どうみゃくかんかいぞんしょう
動脈管開存症
生まれた後も動脈管(肺動脈と大動脈をつなぐ血管)が開いたまま残ってしまうこと
12人の医師がチェック 152回の改訂 最終更新: 2019.10.03

動脈管開存症の基礎知識

POINT 動脈管開存症とは

動脈管は肺動脈と大動脈をつなぐ血管のことで、産まれた後には不要になるため閉鎖しますが、産まれた後も動脈管の閉鎖が起こらない病気を動脈管開存症といいます。動脈管が細い人は症状がほとんどありません。一方で、動脈管が太い人は、産まれた直後から呼吸回数が多い、哺乳が進まない、体重が増えないといった症状が現れます。自然に治ることがあるので、症状がない人は経過観察をすることがあります。症状の程度が重い人は薬による治療や手術が行われます。動脈管開存症は小児科や循環器内科、心臓血管外科などで検査や治療が行われます。

動脈管開存症について

  • 生まれた後も動脈管肺動脈大動脈をつなぐ血管)が開いたまま残ってしまうこと
  • 大部分は新生児期に問題になるが、症状がないまま成人期に偶然発見されることもある
  • 動脈管は胎児期にのみ必要な血管であり、通常は生まれて24-48時間以内に機能しなくなる程度に閉じる
    • 胎児は肺を使って呼吸していないため、肺に血液を送る必要がない
    • 動脈管が肺動脈(肺に血液を送る血管)から大動脈(体に血液を送る血管)への血流の抜け道になっている
    • 生後2,3週ほどで完全に閉じる
  • 病気のメカニズム
    • 本来は身体(特に下半身)に流れるはずの血液の一部が、動脈管を通って肺動脈へ流れてしまう
    • 動脈管を通る血液の量によって症状の出方は変わる
    • この状態が長く続くと、大きくわけて2つのメカニズムにより、様々な症状がでる ① 肺へ流れる血流が増加するため、肺に負担がかかる(肺うっ血肺高血圧) ② 肺に引き続き左の心臓への血流が増加するため、左の心臓に負担がかかる(左心不全
  • 下半身へ流れる血流が減少するため、腸管や腎臓の障害が出ることもある
  • 生まれてから一度も閉じないままのパターンと一度閉じた動脈管が何らかの刺激で再度開いてしまうパターンがある
    • 血流がなくなったあとも生後数週間は血管の構造が残るため、少しの刺激で再度血流が生じることがある
  • 早産児は血管の機能が未熟な状態で生まれてくるため、動脈管開存症の頻度が高い
  • 感染や低酸素にさらされることも原因となる
  • 先天性心疾患の5-10%を占め、男女比は1:3で女性に多い
  • 他の先天性心疾患を合併しやすく、合併症がある場合には症状や治療法が大きく異なる

動脈管開存症の症状

  • 動脈管が非常に細い場合には無症状のことも多い
  • うっ血や左心不全が進行すると症状がみられるようになる
    • 呼吸回数が多い
    • 哺乳が進まない
    • 体重が増えない
    • 常に機嫌が悪く元気がない
    • 汗を異常にかく
    • 肺炎気管支炎を繰り返す
  • 新生児では左心不全から容易に右心不全に至るため、右心不全の症状もみられることがある
    • むくみ
    • 肝臓がはれる
  • 小児期に無症状でも思春期以降に心不全徴候が生じることがある
  • 動脈管開存症単独では通常チアノーゼはみられない
  • 肺高血圧が顕著になると肺動脈から動脈管を介して大動脈へ(これまでとは逆方向へ)血液が流れるようになる(アイゼンメンジャー症候群
    • 酸素濃度の低い血液が全身に流れるため、チアノーゼがみられるようになる(下半身のみ)

動脈管開存症の検査・診断

  • 心雑音や症状から疑い、診断の確定には心臓超音波検査が重要
  • 聴診:症状が出る前から雑音は聞こえることが多い
  • 主な検査
    • 画像検査:心臓の大きさや形などを調べる
      • 心臓超音波検査
        • 動脈管開存の確定診断や心機能の評価のために重要である
        • 何度も繰り返し行い、動脈管の太さや流れなどを確認する
      • 胸部X線レントゲン)写真:心臓や肺に負担がかかっていないか調べる
    • 心電図:心臓を動かす電気信号に異常がないかを調べる
  • 場合によって必要となる検査
    • 心臓血管カテ-テル:手術に先駆けて心臓の機能を詳しく調べる際に行う

動脈管開存症の治療法

  • 自然に閉鎖することがあるので、症状がなければ必ずしも治療は必要ない
    • 超音波検査を定期的に行い、動脈管が閉じる傾向にあるか、心機能の悪化はないかなどこまめに確認する
    • 将来的に感染性心内膜炎や動脈瘤形成の危険性が上がるため、治療が望ましい
  • 画像で肺うっ血心不全が疑われる場合、症状がある場合、動脈管が太く自然閉鎖が望めない場合には治療が必要になる
  • 内科的治療
    • 過剰な水分投与を避ける
    • プロスタグランジン合成阻害薬(インドメタシン)を使用して動脈管の閉鎖を図る
    • インドメタシンの効果が不十分な場合や、副作用のために使用が難しい場合にはカテーテル治療や手術で動脈管を閉鎖する
      • インドメタシンの副作用として腎機能障害、低血糖壊死性腸炎、出血傾向などがある
    • 心不全が顕著な場合には利尿薬や強心薬が必要になることもある
  • 感染が関与している場合には感染症の治療を行う
    • 正期産児で感染による開存の場合には、感染がコントロールできれば自然に閉じることもある
  • カテーテルを使用した閉鎖法
    • コイル塞栓術と動脈管閉鎖栓(スポンジ、金属など)を使用した治療法がある
    • 体重10kg以上がカテーテル治療可能かどうかの目安となる
    • 動脈管の大きさや形などによってはカテーテル治療の適応とならない場合もある
  • 手術による治療
    • 大きく動脈管離断術と動脈管結紮術に分けられる
    • 一般的には左開胸手術で行われるが、胸腔鏡で行う施設もある
  • アイゼンメンジャー症候群に至ってしまうと手術はできないため、そうなる前に治療することが重要

動脈管開存症に関連する治療薬

動脈管開存症治療薬(プロスタグランジン阻害薬)

  • 体内物質プロスタグランジンE(PGE)の産生を抑えることで、主に未熟児動脈管開存症を治療する薬
    • 動脈管開存症は本来閉じるはずの動脈管が閉じずに開いたままの状態となり、心不全などの症状があらわれる場合もある
    • 体内物質プロスタグランジン(PG)のうち、PGEは動脈管の拡張などに関わる物質とされる
    • 本剤はPGEの産生を抑えることで、動脈管を閉じる作用(動脈管閉鎖作用)をあらわす
  • 本剤の成分はインドメタシンやイブプロフェンといった一般的にはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に分類される薬剤成分
    • 上記の成分によるプロスタグランジン合成酵素阻害作用によって動脈管閉鎖作用をあらわすとされる
動脈管開存症治療薬(プロスタグランジン阻害薬)についてもっと詳しく

動脈管開存症が含まれる病気

動脈管開存症のタグ

動脈管開存症に関わるからだの部位