しんふぜん
心不全
心臓の機能が低下して血液を十分に送り出せない状態。さまざまな心臓の病気が原因となり起こる
18人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2023.10.17

心不全の人が気をつけるべき注意点:食事、予防、医療機関との上手な関わり方など

心不全は心機能が低下することで身体のバランスが崩れる病気です。心不全のある人は、生活のしかた一つで症状が強くなったり、症状が改善したりします。このページではどういった生活を送ると良いのかについて説明します。

1. 心不全の人は運動してよいのか?どのくらい心臓に負担をかけてよいのか?

心不全になってすぐに息が切れるようになると、動くのがつらくなって生活の範囲が狭まります。するとますます動かなくなって心肺機能が落ちてしまいます。このように心不全はどんどん悪化するサイクルに陥ってしまう可能性をはらんでいます。

一方で、運動は心不全のこうしたサイクルから解放してくれます。運動することで心肺機能が高まると、生活範囲が広がります。生活範囲が広がるともっと運動するようになって、心肺機能がさらに高まります。

心不全の人が運動することは良いことなのですが、さじ加減がポイントになります。過剰な運動は息苦しさを起こすだけでなく、身体を疲弊させてしまい、かえって動けなくさせてしまいます。心不全の人が身体を動かす際には、適度な運動を行うことが非常に重要になります。苦痛にならないというのが簡単な目安です。

身体を動かすことは、心肺機能を改善させることだけでなく、精神的にも良い効果があります。心不全患者は気分が沈みやすいことが知られていますが、身体を動かしながらやれる範囲が増えていく状況は気分が改善します。

心不全の患者に対して心臓リハビリテーションが行われます。どのくらい自分は運動して良いのかがわからない人は、心臓リハビリテーションの際に身体を動かす強度を参考にすると良いです。分からないことはリハビリの先生(理学療法士、作業療法士など)に聞いてみることも良いでしょう。心臓リハビリテーションについてもっと詳しく知りたい人はこちらも読んでみて下さい。

2. 心不全は完治する病気なのか?死亡率はどのくらいか?

心不全は心機能が低下することで身体のバランスが崩れる状態です。そのバランスの崩れ方はさまざまです。例えば心筋梗塞によって急性心不全が起こった場合には完治することがありますが、心不全の多くは完治することが難しいです。そのため、治療薬を中心に心臓と身体のバランスを整えることを重点的に考えます。完治することは難しくとも、できるだけ悪化させないことを目指して治療することになります。

心不全は死亡率が高い病気です。心臓は全身に血液を送る臓器ですので、心機能が低下すると多臓器不全になりやすいです。

Acute decompensated heart failure syndromes(ATTEND)registryという前向き研究があります。1,110人を追跡研究した結果、心不全で入院治療を受けた人の7.7%は入院中になくなっていたとなっています。このデータは2010年にまとめられたものですので、現在の医療事情と多少異なります。とはいえ、この数字は心不全で入院した場合の13人に1人は亡くなることを意味していますので、心不全の死亡率が非常に高いことがわかります。

また、JCARE-CARD(Japanese cardiac registry of heart failure in cardiology )研究によると心不全の1年生存率はおよそ90%となっています。これは1年の間に10人に1人が亡くなることを意味します。

これらのデータは平均的なものです。つまり、重症の心不全であったり、他に持病があったりしたら死亡率はもう少し高いものになります。また、逆にもう少し数字が良くなることもあります。今行われている治療薬を正しく飲んで節制した生活をすることで、元気で過ごせる時間は何もしない場合よりも良くなります。

参考文献
・Effects of atrial fibrillation on long-term outcomes in patients hospitalized for heart failure in Japan. A report from the Japanese cardiac registry of heart failure in cardiology (JCARE-CARD). Circ J 2009; 73: 2084-90
・Acute decompensated heart failure syndromes (ATTEND) registry. A prospective observational multicenter cohort study: rationale, design, and preliminary data. Am Heart J 2010 ; 159 : 949-55

3. 心不全の人は食事にどんなことを気をつければよいのか?

軽度の心不全の場合には、特に食事に制限はありません。もちろん暴飲暴食はよくありませんが、多少羽目を外してしまってもしばらく節制した日々を送れば元通りの状態に戻ります。しかし、心不全がある程度進行すると、生活に問題が出てくるとすぐに状態が悪化します。この章では特に気をつけなければならないことに関して説明します。

塩分について

心不全がある時には塩分を摂りすぎてはいけません。塩分を多く摂ると身体に水が増えて浮腫みます。体内の水が増えると血液量も増えるため、心臓は多くの血液を送り出さなくてはならなくなるため心不全が悪化します。

心不全と言われた人は摂取塩分を1日7g以下にすることを目標にして下さい。重症の心不全の場合にはさらに厳しく1日3g以下にすることが必要な場合もあります。自分の食事の塩分含有量がわからない人やどういう食事を摂ったら7g以下に収まるのか知りたい人は、管理栄養士に相談すると良いです。

水分について

水分を摂りすぎると体内の水が増えます。体内の水が増えると心臓の負担も増えますので、心不全の人は水分を摂りすぎないことが大切です。

1日の水分摂取量は身体の大きさや季節、生活スタイルなどで異なります。自分がどの程度の量飲んで良いのかに関しては、日頃から診てくれている主治医に相談してみて下さい。

アルコールについて

アルコールは適度であれば冠動脈疾患(心筋梗塞狭心症など)の発病を押さえると言われています。一方で、飲み過ぎると脈拍が増えたりすることからも、明らかに心臓の負担が増えます。

飲酒は適度な量を摂取することを心がけるのがとても重要です。

4. 心不全の人は食事以外にどんなことに気をつけて生活したら良いか

心不全の人は食事以外にも気をつけるべきことは少なくありません。気をつけるべきことを習慣化して、心機能が今よりも低下しないように心がけて下さい。

運動について

上で述べた通り、心不全患者の運動は制限してはいけません。自分のやれる範囲での運動を行うことで、心機能や心不全による症状は改善します。苦しいから動きたくないという気持ちになるのは仕方のないことですが、無理せず身体を動かすことが心臓に良いということを忘れずに、心機能が改善していく自分を楽しんでみて下さい。

ストレスについて

一般的にストレスは万病のもとと言われています。すべての病気でストレスが問題となるかは明らかになっていませんが、心不全に関してはストレスが悪化要因になる可能性は高いです。

ストレスがかかると体内で抗ストレスホルモンと呼ばれる物質が増えます。抗ストレスホルモンという言葉はさまざまな物質の総称で、カテコラミンや甲状腺ホルモンといった心臓に動くように指示するホルモンが含まれます。つまり、ストレスは心臓に負担をかける可能性が高いので避けたほうが良いです。

とはいえ、ストレスを完全になくして生きていくことは難しいです。そこで、上手な息抜きをしていくことが大切になります。どんな息抜きをすれば良いかは一概に言えません。音楽を聞いたり散歩をしたりと、息抜きの方法は人それぞれですが、自分が気楽になれる時間を設けるようにして下さい。

喫煙について

タバコは心臓にも肺にも悪影響を与えます。心不全の人は禁煙が強く勧められます。今心不全でない人でも、タバコは心臓病の原因になるので、禁煙して下さい。

現在は禁煙外来を行っている医療機関は多いです。禁煙外来を行っている医療機関のリストがありますので参考にして下さい。

睡眠について

睡眠不足や不規則な生活は疲労を残します。心臓にも良い影響はないので、心不全の人は睡眠をしっかりととるようにして下さい。

しかし、睡眠をしっかり取っているつもりでもなんだか疲れがなくならないという人もいます。心不全には睡眠時無呼吸症候群合併しやすいことが分かっています。もしかしたら睡眠時無呼吸症候群の可能性もあるので、原因不明の疲労感がある場合は一度主治医に相談すると良いです。

感染予防について

心不全のある人が感染症になると、重症になりやすいだけでなく、心機能が悪化することがあります。そのため、感染予防は非常に重要です。

感染を予防するためには次のことを気をつけてください。

  • 手洗いを習慣化する
  • 予防接種を受ける(特にインフルエンザウイルスワクチンと肺炎球菌ワクチン、コロナワクチン)
  • 人混みの中に入るときはマスクを着用する

これらを徹底すれば、感染症をもらう機会をだいぶ減らすことができます。コロナ禍を経験した我々はワクチンや感染予防について知識が深まっていると思います。是非これを良いきっかけとし、感染予防行動を常習化するようにしてください。

体重について

心臓が上手に血液を送り出せないと、腎臓の血流が減ってしまい、結果的に尿の量が減ります。尿が減る状況では体内の水分が貯留しやすいので、心不全が悪化すると体重が増えることがあります。自分の体重を毎日測定して、観察してみて下さい。体重は心不全の状況のバロメーターとして参考になります。

診察について

心不全は定期的な診察が必要です。体調が良いからといって診察を受けに行かないといったことはしないで下さい。また、自覚症状として体調が悪い場合には、次回の診察日まで我慢することなく、早めに受診することも大切です。

次の章では、どういったときに医療機関を受診するべきなのかについて、もう少し具体的に説明します。

5. どういったときには病院にかかったほうが良いか

心不全は簡単には根治しない場合が多いです。薬を使いながら状態が崩れないようにする治療を行います。長期的に定期通院することになりますが、体調次第では自覚症状が悪化することがあります。どういったときは受診をしたほうが良いのでしょうか。

受診が必要な状態

今まで感じたことがない新たな症状が出た場合には医療機関にかかって下さい。また、次のような症状が悪化した場合にも受診が望まれます。

  • 動くと息が切れる
  • 動くと動悸がする
  • 咳が出るようになった
  • 足がむくむ
  • 体重が徐々に増えている
  • 風邪気味だ

心不全の人は重症になりやすいので、何か異変を感じたらあまり無理をせずに医療機関にかかって下さい。

入院が必要な状態

心不全の人に強い症状が出たら入院しなくてはならなくなるかもしれません。特に次に挙げる症状は入院の必要があるほど重症の可能性があるので、素早く医療機関を受診して下さい。

  • 動かなくても息が切れる
  • 動かなくても動悸がする
  • 体重が増え続けるor減り続ける
  • 咳や痰が止まらない
  • 意識がもうろうとする

自力で病院にたどり着けそうにないと思うほど苦しければ救急車を呼んでもいいです。

もちろん救急車はタクシーではありませんし、出動するたびに多額の国費が使用されますので、軽症の人が救急車を呼ぶことは間違っています。しかし、上記の症状が出て全く動けなくなっている場合には、救急車を呼んででも医療機関にかかるようにして下さい。

6. 心不全を予防する対策にはどんなものがあるのか

心不全になると息苦しさなどの症状が出現し、病状が進行するとともに症状はさらに悪化します。そのため、心不全では「悪化の予防」も「発症の予防」もとても大切になります。

心不全と言われている人の悪化予防

心不全の人は病状が悪化しないようにしなくてはなりません。そのためには上で述べたようなことに気をつける必要があります。具体的には、禁煙・減塩・肥満改善・水分制限・節酒・服薬を怠らないなどです。

心不全と言われていない人の発症予防

心不全と言われていない人はよほど健康を意識しない限り心不全を予防したいと思わないかもしれません。しかし、実際心不全になると息苦しさは辛いです。身体を動かすのも大変になりますので、しっかりと予防する必要があります。

心不全にならないために心がけたいことが以下になります。

  • 禁煙する
  • 減塩する
  • 節酒する
  • 適度な運動をする
  • 持病を悪化させない

特に高血圧症脂質異常症不整脈の持病がある人は、これらをきちんとコントロールすることが大切です。

7. 心不全は再発するのか

心不全が治った状態あるいは小康状態になってからまた悪くなることがあります。そのため、日常生活から注意事項に気をつけておく必要があります。冠動脈疾患(心筋梗塞狭心症など)では治療によって完治することがありますが、再発が起こりやすいです。

心不全に再びならないためにはどういったことに気をつければ良いのかは、上の章(心不全を予防する対策にはどんなものがあるのか)で説明している内容を参考にして下さい。

8. 心不全の末期とはどんな状態か

日本循環器学会と日本心不全学会は心不全のことを「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり生命を縮める病気」と定義しています。だんだん悪くなるという表現からも分かる通り、心不全自体が末期というわけではありません。

心不全はいわば「心機能が低下することで全身のバランスが崩れた状態」です。このバランスが大きく崩れて自力生活が営めない上に、息切れなどの苦痛が目立つ状態が心不全の末期になります。

心不全の末期になると残された時間はあまりないことがほとんどです。心不全が末期になったときには、いろいろなことを考えてどういった治療をするべきを決定します。

  • 残された時間でどういった生活をしたいか
  • どこで生活したいか
  • 苦痛の緩和をどうやって行うか
  • 延命治療を行うか

上に挙げたものは一例です。これらは本人の生き様や価値観はもとより、家族や周囲の人の思いも関わってきます。患者さんは自分の状況を理解した上で、自分の関わる人達に対して自分はどういう思いであるかを伝えておく必要があります。病状が進んでくると冷静な判断が難しくなってくるため、あらかじめ話し合う場を設けておくほうが良いです。

9. 心不全に名医はいるのか

筆者は医師です。「自分は◯◯病なんだけど、名医を紹介して欲しい」と言われることはしばしばあります。そのたびに言葉に詰まります。

名医を判断する軸はさまざまです。

  • 知識がある
  • 経験がある
  • 技術がある
  • 人当たりがよい
  • 話を聞いていて納得できる
  • 話をよく聞いてくれる
  • 見た目が好みである

極論から言うとここに挙げた軸のどれもが正解です。結局診療を受けるのは患者さんですので、名医かどうかを判断するのも患者さんです。他人に名医と勧められて受診した先の医者が自分と合わないようでは、名医とは感じられないことでしょう。

結局のところ自分が信頼できると感じる医者が名医です。名医に巡り合うためにいろいろな情報を仕入れるのは非常に大事ですが、仕入れた情報を鵜呑みにするのは避けたほうが良いです。

10. 病院や診療所(クリニック)との上手な関わり方

いざ自分が病気になってみると、大きい病院のほうが安心できると考える人は多いでしょう。確かに大きな病院のほうが医者の数は多いですし、検査の選択肢は増えます。しかし、その分待ち時間が長かったり、あまり話を聞いてもらう時間がなかったりする場合もあります。クリニックの方が比較的すぐに見てもらえることが多く、なにより自宅のすぐ側にあって通いやすいというメリットもあります。

そこで、各々のメリットを取るような形で、日頃は近くのクリニックに通院して、何か特別な検査を受けるときや状態が悪化したときには大きい病院を紹介してもらうという関わり方が良いかもしれません。

しかし、この方法も一つの関わり方に過ぎません。自分は待ち時間が長くとも大きな病院にかかっている方が安心するという人もいれば、近くの開業医の先生と喋りながら診察をうけるのが安心するという人もいます。心不全は長期間通院する必要のある病気ですので、自分にあった通院のしかたを探してみて下さい。