しんきんこうそく
心筋梗塞
心臓の筋肉に酸素を送る血管(冠動脈)が詰まってしまい、組織が壊死すること。突然死の原因になる
33人の医師がチェック 383回の改訂 最終更新: 2023.10.17

心筋梗塞の人が気をつけて欲しいこと

心筋梗塞は放置していると命に関わる病気です。また、生活の送り方と密接に関わる病気であることが分かっています。このページでは心筋梗塞と生活についてを中心に説明します。

1. 心筋梗塞の人はどんな生活を送れば良い?

心筋梗塞は生活の状況と関わりの強い病気です。喫煙のように明らかに心筋梗塞に悪影響を与えていると分かっているものもあれば、食事のように良い影響を与える物と悪い影響を与える物があるものもあります。

この章ではどういったことに注意すれば良いのかについて説明します。

食事について

心筋梗塞は様々な病気が危険性を高めることが分かっています。特に注意しなければならないのは動脈硬化を引き起こすような病気で、具体的には以下になります。

これらの原因となるような食生活は避けたほうが良いです。特に塩分や糖質、脂質の摂りすぎには注意が必要です。魚介類や野菜などを摂りつつカロリー過多にならないようにして下さい。

また、抗酸化物質が心筋梗塞を予防するという報告があります。食事で摂れる抗酸化物質は以下のものを指します。

  • ビタミンE
  • ビタミンC
  • カロテノイド(β-カロテンなど)
  • ポリフェノール(カテキン、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、レスベラトロールなど)

これらを摂取するためには、野菜・果物・お茶・穀物などが推奨されます。とは言え、食事の栄養素はバランスが大事ですので、偏った摂取は良くありません。具体的な食事内容は管理栄養士に相談してみてください。

参考文献
・日本循環器学会ほか, 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)

運動について

心筋梗塞を発症した直後には安静が非常に重要になります。一方で、治療によって病状が落ち着いてからは、運動が大切になります。運動することで心機能の改善が見込めます。

心機能を回復させる目的に適度な運動をすることを心臓リハビリテーションといいます。この際には運動の程度が強すぎても弱すぎてもいけません。身体に負荷がかかりすぎないことが重要になってきます。どのくらいの負荷をかければ良いのかは自分の心筋梗塞の状況によって異なりますので、実際に運動する内容に関しては、理学療法士や医師の判断が必要です。

心臓リハビリテーションでは心機能を回復させることが大きな目標になりますが、これ以外にもリラックスなどの効果が期待できるとされています。心臓リハビリテーションに関して詳しく知りたい方は心筋梗塞の治療のページを参考にして下さい。

飲酒について

アルコールは心筋梗塞の原因とはならないと考えられています。しかし、過度な飲酒は心臓に負担がかかるため避けるようにして下さい。量が過ぎれば治療の妨げになる可能性があるので禁酒するのが望ましいです。

喫煙について

喫煙は心筋梗塞の危険性を高めます。これはタバコを吸うことでニコチンや一酸化炭素が動脈硬化を引き起こすからと考えられています。

男女別に喫煙によってどのくらい心筋梗塞になりやすくなるかについてのデータがあるので、以下の表にまとめます。

【喫煙による心筋梗塞への影響①】

 

男性

女性

非喫煙者に対する喫煙者の心筋梗塞になりやすさ

3.64倍

2.90倍

他にも同じような報告があります。

【喫煙による心筋梗塞への影響②】

 

男性

女性

非喫煙者に対する喫煙者の心筋梗塞になりやすさ

3.39倍

8.22倍

特に女性の影響に関しては数字にばらつきがありますが、いずれの報告でも喫煙の心筋梗塞への影響は大きいです。そのため心筋梗塞を予防したい場合には禁煙することがとても大切です。最近の禁煙外来は薬物療法も非薬物療法も充実しているため、禁煙したいと考えている人は一度相談に医療機関を受診することをおすすめします。

参考文献
・Cigarette smoking and risk of coronary heart disease incidence among middle-aged Japanese men and women: the JPHC Study Cohort I. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2006 Apr;13(2):207-13

性生活について

性行為は脈拍や血圧が高まる運動です。心筋梗塞を発症した直後は運動してはいけないため、性行為はしないで下さい。性行為が可能になるのは心筋梗塞が治療で落ち着いてからになります。それでも、行為中に息が切れて仕方ない場合には性行為を控えた方が良いです。できるだけ身体を動かさないようにするなど工夫をすることも良いかもしれません。

また、バイアグラは状況によっては使用できません。バイアグラを使用する場合には必ず主治医に確認して下さい。

睡眠について

睡眠不足は身体への悪影響となると言われています。睡眠が短い人(6時間未満)は先進的なストレスがかかり、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)や脳卒中糖尿病が増えるという報告があります。しかしこの報告では睡眠時間が長すぎる人(10時間以上)も同様の結果が出ており注意が必要です。

以上から睡眠は6時間以上10時間未満にするのが良いと考えられますが、適切な睡眠時間は個人個人で異なります。6時間だと寝すぎて体がだるいような人は、起きたときやその日一日で自分のストレスの少ない睡眠時間が良いのかもしれません。 また、睡眠時無呼吸症候群がある人は心臓に悪影響が出ることが分かっています。睡眠時無呼吸が疑われるのは次に該当する人です。

  • 肥満体型である
  • いびきがうるさい
  • 家族や恋人、友人に呼吸が止まっていると指摘される

減量や運動を行い、症状の程度によっては睡眠中に呼吸を助ける人工呼吸器(非侵襲的陽圧換気:NIPPV)を使用すると心臓への負荷は軽減します。

参考文献
・Sleep duration and chronic diseases among U.S. adults age 45 years and older: evidence from the 2010 Behavioral Risk Factor Surveillance System. Sleep. 2013 Oct 1;36(10):1421-7

服薬について

心筋梗塞では内服が非常に重要です。心不全を改善する薬や冠動脈を広げる薬がよく使われますし、心臓カテーテル治療でステントを留置したあとには抗血小板薬(血をサラサラにする薬)が必須です。

心筋梗塞後に内服を欠かすと再発が起こったり心不全が悪化したりします。そのため内服を忘れないように工夫が必要です。お薬カレンダーを用いたり携帯のアラームを用いたりすると定期的な内服を実行できるようになります。但し、本人の認知機能が落ちていたり、家族の協力が得られなかったりした場合には、内服を継続することが難しいので、治療法が限られてきます。

2. こんな症状の際には受診しよう

何か身体に異変を感じたときに、この症状は放っておいても治るのか診察を受けた方が良いのかの判断は簡単ではありません。ここでは、こんな症状が出たときには医療機関にかかったほうが良いという目安を紹介します。

今まで感じたことのない動悸がする

今までに感じたことがない動悸が現れるときは何かが起こっていることが多いです。心臓の病気を考えて心電図検査や血液検査を行うことが望ましいです。突然あらわれる動悸から考えなければならない主な病気は以下になります。

これらは放っておいて治る病気ではありません。そのため、医療機関で検査してもらって適切な治療を受けて下さい。

明らかに脈が乱れる

脈が乱れる場合は不整脈が出現した可能性が高いです。不整脈の状態を調べるには心電図検査が必要です。また、不整脈の原因に応じた治療が行われます。

心筋梗塞は血流が低下することで心筋が壊死する病気です。壊死部位が原因となって不整脈が起こることがあるため、突然脈が乱れだした人は要注意です。医療機関にかかるようにして下さい。

原因がわからないのに左右の肩や腕、みぞおちに違和感を覚える

心筋梗塞が原因となって左右の肩や腕、みぞおちに痛みや違和感が出現することがあります。これを放散痛と言います。

例えば肩や腕の痛みと心筋梗塞の関連を見たデータがあるので紹介します。

【心筋梗塞と腕や肩の痛みの関連】

痛みの場所

陽性尤度比

右側の腕や肩

4.7

両腕や両側の肩

4.1

左側の腕

2.3

ここで陽性尤度比という難しい言葉が出てきています。この陽性尤度比というのは確率の計算の際に重要なものですが、シンプルには1以上であればより疑わしくなると考えます。また、数字が大きければ大きいほどもっと疑わしくなります。

特に思い当たる節がないのにこうした症状が出た場合には、一度医療機関で検査してもらったほうが良いです。

3. こんな時には救急車を呼んででも医療機関を受診しよう

心筋梗塞は重症になると命に関わります。一刻も早く医療機関を受診する必要があります。近年救急車をタクシー代わりに利用して受診することが問題になっています。一方で、命に関わる状態であれば救急車で受診することに問題はありません。

この章では救急車を呼んででも素早く受診するべき状態について説明します。

急速に息が切れるようになった

心筋梗塞が重症になると、重症の急性心不全になります。急性心不全になると急速に息切れが出現し、進行すると身体を動かしていないくても息が切れるようになります。また、心筋梗塞による重症の心不全は命に関わります。進行とともにどんどん息切れによって動けなくなりますので、急に息切れを感じた人は救急車を読んででも医療機関を受診するようにして下さい。

激しい胸痛や絞扼感(胸が締め付けられる感覚)が持続する

人間が胸痛を感じるとき、きりきり鋭く痛むと表現したり、締め付けられるように苦しいと表現したりとさまざまです。

胸痛は心筋梗塞の代表症状です。一方で、心筋梗塞以外でも胸痛は出現します。胸痛が出現しやすい病気を以下に示します。

つまり、胸痛を感じたら必ず原因は心筋梗塞であるというわけではありません。他に考えられる原因を考えながら、心筋梗塞と分かれば直ちに治療を行います。

胸痛の原因を考えるには、胸痛の性質を考えることも大事です。心筋梗塞では鋭い胸痛が出現することはあまりありませんが、締め付ける様な痛みが出るのが多いことが分かっています。また、心筋梗塞の場合はそうした胸が締め付けられる状態が30分以上続くことが多いです。そのため、胸を締め付けられる状態が30分以上続く場合は心筋梗塞を考える必要があるので医療機関にかかって下さい。

意識がもうろうとする

心筋梗塞が重症になると、脳に血液を送れなくなります。すると意識が朦朧として、最終的には意識を失ってしまいます。この状態は非常に危険です。胸痛や息切れなどの心筋梗塞を疑う症状のある人が意識朦朧としてきたら、必ず医療機関を受診して下さい。その際の移動手段として救急車を用いることは問題ないです。

4. 後遺症が残ってしまった場合の注意点

心筋梗塞は重症になると後遺症が残ることがあります。後遺症が残った場合には注意点があります。特に次の3つの病気が後遺症となってしまった場合について説明していきます。

心不全になってしまった

心臓は筋肉が収縮することで血液を全身に送る働きと心臓が動くために必要な微細な電気信号を伝える働きがあります。心筋梗塞で壊死した心筋は復活しないため、前者の機能が失われた場合には心機能が低下します。広範囲の心筋が壊死した場合には心不全になることがあります。

心不全になると、利尿薬や血管拡張薬などの薬物療法やさまざまな治療が行われます。また、心臓リハビリテーションを行って少しずつ心機能を回復させる必要があります。心不全の程度によっては酸素療法や補助人工心臓などを用いた治療が必要になる場合もあります。心不全の治療について詳しく知りたい人は「心不全の薬物治療」や「薬物療法以外の心不全の治療」を読んで下さい。

また、生活上の注意点もあります。以下のことを心がけて下さい。

  • 水分を過剰摂取しない
  • 塩分を過剰摂取しない
  • 禁酒
  • 息が切れるほどは運動しない
  • 禁煙する
  • 適度な睡眠をとる

また、定期的な通院も必要になるので、仮に状態が良くなった気がしても、主治医が通院しなくて良いというまでは通院して下さい。

不整脈になってしまった

心筋梗塞によって心筋が壊死することで、心臓が動くために必要な微細な電気信号がうまく伝わらなくなることがあります。その場合に不整脈が起こることがあります。

不整脈は薬物治療で発作を押さえることができれば薬物治療を行いますが、運動や飲酒などで発作が出やすくなるため、生活には注意が必要です。また、薬を飲み忘れると発作が出るので、お薬カレンダーや携帯電話のアラームなどを使って飲み忘れないように工夫して下さい。

心室瘤になってしまった

心筋梗塞によって壊死した心筋が薄く伸びることで外側に突出することを心室瘤といいます。薄くなった部分は収縮力を失っているばかりでなく、組織がもろくなっているので心臓の破裂の危険性があります。また、血栓ができたり不整脈が起こったりすることもあり、症状が強い場合には手術が検討されます。

心室瘤は病状によって、内服薬の飲み忘れがないように注意したり、運動に注意したりする必要があります。自分の状況では何に気をつけたほうが良いのかを主治医に確認するようにして下さい。