◆バセドウ病の症状、眼球突出
ここで紹介する論文は、ソクラテスにバセドウ病(グレーブス病)があったという仮説を立て、そこからソクラテスのさまざまな特徴を説明しようとしています。
バセドウ病は、免疫の異常により甲状腺ホルモンが過剰に放出され、発汗や動悸の症状を起こす病気です。また、目が飛び出すこと(眼球突出)もしばしば現れる特徴とされています。
この論文の著者は、クセノポン『饗宴』にあるソクラテスの発言で、自分の目が飛び出していることに言及したものがあるほか、文献上いくつかの根拠から、ソクラテスに眼球突出があったことが読み取れると主張します。また、『パイドン』では、ソクラテスが人を見るときに目を大きく開いたり上を見るときにあごを突き出す描写があることから、眼球突出による眼球運動障害も考えられるとしています。
さらにプラトン『饗宴』、クセノポン『ソクラテスの思い出』などの記述をもとに、ソクラテスが寒さに強かったこと、酒に酔うことがなかったことが、甲状腺ホルモンの作用で説明できるとしています。
◆「ダイモニオン」の正体は橋本脳症による側頭葉てんかんだった?
著者はまた、甲状腺の異常による「橋本脳症」というまれな病態を、ほかの説とも結びつけています。
過去の研究で、ソクラテスに側頭葉てんかんがあったとする説があります。この説は、ソクラテスが「ダイモニオン」という何者かの声を聞いていたとされることを、側頭葉てんかんで見られる幻聴として説明するものです。
この説に基づけば、ソクラテスの側頭葉てんかんは橋本脳症によって引き起こされたのではないか、という観点が新たに提示されています。
「ダイモニオン」のように、かつて奇怪な現象と思われていたことが、医学の知識で説明できる場合があります。こうした歴史上の考察は、病気の症状が実際の生活の中でどんな現れ方をするかについて、洞察を深める助けになるかもしれません。
執筆者
The philosopher Socrates had exophthalmos (a term coined by Plato) and probably Graves' disease.
Hormones (Athens). 2015 Jan-Mar
[PMID: 25553768]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。