てんかんの基礎知識
POINT てんかんとは
脳の異常な電気的な興奮のために起こる病気です。乳幼児をはじめとして若年での発症が比較的多いですが、高齢者でも腫瘍や脳卒中の合併症として起こることもあります。 診断を確定するために脳波検査などが行われます。治療には薬物療法(抗てんかん薬・ACTH療法・ステロイドパルス療法など)や手術があります。発作のタイプによって、適した治療法が選ばれます。突然意識を失う・口をもぐもぐさせる・全身が痙攣するなどが主な症状なので、当てはまる人は医療機関にかかってください。お子さんであれば小児科クリニック、そうでなければ一般内科・神経内科・脳神経外科にかかることをおすすめします。
てんかんについて
- 脳機能障害のために、
発作 性に行動変化(てんかん発作)を繰り返すもの- 一つの疾患や症候群ではなく、様々な原因により様々な
症状 がでる - 一時的にけいれん発作を起こすような原因(電解質異常や脳炎など)がなく、てんかん発作を2回以上繰り返すものをてんかんと考える
- 脳の神経細胞の興奮の異常とネットワークの異常による
- 一つの疾患や症候群ではなく、様々な原因により様々な
- 大きく下記の二つに分類される
- 乳幼児をはじめとして若年での
発症 が比較的多い- 小児ではWest症候群やDravet症候群など何らかの症候群に分類可能なことが多く、症候群によりてんかん発作の型や発作の頻度、知的発達の
予後 などは大きく異なる - 高所やプールでは一人にしないなどの注意が必要
- 日常生活や運動面での制限は医師と相談のうえ、必要最低限とする
- 小児ではWest症候群やDravet症候群など何らかの症候群に分類可能なことが多く、症候群によりてんかん発作の型や発作の頻度、知的発達の
- 高齢者では
腫瘍 や脳卒中が原因で起こる場合が多い(高齢者てんかん) - てんかんそのものが命に関わることは非常にまれ
- 日本全体では100万人以上の患者がいて、最も頻度が高い神経疾患の一つ
- およそ100人に1人の割合
- 睡眠不足や疲労、発熱などによりてんかん発作が誘発されやすくなるので、注意が必要
- 予防接種や運転免許証所得、妊娠などは一定の基準を満たせば可能であり、医師との相談が重要
てんかんの症状
- てんかん
発作 の型は次の2つで種類が区別される- 身体の一部分か全身か
- 意識を失うか失わないか
- よくある
症状 は以下の通り- 口がもごもご動く
- おかしな匂いや音を感じる
- 目の前がちかちかする
- 突然意味をなさない言葉を話す(言語自動症)
- 目が一方に寄る
- 意識を失う
- 全身がこわばる
- 手足や顔面の筋肉がぴくぴく動く
- 手足をがくがくさせる
- 脱力する など
- 上記は組み合わさって起こることもある
- 突然症状が起きる場合と、何かしらの違和感などを感じた後に症状が起きる場合がある
てんかんの検査・診断
症状 をもとに診断する脳波検査 は診断に必須ではないが、非常に参考になる
- 症状が典型的ではない場合、診断が難しいこともある
- 脳波検査:脳の異常な電気信号の有無を調べる
- 脳波異常と同時にてんかん
発作 が確認できると、より確実な診断に至る - 通常は30分程度の短時間の検査であるが、入院で長時間検査をすることもある(ビデオ脳波)
- てんかん発作がない時にも脳波異常がみられることがある
- 脳波異常と同時にてんかん
- 血液検査、尿検査:てんかん発作を起こす原因の有無を調べる
- 特に小児期の
発症 では、代謝 異常の評価も重要 - 薬物治療は長期間必要となるため、事前に肝機能や
腎機能 も調べる
- 特に小児期の
- 画像検査:脳腫瘍の有無や脳の血流などを調べる
頭部CT検査 頭部MRI 検査- 脳
SPECT検査 など
- 場合によっては
染色体 検査や遺伝子検査などを行うこともある
てんかんの治療法
- 薬物治療:最も一般的な治療
- 抗てんかん薬:てんかん
発作 を抑える飲み薬 症状 や症候群により有効な薬の種類は異なる- 何種類かの薬を組み合わせて使用することもある
- 抗てんかん薬:てんかん
- 手術:てんかんの手術が行われることがある
- 焦点切除術:てんかんが発生する脳の部位(焦点)を切り取る手術
- 焦点を完全に切除できれば発作の抑制が期待できる
- 遮断手術:発作が伝わる経路を断ち切る手術
- 左右の大脳半球を連絡する脳梁を離断する(脳梁離断術)ことにより、発作を緩和させる
- 迷走神経刺激療法:左胸部に小型の神経刺激装置を植え込む
- 一定の間隔で神経を刺激することにより発作を緩和させる
- 焦点切除術:てんかんが発生する脳の部位(焦点)を切り取る手術
- その他に発作型によっては
ACTH 療法やステロイドパルス 療法が行われる - てんかん発作を繰り返すと脳にダメージを及ぼすことがあるので、可能な限り早期からてんかん発作を抑える治療を開始することが重要
- 適切な治療が行われれば、70-80%の人では発作のコントロール可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を営んでいる
- 20%ほどの人は薬で発作の頻度を十分に減らすことができず、そういった状態は難治性てんかんと呼ばれる
- 難治性てんかんに対してはケトン食やアトキンス食が有効なこともある
てんかんに関連する治療薬
バルプロ酸ナトリウム製剤
- 脳内のGABA(γ-アミノ酪酸)の神経伝達促進作用などにより、脳内の神経興奮の抑制作用などをあらわし、てんかん、片頭痛、躁病などの改善作用をあらわす薬
- てんかん、片頭痛、躁病などは脳内神経の異常な興奮などによっておこるとされる
- 脳内神経伝達物質のGABAは神経興奮の抑制系物質として脳内で作用する
- 本剤は脳内の神経興奮抑制系の賦活作用などをあらわす
カルバマゼピン製剤
- 脳内神経の過剰な興奮を抑えることで、てんかん、躁状態などを改善する薬
- てんかん、躁病などは脳内神経の異常な興奮などによっておこるとされる
- 脳内で神経細胞への興奮性シグナルとしてナトリウム(Na)イオンなどがある
- 本剤はNaイオンの通り道であるNaチャネルを阻害し、神経細胞の興奮を抑える作用をあらわす
- てんかん、躁病の他、三叉神経痛などの神経性疼痛の改善などで使用する場合もある
ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬
- 脳内のベンゾジアゼピン(BZD)受容体に作用し神経の興奮を抑制させ、痙攣(けいれん)などの症状を抑える薬
- てんかんは脳内神経の異常な興奮などによっておこるとされる
- 脳内でBZD受容体が活性化されると、抑制性の神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の作用が亢進する
- 本剤はBZD受容体に作動薬として結合し、GABAによる抑制性神経伝達を亢進する作用などをあらわす
- てんかん治療のほか、片頭痛発作発症の抑制や自律神経発作などで使用する薬剤もある
てんかんの経過と病院探しのポイント
てんかんが心配な方
てんかんは、突然意識を失ったり、口をもぐもぐさせたり、全身が痙攣したりといったような様々な症状を引き起こす病気です。上記のような症状に該当してご心配な方は、お子さんであれば小児科のクリニック、そうでなければ一般内科や、神経内科、脳神経外科をまず受診されることをお勧めします。てんかん外来を掲げているような専門クリニック、病院もあります。
てんかんを主に診療する専門医は神経内科専門医、精神専門医、小児科専門医、脳神経外科専門医ですが、これらの専門医の中でも、小児科専門医は子供の時に発症したてんかんの患者さんを長く診ていたり、脳神経外科専門医は脳卒中や脳腫瘍、脳外科手術を原因としたてんかんを多く診ています。
てんかんの診断は脳波で行います。脳卒中や脳腫瘍が原因でてんかんが起こることもあるため、てんかんの原因を調べる上で頭のCTやMRIが必要です。
てんかんでお困りの方
基本的には薬物療法が行われます。てんかんの薬は近年進歩がめざましく、次々と新薬が出ています。新薬だから効き目が強いというわけではないのですが、病態によって有効な薬が異なります。病態に合わせて適切な薬を選べる医師が望ましいです。また薬物治療でコントロール出来ない場合、手術をすることもあります。脳神経外科専門医の中に、数は少ないですがてんかんの手術を専門に行っている脳神経外科医がいます。手術も希望される場合、主治医に相談するのも良いかと思います。
てんかんの治療は、少なくとも年単位の治療が必要で、生涯に渡って治療が必要な方も多いです。またてんかんは仕事や日常生活(車の運転等)にも大きく関わってくるので、主治医との相性、医療機関への通院のしやすさが大切です。
薬物治療でてんかん発作がコントロール出来ている場合、家の近くの神経内科、精神科、小児科、脳神経外科あるいは内科のクリニックで薬の処方を継続することが出来ます。