しんきんこうそく
心筋梗塞
心臓の筋肉に酸素を送る血管(冠動脈)が詰まってしまい、組織が壊死すること。突然死の原因になる
33人の医師がチェック 366回の改訂 最終更新: 2021.02.22

心筋梗塞とはどんな病気なのか?原因、検査、治療など

心筋梗塞は死亡することもある危険な病気ですが、できるだけ早く治療すると良いことが分かっていますので、心筋梗塞について詳しくなることが大切です。

ここでは心筋梗塞の症状や検査、治療法、注意点などを説明します。

1. 心筋梗塞ではどんなことが起こっている?

心臓は全身に栄養や酸素を含んだ血液を送ります。そのため心臓は一定のリズムで半永久的に動く必要があります。心臓が動くために必要な栄養と酸素を配る血管を冠動脈と言います。冠動脈は右に1本(右冠動脈)と左に2本(左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝)存在します。この3本の動脈は左心室からつながる上行大動脈から枝分かれして、心臓の外側を取り巻いています。

【心臓と冠動脈の図】

図:3本の冠動脈が心臓の外側を取り巻いている。

冠動脈が細くなったり詰まったりすると、心臓への栄養や酸素が足りなくなります。このような病気を冠動脈疾患(虚血性心疾患)と言います。冠動脈疾患は「心筋梗塞」と「狭心症」の2つに大別できます。

心筋梗塞も狭心症も知っておくべき病気です。死ぬこともある病気ですので症状が出たら素早く医療機関にかからなければなりませんし、予防法についても詳しくなっておいたほうが有利です。また、心筋梗塞と狭心症は似ている病気なのですが、異なる点もあります。

次の段落でどういった違いがあるのかを説明します。

心筋梗塞と狭心症はどう違うのか?

簡単に言うと、狭心症冠動脈が狭くなって心臓が必要な栄養や酸素をもらえなくなった状態のことです。一方で、心筋梗塞は冠動脈が閉塞して血流が途絶えることで心臓の一部に栄養や酸素が全く届かなくなる状態です。心筋梗塞では心筋の細胞が死んでしまった状態(壊死)になります。この状態になると二度と心筋の働きは戻りません。

冠動脈疾患の多くは、アテローム動脈硬化という高コレステロール血症(脂質異常症)や高血圧症などによって徐々に狭くなる変化によって起こります。冠動脈が多少狭くなっても心臓が必要とする酸素と栄養は問題なく到達します。しかし、さらに冠動脈が狭くなって血流が悪くなると、段々と心臓の必要量に足りなくなり胸痛などの症状が出現するようになります。

まとめると、次のような成り立ちで冠動脈疾患は起こります。ポイントは心臓が必要とする血液量と冠動脈が心臓に配給する血液量のバランスです。

  1. アテローム性動脈硬化の影響を受けて冠動脈が細くなっているが、運動時にも特に症状は見られない
    • 冠動脈の血液量>運動に心臓が必要とする血液量>安静時に心臓が必要とする血液量
  2. 冠動脈がさらに細くなって、安静にしていると症状はないが動くと症状が見られる(労作性狭心症
    • 運動時に心臓が必要とする血液量>冠動脈の血液量>安静時に心臓が必要とする血液量
  3. 冠動脈が極めて細くなることで、安静時にも症状が見られるようになる(不安定狭心症
    • 運動時に心臓が必要とする血液量>安静時に心臓が必要とする血液量>冠動脈の血液量
  4. 完全に冠動脈が閉塞することで一部の心筋が壊死する(心筋梗塞)
    • 運動時に心臓が必要とする血液量>安静時に心臓が必要とする血液量>>>冠動脈の血液量

言葉では分かりにくいので簡単な概念図を下に示します。

図:心臓が必要とする血液量を冠動脈の血液量が下回ることで狭心症や心筋梗塞が起こる。

細かく考えると、運動によって心臓に必要な栄養と酸素が増えますが、心臓が送り出す血液量が増えるので、冠動脈の血流も増えています。そのため上のイメージ図は身体の状態によって少しゆらぎがありますので、あくまで簡略化したものと考えて下さい。一方で、虚血性心疾患では「心臓が必要としている血流量」と「冠動脈の血流量」のバランスを考えることが大事です。

血管がどんどん狭くなることで症状がない間もだんだんと血管が狭くなっていき、バランスが崩れたところで狭心症が起こり、完全に冠動脈の血流が途絶えたら心筋の壊死(心筋梗塞)が起こります。つまり、心筋梗塞は狭心症が更に悪くなった状態と考えられます。もちろん、どこかから血栓などが飛んできて突然冠動脈が詰まることがありますので、狭心症の状態を飛ばしていきなり心筋梗塞となることはありますが、冠動脈疾患のほとんどは段々と狭くなるパターンです。

心筋梗塞と狭心症は成り立ちは一緒ですが状態が異なります。相違点に関しては次の表を参考にして下さい。

【心筋梗塞と狭心症の相違点】

 

狭心症

心筋梗塞

冠動脈の状態

狭くはなっているが閉塞はしていない

完全に閉塞している

症状の内容

胸痛を中心に、肩の痛みや吐き気など

胸痛を中心に、肩の痛みや吐き気などがあり、重症感が強い

症状の持続時間

長くても10分程度のことが多い

30分以上続くことが多い

胸痛発作時の薬(ニトロ製剤)の効果

効く

効かない

緊急度

安静時に症状が起こる場合には緊急事態なので医療機関を受診する

命にかかわる緊急事態

心臓の回復の見込み

血流量が回復すると心臓の機能は回復する

壊死してしまった心臓の細胞は回復しない(冬眠細胞と呼ばれる細胞が一部に存在する場合には、血流の再開で復活することがある)

心筋梗塞は命にかかわる緊急事態です。また、狭心症の中でも安静にしていても起こるタイプ(不安定狭心症)もいつ心筋梗塞になってもおかしくない状態です。これらが疑われるような症状(長時間続く胸痛、安静にしても起こる胸痛など)がある場合には、必ず医療機関にかかって調べてもらって下さい。

なお、このページでは主に心筋梗塞について詳しく説明します。狭心症についてもっと詳しく知りたい方はこちらを参考にして下さい。

2. 心筋梗塞になると起こりやすい症状:胸痛、肩こり、息切れなど

心筋梗塞の症状と言えば胸痛が思い浮かぶ人も多いでしょう。実際に心筋梗塞で胸痛を感じる人も少なくありません。一方で、心筋梗塞では胸痛以外にもさまざまな症状が出現します。肩の痛みや歯の痛み、時にはふらふらして意識朦朧となることもあります。次の段落からは心筋梗塞の際に起こりやすい症状について説明します。

胸が痛い・胸が締め付けられる

心筋梗塞では胸痛が起こることが多いです。胸痛の性状は、強く締め付けられるような痛みやぎゅっと圧迫されるような痛みが多いです。

一方で、胸が痛くなる病気は心筋梗塞の他にもたくさんあります。その一例を次に示します。

これらは痛みの出方が異なることが多いですが、症状が出始めたころに原因となっている病気を特定することは難しいです。そのため、問診・身体診察・検査などの情報から原因が総合的に判断されます。胸の痛みの出る病気に関しては他のページで説明していますので参考にしてください。

肩や腕が痛い

心筋梗塞で肩や腕が痛くなることはしばしば起こります。心筋梗塞の胸痛が肩や腕に放散した形で痛み(放散痛)が起こります。心臓は身体の中心よりもやや左側にありますが、左右どちらの肩や腕に放散することもあります。

心筋梗塞と放散痛の関連を見たデータがあるので紹介します。

【心筋梗塞と腕や肩の痛みの関連】

痛みの場所

陽性尤度比

右側の腕や肩

4.7

両腕や両側の肩

4.1

左側の腕

2.3

ここで陽性尤度比という難しい言葉が出てきています。この陽性尤度比というのは確率の計算の際に重要なものですが、シンプルには1以上であればより疑わしくなると考えます。また、数字が大きければ大きいほどもっと疑わしくなります。

心臓は左にあるから右肩や右腕の痛みは大丈夫と考えるのは早計です。原因不明の痛みが肩や腕にある場合には、一度医療機関を受診して調べてもらった方が良いかもしれません。

【参考】

Value and Limitations of Chest Pain History in the Evaluation of Patients With Suspected Acute Coronary Syndromes

JAMA 2005 ; 294: 2623-9

歯が痛い

上で述べた肩や腕の痛みと同じく、歯に痛みが走ることがあります。胸痛のない心筋梗塞はありえますので、なんだか奥歯が痛いなと思ったのに歯医者で異常がないと言われた人は要注意です。実は心筋梗塞が隠れているということもありますので、歯痛が治らなかったり繰り返されたりする場合には、歯以外に原因がないかを調べるようにして下さい。

気持ちが悪い

心筋梗塞で気持ち悪くなったり吐いてしまったりすることがあります。なんだかよくわからないけれど気持ち悪いという状況は要注意です。

【心筋梗塞と吐き気や嘔吐の関連】

 

陽性尤度比

吐き気や嘔吐あり

1.9

ここで陽性尤度比が1.9ではどの程度疑わしくなるかを考えると、仮に50%くらい心筋梗塞が疑わしい状況で吐き気が出てきた場合には66%くらい心筋梗塞が疑わしくなります。また、25%心筋梗塞が疑わしい状況で吐き気が出てきた場合には39%くらい心筋梗塞が疑わしくなります。

吐き気の心筋梗塞に対する陽性尤度比の数字は1を超えてはいますが決して大きくないため、吐き気が出てきたら心筋梗塞が極めて疑わしいとはなりません。急性胃腸炎でも逆流性食道炎などの他の病気でも吐き気や嘔吐は起こるため、下痢や腹痛などの他の症状があるかどうかや持病があるかどうかなどを確認することもポイントです。吐き気に下痢が加わっているような状態では心筋梗塞よりも急性胃腸炎のほうが疑わしくなります。

【参考】

Value and Limitations of Chest Pain History in the Evaluation of Patients With Suspected Acute Coronary Syndromes

JAMA 2005 ; 294: 2623-9

だるい

心筋梗塞によって心機能が低下すると心不全になり、全身にだるさを覚えることがあります。心筋梗塞でだるさを感じた場合には心不全に至っている可能性があります。(心不全の症状に関してもっと詳しく知りたい人は「心不全の症状について」を参考にして下さい。)

また、腕や肩にだるさを覚えることがあります。実際に腕や肩に異常が出ているわけではありませんが、放散痛のような形でだるさを感じると考えられます。

冷や汗が出る

汗は自律神経によって調節されていますが、自律神経の中でも副交感神経が刺激されると発汗が促進されます。心筋梗塞によって自律神経のバランスが乱された場合には、冷や汗が出ることがあります。また、心筋梗塞による胸の痛みによって汗が出る場合を冷や汗が出ると表現する人もいます。

息が切れる

息切れは多くの病気で起こります。例えば、喘息COPDのように肺の病気で息切れが起こることもあれば、過換気症候群のように精神的な病気でも息切れを感じます。

心筋梗塞に伴う強い胸痛を覚えると、息苦しさを感じて息が乱れます。すると息が切れるような感覚になります。また、心筋梗塞で心臓の筋肉が壊死すると心臓の動きが悪くなって心不全になることがあります。心不全になると、肺や全身に血液がうまくめぐらなくなって酸欠になることで息切れを感じます。(別ページに心不全の息切れに関する詳しい説明があるので参考にしてください。)

ふらつき

心筋梗塞でふらつきを覚えるパターンは大きく分けて2つあります。胸痛によって自律神経が乱れることでふらつきを覚えるパターンと心不全が起こり血圧が低下することによってふらつきが起こるパターンです。特に後者は息切れを伴うことが多く、命に関わる状態です。息切れと一緒にふらつきを覚えた場合には必ず医療機関にかかってください。

意識障害(意識もうろう)

心筋梗塞で意識がもうろうとする場合は急を要します。心機能が低下して脳への血流が減ってしまっていることが疑われれます。救急車を呼んでいい状況ですので、できるだけ早く医療機関を受診してください。

3. 心筋梗塞の原因にはどんなものがある?

冠動脈は2mm前後の太さで、絶えず安定して血液が流れています。冠動脈が詰まると心臓が機能的に動けなくなるため、冠動脈は簡単にはつまらないようにできています。それでも詰まることがあります。その原因には大きく3つが考えられます。

  • 動脈硬化
  • 塞栓

これらはどういったことが起こっているのかについてもう少し詳しく説明します。なお、冠動脈のけいれん(冠攣縮)が冠動脈を狭くすることがありますが、これは心筋梗塞というよりは狭心症の原因に多いのでここでは詳しく説明しません。

心筋梗塞の原因:動脈硬化

動脈硬化とはその名の通り動脈が硬くなることを指します。多くの場合には粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)という変化を辿ります。粥状動脈硬化は、血管の内膜にコレステロール(プラーク)が蓄積して、それが変性することで動脈が硬くなっていきます。動脈が硬くなると同時に血管の壁は厚くなるため、血管腔(血管の内側を血液が流れる部分)は狭くなっていきます。

血管の内膜に炎症が起こったりコレステロールが蓄積した部分が破綻したりすると、血栓ができることがあります。動脈硬化によって血管腔が狭くなった部分に血栓ができると血液が完全に途絶えることがあります。

冠動脈ではこうした動脈硬化による変化によって、内腔が詰まって血流が途絶えてしまうことがあります。心筋梗塞のほとんどがこの動脈硬化によるものです。

心筋梗塞の原因:塞栓症

血栓や脂肪や細菌のかたまり、腫瘍などが血流に乗って細い血管に到達して血管をつまらせることを塞栓症と言います。塞栓症が原因となって心筋梗塞が起こることは多くありませんが、心臓の中に血栓や細菌の塊(感染性心内膜炎など)、腫瘍(左房粘液腫など)が見られているときには注意しなくてはなりません。

また、動脈硬化が見られている部位にできた血栓が血流に乗って、より下流の細い血管に詰まることで心筋梗塞が起こることもあります。

4. 心筋梗塞を起こしやすくなるものに気をつけよう

生活習慣や持病などで心筋梗塞が起こりやすくなることがあるため、危険なのかについて知っておくことが大切です。

この章では心筋梗塞の危険性を高めるものについて説明します。

喫煙は心筋梗塞の原因になるか?

喫煙は心筋梗塞の危険性を高めます。これはタバコを吸うことでニコチンや一酸化炭素が動脈硬化を引き起こすからと考えられています。

男女別に喫煙によってどのくらい心筋梗塞になりやすくなるかについてのデータがあるので、以下の表にまとめます。

【喫煙による心筋梗塞への影響①】

 

男性

女性

非喫煙者に対する喫煙者の心筋梗塞になりやすさ

3.64倍

2.90倍

他にも同じような報告があります。

【喫煙による心筋梗塞への影響②】

 

男性

女性

非喫煙者に対する喫煙者の心筋梗塞になりやすさ

3.39倍

8.22倍

特に女性の影響に関しては数字にばらつきがありますが、いずれの報告でも喫煙の心筋梗塞への影響は大きいです。そのため心筋梗塞を予防したい場合には禁煙することがとても大切です。最近の禁煙外来は薬物療法も非薬物療法も充実しているため、禁煙したいと考えている人は一度相談に医療機関を受診することをおすすめします。

【参考】

Cigarette smoking and risk of coronary heart disease incidence among middle-aged Japanese men and women: the JPHC Study Cohort I.

Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2006 Apr;13(2):207-13

高血圧症は心筋梗塞の原因になるか?

高血圧の状態が持続すると動脈硬化を引き起こすことが分かっています。そのため高血圧症は心筋梗塞の危険性を高めると考えられています。

高血圧症がある人は高血圧症のない人に比べて、どのくらい心筋梗塞になりやすいのかを調べたデータがあるので以下に示します。

【高血圧による心筋梗塞への影響】

 

男性

女性

非高血圧患者に対する高血圧患者の心筋梗塞になりやすさ

4.80倍

5.04倍

このデータを見る限りでも高血圧症を放置しておくと心筋梗塞になりやすいことがわかります。降圧目標をどのくらいにするのかに関しては、年齢や持病の有無によっても少し異なります。

【血圧の目標】

 

医療機関での測定

自宅での測定

持病のない人(74歳以下)

140/90mmHg未満

135/85mmHg未満

持病のない人(75歳以上)

150/90mmHg未満

145/85mmHg未満

糖尿病患者

130/80mmHg未満

125/75mmHg未満

慢性腎臓病患者

130/80mmHg未満

125/75mmHg未満

脳血管障害患者

140/90mmHg未満

135/85mmHg未満

冠動脈疾患患者

140/90mmHg未満

135/85mmHg未満

これらは絶対的な数字ではありませんが、一つの目安として下さい。血圧は薬物療法・食事療法・運動療法を適切に行うことで下がります。一方で、血圧を下げれば下げるほど良いというわけではありません。一体どのくらいが自分に適しているのかについて詳しく知りたい人は、主治医や産業医などに相談してみて下さい。

【参考】

高血圧治療ガイドライン2014

Sex Differences of Risk Factors for Acute Myocardial Infarction in Japanese Patients

Circ J 2006; 70: 513-17

脂質異常症(高コレステロール血症)は心筋梗塞の原因になるか?

脂質異常症とは身体の中のコレステロールのバランスが乱れる状態のことを指します。具体的には次のことです。

  • LDLコレステロールが高値:140mg/dL以上
  • 中性脂肪が高値:150mg/dL以上
  • HDLコレステロールが低値:40mg/dL未満

脂質異常症は動脈硬化を引き起こします。心筋梗塞は動脈硬化によって起こりますので、脂質異常症がある場合にはそのままにておくことはおすすめできません。脂質異常症がある人は脂質異常症のない人に対して1.28倍心筋梗塞になりやすいというデータがあります。

【参考】

虚血性心疾患の一次予防ガイドライン2012

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017

Sex Differences of Risk Factors for Acute Myocardial Infarction in Japanese Patients

Circ J 2006; 70: 513-17

糖尿病は心筋梗塞の原因になるか?

糖尿病では血糖値が上がります。血糖値が高いとコレステロールを中心に構成されるリポ蛋白が変性しやすくなります。変性したリポ蛋白は血管の内膜にプラークを作るため、糖尿病が動脈硬化を引き起こすことが分かっています。そのため、糖尿病があると心筋梗塞になりやすくなります。糖尿病がある人は糖尿病のない人に比べて、どのくらい心筋梗塞になりやすいのかを調べたデータがあるので以下に示します。

糖尿病と心筋梗塞への影響】

 

男性

女性

糖尿病患者に対する糖尿病患者の心筋梗塞になりやすさ

2.90倍

6.12倍

特にHbA1cが8.0%を超える人や過去に虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)を罹患したことがある人は心筋梗塞になりやすいため、血糖値を正常化することが大切です。

【参考】

虚血性心疾患の一次予防ガイドライン2012

Sex Differences of Risk Factors for Acute Myocardial Infarction in Japanese Patients

Circ J 2006; 70: 513-17

高尿酸血症は心筋梗塞の原因になるか?

高尿酸血症は血液中の尿酸値が7.0mg/dL以上になる状態で、この状態が続くと足の指関節などが痛くなる痛風になります。

高尿酸血症は心筋梗塞の危険性を上昇させると考えられています。一方で、心筋梗塞の原因になるとは言い切れないという意見もあります。高尿酸血症痛風の治療ガイドラインでは、「血清尿酸値は将来における高血圧発症の独立した予測因子と捉えることが可能である。」としており、高血圧症が関与して結果的に心筋梗塞になりやすくなることが考えられます。高尿酸血症がある場合は、生活習慣を改善して尿酸値を正常化することは、メタボリックシンドローム(腹部肥満、高血圧、耐糖能異常、脂質異常症)の改善にも効果を発揮するため、心筋梗塞の予防につながると考えられます。

【参考】

高尿酸血症痛風の治療ガイドライン 第2版

Sex Differences of Risk Factors for Acute Myocardial Infarction in Japanese Patients

Circ J 2006; 70: 513-17

ストレスは心筋梗塞の原因になるか?

ストレスが心筋梗塞の危険性を高めると考えられています。特に仕事上のストレスは健康状態に関与することが多いので、職場で心身にストレスを感じる人は働き方を見直す必要があります。場合によっては産業医に相談すると良いかもしれません。

また、適度な運動を行うこともとても大切です。適度に身体を動かすことで、心筋梗塞の予防効果が期待できます。

【参考】

虚血性心疾患の一次予防ガイドライン2012

Job Strain and Risk of Acute Recurrent Coronary Heart Disease Events

JAMA. 2007;298(14):1652-60

Physical Activity and Reduced Risk of Cardiovascular Events: Potential Mediating Mechanisms

Circulation. 2007;116(19): 2110–8

身内に冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)を罹患した人がいると心筋梗塞になりやすいか?

身内に冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)を罹患した人がいる場合には心筋梗塞になりやすくなります。実際の数字では1.84倍心筋梗塞になりやすくなるという報告があります。身内に冠動脈疾患を罹患した人がいる場合には注意が必要です。規則正しい生活を心がけることと持病がある場合には治療を欠かさないようにすることを心がけるようにして下さい。

【参考】

虚血性心疾患の一次予防ガイドライン2012

Sex Differences of Risk Factors for Acute Myocardial Infarction in Japanese Patients

Circ J 2006; 70: 513-17

5. 心筋梗塞が疑われたら行われる検査とは?心臓カテーテル検査、エコー検査、心電図検査など

心筋梗塞の検査は多くの種類があります。一方でその目的は大きく分けて次の2つになります。

  • 心筋梗塞になっているのかどうか
  • 心筋梗塞の重症度はどの程度か

心筋梗塞の代表的な症状は胸痛です。しかし、胸痛が起こる病気は心筋梗塞以外にも多いです。そのため、患者さんに起こっている症状が本当に心筋梗塞によるものなのかどうかを検査で調べる必要があります。また、心筋梗塞は致命的な病気です。心筋梗塞がどの程度重症なのかを素早く調べて、最適な治療をできるだけ迅速に行わなければなりません。そこで次のような検査がしばしば行われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 心電図検査
  • 心臓エコー検査
  • 心臓カテーテル検査
  • 血液検査

各検査について詳しく説明していきます。

問診

問診とは身体状況や生活背景を聞かれることを指します。身体の診察を行う前に問診で尋ねらることが多いです。心筋梗塞の診断の際には問診が重要になります。

具体的には次のようなことを聞かれます。

  • 症状が出るまでにどういった生活をしていたか
  • 症状が出るまでにどういった薬を飲んでいたか
  • 喫煙をどの程度するか
  • 飲酒をどの程度するか
  • 何か持病はあるか
  • 家族に似たような症状の人はいるか
  • アレルギーはあるか
  • 初めての症状か
  • 症状の特徴をどう表現するか
  • 症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
  • どういったタイミングで症状は変化するか
  • 妊娠しているか

これらは心筋梗塞の有無やその状況を探る上で重要な判断材料です。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。

身体診察

身体診察は病気の状況やその影響を受けている身体の状況を客観的に評価する行為です。心臓の動きや雑音を直接確認することができますし、心機能の低下した影響がどの程度身体に出ているのかも調べることができます。

次のような行為が身体診察に含まれます。

バイタルサインのチェック

「バイタルサイン」とは日本語では「生命徴候」となります。主に次のものを確認します。

  • 意識の程度
  • 脈拍数
  • 血圧
  • 呼吸数
  • 酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対する実際に含まれている酸素の割合)
  • 体温

例えば、脈拍数が増えていても、それが体温上昇によって起こっているのか、頻脈不整脈で起こっているのかで、行うべき治療が変わってきます。また、酸素の値が正常であっても、通常の呼吸状態ではなく一生懸命苦しそうに呼吸しているのであれば、呼吸に異常があると判断します。

このようにバイタルサインは一つの数字だけを見て判断するのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。

◎視診

視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。明らかな変化のあるものは見ただけで判断することができます。

例えば、心筋梗塞を疑う胸痛があったとしても、胸をよく見ると肋間に沿って水疱(水ぶくれ)があったとしたら、原因は帯状疱疹が疑わしくなります。また、肩に痛みを覚えた場合も、皮膚に出血の跡があれば打撲が疑わしくなります。

聴診:心音

心臓は定期的に鼓動を打っているのでくり返し同じ動きをします。聴診器を利用すると心臓の定期的な鼓動が発する特徴的な音を聞くことができます。また、もし不整脈があった場合には不定期な心音が聞こえるために判断がつきます。

聴診器を使うことで聞こえる心臓の音はⅠ音からⅣ音までの4種類に大別できます。Ⅲ音とⅣ音は過剰心音と言い、通常は聞かれないことがほとんどです。

心筋梗塞によって急性心不全があると、Ⅲ音が聞かれます。通常であればⅢ音は聞かれませんが、心不全などになると馬の足音のようなⅢ音(ギャロップ音)が聞かれるようになります。

また、心雑音と呼ばれる特殊な音の有無を確認することも非常に重要です。心雑音は逆流防止弁の不具合(弁膜症)や心臓の壁の不具合(中隔欠損)などを表します。

心筋梗塞では急に弁膜症を起こすことがあります。今まで心雑音の指摘を受けたことがない人に突然心雑音が現れたときは要注意です。

◎聴診:呼吸音

心筋梗塞によって急性心不全になると通常存在しない呼吸音が聞こえることがあります。ラッセル音(ラ音)と呼ばれる副雑音の中でも、水泡音(coarse crackle、コースクラックル)と笛音(wheeze、ウィーズ)が聞かれることが多いです。心筋梗塞によって心不全に至ったときには聴診が診断の役に立ちます。

心電図検査12誘導心電図

定期的に動いて全身に血液を送る働きを持つ心臓は微細な電気信号で動いています。心電図検査ではこの電気信号の大きさや向きを調べます。心臓をあらゆる方向から確認することで、心臓の電気信号の変化をチェックできます。

心電図ではP波・Q波・R波・S波・T波の5つが基本になります。これらの波形と間隔を中心に異常の有無を判定します。心筋梗塞では詰まった血管に関与する心臓壁に炎症が起こるため、電気信号が変化(ST上昇)します。

心臓エコー検査

心臓エコー検査はエコー(超音波)を用いて心臓の動きや大きさ、血液の流れを確認する検査です。超音波の出る器具(探触子、プローブ)を胸に当てて検査を行いますが、痛みを伴うこともなく、X線検査CT検査のように放射線に被曝することもありません。

エコー検査を行う器具には超音波を出す小さな装置(探触子、プローブ)があり、これを胸の外からあてることで心臓を見ることができます。

心臓エコー検査で特に見ることができるのは次のことです。

  • 心臓の動き
  • 心臓の大きさや形
  • 心臓にある弁の形
  • 心臓内の異物
  • 血液の流れ

心臓エコー検査の大きな利点は、これらがたった今どうなっているのかをタイムリーに観察できることです。また、痛みや事態への悪影響がないこともエコー検査の特徴です。

しかし、エコー検査にも弱点があります。骨などの密度の非常に高いものや空気のように密度の非常に低いものを観察しようとしても、うまく観察できません。また、こうした適していないものの後ろには超音波が届かないので、観察することができなくなります。どうしても観察が難しい場合には、経食道エコー検査と言って胃カメラのようなものを用いて、体内から心臓を観察する場合があります。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査とはカテーテルという細い管を血管の中に入れて行う検査です。目的によって行う内容が異なります。主なものは次になります。

  • 冠動脈造影検査
  • 血管内エコー検査
  • 右心カテーテル検査
  • 左室造影検査

ここでは冠動脈造影検査について簡単に説明します。

◎冠動脈造影検査(CAG:coronary angiography)

心臓に栄養や酸素を送る冠動脈の形や太さを調べるのが冠動脈造影検査です。冠動脈性疾患(狭心症、心筋梗塞など)が疑われたときに行われます。冠動脈を造影することでどのくらい血管が細くなっているのかが分かります。

主に手首の動脈(橈骨動脈)あるいは足の付け根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを挿入して心臓付近まで進めます。そして心臓の横にある冠動脈にカテーテルを到達させて、カテーテルを通して造影剤を冠動脈に注入します。造影剤がどう流れていくのかを放射線検査で確認することで冠動脈の形や太さがわかります。冠動脈が細くなっている場合にはそのままカテーテル治療を行うことができます。心臓カテーテル治療について詳しく知りたい人はこちらを読んで下さい。

血液検査(クレアチニンキナーゼ、トロポニンなど)

血液検査は多くの病気の診断や状態の評価のために行われますが、心不全の際にも血液検査を行うことがあります。よく行われる検査は次のものになります。

  • 心臓の状態を見る検査
    • トロポニンT
    • トロポニンI
    • CK-MB
    • BNP
    • NT-proBNP
  • 全身の状態を見る検査
    • CRP
    • 血液ガス分析
    • 肝逸脱酵素(AST、ALT)

これらの中でも特にトロポニンはクレアチンキナーゼは心筋の状態を推測するのに重要です。

トロポニンTやトロポニンIは心筋梗塞の際に高値となることが分かっています。つまり、トロポニンTやトロポニンIが上昇している場合には心筋梗塞が非常に疑わしくなります。

また、同じくクレアチンキナーゼ(CK)も心筋梗塞が起こると上昇しやすい酵素です。CKは筋肉に存在するので、筋肉が壊れると血液中に放出されます。そのため心臓以外の筋肉に異常が起こっても上昇してしまいます。CKの中でもCK-MBという種類はほとんどが心臓に存在するため、これを調べることで心臓の筋肉に問題が起こっているかどうかがわかります。

6. 画像検査

心筋梗塞の診断を用いることがあります。もちろん胸痛があって明らかな心電図変化がある場合には画像検査を行わなくても心筋梗塞と診断できる場合があります。一方で、診断が難しい場合には冠動脈の太さや心筋への血流を把握できる画像検査が活躍することがあります。主に行われる画像検査は次の3つです。

  • CT検査
  • MRI検査
  • シンチグラム

次の段落では各々の検査についてもう少し詳しく説明します。

CT検査

造影剤を血液中に入れると血液が豊富な部位がわかりやすくなります。これを利用して冠動脈の太さを調べるのがCTA(Computed Tomography Angiography)です。CTAでは特に冠動脈に異常がないことを見つけることが得意(陰性的中率が高い)です。

CTは動くものを調べるのが得意ではありません。そのため、心臓の動きに同期して、より解像度を高める工夫がなされます。

MRI検査

MRI検査はCT検査よりも心臓を詳しく調べることができます。一方で、動くものを調べることが難しいであるため、しっかりと心臓の動きに同期する必要があります。場合によっては、薬剤を用いて心臓の動きをゆっくりにして解像度を高めます。

シンチグラフィー

シンチグラムとは微量の放射線を放出する物質を血液中に入れて、どこにその物質が集まるかを測定する検査です。この検査では臓器の形だけでなく、臓器の性質を近似的に見ることができます。また、シンチグラムで得られるデータから断層図を見ることができる検査を単一光子放射断層撮影SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography)と言います。心筋梗塞が疑われた場合にはこのSPECTを用いて心筋梗塞が起こっている部位が特定できます。

以上までな心筋梗塞に対して行われるさまざまな検査について説明しました。さらに詳しく知りたい人は「心筋梗塞が疑われたときに行われる検査」を読んで下さい。

7. 心筋梗塞の治療について:心臓カテーテル治療、手術、薬物治療など

心筋梗塞の治療には多くのことが行われます。治療のポイントは閉塞してしまった冠動脈の血流を再開させることです。また、冠動脈の閉塞が再発しないことを目的とした治療も併せて行われます。

心臓カテーテル治療(PTCA、PCI)

医療行為に用いられる細い管のことをカテーテルと言います。これを用いて行う治療をカテーテル治療と言い、心臓の治療でもカテーテル治療が行われます。

心臓と全身の血管はつながっています。血管に入れたカテーテルを心臓に到達させて行う心臓の治療を心臓カテーテル治療と言います。心筋梗塞では狭くなった冠動脈に対してこの治療が行われます。

カテーテルやワイヤーを用いて冠動脈の細くなっている部分を内側から風船を使って拡げる治療(POBA:Plain Old Balloon Angioplasty)を行います。この際にステントという金網の筒を血管の中に留置します。このステントは形状記憶型になっており、必要な太さを保つことができます。また、ステントは大きく2種類あります。

  • BMS(Bare Metal Stent:薬剤のついていないステント)
  • DES(Drug Eluting Stent:薬物溶出性ステント)

元来BMSしかなかったのですが、ステントを留置したのに血管が狭くなる現象(再狭窄)が見られたためDESが開発されました。DESは薬剤溶出性ステントという名前の通り薬が塗ってあるステントで、血管の再狭窄が起こりにくいと考えられています。一方で、DESはステント内に血栓を作りやすい傾向があるため、2種類の血をサラサラにする薬(抗血小板薬)を長期的に飲まなくてはならないという欠点もあります。

心臓カテーテル治療は手術で胸を開けなくても、心臓の治療ができるという大きな利点があります。とはいえ、身体の負担は小さいものではなく誰もが受けられる治療という訳ではありません。特に次に該当する人は検査における危険性が高いです。

  • 造影剤アレルギーがある人
  • 冠動脈の狭窄の位置や数に問題がある場合
    • 3本の冠動脈に病変がある場合
    • 左冠動脈主幹部(LMT:Left Main Trunk)に病変がある場合
  • 重症の高血圧がある人
  • 重症の不整脈がある人
  • 心不全が非常に重症な人

また、心臓カテーテル治療には合併症があります。主な合併症は次のとおりです。

  • 新たな心筋梗塞の出現
  • 冠動脈穿孔
  • 穿刺部出血・血腫
  • 後腹膜血腫
  • 仮性動脈瘤
  • 脳梗塞
  • 梗塞
  • 造影剤アレルギー

これらの合併症は頻度は高くはありませんが一定確率で起こります。そのため、心臓カテーテル治療を受ける場合には、どんなことが起こりうるのかについてと治療中にどんな症状を自覚したらすぐに伝えるべきなのかについてあらかじめ聞いておくようにして下さい。

手術:冠動脈バイパス手術(CABG:Coronary Artery Bypass Grafting)

心臓に栄養を送る動脈のことを冠動脈といいます。冠動脈は右側に1本(右冠動脈)と左側に2本(左前下行枝、左回旋枝)あり、心臓を取り巻くように存在します。

図:3本の冠動脈の位置。

この冠動脈が細くなると、心臓は栄養が少ない中で動かなくてはならなくなります。完全に冠動脈が閉塞すると心筋梗塞となり、命に関わります。近年の医療技術の進歩によって、心筋梗塞においても開胸手術以外のカテーテル治療が可能になりました。

しかし、冠動脈バイパス術は廃れることのない有効な治療です。というのも、左冠動脈主幹部(左前下行枝と左回旋枝に分かれる前の根元の動脈)が狭い場合や3本の冠動脈の全てが狭い場合にはカテーテル治療を受けることができない可能性が高いです。そのため狭くなった冠動脈を助ける血管を作る手術(バイパス術)が必要になります。

冠動脈バイパス術はカテーテル治療に比べて身体の負担が大きく傷跡も残りますが、確実に血流を確保できることが利点になります。またカテーテル治療は留置したステントが詰まったり、治療後に抗血小板薬(血をサラサラにする薬)を飲まなければならなかったりするため、患者さんの状況によって治療法が選択されます。

心筋梗塞に対してどんな薬物が使用されるか?

心筋梗塞の治療では様々な薬物を使用します。次に挙げる薬がその代表例です。

  • 抗血小板薬
  • 抗凝固薬
  • 血管拡張薬
  • 血栓溶解薬
  • β遮断薬
  • 脂質代謝異常改善薬

これらの薬については「心筋梗塞に対する薬物治療とは」で詳しく説明していますので参考にして下さい。

心臓リハビリテーション

心筋梗塞が生じて急性心不全に至ったときには安静が非常に重要になります。一方で、治療によって病状が落ち着いてからは心機能を回復させる目的の心臓リハビリテーションが重要になってきます。できるだけ心機能を回復させることが心臓リハビリテーションの大きな目標になりますが、これ以外にも効果が期待できるとされています。

心臓リハビリテーションは次のことを目標に行います。

  • 早期離床(できるだけ早い段階から身体を動かすようにする)して、必要以上に安静にすることによる弊害(褥瘡肺塞栓症、身体的および精神的なバランスの悪化など)を予防する
  • 迅速かつ安全な退院と社会復帰へのプランを立案し実現する
  • 運動耐容能の向上によりQOL(Quality of Life:生活の質)を改善させる
  • 包括的な患者教育と疾病管理により心不全の重症化や再入院を予防する

入院中だけでなく状態が落ち着いて退院してからもリハビリテーションを継続することでこれらの目標が達成しやすくなります。そのためには、本人の動機づけと成功体験は重要ですので、心臓リハビリテーションをチームで包括的に行う必要があります。また、生活環境の整備や家族の協力は大切な要素になります。

心臓リハビリテーションでは、「自分ができる範囲」がどの程度なのかを医学的に推し量ることが最初のステップになります。「自分ができる範囲」がわかったところで、その範囲を超えない程度の運動メニューを専門のリハビリの先生に作ってもらいます。

次に、こうして作られたメニューを疲れすぎない範囲でこなします。こなしているうちに段々と強い負荷に耐えられるようになってくるので、やれる範囲の運動を根気よく行うことが大切です。

目安となる簡単な目標としては次のものがあります。

  1. ベッド上の運動(関節の運動など)
  2. 座った状態を保つ
  3. 立った状態を保つ
  4. 短距離を歩行する
  5. 長距離を歩行する
  6. 6分間歩行する
  7. 自転車こぎをする
  8. 軽いエアロビックスをする

これらをいきなり駆け上がることを目指すのではなく、段階的に達成することが大切です。そうすることで少しずつ状況が好転します。個人の状況によって目標は異なるので、自分の身体のしんどさやリハビリテーション終了後の目指したい生活について、医療者とよく相談するようにして下さい。

参考:

急性心不全ガイドライン2011

慢性心不全ガイドライン2010

Depression in Heart Failure: A Meta-Analytic Review of Prevalence, Intervention Effects, and Associations With Clinical Outcomes

J Am Coll Cardiol 2006;48(8):1527-37

補助人工心臓(VAD)

補助人工心臓(VAD:Ventricular Assist Device)とは心臓の働きを助ける装置を心臓の外に取りつける治療です。右心室の働きが弱い人には、右心房から血を抜いて肺動脈に戻す(右心室をスキップするような形)装置が用いられます。また、左心室の働きが弱い人には、左心房あるいは左心室から血液を抜いて上行大動脈に戻す装置が使われます。

この装置は重症心不全で長期的にサポートが必要な人に使用可能です。心筋梗塞によって著しく心機能が低下した場合に使用されることがあります。

大動脈内バルーンパンピング(IABP)

大動脈内バルーンパンピング(IABP: Intra-Aortic Balloon Pumping)とは心臓の動きを助ける治療です。心臓は収縮期に血液を全身に送り出し、拡張期に全身から血流が帰ってきて次の収縮期の準備をします。IABPは大動脈内に挿入した縦長の風船が心臓の動きに合わせて膨らんだりしぼんだりすることで、心臓の働きをサポートします。

心臓の拡張期には風船が膨らみます。膨らんだ風船が圧力をかけることで、心臓のすぐ側にある冠動脈(心臓に栄養や酸素を送る動脈)への血流を増やします。こうして心臓の栄養と酸素を確保するのを効率的にサポートします。

心臓の収縮期には風船がしぼみます。膨らんでいた風船がしぼむことで血管内に陰圧がかかって、心臓から血液が出ていきやすくなります。すなわち収縮期に全身に血液が送られやすくなる仕組みです。

大動脈内バルーンパンピングは、心原性ショック急性心筋梗塞、不安定狭心症などに対して行われます。血管内に機械を留置するため合併症(血管損傷、動脈解離、血栓症感染症など)が起こることがあります。そのため、状況を鑑みて必要性とリスクの両サイドから治療するべきかが判断されます。

電気的除細動

心臓の正常な活動では、洞結節(右心房と上大静脈のつなぎ目のあたり)という部位から発せられた電気信号が、房室結節からヒス束を介して左右の心筋に伝わります。

【心臓の電気刺激の伝わり方】

図:心臓を動かす電気信号は洞結節で発生して左右の心筋に伝わっていく。

この電気刺激の伝わる回路のどこかに異常がある場合に不整脈が起こります。心筋梗塞では心筋の一部が血流低下によって壊死するので、不整脈が起こることが少なくありません。

不整脈は治療薬を用いることでコントロールできる場合が多いですが、重症になるとコントロールが難しく命にかかわる状態になることがあります。命に関わるような重症な不整脈に対して電気的除細動という治療が行われることがあります。

心臓に大きな電流を流して心臓の電気刺激を一旦リセットします。不整脈は心臓に対してバラバラに電気刺激が起こっている状態ですが、これをリセットすることで正常な電気刺激(洞結節から伝わる本来あるべき電気刺激)による心臓の運動に回復することが期待できます。

電気的除細動は致死的な不整脈に対して非常に有効な治療方法です。しかし、全ての不整脈に対して有効ではありません。電気的除細動が有効なのは次の2つです。

これ以外にも、血行動態が不安定な状態(血圧が下がる、意識が悪くなるなど)を伴うタイプの心房細動(AF)や心房粗動(AFL)、発作性上室性頻拍PSVT)でも電気的除細動が行われることがあります。ただ、この場合には意識があることが多いため、鎮静剤を用いた方が良いかあるいはできるだけ早く除細動したほうが良いかなど、状況に応じて患者さんの負担を軽減する配慮が必要になります。

CRT:心臓再同期療法

心房と心室が協同した動きをしたときには、心臓の仕事量を無駄なく全身に血液を送る働きに変換することができます。同じように右の心臓(右心房、右心室)と左の心臓(左心房、左心室)が協同して動いたときには無駄のない良い仕事ができます。この考えから行われている治療が心臓再同期療法(CRT:Cardiac Resynchronization Therapy)です。

心筋梗塞で左右の心臓の動きや心房と心室の動きのバランスが崩れている場合にCRTが行われることがあります。CRTでは左右の心室をペーシングします。そうすることで心機能の改善が見込まれます。

心肺蘇生

心肺蘇生とは心臓が止まってしまった人に対して蘇生を目指して行う医療行為のことです。心筋梗塞が重症になると心臓が止まってしまうことがあるため、心肺蘇生が行われます。

心肺蘇生では主に次のようなことが行われます。

  • 心臓マッサージ(胸骨圧迫)
  • 気道確保
  • 人工呼吸
  • 電気的除細動(AEDを含む)

心臓が動かなくなると血液が全身に回らなくなってしまいます。全身に血液が届かなければ酸素や栄養が足りなくなります。心肺蘇生は全身に酸素や栄養を到達させることが狙いです。また、心肺停止の時間が長くなると蘇生が段々と難しくなります。そのため、心肺蘇生は一刻も早く行うことが大切です。とはいえ、心臓が動いている状態に比べると血液が循環する効率は高くなりませんので、長時間心臓が再び動き出さないと蘇生は難しいです。

経皮的心肺補助

経皮的心肺補助(PCPS:Percutaneous Cardiopulmonary Support)は人工的な肺を体外に作る人工心肺装置です。大腿静脈から抜いた血液を人工肺に到達させて酸素を供給します。酸素を供給された血液は大腿動脈に戻され、全身に流れていきます。

この装置を用いると心臓と肺が連動して行う仕事(右心系の仕事)が楽になるので、心筋梗塞や心不全の超緊急時や心停止の際、重症の呼吸不全などの際に使用されます。一方で、出血や感染症、血栓症などの合併症が起こります。また、長期的な使用は難しく、一般的には7日以内の使用に留めるようにされています。

以上まで心筋梗塞の治療について説明しました。もっと詳しく知りたい人は「心筋梗塞の治療:カテーテル治療、手術、薬物治療、心臓リハビリテーションなど」を参考にして下さい。

8. 心筋梗塞にならないように気をつけるべきこと

心筋梗塞のリスクがある人や心筋梗塞の予防に努めたい人は次のことを心がけるようにして下さい。

  • 適度な運動を行う
  • 乱れた食生活を避ける
  • 過度な飲酒を避ける
  • 喫煙習慣がある場合は禁煙する
  • 持病(特に高血圧症脂質異常症糖尿病高尿酸血症)の薬を飲むのを忘れない
  • 適度なストレス発散を心がける
  • 仕事が大変なときは産業医に相談する

また、体調がおかしいなと思った場合には心筋梗塞が疑わしい症状がないかを確認するようにして下さい。(心筋梗塞の症状に関してはこのページで詳しく説明しています。)もし、疑わしい症状がある場合には医療機関を受診して下さい。