糖尿病の基礎知識
POINT 糖尿病とは
糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンが不足したり働きが悪くなったりするために、血糖値を正常に保てず高血糖の状態になる病気です。高血糖が長期間続くと脳梗塞・心筋梗塞・失明・腎臓の機能低下などさまざまな合併症が引き起こされます。 糖尿病は1型と2型のに分けることができ、そのほとんどは2型と呼ばれるタイプで、肥満や生活習慣と深い関わりがあります。一方で、1型は感染症や免疫異常などをきっかけに膵臓が適切にインスリンを分泌することができなくなることで高血糖となる病気です。 糖尿病は自覚症状に乏しいため検査で初めて指摘されることも多いです。一方、口渇・多尿・倦怠感・体重減少などは糖尿病で見られる症状ですので、これらの症状がある場合には検査を受けて調べてもらうことをお勧めします。
糖尿病について
- 血液中の
ブドウ糖 濃度(血糖 値)を、正常範囲内にとどめておくことが出来なくなる病気インスリン の量の不足や働きが悪くなることが原因
- 英語のdiabetes mellitusを略してDMともいう
- 原因を大きく分けると1型糖尿病と2型糖尿病の2種類に分けられる(詳細はそれぞれの疾患を参照)
- 1型糖尿病:膵臓の障害で血糖を下げる
ホルモン (インスリン)が出なくなってしまう状態- 肥満や生活習慣とは関係ない
ウイルス 感染などがきっかけで起こる、免疫 の異常が原因- 子どもにも起こる
- 治療はインスリン注射
- 2型糖尿病:インスリンへの反応が悪い状態(インスリン抵抗性)、またはインスリンが不足した状態
- その他の原因
- 日本では900万人以上の人が糖尿病ないし糖尿病が強く疑われる状態
- 糖尿病の可能性がある人を含めるとおおよそ2000万人程度いると考えられる
高血糖 状態を治療せずにいると、重大な合併症 を引き起こすので、治療介入(運動療法、食事療法、薬物療法)を受ける必要がある
糖尿病の症状
- 糖尿病は初期ではほとんど
症状 を起こさない 血糖 値が高い場合に見られやすい症状- 口の渇き、のどの渇き、水分をたくさん飲む
- 尿の量が多い(多尿)、トイレが近い
- 疲れやすい、だるい、
倦怠感 - 気持ち悪い、吐き気、嘔吐
- 頭痛
- 体重減少
- これらの症状は
高血糖 がすでに長期間続いている場合に出ることが多い
- 血糖値が高い状態が続くと多くの
合併症 (糖尿病が原因で起こる病気)が起こる - 糖尿病神経障害により感覚が鈍くなるため、足に潰瘍があっても痛みを感じないことも多い
- 心筋梗塞が起きても痛みを感じないことがある
- 歯周病や認知症も糖尿病と関連があると言われている
- 急速に糖尿病を
発症 したり、糖尿病の治療を中断してしまうと意識障害 を起こす合併症もある
糖尿病の検査・診断
- 血液検査: 血液検査を行い、
血糖 値やHbA1cが一定の数値以上であれば診断の根拠となる- 診断のために血液検査を複数回行うことが多い
ブドウ糖 を摂取した後、血糖の上昇を連続採血で測定する方法もある(OGTT)- 1型か2型かを判断するための血液検査(
自己抗体 の測定)をすることもある
- 診断基準は次のとおり
- 糖尿病型の基準
- 血糖値の異常:早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上のいずれかがあれば糖尿病型とする - HbA1cの異常:HbA1c 6.5%以上で糖尿病型とする
- 診断方法
- 血液検査で2回糖尿病系を認めれば糖尿病と診断する
- ただし、一度の血液検査で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば糖尿病と診断する
- 一度の血液検査で血糖値が糖尿病型を認める人に血糖高値を疑う
症状 がある場合には糖尿病と診断する(血糖高値を疑う症状とは以下である)- 口渇
- 多飲
- 多尿
- 体重減少
- 糖尿病性網膜症の存在を認める人が一度の血液検査で
高血糖 を認めた場合も糖尿病と診断する - 過去に糖尿病と診断された人も糖尿病として対応される
- 糖尿病型の基準
- 75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)
- 検査当日の朝まで10時間絶食する
- 絶食時の血糖値を測る
- ブドウ糖75gを溶かした水を飲む
- 30分後、1時間後、2時間後に血糖値を測る
- 血糖値とHbA1cの一方が糖尿病型だった場合に糖尿病と診断される基準
- 血糖値が糖尿病型の人に、糖尿病の典型的症状(口の渇き、多飲、多尿、体重減少)や糖尿病網膜症が確認された場合
- 血糖値は糖尿病型であるがHbA1cが正常範囲であった人に、別の日に再検査を行い、血糖値またはHbA1cで糖尿病型が確認できた場合
- HbA1cだけが糖尿病型であった人に、別の日に再検査を行い、血糖値が糖尿病型であることを確認した場合
- 尿検査は参考とされるが、診断に必須ではない
-
合併症 の検査: 知覚に関する診察や、腎臓に関する血液検査、眼の検査(眼底検査 )などを行う- 必要があれば
動脈硬化 の検査も行う
- 必要があれば
- その他の検査
糖尿病の治療法
- 治療方法は主に以下の3つである
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
- 治療方法は1型糖尿病と2型糖尿病で異なる
- 食事療法
- 2型糖尿病を予防する食事
- 男性では1日あたり1600kcal-2000kcal、うち炭水化物が200g-300gが適量
- 女性では1日あたり1400kcal-1800kcal、うち炭水化物が175g-275gが適量
- 診断後の治療でも同様
- 日本糖尿病学会による「糖尿病食事療法のための食品交換表」を使うと、カロリーと炭水化物の量を調整しやすい
- 糖尿病予防効果があるとされる食品
- カロリーと炭水化物を適切なバランスで維持することが優先
- 炭水化物の摂り過ぎも摂らなさすぎも良くない
- 食物繊維を多く含むもの
- 緑色野菜
- 魚
- カロリーと炭水化物を適切なバランスで維持することが優先
- 2型糖尿病を予防する食事
- 運動療法
- 薬物療法2型糖尿病の治療薬は飲み薬から始めることが多い
- 妊娠糖尿病にはインスリンが優先される
- 血糖値とHbA1cを正常範囲まで下げることを目標にする
- インスリンでは速く確実に効果が得られる
- 主な飲み薬
- SU剤
- インスリンの分泌を促す
- グリニド系薬
- インスリンの分泌を促す
- 効果が速く現れ速く消える
- 食直前に飲む
- ビグアナイド薬
- 多くの場合で
第一選択 とされる - 費用が安い
- 多くの場合で
- チアゾリジン薬
- インスリン抵抗性を改善する
- α-GI
- 食後の糖の吸収を遅らせる
- 食直前に飲む
- DPP-4阻害薬
- 単独使用の場合、
腎機能 が低下していても量を調節しなくてよい
- 単独使用の場合、
- SGLT2阻害薬
- 血液中の糖を尿に排泄させる
- 重度の腎機能障害がある人は使えない
- SU剤
- SU剤の例
- グリベンクラミド(商品名:オイグルコン®、ダオニール®など)
- グリクラジド(商品名:グリミクロン®など)
- グリメピリド(商品名:アマリール®など)
- グリニド系薬の例
- ナテグリニド(商品名:スターシス®、ファスティック®など)
- ミチグリニド(商品名:グルファスト®)
- レパグリニド(商品名:シュアポスト®)
- ビグアナイド薬の例
- メトホルミン(商品名:メトグルコ®など)
- ブホルミン(商品名:ジベトス®など)
- チアゾリジン薬の例
- ピオグリタゾン(商品名:アクトス®など)
- ピオグリタゾンとビグアナイド薬の配合剤(商品名:メタクト®配合錠)
- ピオグリタゾンとSU剤の配合剤(商品名:ソニアス®配合錠)
- α-GIの例
- アカルボース(商品名:グルコバイ®など)
- ボグリボース(商品名:ベイスン®など)
- ボグリボースとグリニド薬の配合剤(商品名:グルベス®配合錠)
- ミグリトール(商品名:セイブル®)
- DPP-4阻害薬の例
- シタグリプチン(商品名:ジャヌビア®、グラクティブ®)
- リナグリプチン(商品名:トラゼンタ®)
- テネリグリプチン(商品名:テネリア®)
- アログリプチン(商品名:ネシーナ®)
- アログリプチンとチアゾリジン薬の配合剤(商品名:リオベル®配合錠)
- ビルダグリプチン(商品名:エクア®)
- ビルダグリプチンとビグアナイド薬の配合剤(商品名:エクメット®配合錠)
- アナグリプチン(商品名:スイニー®)
- サキサグリプチン(商品名:オングリザ®)
- トレラグリプチン(商品名:ザファテック®)
- オマリグリプチン(商品名:マリゼブ®)
- SGLT2阻害薬の例
- イプラグリフロジン(商品名:スーグラ®)
- ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ®)
- ルセオグリフロジン(商品名:ルセフィ®)
- トホグリフロジン(商品名:アプルウェイ®、デベルザ®)
- カナグリフロジン(商品名:カナグル®)
- エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス®)
- GLP-1受容体作動薬
- 注射する薬(ただし、リベルサス®は
内服薬 ) - インスリンではない
- 単独で使うと低血糖を起こしにくい
- リラグルチド(商品名:ビクトーザ®)
- エキセナチド(商品名:バイエッタ®、ビデュリオン®)
- デュラグルチド(商品名:トルリシティ®)
- リキシセナチド(商品名:リキスミア®)
- セマグルチド(商品名:オゼンピック®、リベルサス®(内服薬))
- 注射する薬(ただし、リベルサス®は
- インスリン製剤
- 主に自己注射で使う
- 超速効型:ノボラピッド®、ヒューマログ®、アピドラ®、フィアスプ®など
- 速効型:ノボリン®R、ヒューマリン®Rなど
- 持効型:トレシーバ®、ランタス®、レベミル®
- 持効型インスリンの一部にはジェネリック医薬品がある
- 中間型:ノボリン®N、ヒューマリン®N、ヒューマログ®N
- 混合型
薬の副作用で最も重要なのが低血糖
- 血糖値が一時的に下がりすぎてしまう
症状 は冷や汗、ふらつき、吐き気、手足の震えなど- 症状を感じたら糖分を摂取する
- 低血糖に備えて糖分を取れるもの(補食)を持ち歩く
内分泌系の病気など、ほかの原因がある場合は原因を治療する
薬が原因で血糖値が上昇している場合は薬を中止する
- もともと使われていた薬に代わる治療法を探す必要がある
糖尿病に関連する治療薬
GLP-1受容体作動薬
- 膵臓からのインスリン分泌を促し、分泌されたインスリンによって血糖値を下げる薬
- 糖尿病は血糖値が高い状態で、この状態が続くと様々な合併症がおこる
- インスリンは血糖値を下げるホルモンであり、GLP-1などのインクレチンというホルモンの働きにより膵臓から分泌される
- 本剤はGLP-1と同じような作用により、血糖に応じて膵臓からインスリン分泌を促す
- 単剤(本剤の成分を単独で)投与した場合の低血糖はおこりにくいとされる
グリニド系薬(速効型インスリン分泌促進薬)
- 服用後にすばやくインスリンを分泌させ食後の高血糖を改善する薬
- 食事後の高血糖状態が続くと体に対し毒性を示すようになり糖尿病の合併症へつながる
- 血糖値を下げるホルモンとしてインスリンがあり膵臓から分泌される
- 本剤は服用後すばやく膵臓に作用し、インスリン分泌を促す作用をもつ
- 服用方法に関して
- 通常は食直前(一般的には食事を摂る前の10分以内)に服用する
スルホニルウレア系薬(SU剤)
- 膵臓の細胞に作用し、膵臓からのインスリン分泌を促し血糖値を下げる薬
- 糖尿病は血糖値が高い状態で、この状態が続くと様々な合併症がおこる
- インスリンは血糖値を下げるホルモンであり、膵臓のβ細胞から分泌される
- 本剤は膵臓β細胞のスルホニルウレア受容体(SU受容体)に結合しインスリン分泌を促す
糖尿病の経過と病院探しのポイント
糖尿病が心配な方
糖尿病は普段の食生活や遺伝などの要素が重なって発症します。かなり悪化するまで自覚症状はありません。一部の人で喉の渇きや尿量の増加といったような症状がみられます。
上記のような症状に該当してご心配な方は糖尿病内科、もしくは一般内科のクリニックの受診をまずはお勧めします。糖尿病の傾向があるかどうかは簡単な検査で分かりますので、深くお悩みになる前に一度検査を受けた上で、医師に対応をご相談下さい。
糖尿病でお困りの方
慢性期の糖尿病の治療は特殊な設備を要するものではなく、内科のクリニックでも十分に行うことができます。その中でも担当が糖尿病専門医であれば、よりきめ細やかな治療や、合併症の早期発見が可能となります。
糖尿病では、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症と呼ばれる3つの合併症があります。糖尿病性神経障害では、手足のしびれや感覚の低下が生じます。糖尿病性網膜症では視力が低下します。そのまま放置すると失明につながります。視力低下を自覚しないままいきなり失明する人もいます。糖尿病性腎症では腎臓の機能が徐々に低下します。自覚症状のないまま腎障害が進行します。放置すると血液透析が必要になります。透析は血液中の老廃物を抜く処置です。透析をしていると週3回3時間などの通院が必要で、生活を大きく圧迫してしまいます。治って透析が不要になることはありません。
初めて糖尿病と診断されたタイミングでは、これらの合併症がないかの検査を行うため、または必要あればインスリンの自己注射方法を学ぶため、そして糖尿病についての理解を深めてその後の自宅での生活の工夫に役立てるためなどの目的で、数日から1週間など、短期の入院が必要となることがあります。この場合、糖尿病と診断されたのが地元のクリニックであったとしたら、入院先として地域で連携している医療機関を紹介してくれるはずです。
また、その後も定期的に眼科の診療を受けるために眼科のクリニックでかかりつけ医療機関を作ることになります。糖尿病の合併症による失明は、日本の成人失明原因の第1位であり、こまめな検診が必要です。また、もし血液透析が必要になった場合には、透析クリニック、透析病院と呼ばれるような、血液透析に力を入れている医療機関が全国各地にあります。そのようなところで通いやすい場所を見つけることが重要です。
長期的な通院が必要となりますので、何よりも主治医との相性や病院の通いやすさが重要です。信頼できて食事や運動など日常生活の悩みをしっかり相談できる主治医を見つけることはとても大切で、細かな薬の使い分けなどよりも影響が大きい部分かもしれません。
糖尿病の治療の中心は血糖値が上がらないように注意すること(運動療法、食事療法、薬物療法)ですが、それと同時に、上記の合併症が生じた場合に早期発見することも大切です。症状が出てからでは遅いので、1年に1回以上眼科を受診する、定期的に尿検査や血液検査を受ける、手足の感覚がにぶっていないかや足先に切り傷や水虫がないか(糖尿病の方では、これらの傷から菌が広がって悪化しやすいためです)を確かめる、といった点が大切になります。また、特に高齢者では血糖のコントロールが悪いと、認知症、肺炎や尿路感染症などの感染症、サルコペニア(全身の筋肉が減る)、うつ、骨粗鬆症・骨折といったさまざまな病気にもかかりやすくなることが知られています。主治医を作り定期的な検査を受けることと、それと同時に自身でも糖尿病についての理解を深め、食事の工夫を含めたセルフケアを行っていくことが、他の病気にも増して重要になるのが糖尿病です。
糖尿病が含まれる病気
糖尿病のタグ
糖尿病に関わるからだの部位



