心不全になった場合にはどんな症状が出るのか?息切れ、冷や汗、むくみなど
心不全になるといろいろな症状が出ます。軽症のうちはあまり症状を自覚しないことが多いですが、病気の進行とともに自覚するようになります。息切れや咳といった代表的な症状から特に気をつけるべき症状までを説明します。
目次
1. 心不全の症状はどうして出現するのか
心不全とは全身に血液を送る役割を持つ心臓の機能が全身の必要度に比べて低下してしまった状態を指します。心機能が低下する原因はさまざまですが、心不全による症状にはいくつか代表的なものがあります。(心不全の原因に関して詳しく知りたい人は「心不全にはどういった原因があるのか」で詳しく説明していますので参考にして下さい。)また、特に気をつけるべき症状もあります。
一方で、心機能は多少低下しても症状は出ないことも多いです。心臓には代償機構というバックアップ機能があるため、心機能の低下が軽度であればほとんどの場合で症状を自覚しません。
ここで心臓の代償機構という、専門家でなければあまり聞き慣れない言葉が出てきています。代償機構とはどういったシステムなのか少し補足します。
代償機構とはなにか
心臓には機能をバックアップするシステムがあり、これを代償機構といいます。このシステムがあるおかげで心機能が低下しても我々は生きていけます。
心機能が低下すると身体に上手に血液を送り出せなくなります。すると全身の臓器が酸欠や栄養不足になる心配が出てきます。そんなときには代償機構が次のように働きます。
- 脈を早める
- 心臓を大きくする
心機能が低下して血液を一度に押し出せなくなっても、脈を早めてこまめに脈を打つことで送り出す血液の全体量をカバーすることができます。多少脈を早めても特に自覚症状はありませんが、心不全が進行してあまりに脈を早くしなければならなくなると
一方で、心臓を大きくすることも心機能の低下をカバーすることができます。少し難しい話になりますが、心臓の働きには「スターリングの法則」というものがあります。これは心臓の中の血液量が増えて大きくなればなるほど心臓の押し出す力が増すという法則です。心臓をゴムと同じように考えるとわかりやすいです。ゴムが伸びれば伸びるほど引っ張る力が増すのと同じ考え方です。つまり、心臓の中に血液を増やして心臓を大きくすることは、心臓の押し出す力を増やすのに理にかなっているのです。
これらの代償機構はとても重要でありがたいシステムです。しかし、その根底にはとても大きな危険性がひそんでいることは知っておく必要があります。
心不全になるということは心機能が低下しています。その状態で脈を早くしたり送り出す血液量を増やしたりすると、「やせうまにムチを打つ」状態になってしまいかねません。つまり、心臓から見たら、疲れてバテているから仕事量を減らしているところに、もっと働けと指令が飛んできているような状態です。それでもなんとかこなせていれば良いのですが、負荷がかかりすぎるとさらにバテてしまっていかんともしがたい状態になってしまいます。この状態が末期の心不全(非代償性心不全)です。すると安静にしていても息が切れるような深刻な状況になります。
2. 心不全にはどんな症状があるか
代償機構が効かなくなってくると症状がだんだんと出現してきます。心不全の症状はさまざまです。心不全の症状は大きく2つに分けることができます。
- 血液が
うっ滞 することで起こる症状 - 心臓が血液を全身に送れないことで起こる症状
全身に血液がうっ滞することで起こる代表的な症状は息切れや
次の段落でそれぞれの症状について詳しく説明します。
息切れ、息苦しさ
心不全で息切れや息苦しさを感じることはしばしば起こります。心不全で起こる息切れの原因はいくつか考えられます。
- 血液の循環が滞るため全身にうまく酸素を配れない
胸水 が溜まることで肺活量が減る- 肺にうっ滞した血液の影響で気道に水分が漏れることで、空気が通りにくくなる(場合によっては無気肺になる)
- 咳や痰によって呼吸がしづらくなる
これらのどれが原因となっているのかによって治療法が異なります。
また、上で述べたように軽症の心不全ではこうした症状は起こりませんが、少し進行すると最初に労作時(動いたとき)の息切れが出てきます。最初は「最近運動不足だからかなあ」と早合点してしまうくらいの症状なのですが、病状が進行すると段々と息苦しさが増していきます。最終的には身体を動かさなくても息切れを感じる状態になるため、特に原因に心当たりなく息苦しさを感じた人は、医療機関で原因を調べてもらうようにして下さい。心不全を早くから治療して、できるだけ心機能を落とさないようにすることが大切です。
浮腫み(むくみ)
心不全(特に右心不全)によって全身の血液がうっ滞した場合には浮腫みが出現します。なぜだかよくわからないけれど浮腫みがあることから心不全に気づくということも少なくありません。浮腫みは特に足に出やすいので、診察では足を観察することで浮腫みの有無を判断することもあります。
一方、浮腫みの原因は心不全だけではありません。肝硬変でも浮腫みは起こりますし、原因不明でも浮腫むことがあります。しかし、浮腫みと息切れが同時に起こるような場合には、心不全が起こっている可能性がありますので、お医者さんに診察してもらうほうが良いと思われます。
咳
咳は風邪(急性上気道炎)でも起こりますし、逆流性食道炎でも起こります。しかし、心不全で起こる咳は少し特徴があります。心不全で起こる咳は横になると(あるいは就寝時に)出現しやすいです。また、横になると出やすかったり激しくなったりする咳が、起き上がると楽になることも特徴です。寝ると咳がひどくなるけれど起き上がると咳が楽になる場合には心不全の可能性を考えます。
痰(たん)
風邪で痰が出ることは多くの人が経験すると思いますが、心不全でも痰が出ることがあります。心不全(特に左心不全)では肺の血流がうっ滞してしまうため、空気の通り道(気道)に水分が漏れてきます。この水分が痰の量を増やします。
咳と痰は気道感染に起こりやすい症状であるため、心不全の初期症状を風邪と勘違いしてしまうことがあります。咳や痰がいつまでたっても治らない場合や起き上がると明らかに症状が軽くなる場合には心不全の可能性を考える必要があるかもしれません。
動悸(どうき)
心不全で動悸はよく起こります。心機能が低下すると代償機構が働いて脈が早くなります。また、身体を動かすなどして酸素需要が高くなると、それを補うように脈がさらに早くなります。そのため、初期の心不全で普段は自覚症状のない人であっても、身体を動かすとみょうに動悸がするということは起こりえます。
ほかに、不整脈が原因で心不全になることもあります。不整脈には心房細動や心室頻拍のような
胸痛
胸痛はさまざまな病気で起こります。胸痛の起こりやすい病気の主なものを次に挙げます。
これらの中の多くは心不全をきたしますので、心不全になっている人が心不全の原因の病気によって胸痛を感じることは多いです。また、心不全になると心臓に負担がかかりやすいため、脈が早くなりやすくなります。一生懸命走ったときを想像して下さい。走っている最中に胸が痛くなった経験があると思います。これと同じように脈が早くなって心臓が頑張りすぎた場合にも胸痛が出現します。
倦怠感(だるさ)
心不全になって心臓がうまく血液を循環させられなくなると
四肢冷感
心不全で心臓が血液を送り出せなくなると手足の特に末端(先っぽ)が冷たくなることがあります。また、手足以外にも耳たぶや頬が冷たくなることもあります。
チアノーゼ
チアノーゼとは皮膚が青紫色に変色することを指します。唇や手足の先端に起こりやすい症状です。心不全でチアノーゼが起こる場合は、血液をうまく全身に運搬できていないことを意味します。血液がうまく流れていかないことが原因で全身に酸素を届けることができていないためチアノーゼ(末梢性チアノーゼ)が起こります。
3. 心不全の症状の強さを簡易的に分類する方法:NYHA分類、SAS分類
息切れなどの心不全の症状は、重症度によって感じる強さが異なります。そのため、心不全の状況を把握する上で、いったいどの程度生活が侵されるくらい症状が進行しているのかを考えることは大切です。
心不全の症状の強さを把握する上で非常に有名なのはNYHA分類です。この分類はニューヨークの心臓協会が提案したもので、New York Heart Assosiationを略してNYHA(ニーハ)と呼びます。
【NYHA分類】
重症度 | 状態 |
1度 |
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2度 |
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3度 |
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4度 |
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NYHA分類は自覚症状を基準に判断するため、どうしても主観的な要素が入り込んでしまいます。そこで、できるだけ心不全における身体能力を客観的に判断するために、身体活動指数(SAS: specific activity scale)を用いて分類することがあります。
【SAS分類】
重症度 | 活動能力 |
1度 | 休むことなく7METs以上の活動ができる |
2度 | 休むことなく5METs以上7METs未満の活動ができる |
3度 | 休むことなく2METs以上5METs未満の活動ができる |
4度 | 休むことなく2METs以上の活動をすることはできない |
これは運動可能な強度(ここではMETs: metabolic equivalent)を基準に活動能力を分類します。いずれの分類も心不全の身体への状況を把握するのに参考になります。しかし、心機能低下の程度が同じでもどのくらい活動できるかは個人差があるので、心臓の動きを客観的に評価する
4. 心不全を疑う兆候はどんなものか
心不全の初期には症状がないことが多いです。心機能の低下をバックアップする代償機能のお陰で特に自覚症状が出現しません。一方で、心機能の低下を安静時には感じられなくても、身体を動かした場合に自覚することがあります。つまり、この場合には体動時にのみ息切れや動悸を感じます。運動不足のせいだとか体調が悪いせいだと考えてしまいがちですが、こうした症状の中には心不全が潜んでいます。
また、心不全の初期症状として夜間の
5. 末期の心不全になるとどんな症状が出るのか
心不全の初期には特に症状を感じなかった人であっても、心不全が進行すると段々と症状を感じるようになります。咳や労作時の息切れなどが出現し、心不全が改善しないと症状はどんどん悪化していきます。
末期の心不全になると横になれなくなります。横になると咳や息苦しさが悪化するため、寝る時も座って過ごすことになります。また、動かなくても息切れが目立つようになり、息苦しさが四六時中伴うようになります。
心不全が末期に至ると息苦しさを改善するために次の治療が行われます。
- 酸素療法
- 在宅人工呼吸器管理(NIPPV:非侵襲性陽圧換気)
- 緩和的薬物療法
酸素療法は心不全の影響で全身の酸素が足りなくなっている人に適しています。鼻にカニューレと呼ばれる細いチューブをあてることで、酸素を通常よりも多めに身体に入れることができます。
在宅人工呼吸器管理では密着型のマスクを用いて呼吸を助ける治療を行います。空気を吸ったり吐いたりするのを、人工呼吸器がマスクを介してやりやすくしてくれます。また、睡眠時無呼吸症候群を伴っている人にも有効です。
緩和的薬物療法は主に呼吸困難感(息苦しさ)や不安を和らげる治療です。さまざまな薬を用いますが、
治療に関する詳しいことについては「心不全に対して行う治療にはどんなものがあるか」で説明していますので、気になる方は参考にして下さい。