たはつせいのうほうじん
多発性のう胞腎
両側の腎臓にたくさんの「のう胞」ができた影響で、腎臓の働きが少しずつ低下していく病気
8人の医師がチェック 116回の改訂 最終更新: 2024.02.21

多発性のう胞腎の基礎知識

POINT 多発性のう胞腎とは

腎臓にのう胞(液体の入った袋)が多くできる病気で、遺伝を主な原因とします。血尿、たんぱく尿、背中の痛み、腹部の膨らみなどの症状が現れ、進行性に腎臓の機能が低下していきます。現在のところ多発性腎のう胞に有効な治療法はなく、多くの人は腎不全になり血液透析などの腎代替療法が必要になります。多発性のう胞腎の疑いがあると言われたら内科または腎臓内科を受診して定期的に腎機能などを確認するようにしてください。

多発性のう胞腎について

  • 段々と両側の腎臓に「のう胞=水ぶくれ」ができて、正常な腎臓の範囲が減っていくことで、腎臓の働きが少しずつ低下していく病気
  • のう胞自体は悪性ではないが、周囲の正常な腎臓の組織を圧迫することによって腎臓の働きが障害される
  • 遺伝子の異常により発病するとされる
    • ただし、同じ遺伝子の異常があっても腎臓の悪くなるスピード、のう胞の増えてくる時期は異なり、病気の状況は人によって違ってくる
  • 日本で医療機関を受診している患者は約3万人と推定される
    • 病院で診断を受けていない人を含めると、10万人~20万人の患者がいると言われる
  • 遺伝子の種類によって「成人型」と「小児型」に分類される
    • 多くは成人型(通常成人になるまで症状は出現しない)
    • 小児型は極めてまれ(ただし、子どもの頃に発症すると重い症状が出る)
  • 成人型の多発性のう胞腎は、最も多い遺伝性の腎臓の病気
    • ただし、「家族にその病気があると気づかれなかった、知らなかった」ことなどを含めると、実際に20~40%の人では、家族歴(家族がこの病気にかかっていること)が確認できなかったという報告もある

多発性のう胞腎の症状

  • 「成人型」の症状
    • 40歳以降に発症することが多い
    • お腹の張りや痛み、食欲低下、疲労感、血尿、高血圧など
    • 最終的に慢性腎臓病腎不全になる
  • 「小児型」の症状
    • お腹の張り、腎臓の働きの低下
    • 「小児型」の場合は生まれてまもなく死亡することもある
  • 合併症として肝臓や膵臓、肺にものう胞ができる(肝のう胞など)
  • 「成人型」の患者の約10%には、脳動脈瘤(脳の血管の一部が膨れて飛び出したもの)が見られる
  • 脳動脈瘤以外の合併症として尿路感染症尿路結石などもある

多発性のう胞腎の検査・診断

  • 画像検査:のう胞の有無、位置、大きさを調べる
    • 腹部超音波検査
    • 腹部CT検査
  • 血液検査:腎機能を調べる
  • 遺伝子検査:遺伝子の異常を調べる
  • 必要であれば、肝のう胞脳動脈瘤に対する検査などを行う
  • 以下のような病気と区別が必要な場合がある

多発性のう胞腎の治療法

  • 現時点では多発性のう胞腎を完全に治療することはできないため、対症療法が中心
  • 対症療法
  • 強い希望がある場合には、遺伝子検査で子供に病気が遺伝する確率を調べることも可能である
    • ただし、現状では一般的な検査とは言えず、またその検査ができる医療機関も非常に限られている
  • 長期的な経過
    • 多発性のう胞腎の患者の半数以上が60歳頃までに重症の腎不全となる
    • 重症腎不全になった場合は透析か腎移植を行う必要がある
    • 透析治療について詳しくは「慢性腎臓病」を参考

多発性のう胞腎に関連する治療薬

トルバプタン(V2受容体拮抗薬)

  • 腎臓(腎集合管)に作用し、利尿作用などをあらわすことで心不全や肝硬変などによる過度な体液貯留などを改善する薬
    • バソプレシンは抗利尿ホルモンとも呼び、腎集合管にあるV2受容体を介して血管内へ水分を吸収させることで水分調節をおこなう
    • 心不全や肝硬変などでは体内の水分(体液)が過度に貯留する場合がある
    • 本剤はV2受容体に拮抗的に作用し、水分を排泄する利尿作用をあらわす
  • 本剤は一般的な利尿薬でおこる電解質排泄の増加を伴わない利尿作用をあらわす
  • 腎のう胞の増大を抑える作用もあわらし、多発性のう胞腎の治療に使われる場合もある
  • 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群における低ナトリウム血症の改善に使われる場合もある
トルバプタン(V2受容体拮抗薬)についてもっと詳しく

多発性のう胞腎の経過と病院探しのポイント

多発性のう胞腎が心配な方

多発性のう胞腎は初期には目立った症状がないのですが、腎臓ののう胞(液体の入った袋)が大きく数多くなるに従って、発熱の原因となったり、血尿や腹部の圧迫感を引き起こしたりといった特徴をもつ病気です。また多くには遺伝性があるため、ご家族に多発性のう胞腎があってご自身に上記のような症状がある場合には、一度腎臓内科のある病院の受診をお勧めします。

健康診断(腹部エコーの健診)などで多発性のう胞腎が見つかった場合には、検査結果を持参して医療機関を受診してください。家族に多発性のう胞腎の人がいて、自分も検査を受けたいという方も同様です。

多発性のう胞腎の診断は腹部超音波検査や腹部CT検査、腹部MRI検査を用います。診断がついた後の定期的な検査は腹部CT検査や腹部MRI検査で行います。また、多発性のう胞腎と診断された時点で一度頭部MRI(頭部MRAとも呼ばれます)を受けることが勧められます。これは、多発性のう胞腎の方は脳動脈瘤が見つかることがあるためです。

多発性のう胞腎に関連する診療科の病院・クリニックを探す

多発性のう胞腎でお困りの方

多発性のう胞腎は、残念ながら根治が困難です。水分を多めにとったり、高血圧を治療したりすることで進行のスピードを抑えることは可能です。急激に悪化しないことを確認しつつ、何かしらの症状が出てきたらその都度、症状に対する治療を行うということになります。

多発性のう胞腎が進行して、腎臓の機能が大きく低下してしまった場合には、人工透析(血液透析、腹膜透析)と呼ばれる治療が必要となります。腎臓移植も選択肢の一つではありますが、他の方から腎臓の提供を受けなければならないため、現在の日本では多くの方が受けられる治療ではありません。

【血液透析と手術について】
血液透析のためにまず血管の手術を受ける必要があります。手術を行っている科は病院ごとに異なりますが、血管外科があれば血管外科が担当します。総合病院で、外科と腎臓内科が両方あるようなところでは、血管の手術が行えるところが多いです。一部のクリニックでは日帰り手術で行っているところがあります。その上で、血液透析が行えるクリニックや病院に週3回通院するというのが標準的な方法です。多発性のう胞腎によって低下した腎臓の機能は回復が見込めないため、週3回、1回3時間の通院を生涯続けることになります。従って、通院先選びは極めて重要です。医療機関のスタッフ(医師や医師以外も)が信頼できることに加え、通いやすい立地にあるということも無視できません。午前午後の2枠で透析を行っているところや、朝昼晩の3枠で行っているところ、近所から送迎バスが出ているところなど様々な条件があります。ご自身の中で大切にしたい条件を考えた上で、いくつかの箇所を見学に行って決めるのが良いです。

【腹膜透析について】
腹膜透析の場合、手術を受けるのは血液透析と変わりありませんが、退院後はご自身で自宅で透析を行います。正しい手順で行えないと体内に菌が入ったり、手術で挿入したカテーテル(体の内側と外側をつなぐ管)の交換が必要になってしまったりなどのリスクがあるため、身体的にも精神的にも生活が自立している人に向いた治療と言えます。具体的な流れとしては、腎臓内科のある医療機関に入院の上で、手術を受けつつ、自宅での透析処理の方法や注意点をしっかりと習得し退院します。腎臓専門医のいる病院を選択されるのが良いでしょう。日本では血液透析を受ける人が多いですが、腹膜透析に積極的に取り組んでいる病院もあるので、興味がある人は探してみてください。

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