2017.04.30 | ニュース

医師が思う「死ぬかもしれない」はどういう意味なのか

サプライズクエスチョンの研究の調査から

from CMAJ : Canadian Medical Association journal = journal de l'Association medicale canadienne

医師が思う「死ぬかもしれない」はどういう意味なのかの写真

重病患者の余命を医師が察知することは、終末期の苦痛を緩和(かんわ)するために重要になります。余命を医師の主観で予想したときに予想通りになる割合について、これまでの研究の調査が行われました。

カナダのトロント大学の研究班が、サプライズクエスチョンの予測能力を調べ、結果を医学誌『CMAJ』に報告しました。

サプライズクエスチョンとは、治療にあたる医師が自分自身に「この患者が1年後に亡くなったら私は驚くだろうか?」と問いかけることで、患者に対する総合的な印象を言葉にし、緩和ケアに重点を置くべきタイミングを計る方法です。

サプライズクエスチョンは患者の何かを計測しているわけではありません。医師の主観を言い換えたものです。しかし、医師は多くの経験から、患者が死を迎えるまでの様子を詳しく想像できます。検査値などに表れる以上に、患者の見た目などの小さな特徴を総合して、死が近付いていることを察知できているかもしれません。

この研究は、サプライズクエスチョンが緩和ケアに適した患者を選び出すために役立つかという観点から、過去に行われたサプライズクエスチョンの研究の報告を収集して調査したものです。

予測能力の評価のため、サプライズクエスチョンによる予測に対して、患者が実際に6か月から18か月の間に死亡したかどうかを基準としました。

 

条件に合う16件の研究が見つかりました。心不全の患者、がんの患者、透析治療中の患者などを対象とした研究がありました。得られたデータから次の結果が得られました。

6か月から18か月の間の死亡に対して、プールした予後特性は[...]陽性的中率37.1%(95%信頼区間30.2%-44.6%)、陰性的中率93.1%(95%信頼区間91.0%-94.8%)だった。

データを統合すると、医師の予想で「亡くなっても驚かない」とされた場合の37.1%が実際に死亡し、医師が「亡くなったら驚く」と予想した場合の93.1%が実際に生存していました

患者の病気によって分けて計算すると、がん患者に対しての予想のほうが、がん以外の患者に対する予想よりも正確でした。

研究班は、「亡くなったら驚く」という予想が93.1%は的中したことに対して、「この結果は主に調査に含まれた研究の中で死亡した人が少なかったことによる。たとえば対象者の12%が死亡する場合には、コインを投げて予想しても、死亡しないという予想は88%的中する」と解釈しています。

結論としては「サプライズクエスチョンは死亡を予測する手段としては働きが悪いかまたは軽度であり、がん以外の病気に対してはより悪かった」と述べています。

 

サプライズクエスチョンについての研究を紹介しました。サプライズクエスチョンによって、つまり医師が自分の心に問いかけることによって、余命が短い人を正確に言い当てるのは難しいのかもしれません。

サプライズクエスチョンが診断的に役に立つ可能性には限界があるかもしれませんが、ここで示された推計値についてはいろいろな受け止め方ができます。

 

たとえば、医師は実際に亡くなる人よりもかなり多くの人を「亡くなっても驚かない」と予想しています。「亡くなるだろう」という予想ではなく「驚かない」という予想は、そもそも予想が難しいことを背景にしています。医師は予想外の出来事で急に亡くなる患者も時に目にするため、急変の可能性はごく小さいと考えていても、「亡くなっても驚かない」と答えるかもしれません。患者の立場で耳にすると不安になる発言が、実は「生きられる見込みのほうが大きいと思うが…」という含みを持っている場合はあるかもしれません。

 

反対に、1年以内の余命を正確に予想するよう医師に求めるのは現実的でないとも言えるでしょう。難しい病気の診断を受けて余命を知りたくなる人は多いですが、それは医師にもわからないことです。

 

予想に考えを縛られなくても、「正確な予想はできない」という前提で治療を考えることができます。たとえばここで紹介した研究は「緩和ケアを重点的に提供する患者を選び出す」という観点を持っていますが、緩和ケアは余命に関わらず、苦痛があれば和らげるものとして提供されるべきです。余命がわからなくても症状の重さに基づいて緩和の必要性を判断するという考え方も成り立ちます。

予想は外れるものです。医師の能力が足りないせいではありません。今の状況でできる一番いいことは何かを考えることが大切です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

The "surprise question" for predicting death in seriously ill patients: a systematic review and meta-analysis.

CMAJ. 2017 Apr 3.

[PMID: 28385893]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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