ばせどうびょう(こうじょうせんきのうこうしんしょう)
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
若い女性に多く、甲状腺から過剰に甲状腺ホルモンが分泌される病気。症状は汗、動悸、手の震え、体重減少、下痢が多く、眼球突出は3割ほどの人に起こる
16人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.12.22

バセドウ病でよくある疑問:完治するのか、良い食事はあるか、治療期間、再発、妊娠についてなど

バセドウ病は再発することのある病気です。しかし、治療で目や全身の症状は改善しますし、妊娠もできます。治療中の生活上の注意とともに、よくある疑問についてお答えします。

1. バセドウ病は完治する?

甲状腺の位置

バセドウ病に対して、抗甲状腺薬による治療やアイソトープ治療がうまくいけば、治療が終わって何年も再発しない人はいます。しかし、甲状腺が残っている限り「もう再発しない」と言い切れることはなく、治療を続けなくても再発しないという意味での「完治」ではありません。

手術で甲状腺を完全に取ってしまえば再発もしません。ただし、甲状腺の本来の機能が失われます。そのため、甲状腺ホルモン製剤を飲み続ける必要があります。薬を飲み続けることになるので、「完治」という言葉のイメージとは違うかもしれません。

症状がなくなることを寛解(かんかい)と言い、バセドウ病では寛解を目標に治療が行われます。

2. バセドウ病の治療期間は?

バセドウ病の主な治療法と、治療にかかる期間は次のようなものです。

  • 薬(抗甲状腺薬)
    • 通常1年以上飲み続ける
  • 放射線療法(アイソトープ治療)
    • 状態や施設によって、日帰りから数日入院
  • 手術
    • 1週間程度の入院

上記に加えて、治療によって甲状腺ホルモンが不足した場合、甲状腺ホルモンを補う治療が必要になります。

バセドウ病は甲状腺ホルモンが増えすぎる病気です。治療によって甲状腺ホルモンを減らすことができるのですが、甲状腺ホルモンが減りすぎて不足することがあります。

甲状腺ホルモンを飲んで適切な量に保つことで、症状がない状態を維持できます。

3. バセドウ病の薬は太る?:チウラジールやメルカゾール

抗甲状腺薬自体に肥満や体重増加の副作用はありません。

薬の取扱説明書にあたる添付文書には副作用も記載されていますが、チウラジールの副作用メルカゾールの副作用ともに、肥満や体重増加は記載されていません。浮腫むくみ)などは記載されていて、副作用としてあらわれる可能性があります。

一方、バセドウ病の症状として異常な体重減少があらわれることがあります。治療によって症状がなくなった結果、体重が増えてバセドウ病の発症前まで戻ることはありえます。これは薬の副作用ではなく、手術でも放射線療法でも同様に起こりうることです。

4. バセドウ病の治療で目は元に戻る?

甲状腺ホルモンの量が正常に戻れば、目が飛び出す症状(眼球突出)も元に戻ることが多いです。症状が残ったときは眼科などで治療し、重症の場合などで目の手術をする方法もあります。

5. ヨードの摂りすぎは甲状腺に影響する?

ヨードを一度に10mg以上摂取すると、甲状腺の働きはむしろ弱くなります。

バセドウ病は甲状腺が働きすぎてしまう病気なので、かつての医学では、ヨードを大量に摂って甲状腺を抑制するとバセドウ病が治るのではないかという考えがありました。

確かに大量にヨードを摂ると一時的にバセドウ病の症状が軽くなることが多いのですが、数日経つと効果がなくなってきます。そのため、ヨードは長期的な治療には使えません。

バセドウ病に効果がなくなってくるということは、健康な人がヨードを摂りすぎても害はないということです。1日10mg程度までなら、甲状腺に悪影響が出る心配はほとんどありません。

ただし例外として、バセドウ病のアイソトープ治療をするときは、ヨードをたくさん摂ると治療効果が弱くなる恐れがあり、治療前の一定期間だけヨードを制限する必要があります。

日本のヨード摂取事情

ヨード(ヨウ素)は甲状腺で必要とされている物質です。世界保健機構(WHO)ではヨードを1日に150μg、妊娠中は1日250μg摂取するように推奨しています。μgはマイクログラムと読み、1000μg=1mgです。つまり、150μgは0.15mg、250μgは0.25mgと同じです。

では、日本人はヨードをきちんと摂れているのでしょうか。

ヨードは海藻に多く含まれています。日本においては海藻を食べる習慣があり、諸外国と比べてヨードの摂取量が多いです。しかし、海藻を摂る量は、個人によって差があり、日によっても差があります。そこで、目安として参考になるのが食品ごとのヨード含有量です。

ヨードを多く含む食品

日本の食事はヨードを多く含む

日本でよく食べられている、ノリ・わかめ・こんぶ・ヒジキなどはヨードを多く含んでいます。海藻からダシを取ると、ヨードのほとんどがダシに出てきます。こんぶに含まれているうちの90%ほどのヨードがダシに短時間でうつります。したがって、こんぶダシの中には多くのヨードが含まれていることになります。

食品ごとにヨードが含まれている量を表にまとめます。

表 食品100gあたりのヨード含有量

食品 ヨード含有量
こんぶ 200-300mg
とろろこんぶ 200-300mg
ひじき 30mg
わかめ 10mg
寒天 2mg
味付け海苔 7.5mg
青のり 6.5mg
海苔の佃煮 0.5mg

(「バセドウ病治療ガイドライン2011」より)

表は食品100gに含まれるヨードの量を示しています。ヨードの単位がmgであることに注意してください。例えば食事から摂ったヨードが1.5mgだとすると、これは1500μgであり、WHOが推奨する150μgの10倍にあたります。

特にこんぶは多量のヨードを含んでいます。こんなに多いとかえって摂りすぎで害がないか心配になりますね。おでんや鍋のこんぶを食べると、ヨードの摂りすぎにならないでしょうか?

実は、おでんのこんぶにはほとんどヨードが含まれていません。

意外ですが、こんぶのヨードはダシに出ていきます。おでんにこんぶを入れてもヨードは出てしまうので、おでんの具として食べるこんぶにはほとんどヨードは含まれていないことになります。

6. ヨードが足りないと甲状腺に影響する?

バセドウ病の治療にはヨードの摂取を制限すると良いと考えられた時期がありました。しかし、実際にヨード制限を行った海外の研究で、ヨード摂取の制限は甲状腺に影響を与えなかったという報告があります。

日本では日常的にヨード摂取量が多いので、海外の研究結果が当てはまるか予測できない部分があります。バセドウ病の治療のためにヨードを制限するべきかどうかについて結論は出ていません。

少なくとも現時点では、バセドウ病の治療や予防のために食事のヨードを減らすべきとは言えません。

7. バセドウ病にはどんな食事が良い?

バセドウ病になってしまった人は、ヨードの摂取量が1日0.25mgから10mgの範囲に収まるようにしましょう。

海藻をまったく食べない人は、ときどきは食べるようにしましょう。

煮たものは煮汁にヨードが出ているので、こんぶを使う料理でも煮汁を飲まなければヨードを摂りすぎる心配はありません。ひじきやわかめもヨードが多いですが、一度に食べる量が少しなら大丈夫です。

アイソトープ治療をするときには、お医者さんの指示を聞いて、ヨードが少ない食事をしましょう。

体力を消耗しないように、炭水化物・脂肪・タンパク質に加えてビタミンミネラルを含んだ栄養バランスのよい食事をしましょう。

8. バセドウ病はなぜ再発する?

バセドウ病の原因は免疫の異常です。バセドウ病では体内で自分自身の甲状腺を攻撃する抗体自己抗体)が作られています。このことから、バセドウ病は自己免疫疾患に分類されます。

なぜ自己抗体が作られるのかはわかっていません。現代の治療は甲状腺の働きを抑えることでバセドウ病の症状をなくすことを狙っていますが、自己抗体が残っていれば、甲状腺が再び攻撃され、バセドウ病の症状が再発することはありえます。

9. バセドウ病になったら妊娠できない?

バセドウ病の治療中でも妊娠・出産は可能です。

バセドウ病は妊娠の可能性がある20代から30代の女性に多い病気です。妊娠する前に薬を替えたり、アイソトープ治療は中止するなど気を付けることはありますが、治療ができていればバセドウ病だからといって妊娠できなくなることはありません。

また、妊娠中にバセドウ病にかかってしまっても、治療して赤ちゃんへの影響を最小限に抑え、無事に出産する人は大勢います。

しかし、妊娠中のバセドウ病にも危険はあります。妊娠中にバセドウ病の状態が続くことは赤ちゃんにとってもお母さんにとっても危険なので、元気な赤ちゃんを産むために、慎重に治療する必要があります。

妊娠中のバセドウ病の危険性とは?

バセドウ病は、のど元にある甲状腺(こうじょうせん)という臓器から、甲状腺ホルモンが出過ぎてしまう病気です。治療しないで甲状腺ホルモンが多い状態が続いた場合、妊娠高血圧症低出生体重児流産早産、死産の危険性があります。

また、甲状腺クリーゼという命に関わる状態になることもあります。

妊娠を考えている女性でも、非常に重いバセドウ病で妊娠すると危険性が高いと予想された場合、手術によって甲状腺ホルモンを適正に戻せるまで、妊娠は勧められません。

また、バセドウ病の治療の中には赤ちゃんに影響する恐れがあり、妊娠中はやめないといけないものがあります。やはりその場合も手術が勧められます。

バセドウ病と紛らわしい妊娠中の変化

妊娠初期(7-15週)は、甲状腺ホルモンが増えることがあります。妊娠初期に甲状腺ホルモンが増えるのはバセドウ病ではなく、正常な身体の変化です。

しかし、もしバセドウ病が隠れていたら、正常な変化と紛らわしくなってしまいます。そのため、妊娠初期に甲状腺ホルモンが増えた場合は、バセドウ病が隠れていないか調べるため、検査が必要になることがあります。

10. 妊娠中のバセドウ病はどうやって治療する?

バセドウ病の治療として、手術や薬を使って甲状腺ホルモンを正常な量まで減らす方法があります。

妊婦がバセドウ病の治療を行うときは、治療による効果だけでなく、治療がお腹の子どもに悪い影響を与えないかも考えなければいけません。バセドウ病の治療による影響について説明します。

妊娠中の手術はOK

バセドウ病の手術は妊娠中に受けても問題ありません。妊活中の女性、妊娠を考えている女性にとって手術は良い治療法です。ただし、妊娠初期は手術には向かない時期なので、妊娠5か月から7か月ごろまで待って手術するのが安全です。

妊娠中に飲まないほうがいい薬がある

バセドウ病の治療に使う薬で、チアマゾール(メルカゾール®)というものがあります。メルカゾールを妊娠初期に飲んでいると胎児に悪影響が出る可能性があります。

そのため、特に妊娠4−7週の間はメルカゾールを飲まないようあらかじめ気を付けるべきです。代わりに、安全なチウラジール(チウラジール®、プロパジール®)やヨウ化カリウムを飲むことができます。

妊娠4-7週というのは、まだ妊娠に気付いていないことも多い時期です。生理が遅れているので妊娠かもしれないと思ったときはすでに4週が過ぎています。そのため、まだ妊娠していなくても妊娠を考えている人はメルカゾールを飲むのをやめなくてはなりません

バセドウ病の治療中の女性が妊娠したいと思ったら、必ずかかりつけのお医者さんに相談しましょう。治療法についてもう一度考えるタイミングになります。

妊娠しているかどうかわからないときにバセドウ病になってしまったら、診察のときに最後の生理の日を忘れずに伝えましょう。

妊娠で薬の量が変わる

妊娠の前後は、バセドウ病ではない人でも甲状腺ホルモンの量が変化します。甲状腺ホルモンは妊娠初期に増え、だんだん減ってきて出産前には正常より少なく、出産後は多くなります妊娠による正常な甲状腺ホルモンの変化に合わせて、妊娠中のバセドウ病の治療では、薬の量を何度も調整する必要があります。

お腹の赤ちゃんのためには甲状腺ホルモンが必要なので、妊娠中を通じて薬は少なめになります。

妊娠中はアイソトープ治療をしない

アイソトープ治療は放射線を使った治療です。そのため、妊娠中にアイソトープ治療をすると子供に悪影響が及ぶ可能性があります。妊娠中はもちろん、妊活中の女性、近い将来妊娠したいと思う女性は、アイソトープ治療をしないでください。

アイソトープ治療を終了してから6ヶ月以上経てば、安全に妊娠できるようになります。

11. 授乳中のバセドウ病の治療はどのようにする?

アイソトープ治療は授乳中にはできません。アイソトープ治療をすると、放射性物質が母乳を通して赤ちゃんに届いてしまう可能性があります。妊娠中にアイソトープ治療を中止したあとは、出産して授乳が終わったら再開できます。授乳が終わっても治療後数日は子供に接触しすぎないように気を付けてください。

また、抗甲状腺薬の飲み薬も母乳を伝って赤ちゃんに届いてしまいます。母乳に入る量は微量ですので、薬の量が少なければ大丈夫です。メルカゾールなら1日に10mg以下、プロパジールなら1日に300mg以下であれば授乳中に飲んでも安全です。

12. バセドウ病は遺伝する?

妊娠したいと思っているときにバセドウ病になると、将来子どももバセドウ病にならないか心配になってきます。バセドウ病は遺伝するのでしょうか?

お母さんがバセドウ病になっても、子どもはバセドウ病にならないことがほとんどです。安心してください。

バセドウ病でないお母さんよりはバセドウ病のお母さんのほうが、子供がバセドウ病になる確率が少し高そうだということが、現在までの医学研究で言われていますが、確率が少し違うだけなので、気にするほどではありません。

バセドウ病の人が家族や親戚にいない人でもバセドウ病になります。

では、バセドウ病になってしまって、将来できる子供に病気になって欲しくないと思ったらどうすればいいでしょうか?

未来の子供のためにできることは、まずお母さん自身が健康になることです。バセドウ病をしっかり治療することが大切です。

13. 喫煙をしても良いか?

バセドウ病の人は禁煙が必要です。喫煙すると、バセドウ病になりやすく、バセドウ病が再発しやすく、バセドウ病の治療が効きにくくなります。できる限り禁煙をおすすめします。

禁煙しようと思ってもなかなかできない人もいます。喫煙習慣はニコチン依存症という面もあり、自分の意志だけではやめられないことがあります。なかなか禁煙できない時には、ニコチン補充療法などの治療も助けになります。医療機関によっては禁煙外来を設けているところもあります。

14. バセドウ病になったら運動をしないほうがいい?

バセドウ病では動悸(どうき)や脈が早くなるなど心臓の症状も出ます。心臓の症状が強く出ているときは激しい運動は避けたほうが良いです。治療をして心臓の症状が感じられなくなったら、適度な運動をして体力を維持しましょう。

15. バセドウ病と睡眠は関係がある?

バセドウ病の症状によって、眠れなくなることがあります。バセドウ病で不眠の症状がある時には、規則的な生活をすることが治療の助けにもなります。

また、心身へのストレスを減らすことも重要です。なかなかバセドウ病の治療がうまくいかなかった人でも、生活を改善すると効果が出ることもあります。病気のうえに仕事や家事が忙しければ睡眠どころではないと思えるかもしれませんが、眠るのも治療のうちだと思って、できるだけ睡眠時間を確保してください。

16. ストレスが多いとバセドウ病に悪い影響が出る?

バセドウ病はストレスで悪化することがあります。

ストレスの多い環境は自分の力では変えられないこともあります。ストレス発散には、音楽を聞く、運動をする、映画を見るなどなんでも構いませんので、自分にあった方法を探してみてください。ただし、やけ食いは身体のバランスを乱しますのでやめてください。

17. バセドウ病の治療中に抜歯は危険ですか?

抜歯の前に、バセドウ病の治療に当たっているお医者さんに相談してください。バセドウ病が良い状態なら抜歯しても大丈夫です。しかし、状態が悪ければ、抜歯の刺激が甲状腺クリーゼという緊急事態を引き起こすことがあります。

18. バセドウ病の治療中にお酒は飲める?

治療中でもお酒は飲めます。しかし、飲み過ぎは身体に負担がかかりますので、ほどほどにしてください。ビールなら中ビン1本、日本酒なら1合ほどを目安にしてください。

19. バセドウ病を治療すると甲状腺機能が低下する?

バセドウ病の治療が効き過ぎると甲状腺機能が低下してしまいます。甲状腺機能は強すぎても弱すぎても身体の不調につながるので、バランスが難しいことが主な原因になります。

飲み薬の治療をしたときは、飲み薬の量を調整して、甲状腺機能をちょうどいい範囲にコントロールします。手術やアイソトープ治療で甲状腺機能が低下した場合は、足りない甲状腺ホルモンを飲み薬で補充します。飲み薬を継続しなければならないのがつらいところですが、薬でバランスを取ることで症状を出さないようにできます。