2017.07.28 | ニュース

ニセ医者10人・1回85万円、「心不全の幹細胞治療」とは

61件の電話調査

from JAMA internal medicine

ニセ医者10人・1回85万円、「心不全の幹細胞治療」とはの写真

治療をうたって効果不明の行為を提供し、高額の対価を求める施設が問題視されています。心不全の幹細胞治療を行うと称する施設に対して電話調査を行った結果が報告されました。

心不全は、心臓が血液を全身から回収し再び送り出す機能が十分に働いていない状態です。むくみ・息切れ・だるさなどの症状を現します。薬を使う治療法やリハビリテーションが有効です。

幹細胞を使った治療法で、心不全に対する効果が確かめられたものはありません

 

アメリカのセントルイス大学の研究班が、心不全に対して幹細胞治療を行うと称する61か所の施設を対象に電話調査を行い、結果を専門誌『JAMA Internal Medicine』に報告しました。

61件のうち、電話調査の内容に回答が得られたのは30件でした。

ほかの31件は以下の理由で適した情報が得られませんでした。

  • ほかの施設の支部にあたる:15件
  • ウェブサイトがなくなっているか、食品医薬品局(FDA)により閉鎖された:7件
  • 連絡がつかない:2件
  • データ提供を拒否した:2件
  • ウェブサイトで心不全治療をうたっているが実際には心不全治療をしていない:3件
  • 重症の心不全を対象としていない:1件
  • 電話調査に対して250ドルの対価を求めた:1件

 

「治療」にあたって以前の医療記録を求めている施設は9件だけでした。循環器科(心臓の病気などを専門とする診療科)の医師による意見を求めている施設は6件だけでした。

ウェブサイトから計79人の医師の情報が得られ、そのうち循環器科の資格を持っていた医師は1人だけでした。10人は医学教育を受けていませんでしたが、「自然療法医師」として紹介されていました

費用は、患者自身の体から取りだした細胞を使うと称する治療について、1回あたり平均7,694ドル(およそ85万円)でした。

5件の施設ではビタミン点滴や高圧酸素療法も付随して行っていました。

電話調査の中で記録された発言の例として次のものがありました。

医者に「できることはない」と言われても信じないでいてくださることを願っています。私たちに電話してくださったのは賢明なことです。

 

アメリカで心不全の幹細胞治療を行うと称する施設の調査結果を紹介しました。

以前にも心不全だけでなく、幹細胞と称するものを目に注射されて失明した人の例などが報告されています。

関連記事:幹細胞治療、進む研究の陰に“見えない障害”?

こうした報告は決してひとごとではありません。

日本でも幹細胞を利用するとして安全性不明の治療を行っている施設や、植物の幹細胞を利用としたとする化粧品をあたかも再生医療と関係するかのように宣伝している例もあるのが現状です。

病気の治療に困った時に、病院を変えてみたいと思うのは自然なことかもしれません。セカンドオピニオンやほかの施設への紹介を求めることは患者として当然の権利です。

しかし、重い病気の治療にあたる施設が以前の経過の情報を求めないことや、医学教育を受けていない人に大きな責任を与えること、さらに以前の担当医の考えをあからさまに否定することには疑問があると言わざるをえません。

高額な「治療」に賭けるしかないと思い詰める前に、本当に「できることはない」のか、主治医の意見に納得できなければほかの医療機関を紹介してもらうなどして、医師の考えをよく聞いてください。心ある医師が担当した患者を見捨てることは決してありません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

A Survey of Unregulated Direct-to-Consumer Treatment Centers Providing Stem Cells for Patients With Heart Failure.

JAMA Intern Med. 2017 July 24. 

[PMID: 28738122] http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2645145

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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