◆ ジギタリスが世に出たキッカケとは?
ジギタリスは植物由来の強心薬です。心臓の働きを強めることで、全身に血液を送り出す働き等を改善します。心不全や一部の心房細動などでも使用され現在も世界中で多くの方が飲まれていて、薬の効果に対する科学的根拠もしっかりしている薬です。しかし、このジギタリスが18世紀に"とある国"の医師が世に広めるまで「魔女の秘薬」の一つであったことはあまり知られていないかもしれません。
18世紀後半、医師であるウィリアム・ウィザリング(Withering, William 1741~1799)が重い水腫(何らかの原因により体に水が溜まっている状態)の一人の患者を診察して死が避けられないと判断しました。しばらく後、その患者が元気に生活しているのを見て驚き、どうしたのかと尋ねると、民間療法の秘伝の薬を飲みそれで治ったということでした。
ウィザリングがこの民間療法の教えを請いに行ったところ、この民間療法を施したのはある老婆であり、当初は秘伝であるため教えられないと断られました。しかしその後のウィザリングの熱意に負けたのか、老婆は彼に秘伝の薬の知識を与えました。その後、彼はこの秘薬の成分を解析し、その一つがジギタリスであることをつきとめ、これが世に広まるキッカケとなったのです。
◆ ジギタリスは本当に“魔女”の薬だったのか?
さて表題にもある「魔女の秘薬」ですが、ウィザリングに秘伝の薬を教えた老婆が魔女だったかどうかはともかく、この話の舞台となっている国で古くから伝えられてきたことを考えるとどうやらジギタリスが「魔女の秘薬」の一つであったことは確かな気がします。
実はこの舞台となっている国の名は…そう、古の魔女や魔法などの伝説が残るスコットランドなのです。また、ジギタリス自体も必要以上に体に摂取すると毒性(薬の副作用など)があらわれやすい薬であるため、イメージにも合致します。
それでも…と思われる方もいるかもしれませんので、もう一つ情報を。ジギタリスを世に広めたウィザリングはエディンバラ大学医学部出身なのです。
スコットランド、エディンバラ、魔女、そして魔法…ついつい小説がベストセラーになり映画が大ヒットした“あの物語”を思い出してしまいます。ちなみに“あの物語”をもとにした『The Wizarding World of Harry Potter』というテーマパークが各地にあります。
"ウィザリング"が「魔女の秘薬」に出会ってその後、ジギタリスが世界中で使われる薬になったのも何か不思議な力が働いたのかもしれません。そう"魔法"のような何かの力が…。
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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。