2017.09.15 | ニュース

「幹細胞治療」の無法が世界を襲う!ランセット誌が報告

アメリカの事例を中心に

「幹細胞治療」の無法が世界を襲う!ランセット誌が報告の写真

幹細胞への期待を利用し、規制をくぐり抜けて「治療」を名乗る危険な医療行為が世界的に問題になっています。米国食品医薬品局など、多くの立場から「幹細胞治療」の危険が指摘されています。

自称「幹細胞治療」の無数の悪行

アメリカなどで「幹細胞治療」と称するものを行うクリニックが、医学的に妥当でない、医学教育を受けていないスタッフを「自然療法医師」と呼んでいる、高額な治療費を要求するなどの事例が多く指摘されています。

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また、有効性・安全性が確認されていない「幹細胞治療」による健康被害も出ています。『Lancet』と並び世界的に信頼されている医学誌『The New England Journal of Medicine』でも、幹細胞と称するものを目に注射されて失明した人の例などが報告されています。

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無法な幹細胞治療の危険

フリージャーナリストのダラ・モハマディ氏は、医学誌『Lancet』に寄稿したレポートで、幹細胞治療の問題点を議論しています。

記事は、幹細胞に過剰な期待が寄せられている状況の危険として「リスクが高く、試験されてもいない、効果が証明されていない幹細胞治療を患者に売りつける、規制を逃れたクリニックが増えること」を指摘しています。

 

「幹細胞治療」はなぜ医学的にありえないのか

記事の中で、カナダのアルバータ大学教授のティモシー・コールフィールド氏がモハマディ氏に答えて、「少数の悪徳クリニックだけの問題ではない。これは世界中におそらく何百とある、アンチエイジング処置から腰痛治療、多発性硬化症の治療[...]まで、何にでもサービスを広告し、利益を誇張し、売りつけるクリニックの問題なのだ」と語っています。

同じ記事で幹細胞研究者のブレンドン・ノーブル氏は、「幹細胞をただ体に吹きかけて、まず細胞が治すべき場所を正しく見つけ、第二に幹細胞がしかるべき正しい細胞に変化することは望めない」と説明しています。また1999年に遺伝子治療の臨床試験に参加した患者が死亡したことにより「遺伝子治療の分野は10年近く後戻りした」という歴史に触れ、過剰な期待によって幹細胞の研究も世論の反発を受けることを恐れる考えを示しています。

 

「幹細胞治療」の被害

 コールフィールド氏は世界で数万人の患者が「幹細胞治療」に巻き込まれ、治療1回ごとに10万ドル(およそ1,000万円)にも及ぶという費用を払っていると推定しています。

アメリカで幹細胞治療を受けた人の健康被害として、まぶたまぶたのこと。眼球の上下にある皮膚の部分を指し、それぞれを上眼瞼、下眼瞼と呼ぶに骨の断片ができた人、背骨背骨のこと。頚椎、胸椎、腰椎に分かれるに鼻の粘液を分泌する組織ができた人の例が報告されています。また、理論的に幹細胞ががん無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがあるする可能性が古くから言われています。

コールフィールド氏は規制を逃れた幹細胞治療を指して「希望的な考えどころではない。これは詐欺だ」と語っています。

 

アメリカの公式見解

2017年8月28日に、アメリカの規制当局であるFDA(食品医薬品局)は未承認の幹細胞製品を販売しているクリニックに警告の手紙を出しました。同日に出されたプレスリリースで、FDA長官のスコット・ゴットリーブ氏は、幹細胞クリニックが「危険な方法で消費者を搾取し、健康を危険にさらしている」と述べています

このプレスリリースの中では、FDAが最近調査した結果として、「US Stem Cell Clinic(アメリカ幹細胞クリニック)」というクリニックが行っていたことが報告されています。US Stem Cell ClinicはFDAが承認していない製品を製造していたほか、製品に細菌感染症を起こす微生物の1つ。ウイルスと比較して10-100倍の体の大きさをもつなどが入り込まないように決められた工程を守っておらず、FDAの調査を拒否し妨害しました。

 

過剰な期待がバブルを呼ぶ

アメリカを中心に、「幹細胞治療」と称する治療が起こしている諸問題とそれに対する意見を紹介しました。

現実に幹細胞を利用した治療の研究は行われていますが、ここで問題視されているものはそれと同じとは言えないでしょう。

日本でも幹細胞を利用するとして安全性不明の治療を行っている施設や、植物の幹細胞を利用としたとする化粧品をあたかも再生医療と関係するかのように宣伝している例もあるのが現状です。

遺伝子治療の例も挙げられているように、期待が事実を超えて高まりすぎると、悪い事例が現れたときに大きな失望と反動が生まれます。幹細胞の研究はもちろん、まだ実験室でしか試されていないような「新治療」や「新薬」を「~が期待できる」「~につなげたい」といった枠組で理解しようとすることは、まだ存在しない事実に基づいて過剰な期待をふくらませることになります。

現実には臨床試験として実際の患者を何人も集めて試し、その結果有益と判断された治療薬であっても、販売開始後に深刻な副作用が見つかる例はまれではありません。

普通の治療から望む効果が得られず困っている人にとって、「新しい」という宣伝は未知の希望にチャレンジするようなイメージを帯びて見えるかもしれません。しかし、現実には理論的にもありそうにないことを誇張している例もあります。

医学の進歩とは何か、「最新情報」をどのように受け止めるかが、社会全体に問われているのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

The dangers of unregulated stem-cell marketing.

Lancet. 2017 Sep 1. [Epub ahead of print]

[PMID: 28870714]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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