ばせどうびょう(こうじょうせんきのうこうしんしょう)
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
若い女性に多く、甲状腺から過剰に甲状腺ホルモンが分泌される病気。症状は汗、動悸、手の震え、体重減少、下痢が多く、眼球突出は3割ほどの人に起こる
16人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.12.22

バセドウ病の診断方法は? 症状、甲状腺の検査でわかること、検査を受けることのできない人

目が飛び出す症状はバセドウ病では出ないことのほうが多いです。ほかの症状を手がかりに、甲状腺の検査をすることで診断がつきます。血液検査やアイソトープ検査からわかることを説明します。

1. こんな人はバセドウ病かも?

バセドウ病が心配になったら、年齢・性別や症状をチェックしてみてください。

  • 女性
  • 20代から30代
  • 目が飛び出してきた
  • 甲状腺が腫れている
  • 手が震える
  • 汗をかく
  • 脈拍が1分に100回以上
  • 体重が最近1か月で1kg以上減った

当てはまるものが多ければ、代謝内分泌内科などで相談しましょう。

甲状腺が腫れているかどうかは、正常な甲状腺の図を参考にしてください。

甲状腺の場所の画像:甲状腺は首の前側、のどぼとけの下、気管の前面で左右の頚動脈の間にある

鏡などを使って横から見たときに甲状腺の部分が盛り上がって見えたら腫れています。触ってみても、周りより膨らんでいると感じたら腫れています。バセドウ病では甲状腺全体が右も左も同じぐらい腫れてきます。

症状について詳しくは「バセドウ病の初期症状は? 甲状腺の腫れ、目、首、震え、汗、生理にも注意」で説明しています。

2. 問診

問診では気になっている症状などを聞かれます。よく聞かれることを挙げます。

  • なにに困っているか
  • どんな症状が出ているか
  • いつから症状が出ているか
  • 今までどんな病気にかかったことがあるか
  • 家族にバセドウ病の人はいるか
  • タバコは吸うか

どんな症状があるかをなるべく詳しく伝えてください。自分の身体の変化には自分が一番気付きやすいので、お医者さんが診察して見つけられないことも教えてあげられるかもしれません。

問診だけで原因の病気がかなりわかってくるので、問診はとても大事です。

3. 身体診察

バセドウ病を調べるために、お医者さんは全身をくまなく診察します。甲状腺の病気なのになぜ全身を調べるのか気になるかもしれませんが、バセドウ病の症状は全身に出ます。特に顔と首と手足、心臓に症状が出ることが多いので、よく診察されます。

4. 血液検査

バセドウ病を診断するうえで血液検査は非常に重要です。バセドウ病は免疫のバランスが崩れて甲状腺ホルモンが過剰な状態になる病気ですので、甲状腺ホルモンや免疫に関して調べることになります。

  • 甲状腺ホルモン(T3/fT3、T4/fT4)
    • バセドウ病では甲状腺ホルモンの量が多くなります。検査値ではT3(トリヨードサイロニン)、T4(サイロキシン)、fT3、fT4が甲状腺ホルモンの量を調べています。
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
    • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺に甲状腺ホルモンを作らせるホルモンです。バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰なため、甲状腺を休ませようとしてTSHは少なくなります。
  • 自己抗体(TRAb、TSAb)
    • 自己抗体とは自分の免疫が自分の臓器を攻撃しだした時に出てくる物質です。バセドウ病では自己抗体が甲状腺を攻撃して異常を起こしています。TRAbとTSAbという自己抗体は、バセドウ病だと量が多くなります。
  • 一般的な血液検査
    • バセドウ病では、血液検査の一般的な項目にも異常が出やすくなります。
      • コレステロール値の低下
      • アルカリフォスターゼ(ALP)値の上昇
      • 血糖値の上昇
      • 肝障害の検査値(AST、ALT、γ-GTP)の上昇

甲状腺ホルモンが多く、TSHが少なく、自己抗体が多ければバセドウ病の疑いが強くなります。

値の見方については本ページ末尾の「甲状腺ホルモンの値の見方」で詳しく説明しています。専門的な内容ですので興味のある人は参考にどうぞ。

5. アイソトープ検査

アイソトープ検査は甲状腺が甲状腺ホルモンを盛んに作っているかを調べる検査です。甲状腺ホルモンの量が多いときに、バセドウ病とほかの原因を区別する役に立ちます。

アイソトープ検査では、微量の放射線を出すヨウ素を注射します。甲状腺は甲状腺ホルモンをつくるために必要なヨウ素を取り込んで集めるので、放射線を測定すると、甲状腺にヨウ素が集まっている様子がわかります。

バセドウ病では甲状腺の全体にヨウ素が集まります。

アイソトープ検査をしてはいけない人

アイソトープ検査は、レントゲン写真やCTと同じように、放射線を使う検査です。微量の放射線なので、一般的な生活をしている人には問題ありません。しかし、妊娠している人は念のためアイソトープ検査を避けてください。また、アイソトープ検査を行ってから6ヶ月くらいは妊娠しないほうが良いと考えられています。

妊娠予定のある女性が病院に行くときは、最後の生理の日を必ず伝えるようにしてください。

6. エコー検査

エコー検査(超音波検査)は身体の中を見る画像検査です。のどにジェルを塗って超音波を出す機械(プローブ)を当てるとモニターに画像が出ます。甲状腺の形や大きさ、甲状腺の血流が画像でわかります。

アイソトープ検査と違って、エコー検査は妊婦にも安全です。

7. バセドウ病の診断基準

バセドウ病の診断には基準が決められています。専門的ですが、まずは基準を見てみましょう。

  1. 症状
    1. 頻脈、体重減少、手が震える、発汗が増えた
    2. 甲状腺が腫れている(首が太くなった)
    3. 眼球が突出するなどの目の症状
  2. 検査結果
    1. fT3とfT4のどちらかあるいは両方が血液中に多い
    2. TSHが血液中に少ない
    3. TRAbやTSAbが血液中に多い
    4. アイソトープ検査で甲状腺全体に異常がある

【診断】

  • バセドウ病:1.のabcのいずれか1つ以上+2.のabcdの4つ全て
  • バセドウ病がかなり疑わしい:1.のabcのいずれか1つ以上+2.のabcの3つ
  • バセドウ病が疑わしい:1.のabcのいずれか1つ以上+2.のabの2つ+3ヶ月以上fT3とfT4が高い

大まかに言うと、次の3か条に当てはまればバセドウ病です。

  • バセドウ病らしい症状がある
  • 血液検査で異常がある
  • アイソトープ検査で異常がある

バセドウ病ではないと診断された場合、ほかの原因を探すことになります。

参考文献:甲状腺疾患診断ガイドライン2021, バセドウ病の診断ガイドライン, 日本甲状腺学会, 2021

8. 甲状腺ホルモンの値の見方

血液検査でわかる甲状腺ホルモンT3、T4、fT3、fT4はそれぞれ意味合いも少しずつ違うのですが、どれも甲状腺ホルモンの量を調べています。4項目のうち一部だけ検査することもあります。

T3、T4、fT3、fT4のどれかひとつでも基準値より多ければ甲状腺機能亢進症、どれかひとつでも少なければ甲状腺機能低下症が疑われます。

ただし、忘れてはいけないポイントがひとつあります。甲状腺ホルモンの数値は「TSH」と一緒に見ないといけないということです。次に説明します。

甲状腺の働きはTSHでコントロールされている

甲状腺の働きは脳にある下垂体(かすいたい)という臓器によってコントロールされています。

脳下垂体から甲状腺への指令を伝えるのが甲状腺刺激ホルモン(TSH)という物質です。脳下垂体からTSHが出ると、甲状腺がTSHを受け取って、甲状腺ホルモンを多く作ります。

つまり、血液検査のTSHの数値は、「甲状腺を働かせる指令は正常に出ているか」を調べています。

甲状腺ホルモンが多いとTSHが減る

甲状腺はTSHを受け取って甲状腺ホルモンを作ります。

すると脳下垂体は甲状腺ホルモンの量を感知してTSHの量を調節します。甲状腺ホルモンが増えればTSHは減り、甲状腺ホルモンが減ればTSHは増えます。

図を使って説明します。

甲状腺と脳下垂体の関係の図1:TSH(甲状腺刺激ホルモン)は甲状腺ホルモンを増やし、甲状腺ホルモンはTSHを減らす

甲状腺ホルモンが多いとき、脳下垂体は「もう甲状腺ホルモンは要らない」と判断して、TSHを減らします。

甲状腺と脳下垂体の関係の図2:甲状腺ホルモンが増えるとTSH(甲状腺刺激ホルモン)が減り、甲状腺ホルモンを減らす

TSHは「甲状腺ホルモンを作れ」という指令なので、TSHが減るということは「甲状腺ホルモンを減らせ」という意味になります。

甲状腺はTSHが減ったのを感知して、甲状腺ホルモンを減らします。すると甲状腺ホルモンの量は正常範囲に保たれます。

逆に、甲状腺ホルモンが足りなくなったら、脳下垂体から「もっと甲状腺ホルモンを作れ」という指令が出ます。つまり、TSHの量が増えます。

甲状腺と脳下垂体の関係の図3:甲状腺ホルモンが減るとTSH(甲状腺刺激ホルモン)が増え、甲状腺ホルモンを増やす

甲状腺はTSHが増えたのを感知して、甲状腺ホルモンを増やします。こうして、甲状腺ホルモンが少ない場合も、脳下垂体によって正常範囲に調整されていきます。

甲状腺ホルモンとTSHが連動しないのは甲状腺以外の病気を考える

このように、甲状腺機能亢進症では、脳下垂体が甲状腺ホルモンを減らそうとするのでTSHは少なくなります。逆に、甲状腺機能低下症ではTSHが多くなります。

検査値で甲状腺ホルモンが多いのにTSHが減っていないとき(下垂体腺腫など)、甲状腺ホルモンが少ないのにTSHが増えていないとき(シーハン症候群など)は甲状腺以外に異常がある可能性があります。

脳に原因が見つかった場合、脳神経外科などに紹介されて手術になることがあります。