腎がん(腎細胞がん)の転移について:ステージIVの人の余命や治療など
目次
1. がんが転移する主な経路は2つある:血行性転移とリンパ行性転移について
がんがある程度大きくなると、周りの臓器を破壊します。臓器を破壊する過程で、がん細胞が血管やリンパ管(血管に似た管状の構造物で中をリンパ液が流れる)に入り込みます。血管やリンパ管に侵入したがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って、他の場所に移動をします。この現象を転移と言います。血管に入って転移をする場合を血行性転移、リンパ管に入って転移をする場合をリンパ行性転移と言います。
血行性転移

血行性転移とは、がん細胞が血液に入り込んで血管の中を流れて、発生した場所から離れた臓器に流れついて定着・増殖することです。発生した場所から遠く離れた臓器に転移することを
【腎がんが転移しやすい臓器】
- 肺
- 骨
- 肝臓
- 膵臓
転移は腎がんが見つかった時点で起こっている場合もありますし、手術後に見つかることもあります。このため、がんが発見されたときや治療後には画像検査(
リンパ行性転移

リンパ行性転移(リンパこうせいてんい)とは、がん細胞がリンパ管づたいに転移をしていく現象のことを指します。血行性転移とは異なり、がんが発生した場所の近くから順々に転移をしていくことが特徴です。 リンパ管は全身の組織の間にあり、全身でつながっています。リンパ管のところどころに
2. 転移部位別の腎がんの余命について:肺転移・骨転移・肝転移・膵転移
進行した腎がんは転移を起こすことがあります。転移とはがんが発生した臓器とは違う臓器に移動して増殖をすることです。腎がんが転移をしやすい臓器には肺・骨・肝臓・膵臓があり、余命が違ってきます。例えば肺転移だけであれば、比較的長い余命が期待でき、肝臓の転移はその後の経過が厳しいと考えられています。
なお、これ以降で説明する余命については2000年代の研究報告を中心に説明しますが、現在はこれ以降の説明で出てくる数字より長い余命が期待できる可能性があります。というのは、転移がある腎がんの治療は薬物療法が中心になるのですが、多くの有望な薬が近年登場しているからです。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。
腎癌の肺転移について
腎がんが転移しやすい臓器の一に肺があります。 転移のある腎がん患者さんを調べた報告によると、62.3%の人に肺転移が見つかったとのことです。転移が肺だけに起こっている腎がん患者さんは少なくありません。腎がんが転移していても、肺の転移巣(転移した部位)を切除すると、根治(がんを体からなくすこと)する人も少なからずいます。その場合の
腎がんでは、肺転移があっても、長期生存ができる人がいる一方で、余命が比較的短い人もいます。余命が短いことを予測させる要因として、次のものが指摘されています。
- 肺転移が多発している
- 再発までの期間が3年以内
転移が多発している場合は、肺転移が1つの場合と比べて、がんが全身に広がっている可能性が高いと考えられています。また、再発までの期間が3年以内と短い場合は、腎がんの
参考: Eur Urol. 2010;57:317-325 泌尿器外科 2014;27:823-827 Ann Thorac Surg. 2002;74:1653-1657 Ann Thorac Surg. 2005;79:996-1003
腎がんの骨転移について
日本人の
| 骨転移の有無 | 生存期間の中央値(月) | 1年生存率(%) |
| 骨転移あり | 16.8 | 57.6 |
| 骨転移なし | 23.6 | 66.4 |
参考: Eur Urol. 2010;57:317-325
骨に転移がある場合はない場合に比べて生存率は厳しくなります。しかし、骨転移とひとくちにいっても状況ははさまざまであるので、長期生存できる人も中にはいます。
骨転移が出現するまでの期間が長い場合やた骨転移が一箇所である場合に手術の効果が高いと言われていますが、一方で骨転移を切除した後の5年生存率は11-15%とする報告があるので、手術はあまり行われません。 腎がんの骨転移に対する治療は
- 骨の転移による痛みが強い場合
背骨 (脊椎 )の転移が神経へ影響が及びそうな場合(麻痺 を予防する目的)
点滴による治療で骨の破壊を抑えることもできます。主に次のような薬が使われます。
- ゾレドロン酸(ゾメタ®)
- デノスマブ(ランマーク®)
それぞれの薬の特徴について説明します。
■ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®) ゾレドロン酸はビスホスホネート(ビスフォスフォネート)製剤に分類される薬です。 ビスホスホネート製剤は一般的には骨粗しょう症の治療薬として広く使われている薬です。骨は常に一部が壊されると同時に一部が新しく作られています。骨吸収と骨形成のバランスが取れることで骨の量が一定に保たれています。骨粗しょう症は骨吸収が骨形成を上回っている状態です。骨吸収には破骨細胞、骨形成には骨芽細胞という細胞がそれぞれ働いています。ビスホスホネート製剤は破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の自滅(アポトーシス)の誘導作用や機能喪失作用を現します。また骨から血液中へのカルシウムの輸送が抑えられ、血液中のカルシウムは骨芽細胞により骨の形成に使われ、血液中のカルシウム濃度の低下がおこります。 以上の作用によりビスホスホネート製剤は骨量や骨密度の改善作用の他、
■デノスマブ(商品名:ランマーク®) 骨に転移したがん細胞は
■ゾレドロン酸とデノスマブ投与中に注意すべき顎骨
ゾレドロン酸とデノスマブは骨転移を有する前立腺がんの治療に重要です。一方で注意しなければいけないのが顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる副作用です。顎骨壊死とは、ゾレドロン酸やデノスマブの投与中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯後の部位の骨がむき出しになったりすることです。顎骨壊死の治療は困難です。顎骨壊死は避けなければいけない
参考: J Bone Joint Surg Am. 2007;89:1794-1801
腎がんの肝転移について
肝臓は右の上腹部にある臓器で、
参考: World J Surg. 2007;31:802-7 Eur Urol. 2010;57:317-325
腎がんの膵転移について
腎がんは膵臓に転移することがあります。 一般的にがんの膵臓転移はまれですが、腎がんは例外的です。また、腎がんの膵転移の人の5年生存率は、手術が可能であった人では72.6%、手術ができなかった人でも14%だったという報告があります。手術ができた人とできなかった人では、余命に影響が大きい身体の状態やがんの状態が異なるので、一概には比較はできませんが、手術できる場合は長期の生存が可能になるかもしれません。
参考: Br J Surg. 2009;96:579-92 泌尿器外科 2014;27:823-827
3. 腎がんの診断から転移が見つかるまでの期間が余命に与える影響について
腎がんが転移した人の余命は転移が現れた時期に強く影響を受けます。腎がんと診断されてから転移が見つかるまでの期間が長いほど余命が長い傾向が見られます。転移が発見された時期に注目して生存率を調べた報告結果はつぎのとおりになります。
なお、ここで紹介する数値は2000年代の研究結果によります。転移がある腎がんの治療は近年、有望な治療薬の登場により、進歩が見られるので、これ以降に登場する数値を上回る可能性があります。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。
| 転移が出現するまでの期間 | 1年生存率(%) | 余命の中央値(月) |
| 診断時 | 56.1% | 15.1 |
| 診断から1年以内 | 65.4% | 19.8 |
| 診断から1年後 | 84.1% | 43.8 |
*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値のこと
診断時にすでに転移があった人は1年生存率が低くて、余命の中央値は短くなっています。他方、診断から転移出現までが長い人では1年生存率が高く、余命の中央値は長くなっています。 ただし、これはあくまで集団の傾向を示したものに過ぎないので、上に示したような結果が導かれるわけではありません。転移の状態とともに、身体の状態も余命に影響を与える強い要因なので、一人ひとりで生存率は全く異なります。
参考: Eur Urol. 2010;57:317-325,
4. 転移がある腎がんの人の生存期間は昔に比べて伸びている?生存期間の年代別比較
転移のある腎がんの治療や薬物療法が中心です。 薬物療法には
| 年代 | 生存期間(中央値) |
| 2002-2005 | 9.6ヶ月 |
| 2006-2008 | 12.4ヶ月 |
*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値こと
これはスウェーデンで行われた研究報告です。 結果では2002-2005年より2006-2008年の集団の余命が約3ヶ月延長しているというものでした。 余命が延長した理由として分子標的薬が多く使われ始めたことが関係していると結論付けています。さらに、現在は2008 年に比べて分子標的薬の種類も増え、治療の選択肢が広がっており、さらに余命が伸びている可能性もあります。
新しい薬については「腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について」や「腎がんの薬物療法について」も参考にしてください。
参考:BJC. 2013;108:1541-1549