2015.08.19 | コラム

「人食いバクテリア」とは?医師が解説する症状・予防・感染対策まとめ

致死率は30-60%、年齢や健康状態によらず感染あり

from 緊急特集

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人食いバクテリアの患者数が、過去最高となっています。2014年は丸1年で273人だったのに対して、2015年は8月途中の時点で既に279人の報告があり、これは過去最多です。「人食いバクテリア」とは、何者なのでしょうか。どうやって対応すれば良いのでしょうか。

人食いバクテリアと呼ばれる菌には、本来いくつかの種類があります。最も有名なのは「A群溶血性レンサ球菌(以下、溶連菌)」という菌で、過去最高の患者数が報告されているのは、この菌によるものです。

皮膚や筋肉などに感染すると、細胞が死んでしまい真っ黒になるため、あたかもバクテリアに「食べられた」かのような印象があるためそう名付けられたのでしょう。海外でも "flesh-eating(生身を喰らう)" と呼ばれており、決して日本だけで流行している病気ではありません。

 

さも恐ろしい菌であるかのように報道されていますが、溶連菌は年中そこらに存在している一般的な菌です。のど風邪だと思っていたら、実はこの菌に感染していた(そして勝手に治った)ということも珍しくありません。皮膚の常在菌(=常に在る菌)と呼ばれる仲間でもあり、特に病気を引き起こすことなく、普通の人の皮膚に住み着いている菌でもあります。

普段は重症化しないこの菌が、一部の場合に重症化してしまうのがいわゆる人食いバクテリア感染症何らかの病原体が引き起こす病気。細菌、ウイルス、真菌などが原因となることが多い。人から人へ直接うつらないものも含めた総称だと言えます。何がきっかけで重症化するのかは未だ分かっていません。

病名としては、壊死性軟部組織感染症というものに含まれる感染症になります。

 

溶連菌は、のど風邪の原因になることもありますが、いわゆる「人食い(皮膚や筋肉が壊死ある部位の細胞が死んでしまうこと。多くの場合、血管が詰まったり、つぶれたりして、血液が流れなくなってしまうことが原因となるする)」のような症状が出るのは、手足が最も多いです。強い痛みとともに赤く熱を持ってきてから、水ぶくれができて皮膚が黒く壊死(細胞が死ぬこと)してしまうまでは、1日から2日ということもあります。

他には発熱や嘔吐、下痢、血尿尿に血液成分が混じった状態。尿の通り道に病気があると起こる。血尿といっても真っ赤とは限らず、見た目は普通で、検査をしないと血尿であることが分からない場合も多い、意識がもうろうとするなど、進行すると様々な症状が出る病気です。

 

ひっかいた、物が刺さった、やけど、虫さされなどで、皮膚にできた傷が原因となることが多いです。免疫病原体に対する体の防御システム。何かのきっかけで、免疫が過剰反応している状態がアレルギーで、免疫が自分自身の体を攻撃してしまうのが自己免疫疾患力が低下していると感染が起きやすいですが、そうでなくとも発症症状や病気が発生する、または発生し始めることすることが知られています。また皮膚表面の傷だけでなく、青あざや捻挫関節が急激に捻られたり伸ばされたりすることで、関節のまわりの組織(靭帯や関節の膜など)がダメージを受けた状態など、傷のない外傷でも発症することが報告されています。

特に注意すべきなのは、以下に該当する方々です

  • 免疫力が落ちる病気がある:糖尿病肝硬変慢性腎臓病がん無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがあるなど
  • 免疫抑制薬を服薬している
  • アルコールの摂取量が多い
  • ウイルス様々な病気の原因となる病原体の一つ。細菌とは別物であり、抗菌薬は無効である感染症にかかっている:インフルエンザ水ぼうそうなど
  • 妊娠中、あるいは出産直後である

溶連菌自体がどこにでもいる菌であり、この病気が人から人へ伝染することは原則的にありません

 

残念ながら、現時点で人食いバクテリア感染症を予防できる明らかな方法は見つかっていません。一般的な対応として、皮膚に傷ができた際に気をつけるべきことには以下のようなものがあります。

  • 傷はすぐに、シャワーなどでしっかりと洗う
  • 傷があるうちはプールや温泉、海を避ける(菌が入ってくることを避けるため)
  • 傷に触れる可能性のある手や指先は、なるべく清潔に保つ
  • 皮膚の消毒が人食いバクテリア感染症を予防するかは不明(効果がある可能性と、逆効果の可能性が両方ある)

効果のはっきりとした予防法がない以上、現実的な対応としては、以下のような場合に医療機関受診を遅らせないことが重要と考えられます。

  • 我慢ができないような患部の強い痛みがある
  • 患部の赤みや腫れに加えて、高熱や強いだるさなどの症状がある
  • 患部が赤くなった後に赤紫〜黒みを帯びてきた水ぶくれができた
    • ただし、この時点では対応が遅れていると考えられます
  • 糖尿病など、上に挙げた注意すべき点に当てはまる

これらの症状がある場合には、人食いバクテリア以外のものによる可能性もありますが、いずれにせよ病院を受診して治療を受けるべきと考えられます。

 

人食いバクテリア感染症は「通常流行しない病気である」とする一部の研究報告があります。またインフルエンザウイルスのどや気管、気管支、肺などに感染し、発熱や咳、鼻水などの症状を起こすウイルスなどと異なり、人から人へ感染が広がるものでもありません。

それではなぜ近年患者数が増えているのでしょうか。

考えられる一つの可能性としては、医療者の中でこの病気の認知度が上がってきたために、正しい診断がつくようになったということが挙げられます。また、この感染症は5類感染症と言って、診断をした医師は1週間以内に保健所に届け出をしなければならない特殊な感染症です。人食いバクテリア感染症の重要性が社会的に認識されてきたために、忙しさもあってそれまで届け出を行う医師の割合が低かったのが、正しく届け出が行われるようになったと考えることもできます。このように、実際に患者数が増えたわけではないという可能性もあります。

一方では、様々な未知の理由によって溶連菌や感染者が本当に増えている可能性も確かにあり、この点については今後の報告を待つ必要があります。

 

人食いバクテリア感染症(壊死性軟部組織感染症)治療の原則は、手術です。菌が繁殖して壊死(細胞が死ぬこと)してしまった体の一部は、手術で取り除く以外の治療法がありません。抗生物質微生物が産生する細胞の増殖や機能を阻害する物質。抗菌薬・抗ウィルス薬・抗がん薬を含むは助けにはなりますが、手術を行わずに薬だけで治そうとして、手遅れになって命を落としてしまうような場合もあります。菌が全身に広がって、腎臓、肝臓、脳と様々な臓器を障害してしまうためです。

報告によって致死率は30-60%と言われているこの病気ですが、例えば太ももに感染が広がってしまった場合、残念ながら、太ももから下を全て切り落としてしまわないと救命ができない場合があります。この病気は「感染部位が手足の場合の方が救命率が高い」と言われていますが、お腹や背中に感染した場合には手術で患部を切り離せないことも理由の一つです。

それほど重篤な、他にあまり類を見ないような感染症だと言えます。

 

最後になりますが、人食いバクテリアの症状や治療法など、より詳しい情報をまとめたこちらのページもご覧ください。

壊死性軟部組織感染症の症状・原因・治療

http://medley.life/diseases/item/55d3aea30003dee31ad3f70d

執筆者

沖山 翔

*本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。 [執筆者一覧]