急増する「人食いバクテリア」ってなに? 予防方法はあるの?
致死率が非常に高く、「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性連鎖球菌感染症の2023年の患者報告数は941人と過去最多となりました。主な原因はA群溶血性連鎖球菌という菌による感染症です。ところが、実はこの細菌に感染してもほとんどのケースでは劇症型まで至ることはありません。一方で、劇症型溶血性連鎖球菌感染症を起こしやすい人や、劇症型になりやすい株が知られています。本コラムでは、予防方法や、症状がある時の受診のタイミングなどについて解説いたします。
人食いバクテリアとは?
劇症型溶血性連鎖球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome : STSS)は、しばしば「人食いバクテリア」という病名で呼ばれています。約30%の患者さんが亡くなる致命率の非常に高い
【劇症型溶血性連鎖球菌感染症の特徴】
- 急激かつ劇的に病状が進行する
発症 からの進行が速く時間の単位
- 腕や脚の痛み、腫れ、発熱、血圧低下などが見られる
- 発症後数十時間以内に、皮膚軟部組織の
壊死 や多臓器不全を来たしショック 状態に陥る - 子どもから大人まで広い年代で発症する可能性がある
- 特に30歳以上の大人に多いのが特徴
劇症型溶血性連鎖球菌感染症の原因菌の多くはA群溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus pyogenes : GAS)という
A群溶血性連鎖球菌の流行状況
日本では、劇症型溶血性連鎖球菌感染症は5類全数把握疾患で、診断した際には7日以内に保健所に届出を行います。また、劇症型ではないA群溶血性連鎖球菌による咽頭炎は小児科定点把握疾患となっており、定点として指定された医療機関は、発生状況を週ごとにとりまとめて保健所に届け出を行っています。
新型コロナウイルス感染症の流行期間中の2020-2022年には、劇症型溶血性連鎖球菌感染症の報告数は減少していました。しかし、2023年の夏以降、50歳未満を中心として急増しました。また、劇症型だけでなく、同時期頃からA群溶血性連鎖球菌の咽頭炎の患者も急増しています。劇症型溶血性連鎖球菌感染症の増加は、日本だけのことではありません。ヨーロッパ諸国(イギリス、アイルランド、フランス、オランダ、スウェーデン、スペインなど)でも、2022年後半から2023年にかけて劇症型を含む重症のA群溶血性連鎖球菌感染症の増加が報告されています。
日本の感染者数が増加したはっきりとした原因はわかりません。5類化以降の感染対策の緩和とインバウンドおよびアウトバウンドにより、病原性が高い株が国内へ入ってきた影響が要因の一つとして考えられます。実際に、日本国内の劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者では、病原性と伝播性が高いA群溶血性連鎖球菌であるS. pyogenes M1UK lineage(UK系統株)が増加しています。
UK系統株に感染しても劇症型となるのはまれですので過度に心配しすぎる必要はありませんが、次に説明する予防方法と受診の目安はぜひ知っておいてください。
予防方法
A群溶血性連鎖球菌感染症を予防するワクチンは開発中であるものの、まだありません。しかし、A群溶血性連鎖球菌の伝播は接触感染と飛沫感染によって起こるので、この2つの感染経路を遮断することが大切です。
- 接触感染対策
- 手洗い、手指消毒
- 傷がある場合には、傷をきれいに保つ
- 傷や皮膚感染症がある場合には、温泉、プール、川や海に入るのは避けたほうが良い
- 飛沫感染対策
- マスクの着用が有用
これらを行うことで、他の感染症予防にもつながります。
早期受診の目安
劇症型をはじめとした重症のA群溶血性連鎖球菌感染症は、短時間で急激に悪化するため、早期の受診が必要です。受診の目安としては、次のようなものがあります。
1)急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある
2)痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある
3)意識がはっきりしない
いつもとは比べ物にならないほどつらい、また周りの人から見て普段と比べて様子がおかしい場合には、ためらわずに受診してください。受診に適している診療科は内科や皮膚科です。夜間や休日であれば救急科を受診するなど、速やかに医療機関へ行くことが重要です。
おわりに
持病がない人が突然、劇症型溶血性連鎖球菌感染症を発症する可能性はあるものの、本コラムで紹介したような既知のリスクもあります。周囲に持病がある人がいる際には、自分だけでなくその人のためにも手洗い、手指消毒、マスクといった基本的な感染対策を継続することが大切です。
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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。