甲状腺が大きいと病気?喉の腫れ、しこり、痛みを起こす甲状腺の病気
健診で「
目次
1. 甲状腺腫大は病気?
甲状腺が腫れても怖い病気とは限りません。甲状腺の位置が腫れる主な原因を挙げます。
- 甲状腺の病気
- 首の皮膚や脂肪組織に症状が出る病気
- その他
- 頚
嚢胞 (けいのうほう)
- 頚
正確には「腫れ」とは言いにくいものや、甲状腺ではなく首の皮膚などが腫れているものを含めています。この中で甲状腺がんや悪性リンパ腫はごく一部です。
橋本病とは?
甲状腺が腫れる原因で一番多いのが橋本病です。20代から60代の女性には特に多く、すべての女性のうち数%が一度は橋本病を経験します。橋本病は目に見える症状が少なく、なんとなく元気がないだけというのが典型的です。気が付かず放置していても命に関わることはありません。発見できれば効く薬があります。
甲状腺の病気は危険?
病気で甲状腺が腫れていても、治療する必要がない場合があります。
甲状腺腫(単純性甲状腺腫)はほとんどの場合、甲状腺の腫れ以外に症状がありません。治療の必要もありません。
腺腫様甲状腺腫もほとんどはほかの症状がなく、治療の必要もありません。
亜急性甲状腺炎は激しい症状がありますが、自然に治ります。
バセドウ病に対しては有効な治療法があります。
健康診断などで甲状腺の腫れが見つかっても、大きな危険が隠れている場合は少数です。
甲状腺は「肥大」するか?
「甲状腺肥大」という言葉をネットではよく見かけますが、実は病院で「甲状腺肥大」とはあまり言いません。甲状腺の腫大(しゅだい)または
正確には「肥大」はひとつひとつの細胞が大きくなることを指します。バセドウ病などで起こる変化には当てはまりません。
ネットで情報を探すときには「甲状腺腫大」で検索したほうが、専門家が書いた正しい情報を見つけやすいでしょう。
2. 甲状腺の腫れをチェックする方法
特に体調が悪いわけでもないのに「甲状腺が腫れています」と言われると不安になりますね。甲状腺が腫れるとはどんな状態なのでしょうか?
これって甲状腺?
甲状腺は図の位置にあります。
甲状
甲状腺の大きさは左右に4cmほどです。皮膚のすぐ下にあるので手で触れます。ただし、正常な甲状腺は軟らかいので、かなり注意深く触らないと周りと区別できません。
甲状腺が腫れるとどうなる?
甲状腺が腫れると喉元が太くなってきます。鏡などを使って横から見ると、甲状腺の部分が盛り上がって見えます。
首を左右前後に動かすと喉元が突っ張る感じがします。触ってみても、周りより膨らんでいると感じたら腫れています。甲状腺が腫れても軽度ならあまり気付くことはありません。大きくなるにつれて自覚しやすくなります。
甲状腺は年を取るとだんだん小さくなります。そのため、少し腫れても見つけにくくなります。
つばを飲むなど、喉が食べ物を飲み込む動きをすると甲状腺も一緒に動きます。腫れたものが喉と一緒に動かなければ、甲状腺ではなく皮膚の下の組織が腫れているのかもしれません。
3. 甲状腺が腫れる原因は?
甲状腺全体が大きく腫れる原因で特に多いものとして、バセドウ病と橋本病があります。亜急性甲状腺炎も甲状腺が腫れますが、痛みがあるのが違いです。
原因を見分けるには検査が必要です。血液検査がまず重要です。血液の中で
バセドウ病
バセドウ病になると甲状腺が全体的に腫れます。痛みはありません。バセドウ病の症状として以下のものがあります。
- 目の症状
- 目が飛び出す(眼球突出)
まぶた が閉じきれなくなる- まぶたが腫れているように見える
- ものが二重に見える(
複視 ) - 眼が痛くなる
- 眼が赤くなる
- まぶしく感じる(羞明)
- 物がゆ
がん で見える、視野が悪くなる
- 首が腫れる(甲状腺が腫れる)
- 生理(月経)の異常
- 生理不順、生理が止まる
- 皮膚の症状
- かゆみ、蕁麻疹
- 毛が抜ける、細くなる
- 皮膚が黒くなる
- 筋肉の症状
- 筋力低下
- 手足が震える
- 突然手足の力が入らなくなり、しばらくすると戻る(周期性四肢麻痺)
- 心臓の症状
- 脈が早くなる(
頻脈 、1分に100回以上)、脈が乱れる(心房細動) - ドキドキする(
動悸 ) - 息切れ
- 血圧が上がる
- 脈が早くなる(
- 胃腸の症状
- 食欲が増す/落ちる
- 口が乾く
- 便の回数が増える、腹痛、下痢
- 心の症状
- イライラする
- 集中力が落ちる
- 落ち着かない気持ちになる(
不穏 ) - 眠れなくなる
- 一時的に周りの状況などを理解できなくなる(せん妄)
- その他の症状
- 暑がりになる、汗をかく、多汗
- 疲れやすくなる
- だるさ
- 食欲は旺盛なのに体重が減る
- 性欲減退
- 女性化乳房
1人に全部の症状が出ることはありません。甲状腺の腫れ以外に症状が目立たないこともあります。血液検査で甲状腺ホルモンや異常な
バセドウ病では血液検査のうち甲状腺ホルモン(T3、fT3、T4、fT4)の値が高く、甲状腺刺激
異常な抗体(TRAb)の検査値は高くなります。
甲状腺の中にほかの病気が隠れていないか、
橋本病
橋本病になると甲状腺が全体的に腫れることがあります。通常痛みはありません。ほかに以下の症状があります。
- 寒がり、寒気
- 疲労、疲れやすい、
倦怠感 - 便秘
- ボーっとする、記憶力・集中力低下
- 脈が遅くなる(
徐脈 ) - 息苦しい
- 声がかれる、声が出ない、舌が大きくなる
- 体温が下がる
- 体重増加(食欲は不振)
- 皮膚が乾燥する、
むくみ (粘液水腫) - まぶたのむくみ
- 脱毛
- 生理の量が多い(過多月経)
- 手の指のしびれ・痛み(手根管症候群)
- 耳が聞こえにくい(難聴)
すべての症状が出ることは普通はありません。なんとなく元気がないだけの場合が多いです。
橋本病の診断には、血液検査で甲状腺ホルモンの量を調べます。
甲状腺ホルモン(fT3、T3、fT4、T4)の検査値は低く、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値は高くなります。
甲状腺の中にほかの病気が隠れていないか、超音波検査(エコー検査)などで調べることがあります。
亜急性甲状腺炎(あきゅうせいこうじょうせんえん)
亜急性甲状腺炎では甲状腺が腫れて痛むことがあります。特に甲状腺の左右どちらかが硬く腫れることが多く、押すと痛むことも多いです。ほかに以下の症状があります。
- 汗をかく
- 手が震える(振戦)
- 脈が速くなる(頻脈)
- 体温が上がる
- 下痢
- 体重減少
症状はバセドウ病とよく似ています。甲状腺の痛みが大きな違いです。
亜急性甲状腺炎にかかりやすい人は40代から50代の女性です。原因は不明です。
血液検査で甲状腺ホルモンの量を調べて診断します。甲状腺ホルモン(T3、fT3、T4、fT4)の値が高く、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値が低くなります。
亜急性甲状腺炎なら異常な抗体(TRAb)の検査値は正常(陰性)です。
甲状腺の中にほかの病気が隠れていないか、超音波検査(エコー検査)などで調べることがあります。
食事は甲状腺が腫れる原因か?
甲状腺の働きには食事に含まれるヨウ素(ヨード)が関係しています。ヨウ素を多く含む食品を下の表にまとめます。
表 食品100gあたりのヨウ素含有量
食品 |
ヨウ素含有量 |
こんぶ |
200-300mg |
とろろこんぶ |
200-300mg |
ひじき |
30mg |
わかめ |
10mg |
寒天 |
2mg |
味付け海苔 |
7.5mg |
青のり |
6.5mg |
海苔の佃煮 |
0.5mg |
(「バセドウ病治療
ヨウ素の摂取量は1日0.25mgから10mgが適切です。適切な量のヨウ素を摂取していれば、甲状腺にはほとんど影響がありません。
タバコは甲状腺が腫れる原因か?
タバコは甲状腺が腫れる原因とは言えません。
喫煙で甲状腺の病気が悪化する可能性はあります。治療のためにも禁煙したほうが良いと思われます。しかし、タバコだけで甲状腺の病気のすべては説明できません。禁煙しただけで治るとも言えません。
妊娠は甲状腺が腫れる原因か?
妊娠が原因で甲状腺の異常が引き起こされる場合があります。ただし、甲状腺が腫れる原因はほかにもあります。甲状腺が腫れたら妊娠だとは言えません。
いびきの原因は甲状腺?
橋本病などの甲状腺機能低下症でいびきが現れることがあります。ある研究では、いびきを訴えた人の12%以上に甲状腺機能低下症があったとしています。
甲状腺機能低下症では全身の組織に水分がたまります。のどの奥の組織に水分がたまると、空気の通り道が狭くなることが考えられます。するといびきが出ることも考えられます。
ただし、いびきの原因としてはほかに睡眠時無呼吸症候群なども考えられるため、必ずしも甲状腺の病気を第一に考えるということはありません。
参考文献:Eur Arch Otorhinolaryngol. 2014 Nov
4. 甲状腺のしこりの原因は?
甲状腺のしこりは
甲状腺の腫瘍には
「しこり」とは?
「しこり」とは硬くなっているという意味です。「かたまり」のことだと思ってください。「かたまり」と言うと手のひらでつかめるぐらいの大きさを想像するかもしれませんが、甲状腺の「しこり」には1cm以下で見つかるものもあります。
「しこり」の中には肩こりぐらいの硬さの「しこり」も、石のように硬い「しこり」もあります。甲状腺の「しこり」は周りの皮下脂肪と続けて触るとやっと区別できるぐらいの硬さのことがあります。
甲状腺の「腫れ」と「しこり」の違いは?
甲状腺の全体が一様に大きくなるのが腫れ(腫大)、一部に硬い塊ができるのがしこり(結節/腫瘤)です。全体が腫れることをびまん性甲状腺腫大、硬いしこりがあることを結節性甲状腺腫大とも言います。
甲状腺の腫れとしこりは見ても触っても紛らわしいことがあります。見分けるポイントは左右の差です。甲状腺が腫れる病気は左右両側が腫れることが多く、甲状腺のしこりは通常左右どちらか片側にだけできます。
甲状腺の良性腫瘍
甲状腺の良性腫瘍には、主に3種類あります。
甲状腺の良性腫瘍の特徴は、甲状腺の左右どちらか片方にできることです。数mmから数cm程度のしこりが触ってわかります。甲状腺腫のほとんどは症状がありません。まれにバセドウ病に似た症状を起こします。
- 汗をかく
- 手が震える(振戦)
- 脈が速くなる(頻脈)
- 体温が上がる
- 下痢
- 体重減少
腺腫様甲状腺腫と甲状腺嚢胞は症状がほとんどありません。甲状腺の良性腫瘍は、甲状腺の腫れやしこり以外の症状がなければ、急に大きくなったりほかの症状を引き起こすことがありません。急いで治療する必要もありません。
診断で大切なのは、悪性腫瘍と間違えないことです。
甲状腺嚢胞の中にはごくまれに悪性腫瘍が潜んでいます。検査で甲状腺嚢胞が見つかったときはがんを探す検査に進みます。甲状腺腫や腺腫様甲状腺腫は悪性腫瘍と紛らわしいことがあります。区別するために検査で調べます。
- 超音波検査
- 腫瘍の形や石灰化などの特徴がわかります。
穿刺 吸引細胞診 検査(FNA)- 甲状腺に針を刺して細胞を取り出し、顕微鏡で観察します。
CT 検査、MRI 検査- 甲状腺の周りに腫瘍が広がっていないかを調べます。
甲状腺の悪性腫瘍(甲状腺がん、悪性リンパ腫)
甲状腺がんはごく小さければ症状がないものがほとんどです。数mm以上になると触ってわかるようになります。通常は左右どちらか一方にだけできます。甲状腺がんが進行すると声がかすれたり、ものが飲み込みにくくなったりすることもあります。
甲状腺がんに特徴的な点を説明します。
甲状腺がんについては、「甲状腺がんの詳細情報」でも説明しています。
腫瘍以外の原因
甲状腺腫瘍では、良性腫瘍でも悪性腫瘍でも、全身の症状はないことがほとんどです。全身の症状があればほかの病気の可能性があります。たとえば次のような状況も考えられます。
5. 甲状腺が痛む原因は?
甲状腺が痛む主な原因としては、亜急性甲状腺炎と悪性腫瘍が考えられます。良性腫瘍で痛みが出ることはあまりありません。
甲状腺の悪性腫瘍が進行して、甲状腺周囲の血管や神経を巻き込んで大きくなると痛みが出やすくなります。甲状腺の悪性腫瘍が原因の場合は、甲状腺が硬くなったり、でこぼこしたり、皮膚の色が変わったりすることがあります。
6. 子供の甲状腺が腫れる原因は?
子供で甲状腺の位置が腫れる病気の例を挙げます。
正確には「腫れ」とは言えないものや、甲状腺ではなく皮膚が腫れるものを含めています。
このうち甲状腺の病気は以下です。
- 橋本病
- むくみ、だるさ、体温が下がる、脈が遅くなるなどの症状があります。
- 甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫
- 目立った症状はない場合が多いです。
- 亜急性甲状腺炎
- 甲状腺の痛みがあります。
- バセドウ病
- 汗、震え、下痢、体重減少、脈が速くなるなどの症状があります。
子供がかかりやすい甲状腺の病気は、落ち着いて治療すればいいものがほとんどです。20歳未満では甲状腺がんはまれです。
7. 甲状腺が腫れたら治療は手術?
甲状腺が腫れている原因がバセドウ病や腫瘍だった場合、手術の選択肢があります。橋本病や亜急性甲状腺炎では普通、手術はしません。
甲状腺の手術とは?
バセドウ病の手術は甲状腺の全部または一部を取り除く手術です。手術では治療効果が早く確実に現れます。一方、以下の問題を引き起こす可能性もわずかにあります。
- 飲み込みにくい
- しゃべりにくい
- けいれん
- 不整脈
甲状腺腫瘍も同様の手術で治療できます。
甲状腺の病気の治療法は?
バセドウ病の治療法として、手術以外に薬と
バセドウ病の薬は甲状腺ホルモンの量を減らす薬です。抗甲状腺薬と言います。よく使われる薬はチアマゾール(商品名:メルカゾール®)とプロピルチオウラシル(商品名:チウラジール®、プロパジール®)の2種類です。チアマゾールは高い効果がありますが、妊娠中・授乳中は使えません。プロピルチオウラシルは妊娠中にも使うことがあります。
バセドウ病に対しては
バセドウ病の放射線療法(
橋本病の治療法は甲状腺ホルモンを飲むことです。
甲状腺ホルモンには
甲状腺ホルモン製剤はバセドウ病の治療後に甲状腺ホルモンが減りすぎたときにも使います。
甲状腺が腫れても妊娠できる?
バセドウ病や橋本病で不妊にはなりません。ただし、重度のバセドウ病が妊娠中も続いていると、以下の危険性があります。
場合によっては妊娠する前に手術が勧められます。橋本病も治療しなければ流産などの危険性があります。バセドウ病や橋本病は若い女性にはかなり多い病気ですが、多くの女性が治療して無事に出産しています。
甲状腺が腫れたら食事はどうすればいい?
甲状腺の機能には食事に含まれるヨウ素が関係しています。ヨウ素の摂取量は1日0.25mgから10mgが適切です。特にバセドウ病の放射線療法をするときは注意が必要です。放射線療法の前の一定期間は、ヨウ素を多く含む昆布やひじきなどの食品は避けてください。
8. 甲状腺の病気は何科に行けばいい?
甲状腺の病気は代謝内分泌内科や乳腺甲状腺外科が専門にしています。健康診断などで甲状腺腫大と言われたら、近くに
代謝内分泌内科はホルモンの働きに詳しい診療科です。甲状腺ホルモンの異常も専門の範囲です。
甲状腺の手術をしているのは乳腺甲状腺外科です。
耳鼻咽喉科も適しています。耳鼻咽喉科は甲状腺を含めて首の周りの病気に詳しい診療科です。
一般内科でも診てもらえます。
最初にどの科に行っても、必要に応じて適した診療科に紹介してもらえます。
病院に行くときの準備は?
病院に行くときは、
- どんな症状が出ているのか
- いつから症状が出ているのか
- 過去にどんな病気にかかったか
- 家族に甲状腺の病気の人はいるか
- 飲んでいる薬はあるか
病院で「様子を見ましょう」と言われたら?
甲状腺腫大と言われて心配になった人も、検査をしたうえで「治療は必要ありません」と言われれば、まずは安心してください。説明で心配に感じた点や納得いかない点があれば、怖がらないでどんどん質問してください。