しんふぜん
心不全
心臓の機能が低下して血液を十分に送り出せない状態。さまざまな心臓の病気が原因となり起こる
18人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2023.10.17

心不全とはどのような病気か?原因、症状、検査、治療など

心不全は心機能が低下して全身のバランスが崩れた状態です。心機能が低下する原因にはさまざまなものがあります。このページでは心不全の原因や状態について詳しく説明します。

1. 心臓はどのような機能を担っているのか

心臓は全身に血液を送り出す臓器です。心臓が送り出す血液は全身に酸素や栄養を届けます。

心臓が動きを止めてしまった状態(心停止)では自力で生きていくことはできません。一方で、心臓は1分間で60回程度鼓動を打ちます。これは1日に86,400回鼓動を打つことになり、1年間ではおよそ3,150万回、80年の一生でおよそ25億回という計算になります。人間が生まれてから死ぬまで、脈拍の早さに変化はあれど、一定のリズムで25億回鼓動を打てる心臓はどのような仕組みでできているのでしょう。

心臓の働きについて

心臓の働きの大事なポイントは「心臓が止まらずに動くこと」と「心臓が効率よく血液を送り出すこと」の2つです。心臓が動かなくなったらすべての臓器が働かなくなるので、この両方が適切に機能していることが大切です。

血液を安定して全身に巡らせるためには心臓が止まらないことが大切です。心臓の動きが不安定になると、血液が効率よく全身に回らなくなります。もう少し詳しく心臓の動く仕組みについて考えてみます。

心臓は電気信号で動いています。電気といっても家庭用電源のような高圧電力で動いているわけではなく、非常に微量な電気で動いています。洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部位が定期的に電気信号を発信して、信号が心臓内に存在する電気回路(電気伝導系)を伝わっていくことで心臓が動きます。

【電気伝導系の図】

図:心臓の伝導系。洞結節で発生した信号が各部に伝わっていく。

また、心臓が効率よく全身に血液を送り出すための仕組みがあります。心臓は4つの部屋(右心房右心室左心房左心室)に分けることができ、血液を送り出す力が強いのは右心室と左心室です。右心室は肺に血液を送り、左心室は体全体に血液を送ります。

心臓の部屋には血液が満たされており、心臓が収縮すると血液が押し出されます。心臓の4つの部屋には入口と出口がありますが、単純に心臓が収縮するだけでは血液が逆流することもありえます。そのため、心臓の部屋には血液の逆流防止弁がついており、血液の逆流を予防しています。この逆流防止弁は血液が一方向に効率よく流れるのを助けています。

体循環と肺循環

心臓は隣りにある肺と密接な関係にあり、血液を直接やり取りしています。

肺から心臓(左心房)に戻ってきた血液は隣の左心室から全身に送り出されます。全身で酸素を消費された血液は右心房に戻ってきます。この流れを左心系あるいは体循環と言います。また、全身から心臓(右心房)に戻ってきた血液は右心室から肺に送り出されます。肺で酸素を取り込んだ血液は左心房に戻ります。この流れを右心系あるいは肺循環と言います。心臓は1つしか存在しませんが、肺循環と体循環の2つの血液の巡りを担っている臓器なのです。

肺循環と体循環に関して簡単に説明しましたが、言葉だけだと少し分かりにくいので下の図を見て下さい。

【体循環と肺循環の図】

図:血液の循環と酸素の受け渡しの説明。

ここで注目するべきは、体循環と肺循環は一本の直列回路ですので、同じ量の血液が流れているということです。つまり、肺の中には全身から戻ってきた量と同じだけの血液が入ってくることになります。肺には全身分の血液が流れ込んで酸素を取り入れています。

心臓がうまく動くためのポイントまとめ

以上のように、心臓が定期的に動くために、無駄のないシステムが存在します。このシステムが働くことで、25億回の鼓動が安定して供給されるのです。

【心臓がうまく働くためのポイント】

  • 止まらずに拍動を保つための電気回路
    • 定期的な電気信号の発信(洞結節からの電気信号)
    • 電気信号を伝える回路(電気伝導系)
  • 血液を送り出すポンプ
    • 全身に血液を送り出す(左心系:体循環)
    • 肺に血液を送り出す(右心系:肺循環)
    • 逆流防止弁(僧帽弁大動脈弁、三尖弁肺動脈弁)

2. 心不全は心臓に何が起こっている病気なのか?どういった病態なのか?

心不全は上で述べたような心臓の複雑な機能のどこかが破綻した状態です。2017年に日本循環器学会と日本心不全学会が提唱した定義では「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」とされています。つまり、 心不全とは心機能が低下し身体のバランスが崩れた状態を指しています。因みに英語ではHeart Failure(直訳すると心臓の故障)といい、HFという略語を使われることもあります。

心臓にはさまざまなバックアップ機構が備わっており、多少機能が落ちてもすぐには心不全にならないようになっています。しかし、大きく心機能が落ちてしまった場合や長期的に心臓に負担がかかった場合には心不全に至ります。

心臓の負担を考えるときに大事なポイントとして「前負荷」と「後負荷」があります。言葉だけを見ていてもなんだかよくわかりませんので、もう少し詳しく説明します。

前負荷とは何か

心臓は大きく拡張してから収縮します。肺活量を測定する検査のときに息を吸って吐いてするときを想像してみて下さい。大きく吸ったほうが一度に吐ける量は増えます。この大きく吸うことが前負荷に近いです。吸う量が増えれば増えるほど吐き出す量が増えるのと同じように、心臓も拡張すればするほど血液を送り出す仕事量が増えます。この増えた負荷は心臓が収縮する直前にピークになります。このような状態を踏まえて、前負荷のことを「容量負荷」とも呼びます。

心不全ではない人の心臓であれば、前負荷が多少高まっても心臓が頑張ることで乗り切れます。しかし、心機能が低下している場合には、前負荷が高まると仕事を回せなくなります。するとますます心機能が下がるという悪循環に陥りやすくなります。

心不全の場合はこの前負荷を軽くすることが必要です。つまり、心臓の仕事の負担を軽減することで、疲れた心臓を休めてあげることが大事になります。

後負荷とは何か

心臓が収縮を開始した直後に心筋に加わる負荷のことを後負荷といいます。血管の抵抗力が強い場合や大動脈弁が狭い場合などで後負荷が強まります。大動脈弁とは、左心室の出口にある逆流防止弁です。正常な心臓では左心室が収縮するときに大動脈弁が広く開きますが、何らかの原因で大動脈弁が狭くなっていると血液が出て行くのに抵抗がかかります。つまり、後負荷が強まります。

後負荷の大きさは大動脈圧や平均左室圧や末梢血管抵抗から推測することができます。このような状態を踏まえて、後負荷のことを「圧負荷」とも呼びます。

強い後負荷がかかると心不全の状況を悪化させます。ただでさえ心機能が落ちている状態に、血液を送り出すためにより強い収縮力が必要になるので、心臓は痩せ馬にムチを打つような状態に至ってしまいます。

なぜ後負荷と前負荷が大事なのか

心不全の治療では疲弊した心臓を休めてあげることが大切ですので、できるだけ心臓の仕事が少ない状況にする必要があります。そのため、前負荷と後負荷を軽減する治療が行われます。

前負荷を軽くするためには主に利尿薬や血管拡張薬が用いられ、後負荷を軽くするためには血管拡張薬や大動脈バルーンパンピング(IABP)などが用いられます。これらの治療を行うことで、心臓は無理をしないで済むようになります。特に慢性心不全(長期間にわたり心機能が低下しているが、急速に低下しているわけではない状態。次の段落で詳述します。)では心臓が無理をしないほうが長期的に心機能を保てるようになります。

3. 心不全にはどんな種類がある?病気の進行する速度

心不全にはとても多くの種類があり、分類の方法も一通りではありません。

1つには、病気が進行するスピードで分ける考え方があります。急速に心機能が低下する状態を急性心不全といい、長い年月のうちに心機能が低下する状態を慢性心不全といいます。急性心不全が落ち着くと慢性心不全になったり、落ち着いていた慢性心不全がなにかの拍子に急性心不全になったりするため、2つの状態は完全には独立していません。しかし、2つの状態を分けて考えることで、病気の状態(病態)の理解や治療法の選択がやりやすくなります。

もう少し詳しく説明します。

急性心不全

『急性心不全治療ガイドライン2011』によれば、急性心不全は「心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし、それに基づく症状や徴候が急性に出現、あるいは悪化した病態」と定義されます。

少し難しい表現になっていますが、急性心不全になると、何らかの原因によって心臓の機能が急速に低下して全身に血液が送れなくなります。身体のバランスが乱れることによって、全身にさまざまな症状が出現します。急性心不全の原因としては、冠動脈疾患(心筋梗塞狭心症)や心筋炎不整脈などが多いです。

また、慢性心不全のある人に感染や内服の中断などの何らかの原因が重なった場合にも急性心不全に至ることがあります。これを急性増悪と言います。急性心不全は命に関わることも多く、治療は「全身の血液循環を助けること」と「心不全の原因となっている病気を治すこと」がポイントになります。急性心不全の状態の把握と治療法の選択にはクリニカルシナリオ(CS)という考え方が非常に重要になります。(クリニカルシナリオに関しては下の章で説明しています。)

慢性心不全

『慢性心不全治療ガイドライン2010』によれば、慢性心不全は「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態」と定義されます。

これも難しい表現ですが、心臓の機能がしだいに低下してしまったことによって、全身へ必要量の血液を送れなくなってしまった状態を指します。脳や肝臓、腎臓などのさまざまな臓器で酸素や栄養が足りなくなるため、全身のバランスが崩れます。また、血液の流れが悪くなることで全身でうっ血が起こります。

慢性心不全では急性増悪を除けば心機能が急激に悪くなることはないため、命に関わることは少ないです。しかし、長い年月を経て心機能が非常に悪くなってしまった場合は、息苦しさが強くて日常生活もままならないくらいになってしまいます。治療を行わないと心機能が改善することは難しいので、できるだけ早い段階からの治療が望まれます。

4. 心不全にはどんな種類がある?心臓の機能が低下する部位

心不全の分類方法には、心臓のどの部分が機能低下しているかに注目する分け方もあります。

左心室の機能低下によって心不全が起こっている場合を左心不全、右心室の機能低下によって起こっている場合を右心不全と呼びます。

左心不全では左心室がうまく血液を送り出せないため、その手前の肺静脈の血液で渋滞(うっ血)が起こります。同様に右心不全では右心室がうまく血液を送り出せないため、その手前の大静脈で渋滞が起こります。

右心不全と左心不全になったらどんなことが起こるのかについてもう少し詳しく説明します。

左心不全

左心室は肺から戻ってきた血液を全身に送り出しています。肺から来る血液は肺静脈を通って心臓に入り、心臓から全身に向かう血液は大動脈を通って出て行きます。

左心不全で左心室がうまく血液を送り出せなくなると、その手前の肺の血管内に血液が溜まります。この状態は肺うっ血といいます。うっ血が進行すると、肺の血管から水分が周りにしみ出し、肺胞(酸素と二酸化炭素の交換に直接関わる部分)の中に水分がしみ出してきた状態(肺水腫)になります。

図:肺の微小な構造。肺胞の周りを血管が取り囲んでいる。

肺水腫になると酸素の体内への取り入れがうまくできなくなるため、息苦しさが目立つようになります。また、肺胞がだんだんと水浸しになるので咳や痰といった症状が出やすくなります。場合によってはピンク色の痰が出ることもあります。非常に重症になると唇や手足が紫色に変色(チアノーゼ)することがあります。

また、左心室が全身にうまく血液を送り出せないことによって、全身に酸素や栄養がうまく到達できなくなります。そのため、疲れやすさや集中力の低下、手足の冷たい感じなどが見られます。

右心不全

右心室は全身から戻ってきた血液を肺に送り出しています。全身から来る血液は上大静脈と下大静脈を通って心臓に入り、心臓から肺に向かう血液は肺動脈を通って出て行きます。

右心不全では、右心室がうまく血液を送り出せないことによって、右心室に戻れない血液が手前の大静脈に溜まります。全身に浮腫み(むくみ)が見られたり、頚静脈(首に見られる太い血管)が浮き上がって見えたりします。他には肝臓や消化器系に血液が溜まることで、肝臓が膨張したり消化器症状(便秘、下痢、食欲の低下など)がみられたりします。重症になるとあちこちの血管から周りに水分がしみ出して、胸水腹水が溜まり息苦しさがさらに増すようになります。

右心不全によって肺にうまく血液が送り出せなくなると、肺への血流が減ります。すると肺から酸素をもらう量が減ってしまうので、全身が酸欠になり、息苦しさや疲れやすさを感じるようになります。

意外と多い左心不全と右心不全の同時発生

ここまで右心不全と左心不全について説明しましたが、実は右心不全と左心不全は同時に存在することが多いです。左心不全が起これば肺循環がうっ滞し、右心系に負荷がかかります。すると右心室の仕事量が増えていつしか右心不全に至ります。同様に右心不全が起こると、体循環がうっ滞し左心室に負担がかかるようになります。

心不全が疑われたら、病状と検査結果から左右のどちらの心不全が大元になっているのかを慎重に見極めなければなりません。見極めた上で状況に適した治療法を行う必要があります。

5. うっ血性心不全とはどんな病気か

うっ血性心不全とは心臓が身体に血液を送り出せなくなってしまうことで血液がうっ滞する状態です。理論的に右心不全でも左心不全でも起こりうる状態です。右心不全によってうっ血性心不全が起こった場合には、身体が浮腫んだり静脈が怒張(膨れて浮き上がること)したりします。また、左心不全によってうっ血性心不全が起こった場合には、肺水腫の症状(息苦しさや呼吸時のヒューヒュー音など)の症状が出現します。

うっ血性心不全と診断する上で重要な基準としてFramingham基準(フラミンガム基準)があります。専門用語が出てきますがまずは基準そのものを記します。

【Framingham基準】

  • 大症状
    • 発作性夜間呼吸困難または起座呼吸
    • 頚静脈の怒張
    • ラ音(肺胞由来の副雑音)
    • 胸部X線で心拡大
    • 急性肺水腫
    • S3ギャロップ (心尖部の低調過剰心音、奔馬調律。拡張早期に心室に急速に血流流入するため)
    • 静脈圧上昇(≧16cmH2O)
    • 循環時間延長(≧25秒) 
    • 肝頚静脈逆流(頸静脈圧上昇が明らかでない場合は、 45度起坐位で右季肋下の肝を手掌で1分間静かに圧迫し3cm以上の静脈圧上昇が15秒持続すれば陽性)
    • 剖検での肺水腫、内臓うっ血や心拡大
  • 大症状または小症状
    • 5日間の治療によって4.5kg以上の体重減少
  • 小症状
    • 両足首の浮腫
    • 夜間咳嗽
    • 労作性呼吸困難
    • 腫大
    • 胸水貯留
    • 肺活量が最大値の1/3以下に低下
    • 頻脈(120/min以上)

この基準を用いた場合には「大症状を2つ満たす場合」あるいは「大症状を1つおよび小症状を2つ以上満たす場合」にうっ血性心不全と診断します。

うっ血性心不全と診断された場合には、心臓の筋肉へのダメージを避けつつ、心臓の仕事を軽くする治療が必要になります。心不全の状況に応じて利尿薬や血管拡張薬などを使い分けながら治療することが多いです。

治療薬について知りたい人は「心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか:治療薬について」を参考にして下さい。

【参考】

The natural history of congestive heart failure: the Framingham study.

NEJM 1971; 285 : 1441-6.

6. 心不全の症状にはどんなものがあるか

心機能は多少低下しても症状が現れないことが多いです。心臓には代償機構というものがあり、心臓が血液を送り出す力が低下しても、脈を早めたり心臓を大きくしたりしながら、バランスを保とうとします。しかし、その代償機構でもバックアップしきれなくなったときに心不全の症状は出現します。

心不全になると身体に次の2つのことが起こります。

  1. 心臓が血液を全身に送れない
  2. 心臓に血液がうまく戻れなくてうっ滞する

この2つのアンバランスな状態が起こると心臓だけでなく全身にさまざまな症状が出現します。代表的な症状は以下のものです。

  • 息苦しさ
  • 浮腫み(むくみ)
  • 動悸(どうき)
  • 胸痛
  • だるさ・疲労感
  • 四肢冷感(手足の冷え)
  • チアノーゼ(唇などが青くなる)

これらは必ずしも心不全だけに起こる症状ではありませんが、急に出現した場合には急性心不全を考える必要があります。また、もともと心不全が見つかっている人にこうした症状が出現した場合は、心不全が悪化している可能性がありますので、主治医に相談するようにして下さい。また、明らかに症状が強くなって生活に障害が出てくるときには医療機関を受診するようにして下さい。

心不全の症状についてもっと詳しく知りたい人は「心不全になった場合にはどんな症状が出るのか」を参考にして下さい。

7. 心不全の原因にはどんなものがあるか

心不全の原因は多岐にわたります。例えば心筋梗塞(しんきんこうそく)で心臓の一部が麻痺してしまった場合には心不全になりますし、不整脈が止まらないような場合にも心不全になります。また、慢性閉塞性肺疾患COPD)のように心臓の病気でなくても心不全の原因となることがあります。

以下が心不全を起こす可能性のある病気の例です。

これらは心不全の原因となる病気の例ですが、他の病気が原因となることはあります。しかし、少なくとも上に挙げた病気は心不全の原因となる頻度が高いですので、該当する人に上の段落で述べたような心不全を疑う症状が出現した場合には心不全の発症が心配されますので、医療機関で診察を受けることをおすすめします。

また、心不全の状態を悪化させるものにも注意しなくてはなりません。次のものは心機能を悪化させることが分かっています。

  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 腎臓病
  • 一部の薬の副作用
  • 塩分過多
  • 水分過量
  • 肥満
  • 感染症

我々が生きていくためには心臓は一定のリズムで動き続ける必要があります。心不全がある人はもちろんのことですが、健常な人も、心臓に悪影響を及ぼしうるものはできるだけ排除するように努めて下さい。

心不全の原因についてもっと詳しく知りたい人は「心不全にはどういった原因があるのか」を参考にして下さい。

8. 心不全が疑われたらどんな検査をするのか

心不全が疑われたときには検査が行われることがあります。しかし、検査の前に行うべきものが問診身体診察です。これらは負担なく素早く行うことができますし、医療資源を使わずに行うことができます。

問診

問診では、「症状の程度」「症状の変化」「今までの生活背景」「持病の有無」などが聞かれます。自分の覚えている範囲でよいので、正確にかつ詳細に答えるようにして下さい。お医者さんが「どんな病気が悪さをしているのか」や「どのくらい重症なのか」を調べるのにとても重要な手がかりになります。また、使用できない薬がある場合にも問診の情報がないと判断がつかないことがあります。

身体診察

身体診察は診察室で医療者に身体を調べられることを指します。現在の状況について客観的に評価するために必要な検査です。

身体診察では、「バイタルサインのチェック」「視診」「触診」「聴診」などが行われます。バイタルサインとは血圧や心拍数などのことです。これらの身体診察を行うことで心臓の状態だけでなく身体のバランスも推測することができます。

問診と身体診察が終わると次の検査のいずれかが行われることが多いです。

心電図検査

心臓が動くときに発生する微細な電気信号をキャッチすることで、心臓の状態を調べる検査が心電図検査です。電気を流すわけではないので全く痛みを伴いません。

横になって安静にしているうちに測定する通常の心電図検査のほか、身体に装着して日常生活を送るタイプ(ホルター心電図)、あえて運動時に測定して運動の影響を見るタイプ(運動負荷心電図)などがあります。これらのどれを行うかに関しては必要性に応じて選択されます。

心臓エコー検査

心臓エコー検査は超音波を出す小さな装置(探触子、プローブ)を胸の外からあてることで心臓を見る検査です。心臓エコー検査を行えば、心臓のどの部位の動きが悪いのかや心臓のどの部位が変形しているのか、EF(心臓の血液駆出率)はどの程度なのかなどが判定できます。もし心臓エコー検査で異常が見られた場合には、症状や身体診察の情報と併せて状況を判断することになります。

画像検査

心不全の診断や進行度の把握にしばしば画像検査が用いられます。主に行われる検査はX線写真(レントゲン検査)・CT検査・MRI検査・心筋シンチグラフィーです。

画像検査を行うと、心臓の大きさや肺血管うっ血の程度や主要血管の太さ、心筋に対する血流分配などがわかります。

血液検査

心不全に対して行う血液検査は、「心臓の状態を調べる項目」と「全身の状態を調べる項目」の2種類に分けられます。前者がBNPなどで後者が血液ガス分析などです。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査は血管に入れたカテーテルという細い管を用いて心臓を調べる検査です。冠動脈造影検査・右心カテーテル検査・左室造影検査などがあります。心臓の何を調べたいのかによって、これらのどの検査を行うのかが決まります。

心不全に対する検査についてもっと詳しく知りたい方は「心不全が疑われたらどんな検査が行われるのか」を参考にして下さい。

9. 心不全はどうやって診断するのか

心不全を診断するためには上で述べたような検査が行われますが、どれか一つだけの検査で診断がつくことはあまりないかもしれません。

もちろん心臓エコー検査を行ったとろ、心臓がほとんど動いていなければ心不全の診断でまず間違いないです。一方で、心電図検査で異常が見られたとしても心不全の状態になっていないことはありますし、心臓エコー検査で左心室のEF(駆出分画率)が正常であっても心不全(HFpEF:拡張機能不全)が見られる場合があります。そのため、上記の検査の結果を総合して診断します。

また、同時に心不全の原因となっているものを特定する必要もあります。原因が特定できればより適切な治療につなげることができます。

10. 心不全になったらどんな治療をするのか

心不全に対してはいろいろな治療が行われます。薬物治療を筆頭に心臓カテーテル治療や手術、補助人工心臓など多岐にわたります。それらの心不全の治療は大きく3つに分けることができます。

  • 心機能を回復するための治療
  • 心機能を低下させないための治療
  • 心不全の原因となっているものに対する治療

急性心不全では低下してしまった心機能をできるだけ回復させることが治療の主な目標になります。一方で、慢性心不全では心機能をできるだけ低下させないことが治療の主な目標になります。また、心不全には原因となっているものがある場合が多く、これを治療しないと根治は難しいため、原因の治療も並行します。

心不全の治療で使われる主な方法は次のとおりです。

  • 薬物治療
    • 利尿薬(K保持性利尿薬、バソプレシンV2-受容体拮抗剤、ループ利尿薬など)
    • ACE阻害薬
    • アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬
    • β遮断薬
    • その他(選択的SGLT2阻害剤など)
  • 心臓カテーテル治療
  • 手術
  • 酸素療法
  • 人工呼吸器管理
  • 大動脈バルーンパンピング
  • 補助人工心臓
  • 経皮的心肺補助
  • 心臓ペースメーカー
  • 心臓再同期療法
  • 電気的除細動
  • 植え込み型除細動器
  • 心臓リハビリテーション

上に挙げた以外にも心不全の治療法はあります。状況に即した治療法が選ばれます。心不全の治療についてもっと詳しく知りたい人は「心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか:治療薬について」や「心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか:治療薬以外」を参考にして下さい。

11. 心不全に関するガイドラインが知りたい

過去のデータに基づいて最も適切と思われる診療上の選択肢を示すものをガイドラインといいます。日本語では診療指針という言葉が近いです。ガイドラインは質の高い診療が多くの医療機関に普及することを目標に作成されています。

ガイドラインは一般的に行われるべき治療を示しているため、ガイドラインに則って治療を行うことはとても大切です。一方で、患者さんは一般的な状況にないこともあり、現場において臨機応変の判断が求められる場面があることも事実です。ガイドラインは必ず決められた治療をするためのものではありません。ガイドラインを参考にしつつ患者さんに適した治療が行われることが望まれます。

医療は日進月歩です。つい先日まで行われていた治療がいつの間にか時代遅れになっているということは珍しくありません。ガイドラインに従うことも絶対ではありません。

心不全治のガイドライン

心不全にもガイドラインは存在します。我が国には日本循環器学会が出している「慢性心不全治療ガイドライン」と「急性心不全治療ガイドライン」があります。このガイドラインは治療のみならず、病気が起こる背景の説明から診断などについても言及しており、非常に網羅的な内容になっています。

一方で、自分たちが正しく治療している(あるいは正しい治療を受けている)ことを客観的に見るためには、海外のガイドラインを把握することも大切です。心不全に関連する海外の大きな学会はいくつかあります。なかでも「米国心臓病学会、米国心臓協会、米国心不全協会の3学会合同による心不全のガイドライン」と「欧州心臓病学会による心不全のガイドライン」の存在は知っておくと良いかもしれません。データの背景の人種が異なるため日本人に本当に適用してよいのかについては吟味が必要ですが、海外ではどういった治療が行われているのかを知ることで治療の視野が広がります。

12. 心不全の状況に応じた治療はどうやって考ればよいのか

治療を行う前に心不全がどういった状況なのかについて把握することはとても大切です。各種ガイドラインにも病気の状況に応じて治療法を選択することが記載されています。病気の状況はさまざま検査を行えばわかりますが、検査を全て行うには時間が必要です。

そこで、心不全の状況をできるだけ素早く把握するためにいろいろな分類が提案されています。

  • フォレスター分類(Forrester分類)
  • ノーリア分類(Nohria-Stevenson分類)
  • クリニカルシナリオ(CS:Clinical Scienario)
  • NYHA(New York Heart Association)心機能分類

これらの分類は心不全を考える上で知っておくべきものになります。

フォレスター(Forrester)分類とは

急性心不全の状態を分類する方法にフォレスター分類というものがあります。これは心係数(心拍出量を体表面積で割った値)と肺動脈楔入圧(右心カテーテル検査で測定する肺動脈抹消の血圧)の値から2✕2で分類する方法です。

ここで、心拍出量は1分間に心臓が送り出す血液の総量のことで、心臓が1回の鼓動で送り出す血液量(1回拍出量)と心拍数の積になります。また、肺動脈楔入圧は肺動脈の末梢の血圧のことを指すため、その先にある左心房の圧力を反映します。

【フォレスター分類】

図:フォレスター分類。心係数が2.2L/分/m2以上、肺動脈楔入圧が18mmHg未満が正常(I群)。肺動脈楔入圧が高ければ肺循環不全(II群)、心係数が低ければ体循環不全(III群)、両方が異常なら肺循環不全+体循環不全(IV群)とする。

フォレスター分類を用いると、心不全が体循環と肺循環のどちらに強く影響を及ぼしているのかがわかります。一方で、右心カテーテル(詳しくはこちらを参考にして下さい。)という検査を行わないといけないため、大掛かりになることが弱点です。特に心不全の状態が非常に悪く余力のない人は検査を受けることが難しいため注意が必要です。

ノーリア(Nohria-Stevenson)分類とは

ノーリア分類を用いると、フォレスター分類と同じように急性心不全が体循環と肺循環のどちらに強く影響を及ぼしているのかがわかります。ノーリア分類が優れている点は、症状から推測する方法であるため、検査を受ける必要がない点と素早く行える点になります。

ノーリア分類では低灌流(血流が低下している状態)があるかどうかとうっ血(血液が流れずに滞っている状態)があるかどうかから2✕2で分類します。低灌流の存在やうっ血の存在は、次の所見(身体診察や検査で見つかる様子)があるかどうかで判断します。

  • 低灌流の存在
    • 手足の冷たさ
    • 腎機能の低下
    • 脈圧(収縮期血圧拡張期血圧の差)の縮小
    • 意識レベルの低下
  • うっ血の存在
    • 頚静脈の怒張
    • 浮腫(むくみ)
    • 起座呼吸(座ったほうが呼吸が楽になる)
    • 腹水
    • 胸水

【ノーリア分類】

図:Nohria-Stevenson分類。低灌流なし・うっ血なし(A群)、低灌流なし・うっ血あり(B群)、低灌流あり・うっ血なし(L群)、低灌流あり・うっ血あり(C群)に分類する。

この分類は身体診察を行うだけで心不全の状態がわかる優れものです。一方で、身体診察の能力に依存するため、適切に身体の状態を評価できる医師が判断しなければならないことは忘れてはなりません。

クリニカルシナリオ(CS:Clinical Scenario)とは

急性心不全の状態を分類する方法にクリニカルシナリオ(CS)というものがあります。これは状況によって5つのグループに分けるものです。

まず、急性心不全によって医療機関にかかった場合には素早く次の検査を行います。

  • バイタルサイン(意識状態、血圧、脈拍、体温、酸素飽和度など)のチェック
  • 身体診察
  • 血液検査(BNPやNT-pro BNPを含む)
  • 心電図検査
  • 胸部X線写真
  • (素早い施行が可能であれば)心臓エコー検査

これらの結果を踏まえてクリニカルシナリオのどのグループに分類されるかを判断します。

この分類は急性冠動脈疾患がある場合(CS4)と右心不全がある場合(CS5)以外は収縮期血圧で分類していることが特徴です。収縮期血圧は簡便に測定できるため、病院に到着前あるいは到着直後から素早い判断を下しやすくなっています。

【クリニカルシナリオの分け方】

分類 心不全の状態と特徴
CS1 ◎収縮期血圧が140mmHgを超える
  • 急激に発症する
  • 主な病態はびまん性肺水腫である
  • 全身性浮腫は軽度である(体液量が正常または低下している場合もある)
  • 急性に心臓の充満圧が上昇する
  • 左室駆出率は保持されていることが多い
  • 病態生理としては心機能ではなく血管が原因となっている
CS2 ◎収縮期血圧が100-140mmHg
  • 徐々に発症し体重増加を伴う
  • 主な病態は全身の浮腫である
  • 肺水腫は軽度である
  • 慢性に心臓の充満圧や静脈圧、肺動脈圧が上昇する
  • その他の臓器障害(腎機能障害や肝機能障害貧血、低アルブミン血症)
CS3 ◎収縮期血圧が100mmHgを下回る
  • 急激にあるいは徐々に発症する
  • 主病態は低灌流である
  • 全身浮腫や肺水腫は軽度である
  • 心臓の充満圧が上昇する
  • 以下の2つの病態がある
    1.  低灌流または心原性ショックを認める場合
    2.  低灌流または心原性ショックがない場合
CS4 ◎急性冠症候群(急性冠動脈疾患)
  • 急性心不全の症状および徴候がある
  • 急性冠症候群と診断できる
  • 血液検査で心臓トロポニンのみが上昇しているだけでCS4と分類しない
CS5 ◎右心不全
  • 急激にまたは徐々に発症する
  • 肺水腫はない
  • 右心室に機能不全がある
  • 全身に静脈うっ血の所見がある

クリニカルシナリオは状況の場合分けだけでなく、グループに応じた診療指針についても言及しています。グループごとに推奨される治療は以下になります。

【クリニカルシナリオごとに推奨される治療】

分類 心不全の状態と特徴
CS1 ◎収縮期血圧が140mmHgを超える
  • NIPPV(非侵襲的陽圧換気)
  • 硝酸薬
  • 容量過負荷がある場合を除いて、利尿薬の適応はほとんどない
CS2 ◎収縮期血圧が100-140mmHg
  • NIPPV(非侵襲的陽圧換気)
  • 硝酸薬
  • 慢性の全身性体液貯留が認められる場合に利尿薬を使用
CS3 ◎収縮期血圧が100mmHgを下回る
  • 体液貯留所見がなければ容量負荷を試みる
  • 強心薬
  • 改善が認められなければ肺動脈カテーテル
  • 血圧<100mmHgおよび低灌流が持続している場合には血管収縮薬
CS4 ◎急性冠症候群(急性冠動脈疾患)
  • NIPPV(非侵襲的陽圧換気)
  • 硝酸薬
  • 心臓カテーテル検査
  • ガイドラインが推奨するACSの管理:アスピリン,ヘパリン,再灌流療法
  • 大動脈内バルーンパンピング
CS5 ◎右心不全
  • 容量負荷を避ける
  • SBP>90mmHgおよび慢性の全身性体液貯留が認められる場合に利尿薬を使用
  • SBP<90mmHgの場合は強心薬
  • SBP>100mmHgに改善しない場合は血管収縮薬

治療の目標は以下のことを達成することです。

  • 呼吸困難感を軽減すること
  • 全身状態を改善すること
  • 心拍数を適切にすること
  • 尿の量を適切に保つこと(1分間に体重1kgあたり0.5mlの尿が出るようにする)
  • 収縮期血圧を保つあるいは改善させること
  • 適切な血液循環に改善させること

このグループ分けは症状が出現してから非常に早期(発症してから6-12時間まで)の急性心不全の診療について考えられたものです。また、非常に明確で扱いやすい一方で、まだデータの蓄積と検証が完遂してはいないことに注意しなければなりません。とはいえ、明確に分類し治療につなげることのできる非常に使い勝手の良い分類ですので、多くの場面で使用されています。

特に急性心筋梗塞の場合(クリニカルシナリオでいうCS4)には、Killip分類という分類が用いられることがあります。この分類は急性心筋梗塞の重症度を肺のうっ血具合で判断して、心臓の状態を4段階に分類するものです。胸部X線写真(レントゲン)や聴診器を用いた呼吸音のチェック(聴診)で分類します。

【Killip分類】

図:Killip分類。心不全の徴候なし(I群)、軽度から中等度の心不全(II群)、肺水腫(III群)、心原性ショック(IV群)に分類する。

この分類では1→4群へと心不全の段階が進行するごとに死亡率が高くなることが分かっています。

NYHA分類とは

NYHA分類とはニューヨーク心臓協会が推奨した心不全の分類です。この分類ではどういったタイミングで症状(疲労感、動悸、息切れ、胸痛など)が出るかによって心機能を判断します。

【NYHA分類】

図:NYHA分類。無症状(I度)、坂道で息切れする程度(II度)、平地で息切れする程度(III度)、安静時も息切れする程度(IV度)に分類する。

この分類は自覚症状によって分類するので、検査をする必要がないことが大きな利点です。素早く簡便に推測することができます。その一方で、自覚症状には個人差があるため、特に厳密に評価する必要がある場合には、身体所見や検査などの客観的な指標も参考にすることが望ましいです。

参考文献
・Practical recommendations for prehospital and early in-hospital management of patients presenting with acute heart failure syndromes.
・Crit Care Med 2008 ; 36: S129-39
・日本循環器学会ほか, 急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
・日本循環器学会ほか, 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)

13. 心不全の予後(余命)はどの程度か

心不全の予後はあまり良くありません。一般的なデータとして、Acute decompensated heart failure syndromes(ATTEND)registryという研究があります。1,110人を追跡研究した結果、心不全で入院治療を受けた人の7.7%は入院中に亡くなっていたとなっています。このデータは2010年にまとめられたものですので、現在の医療事情と多少異なります。とはいえ、この数字は心不全で入院した場合の13人に1人は亡くなることを意味していますので、心不全の死亡率が非常に高いことがわかります。

また、JCARE-CARD(Japanese cardiac registry of heart failure in cardiology)研究によると心不全の1年生存率はおよそ90%となっています。これは1年の間に10人に1人が亡くなることを意味します。

これらのデータは平均的なものです。つまり、重症の心不全であったり、他に持病があったりしたら死亡率はもう少し高いものになります。また、逆にもう少し数字が良くなることもあります。今行われている治療薬を正しく飲んで節制した生活をすることで、元気で過ごせる時間は何もしない場合よりも良くなります。

参考文献
・Effects of atrial fibrillation on long-term outcomes in patients hospitalized for heart failure in Japan. A report from the Japanese cardiac registry of heart failure in cardiology (JCARE-CARD). Circ J 2009; 73: 2084-90
・Acute decompensated heart failure syndromes (ATTEND) registry. A prospective observational multicenter cohort study: rationale, design, and preliminary data. Am Heart J 2010 ; 159 : 949-55