じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 260回の改訂 最終更新: 2024.05.08

腎がん(腎細胞がん)の転移について:ステージIVの人の余命や治療など

がん細胞の転移には、血管の中をがん細胞が流れて転移する場合(血行性転移)と、リンパ管の中をがん細胞が流れて転移する場合(リンパ行性転移)の2つがあります。腎がんは血行性の転移が多く、肺や骨、肝臓に転移することが多いです。

1. がんが転移する主な経路は2つある:血行性転移とリンパ行性転移について

がんがある程度大きくなると、周りの臓器を破壊します。臓器を破壊する過程で、がん細胞が血管やリンパ管(血管に似た管状の構造物で中をリンパ液が流れる)に入り込みます。血管やリンパ管に侵入したがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って、他の場所に移動をします。この現象を転移と言います。血管に入って転移をする場合を血行性転移、リンパ管に入って転移をする場合をリンパ行性転移と言います。

血行性転移

血行性転移とは、がん細胞が血液に入り込んで血管の中を流れて、発生した場所から離れた臓器に流れついて定着・増殖することです。発生した場所から遠く離れた臓器に転移することを遠隔転移と言いますが、遠隔転移の多くは血行性転移によって起こります。

【腎がんが転移しやすい臓器】

  • 肝臓
  • 膵臓

転移は腎がんが見つかった時点で起こっている場合もありますし、手術後に見つかることもあります。このため、がんが発見されたときや治療後には画像検査(CT検査、MRI検査など)で転移の有無が調べられます。

リンパ行性転移

リンパ行性転移(リンパこうせいてんい)とは、がん細胞がリンパ管づたいに転移をしていく現象のことを指します。血行性転移とは異なり、がんが発生した場所の近くから順々に転移をしていくことが特徴です。 リンパ管は全身の組織の間にあり、全身でつながっています。リンパ管のところどころにリンパ節という数mm程度の節目があります。リンパ節は関所のような役割をしており、がん細胞がリンパ管に入り込むと、一度リンパ節で足止めされます。リンパ節にがん細胞が定着して増殖したものをリンパ節転移と言います。がん細胞が流れていくとき最初に辿り着く場所のリンパ節を所属リンパ節と言います。

2. 転移部位別の腎がんの余命について:肺転移・骨転移・肝転移・膵転移

進行した腎がんは転移を起こすことがあります。転移とはがんが発生した臓器とは違う臓器に移動して増殖をすることです。腎がんが転移をしやすい臓器には肺・骨・肝臓・膵臓があり、余命が違ってきます。例えば肺転移だけであれば、比較的長い余命が期待でき、肝臓の転移はその後の経過が厳しいと考えられています。
なお、これ以降で説明する余命については2000年代の研究報告を中心に説明しますが、現在はこれ以降の説明で出てくる数字より長い余命が期待できる可能性があります。というのは、転移がある腎がんの治療は薬物療法が中心になるのですが、多くの有望な薬が近年登場しているからです。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。

腎癌の肺転移について

腎がんが転移しやすい臓器の一に肺があります。 転移のある腎がん患者さんを調べた報告によると、62.3%の人に肺転移が見つかったとのことです。転移が肺だけに起こっている腎がん患者さんは少なくありません。腎がんが転移していても、肺の転移巣(転移した部位)を切除すると、根治(がんを体からなくすこと)する人も少なからずいます。その場合の5年生存率は40%前後とされています。転移がある腎がんの5年生存率としては高い部類に入ります。一方で、転移したがんが完全に取り切れない場合の5年生存率は低下し8-22%とする報告もあります。 また、腎がんの手術後に肺転移が現れる人もいます。 手術(腎摘除術)後に肺転移が現れるまでの期間は、平均で3.4年とする報告があります。再発を早期に発見するために、治療後もしばらくは画像診断が必要になります。

腎がんでは、肺転移があっても、長期生存ができる人がいる一方で、余命が比較的短い人もいます。余命が短いことを予測させる要因として、次のものが指摘されています。

  • 肺転移が多発している
  • 再発までの期間が3年以内

転移が多発している場合は、肺転移が1つの場合と比べて、がんが全身に広がっている可能性が高いと考えられています。また、再発までの期間が3年以内と短い場合は、腎がんの悪性度が高いと推察されます。手術の効果が小さいと考えられる人には薬物療法が主体になります。

参考: Eur Urol. 2010;57:317-325 泌尿器外科 2014;27:823-827 Ann Thorac Surg. 2002;74:1653-1657 Ann Thorac Surg. 2005;79:996-1003   

腎がんの骨転移について

日本人の転移性腎がん患者1,436人を集計した報告によると、骨転移があった人のうち半数の人が生存できた期間(生存期間の中央値)は約16ヶ月とされています。骨転移がなかった人の生存期間の中央値は、約23ヶ月でした。

骨転移の有無 生存期間の中央値(月) 1年生存率(%)
骨転移あり 16.8 57.6
骨転移なし 23.6 66.4

参考: Eur Urol. 2010;57:317-325

骨に転移がある場合はない場合に比べて生存率は厳しくなります。しかし、骨転移とひとくちにいっても状況ははさまざまであるので、長期生存できる人も中にはいます。

骨転移が出現するまでの期間が長い場合やた骨転移が一箇所である場合に手術の効果が高いと言われていますが、一方で骨転移を切除した後の5年生存率は11-15%とする報告があるので、手術はあまり行われません。 腎がんの骨転移に対する治療は放射線治療と薬物治療の2つが主体になります。 放射線治療はとくに次のような場合に有効です。

  • 骨の転移による痛みが強い場合 
  • 背骨脊椎)の転移が神経へ影響が及びそうな場合(麻痺を予防する目的)

点滴による治療で骨の破壊を抑えることもできます。主に次のような薬が使われます。

  • ゾレドロン酸(ゾメタ®)
  • デノスマブ(ランマーク®)

それぞれの薬の特徴について説明します。

■ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®) ゾレドロン酸はビスホスホネート(ビスフォスフォネート)製剤に分類される薬です。 ビスホスホネート製剤は一般的には骨粗しょう症の治療薬として広く使われている薬です。骨は常に一部が壊されると同時に一部が新しく作られています。骨吸収と骨形成のバランスが取れることで骨の量が一定に保たれています。骨粗しょう症は骨吸収が骨形成を上回っている状態です。骨吸収には破骨細胞、骨形成には骨芽細胞という細胞がそれぞれ働いています。ビスホスホネート製剤は破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の自滅(アポトーシス)の誘導作用や機能喪失作用を現します。また骨から血液中へのカルシウムの輸送が抑えられ、血液中のカルシウムは骨芽細胞により骨の形成に使われ、血液中のカルシウム濃度の低下がおこります。 以上の作用によりビスホスホネート製剤は骨量や骨密度の改善作用の他、悪性腫瘍による高カルシウム血症の改善効果、がんが骨に転移したことで引き起こ される骨の痛みを減少させる効果、骨折などの骨病変を予防する効果などをあらわします。ゾレドロン酸は既存のビスホスホネート製剤の中でも強い薬理作用をあらわすことが確認されています。がんの骨転移による疼痛(痛み)の緩和や骨病変予防などにゾレドロン酸が有効とされています。

■デノスマブ(商品名:ランマーク®) 骨に転移したがん細胞は副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)などを放出し骨芽細胞を刺激し、RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)という物質を産生させます。RANKLは破骨細胞(骨を壊す細胞)の形成・機能などを亢進させます。RANKLの作用により、骨を壊す過程(骨吸収)が亢進するほか、骨基質から腫瘍細胞の増殖因子(IGFなど)が放出され、がん細胞の増殖を引き起こします。 デノスマブはRANKLに結合して、RANKLの働きを阻害します。RANKLの作用阻害により、破骨細胞の機能を鈍らせ、全身の骨吸収と局所の骨破壊を遅延させることで骨量や骨密度などの改善作用や骨病変の進行を抑える作用、抗腫瘍作用などをあらわします。 がんによる骨病変の進行を抑える目的や、多発性骨髄腫などの治療にはデノスマブ製剤でもランマーク®という注射薬が使われます。 がんの骨転移への治療へ使う場合には通常、4週間に1回の注射によってデノスマブが投与されます。加えてカルシウムとビタミンDの飲み薬を毎日飲みます。カルシウムとビタミンDは、デノスマブの副作用の対策です。デノスマブの作用によって血液中のカルシウムが不足する低カルシウム血症があらわれやすくなります。そこで、血清カルシウム値が高値である場合などを除き、毎日カルシウム及びビタミンDを飲み薬で補充します。一般的にはカルシウムとビタミンD(及び炭酸マグネシウム)が一緒に配合されているデノタス®配合チュアブル錠を通常「1日1回2錠」服用し継続します。

■ゾレドロン酸とデノスマブ投与中に注意すべき顎骨壊死とは?

ゾレドロン酸とデノスマブは骨転移を有する前立腺がんの治療に重要です。一方で注意しなければいけないのが顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる副作用です。顎骨壊死とは、ゾレドロン酸やデノスマブの投与中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯後の部位の骨がむき出しになったりすることです。顎骨壊死の治療は困難です。顎骨壊死は避けなければいけない合併症の一つです。顎骨壊死を避けるためには、ゾレドロン酸の投与前に歯科を受診し、必要な歯科治療を行っておくこと、すでにゾレドロン酸の投与中に抜歯が必要になった際は主治医(泌尿器科医)に必ず相談し、ゾレドロン酸とデノスマブの休薬が可能かを確認するといったことが重要です。投薬前には歯科治療の必要性について確認することが多いですが、治療中に抜歯が必要になった場合などは、自己申告しなければなりません。ここは特に注意が必要です。

参考: J Bone Joint Surg Am. 2007;89:1794-1801

腎がんの肝転移について

肝臓は右の上腹部にある臓器で、代謝や解毒などの役割があります。腎がんは肝臓に転移(肝転移)することがあります。肝転移に対する手術(肝切除)の報告は多くはありません。数少ない報告によると、肝切除を施行した場合の5年生存率は38.9%とするものもあれば、1年生存率が38.3%とするものもあります。生存率に大きな幅がありそうです。 現在のところ、肝転移を手術しても明確に生存期間が改善するかどうかの答えが出ておらず、メリットを得やすい人の特徴も明らかではありません。このため、肝転移がある人には、一人ひとりの身体の状態が念入りに調べられ、手術のメリットの有無を慎重に検討した上で行われます。

参考: World J Surg. 2007;31:802-7 Eur Urol. 2010;57:317-325

腎がんの膵転移について

腎がんは膵臓に転移することがあります。 一般的にがんの膵臓転移はまれですが、腎がんは例外的です。また、腎がんの膵転移の人の5年生存率は、手術が可能であった人では72.6%、手術ができなかった人でも14%だったという報告があります。手術ができた人とできなかった人では、余命に影響が大きい身体の状態やがんの状態が異なるので、一概には比較はできませんが、手術できる場合は長期の生存が可能になるかもしれません。

参考: Br J Surg. 2009;96:579-92 泌尿器外科 2014;27:823-827

3. 腎がんの診断から転移が見つかるまでの期間が余命に与える影響について

腎がんが転移した人の余命は転移が現れた時期に強く影響を受けます。腎がんと診断されてから転移が見つかるまでの期間が長いほど余命が長い傾向が見られます。転移が発見された時期に注目して生存率を調べた報告結果はつぎのとおりになります。
なお、ここで紹介する数値は2000年代の研究結果によります。転移がある腎がんの治療は近年、有望な治療薬の登場により、進歩が見られるので、これ以降に登場する数値を上回る可能性があります。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。

転移が出現するまでの期間 1年生存率(%) 余命の中央値(月
診断時 56.1% 15.1
診断から1年以内 65.4% 19.8
診断から1年後 84.1% 43.8

*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値のこと

診断時にすでに転移があった人は1年生存率が低くて、余命の中央値は短くなっています。他方、診断から転移出現までが長い人では1年生存率が高く、余命の中央値は長くなっています。 ただし、これはあくまで集団の傾向を示したものに過ぎないので、上に示したような結果が導かれるわけではありません。転移の状態とともに、身体の状態も余命に影響を与える強い要因なので、一人ひとりで生存率は全く異なります。

参考: Eur Urol. 2010;57:317-325,

4. 転移がある腎がんの人の生存期間は昔に比べて伸びている?生存期間の年代別比較

転移のある腎がんの治療や薬物療法が中心です。 薬物療法にはサイトカイン療法と分子標的薬の2つがあります。サイトカイン療法は昔から腎がんの治療として行われてきたものですが、近年はより効果のある分子標的薬が薬物療法の主流になっています。 さて、分子標的薬が中心になった近年は腎がんが転移した人の生存期間は伸びているのでしょうか。年代別で転移のある腎がんの人の生存期間を調べた研究報告を紹介します。

年代 生存期間(中央値)
2002-2005 9.6ヶ月
2006-2008 12.4ヶ月

*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値こと

これはスウェーデンで行われた研究報告です。 結果では2002-2005年より2006-2008年の集団の余命が約3ヶ月延長しているというものでした。 余命が延長した理由として分子標的薬が多く使われ始めたことが関係していると結論付けています。さらに、現在は2008 年に比べて分子標的薬の種類も増え、治療の選択肢が広がっており、さらに余命が伸びている可能性もあります。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。

参考:BJC. 2013;108:1541-1549