しんきんこうそく
心筋梗塞
心臓の筋肉に酸素を送る血管(冠動脈)が詰まってしまい、組織が壊死すること。突然死の原因になる
33人の医師がチェック 383回の改訂 最終更新: 2023.10.17

心筋梗塞の際に経験しやすい症状:胸の痛み、肩の痛み、息切れなど

心筋梗塞になると胸痛などの症状が出現することが多いです。しかし、胸痛以外にも肩の痛みや歯の痛み、息切れなどの症状が出ることもあります。

このページでは心筋梗塞が疑われるときに気をつけるべき症状について説明します。

1. 心筋梗塞の際に出現しやすい症状にはどんなものがある?

心筋梗塞の症状と言えば胸痛が思い浮かぶ人も多いでしょう。実際に心筋梗塞で胸痛を感じる人は多いです。

胸痛には種類があります。筆者は心筋梗塞で胸痛を感じた人にどういった胸痛だったのかを聞いてみたことがありますが、「ぎゅーっと締め付けられるようであった」という人もいれば「キリキリと鋭く痛む感じだった」という人もいました。また、驚くことに、「痛みはまったくなかった」という人も中にはいました。

心筋梗塞では胸痛以外にもさまざまな症状が出現します。肩の痛みや歯の痛み、時にはふらふらして意識朦朧となることもあります。次の段落からは心筋梗塞の際に起こりやすい症状について説明します。

胸が痛い

心筋梗塞では胸痛が起こることが多いです。胸痛の性状は、強く締め付けられるような痛みであったり、ぎゅっと圧迫されるような痛みであったりと、感じ方はさまざまです。心筋梗塞ではキリキリとした痛みは少なく、圧迫や締め付けられる感じの痛みが多いと言われています。しかし、痛みの性状だけで心筋梗塞かどうかを判断することは難しいです。

一方で、胸が痛くなる病気は心筋梗塞の他にもたくさんあります。その一例を次に示します。

これらは痛みの出方が異なることが多いですが、症状が出始めたころに原因となっている病気を特定することは難しいです。そのため、問診・身体診察・検査などの情報から原因が総合的に判断されます。胸の痛みの出る病気に関しては下の章で説明していますので参考にしてください。

胸が締めつけられる

胸が痛いという症状に似ています。胸がぎゅーっと締め付けられる感覚を胸が痛いと表現する人もいます。また、ときに窒息する感じや喉が詰まる感じという風に表現する人もいます。この症状が出るのは心臓に栄養や酸素が足りないことが原因です。

狭心症でも同じような症状が出ることがありますが、狭心症は身体を動かすと症状が悪化しやすい特徴があります。心筋梗塞では身体を動かそうが動かすまいがずっと強い症状が出現することが特徴になります。

肩や腕が痛い

心筋梗塞で肩や腕が痛くなることはしばしば起こります。心臓が原因であるのに他の部分が痛むこの状態を放散痛といいます。放散痛は心筋梗塞の他にも胆石症がんなどの多くの病気で見られることがあります。

心筋梗塞の胸痛が肩や腕に放散した形で痛みが起こります。心臓は身体の中心よりもやや左側にありますが、左右どちらの肩や腕に放散することもあります。

心筋梗塞と放散痛の関連を見たデータがあるので紹介します。

【心筋梗塞と腕や肩の痛みの関連】

痛みの場所

陽性尤度比

右側の腕や肩

4.7

両腕や両側の肩

4.1

左側の腕

2.3

ここで陽性尤度比(ようせいゆうどひ)という難しい言葉が出てきています。この陽性尤度比というのは確率の計算の際に重要なものですが、シンプルには1以上であればより疑わしくなると考えます。また、数字が大きければ大きいほどもっと疑わしくなります。

心臓は左にあるから右肩や右腕の痛みは大丈夫と考えるのは早計です。原因不明の痛みが肩や腕にある場合には、一度医療機関受診して調べてもらったほうが良いかもしれません。

参考文献
・Value and Limitations of Chest Pain History in the Evaluation of Patients With Suspected Acute Coronary Syndromes. JAMA 2005 ; 294: 2623-9

歯が痛い

上で述べた肩や腕の痛みと同じく、歯に痛みが走ることがあります。胸痛のない心筋梗塞はありえますので、なんだか奥歯が痛いなと思ったのに歯医者で異常がないと言われた人は要注意です。実は心筋梗塞が隠れているということもありますので、歯痛が治らなかったり繰り返されたりする場合には、歯以外に原因がないかを調べるようにして下さい。

気持ちが悪い

心筋梗塞で気持ち悪くなったり吐いてしまったりすることがあります。なんだかよくわからないけれど気持ち悪いという状況は要注意です。

【心筋梗塞と吐き気や嘔吐の関連】

 

陽性尤度比

吐き気や嘔吐あり

1.9

ここで陽性尤度比が1.9ではどの程度疑わしくなるかを考えると、仮に50%くらい心筋梗塞が疑わしい状況で吐き気が出てきた場合には66%くらい心筋梗塞が疑わしくなります。また、25%心筋梗塞が疑わしい状況で吐き気が出てきた場合には39%くらい心筋梗塞が疑わしくなります。

この陽性尤度比の数字は1を超えてはいますが決して大きくないため、吐き気が出てきたら心筋梗塞が極めて疑わしいとはなりません。急性胃腸炎でも逆流性食道炎などの他の病気でも吐き気や嘔吐は起こるため、下痢や腹痛などの他の症状があるかどうかや持病があるかどうかなどを確認することもポイントです。吐き気に下痢が加わっているような状態では心筋梗塞よりも急性胃腸炎のほうが疑わしくなります。

参考文献
・Value and Limitations of Chest Pain History in the Evaluation of Patients With Suspected Acute Coronary Syndromes. JAMA 2005 ; 294: 2623-9

だるい

心筋梗塞によって心機能が低下すると心不全になり、全身にだるさを覚えることがあります。心筋梗塞でだるさを感じた場合には心不全に至っている可能性があります。(心不全の症状に関してもっと詳しく知りたい人は「心不全の症状について」を参考にして下さい。)

また、腕や肩にだるさを覚えることがあります。実際に腕や肩に異常が出ているわけではありませんが、放散痛のような形でだるさを感じると考えられます。

冷や汗が出る

心筋梗塞で冷や汗が出ることがあります。汗は自律神経によって調節されていますが、自律神経の中でも副交感神経が刺激されると発汗が促進されます。

心筋梗塞によって自律神経のバランスが乱された場合には、冷や汗が出ることがあります。また、心筋梗塞による胸の痛みによって汗が出る場合を冷や汗が出ると表現する人もいます。

息が切れる

息切れは多くの病気で起こります。例えば、喘息COPDのように肺の病気で息切れが起こることもあれば、過換気症候群のように精神的な病気でも息切れを感じます。

心筋梗塞でも息切れを感じることがあります。心筋梗塞に伴う強い胸痛を覚えると、息苦しさを感じて息が乱れます。すると息が切れるような感覚になります。また、心筋梗塞で心臓の筋肉が壊死すると心臓の動きが悪くなって心不全になることがあります。心不全になると、肺や全身に血液がうまくめぐらなくなって酸欠になることで息切れを感じます。(別ページに心不全の息切れに関する詳しい説明があるので参考にしてください。)

ふらつき

心筋梗塞でふらつきを覚えるパターンは大きく分けて2つあります。胸痛によって自律神経が乱れることでふらつきを覚えるパターンと心不全が起こり血圧が低下することによってふらつきが起こるパターンです。特に後者は息切れを伴うことが多く、命に関わる状態です。息切れと一緒にふらつきを覚えた場合には必ず医療機関にかかってください。

意識障害(意識もうろう)

心筋梗塞で意識がもうろうとする場合は急を要します。心機能が低下して脳への血流が減ってしまっていることが疑われます。救急車を呼んでいい状況ですので、できるだけ早く医療機関を受診してください。

心筋梗塞の前兆(予兆)として気をつけたほうが良い症状

心筋梗塞の予兆には決まったものはありません。ですから、この症状が出てきたら心筋梗塞になるといったことはありません。

一方で、心筋梗塞に典型的な締め付けられるような強い胸痛が続く場合には心筋梗塞の診断に気づきやすいですが、心筋梗塞と気づきにくい症状があるときには気をつけなければなりません。特に注意するべき症状は以下のとおりです。

  • 胸の違和感
  • みぞおちの違和感
  • 吐き気
  • 動悸
  • 肩の痛み(右、左、両側)
  • 腕の痛み(右、左、両側)

これらの症状が原因不明に続く場合には心筋梗塞が起こっている可能性があります。ほとんどの心筋梗塞は心電図検査心臓エコー検査、血液検査で診断することができます。また、これらの検査はあまり時間がかからずに行うことができますので、医療機関を受診すれば素早く診断してもらえます。

2. 胸が痛い! 心筋梗塞なのか? それとも違う病気なのか?

胸が痛いときには心筋梗塞が心配になります。心筋梗塞は放っておくと死ぬことのある病気ですので、絶対に放置してはいけません。

一方で、心筋梗塞以外にも胸痛を覚える病気はあります。次の段落では胸痛を覚えることのある病気について説明します。胸痛の特徴についても説明していますので、心筋梗塞と見分けることができることがあるため参考にして下さい。

大動脈解離(急性大動脈解離、解離性大動脈瘤)

大動脈解離とは心臓のすぐ付近の太い動脈(胸部大動脈、腹部大動脈)の血管壁が裂ける病気です。ホースのような構造の血管が内側と外側で分かれてしまうことが原因です。大動脈解離が起こると血管が破裂する危険性が高くなるため非常に危険な状態です。

大動脈解離では胸痛が出現しますが、その痛みの位置が背中やお腹に動いていくことが特徴です。これは血管が裂けた(解離した)部位が広がることが原因と考えられています。

大動脈が解離すると脳や腎臓などのさまざまな臓器への血流が低下することがあります。この状態は大動脈の破裂と並んで危険な状態ですので、胸痛が背中やお腹に動いていく場合には必ず医療機関を受診して下さい。

大動脈解離についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

たこつぼ型心筋症

心臓は定期的に収縮して全身に血液を送り出しています。心臓の一部(心尖部)の動きが悪くなることで、効率的に血液が送り出せなくなる病気をたこつぼ型心筋症と言います。心臓の根元(心基部)しか動かない様子がたこつぼに似ていることがこの病名の由来です。

図:心基部と心尖部の位置。

たこつぼ型心筋症は中高年の女性に多い病気で、症状は胸痛が多いです。一般的に時間とともに治癒しますが、症状が強い場合には入院治療が必要となります。

たこつぼ型心筋症の胸痛は心筋梗塞と見分けることが難しいため、胸痛が持続する場合には医療機関での検査が必要になります。

たこつぼ型心筋症についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

胃食道逆流症(逆流性食道炎)

胃液は食べ物を消化する際に必要ですが、強い酸性という特徴を持っています。食道が胃液に触れると食道は炎症を起こしてしまうため、胃液が食道に行かないような仕組みができています。食道と胃の間に位置する筋肉(下部食道括約筋:LES)が締まることで必要時以外には食道と胃が交通しないようになっているのですが、この筋肉がうまく締まらなくなることがあります。すると、胃液が食道に逆流して炎症が起こることがあります。この病気を胃食道逆流症逆流性食道炎)といいます。

図:胃食道逆流症のイメージ。下部食道括約筋がうまく締まらず、胃液が食道に逆流して炎症を起こす。

胃食道逆流症では胸痛が出現することがあります。胃食道逆流症では口の中が酸っぱくなる変化(呑酸)や胸焼けを伴うことが多いことが特徴ですが、症状として胸痛だけが見られるときは心筋梗塞と区別がつかないことがあります。また、胃酸の量によって症状が異なるため、胸痛の強さが食事の前後で変化する場合には心筋梗塞よりも胃食道逆流症が疑わしくなります。上部消化管内視鏡検査胃カメラ)を行うことで診断することができますので、食事によって痛みの程度が変化する胸痛がある場合には医療機関で検査することをおすすめします。

胃食道逆流症逆流性食道炎)についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

胃潰瘍

胃の粘膜が炎症で荒れてしまい、粘膜より深い部分(筋層)が傷つく状態を胃潰瘍(いかいよう)と言います。ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の影響で胃粘膜の防御機能が低下したところに胃液の影響を受けることで胃潰瘍は起こります。

胃潰瘍による痛みはみぞおち(心窩部)に起こりやすいですが、胸が痛むことがあります。胃食道逆流症と同じく胃液の量が症状に影響しますので、食事の前後に痛みが変化する場合には胃潰瘍による胸痛が疑わしくなります。また、吐き気や下血吐血と言った症状を伴うことが多いことも特徴です。上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行うことで診断することができますので、食事によって痛みの程度が変化する胸痛がある場合には医療機関で検査することをおすすめします。

胃潰瘍についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

肋間神経痛

肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)は、肋骨の間に存在する神経(肋間神経)に痛みが出現する病気です。肋間神経痛によって命に関わるようなことになることはありません。

肋間神経痛の痛みはいろいろな形で出現します。肋間に痛みが走ることもあれば、それらが放散して胸全体が痛むこともあります。肋間神経痛の痛みは突き刺すような鋭い痛みが特徴的です。心筋梗塞では鋭い痛みを感じることが少ないことが特徴ですので、痛みの性状である程度見分けることができます。一方で、心筋梗塞であっても鋭い痛みが出ることはありますし、何より原因が肋間神経痛であっても痛みを放置する必要はありません。痛みが持続する場合には医療機関を受診するようにして下さい。

肋間神経痛についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

気胸

気胸は肺に穴が空いて胸腔に空気が溜まってしまった状態のことです。肺に開いた穴が大きいと、肺はしぼんでしまい、うまく呼吸ができなくなります。

気胸では急激な強い痛みが胸に走ります。また、症状が強い場合には呼吸困難感を伴います。呼吸によって胸痛の程度が変化することがありますが、胸痛が強い場合には変化はあまり良く分かりません。

気胸は重症になると命に関わります。胸痛に加えて息苦しさがどんどん悪化する場合や意識が遠のく場合には、気胸が重症になっている可能性がありますので医療機関を必ず受診するようにして下さい。

気胸についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

気胸のイラスト】

図:肺から漏れた空気が胸腔に溜まり気胸となる。

胸膜炎

肺や胸壁(肋骨の裏側にある肺や心臓を囲う部分)を覆っている膜である胸膜に炎症が起こった病気が胸膜炎です。胸膜炎細菌結核などの感染やがん、膠原病によって起こることが多いです。

胸膜炎になると胸痛を覚えます。また、症状が進むと胸水が溜まって息苦しくなります。胸膜炎による胸痛は呼吸によって痛みが変化することが多いので、心筋梗塞と胸膜炎を見分けるのに有効です。

胸膜炎は治療しないで自然に治る病気ではありません。そのため、胸膜炎を疑う胸痛がある場合には医療機関を受診するようにして下さい。

胸膜炎についてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にして下さい。

胸膜炎のイラスト】

図:胸膜炎は肺などの表面を覆う胸膜に起こる。

帯状疱疹

帯状疱疹水痘帯状疱疹ウイルスの感染が原因です。水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染した場合には水ぼうそう水痘)になります。それが治った後も水痘帯状疱疹ウイルスは神経に潜んでいます。しばらくしてから潜んでいたウイルスが活性化して再発すると帯状疱疹が起こります。

帯状疱疹で胸痛が起こる場合には、肋間神経に潜んでいたウイルスが帯状疱疹を起こしています。そのため、肋間に沿って痛みが出ることが多いです。多くの場合皮膚や肋骨周囲に痛みが出現しますが、胸の奥が痛むということが少ないです。また水ぶくれ(水疱)などの皮膚の症状を伴うことが多いです。

帯状疱疹は自然に治ることがありますが、痛みなどの症状が強い場合には薬を用いて治療したほうが良いです。

3. 心筋梗塞と狭心症における症状持続時間の違い:目安は30分以上の胸痛

心筋梗塞では胸痛を中心に吐き気や肩の痛みなどの症状が出てきます。一方で、心筋梗塞の症状のほとんどは狭心症でも起こるため、症状の原因となっている病気が心筋梗塞なのか狭心症なのかの判断が難しいことがあります。

心筋梗塞と狭心症には異なる点があります。以下の表を参考にして下さい。

【心筋梗塞と狭心症の相違点】

 

狭心症

心筋梗塞

冠動脈の状態

狭くはなっているが閉塞はしていない

完全に閉塞している

症状の内容

胸痛を中心に、肩の痛みや吐き気など

胸痛を中心に、肩の痛みや吐き気などに加えて、重症感が強い

症状の持続時間

長くても10分程度のことが多い

30分以上続くことが多い

胸痛発作時の薬(ニトロ製剤)の効果

効く

効かない

緊急度

安静時に症状が起こる場合には緊急事態なので医療機関を受診する

命にかかわる緊急事態

心臓の回復の見込み

血流量が回復すると心臓の機能は回復する

壊死してしまった心臓の細胞は回復しない(冬眠細胞と呼ばれる細胞が一部に存在する場合には、血流の再開で冬眠細胞が復活することがある)

中でも症状の持続時間は見分けるためのポイントになります。参考までに、心筋梗塞を疑う一つの考え方を述べておきます。

  • 狭心症と言われている人に胸痛が10分間以上続く
  • 狭心症と言われていない人に胸痛が30分以上続く
  • 狭心症と言われている人が安静にしているのに胸痛が10分以上続く

これ以外にも、喫煙者や持病(糖尿病高血圧症脂質異常症)のある人の胸痛が10分以上続く場合も要注意です。