[医師監修・作成]心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか:薬物(利尿薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬など)を用いた治療 | MEDLEY(メドレー)
しんふぜん
心不全
心臓の機能が低下して血液を十分に送り出せない状態。さまざまな心臓の病気が原因となり起こる
18人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2021.12.17

心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか:薬物(利尿薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬など)を用いた治療

心不全の治療法は多岐にわたります。心不全に対する治療では原因に即した治療法が選択されます。このページでは薬物療法について解説します。

1. 薬物療法

心不全に用いる薬は数多く存在します。効果もさまざまで非常に複雑です。そのため、心臓の状態に適したものを使わなければなりません。

心不全治療薬は心臓に対してどうアプローチするべきなのかを考えて選択します。

  • 心臓の負担を軽くする
    • 利尿薬
    • 血管拡張薬
  • 心臓をもっと頑張らせる
    • 強心薬
  • 心臓を休ませる
    • 血管拡張薬
    • 不整脈薬の一部(脈をゆっくりにさせるもの)
  • 心臓のリズムを取り戻して無駄を減らす

ここではどの薬がどういった効果があるのかについて説明していきます。

利尿薬:スピロノラクトン、サムスカなど

◎スピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)

主にアルドステロンというホルモンの働きを抑えることによって利尿作用などをあらわす薬です。

腎臓の遠位尿細管という場所では尿中のナトリウムや水分を血液中へ戻す再吸収という体の働きがありますが、ここでの再吸収に関わっている主な物質がアルドステロンです。

スピロノラクトンはこのアルドステロンの作用を抑えることによって、ナトリウムや水分の再吸収を抑え結果的に尿としてナトリウムや水分を排泄させることで利尿作用をあらわします。またこの結果、カリウムの排泄を緩やかに抑える作用もあらわすため、カリウムが排泄されやすくなる傾向があるフロセミド(主な商品名:ラシックス®)などのループ利尿薬と一緒に使うことによって、低カリウム血症を起こりにくくするメリットなども考えられます。

注意すべき副作用としては高カリウム血症発疹などの皮膚症状、低血圧、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状などがあります。

またスピロノラクトンによる治療中には女性化乳房や乳房の腫脹などの症状があらわれる場合があります。これはスピロノラクトンによって血液中の男性ホルモンテストステロン)濃度が減少することなどが要因として考えられています。一般的に頻度は稀とされていますが、胸の周囲に張りがあるなどの症状があらわれた場合には医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

◎トルバプタン(商品名:サムスカ®)

抗利尿ホルモンであるバソプレシンの受容体に作用(拮抗作用)することで利尿作用をあらわす薬です。

バソプレシンが受容体(V2受容体)へ作用すると水の透過性が亢進し、血管内へ水分を再吸収させる作用などをあらわします。トルバプタンはこのV2受容体に拮抗的に作用することで、腎集合管におけるバソプレシンによる水の再吸収を阻害し利尿作用をあらわす薬となります。

一般的に利尿薬と呼ばれる薬(ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬など)は腎臓の尿細管における電解質や水分などの再吸収を阻害することで利尿作用をあらわしますが、トルバプタンはバソプレシンの受容体へ作用することによって、一般的な利尿薬で起こる電解質異常などを起こしにくい利尿作用をあらわす薬になっています。

純粋な水利尿を促進することで低カリウム血症などへの懸念が少ない一方で、急な水分排泄などによる脱水症状や高ナトリウム血症(トルバプタンの利尿作用により血液濃縮を来すことで血液中のナトリウム濃度が過度に高くなる可能性がある)に対しては注意が必要です。

他にも腎障害、血栓塞栓症、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、口渇や便秘などの消化器症状、血圧変動などの循環器症状などに注意が必要とされています。

トルバプタン製剤であるサムスカ®は発売当初(2010年10月)は規格が15mg錠のみでしたが、現在では7.5mg錠の規格も発売されていて、用量調節が必要な場合や肝硬変における体液貯留の治療などで使われています。(サムスカ®錠には他に30mg錠の規格もあり、こちらは主に常染色体優性多発性のう胞腎の治療で使われています。また錠剤以外の剤形として顆粒剤もあります)

◎ループ利尿薬

利尿薬のひとつで、その分類名は主に腎尿細管の「ヘンレループ」と呼ばれる部分において電解質や水分の再吸収を抑え利尿作用などをあらわすことに由来します。

臨床ではフロセミド(主な商品名:ラシックス®)、アゾセミド(主な商品名:ダイアート®)、トラセミド(主な商品名:ルプラック®)などの薬剤が使われています。

フロセミドは臨床において小児(子供)から高齢者に至るまで幅広く使われている薬でもあります。フロセミドには内服薬(錠剤、細粒剤)以外に注射剤もあり急性期の治療などにおいても有用となっています。

アゾセミドは一般的にゆっくりとして持続的な利尿作用をあらわす特徴があります。

ループ利尿薬で注意すべき副作用としては低カリウム血症低ナトリウム血症などの電解質異常血小板減少などの血液障害、血圧低下、めまいや頭痛、耳鳴りなどの精神神経系症状、口渇や吐き気などの消化器症状、発疹などの皮膚症状、頻尿、腎障害、肝機能障害などがあります。

ループ利尿薬の中でもトラセミドは抗アルドステロン作用をあらわし、他のループ利尿薬に比べると尿中へのカリウム排泄量の軽減などが期待できると考えられています。

◎サイアザイド系利尿薬(チアジド系利尿薬)

腎臓の遠位尿細管という部分における電解質や水分の再吸収を抑える作用をあらわす薬です。利尿薬のひとつですので利尿作用もあらわしますが、どちらかというと血圧の薬(降圧薬)として開発された薬が多く、ARBやカルシウム拮抗薬などの高血圧治療薬と一緒に使われることも多い薬です。(実際にARBとサイアザイド系利尿薬を一緒にした配合製剤も臨床で使われています。)

サイアザイド系利尿薬としてはトリクロルメチアジド(主な商品名:フルイトラン®)やヒドロクロロチアジドなどが臨床で使われていています。

ループ利尿薬などに比べると利尿作用自体は一般的に控えめですが、心不全の治療では比較的軽症な場合における選択肢となったり、ループ利尿薬で十分な利尿効果が得られない場合などにループ利尿薬との併用によって使われたりすることが考えられます。

注意すべき副作用としては低ナトリウム血症低カリウム血症などの電解質異常や耐糖能低下などの代謝異常、めまいや立ちくらみ、過敏症、貧血などの血液障害、吐き気などの消化器症状などがあります。

◎その他の利尿薬

心不全の治療で使われる主な利尿薬はループ利尿薬、トルバプタンなどですが、ここでは他の利尿薬をいくつかみていきます。

インダパミド(商品名:ナトリックス®、テナキシル®)、トリパミド(商品名:ノルモナール®)などはサイアザイド系利尿薬とは異なる化学構造を持つものの、サイアザイド系利尿薬と類似した作用によって利尿作用をあらわす薬で、サイアザイド類似薬などの名称で呼ばれる場合もあります。これらは主に高血圧症(本態性高血圧)の治療などで使われています。

注意すべき副作用もサイアザイド系利尿薬と比較的類似していて電解質異常などの代謝異常、めまいや立ちくらみ、過敏症、消化器症状などがあります。

トリアムテレン(商品名:トリテレン®)はアルドステロンへの拮抗作用や尿細管への直接作用によって利尿作用をあらわすとされている薬で、高血圧や心性浮腫うっ血性心不全)などの治療薬として承認されています。カリウム排泄を軽減する働きが期待できる利尿薬ですが、一方で高カリウム血症には注意が必要です。またビタミンのひとつである葉酸の代謝を阻害する作用があるため、葉酸の欠乏状態や葉酸代謝になんらかの異常がある場合などでは貧血などの血液障害があらわれる可能性があり注意が必要となります。

炭酸脱水酵素阻害薬という種類に分類されるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス®)は浮腫(心性浮腫や肝性浮腫)以外に緑内障てんかんメニエル病など多くの疾患や症状において承認されている薬です。

利尿作用に加えて呼吸中枢を刺激する作用をあらわすことから心不全に伴う睡眠呼吸障害などの治療の選択肢となることが考えられます。注意すべき副作用にはしびれなどの知覚異常、めまいや頭痛、頻尿、電解質異常、消化器症状などがあります。

エプレレノン(商品名:セララ®)

利尿薬のスピロノラクトンと同じく体内のアルドステロンの働きを抑える薬です。

アルドステロンは腎尿細管でのナトリウムなどの電解質や水分などの再吸収以外にも心臓や血管の線維化、心臓の肥大、心室性不整脈、腎障害などに関わっている物質です。またアルドステロンが作用する鉱質コルチコイド受容体は腎臓以外に心臓、血管壁、脳などさまざまな部位に存在することがわかっています。

エプレレノンはアルドステロンの鉱質コルチコイド受容体への結合をより選択的に阻害することによってアルドステロンの働きを抑える作用をあらわします。

元々は高血圧治療薬として承認された薬ですが、アルドステロン自体が心臓の肥大や心臓及び血管の線維化などへ深く関わることから心不全への有用性が考えられ、2016年12月に慢性心不全の治療に対しても追加承認されました。慢性心不全の治療においては通常、ACE阻害薬ARB、β遮断薬、利尿薬などとの併用によって使われています。

エプレレノンはスピロノラクトンに比べると男性ホルモン(テストステロン)への影響が少なく女性化乳房などへの懸念が少ないというメリットが考えられます。

注意すべき副作用としては高カリウム血症低血圧、めまいや頭痛などの精神神経系症状、腎機能障害、消化器症状などがあります。

ACE阻害薬、ARB、硝酸薬など

◎ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

アンジオテンシン(AT)という血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑える作用をあらわす薬のひとつです。

体内にはアンジオテンシノーゲンという物質からアンジオテンシンIを経てアンジオテンシンIIができる仕組みがあります。アンジオテンシンIIは自身が血管を収縮させ血圧を上昇させる作用に加えアルドステロンという副腎皮質ホルモンの分泌を促します。アルドステロンは腎臓でナトリウムや水分の血液中への再吸収を行っている主な物質となり、アルドステロンなどの作用によって循環血液量の増加がおこり血圧が上昇します。

ACE阻害薬はアンジオテンシンIIへの変換に関わる酵素(ACE:アンジオテンシン変換酵素)を阻害することよってATの働きを抑え、血圧を低下させる作用などをあらわします。

ATの働きを抑える薬であるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)が高血圧治療以外に心不全や腎疾患などの治療で使われることがあるように、ACE阻害薬もこれらの治療に使われることがあります。

実際にエナラプリル(主な商品名:レニベース®)やリシノプリル(主な商品名:ロンゲス®、ゼストリル®)が慢性心不全へ保険承認されていたり、ペリンドプリル(主な商品名:コバシル®)では心臓の肥大を抑えたり血管への改善作用が期待できるとされるなど、高血圧治療以外でも有用とされている薬です。

注意すべき副作用としては、めまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状などがあります。また頻度はまれとされていますが血管浮腫や高カリウム血症などが起こる可能性も少なからずあります。

副作用という面で同じくATに関わるARBとの違いは、ACE阻害薬では咳(空咳)が一般的にあらわれやすいという特徴があり、これは「ACEを阻害する」という作用の仕組みによるものが大きいとされています。ACEはアンジオテンシン以外にも関わる酵素で、ACEを阻害することで体内で咳などを引き起こすブラジキニンという物質が増える傾向になり咳(空咳)が生じやすくなると考えられていて、薬剤や体質などによっても咳(空咳)が起こる頻度は異なってきますが注意すべき副作用のひとつとなっています。

一方でこの咳(空咳)を誤嚥(ごえん)防止に利用する場合もあります。誤嚥とは食べ物が食道ではなく喉頭や気管に入ってしまうことです。脳卒中による後遺症など、なんらかの理由によって嚥下機能(飲み込む機能)が低下している状態では一般的に誤嚥が起こりやすくなり誤嚥性肺炎などのリスクが高くなると考えられていて、これを防ぐためにACE阻害薬による咳(空咳)は有用とされています。

もちろん激しく咳き込みが出るなどの場合では注意が必要ですが、ブラジキニンには咽頭反射を改善する働きも期待できると考えられているため、咳(空咳)が必ずしもデメリットとなるわけではないのです。

◎ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

アンジオテンシンという血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑える作用をあらわす薬のひとつです。

体内にはアンジオテンシノーゲンという物質からアンジオテンシンIを経てアンジオテンシンIIができる仕組みがあります。アンジオテンシンIIは自身が血管を収縮させ血圧を上昇させる作用に加えアルドステロンという副腎皮質ホルモンの分泌を促します。アルドステロンは腎臓でナトリウムや水分の血液中への再吸収を行っている主な物質となり、アルドステロンなどの作用によって循環血液量の増加がおこり血圧が上昇します。

ARBはアンジオテンシンIIの受容体を阻害する作用により主に高血圧治療薬として開発された薬になります。一方で降圧目的以外にも臨床応用されていて、心不全や腎疾患の治療薬として使われる場合もあります。アルドステロンは血圧以外にも心臓の肥大や心臓及び血管の線維化、腎障害などに関わる物質と考えられています。またアンジオテンシンIIは脳、血管、心臓、腎臓などに存在する自身の受容体に結合することで高血圧だけでなく脳卒中、心不全、腎不全などの因子となるとされています。そのためARBには心臓、腎臓、脳血管などの臓器保護作用が期待できると考えられています。

実際、カンデサルタン(主な商品名:ブロプレス®)では高血圧症に加え慢性心不全の承認があり、ロサルタン(主な商品名:ニューロタン®)では高血圧症に加え糖尿病性腎症で承認されているなど、高血圧治療以外にも有用とされています。

ARBとしては他にバルサルタン(主な商品名:ディオバン®)、テルミサルタン(主な商品名:ミカルディス®)、イルベサルタン(商品名:アバプロ®、イルベタン®)、アジルサルタン(商品名:アジルバ®)といった薬が臨床で使われています。また利尿薬などの他の薬剤と併用して使われる場合も多く、サイアザイド系利尿薬との配合製剤(例:プレミネント®、エカード®、ミコンビ®など)やカルシウム拮抗薬との配合製剤(例:エックスフォージ®、レザルタス®、アイミクス®、ザクラス®など)などがあります。

ARBで注意すべき副作用にはめまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状、などがあります。ARBでも咳(空咳)があらわれる可能性がありますが、作用の仕組みの違いなどの理由から一般的にACE阻害薬に比べてARBの方が起こりにくいとされています。

また頻度は非常に稀とされていますが血管浮腫、高カリウム血症ショックなどがあらわれる可能性があり、これらは薬剤によっても異なる場合がありますが注意が必要とされています。

◎アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)

血圧上昇、心臓の肥大化、過度な水分貯留などを引き起こすと考えられているネプリライシンやアンジオテンシンⅡの働きを抑えることで、血圧を下げ、体内の過度な水分貯留などを改善し、心臓への負担を軽減する薬です。

このタイプの薬にはエンレスト®があります。見られやすい副作用はめまい、動悸、咳嗽などで、まれに血管の浮腫による顔や唇の腫れ、息苦しさなどが見られることがあります。特に息苦しさを感じた場合には医療機関に連絡するようにしてください。

◎硝酸塩

心臓に酸素を送る血管である冠動脈や末梢血管を拡張する作用をあらわす薬です。

この薬は体内で代謝され一酸化窒素(NO)を生成します。このNOが血管をひろげる主な物質となり、心臓への酸素供給などを改善したり、全身の血管がひろがることで血液を送る力が少なくてすむため心臓の負担を軽くすることなどの効果が期待できます。

硝酸塩の製剤は狭心症(冠動脈が狭くなることで胸の痛みや息苦しさなどがあらわれる)の治療薬や心不全などの治療薬として使われています。

硝酸塩の薬剤としては硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、ニトロプルシドナトリウムなどがあります。薬剤によっては内服薬(飲み薬)の他、貼付剤(貼り薬)、注射薬など剤形の選択も可能で、発作などの症状を予防する薬と急性期(急性心不全や慢性心不全の増悪期、狭心症発作時など)に使う薬があります。

血管をひろげる作用をあらわすため血圧低下によるめまいや立ちくらみなどには注意が必要です。他に頭痛、吐き気などの消化器症状、倦怠感などにも注意が必要です。

またシルデナフィル(主な商品名:レバチオ®、バイアグラ®)などのホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)と呼ばれる種類の薬などは併用禁忌(併用しないこと)となっていて他の薬との相互作用(飲み合わせ)にも注意が必要です。

◎ニコランジル

硝酸塩製剤のようにニコランジル(主な商品名:シグマート®)も体内で一酸化窒素(NO)を生成することで心臓への酸素供給などを改善する薬です。

また血管平滑筋の弛緩に関わるカリウムイオンの通り道であるカリウムチャネルを開く作用による血管拡張作用をあらわすとされることからカリウムチャネル開口薬などと呼ばれることもあります。狭心症や心不全などの治療に使われ内服薬(飲み薬)の他、注射薬の剤形があり注射薬は急性心不全にも承認されています。

注意すべき副作用としては頭痛やめまい、吐き気などの消化器症状、肝機能障害、血小板減少などです。また硝酸塩製剤と同様にシルデナフィル(主な商品名:レバチオ®、バイアグラ®)などのホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)と呼ばれる種類の薬などは併用禁忌(併用しないこと)となっていて他の薬との相互作用(飲み合わせ)にも注意が必要です。

◎β遮断薬

交感神経のβ(ベータ)受容体を遮断することで主に心臓などの循環器系の治療薬として使われている薬です。

慢性心不全では一般的に弱くなった心臓の機能を補うために交感神経の働きが亢進することによって心臓の動きが過度になり、この状態が続くことで心不全が悪化する傾向にあります。β遮断薬は交感神経の働きを抑えることで、頑張り過ぎている心臓を休ませ心臓への負荷を減らすことで心不全の悪化を防いでいく薬になります。

β遮断薬の中でもカルベジロール(主な商品名:アーチスト®)は臨床で広く使われている薬のひとつで交感神経のα(アルファ)受容体への遮断作用(主に血管拡張作用)も有することからαβ遮断薬という種類に分類されることもあります。カルベジロールは元々、高血圧症狭心症の治療薬として承認された薬ですが、慢性心不全に対する有用性が考慮され、2002年に虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全に対して追加承認されました(この他、2015年に頻脈心房細動に対しても追加承認されています)。

カルベジロールは継続して投与していくことで慢性心不全の進展を抑え、心不全悪化による入院を減らせるメリットなどが考えられます。

ビソプロロール(主な商品名:メインテート®)もβ遮断薬の中では心不全治療によく使われる薬です。こちらも元々は高血圧症狭心症などの治療薬として承認された薬ですが、心不全への有用性が考慮され、2011年に虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全に対して追加承認されました(この他、2013年に頻脈性心房細動に対しても追加承認されています)。

交感神経のβ受容体の主なタイプ(種類)にはβ1、β2、β3がありますが心臓にはβ1が多く存在すると考えられています。ビソプロロールはβ受容体の中でもβ1受容体への選択性が比較的高い薬で、この特徴から心臓に対してより選択的な作用が期待できるβ遮断薬ともいえます。

この他のβ遮断薬ではメトプロロール(主な商品名:セロケン®、ロプレソール®)などが治療の選択肢となる場合も考えられます。

カルベジロールやビソプロロールなどのβ遮断薬を心不全治療で使う場合には一般的に少量から投与を開始し少しずつ量を増やしていく漸増法によって行われますが、血圧低下によるふらつきや立ちくらみなどがあらわれる可能性もあるため注意が必要です。また糖や脂質代謝などに影響を及ぼす場合もあり糖尿病や耐糖能異常などがある場合にはより注意が必要となります。β受容体の中でβ2受容体は気管支の拡張などに関わるタイプでβ遮断作用により気管支が収縮し、咳などの呼吸器症状があらわれる場合があります。心不全治療で使われるβ遮断薬の多くは主にβ1受容体に作用し、β2受容体への影響は比較的少ないとされていますが、気管支喘息などの持病を持っている場合には特に注意が必要です。

強心薬:ジギタリス、カテコラミンなど

◎ジギタリス

植物のジギタリスは古来より民間薬として使われていた歴史があり、18世紀後半にWilliam Witheringという医師によってその強心作用などが報告され、現在に至っています。(この経緯などはメドレーコラム「魔女の秘薬が心臓を治す」でも紹介しています)

現在、日本ではジゴキシン(主な商品名:ジゴシン®)やメチルジゴキシン(主な商品名:ラニラピッド®)といった薬剤が使われています。

主に心筋細胞膜への作用により心筋の収縮力を増大させることで強心作用をあらわします。また迷走神経刺激作用、抗交感神経作用などによる徐脈をもたらしたり、刺激伝導速度の抑制などによる抗不整脈作用なども期待できるとされています。

ジゴキシンの製剤には錠剤以外に散剤、水剤(エリキシル剤)、注射剤があり用途などに合わせた選択が可能です。メチルジゴキシンは経口投与で比較した場合、ジゴキシンに比べ速やかに作用が発現する特徴があり個人差などによっても異なりますが一般的に経口投与後、約5〜20分程で効果が発現すると考えられています。

ジギタリス製剤ではジギタリス中毒と呼ばれる副作用に注意が必要です。主な症状として吐き気などの消化器症状、視覚症状、めまいなどの精神神経系症状などがあらわれる場合があります。一般的には血液中の薬物濃度が適正量で維持されているかをモニタリングし必要に応じて投与量を調整するなど中毒症状へのリスクを考慮しつつ投与されますが、アミオダロンやβ遮断薬、利尿薬などと併用することで薬剤成分の血中濃度が変動する可能性があるなど他の治療薬との相互作用(飲み合わせ)に関しても注意が必要となります。ジギタリス製剤による治療中に吐き気や食欲不振、光がないのにチラチラ見えたり物が二重に見える、めまいや頭痛などの症状があらわれた場合は医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

◎カテコラミン

カテコールアミンとも呼ばれ、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンといった神経伝達物質を基に造られた薬剤になります。

交感神経の受容体(アドレナリン受容体)に作用することで交感神経を亢進させ、心臓の収縮力を改善する作用などをあらわすことで主に急性期の治療薬として使われます。

主な薬剤としてドブタミン(主な商品名:ドブトレックス®)、ドパミン(主な商品名:イノバン®)などが臨床で使われています。カテコラミン製剤では脈拍増加や不整脈、血圧変動などに注意が必要です。ドブタミンはドパミンの誘導体として合成された薬剤で一般的に心筋の収縮力を強く増強する作用をあらわす一方で、心拍数の増加作用、不整脈の誘発作用、末梢血管への作用などの懸念が少ないという特徴があります。

◎ホスホジエステラーゼIII阻害薬(ミルリノン、オルプリノンなど)

ミルリノン(主な商品名:ミルリーラ®)はアムリノンという薬剤の後継薬として開発された薬で、心拍出量を増加させたり肺うっ血や末梢循環などを改善する作用をあらわします。

ホスホジエステラーゼIIIという酵素を阻害し細胞内のサイクリックAMP(cAMP)という物質が増加することで心筋の収縮力の増強作用及び血管拡張作用をあらわすと考えられていて、その作用の仕組みからホスホジエステラーゼIII阻害薬(PDEIII阻害薬)と呼ばれる種類に分類されています。心臓(心筋)では収縮力や左心室の拡張機能を改善し、血管においては血管拡張作用をあらわすことにより心筋の酸素需給を改善することなどが期待できます。

ミルリノンはカテコラミン製剤と併用して使われる場合もあり、その作用の仕組みはカテコラミンとは異なり交感神経のβ受容体への刺激作用を介さないため耐性が生じにくいなどのメリットも考えられます。PDEIII阻害薬ではオルプリノン(商品名:コアテック®)もあり、ミルリノンと共に主に急性心不全の治療薬として使われています。

PDEIII阻害薬の注意すべき副作用としては血圧低下、頻脈や不整脈、血小板減少、腎機能障害などがあります。

◎アデニル酸シクラーゼ賦活薬(コルホルシンダロパート)

シソ科の植物の根から抽出されたフォルスコリン(コルホルシン)という物質を基に造られた薬で、ホスホジエステラーゼIII阻害薬(PDEIII阻害薬)と同じく交感神経のβ受容体を介さずに強心作用などをあらわします。

PDEIII阻害薬はホスホジエステラーゼIIIという酵素を阻害することで細胞内のサイクリックAMP(cAMP)を増加させる作用をあらわしますが、コルホルシンダロパート(商品名:アデール®)はcAMPの合成酵素であるアデニル酸シクラーゼを直接活性化(賦活)させることでcAMPを増加させ強心作用や血管拡張作用をあらわします。

その作用の仕組みなどから他の急性心不全の治療薬の効果が不十分な場合でも薬効が期待できるなどのメリットが考えられます。

注意すべき副作用として動悸や頻脈、不整脈、頭痛、熱感、血小板減少などがあります。

◎ピモベンダン

心筋の収縮に深く関わるカルシウムイオンに感受性を高めることなどによって心筋の収縮力などを改善する作用をあらわす薬です。

心筋の収縮はカルシウムイオンが筋小胞体と呼ばれるところから放出され、筋原線維のトロポニンCという物質との結合などを経ておこります。

ピモベンダン(商品名:アカルディ®、ピモベンダン「TE」)はこのトロポニンCに対するカルシウムイオンの結合親和性を高める作用をあらわします。またホスホジエステラーゼIII(PDEIII)という酵素を阻害し、心筋の収縮や血管拡張作用などをあらわします。ピモベンダンはこれらの作用によって強心作用と血管拡張作用を併せ持ち急性と慢性のどちらの心不全にも使える薬として承認されています。

注意すべき副作用としては動悸や不整脈、吐き気などの消化器症状、頭痛やめまい、肝機能障害などがあります。

抗不整脈薬

心不全は不整脈の発生を増加させる因子のひとつとなっていて、不整脈を改善する薬である抗不整脈薬が心不全に伴う不整脈を改善する場合が考えられます。一方で、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって逆に不整脈を助長する作用が生じる可能性も考えられます。通常、それぞれの脈の状態と心不全の状態などに合わせて治療が行われ、その中の選択肢のひとつとして抗不整脈薬が選択されることが考えられます。

不整脈薬はその作用の仕組みなどによっていくつかの種類に分かれ、病態などによって選択される薬が異なる場合があります。ここではβ遮断薬やアミオダロンといった心不全を伴う不整脈の治療に有用となっている薬をみていきます。

◎β遮断薬

主に交感神経のβ受容体を遮断する作用をあらわす薬で、心不全や不整脈の他、高血圧症狭心症などの循環器系疾患でも使われる場合がある薬です。

慢性心不全では一般的に弱くなった心臓の機能を補うために交感神経の働きが亢進することによって心臓の動きが過度になり、この状態が続くことで心不全が悪化する傾向にあります。β遮断薬は交感神経の働きを抑えることで、頑張り過ぎている心臓を休ませ心臓への負荷を減らすことで心不全の悪化を防いでいく薬になります。

不整脈のひとつである心房細動においても心拍数を調整することで血行動態の悪化を防ぐ効果などが期待できます。

カルベジロール(主な商品名:アーチスト®)やビソプロロール(主な商品名:メインテート®)などの薬が主に使われています。

カルベジロールやビソプロロールなどのβ遮断薬を心不全治療で使う場合には一般的に少量から投与を開始し少しずつ量を増やしていく漸増法によって行われますが、血圧低下によるふらつきや立ちくらみなどがあらわれる可能性もあるため注意が必要です。また糖や脂質代謝などに影響を及ぼす場合もあり糖尿病や耐糖能異常などがある場合にはより注意が必要となります。β受容体の中でβ2受容体は気管支の拡張などに関わるタイプでβ遮断作用により気管支が収縮し、咳などの呼吸器症状があらわれる場合があります。心不全治療で使われるβ遮断薬の多くは主にβ1受容体に作用し、β2受容体への影響は比較的少ないとされていますが、気管支喘息などの持病を持っている場合には特に注意が必要です。

◎アミオダロン

心室の頻脈や心室細動などの重い心室性の不整脈は心不全における突然死を引き起こす基礎になるとされ、これらの不整脈を改善することで突然死を予防することなどが期待できます。

アミオダロン(主な商品名:アンカロン®)は主に心筋の収縮に関わるカリウムイオンの通り道(カリウムチャネル)を阻害(ブロック)することで不整脈を改善する作用をあらわしますが、心筋の収縮に関わる他のイオンチャネル(ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル)や交感神経のα受容体及びβ受容体への作用もあらわし多様な作用をもつ抗不整脈薬になっていて、2010年には心不全(低心機能)に伴う心房細動に対しても追加承認されています。

注意すべき副作用としては甲状腺機能障害、間質性肺炎、角膜色素沈着、肝障害、徐脈などがあります。間質性肺炎や肺線維症などの肺関連の副作用は特に注意が必要とされ通常、胸部レントゲン胸部CT検査などを必要に応じて実施します。また肺機能の検査以外にも甲状腺機能の検査や眼科受診などを行い経過観察していくことが大切です。

その他の薬:カルペリチド(商品名:ハンプ®)、プロスタグランジンE1製剤、漢方薬など

◎カルペリチド

心臓から分泌され体液量や循環調節に関わるα型ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチド(α-hANP)を遺伝子組み換え法によって製造した薬です。

カルペリチド(商品名:ハンプ®)は主に血管拡張作用と利尿作用をあらわす急性心不全の治療薬として開発され、心拍数を増加させることなく心拍出量を増加させ肺うっ血に伴う呼吸困難などを改善する効果が期待でき、難治性心不全においてカテコラミンなどの強心薬と併用されることも多い薬です。注意すべき副作用としては低血圧(重篤なケースも考えられる)、ショック、不整脈、脱水、電解質異常、肝機能障害などがあります。

◎プロスタグランジンE1製剤(主な商品名:プロスタンディン®、パルクス®、リプル®など)

体内物質のプロスタグランジンE1(PGE1)は血管平滑筋の弛緩による血管拡張作用や血液量増加作用、血小板凝集抑制作用などをあらわします。

PGE1そのものは活性を失いやすい(不活化されやすい)などの理由から医薬品にするための課題がありました。そこでPGE1になんらかの工夫を施すことによって化学的に安定させるなど、より生体内で有用なPGE1製剤が造られました。

アルプロスタジル アルファデクス(主な商品名:プロスタンディン®)はプロスタグランジンE1をα-シクロデキストリン(アルファデクス)という物質と包接化合物を形成することによって安定化させた製剤で、2003年に動脈管依存性先天性心疾患における動脈管の開存に対しても保険承認されています。

動脈管拡張療法に適応があるプロスタグランジンE1製剤にはリポ化といって微細な脂肪乳剤中にPGE1を溶解させた製剤(主な商品名:パルクス®、リプル®)もあります。この製剤は生体内で不活化されにくく、また脂肪粒子が特に障害された血管などに分布しやすい性質を持つとされ目標とする血管に薬剤成分が効率よく集積しやすい特徴があるため、一般的に他のPGE1製剤に比べて少量で同じような効果を得ることが可能であることもメリットと考えられます。

PGE1製剤の注意すべき副作用としては無呼吸(無呼吸発作)、血管拡張作用などによる血圧低下、長期投与による長管骨膜の肥厚などがあります。

◎HCN(Hyperpolarization-activated Cyclic Nucleotide-gated)チャネル遮断薬(コララン®)

心臓は電気刺激によって定期的に動いていますが、その電気刺激が発生する部位を洞結節といいます。この洞結節にあるHCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated)チャネルと呼ばれる部位を抑制することで、脈をゆっくりとさせるのがイバブラジン(コララン®)と呼ばれる薬です。この薬は心拍数を減少させ心臓を休ませることで、心不全の治療に用いられます。

イバブラジンの注意すべき副作用としては、徐脈などの循環器症状、光視症(視野の一部に一瞬光が走って見えるなど)や霧視などの眼症状、便秘や吐き気などの消化器症状などがあります。

◎ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ®️)、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス®)

元々は糖尿病の治療薬として開発された薬ですが、体液量の調節を介した血行動態に対する作用などによりダパグリフロジンは2020年に、エンパグリフロジンは2021年に、それぞれ心不全(慢性心不全)の治療薬としても保険承認されています。

ダパグリフロジンやエンパグリフロジンはSGLT2阻害薬と呼ばれる種類の薬で、前述したようにこの薬は主に糖尿病治療薬として使われています。この薬がどのように心不全に対して効果をあらわすのかを考えるには、この薬が作用する腎臓の一部で何が行われているのかをみていくと、わかりやすいかもしれません。

腎臓の尿細管では、原尿中に含まれる電解質などの有用物質を水(水分)と一緒に血管内(血液中)へ戻す再吸収が行われています。近位尿細管という部位では、糖(ブドウ糖グルコース)などの再吸収が行われていて、その際、尿細管から血管内へ糖などを輸送する役割を担っているのが、SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2:ナトリウム・グルコース共輸送体2)という物質です。

SGLT2阻害薬はその名の通り、SGLT2の働きを阻害することで、本来、血管内へ戻るはずだった糖を原尿中へ留まらせ、そのまま尿として体外へ排泄させることで結果として血糖値を下げる効果が期待できる薬になります。またSGLT2を阻害すると、糖と一緒に血管内へ戻るはずだった水分やナトリウムイオンは尿として体外へ排泄されるため、体液量を減少させることなどにもつながります。この体液量の調節を介した血行動態に対する作用などによりSGLT2阻害薬には、心機能における数値(左室駆出率など)の改善や心筋細胞の線維化及びアポトーシス(自滅)を抑えることで心臓を保護する効果なども期待できるとされています。

ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬で注意すべき副作用としては、多尿による脱水、尿糖が増えることによる尿路や性器における感染症、ケトアシドーシス、消化器症状(便秘、口渇、下痢など)、循環器症状(血圧変動など)、低血糖などがあります。

脱水に関しては腎機能が低下している人や高齢者などは特に注意が必要とされます。また心不全の治療では、利尿薬が使われることがしばしばあり、このSGLT2阻害薬と併用するケースも考えられますが、その際には利尿作用が過度に増強される可能性もあるため、医師や薬剤師から注意事項などを事前にしっかりと聞いておくことが大切です。

◎ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ®)

cGMP(環状グアノシン一リン酸)という心筋や血管の機能調節に関わる物質の産生を促すことで心不全の進行を抑える薬です。

心不全や心血管疾患では、NO(一酸化窒素)の産生低下やNOの受容体であるsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)の機能不全(NO利用能の低下など)が生じることで、病態のさらなる悪化につながっていくとされています。

ベルイシグアトはsGC刺激薬と呼ばれる薬のひとつで、sGCを直接刺激する作用や内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用により、cGMPの産生を促すことで心不全(慢性心不全)を改善する効果などが期待できます。

ベルイシグアトの注意すべき副作用としては、血圧低下などの循環器症状、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、などがあります。この中でも血圧低下(低血圧)は比較的あらわわれやすいとされ、特に同じく心不全治療で使われることがある硝酸塩製剤やその関連薬(硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド、ニコランジルなど)を併用する場合には降圧作用が増強されることで、過度な血圧低下を引き起こす可能性が高くなります。医師などから諸注意があった際は、その説明をしっかりと聞いておき、仮にふらつきなどの気になる症状があらわれた場合には放置せず、医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

◎漢方薬

漢方医学では「気・血・水(き・けつ・すい)」という言葉を使って生命活動や体内の状態を表現することがあります。例えばうっ血性の心不全では瘀血(おけつ)といって血(血液や血流など)の滞りに加えて水毒(すいどく)といって水(血液以外の体液)の分布・代謝・分泌が体内で偏在する状態とも考えられ、これらに気が不足している気虚(ききょ)などが加わる場合も考えられます。一般的には個々の状態に適切とされる漢方薬が選択され、なんらかの理由で利尿薬や強心薬などの増量がしにくい場合やそれらの薬で心機能が改善しない場合などの選択肢になることが考えられます。ここでは心不全の症状改善が期待できる漢方薬をいくつかみていきます。

・木防已湯(モクボウイトウ)

一般的には、顔色が悪く、咳を伴うような呼吸困難、浮腫、動悸などの症状に適するとされ、心臓性喘息などの心臓にもとづく疾患や腎疾患などにも効果が期待できるとされています。

炎症作用、利水作用などが期待できる防已(ボウイ)をはじめ石膏(セッコウ)、桂皮(ケイヒ)、人参(ニンジン)の計4種類の生薬から構成されています、

木防已湯は心不全治療において不整脈などなんらかの理由によって利尿薬や強心薬の増量が行いにくい場合やACE阻害薬の副作用によって空咳が生じている場合などにおいて有用となることが考えられます。

・防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)

一般的には水ぶとりの体質があり浮腫、関節の腫脹や疼痛、疲労感があるなどの症状に適するとされ、これらの症状を伴う慢性腎炎などの腎疾患、肥満症、月経不順、関節炎などに対しても効果が期待できるとされています。

先ほどの木防已湯(モクボウイトウ)にも含まれていた防已(ボウイ)の他、黄耆(オウギ)、蒼朮(ソウジュツ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)の計6種類の生薬から構成されています。

木防已湯と同様になんらかの理由によって利尿薬や強心薬の増量が行いにくい場合やACE阻害薬による空咳が出ている場合などに有用とされ、どちらかというと防已黄耆湯は体力などが不足しがちな虚証(きょしょう)の証に適するとされています。

・五苓散(ゴレイサン)

水滞(水毒)など体内の「水」の改善に効果が期待できる漢方薬で、浮腫、下痢や吐き気などの消化器症状、頭痛、めまいなどの症状を改善する効果が期待できる漢方薬です。

猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成され、名前(方剤名)の由来は種類の生薬と主薬となる猪からとったものです。(味猪苓散が詰まってできた名前とされています)

猪苓、沢瀉、蒼朮、茯苓といった生薬は水分代謝や水分貯留に関わる症状の改善が期待できるとされています。香辛料のシナモン(ニッキ)としても使われる桂皮は末梢血管拡張作用、鎮静作用、発汗解熱作用などにより頭痛や発熱に対する改善作用の他、水分代謝調節作用なども期待できる生薬とされています。

心不全治療では利尿薬や強心薬では利尿が不十分な場合やこれらの薬でも心機能が改善しない場合などで有用とされています。また漢方薬の中でも速効性が期待できる薬のひとつであり、それほど証によらずに使える点などもメリットと考えられます。

この他、冷えや貧血、咳などを伴う症状に対して苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)、滋養強壮や水分循環などを改善する効果が期待できる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、不整脈や呼吸困難などはあり浮腫があまりなく利尿薬を使うと脱水などを引き起こす可能性がある状態などには炙甘草湯(シャカンゾウトウ)など、一般的に個々の症状や病態などに合わせた漢方薬が使われることが考えられます。

・漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用が起こる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や低カリウム血症などがあり、ループ利尿薬などの電解質バランスが乱れる可能性がある利尿薬を服用している場合には特に注意が必要です。これらの副作用が起こる可能性は比較的稀とされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

2. 輸液治療

心不全の場合に輸液を行うことは心不全を悪化させるリスクを伴います。全身に送り出す血液の量が多ければ多いほど心臓に負担がかかるため、心臓の機能が低下している場合やバテている場合には循環血液量を減らす必要があります。そのため、心不全の際にはできるだけ輸液量を減らす試みがなされます。

しかし、心不全で輸液が必要な場合があります。特に急性心不全で血圧を保てない場合や右心不全や肥大型心筋症の特殊な状態では、輸液をしっかりと行う必要があります。