2026.05.20 | コラム

血管炎治療薬タブネオスの新規投与見合わせ要請とその背景について

使用中の人は自己判断で中止せず、必ず担当医と一緒に方針の相談をしてください
血管炎治療薬タブネオスの新規投与見合わせ要請とその背景についての写真
(c)okskaz_stock.adobe.com

2026年5月、キッセイ薬品より、タブネオス(一般名:アバコパン)について、当面の間、新規患者への投与を控えるよう医療機関に求めるお知らせが出されました[1, 2]。本コラムでは、タブネオスがどのような薬なのか、なぜ今回このような対応がとられたのかについて説明します。

1. タブネオスとはどのような薬か?

タブネオス(一般名:アバコパン)は顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症と呼ばれる血管炎の治療薬として2021年に日本で承認された薬剤です。アメリカ、アムジェン傘下のChemoCentryx社によって開発され、日本ではキッセイ薬品が開発・販売権を取得し、販売されています。

顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症は、ANCA関連血管炎と呼ばれる病気に含まれます。これは、免疫の異常によって血管に炎症が起こり、腎臓、肺、耳鼻科領域、神経など、さまざまな臓器に障害を起こすことがある病気です。

タブネオスは、補体C5a受容体という免疫反応に関わる経路をブロックすることで、血管炎の炎症を抑える薬です。従来、ANCA関連血管炎の治療では、リツキシマブやシクロホスファミドなどの免疫抑制薬に加え、高用量のステロイド薬を使用することが一般的でした。しかし、ステロイド薬を長期間使用すると、感染症骨粗鬆症糖尿病、体重増加、白内障など、さまざまな副作用が問題になります。タブネオスは、ステロイド薬の使用量を減らせる可能性のある薬として大きく注目されました。

 

2. タブネオスの臨床試験:ADVOCATE試験とは?

タブネオスの有効性を検討するために行われた代表的な臨床試験が、ADVOCATE試験です[3]。この試験では、ANCA関連血管炎の患者331名を対象に、リツキシマブまたはシクロホスファミドなどの標準的な免疫抑制治療に加え、タブネオスを使用する群と、従来通り高用量のステロイド薬を漸減しながら使用する群の2つが比較されました。

この試験では、治療開始から半年後、つまり26週時点で、タブネオス群はステロイド群に対して効果が劣らない、すなわち「非劣性」を示したと報告されました。また、1年後、つまり52週時点では、寛解を維持できた患者の割合がタブネオス群で高く、「優越性」も示されたと報告されました。

この結果をもとに、タブネオスは米国や日本などで承認されました。特に、ステロイドによる副作用を減らしたい患者さんにとって、新しい選択肢として期待されていました。

 

3. なぜ今、問題になっているのか?

今回の問題には、大きく2つの背景があります。

1つ目は、重篤な肝障害の報告です。

FDAは2026年3月、タブネオスを使用した患者で、薬剤性肝障害により重篤になった人や死亡した人が報告されているとして注意喚起を行いました[4]。その中には、胆管消失症候群と呼ばれる重い肝障害も含まれています。

日本でも、キッセイ薬品の報告では、国内推定使用患者数8,503人のうち、胆管消失症候群が22人で報告され、そのうち13人が死亡しています[1]。また、トータルで見ると、タブネオスを服用した患者で死亡に至った人は国内で20人報告されています。

胆管消失症候群は多くが投与開始後3か月以内に発現しており、特に投与開始後29-56日に多く認められたと報告されています[1]。そのため、投与開始前および投与中の定期的な肝機能検査、倦怠感黄疸、茶褐色尿、白色便、食欲不振、吐き気、かゆみなどの症状に注意することが求められています。

 

2つ目は、タブネオス承認の根拠となったADVOCATE試験のデータの扱いに、重大な疑義が生じている点です。

2026年4月、米国FDAの医薬品評価研究センター(CDER)は、タブネオスの米国承認を取り下げることを提案しました[5]。その理由としてFDAは、タブネオスの承認時に事実と異なる記載が含まれていたことを挙げています。

FDAの文書によると、ADVOCATE試験では、当初の解析では52週時点の持続寛解について統計学的に有意な結果ではなかった(p = 0.1025)とされています。その後、盲検化されていない試験関係者*が、特定の患者の判定を再評価するよう依頼しました。その結果、タブネオスが有効に見える方向に試験結果が変わった可能性がある、とFDAは指摘しています[6]。

つまり、今回の問題は単に「副作用が報告された」というだけではなく、薬の有効性を示す根拠となった臨床試験そのものの信頼性に疑問が生じていることになります。

*盲検化とは:臨床試験では、患者がどちらの群の治療を受けているかわからないようにする「盲検化」を行います。これにより、治療評価を公平に行うことができます。

 

4. FDAの承認撤回は決定したのか?

2026年5月17日時点では、FDAによるタブネオスの承認撤回は最終決定ではありません。FDA/CDERは承認撤回を提案し、販売会社側に聴聞の機会通知を出している段階です。

日本でも、現時点ではタブネオスの承認は継続しています。ただし、キッセイ薬品は欧米の情報を収集し、PMDAや厚生労働省と協議を進めているとしています。

 

5. 日本ではどのような対応になっているのか?

こうした状況を受け、日本の販売元であるキッセイ薬品は、医療機関に対して以下の対応を求めています。

 

  • 新規患者へのタブネオス投与は控えること
  • すでにタブネオスを継続中の患者には、肝機能障害のリスクや代替治療について十分に説明し、継続するかどうかを慎重に判断すること

 

これは、すでに内服している患者さん全員に対して、自己判断でただちに中止するよう求めている、という意味ではありません。血管炎は治療を急に中断すると悪化する可能性もある病気です。そのため、現在タブネオスを内服している人は、自己判断で中止せず、必ず主治医と相談してください

一方で、黄疸、強い倦怠感、吐き気、食欲不振、尿の色が濃くなる、便の色が白っぽくなる、皮膚のかゆみなどがある場合には、肝障害のサインの可能性があります。そのような症状がある場合には、早めに医療機関に相談することが重要です。

 

6. まとめ

タブネオスは、ANCA関連血管炎に対して、ステロイドの使用量を減らせる可能性がある薬として期待されてきました。しかし現在、重篤な肝障害の報告に加え、承認の根拠となったADVOCATE試験のデータの扱いにも重大な疑義が生じています。

そのため、日本では当面の間、新規患者への投与を控えるよう求められています。すでに内服している患者さんについては、肝障害のリスクと血管炎治療の必要性を踏まえ、主治医とよく相談しながら、継続するか、他の治療に切り替えるかを判断することが大切です。

不安を感じるニュースではありますが、自己判断で薬を中止するのではなく、症状の有無、血液検査の結果、血管炎の活動性、代替治療の選択肢を含めて、担当医と一緒に方針を確認することが重要です。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。