2015.09.20 | ニュース

抗生物質無効の「人食いバクテリア」から33歳男性を救った治療とは?

起炎菌が同定されず、ヒドロコルチゾンとIVIGが奏功した症例
from Annals of medicine and surgery (2012)
抗生物質無効の「人食いバクテリア」から33歳男性を救った治療とは?の写真
(C) ix4U - Fotolia.com

A群溶連菌などの感染によって起こる壊死性軟部組織感染症は、30%以上が死に至るとも言われ、「人食いバクテリア」という俗称で恐れられています。通常有効とされる抗菌薬に反応がなく、ほかの治療で退院できた患者の例を紹介します。

◆小さい傷から悪化

この33歳男性は、スキー旅行中に左足に小さい傷ができ、悪化したため病院で抗菌薬を処方されましたが、さらに悪化が進み入院しました。損傷がひどい部分を取り除く手術(デブリードマン)と、複数の抗菌薬による治療でも悪化が止まらず、大学病院に移送されました。

両側のわきの下と足の付け根に強い腫れと痛みがありました。白血球が23,100/μl、CRPが298.8mg/dlというきわめて強い炎症反応が見られました。大学病院でもデブリードマンと抗菌薬の治療が行われましたが病状は治まらず、また培養などの検査でも病原体を特定できませんでした

 

◆ステロイド+IVIGで退院へ

大学病院の入院後5日目に、ステロイド薬の一種であるヒドロコルチゾンと、免疫グロブリン大量療法(IVIG)が開始されました。これらは細菌などの感染症ではいつも使われる治療ではありませんが、壊死性軟部組織感染症に対して過去にIVIGが使われた報告があります。

IVIG開始から状態が改善し、デブリードマンが行われた場所を皮膚で覆う手術が行われ、入院後48日目に退院しました。

 

IVIGは、人間の血液から取り出した抗体(免疫グロブリン)を薬として静脈注射する治療法です。ステロイド薬とIVIGは、免疫の異常が起こる病気に対して使われることがあります。

この報告の著者らは、ステロイド薬とIVIGがどのようなしくみで効果を示したのかについて考察し、「過去の研究の報告によれば、IVIGは細菌のオプソニン化を促し、スーパー抗体や毒素を中和することによって血清による殺菌作用を強化する」という説、「壊死性軟部組織感染症の治療においてIVIGを使うことで、ブドウ球菌およびレンサ球菌の感染によって作り出される外毒素に結合し、そのことによって全身の炎症反応を制限することが示唆されている」という説などに触れています。

 

壊死性軟部組織感染症はまれな病気で、人から人に伝染することは通常はないと言われています。病原体として代表的なA群溶連菌はどこにでもいる細菌で、普通は重い病気を起こすことはありません。激しい病気が起こる原因や予防法は知られていません。

この1例の報告から壊死性軟部組織感染症に対するIVIGの効果が確かめられたとは言えませんが、病態や治療法の研究をさらに進めるうえで、ここから何かの手がかりが得られるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Intravenous immunoglobulin in necrotizing fasciitis - A case report and review of recent literature.

Ann Med Surg (Lond). 2015 Aug 1

[PMID: 26288730]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。