しんふぜん
心不全
心臓の機能が低下して血液を十分に送り出せない状態。さまざまな心臓の病気が原因となり起こる
18人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2023.10.17

心不全が疑われたらどんな検査が行われるのか?心臓エコー検査、心電図検査、心臓カテーテル検査など

息苦しさや浮腫み(むくみ)などから心不全が疑われた場合には医療機関でさまざまな検査が行われます。心不全の程度や原因となっているもの検索して、最も適した治療につなげることが目的です。

1. 問診:状況や背景の確認

問診とは身体状況や生活背景を聞かれることを言います。問診は身体診察を行う前に行われることが多いです。心不全の診断の際に問診は極めて重要です。

具体的には次のようなことを聞かれます。

  • 症状が出るまでにどんな生活をしていたか
  • 症状が出るまでにどんな薬を飲んでいたか
  • 喫煙をどの程度するか
  • 飲酒をどの程度するか
  • 何か持病はあるか
  • 家族に似たような症状の人はいるか
  • アレルギーはあるか
  • 初めての症状か
  • どんな症状が出ているか
  • 体重に変化はあるか
  • 症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
  • どういったタイミングで症状は変化するか
  • 妊娠しているか

これらは心不全の状況や原因を探る上で重要な判断材料です。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。

持病の有無

心不全は多くの原因で起こります。例えば加齢やストレスでも心不全は起こりますが、背景に病気が隠れていることが多いです。そのため以前から分かっている病気(持病)がある場合には必ず伝えてください。

心不全を起こしうる病気は多数あります。代表的なものを次に示します。

これらは心不全を起こしやすい病気ですので参考にして下さい。しかし、これらの病気に該当するかどうかにかかわらず、持病がある場合には申告するようにして下さい。

常用薬の有無

常用薬の影響によって心不全が起こったり心不全が悪化したりすることがあります。そのため常用薬がある場合には問診で答えるようにして下さい。

心機能を低下させる可能性が指摘されている薬の主なものは以下になります。

  • 解熱鎮痛薬(ロキソニン®、カロナール®など)
  • 不整脈薬(サンリズム®、リスモダン®など)
  • 降圧薬:βブロッカー(インデラル®、テノーミン®など)
  • 降圧薬:カルシウムチャネルブロッカー(ヘルベッサー®、ワソラン®)
  • 糖尿病薬(アクトス®、メトグルコ®など)
  • 中枢神経系薬(セレネース®、リーマス®など)

上に挙げた薬は心不全を起こしうるものの一部です。よほどの専門家でない限り、どの薬が心不全を起こしやすいかを網羅的に覚えることは難しいです。そのため、常用薬がある場合にはすべてを問診で答えるようにして下さい。

自覚症状の有無

どんな症状を感じているのかはとても大事な情報です。心不全になるとその進行度などによってさまざまな症状が出現します。心不全が起こっても症状を自覚できないことも少なくないため、症状を自覚するということはある程度進行している可能性があります。

  • 息切れ、息苦しさ
  • 浮腫み(むくみ)
  • 胸痛
  • 動悸(どうき)
  • 倦怠感 
  • 食欲低下
  • 四肢冷感(手足の冷え)
  • チアノーゼ(唇や皮膚が青くなること)

これらは心不全で起こりうる代表的な症状です。もし該当するものがあった場合には、問診時に必ず伝えてください。

症状の出現した時期と進行スピード

どんな症状がいつ出現して、その症状は悪化しているのかについて把握することはとても大切です。心不全はゆっくり進行することもあれば急速に進行することもあります。急速に心不全が進行した場合には、可及的速やかな治療開始が必要です。

例えば「先週から咳が出だして、今週になったら咳で眠れないくらいひどくなっている」とか「半年前から足が浮腫みだしているが、特にひどくなっているような感覚はない」といった具合に、自分の自覚している症状を伝えるようにしてください。

体重の変化

心不全が悪化すると体重が増えることがあります。心機能の低下によって血液循環が悪くなってしまい、結果的に腎臓から作られる尿が減るという構図です。尿をカップに入れて毎日厳密に測定している人はあまりいませんが、体重は測定しやすいため非常に簡便に経過を追うことができます。なんだか調子悪くて浮腫むなあと自覚している人は、しばらく体重計に乗ってみて下さい。

一方で、あまりに倦怠感や食欲不振が強い場合には、身体は浮腫んでいるけれども体重が減るといったことになる場合があります。その場合は体重の経過に加えて食事量に関してもチェックするようにして下さい。

2. 身体診察:状況の客観的評価

身体診察は病気の状況やその影響を受けている身体の状況を客観的に評価する行為です。心臓の動きや雑音を直接確認することができますし、心機能の低下した影響がどの程度身体に出ているのかも調べることができます。

バイタルサインのチェック

医療現場では「バイタルサイン」という言葉がしばしば聞かれます。日本語に直訳すると「生命徴候」となり、脈拍・血圧・呼吸・体温・意識などから生命のバランス状態を推定します。

例えば、脈拍数が増えていても、それが体温上昇によって起こっているのか、頻脈不整脈で起こっているのかで、行うべき治療が変わってきます。また、酸素の値が正常であっても、通常の呼吸状態ではなく一生懸命苦しそうに呼吸しているのであれば、呼吸に異常があると判断します。

このようにバイタルサインは一つの数字だけを見て判断するのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。また、苦しそうといったような見た目も重要な判断材料になります。

視診

視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。明らかに変化のあるものは見ただけでわかります。

例えば、心不全が疑われたときには、特に頸静脈怒張(けいじょうみゃくどちょう)と浮腫(ふしゅ)に関して調べると良いです。頸静脈は首の前側に左右で1本ずつある血管で、怒張というのは血管が膨れて浮き上がって見えることです。浮腫とはむくみのことです。

特に頸静脈怒張は重要で、心不全に関して感度39%で特異度92%といわれています。これは少し難しい話ですが、頸静脈怒張のある人は心不全がある確率が高いことを指します。頚静脈が怒張しているかどうかは、ちょっと慎重に首を観察すればわかることですので、こうしたキーポイントを抑えておくことは大切です。

聴診:心音

心臓は定期的に鼓動を打っているのでくり返し同じ動きをします。聴診器を利用すると心臓の定期的な鼓動が発する特徴的な音を聞くことができます。また、もし不整脈があった場合には不定期な心音が聞こえるために判断がつきます。

聴診器を使うことで聞こえる心臓の音はⅠ音からⅣ音までの4種類に大別できます。Ⅲ音とⅣ音は過剰心音と言い、通常は聞かれないことがほとんどです。

心音の基本は次の2つです。

  • Ⅰ音
    • 心室の収縮が始まるタイミングに僧帽弁左心室左心房の間にある逆流防止弁)や三尖弁右心室右心房の間にある逆流防止弁)が閉じることで起こる音
  • Ⅱ音
    • 心室の拡張が始まるタイミングに大動脈弁(左心室と大動脈の間にある逆流防止弁)や肺動脈弁(右心室と肺動脈の間にある逆流防止弁)が閉じることで起こる音

また、特殊な状況になると次の2つの心音が聞かれるようになります。

  • Ⅲ音
    • 心室が拡張する初期に血液が充満することで起こる音
  • Ⅳ音
    • 心室が拡張する末期に、心房がさらに血液を心室に押し込むことで起こる音

この中でもⅢ音が心不全の存在を確かめる上で特に重要です。Ⅲ音が聞かれるようになって馬の足音のような音になることをギャロップと言います。成年期以降の人に聞かれるⅢ音ギャロップは心不全に関して感度13%で特異度99%と言われており、Ⅲ音ギャロップが聞こえれば心不全がある可能性が高いです。

また、心雑音と呼ばれる特殊な音の有無を確認することも非常に重要です。心雑音は心臓が収縮するときに起こる雑音(Ⅰ音とⅡ音の間)と心臓が拡張するときに起こる雑音(Ⅱ音とⅠ音の間)の2種類に分けられます。心雑音は逆流防止弁の不具合(弁膜症)や心臓の壁の不具合(中隔欠損)などを表します。

上のリストには心雑音を起こす主な病気を並べています。これらの存在や程度を心音から推定するには、心雑音の強さや位置を正しく把握することが大切です。

感度と特異度について(少し難しい話になるため飛ばしても問題ありません)

先ほど感度と特異度という言葉ができました。これらは検査の正確度を評価する上でとても大切です。大雑把に言うと、感度が高い検査や特異度が高い検査は優れた検査ということになります。

  • 感度は「とある病気に罹患している人が検査陽性となる割合」
  • 特異度は「とある病気に罹患していない人が検査陰性となる割合」

簡単な表で説明を加えます。

【検査と病気の関係】

  疾患を有する群 疾患がない群 合計
検査陽性 A B A+B
検査陰性 C D C+D
合計 A+C B+D A+B+C+D

この表で言うと、感度と特異度は次のようになります。

  • 感度:A/(A+C)
  • 特異度:D/(B+D)

感度が高い検査では「とある病気に罹患しているのに検査が陰性となる人(偽陰性):C」が減り、特異度が高い検査では「とある病気に罹患していないのに検査が陽性となる人(偽陽性):B」が減ります。

感度が高いとCが減るため、検査が陰性の人の中で疾患がない人の割合(陰性的中率)が高くなります。また、特異度が高くなるとBが減るため、検査が陽性の人の中で疾患がある人の割合(陽性的中率)が高くなります。

  • 陽性的中率:A/(A+B)
  • 陰性的中率:D/(C+D)

ここで一つ質問があります。非常に根本的な質問です。検査は何のためにするのでしょうか?

「検査をしたから安心」という考え方を患者さんも医療者もついついしてしまいがちです。しかし、冷静に考えてみると正確度の高くない検査は行っても意味がありません。つまり、「検査で陽性と出たけれどもこの病気だと言えない検査」や「検査で陰性と出たけれどもこの病気ではないと言い切れない検査」を行っても価値が無いということです。

優れた検査では、検査で陽性であった場合にはとある病気の確からしさが100%に近づきます。また一方で、検査が陰性であった場合にはとある病気の確からしさが0%に近づくのも優れた検査です。前者を陽性尤度比(ようせいゆうどひ)が高いといい、後者を陰性尤度比が低いといいます。感度と特異度はこの陽性尤度比と陰性尤度比を規定します。

陽性尤度比と陰性尤度比は、感度と特異度から次のように表すことができます。

  • 陽性尤度比:感度/(1-特異度)
  • 陰性尤度比:(1-感度)/特異度

以上、検査の感度と特異度について説明しました。一方で、症状や身体所見からあまりにこの病気が疑わしいと言った場合(検査事前確率が高い場合)には検査をせずに診断することがあります。つまり、問診や身体診察は事前確率を高めるために非常に重要な役割を担っているということになります。

患者さんは問診を受けているときに、「こんなことを言ったら笑われちゃうかな」と思って伝えることをためらうことがあると思います。そういったものの中に真実のヒントが隠されていることも多いですので、自分の身体に感じる異変について余さずに伝えるようにして下さい。

聴診:呼吸音

心不全になると通常存在しない呼吸音が聞こえることがあります。ラッセル音(ラ音)と呼ばれる副雑音の中でも、水泡音(coarse crackle、コースクラックル)と笛音(wheeze、ウィーズ)が聞かれることが多いです。

水泡音は断続性ラ音とも呼ばれる副雑音の一種で、息を吸った時を中心に「ブツブツ」や「ポツポツ」といったような音が聴診器を介して聞こえます。心不全以外にも肺炎などでも聞かれます。

笛音は連続性ラ音と呼ばれる副雑音の一種で、息を吐いたときに「ヒューヒュー」や「ピーピー」といったような音が聴診器を介して聞こえます。心不全以外にも気管支喘息などでも聞かれます。

このように心不全が疑われたときに聴診を行うと非常に診断に役立ちます。

四肢の触診

四肢とは手足のことです。心不全になると、四肢の先が冷たくなったり浮腫んだりします。四肢の冷感は心臓がうまく血液を流せなくなることが原因で起こります。また、四肢の浮腫みも血流が滞ることで起こります。

これらの症状を自覚したときには心不全を疑う大事な材料になりますので、一度診察を受けるほうが良いです。

3. 心臓エコー検査

心臓は肺で酸素を取り入れた血液を全身に送るとても大事な役割を担っています。

心臓エコー検査エコー(超音波)を用いて心臓の動きや大きさ、血液の流れを確認する検査です。特に痛みを伴うこともなく、X線検査CT検査のように放射線に被曝することもありません。

エコーを使ってどんなことをするのか

エコー検査を行う場合には特別な医療器具を用います。この器具は大きなものから小さなものまでありますが、基本的に持ち運びが可能です。また、超音波を出す小さな装置(探触子、プローブ)があり、これを胸の外からあてることで心臓を見ることができます。

心臓エコー検査で特に見ることができるのは次のことです。

  • 心臓の動き
  • 心臓の大きさや形
  • 心臓にある弁の形
  • 心臓内の異物
  • 血液の流れ

心臓エコー検査の大きな利点は、これらがたった今どうなっているのかをタイムリーに観察できることです。また、痛みや事態への悪影響がないこともエコー検査の特徴です。

しかし、エコー検査にも弱点があります。骨などの密度の高いものや空気のように密度の低いものを観察するのにエコー検査は適していません。また、こうした適していないものの後ろに存在するものには超音波が届かないので、観察することができなくなります。したがって、次のような場面では観察の方法に注意が必要です。

  • 肋骨が邪魔をする
  • 肺が大きい

どうしても観察が難しい場合には、経食道エコー検査と言って胃カメラのようなものを用いて、体内から心臓を観察する場合があります。

心臓エコー検査は何を評価しているのか

心臓エコー検査では主に経時的な心臓の動きと血液の流れを観察します。心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)がありますが、そのいずれも観察することができます。また、心臓には4種類の血液逆流防止弁がありますが、それらの状態を観察することができます。

心臓エコー検査を行えば、心臓のどの部位の動きが悪いのかや心臓のどの部位が変形しているのかなどが判定できます。もし心臓エコー検査で異常が見られた場合には、症状や身体所見と併せて状況を判断することになります。

エコー検査で心臓を観察する際に、心臓の動きを客観的に数値化する重要な指標としてEF(Ejection Fraction)というものがあります。EFについてもう少し詳しく説明します。

EF(Ejection Fraction)とは

EFとは左心室(左室)の血液を駆出する量の割合を%で表示するものです。左室が最も広がった時の容積(左室拡張末期容量:LVEDV)と左室が最も収縮した時の容積(左室収縮末期容量:LVESV)からEFは計算されます。

◎EF=(LVEDV-LVESV)/LVEDV✕100

上の式で導かれた数字は心臓がどのくらい効率よく動いているかを表します。つまり、心臓があまり収縮できない場合には、左室が収縮したあとの容積が小さくならないため、EFは小さな数字になります。

簡易的に心機能を評価できるEFですが、一つ問題があります。

左室が十分に拡張できないときには、一見EFが正常でも十分な血液量を全身に送れずに心不全になることがあります。これをEFが保たれている心不全(HFpEF: heart failure with preserved ejection fraction)と言い、拡張不全と言うこともあります。EFだけを見ているとこのタイプの心不全に気づくことができませんので、左室収縮末期容量や左室拡張末期容量の具体的な数字も併せて見る必要があります。

また、さらに難しい話になりますが、E波やA波、e'という指標もあるため、これらも含めて総合的に心機能は評価されます。

  • E波:左心室の拡張早期に僧帽弁を通る血流の速度
  • A波:左心室の拡張期に左心房が収縮することで生じる血流の速度
  • e':左心室の拡張期に僧帽弁が移動する速度

心臓エコー検査では多くを調べることができます。特に身体の負担が大きいわけではないことを考えると、とても有用な検査であることがわかります。

また、エコー検査で心臓をうまく観察できない場合には経食道エコー検査が行われることがあります。これは胃カメラの要領で検査用の管を飲み込んで、食道に到達したところで心臓を観察するものです。通常のエコー検査だと肋骨がじゃまになって観察が不十分になることが多いですが、食道から観察するとその心配がなくなります。

4. 画像検査

心不全の診断や進行度の把握にしばしば画像検査が用いられます。よく行われる検査は次のものになります。

  • X線写真(レントゲン検査)
  • CT検査
  • MRI検査
  • 心筋シンチグラフィー

次の段落でこれらの詳しい説明を行います。

X線写真(レントゲン検査)

心不全が疑われた場合に胸部X線写真を撮影されることがあります。胸部X線写真は多くの施設で行うことができ、撮影にはわずか数秒しかかかりません。こうした簡便なX線写真ですが、結構心不全についてわかることは少なくありません。

【胸部X線写真】

図:心不全でX線写真に現れる特徴(所見)。

  • 心臓の拡大の有無
    • 心胸郭比の拡大
  • 肺血流の再分布
    • 重力によって肺の下側の血管が目立つのが普通であるが、肺の上側の血管も目立つようになる
  • 肺血管の血圧上昇
    • バタフライシャドウ:両側の肺血管が蝶が羽を開いているように見える
  • 肺の間質に水が入り込んで浮腫む
    • 肺の端っこの方に細い陰影(カーリーBライン(Kerley’s B line))が出現する
  • 胸水の貯留
    • 肺の下側の横隔膜の上や大葉の間に水が溜まって白くうつる
  • 気管支血管束の肥厚
    • 気管支壁が厚くなって周囲がぼやけているようにみえる(peribronchial cuffing)(特にB3bと呼ばれる気管支が見やすい)

これらは多少慣れている医師でないと判断は難しいですが、心臓とそのお隣の臓器である肺の状態がわかります。

また、X線写真は放射線を用いる検査であるため被曝する一方で、その被曝量が小さいことも特徴です。検査のやり方によりますが、人体への影響量は0.2mSv程度と言われており、これは飛行機でニューヨークと東京を往復したときに被曝する量と同じくらいです。

同じ放射線を使う検査の中には、X線検査よりも詳しく調べられるCT検査があります。次の段落ではCT検査の特徴について説明します。

CT検査

CT検査は放射線を用いた検査です。これを行うと身体の断面図を見ることができます。X線写真はいわば影絵のようなもので胸を透かして一枚の写真におさめますが、CT検査はもっと詳細に調べることができます。また、造影剤という液体を点滴で投与することで、得られる画像をよりはっきりとしたものにすることができます。

一方で、X線写真よりも劣る点もあります。良い点と悪い点を踏まえたCT検査の特徴を下の表にまとめます。

【CT検査の特徴】

良い点 弱い点
  • 数分で検査できる
  • 画像の精度が高い(造影剤を用いるとさらに精度が高くなる)
  • CT検査ができるクリニックはあまりないため、病院に行かないと受けられない
  • レントゲン検査よりも被曝量が多い
  • 造影剤を用いるとアレルギーを起こすことがある

以上が一般的なCT検査について述べたものですが、心臓を調べる際には特に次のことを調べることができます。

  • 気管支血管束の肥厚
    • さまざまな気管支壁の肥厚が見える(B3b以外も)
  • すりガラス影の出現
    • 肺の中に水分が漏れることで生じる淡い影
  • 胸水の貯留
    • 背中側に白い陰影が見える
  • 小葉間隔壁の肥厚
    • 肺の小さなブロックを区切る壁が浮腫んで厚くなる
  • 心臓に栄養を送る血管(冠動脈)の狭窄の有無
    • 冠動脈にプラークが溜まっていないかあるいは狭くなっていないか
  • 心臓に栄養を送る血管(冠動脈)の石灰化の有無
    • 冠動脈が固くなって石灰化していないか

これらを確認することで、心臓の様子を把握することができます。また、CT検査は動いているものを撮影するとぼやけてしまうという欠点があるため、心臓の撮影にはあまり向いていません。最近は超高速で撮影できるCT装置があるので、これを用いることでより鮮明な画像が見られるようになっています。

MRI検査

MRI検査は磁気を用いた検査です。CTよりも鮮明な画像が見られます。しかし一方で、MRI検査は動くものを撮影できないため、心臓を撮影するのには向いていません。そこで心電図などを用いて心臓の動きと同期することで撮影を可能にするシステムがあります。このシステムを用いることでより詳細な心臓のMRI撮影が行えるようになっています。

MRI検査は放射線を用いませんので、全く被曝しません。

心筋シンチグラフィー

心臓自身が栄養をもらうために、3本の血管(冠動脈)を介して血液が供給されています。供給された血液がどのように分配されているのかを確認する検査が心筋シンチグラフィーです。

点滴で放射性同位元素(99m-テクネシウムや201-タリウムなど)を用いた薬剤を注射し、放出される放射線(ガンマ線)を測定します。血流が多く存在する部位からガンマ線が多く検出されるため、心臓を栄養するために流れ込む血流量がわかります。血液が流れていない部位は心臓の筋肉が動かなくなっている(壊死している)可能性を示唆します。

心筋シンチグラフィーでは、運動を行って心臓に負担をかけた状態と安静にした状態の両方を測定して比較する方法が取られることがあります。2つを比較することで、安静時には見られなかった心臓の血流の不均衡が見て取れることがあります。

心筋シンチグラフィーでは放射線を用いていますので被曝します。被曝量は測定時間や個人によって多少異なりますが、およそ胸部CTと同じくらいの被曝量になります。

5. 心電図検査

心臓は定期的に動いて全身に血液を送っています。心臓は微細な電気信号で動いているのですが、心電図はこの電気信号の大きさや向きを調べる検査です。

手足や胸に電気をキャッチする装置を幾つかつけて検査を行いますが、電気を流すわけではないので全く痛みを伴いません。通常の心電図検査であれば横になって安静にしているだけで測定が完了します。その他の心電図では、身体に装着して日常生活を送るタイプ(ホルター心電図)や敢えて運動時に測定して運動の影響を見るタイプ(運動負荷心電図)などがあります。

12誘導心電図

12誘導心電図は最も基本的なタイプの心電図検査です。前胸部に6か所に加えて手足に1か所ずつの合計10か所の測定器を装着します。安静に横になって測定するので全く痛くありません。

この測定方法を行うと、次の12通りの方向から心臓の電気信号が測定でき、その電気信号を波形にして表すことができます。

  1. 第Ⅰ誘導:左心室の横の壁(側壁)の方向から電気信号を確認する
  2. 第Ⅱ誘導:心臓の先端(心尖部)の方向から電気信号を確認する
  3. 第Ⅲ誘導:右心室の横の壁(側壁)や左心室の背中側の壁(後壁)の方向から電気信号を確認する
  4. aVR誘導:右肩の方向から心臓の電気信号を確認する
  5. aVL誘導:左肩の方向から心臓の電気信号を確認する
  6. aVF誘導:足の方向から心臓の電気信号を確認する
  7. V1誘導:右心室の前側やや側方から心臓の電気信号を確認する
  8. V2誘導:左心室や右心室の前側の壁(前壁)の方向から電気信号を確認する
  9. V3誘導:右心室と左心室の間の壁(心室中隔)の方向から電気信号を確認する
  10. V4誘導:右心室と左心室の間の壁(心室中隔)の方向から電気信号を確認する
  11. V5誘導:左心室の前壁や側壁の方向から電気信号を確認する
  12. V6誘導:左心室の側壁の方向から電気信号を確認する

これらをよく見ると心臓を上下左右のあらゆるポイントから観察していることがわかります。心臓をあらゆる方向から確認することで、心臓の電気信号の変化をチェックできます。

心電図ではP波・Q波・R波・S波・T波の5つが基本になります。これらの波形と間隔を中心に異常の有無を判定します。例えば、狭心症であれば変化の起こっている心臓壁に電気信号の変化(ST低下)が起こります。また、心筋炎であれば多くの心臓壁に炎症が起こり電気信号が変化(ST上昇)します。

ここで、人体は個人個人で形や位置が多少異なる点に注意が必要です。これは奇形とは違って誰にでも起こりうる普通の変化です。そのため、少し心電図の波形がいつもと違っても、本当に病気があるのかそれとも個人差なのかについて考えなければなりません。病気の有無についての判断は医者が行いますが、心電図に異常があると言われた人は何が原因なのかについて確認するようにして下さい。

ホルター心電図

ホルター心電図とは24時間測定できる心電図のことです。心臓の電流を感知する装置を身体に貼ったまま生活します。腰につけたり肩にぶら下げたりしながら生活しなくてはならないので邪魔だと感じる人はいるでしょう。

一方で、24時間心臓を観察できるため大きなメリットがあります。特に一過性不整脈と呼ばれる、突然出現していつの間にか消失するタイプの不整脈には効果的です。数分間心電図を測定するくらいでは異常があっても気付けない場合もあります。自覚症状と12誘導心電図の結果が乖離している人にはホルター心電図が勧められます。

運動負荷心電図

運動負荷心電図は、運動(トレッドミル:ウォーキングマシン運動、エルゴメーター:自転車運動)をしながら測定する心電図検査です。狭心症不整脈などは運動して心臓に負担がかかると出現することがあります。そうした病気が疑われるときに運動負荷心電図は行われます。

一方で、運動負荷を行うことで心臓の状態が一気に悪くなって倒れてしまうようなこともあるので注意が必要です。検査中に気持ち悪くなったり意識が飛びそうになったりした場合には、遠慮なく近くにいる医療者におっしゃって下さい。

6. 血液検査

血液検査は多くの病気の診断や状態の評価のために行われますが、心不全の際にも血液検査を行うことがあります。よく行われる検査は次のものになります。

  • 心臓の状態を見る検査
    • BNP
    • NT-proBNP
    • トロポニンT
    • トロポニンI
  • 全身の状態を見る検査
    • CRP
    • クレアチニン(Cre)
    • 血液ガス分析

これらには各々に得意分野がありますので、必要に応じて測定されます。次の段落でもう少し詳しく見ていきます。

心臓の状態を見る項目(バイオマーカー)

BNP(Brain Natriuretic Peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心不全の際に非常によく測定される項目です。名前に脳性とあるので脳で分泌されるように思われがちですが、BNPの多くが心臓で分泌されます。これには心臓の機能や血液循環を調整する作用があります。

  • 尿を増やす作用
  • 血管を広げる作用
  • 交感神経を抑える作用
  • 心臓の筋肉を保護する作用

これらは心臓の負担を軽くする作用です。心臓に負担がかかった状態になると心臓を楽にさせるためにBNPが増えていくため、心不全ではBNPを測定すると上昇しています。

NT-proBNPはBNPに似た物質です。心臓に負担がかかった状態になるとBNPと同じくNT-proBNPも値が上昇します。

心臓の筋肉が負担を察知するとBNP遺伝子がBNP前駆体と呼ばれるものを多く作るようになります。このBNP前駆体からBNPができるときに一緒に作られるのがNT-proBNPです。

NT-proBNPやBNPを急性心不全の診断の際に用いたほうが診断の正確度が上昇すると言われています。一方で、NT-proBNPもBNPも腎臓の機能が悪いと体外に排泄されなくなるため腎機能が悪い人の値は実際よりも高値になるので検査結果の解釈には注意が必要です。

トロポニンTやトロポニンIは心筋梗塞の際に高値となることが分かっています。つまり、トロポニンTやトロポニンIが上昇している場合には心筋梗塞が非常に疑わしくなります。近年、この2つのバイオマーカーが心不全の診断やリスク評価の補助になるという報告があります。これらがさらに究明されるともっと有効な使用ができるようになるかもしれません。

全身の状態を見る項目

CRPは感染症が疑われたときに大変よく測定される項目です。C-Reactive Protein(C-リアクティブプロテイン)の略で、体内で炎症が起こると血清中にこのタンパク質が上昇します。感染症やがん打撲などによって全身に炎症が起こるとCRPは上昇します。

心不全でもCRPが上昇することがあります。しかし、前述のようにCRPは様々な原因で上昇する検査項目ですので、心不全の原因となっている病気を調べる際の補助くらいに考えておくほうが良さそうです。

クレアチニンは腎機能に反比例する傾向にあることが分かっています。つまり、腎機能が悪くなるとクレアチニン値は上昇します。心不全でもクレアチニンが高くなることがあります。心不全になると、全身に血液が送れなくなることで、腎臓への血流が低下して腎機能が悪化します。

血液ガス分析は血液中に含まれる成分やバランスを調べる検査です。調べることのできる主な項目は次のものになります。

  • 酸素
  • 二酸化炭素
  • pH(水素イオン濃度)
  • 重炭酸イオン(HCO3-)
  • 塩基超過分(BE)
  • 乳酸
  • ナトリウム
  • カリウム

これらを用いて身体のバランスがどうなっているのかを探ることができます。心不全になると血液のめぐりが悪くなることで身体のバランスが悪くなります。

  • 肺の血液がうっ滞することで酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかなくなる(特に酸素の交換)
  • 全身に血液をうまく送り出せなくなることによって全身の酸性・アルカリ性(pH)のバランスが乱れる

これらは比較的起こりやすい変化です。上記の2点は、心不全になった人に対して血液ガス分析を行うときに大事なポイントとなります。

7. 心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査とはカテーテルという細い管を血管の中に入れて行う検査です。目的によって行う内容が異なります。主なものは次になります。

  • 冠動脈造影検査
  • 右心カテーテル検査
  • 左室造影検査

ここではこれらの3つの検査について詳しく説明します。

冠動脈造影検査

心臓は栄養や酸素を含んだ血液を全身に送ります。一方で、心臓自身も栄養がないと動けなくなるので、全身に送る血液の一部を心臓の筋肉に送ります。この血管を冠動脈といい、右側に1本(右冠動脈)と左側に2本(左前下行枝、左回旋枝)存在します。この冠動脈の形や太さを調べるのが冠動脈造影検査です。

主に手首の動脈(橈骨動脈)あるいは足の付け根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを挿入して心臓付近まで進めます。そして心臓の横にある冠動脈にカテーテルを到達させて、カテーテルを通して造影剤を冠動脈に注入します。造影剤がどう流れていくのかを放射線検査で確認することで冠動脈の形や太さがわかります。

冠動脈造影検査は冠動脈性疾患(狭心症心筋梗塞など)に対して行う検査です。冠動脈性疾患が原因となって心不全が起こっているときに行います。しかし、患者さんへの負担が小さい検査ではないので、本当に行うべきなのかどうかについて検査前に慎重な判断が必要です。

  • 造影剤アレルギーがある人
  • 重症の高血圧がある人
  • 重症の不整脈がある人
  • 心不全が非常に重症な人

これらに該当する場合には他のやり方で検査することになります。

右心カテーテル検査

右心カテーテル検査とは肺動脈や右心室、右心房の圧力や血液ガス分析を行う検査です。また、血液中の酸素濃度の差や酸素消費量から心拍出量(1分間に心臓が送り出す血液量)を導き出すこともできます。

足の付け根の静脈(大腿静脈)や鎖骨の裏の静脈(鎖骨下静脈)、首の静脈(内頸静脈)からカテーテルを挿入して右心房・右心室・肺動脈に到達させます。肺動脈の最深部に到達したときの圧力を肺動脈楔入圧といい、これはほぼほぼ左心房の圧力と同じになります。

以下が右心カテーテル検査で測定する項目になります。

  • 中心静脈圧
  • 右心房圧
  • 右心室圧
  • 肺動脈圧
  • 肺動脈楔入圧(ほぼ左心房圧に同じ)

また、圧力を測定する位置での採血を行って血液ガス分析を行うこともできます。

この検査は弁膜症や心臓内シャントなどの存在や重症度を調べるのに有効です。

左室造影検査

左室造影検査では冠動脈造影検査と同じ要領で心臓までカテーテルを進めて、左心室に到達させます。左心室に造影剤を注入することでさまざまなことを調べられます。

  • 左心室の形
  • 左心室の大きさ
  • 左心室の動き(動きの悪い部分の有無)
  • 左心室内にある異物の存在の有無
  • 左心室の壁の厚さ
  • 拡張期および収縮期の左心室の容量
  • 弁膜症(大動脈弁、僧帽弁)の有無と重症度

つまり、心臓の動きが悪いことが疑われる場合や心臓の形に異常が疑われる場合に、左室造影検査は検討されます。

参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017