きゅうせいだいどうみゃくかいり
急性大動脈解離
心臓から出る、身体の中の一番大きな血管(大動脈)が、裂けてしまった状態。命に関わることが多く、しばしば緊急治療が必要となる
21人の医師がチェック 188回の改訂 最終更新: 2023.01.04

急性大動脈解離の基礎知識

POINT 急性大動脈解離とは

心臓から全身に血液を送る最も太い動脈を大動脈と言います。この大動脈の血管壁が裂けてしまった状態を急性大動脈解離といいます。高血圧症や動脈硬化が原因となることが多いです。主な症状は胸や背中の痛みや吐き気、意識消失などになります。また、大血管が破裂した場合は突然死することがあります。 症状や身体診察に加えて、手足の血圧測定・心臓エコー検査・血液検査・レントゲンやCTなどの画像検査を用いて診断します。根治するには手術を行います。また、手術を行うことが難しい場合や手術をしないで済む程度のものは、血圧や脈拍を落として血管壁が現状よりも裂けないようにする治療を行います。急性大動脈解離が心配な人や治療したい人は、循環器内科・心臓血管外科・救急科を受診して下さい。

急性大動脈解離について

  • 体の真ん中を上下方向に走っている、一番太い血管(大動脈)が、裂けてしまった状態
    • 動脈の壁は3層構造になっているが、その内側の層の一部がはがれて、その隙間から血液が動脈の壁の間に流れ込んでしまう
  • 主な原因
    • 高血圧
    • 動脈硬化
    • けが
    • 血管の炎症
    • 生まれつき血管の壁がもろい
  • その他にも以下のような病気が原因で起こることがある
  • 命に関わる状況を起こすことが多い、非常に緊急性の高い病気
    • 突然死の原因となる
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急性大動脈解離の症状

  • 血管の層が剥がれる瞬間には、突然非常に強い痛みが起こる
    • 多くの場合で激痛となる(最も痛みの強い病気の1つとして知られている)
  • 解離が起こる位置(高さ)によって痛みの出る場所が変わる
    • 高い位置だと胸や背中が痛くなる
    • 低い位置で起これば、腰のあたりが痛くなる
    • 高い位置で始まった解離が低い位置まで広がると、背中から腰へ激痛が移動する
  • 解離が起こる高さによって、症状が変わる
    • 脳へ血流を送る血管が巻き込まれると、脳への十分血液が送られず脳梗塞になって麻痺などの症状が出ることがある
    • 脳以外でも腎臓や腸へ行く動脈を巻き込むとそれぞれの臓器が機能を失ってしまう
    • 心臓に近い部分で起こった場合、以下のような命に関わる重い合併症を起こすことがある
    • その他にも、臓器ごとにさまざまな症状が出ることがあり、必ずしも同じような症状ばかりではない
  • また、裂けた血管から外に血液が噴き出すと(大動脈破裂と呼ばれる)、突然死する可能性がある
症状の詳細

急性大動脈解離の検査・診断

  • 画像検査
    • 胸部レントゲン検査(X線写真)
    • 胸部、腹部の造影CT検査:血管の中でなにが起こっているのかがわかりやすい検査
    • 心臓、腹部超音波エコー)検査
  • 血液検査で異常が見つかることもある
    • 凝固系検査:D-ダイマー、FDPなど
  • 血圧測定
    • 両腕や両足で血圧を測定する
    • 手や足の血管の根元が裂けてしまうと血液が流れにくくなったり、血管が詰まったりするため、左右の腕や手足で血圧に差が生じる
検査・診断の詳細

急性大動脈解離の治療法

  • 治療は手術を行う場合と行わない場合(保存的治療)の2種類
    • 状態とその後の予測によって治療法を選択する
  • 手術
    • 開胸、開腹手術
      • 解離を起こした大動脈を、テフロンなどでできた人工血管に置き換える手術
    • ステントグラフト手術
      • 血管内に入れたカテーテルを使って手術するため身体への負担は小さくて済む
      • 留置したステントで血管を補強する
      • 開胸、開腹手術よりも比較的新しい治療
    • 開胸、開腹手術とステントグラフト手術を合わせて治療を行うこともある
  • 保存的治療
    • それ以上解離が進まないようにすることを目標として薬を点滴し、解離した部分に流れ込んだ血液が自然と固まるのを目指す
    • 血圧を下げる薬や、脈をゆっくりにする薬、痛み止めや鎮静薬などが使用される
    • 固まった血液はそのまま残るが、一旦固まれば、血管は血液を再び流すことができる
  • 極めて重症な場合では手術ができる状態ではないため、回復する可能性は非常に低いまま点滴のみで経過をみることもありうる
  • 一部の患者では状態が悪く、治療をしても回復が見込めない場合がある
  • 既に大動脈解離を起こしたことがある人は、飲み薬で血圧を下げて、再発しないようにすることが重要
治療法の詳細

急性大動脈解離の経過と病院探しのポイント

急性大動脈解離が心配な方

急性大動脈解離では、突然出現する激しい裂けるような背中の痛みが出現し、痛みが移動することが特徴的です。また、急性大動脈解離により意識障害、脳梗塞心筋梗塞、心停止なども起こることがあります。高血圧や動脈硬化がある方、高齢の方、喫煙される方に起こりやすく、外傷によっても起こることがあります。また、生まれつきの病気でマルファン症候群大動脈炎症候群という方にも発症しやすく、既に指摘されている方は注意が必要です。

ご自身が急性大動脈解離ではないかと心配になる前に、激しい痛みのため救急車を呼ぶことが多いでしょう。その場合まず救急医の診察が始まりますが、診断がつき次第すぐに、心臓血管外科や循環器内科の医師と連携をとって治療することになります。診断までは救急医が、治療は心臓血管外科医、循環器内科医が行う病気です。それぞれに専門医がいます。救急医は必ずしも専門医でなくても診断はつけられる病気ですが、心臓外科専門医が一人もいない病院では手術は基本的にできません。診断された病院が手術ができない病院であった場合には、手術可能な病院への緊急搬送の手続きがとられるでしょう。一般的に総合病院であれば心臓血管外科医がいますし、救急車を呼んだ際には救急隊が判断し、適切な病院へ搬送してくれるため、どの病院を受診しようかと迷う心配はありません。地域によってはハートセンター(循環器センター)といって、専門的に治療を行っている病院があるため、事前に大動脈解離が強く疑われているような場合にはこのような病院への搬送が検討されます。

急性大動脈解離の診断は、問診、診察、レントゲン検査、胸腹部の造影CT、心臓超音波検査で行います。特徴的な痛みとCTにて大動脈が裂けていることが診断のキーポイントとなります。これらの検査はクリニックでは難しく、総合病院の受診が必要です。

急性大動脈解離に関連する診療科の病院・クリニックを探す

急性大動脈解離でお困りの方

急性大動脈解離の治療は、どこまで血管が裂けているかによって異なり、手術を行う場合と、薬剤により血圧や痛みをコントロールする保存療法があります。また、急性大動脈解離を発症する前の状態(寝たきりだったかなど)も合わせて考慮することが、手術をするかどうかの大切なポイントになります。手術を行う場合は心臓血管外科医、保存療法の場合は循環器内科医が診療するというように、治療法によって診療科が分かれている病院もあります。手術が無事に成功した後も、元の生活を送れるようにリハビリを行うことがあります。

完治した後も、血圧のコントロールを行い再発を予防することが大切であり、継続的な通院が必要になります。

急性大動脈解離は、背中の痛みで発症することがありますが、背中の痛みは筋肉や骨の問題からくる整形外科的な疾患と思われている方が多くいらっしゃいます。しかし、急性大動脈解離のように重症な病気もあるため、突然の強い背中の痛みや、普段は感じた事がない背中の痛みが出現した場合は我慢せず、すぐに病院を受診されてください。自宅では症状から診断はつけられませんが、病院で検査を受けることによって診断がつく病気です。高血圧や喫煙習慣のある方は特にリスクが高くなりますので、普段から定期的な通院、健診を心がけるようにしましょう。

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