスク)になるため、吐き気止め(5HT3受容体拮抗薬)及び副腎皮質ホルモンなどの併用が推奨されています。

またアムルビシンは投与中(点滴中)に血管痛や血管炎が生じる場合があり注意が必要です。また薬液が血管外へ漏出した際、注射部位に硬結や炎症などがあらわれる場合もあります。他にも骨髄抑制、間質性肺炎、心筋障害、消化器障害、脱毛などに注意が必要です。

小細胞がんの放射線療法

小細胞がんに対する放射線療法は、リンパ節転移が腫瘍と同じ側の胸郭内リンパ節・両側縦隔リンパ節・両側鎖骨上窩リンパ節までに限られていて、癌性胸水や心嚢水がない場合にのみ行なえます。

また、小細胞がんにだけ使われる全脳照射という放射線療法があります。全脳照射は化学療法が非常に有効な人に対して行います。詳しくは下の章で説明していますので参考にしてください。

5. ステージごとに治療は違うの?

がんにはステージという考え方があります。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の様子、遠隔転移の有無でステージが決まります。

ステージについて詳しく説明しましょう。

ステージとは?

肺がんの進行度はステージを用いて分類します。ステージとは、がんがどれぐらいの範囲まで広がってきているのかを画一的に評価するものです。病気の進行度を評価するのには画一的な基準があることは重要で、ステージを基準としてがんの治療法が決定されます。

ステージはステージⅠからステージⅣまでに分かれます。肺がんではさらに細かくⅠA、ⅠBのように分けます。国際的にはローマ数字(Ⅲなど)で書き表すのが普通ですが、このサイトではアラビア数字(3など)で記載しているところもあります。

がんのステージを決めるために、TNM分類という方法が使われます。TNM分類とは、がんの大きさ(T)・リンパ節転移(N)・血行転移(遠隔転移)(M)をそれぞれ段階に分けて評価する方法です。TNM分類に従ってがんのステージが決められます。

下にTNM分類とステージの対応を説明します。やや専門的になるので、自分に関係ないと思う部分は読み飛ばしてください。

【TNM分類(UICC及びAJCCのTNM分類第8版に基づく)】

T-原発腫瘍(腫瘍径はすりガラス影を含まずに充実成分で計測する)

  • TX:原発腫瘍の存在が判定できない、あるいは喀痰または気管支洗浄液細胞診でのみがん細胞は見られるが、画像診断や気管支鏡では観察できない
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:上皮内癌(carcinoma in situ)充実成分径が存在せず、すりガラス影≦30mm
  • T1:腫瘍最大径≦30mmの腫瘍が臓側胸膜に覆われており、葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡検査をしても見えない(すなわち主気管支に及んでいない)
    また、腫瘍の大きさで以下の亜分類がある
    • T1mi:minimally invasive adenocarcinoma(MIA)充実成分≦5mmかつすりガラス影≦30mm
    • T1a:腫瘍最大径≦10mm
    • T1b:腫瘍最大径>10mmでかつ≦20mm
    • T1c:腫瘍最大径>20mmでかつ≦30mm
  • T2:腫瘍最大径>30 mmでかつ≦50 mmの腫瘍、または以下のいずれかであるもの
    • 腫瘍最大径<30mmで主気管支に腫瘍が存在する
    • 臓側胸膜に浸潤している
    • 肺門まで連続する無気肺か閉塞性肺炎があるが片側の肺全体には及んでいない
      また、腫瘍の大きさで以下の亜分類がある
    • T2a:腫瘍最大径>30mmでかつ≦40mm
    • T2b:腫瘍最大径>40mmでかつ≦50mm
  • T3:最大径>50 mmでかつ≦70mmの腫瘍、または以下の場合である
    • 横隔膜、胸壁(superior sulcus tumorを含む)、横隔神経、縦隔胸膜、壁側心膜のいずれかに直接浸潤している
    • 同一葉内の不連続な腫瘍結節(同一葉内の転移)
  • T4:最大腫瘍径>70mm、または大きさを問わないが以下の状態のあるもの
    • 縦隔、心臓、大血管、横隔膜、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤
    • 同側の異なった肺葉内の腫瘍結節(同じ側の肺の中で異なった肺葉内の転移)

N-所属リンパ節

  • NX:所属リンパ節評価不能
  • N0:所属リンパ節転移なし
  • N1:同側の気管支周囲や同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める
  • N2:同側の縦隔や気管分岐部リンパ節への転移
  • N3:対側縦隔リンパ節、対側肺門リンパ節、同側あるいは対側の前斜角筋リンパ節、鎖骨上リンパ節への転移

M-遠隔転移

  • MX:遠隔転移評価不能
  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移がある
    • M1a:対側肺内の腫瘍結節,胸膜結節,悪性胸水,悪性心嚢水
    • M1b:他臓器へ単発の遠隔転移がある
    • M1c:多臓器へ多発の遠隔転移がある

病期分類(ステージ)】

肺がんの状態

腫瘍や転移の状態

N0

N1

N2

N3

充実成分5mm以下、すりガラス影30mm以下

T1mi

ⅠA1

 ー

 ー

 ー

充実成分が10mm以下

T1a

ⅠA1

ⅡB

ⅢA

ⅢB

充実成分がが10-20mm

T1b

ⅠA2

ⅡB

ⅢA

ⅢB

充実成分が20-30mm

T1c

ⅠA3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

腫瘍の大きさが30-40mm T2a ⅠB ⅡB ⅢA ⅢB

腫瘍の大きさが40-50mm

T2b

ⅡA

ⅡB

ⅢA

ⅢB

腫瘍の大きさが50-70mm

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

胸壁、胸膜、心嚢などに浸潤

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

同一の肺葉内に転移がある

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

腫瘍の充実成分が70mmより大きい

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

周囲臓器への直接浸潤

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

肺葉内を超えているが同側肺内の転移

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

肺がんによる胸水や心嚢水

M1a

ⅣA

ⅣA

ⅣA

ⅣA

反対側の肺内に転移がある

M1a ⅣA ⅣA ⅣA ⅣA

単発の遠隔転移がある

M1b ⅣA ⅣA ⅣA ⅣA

多発の遠隔転移がある

M1c ⅣB ⅣB ⅣB ⅣB

治療を受けるためには、分類の基準を覚える必要は全くありません。ただ、自分のがんがどのくらい進行しているのか、自分はどうして手術を受けられないのかなどが、分類に当てはめることで理解しやすくなります。

小細胞がんの分類はステージだけではない

実は小細胞がんではステージとは違った考えかたをします。それが限局型(LD)と進展型(ED)です。

限局型と進展型で治療の仕方が変わります。しかし、肺がん取扱い規約では限局型と進展型の境に明確な定義がありません。一般的な解釈としては、リンパ節転移が腫瘍と同じ側の胸郭内リンパ節・両側縦隔リンパ節・両側鎖骨上窩リンパ節までに限られている状態で、癌性胸水や心嚢水のない場合が限局型と呼ばれます。

肺小細胞がんの限局型と進展型で大きく違う点は、放射線療法を行えるかどうかです。進展型の肺小細胞がんに対して放射線療法を行うと、放射線が当たる範囲が広くなってしまうので、放射線による肺へのダメージ(放射線性肺臓炎)のリスクが高くなりすぎてしまいます。

限局型と進展型の治療法をそれぞれ説明します。

限局型肺小細胞がんの治療:Ⅰ期で手術が可能な場合

まずは限局型小細胞がんの治療について見ていきましょう。

腫瘍の大きさが5cm以下でリンパ節に転移がない状態(TNM分類でⅠ期)であれば、全身状態を加味して手術を検討することが出来ます。

小細胞がんではどんなに腫瘍が小さくて病期が進行していなくても、手術後に化学療法が行える場合には化学療法を行います。化学療法の内容は全身状態によってアレンジされますが、主に使われるのはシスプラチン+イリノテカン、シスプラチン+エトポシド、カルボプラチン+エトポシドの3パターンのいずれかになります。

手術の後にシスプラチン+エトポシドを投与した際のデータがあります。臨床病期(画像検査から推定した予想病期)でⅠA期及びⅠB期の3年生存率が68%で、病理病期(手術で採取したリンパ節を顕微鏡で調べた確定病期)ⅠAの5年生存率は73%でした。また、局所再発率が10%という結果でした。

限局型肺小細胞がんの治療:Ⅰ期で手術が不可能な場合

Ⅰ期で手術が難しい場合は、化学療法や放射線療法を行います。また、全身状態が許容できる場合は化学療法と放射線療法の両方を行うことが多いです。

化学療法と放射線療法を同時に行う場合は、シスプラチン+エトポシドを用いることが標準となっています。

限局型肺小細胞がんの治療:Ⅱ-Ⅲ期、PS 0-2

リンパ節転移は進んでいるが全身状態が良い人に対する治療です。

基本的には可能な限り化学療法と放射線療法を行うことになります。別々に治療を行うと時間がかかり腫瘍が成長する懸念があります。放射線療法と化学療法を同時に開始する方が治療成績が良いことが分かっています。

放射線療法は5週間かける方法が通常です。しかし、最近では1日に2回放射線を当てることで治療期間を3週間に短縮する加速過分割照射法を行う方が治療成績が良いことがわかってきています。

限局型肺小細胞がんの治療:Ⅱ-Ⅲ期、PS 3-4

リンパ節転移が進んでいて全身状態も悪い人の治療に関してです。

肺小細胞がんに対して化学療法は非常に有効であることから、この場合でも化学療法は行うことがほとんどです。しかし、がん以外の原因で衰弱している場合は化学療法を行っても状態が改善する見込みが無いので、化学療法を行うことは避けるべきです。

また、化学療法を行って全身状態が改善した場合は、放射線療法を追加で行うことも推奨されています。

限局型肺小細胞がんの治療:予防的全脳照射(PCI)

肺小細胞がんは脳に転移しやすいです。そのため常に脳の状態には注意していく必要があります。突然、しびれやしゃべりづらさなどの症状が出てきた場合は、頭のMRI検査を行って脳の状態を調べる必要があります。

肺小細胞がんの治療を行ったら見た目上完全に腫瘍が消えた場合(これをCRと言います)は、予防的に頭に放射線療法(予防的全脳照射)を行います。

予防的全脳照射は、化学療法を行ってから6ヶ月以内のできるだけ早いタイミングで行うのが良いとされています。

予防的全脳照射は合計10回に分け、2週間かけて行うことが多いです。

この治療は次に述べる進展型肺小細胞がんでは行わないので注意が必要です。

進展型肺小細胞がんの治療

小細胞がんがリンパ節に広範囲に転移している状態の治療についてです。この状態を進展型肺小細胞がんと言います。治療は化学療法のみを行います。

化学療法は4回投与を原則とし、肺腺がんの治療のようにそれ以降、維持療法として延長して投与していくことは推奨されていません。

進展型肺小細胞がんの治療:70歳以下、PS 0-2の患者

年齢が若く全身の状態が良い方の治療です。

シスプラチン+イリノテカンを使う化学療法が推奨されています。この薬は治療成績が良いため推奨されているのですが、吐き気や下痢が起こりやすく、血液中の白血球赤血球血小板を減少させてしまうことも多いです。また、間質性肺炎といった非常に重い副作用を起こすこともあります。下痢に関しては、半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)やロペラミドといった薬を使って、症状が起こりにくくする工夫がされています。

進展型肺小細胞がんの治療:71歳以上75歳未満、PS 0-2の患者および70歳以下でイリノテカンの毒性が懸念される患者

前述したシスプラチン+イリノテカンは治療成績が良いのですが、特に吐き気や下痢を起こしやすいです。そのため、もし吐き気や下痢が出てしまうと全身状態が非常に悪化すると予想される方にはシスプラチン+イリノテカンは使用できません。その場合は、シスプラチン+エトポシドが推奨されています。

進展型肺小細胞がんの治療:PS 0-2でシスプラチンの毒性の影響が懸念される患者

シスプラチンは、腎臓の機能を低下させたり聴力を低下させたりします。また、血液中の白血球や赤血球や血小板を減らすことも多く、これらの副作用に耐えられないと予想される人は使うことができません。

その場合は、シスプラチンを分割して用いることや、カルボプラチン+エトポシドを用いることが推奨されています。

進展型肺小細胞がんの治療:75歳以上の患者

75歳以上の方の化学療法では、原則的にシスプラチンを分割して用いたり、カルボプラチン+エトポシドを用いることが推奨されています。

進展型肺小細胞がんの治療:PS 3の患者

全身状態が思わしくない人に対する治療です。寝たきりではないが日中の半分以上をベッドで過ごすレベルの全身状態であれば化学療法を行うことができます。

シスプラチンを分割して用いたり、カルボプラチン+エトポシドを用いることが推奨されています。

進展型肺小細胞がんの治療:PS 4の患者

全身状態が更に悪化する危険性が高いので、化学療法は行いません。

6. 小細胞がんは再発する?

小細胞がんは再発を起こしやすいです。治療によって腫瘍が消えたように見えても、しばらくしたらまた腫瘍が現れるということがしばしば起こります。

ここでは再発してしまった際の治療はどうしていくのかを説明していきます。

再発の治療は大きく2つに分けて考えます。治療を終えてから90日以上経ってから再発した場合と89日以内で再発した場合に分けます。90日以上経ってからの再発をセンシティブ・リラプス(Sensitive Relapse)と言います。「治療に反応があったあとの再発」という意味です。89日以内の再発をリフラクトリー・リラプス(Refractory Relapse)と言います。「治療が効きにくかったときの再発」という意味です。

治療終了後からの期間が60日以降であればセンシティブ・リラプスとする立場もありますが、このサイトでは90日としています。

センシティブ・リラプスとは?

化学療法を行ってしばらくしてから再発した場合をセンシティブ・リラプスと言います。目安としては前回の治療を行った最終日から90日以上経ってから再発した場合をセンシティブ・リラプスと考えます。

センシティブ・リラプスであれば、初回治療と同様の手順で化学療法を再度行うことが推奨されています。

リフラクトリー・リラプスとは?

化学療法を行ってからあまり間隔がなく再発した場合をリフラクトリー・リラプスと言います。目安としては前回の治療を行った最終日から89日以内に再発した場合をリフラクトリー・リラプスと考えます。

リフラクトリー・リラプスであれば全身状態を考えて、可能であれば化学療法を行うことなります。

再発した場合の治療は?

それでは、再発した肺小細胞がんに対して実際にどういった治療を行うのかを説明していきます。

センシティブ・リラプスの治療

治療は基本的にノギテカンという抗がん剤を使います。ノギテカンは吐き気や倦怠感が強く出ることがあるので注意が必要で、実際に投与できることはあまり多くありません。また、シスプラチン+エトポシド+イリノテカンを使って治療することもあります。

また、古い報告ではありますが、センシティブ・リラプスであれば前回使った抗がん剤を再度使っても効果を発揮するという報告がありますので、一つの選択肢になります。

リフラクトリー・リラプスの治療

リフラクトリー・リラプスの治療は全身状態が許せば抗がん剤を使って行います。どんな抗がん剤を用いるべきかは明確に決まっていませんが、ノギテカンよりもアムルビシンがの方が成績が良いという報告があります。アムルビシンを使うと吐き気や脱毛や倦怠感が出現します。さらに血液中の白血球や赤血球や血小板が減少することも多く、使用後に感染症や出血に細心の注意を払う必要があります。

参照文献

Int J Cancer. 2002 May 10