じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 245回の改訂 最終更新: 2024.04.03

腎がんの薬物療法について

腎がんが転移している人が薬物療法を受けると、余命の延長効果が期待できます。腎がんに用いられる薬物にはいくつか種類があり、患者さんの全身状態やがんの性質に合わせて適したものをで選びます。このページではそれぞれの薬について詳しく説明しいきます。

1. 腎がんの薬物療法について

腎がんの薬物療法にはサイトカイン療法と分子標的薬の2つがあります。 腎がんに対しては分子標的薬が登場するまでは、効果のある抗がん剤がない状態が長く続いていました。その間は効果のある薬物療法として、サイトカイン療法が行われてきました。また、分子標的薬にはいくつか種類があり、近年登場した免疫に働きかける薬(免疫チェックポイント阻害薬)の有効性が報告されています。

【腎がんの薬物療法について】

  • サイトカイン療法
    • インターフェロンα
    • インターロイキン2
  • 分子標的薬
    • チロシンキナーゼ阻害薬
      • ソラフェニブ
      • スニチニブ
      • アキシチニブ
      • パゾパニブ
      • カボザンチニブ
    • mTOR(エムトール)阻害薬
      • エベロリムス
      • テムシロリムス
    • 免疫チェックポイント阻害薬
      • ニボルマブ
      • イピリムマブ
      • ペムブロリズマブ
      • アベルマブ

■サイトカイン療法
サイトカインは免疫を担当する細胞に指令を与えて活動させる物質の総称です。腎がんのサイトカイン療法に使われる薬剤にはインターフェロンα(アルファ)とインターロイキン2の2種類があります。 サイトカインを薬として与えることにより、自分の免疫を利用してがん細胞を攻撃することが治療法とされ、いくばくかの効果が認められていました。サイトカイン療法は免疫を利用した治療薬で抗がん剤には分類されないこともあります。

■分子標的薬
サイトカイン療法では効果が小さく、それどころか限られた患者さんにしか効果が認められません。そこで、新しいタイプの治療薬として、がん細胞に多くある(発現している)タンパク質を選んで攻撃する薬が開発されました。このような薬を総称して分子標的薬といいます。腎がんに対して効果が確認されている分子標的薬がいくつかあり、サイトカイン療法に比べ確認されたものもいくつかあります。

なお、サイトカイン療法は免疫療法とよばれる場合もありますが、ここではサイトカイン療法を免疫療法と呼ぶことはせず、「サイトカイン療法」に統一して解説します。また、免疫チェックポイント阻害薬は免疫療法と呼ばれる場合がありますが、ここでは分子標的薬の一種として扱います。
免疫療法と呼ばれるものの中には医療保険を適用する対象として認められていないものがあるので、混同をさける目的で、免疫療法という言葉は使わずに説明します。

2. 腎がんの治療薬はどのようにして選ばれるのか

ここまで説明してきたように、腎がんの治療薬はインテーフェロン療法と分子標的薬の2つに大別されます。インターフェロン療法には2つの種類があり、分子標的薬には11種類があります。合計13種類もある薬は、科学的根拠に基づいて、効果が高いと考えられる順に使われます。具体的には次のリストの並びになります。

  • 一次治療として用いられる薬剤
    • スニチニブ 
    • パゾパニブ
    • テムシロリムス 
    • ソラフェニブ
    • カボザンチニブ
    • ニボルマブとイピリムマブの併用
    • ペムブロリズマブとアキシチニブの併用
    • アベルマブとアキシチニブの併用
    • インターロイキン2(低用量)
    • インターフェロンα
  • 二次治療に用いられる薬剤
    • アキシチニブ
    • ニボルマブ
    • カボザンチニブ
    • エベロリムス 
    • スニチニブ
    • ソラフェニブ
    • パゾパニブ
  • 三次治療に用いられる薬剤
    • ニボルマブ
    • カボザンチニブ
    • ソラフェニブ
    • アキシチニブ
    • エベロリムス
    • スニチニブ
    • パゾパニブ

一次治療とは最初に行う治療という意味です。一次治療で効果不十分だった場合や、副作用のため続けられなくなった場合に、薬を替えて行う治療を二次治療と言います。 一次治療はファーストライン(first line)、二次治療はセカンドライン(second line)、三次治療はサードライン(third line)と呼ばれることがあります。 それぞれに便宜上分類しましたが、たくさんある薬の優先順位は一律に決まっていません。分子標的薬どうしで治療効果を比較した臨床研究はいくつかしかないために、順位付けする根拠がない場合があるからです。 このため、患者さんの身体の状態や起こりる副作用などを基準にして、適した薬治療薬が選ばれます。

近年では、免疫チェックポイントの有効性が明らかになってきているので、免疫チェックポイントを中心にした治療が1次療法として選ばれることが増えています。具体的には、ペムブロリズマブもしくはアベルマブにアキシチニブという薬を併用する方法や、イピリムマブとニボルマブを併用する方法などです。有効な薬が多く開発されていく一方で、従来よく使われていたサイトカイン療法は選ばられることは少なくなっています。

3. 腎がんのサイトカイン療法

腎がんに効果があるサイトカインは次の2つです。

  • インターフェロンα
  • インターロイキン2

サイトカイン療法は自己免疫に働きかけて、抗がん作用を得る治療法です。

インターフェロンα

他のがんで有効な抗がん剤を腎がんに使っても効果が得らないものばかりで、長らく腎がんに対する有効な治療薬がありませんでした。一方、腎がんは免疫と深い関わりがあるという推測が古くからあったので、自分の免疫を利用するインターフェロン療法が試されたところ、効果が確認されました。

■薬の効果 腎がんが転移した人々に対して、インターフェロンαとメドロキシプロゲステロン酢酸塩(MPA)の治療効果を比較したところ、インターフェロンαを使った人々の生存期間が長いという結果が得られました。

治療薬 インターフェロンα MPA
1年生存率 43% 31%
生存期間(中央値) 8.5ヵ月 5か月

Lancet 1999;353:14

■薬の使用方法 1週間のうち3日、1日1回お腹や太ももなどの皮下に注射します。注射は自分でできるので、注射のたびに通院する必要はありません。

■治療中の注意点 1週間に3回ということで、注射をする日を忘れてしまことがあります。注射したかどうかがあやふやな場合は、注射せず次の日からまた定期的に打つなど、忘れたときにどうするかを主治医と確認しておくとよいです。

■副作用 サイトカイン療法の主な副作用は次のものです。

  • インフルエンザ様症状
  • 精神神経症状
    • 頭痛、抑うつ、めまい、知覚症状など
  • 血小板減少症
    • 手足に出血の跡ができる、歯磨きの後出血し血が止まりにくい
  • 間質性肺炎
    • 息切れ、咳、発熱

副作用の程度や種類によっては早めにお医者さんに相談する必要があります。注意が必要な症状をお医者さんに確認しておいてください。

4.分子標的薬のそれぞれの詳細説明:ソラフェニブ・スニチニブ・アキシチニブ・パゾパニブ・エベロリムス・テムシロリムス・ニボルマブ・イピリムマブ・アベルマブ・カボザンチニブ

2021年現在、腎がんの治療に使える分子標的薬が11種類あります。次にではそれぞれの薬について説明します。

ソラフェニブ(sorafenib)

■薬の効果

淡明細胞型腎がんが転移した患者さんのうち薬物療法の治療歴がある人に、ソラフェニブは効果があります。プラセボ(偽薬)とソラフェニブの効果を比較した臨床試験において、ソラフェニブは生存期間の延長を示しました。

薬剤 ソラフェニブ プラセボ
生存期間 17.8ヶ月 15.2ヶ月
進行するまでの期間 5.5ヶ月 2.8ヶ月

※いずれも値は中央値

参考: NEJM 2007;356:125-34 JCO 2009;27:3312-18 薬物治療歴がある人に対して効果を示した臨床試験の結果から、ソラフェニブは主に二次療法の治療薬として使われます。 また、副作用が他の薬より比較的出にくいために、高齢者など身体に負担がかかりやすい人の一次治療として使われることもあります。

■薬の作用の仕組み がん細胞は、酸素や栄養などを運ぶ血管を新たに作らせて増殖する性質があります。血管が新たにできることを血管新生と言います。ソラフェニブは血管新生に関与するVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)やPDGFR(血小板由来成長因子受容体)という物質の活性を阻害することで血管新生を阻害します。また細胞増殖などに関わるCRAF(C-Raf)やBRAF(B-Raf)などを阻害することで細胞増殖のシグナル伝達系に対して阻害作用を現します。このようにソラフェニブは血管新生や細胞増殖のシグナル伝達を阻害することで抗腫瘍効果を現します。

■服用方法 ソラフェニブ(商品名:ネクサバール®錠 200 mg)は通常、1 回400 mg(2錠分)を1 日2 回飲みます。1日量として800 mg(計4錠)です。 決まった時間に服用してください。基本的に服用は食前でも食後でもかまいません。ただし、担当医から「食前1時間」や「食後2時間」などの指示があった場合はその指示に従ってください。 副作用などの問題が現れない場合は、同じ量を飲み続けます。副作用の程度によっては量を少なくしたり中止とされます。例えば、1日の用量を400mg(計2錠)に減らしたり、1回400mg(計2錠)を1日おきに飲むなどの用法に変更されます。 ただし、自己判断で中止したり量を変えて飲むことは危険なので、やめてください。また、飲み忘れや飲む量を間違えた場合も主治医に相談してください。

■服用時の注意点 ソラフェニブを飲んでいる間は食べてはいけない食べ物や飲み物があります。 特に、グレープフルーツジュースは薬の効果を強めてしまう恐れがあるので、避けてください。また、セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品やサプリメントは、薬の効き目を弱めてしまので、こちらも避けてください。 高脂肪食にも注意が必要です。1食当たり約900〜1000kcalで脂肪含有量が50〜60%ほどの高脂肪食を食べた後でソラフェニブを飲むと、効き目に影響が出る可能性があります。 一般的な日本食であれば高脂肪食となる可能性は少ないですが、洋食やデザートなどで脂肪分が多いと考えられる場合は、控えたり残したりして調節してください。また、一般的に高脂肪食を食べる前1時間から食後2時間は服用を避けることが無難と言われています。

■副作用 ソラフェニブの主な副作用は以下のものです。副作用の可能性がある症状が現れた場合は、お医者さんに相談してください。

  • 手足症候群/皮膚症状
    • 手のひらや足の裏に皮疹が出て、赤く腫れたり、皮膚がむけたり、痛みが出ることがあります(手足症候群)。
    • 腎細胞がんへの臨床試験では50%を超える症例で手足の皮膚反応が報告されています。脱毛、皮疹、掻痒症(かゆみ)、皮膚が黄色くなるなどの症状が現れる場合もあります。
    • 多くの場合は休薬期間中に元に戻ります。
    • 皮膚症状が現れたときは、できるだけ皮膚に刺激を与えないようにしてください。患部を清潔にしたうえ保湿することなども症状を軽減または予防する効果があります。
  • 疲労感などの全身症状
    • 疲れ・だるさを感じることがあります。多くの場合、休薬をはさむことなどによって改善します。
  • 食欲不振・吐き気などの消化器症状
    • 食欲不振・吐き気・嘔吐・腹痛などが現れることがあります。消化器症状があるときの食事は少しずつゆっくり食べてください。熱いものや辛いものなど刺激の強いものはできるだけ避けてください。激しい症状があるときは速やかにお医者さんに連絡してください。
  • 出血傾向
    • 出血傾向とは、出血しやすくなったり、出血が止まりにくくなったりすることです。血小板が減少することが主な原因です。歯茎からの出血や鼻血、便に血が付くなどで気付くことがあります。出血が止まりにくいので、怪我に注意することも大切です。
  • 高血圧(高血圧クリーゼ
    • 副作用によって血圧が上がることがあります。特に重症の場合は心筋梗塞などの深刻な状態を引き起こす可能性もあるため、治療中は定期的に血圧を測定します。多くの場合は、高血圧になっても降圧薬を飲むなど適切に対処することでソラフェニブの治療を続けることができます。
  • 肝機能低下
    • ソラフェニブは主に肝臓で代謝されることによって体から排泄されます。薬の負担が肝臓(肝胆道系)の機能が低下すると、疲れやだるさ、食欲不振・吐き気などの症状が現れやすくなります。肝機能の低下に対しては、肝臓を保護する薬が使われます。
  • 膵機能低下
    • ソラフェニブは膵臓に影響することがあります。膵機能低下によって胃のあたりがムカムカする、食欲がないなどの症状が現れやすくなります。薬(タンパク分解酵素阻害剤)で症状の改善が期待できます。
  • 骨髄抑制/感染症
    • 骨髄抑制とは、血液を作っている骨髄に薬が影響して、赤血球白血球・血小板が少なくなることです。白血球は病原菌を退治する免疫細胞で、白血球の減少は特に問題になります。白血球が少なくなると感染症にかかりやsくなり、重症化しやすいです。抗がん剤治療中は手洗い・うがいなどで清潔を保つことがとても大切です。発熱や咳などが現れた場合は重症になりやすいので自己判断せず、早めに医師や薬剤師に相談して適切に対処してください。
  • 創傷治癒の遅延
    • ソラフェニブは血管が新しくできることを阻害する(血管新生阻害)ことで抗腫瘍効果を発揮します。傷などは治っていく過程で血管を新たに作ることで治癒していきます。血管新生の阻害は腫瘍だけではなく、傷の治りを遅くします。

スニチニブ(sunitinib)

■薬の効果 未治療の転移がある淡明細胞型腎がんの人にスニチニブは効果があります。スニチニブの効果を比較するために行ったインターフェロンαとの比較試験では、スニチニブを使った人々の生存期間がインターフェロンαを使った人々に比べて長いという結果が得られました。

薬剤 スニチニブ インターフェロンα
生存期間 26.4ヶ月 21.6ヶ月
進行するまでの期間 11ヶ月 5ヶ月

※いずれも値は中央値

参考: NEJM 2007;356:115-24

この試験結果が根拠となり、転移のある腎がんの一次治療(最初の治療)にスニチニブが用いられています。

■薬の作用の仕組み がん細胞の増殖には、酸素や栄養などを運ぶ血管が新たに作られる血管新生が必要です。 スニチニブは血管新生に関与するVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)を阻害することで血管新生を阻害する作用を現します。VEGFRにはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3の3タイプがありますが、スニチニブはこの1〜3の全てに対して阻害作用があります。 また、PDGF(血小板由来増殖因子)という物質によるシグナル伝達は固形がんの発生と増殖などに関与することがわかっています。PDGFはPDGFR-αやPDGFR-βと結合することによって情報を伝えます。スニチニブはPDGFR-αやPDGFR-βを阻害することで血管新生や腫瘍の増殖などを阻害する作用を現します。 このように、スニチニブはがん細胞の増殖に関わる複数の物質に対して阻害作用を持つことによって抗腫瘍効果を現します。スニチニブは進行した腎細胞がんの他、消化管間質腫瘍GIST)や膵神経内分泌腫瘍の治療の選択肢となっています。

■服用方法 スニチニブを有効成分とするスーテント®12.5mgはカプセル状の飲み薬です。水またはぬるま湯と一緒に飲みます。腎細胞がんの治療では原則として1日1回、1日50mg(4カプセル分)を飲みます。飲むタイミングは朝食の前でも後でもよいことになっていますが、担当医から時刻を指定された場合は指示に従ってください。 通常4週間毎日飲んだ後、2週間は休薬で薬を飲まない期間とします。合わせて6週間を1サイクルとして繰り返していきます。副作用などの問題が現れなければ一定の用法を続けますが、一定量を服用できない理由があるときは休薬を延長したり減量することもできます。

■服用時の注意点 飲み忘れたときや飲む量を間違えたときにどうするかは、必ず担当医と相談してください。自分の判断で薬の量を変えて飲んだり、飲むのをやめるのは危険です。 グレープフルーツジュースは薬の効き目を強めてしまう恐れがあります。セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品やサプリメントは薬の効き目を弱めてしまう恐れがあります。スニチニブを飲んでいる間は原則としてグレープフルーツジュースとセントジョンズワートを避けて下さい。

■副作用 スニチニブによって現れることがある主な副作用に以下があります。副作用かと思う症状を感じたときは、自分で対処しようとするよりも先に、まず処方した担当医に相談してください。

  • 手足症候群/皮膚症状
    • 手のひらや足の裏に皮疹が出て、赤く腫れたり、皮膚がむけたり、痛みが出ることがあります(手足症候群)。
    • 6割を超える割合でなんらかの手足症候群があらわれることが考えられます。一般的に圧力がかかりやすい部分に局所的に症状が現れます。
    • 毛髪や皮膚の変色や色素の脱失が起こる場合があります。皮膚の変色は8割くらいの割合で現れるという報告もあります。皮膚の変色や色素脱失はスニチニブの有効成分の色(黄〜橙色)に起因する可能性が考えられています。多くの場合は休薬期間中に回復する傾向にあるとされています。
    • 皮膚症状が現れたときは、できるだけ刺激を与えないようにしてください。また患部を清潔にしたうえ保湿することなども症状を軽減または予防する効果があります。
  • 疲労感、倦怠感
    • スニチニブを飲んでいるときに、疲れやだるさを感じる事があります。病態などによっても異なりますが、臨床試験において6割弱の人に疲労感が現れたという報告もあります。多くの場合は休薬をはさむことなどによって改善します。
  • 食欲不振、吐き気などの消化器症状
    • 食欲不振・吐き気・嘔吐・腹痛などが出ることがあります。消化器症状があるときの食事は少しずつゆっくり食べてください。熱いものや辛いものなど刺激の強いものはできるだけ避けてください。激しい症状があるときは急いで主治医に連絡してください。
  • 間質性肺炎
    • 間質性肺炎では咳、息苦しい、発熱、胸が痛いなどの症状が現れます。重症度は個人によって異なります。
  • 高血圧
    • スニチニブには血圧上昇による重大な副作用の報告があります。治療中は定期的な血圧測定が大切です。多くの場合、高血圧が発現しても降圧薬を飲むなど適切に対処することで治療を続けることができます。
  • 心機能障害
    • スニチニブが心臓に影響する場合があります。心室性の不整脈心不全などが現れる可能性が考えられます。動悸、息苦しさなどが現れた場合は早めに担当医に連絡・相談してください。
  • 骨髄抑制(血小板減少、白血球減少、好中球減少など)
    • スニチニブは骨髄が血液を作る働きに影響します。副作用として血液中の白血球(好中球)や血小板が減ってしまうことがあります。
    • 血小板は出血を止める役割があります。血小板減少により、内出血、鼻血、歯茎の出血などの症状が起こることがあります。
    • 白血球(好中球)は病原菌を退治する免疫細胞です。白血球が少なくなると感染症を起こしやすくなります。手洗い・うがいなど、日常生活の中で感染予防を心がけることも大切です。
  • 甲状腺機能障害(主に甲状腺機能低下症
    • 甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは体を活発に活動させる作用があります。スニチニブの副作用で甲状腺の機能が低下し、疲れやだるさを感じることがあります。甲状腺機能低下症には甲状腺ホルモンを補充する薬で対処することが可能です。
  • 膵機能低下
    • スニチニブは膵臓に影響する場合もあります。膵機能低下によって胃のあたりがムカムカする、食欲がないなどの症状が現れることがあります。臨床試験では膵臓の機能低下を検査値で評価した結果アミラーゼ上昇が約4割の人に見られたという報告があります。タンパク分解酵素阻害剤を飲むことで症状が改善する場合があります。
  • 創傷治癒遅延
    • ソラフェニブは血管が新しくできることを阻害する(血管新生阻害)ことで抗腫瘍効果を発揮します。傷などは治っていく過程で血管を新たに作ることで治癒していきます。血管新生阻害が起きるのは腫瘍だけではなく、傷にも影響するので、手術の後にソラフェニブを開始するときには、傷が十分に治っていることを確認してからおこないます。

アキシチニブ(axitinib)

■薬の効果 淡明細胞型腎がんが転移した患者さんのうち薬物療法の治療歴がある人にアキシチニブは効果があります。二次治療として科学的根拠があるソラフェニブと比較した臨床試験において、アキシチニブは進行までの期間の延長効果が確認されました。

薬剤 アキシチニブ ソラフェニブ
進行するまでの期間 6.7ヶ月 4.7ヶ月

参考:Lancet 2011;378:1931-9 *いずれも値は中央値

■薬の作用の仕組み がん細胞の増殖には、酸素や栄養などを運ぶ血管が新たに作られる血管新生が必要です。血管新生に関与する物質にVEGF(血管内皮増殖因子)がありますが、腎臓がんなどの腫瘍ではこのVEGFに対する受容体(VEGFR)の過剰発現が確認されています。VEGFRにはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3の3 タイプがありますが、アキシチニブはこの1〜3全てに対して阻害作用を現すことで、血管やリンパ管の新生を阻害し抗腫瘍効果を現す薬です。

■服用方法 アキシチニブ(商品名:インライタ®)による治療は通常、1回5mgを1日2回、服用します。決まった時間に服用します。食前でも食後でもかまいませんが、担当医から所定の時刻を指定された場合はその指示に従って服用してください。

服用後の血圧変動や副作用などの状態をみて薬剤を増量または減量することもあります。アキシチニブに対して忍容性が認められる(薬剤による副作用が発生したとしても十分耐えられると判断される)場合には増量が考慮されます。「1回7mgを1日2回服用」や「1回10mgを1日2回服用」などの指示が出される場合もあります。

逆に副作用などの状態から服用量が多いと判断される場合には減量が考慮されます。「1回3mgを1日2回服用」や「1回2mgを1日2回服用」などの指示が出される場合もあります。 場合によってはアキシチニブが中止になることもあります。ただし、服用量の変更や服用の中止は、担当医が患者の状態を診察して決定します。自己判断による中止や変更は危険ですので、担当医の指示に従い適切に治療を行って下さい。

■服用時の注意点 飲み忘れたときや飲む量を間違えたときにどうするかは必ず主治医と相談してください。 グレープフルーツジュースは薬の効き目を強めてしまう恐れがありますので、アキシチニブを飲んでいる期間は原則としてグレープフルーツジュースを飲まないでください。セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品(サプリメントなどを含む)は薬の効き目を弱めてしまう恐れがありますので、アキシチニブの服用中はセントジョンズワートを原則として摂らないようにしてください。

■副作用 アキシチニブで現れることがある副作用の例を挙げます。副作用かと思う症状などを感じるときは、自分で対処しようとする前に主治医に相談してください。体の状態によっては薬の量を変えたり中止したりする必要がある場合もあります。

  • 手足症候群
    • 手や足底に皮疹が出て、赤く腫れたり、皮膚がむけたり、痛みを伴うことがあります(手足症候群)。皮膚の症状が現れている場所には特に刺激を与えないように注意してください。皮膚を清潔に保つとともに保湿することなどによって症状を軽減または予防することができます。
  • 口内炎
    • アキシチニブによる治療中に口の中が荒れたり、口内炎ができることがあります。ブラッシングやうがいなどで口の中を清潔に保つようにしてください。ただし、強すぎるブラッシングは口の中を傷付けてしまいますので、あまり力を入れないようにしてください。うがいは通常、水やうがい液などを使って行いますが、うがい液を使う際にはアルコールなどを含まない低刺激性のものを選ぶなど負担軽減を考慮することも大切です。
  • 高血圧
    • アキシチニブによって血圧が上がることがあります。深刻な症状を引き起こす可能性もあるため、治療中は定期的に血圧を測定します。多くの場合、高血圧に対して降圧薬を併用するなど適切に対処することでアキシチニブによる治療を続けることができます。
  • 血栓塞栓
    • 血管内に血栓(血のかたまり)ができたり、それが血管の中で飛んで詰まることによって脳梗塞心筋梗塞などの血栓塞栓症が現れることがあります。頻度はかなり少ないとされていますが、手足の麻痺やしびれ、しゃべりにくさ、胸痛などが現れた場合は放置しないですぐに担当医に連絡してください。
  • 疲労感、倦怠感
    • アキシチニブによる治療中に疲れやだるさを感じることがあります。
  • 食欲不振、吐き気、下痢などの消化器症状
    • アキシチニブの作用で胃腸に影響が出ることがあります。食事は少しずつゆっくり食べてください。また、熱いものや辛いものなど刺激の強いものはできるだけ避けてください。嘔吐や腹痛が激しい場合は、消化管を痛めている可能性がありますので速やかに受診してください。
  • 発声障害
    • 声がしわがれたり(嗄声)、声が出にくくなったりします。多くの場合、アキシチニブを休薬することで回復していきます。喉の乾燥を防ぐため適切に水分補給したり、喉に負担をかけるような話し方は極力避けることなども大切です。
  • 筋肉痛
    • 筋肉痛や関節が動きににくくなるなどの症状が出ることがあります。
  • 創傷治癒遅延
    • 薬剤の作用などによって傷が治りにくくなる場合があります。アキシチニブが血管新生を阻害する作用などによるものと考えられ、アキシチニブ使用中に外科的な処置が必要になった際などではアキシチニブの一時的な中止も考慮されます。
  • 出血傾向(出血しやすい)
    • 出血傾向とは、出血しやすくなったり出血が止まりにくくなったりすることです。歯茎からの出血や鼻血血尿、便に血が付くなどで気付くことがあります。
  • 甲状腺機能障害(甲状腺機能低下症など)
    • 甲状腺の機能に影響が出る場合があります。アキシチニブによる甲状腺機能障害の多くは身体のむくみや疲労感などを伴う甲状腺機能低下症ですが、逆に動悸や手のふるえなどを伴う甲状腺機能亢進症が起こる可能性もあります。機能低下症では少なくなっている甲状腺ホルモンを補充する治療が考慮されます。
  • 心不全
    • 心不全では動悸、息切れなどの症状が現れます。いつもと違った息切れを感じた場合、速やかに主治医に連絡してください。症状がなくても検査によって発見される場合もあります。
  • 肝機能障害
    • アキシチニブの代謝が主に肝臓で行われることなどの理由から肝臓の機能低下が現れる場合があります。肝機能が低下すると倦怠感(疲れ、だるさなど)、食欲不振、発熱、黄疸(皮膚や白目が黄色っぽくなる)、発疹などが現れる場合もあるため、これらの症状がみられる場合は放置せず担当医に連絡してください。

パゾパニブ(pazopanib)

■薬の効果 転移のある未治療の淡明細胞型腎がんに対して、スニチニブとパゾパニブの効果を比較した臨床試験において、パゾパニブはスニチニブと同程度の効果を示しました。 この結果をもとに転移のある腎がんの最初の治療としてパゾパニブが有効とみなされています。

薬剤 パゾパニブ スニチニブ
進行するまでの期間 8.4ヶ月 9.5ヶ月

参考:NEJM 2013;369:722-31 ※いずれも値は中央値

8.4か月と9.5か月という数字だけを見ると、パゾパニブの方がやや進行が早いように見えますが、この差は誤差範囲と統計学的に判断されているので、スニチニブに比べて明らかに効果が劣るとは考えられていません。また、同じ報告ではパゾパニブはスニチニブに比べて副作用が少なかったとされています。このため、副作用の少なさを重視して薬を選ぶ場合は、スニチニブよりパゾパニブが選ばれることがあります。

■薬の作用の仕組み がん細胞の増殖には、酸素や栄養などを運ぶ血管が新たに作られる血管新生が必要です。血管新生に関与する物質にVEGF(血管内皮増殖因子)がありますが、腎臓がんなどの腫瘍ではこのVEGFに対する受容体(VEGFR-1、2、3)の過剰発現が確認されています。

バゾパニブはこのVEGFR-1、2、3への阻害作用や、がん細胞増殖などに関わる血小板由来増殖因子受容体(PDGFR-α、β)やc-KIT(幹細胞因子受容体)などへの阻害作用によって抗腫瘍効果を現す薬です。 またパゾパニブは一部の悪性軟部腫瘍に対する血管新生阻害作用を介しない直接的な腫瘍増殖抑制作用も現すと考えられていて、腎細胞がんだけでなく悪性軟部腫瘍に対する治療の選択肢にもなっています。

■服用方法 パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント®錠200mg)は通常、1日1回800mg(4錠分)を服用します。パゾパニブは食事によって薬の効き目に影響が現れる可能性があるため、通常「食事の1時間以上前又は食後2時間以降のタイミングで服用」します。 パゾパニブによる治療中の肝機能の状態や血圧の変化などによっては担当医が服用量の減量や一時的な休薬などの判断をすることもあります。副作用かと思う症状や体調の変化を感じたときは小さいことでも担当医に相談し、治療中の通院を予定どおり続けることが適切な治療のために大切です。

■服用時の注意点 飲み忘れたときや飲む量を間違えたときの対処は必ず主治医と相談してください。自分の判断で飲む量を変えたり飲むのをやめるのは危険です。 グレープフルーツジュースは薬の効き目を強めてしまう恐れがあります。パゾパニブによる治療中は原則としてグレープフルーツジュースを飲まないでください。また、セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品(サプリメントなどを含む)は、薬の効き目を弱めてしまう可能性があるため原則として摂らないようにしてください。

■副作用

パゾパニブの副作用として出ることがある症状などの例を挙げます。当てはまる症状があればもちろん、ほかにも治療中に何らかの症状や体調の変化があったときはこまめに主治医に相談してください。薬が合っているか、量は適切かを判断するために副作用が出ていないかはとても大切な情報です。

  • 手足症候群、皮膚の色素減少などの皮膚症状
    • 手や足底に皮疹が出て、赤く腫れたり、皮膚がむけたり、痛みを伴うことがあります。皮膚の症状が現れている場所は特に刺激を与えないようにしてください。皮膚を清潔に保ち保湿することなどによって症状を軽減または予防することができます。また皮膚の色素減少や毛髪の変色、脱毛といった症状が現れる場合があります。これらに関して医師や薬剤師からよく説明を聞いておくことも大切です。
  • 口内炎
    • 治療中に口が荒れたり、口内炎ができたりすることがあります。ブラッシングやうがいなどで口の中を清潔に保つようにしてください。ただし、強すぎるブラッシングは逆効果ですので、あまり力を入れないようにしてください。うがいは通常、水やうがい液などを使って行いますが、うがい液を使う際にはアルコールなどを含まない低刺激性のものを選ぶなど負担軽減を考慮することも大切です。
  • 下痢、吐き気などの消化器症状
    • 薬の影響などによって下痢や吐き気などがあらわれることがあります。下痢の性状などによっては止瀉薬(下痢止め)や電解質を含む補液などの併用も考慮されます。
  • 疲労感、倦怠感
    • 疲れやだるさを感じる事があります。
  • 出血傾向(出血しやすい)
    • 出血傾向とは、出血しやすくなったり、出血が止まりにくくなったりすることです。鼻血や血尿、便に血が付くなどで気付くこともあります。
  • 間質性肺炎
    • 間質性肺炎では咳、息苦しい、発熱、胸が痛いなどの症状が現れます。重症度は個人によって異なります。重症の場合は命に関わります。いつもと違った息切れを感じた場合、速やかに主治医に連絡してください。症状がなくても検査によって発見される場合があります。
  • 心機能障害
    • 心不全や心室性の不整脈などが現れる可能性が考えられます。動悸、息苦しさなどが現れた場合は早めに担当医に連絡・相談してください。
  • 高血圧
    • パゾパニブによる治療中に血圧が上がることがあります。重度の症状を引き起こす可能性もあるため、治療中は定期的に血圧を測定します。多くの場合、高血圧に対して降圧薬を併用するなど適切に対処することでパゾパニブによる治療を続けることができます。
  • 血栓塞栓症
    • 血管内に血栓(血のかたまり)ができたり、それが血管の中で飛んで詰まることによって脳梗塞心筋梗塞などの血栓塞栓症があらわれる可能性があります。頻度はかなり少ないとされていますが、手足の麻痺やしびれ、しゃべりにくさ、胸痛などが現れた場合は放置しないですぐに担当医に連絡してください。
  • 肝機能障害
    • パゾパニブによる治療中に肝機能の低下などが現れる場合があります。症状として疲れやだるさを感じたり、黄疸(皮膚や白目が黄色っぽくなる)、吐き気、食欲不振などが現れることもあります。肝機能の状態によっては、服用量の減量や休薬なども検討されます。
  • 甲状腺機能障害
    • 甲状腺の機能低下症や機能亢進症が起こる場合があります。割合としては機能低下症の方が起こりやすいとされ、甲状腺ホルモンの低下により、むくみが現れたり、疲れやだるさを感じることがあります。機能低下症に対しては甲状腺ホルモンを補充することで対処することが可能です。
  • 血液症状(白血球減少症、好中球減少症、血小板減少症など)
    • 白血球などの減少により、出血、貧血、感染症などが起こりやすくなることが考えられます。また感染症自体は好中球減少の有無にかかわらず起こる可能性があります。うがいや手洗いなど日常生活の中での対策も大切です。詳しくは「がんと免疫と感染症の関係とは?」をご覧ください。
  • 創傷治癒遅延
    • 薬剤の作用などによって傷が治りにくくなる場合があります。
  • 眼症状
    • 頻度はかなり少ないとされますが、視力の低下や網膜剥離が現れることがあります。物が見えづらいと感じた場合などは早めに担当医へ連絡・相談してください。

エベロリムス(everolimus)

■薬の効果 転移がありスニチニブ、またはソラフェニブで治療が行われた腎がんの人に対してエベロリムスは効果があります。この結果をもとにしてエベロリムスは転移のある腎がんの2次治療として用いられます。

薬剤 エベロリムス プラセボ
進行するまでの期間 4ヶ月 1.9ヶ月

Lacet 2008;372:449-56 *いずれも値は中央値

■薬の作用の仕組み エベロリムスはmTOR阻害薬と呼ばれる種類に分類される薬です。 mTOR(エムトール又はエムトア:mammalian Target Of Rapamycin)は、増殖因子や栄養素などによる刺激によりタンパク質合成を調節する主な酵素の一つです。mTORは細胞の成長・増殖・生存・血管新生などを調節する働きがあります。 腎細胞がんなどではmTORによる伝達経路の制御に異常があり、エベロリムスはmTORを阻害することで抗腫瘍効果などを現します。 エベロリムス製剤のアフィニトール®は日本では2010年に腎細胞がんの治療薬として承認されました。その後、神経内分泌腫瘍乳がんなどの治療薬としても承認されています。

なお、mTORは免疫反応に深く関わるリンパ球T細胞などの増殖を促します。そのためmTORを阻害するエベロリムスは免疫抑制薬(商品名:サーティカン®)としても臨床で使われています。

■服用方法 エベロリムス製剤のアフィニトール®は錠剤の内服薬(飲み薬)で、腎細胞がんの治療では通常「1日1回10mg」を水またはぬるま湯と一緒に服用します。またエベロリムスは食事や他の薬の影響を比較的受けやすい薬剤であり、食事によって薬の効き目に影響があらわれる可能性があるため通常「空腹時」に服用します。この治療法では副作用など安全性に問題がなければ毎日服用を続けますが、副作用などの何らかの理由で薬が続けられない場合には休薬や減量などが考慮されます。

■服用時の注意点 飲み忘れたときや飲む量を間違えたときの対処は必ず主治医と相談してください。自分の判断で飲む量を変えたり飲むのをやめるのは危険です。 グレープフルーツジュースは薬の効き目を強めてしまう恐れがあります。エベロリムスによる治療中は原則としてグレープフルーツジュースを飲まないでください。また、セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品(サプリメントなどを含む)は、薬の効き目を弱めてしまう可能性があるため原則として摂らないようにしてください。

■副作用

  • 口内炎
    • 治療中に口の中が荒れたり、口内炎ができることがあります。ブラッシングやうがいなどで口の中を清潔に保つようにしてください。ただし、強すぎるブラッシングは逆効果ですので、あまり力を入れないようにしてください。うがいは通常、水やうがい液などを使って行いますが、うがい液を使う際にはアルコールなどを含まない低刺激性のものを選ぶなど負担軽減を考慮することも大切です。
  • 発疹などの皮膚症状
    • 紅斑、発疹、かゆみ、皮膚の乾燥、ざ瘡にきび)などの皮膚症状が現れる場合があります。
  • 間質性肺疾患(間質性肺炎、肺臓炎など)
    • 咳、息苦しい、発熱、胸が痛いなどの症状が現れることがあります。重症度は個人によっても異なります。
  • 疲労感、倦怠感
    • 治療期間中に、疲れやだるさを感じることがあります。
  • 下痢、吐き気、食欲不振などの消化器症状
    • 薬の作用で、消化管が弱っている可能性があります。食事は消化しやすいように少しずつゆっくり食べてください。
  • 感染症
    • エベロリムスには免疫抑制作用もあるため、服用中は易感染(感染しやすい)状態になることが考えられます。外出時のマスクの着用や人混みを避けるなどの対策やうがいや手洗いを習慣にするなど、日常生活の中での注意も大切です。
  • 血液症状(血小板減少、白血球減少、好中球減少、ヘモグロビン減少など)
    • 出血を止める作用がある血小板が少なくなると内出血、鼻血、歯茎からの出血などの症状が起こることがあります。
    • 病原菌を退治する血液の成分である白血球(好中球)が少なくなることがあります。白血球が少なくなると、病原菌に対する体の免疫力が弱くなり、感染症を起こしやすくなります。そのため、手洗い・うがいを心がけましょう。
    • ヘモグロビン減少(貧血)などが起こりやすくなることがあります。
  • 脂質異常症(高コレステロール血症など)、高血糖、高血圧
    • 糖質や脂質などの摂りすぎには注意してください。脂質異常症糖尿病、高血圧などの持病を持っている人はより注意が必要です。
  • 腎障害
    • 腎臓の機能に影響が出ることがあります。頻度は少ないとされますが腎不全などの深刻な腎障害を引き起こす可能性もあります。尿量の減少、一時的に尿が多くなる、発疹、むくみなどの症状がみられた場合は担当医や薬剤師に連絡・相談してください。

テムシロリムス(temsirolimus)

■薬の効果 予後不良(進行が早く悪性度が高いと予想される)の腎がんにテムシロリムスは効果があります。インターフェロンとの比較試験ではテムシロリムスの方が余命が長い結果が得られました。

薬剤 テムシロリムス インターフェロンα
生存期間 10.9ヶ月 7.3ヶ月

参考:NEJM 2007;356:2271-81 ※いずれも値は中央値

■薬の作用の仕組み テムシロリムスはエベロリムスなどと同じくmTOR阻害薬と呼ばれる種類に分類される薬です。mTOR(エムトール又はエムトア:mammalian Target Of Rapamycin)は、増殖因子や栄養素などによる刺激によりタンパク質合成を調節する主な酵素の一つです。mTORには細胞の成長・増殖・生存・血管新生などを調節する働きがあります。 腎細胞がんなどでは、mTORによる伝達経路の制御に異常があります。テムシロリムスはmTORを阻害し、細胞増殖に必要な細胞周期の移行や血管新生を抑制することにより抗腫瘍効果などをあらわします。 なお、mTORは免疫反応に深く関わるリンパ球T細胞などの増殖を促します。このためmTORを阻害するテムシロリムスは免疫抑制作用も現します。テムシロリムスによる治療中は感染症に対して注意が必要となります。

■投与方法 テムシロリムス(商品名:トーリセル®)は点滴により投与を行う注射剤です。通常、1週間に1回、テムシロリムスとして25mgを30~60分かけて静脈から点滴投与します。副作用などの状態によっては休薬や薬の減量などが考慮されます。またテムシロリムスを投与した際、投与中及び投与後のインフュージョンリアクションという過敏症を予防するため、抗ヒスタミン薬というアレルギー反応などを抑える薬を点滴か内服どちらかの方法によって前投与します。

■治療中の飲食物に関する注意点 グレープフルーツジュースは薬の効き目を強めてしまう恐れがあります。テムシロリムスによる治療中は原則としてグレープフルーツジュースを飲まないでください。また、セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品(サプリメントなどを含む)は、薬の効き目を弱めてしまう可能性があるため原則として摂らないようにしてください。

■副作用

  • 間質性肺疾患(間質性肺炎、肺臓炎など)
    • 咳、息苦しい、発熱、胸が痛いなどの症状が現れることがあります。重症度は個人によっても異なります。
  • 口内炎
    • 治療中に口の中が荒れたり、口内炎ができることがあります。ブラッシングやうがいなどで口の中を清潔に保つようにしてください。ただし、強すぎるブラッシングは逆効果ですので、あまり力を入れないようにしてください。うがいは通常、水やうがい液などを使って行いますが、うがい液を使う際にはアルコールなどを含まない低刺激性のものを選ぶなど負担軽減を考慮することも大切です。
  • 過敏症(インフュージョンリアクション)
    • インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状(発熱、悪寒、発疹、疼痛、頭痛、咳嗽、めまい、呼吸困難など)の総称です。テムシロリムスを投与する際にはインフュージョンリアクションを予防するため通常、テムシロリムスを投与する前に抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンマレイン酸塩など)の前投与を行います。予防の薬を投与してもインフュージョンリアクションが起こる可能性はあります。初回投与時だけでなく、2回目以降の投与時に起こる可能性もあります。何らかの症状が現れた場合はすぐに医師などに伝えてください。
  • 発疹などの皮膚症状
  • 疲労感、倦怠感
    • 治療期間中に、疲れやだるさを感じることがあります。
  • 食欲不振、下痢、吐き気、食欲不振などの消化器症状
    • 薬の作用で、消化管が弱っている可能性があります。食事は消化しやすいように少しずつゆっくり食べてください。嘔吐や腹痛が激しい場合は、消化管を痛めている可能性がありますので速やかに受診してください。
  • 静脈血栓塞栓症
    • 手足などの静脈に血のかたまり(血栓)ができる可能性があります。頻度は非常に少ないとされていますが、手足の麻痺やしびれ、しゃべりにくい、胸の痛み、呼吸困難、片方の足のむくみや痛みなどの症状がみられる場合は担当医に連絡してください。
  • 感染症
    • テムシロリムスには免疫抑制作用もあるため、服用中は易感染(感染しやすい)状態になることが考えられます。外出時のマスクの着用や人混みを避けるなどの対策やうがいや手洗いを習慣にするなど、日常生活の中での注意も大切です。
  • 血液症状(血小板減少、白血球減少、好中球減少など)
    • 出血を止める作用がある血小板が少なくなると内出血、鼻血、歯茎からの出血などの症状が起こることがあります。
    • 病原菌を退治する血液の成分である白血球(好中球)が少なくなることがあります。白血球が少なくなると、病原菌に対する体の免疫力が弱くなり、感染症を起こしやすくなります。そのため、手洗いやうがいなどを心がけましょう。
    • 貧血などが起こりやすくなることがあります。
  • 高血糖、脂質異常(高コレステロール血症など)、高血圧
    • テムシロリムスによる治療中に起こることがあります。糖質や脂質などの摂りすぎには注意してください。脂質異常症糖尿病、高血圧などの持病を持っている人はより注意が必要です。
  • 腎障害
    • テムシロリムスにより腎臓の機能に影響が出ることがあります。頻度は少ないとされますが腎不全などの重い腎障害を引き起こす可能性もあります。尿量の減少、一時的に尿量が多くなる、発疹、むくみなどの症状がみられた場合は担当医や薬剤師に連絡・相談ししてください。
  • 横紋筋融解症
    • 頻度は非常に少ないとされますが、筋肉の細胞が障害される可能性があります。手足がしびれる、手足・肩・腰などの筋肉が痛む、手足に力が入りにくい、全身がだるい、尿の色が赤褐色になるなどの症状がみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡・相談してください。

ニボルマブ(nivolumab)

■薬の効果 ニボルマブは、分子標的薬で治療歴のある腎がんに対して効果が確認されています。エベロリムスと比較した臨床試験では生存期間の延長効果が証明されています。 腎がんに対する最初の治療(一次治療)で効果がなくなった患者さんに対して使用されたり、イピリムマブという薬と併用することで一次治療として使うことができます。

薬剤 ニボルマブ エベロリムス
生存期間 26ヶ月 19.6ヶ月
進行するまでの期間 4.6ヶ月 4.4ヶ月

参考:NEJM 2015;373:1803-13 ※いずれも値は中央値

■薬の作用の仕組み ニボルマブ(商品名:オプジーボ®)は分子標的薬の中でも、特定分子に結合するモノクローナル抗体という種類の薬です。 本来体内には、がん細胞などを異物として攻撃するリンパ球T細胞という免疫機能があります。しかし、がん細胞は自らPD-1リガンドという物質を作り出し、リンパ球T細胞の表面にあるPD-1という受容体に結合させることで、リンパ球の活性化を抑えてしまいます。これにより、がん細胞は免疫反応から回避でき、がん細胞の増殖が行われてしまいます。

ニボルマブは世界初のPD-1に対するモノクローナル抗体です。ニボルマブはPD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し、がん細胞により不応答となっていた抗原特異的T細胞を回復・活性化することで抗腫瘍効果を現します。 ニボルマブは日本ではまず2013年に悪性黒色腫に対する治療薬として承認されました。その後、2015年に一部の肺がん(切除不能な進行・再発非小細胞肺がん)に対して承認され、2016年8月に腎細胞がん(根治切除不能又は転移性の腎細胞がん)に対して保険適用が認められました。その他、2016年12月に「再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫」に対する治療薬としても承認されています。 なお、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃を阻止しているブレーキ役の部分を免疫チェックポイントと表現することから、ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれることがあります。

■投与方法 ニボルマブ(商品名:オプジーボ®)は点滴により投与を行う注射剤です。使用する人の体重(および治療歴)に合わせた投与量を、腎細胞がんの治療では通常2週間に1回、1時間以上かけて静脈から点滴投与します。

■治療における注意点 ニボルマブによる治療を行う上で、過去に治療したことがある病気や現在治療中の病気が重要になる場合があります。 ニボルマブは免疫機能に対して作用する薬剤であり、正常な細胞に対する免疫反応が過剰になる可能性があります。そのため、自己免疫性疾患や間質性肺炎などにかかったことがある人に対して投与することができない場合があります。実際に、重症筋無力症乾癬などを合併している人に対してニボルマブを投与した際、これらの疾患が悪化したことが報告されています。 またニボルマブの治療中にワクチン接種を行った際は、過度な免疫反応が現れる可能性があり注意が必要です。

■副作用

  • 間質性肺疾患
    • 間質性肺炎などの状態を引き起こすことがあります。咳(痰のない乾いた咳)、息苦しい、息切れ、発熱、胸が痛いなどの症状が現れることがあり、これらの症状がみられた場合はすぐに医師や薬剤師などに連絡してください。重症度は個人によっても異なります。
  • 過敏症(インフュージョンリアクション)
    • インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中および投与後24時間以内に現れる症状(発熱、悪寒、発疹、疼痛、頭痛、咳嗽、めまい、呼吸困難など)の総称です。初回投与時だけでなく、2回目以降の投与時に起こる可能性もあります。何らかの症状が現れた場合はすぐに医師などに伝えてください。
  • 肝機能障害
    • ASTやALTなどの肝酵素の数値上昇を伴う肝機能障害が現れる場合があります。倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸、発疹、吐き気、かゆみなどの症状がみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡してください。
  • 甲状腺機能障害
    • 甲状腺機能低下症や甲状腺中毒症などを引き起こすことがあります。甲状腺の機能が障害されることにより疲れやすい、体重の増減、寒気、便秘などの症状が現れる場合があります。
  • 皮膚症状
    • かゆみ、発疹、皮膚の一部が白くなる皮膚色素減少症などが現れることがあります。また頻度はかなり少ないとされていますが、全身の赤い斑点や水ぶくれ、まぶたや眼の充血、粘膜のただれなど重度の皮膚症状が現れる可能性もあり注意が必要です。
  • 消化器症状
    • 吐き気、下痢、食欲減退などが現れる場合があります。重度の下痢や大腸炎などが現れる可能性もあります。下痢や腹痛が続いたり、血便などの症状がみられる場合には医師などに連絡してください。
  • 神経障害(末梢神経障害
    • 感覚や運動に関わる神経が障害されることにより、手足のしびれや痛み、手足の感覚がなくなる、歩行時につまずくことが多いなどの運動の麻痺などが現れる場合があります。
  • 腎障害
    • 頻度は少ないとされますが、腎炎や腎不全などの深刻な腎障害を引き起こす可能性もあります。尿量の減少、一時的に尿量が多くなる、発疹、むくみなどの症状がみられた場合は担当医や薬剤師に連絡・相談してください。
  • 副腎障害
    • 副腎の機能が低下することで、血糖低下などが現れる場合があります。体のだるさ、吐き気や食欲不振、意識がうすれるなどの症状が現れる場合も考えられ注意が必要です。
  • 静脈血栓塞栓症
    • 手足などの静脈に血のかたまり(血栓)ができる可能性があります。頻度は非常に少ないとされていますが、手足の麻痺やしびれ、しゃべりにくい、胸の痛み、呼吸困難、片方の足のむくみや痛みなどの症状がみられる場合は医師などに連絡してください。
  • 重症筋無力症、筋炎、心筋炎など
    • 神経から筋肉への伝達がうまくいかなくなることで、疲れやすい、力が入りにくい、まぶたが重い、物が二重に見える、呼吸困難、嚥下障害(飲み込みにくい)などの症状が現れる場合があります。また筋肉の炎症横紋筋融解症が現れる可能性も考えられます。
  • 1型糖尿病
    • 1型糖尿病があらわれ、場合によってはインスリン製剤などによる治療が必要となる可能性もあります。口渇、多飲、体重減少、吐き気や嘔吐などの症状の他、意識障害などの症状が現れる場合も考えられられます。
  • 脳炎
    • 頻度は非常に少ないとされていますが、脳や脊髄に炎症が起こることで精神障害や意識障害などが現れる場合があります。