じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 197回の改訂 最終更新: 2018.07.20

腎がん(腎細胞がん)の転移:ステージIVの余命や治療

がん転移には主に血管の中をがん細胞が流れていく経路(血行性転移)とリンパ管の中をがん細胞が流れていく経路(リンパ行性転移)の2つがあります。腎がんは血行性の転移が多く、転移する先は肺や骨、肝臓に転移することが多いです。

1. がんが転移する経路は主に2つがある

がんは周りの臓器を破壊しながら大きくなります。大きくなる過程でがん細胞が血管やリンパ管を壊すと一部のがん細胞はそこに入り込み他の場所に移動をします。移動した先で増殖して大きくなると画像検査などで転移として確認されます。
血管に入って転移をする場合を血行性転移、リンパ管に入って転移をする場合をリンパ行性転移と言います。
それぞれについて説明します。

血行性転移

血行性転移とは、がん細胞が血液に入り込んで血管の中を流れていき、元あった場所から離れた臓器に流れ着いて定着・増殖することです。
元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)と言います。血行性転移の特徴は、原発巣から離れた場所にいきなり現れることです。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。離れた臓器への転移を遠隔転移と言います。遠隔転移の多くは血行性転移です。
腎がんが血行性転移を起こしやすい臓器は以下です。

  • 肝臓
  • 膵臓

腎がんは血管を介して上に示した臓器に転移をします。
腎がんの手術後などには画像検査(CT検査、MRI検査など)を使って定期的にこれらの臓器に転移が起こっていないかが調べられます。

リンパ行性転移

リンパ行性転移(リンパこうせいてんい)とは、がん細胞がリンパ管に入り込んで流れ着いた場所で定着・増殖することです。
リンパ管は全身の組織の間にあり、全身でつながっています。リンパ管のところどころにリンパ節という数mm程度の節目があります。リンパ節は関所のような役割をしており、がん細胞がリンパ管に入り込むと、一度リンパ節で足止めされます。リンパ節にがん細胞が定着して増殖したものをリンパ節転移と言います。

リンパ行性転移の特徴は、隣り合ったリンパ節に順々に広がっていくことです。遠くのリンパ節にいきなりリンパ節転移ができることはありません。がん細胞が流れていくとき最初に辿り着く場所のリンパ節を所属リンパ節と言います。

2. 腎がんの肺転移

腎がんが転移する臓器として最も多いのが肺です。
転移のある腎がん患者さんの転移した臓器を集計した結果、62.3%の人に肺転移があったという報告があります。肺転移以外に転移がない状態で腎がんが診断されることはよくあります。腎がんは転移があっても手術が有効な場合があります。中には肺の転移巣を切除することで根治(がんを体からなくすこと)が可能な人も少ないながらもいます。
一方で、肺転移が手術後に現れる人もいます。
腎がんに対して腎摘除術を行った後に肺転移が出現するまでの期間は平均で3.4年とする報告があります。このため、手術後の数年間は肺に転移が現れないかが画像検査(胸部レントゲン検査やCT検査)などで詳しく調べられます。

腎がんの肺転移がある人は治療で長期の生存ができる人がいる一方で、余命が比較的短い人もいます。余命が短いことを予測させる要因として次のものが指摘されています。

  • 肺転移が多発している
  • 再発までの期間が3年以内

肺転移が1つの場合と比べて、転移が多発している場合はがんが全身に広がっている可能性が高いことを示唆します。また、再発までの期間が3年以内と短い場合は、腎がんの悪性度が高いことも示唆されます。

一方で、肺転移を手術で完全に切除できる人もおり、その場合の5年生存率は40%前後とされています。転移がある腎がんの5年生存率としては高い部類に入ります。
肺は腎がんがもっとも転移を起こし、また最初に転移をすることが多いと考えられています。再発を早期に発見し、転移巣を切除することで、長期に生存が可能であったり中には根治できる人もいると考えられます。
手術の後の定期受診は転移をいち早く見つける目的もあります。受診は欠かさないようにしてください。

参考:
Eur Urol. 2010;57:317-325
泌尿器外科 2014;27:823-827   

3. 腎がんの骨転移

転移がある腎がんの人のうち24.6%の人に骨転移があったという報告があります。
腎がんの骨転移が見つかるタイミングは大きく2通りに分けられます。

  • 腎がんと診断された時にすでに転移がある場合
  • 再発として骨転移を認めた場合

また、腎がんの骨転移が出現したとき、他の転移があるかないかでも分けられます。

  • 骨転移のみ
  • 転移が他にもある

骨に転移があると聞くとかなり深刻な状況を想像されると思いますが、腎がんが骨に転移をしたと一口に言っても以上の場合分けによって状況は異なります。生存率には体の状態なども大きく影響してくるので、「骨転移がある」というだけの情報から正確な生存率を推測することは難しいです。

日本人の転移性腎がん患者1,436人を集計した報告によると、骨転移があった人のうち半数の人が生存できた期間(生存期間の中央値)は約16ヶ月とされています。骨転移がなかった人の生存期間の中央値は、約23ヶ月でした。

骨転移の有無 生存期間の中央値(月) 1年生存率(%)
骨転移あり 16.8 57.6
骨転移なし 23.6 66.4

参考:
Eur Urol. 2010;57:317-325

骨に転移がある場合はない場合に比べて生存率は厳しくなります。しかし、骨転移とひとくちにいっても状況ははさまざまであるので、長期生存できる人も中にはいます。
骨に転移があると言われたとしても、気を落ち着けてどんな治療法が残されているかをよく聞いてください。

腎がん骨転移の治療

腎がんの骨転移に対する治療は放射線による治療と骨を補強する点滴があります。
放射線治療は次の場合に有効です。

  • 骨の転移による痛みが強い場合 
  • 背骨脊椎)に転移して、神経へ影響が及びそうな場合(麻痺を予防する目的)

点滴による治療で骨の破壊を抑えることもできます。主に次のような薬が使われます。

  • ゾレドロン酸(ゾメタ®)
  • デノスマブ(ランマーク®)

それぞれの薬の特徴について説明します。

■ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®)

ゾレドロン酸はビスホスホネート(ビスフォスフォネート)製剤に分類される薬です。
ビスホスホネート製剤は一般的には骨粗しょう症の治療薬として広く使われている薬です。
骨は常に一部が壊されると同時に一部が新しく作られています。骨吸収と骨形成のバランスが取れることで骨の量が一定に保たれています。
骨粗しょう症は骨吸収が骨形成を上回っている状態です。骨吸収には破骨細胞、骨形成には骨芽細胞という細胞がそれぞれ働いています。
ビスホスホネート製剤は破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の自滅(アポトーシス)の誘導作用や機能喪失作用を現します。また骨から血液中へのカルシウムの輸送が抑えられ、血液中のカルシウムは骨芽細胞により骨の形成に使われ、血液中のカルシウム濃度の低下がおこります。
以上の作用によりビスホスホネート製剤は骨量や骨密度の改善作用の他、悪性腫瘍による高カルシウム血症の改善効果、がんが骨に転移したことで引き起こされる骨の痛みを減少させる効果、骨折などの骨病変を予防する効果などをあらわします。
ゾレドロン酸は既存のビスホスホネート製剤の中でも強い薬理作用をあらわすことが確認されています。がんの骨転移による疼痛(痛み)の緩和や骨病変予防などにゾレドロン酸が有効とされています。

■デノスマブ(商品名:ランマーク®)

骨に転移したがん細胞は副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)などを放出し骨芽細胞を刺激し、RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)という物質を産生させます。RANKLは破骨細胞(骨を壊す細胞)の形成・機能などを亢進させます。RANKLの作用により、骨を壊す過程(骨吸収)が亢進するほか、骨基質から腫瘍細胞の増殖因子(IGFなど)が放出され、がん細胞の増殖を引き起こします。
デノスマブはRANKLに結合して、RANKLの働きを阻害します。RANKLの作用阻害により、破骨細胞の機能を鈍らせ、全身の骨吸収と局所の骨破壊を遅延させることで骨量や骨密度などの改善作用や骨病変の進行を抑える作用、抗腫瘍作用などをあらわします。
がんによる骨病変の進行を抑える目的や、多発性骨髄腫などの治療にはデノスマブ製剤でもランマーク®という注射薬が使われます。
がんの骨転移への治療へ使う場合には通常、4週間に1回の注射によってデノスマブが投与されます。加えてカルシウムとビタミンDの飲み薬を毎日飲みます。
カルシウムとビタミンDは、デノスマブの副作用の対策です。デノスマブの作用によって血液中のカルシウムが不足する低カルシウム血症があらわれやすくなります。そこで、血清カルシウム値が高値である場合などを除き、毎日カルシウム及びビタミンDを飲み薬で補充します。一般的にはカルシウムとビタミンD(及び炭酸マグネシウム)が一緒に配合されているデノタス®配合チュアブル錠を通常「1日1回2錠」服用し継続します。

■ゾレドロン酸とデノスマブ投与中に注意すべき顎骨壊死とは?

ゾレドロン酸とデノスマブは骨転移を有する前立腺がんの治療に重要です。一方で注意しなければいけないのが顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる副作用です。顎骨壊死とは、ゾレドロン酸やデノスマブの投与中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯後の部位の骨がむき出しになったりすることです。顎骨壊死の治療は困難です。顎骨壊死は避けなければいけない合併症の一つです。顎骨壊死を避けるためには、ゾレドロン酸の投与前に歯科を受診し、必要な歯科治療を行っておくこと、すでにゾレドロン酸の投与中に抜歯が必要になった際は主治医(泌尿器科医)に必ず相談し、ゾレドロン酸とデノスマブの休薬が可能かを確認するといったことが重要です。投薬前には歯科治療の必要性について確認することが多いですが、治療中に抜歯が必要になった場合などは、自己申告しなければなりません。ここは特に注意が必要です。

4. 転移した腎がんの治療

転移がある腎がんでも、転移巣を手術で取り除くことで長期に転移が出現しなくなったり、生存期間もより長くなる場合があります。腎がんには分子標的薬という抗がん剤による治療もあります。しかし分子標的薬によって転移している病変が消えることはまれです。

腎がんの転移巣に対して手術を行う際には体に負担がかかります。手術には体の状態が良好であることと転移している部位(転移巣)を完全に切除できることが前提になります。

肺転移の手術

腎がんの肺転移の切除後の5年生存率は40%前後とされています。しかしながら、これは完全に治癒切除できた場合(完全に取り切れた場合)のみの統計です。転移したがんが完全に取り切れない場合の5年生存率は低下し8-22%とする報告もあります。
このため肺転移の手術をする判断が行われる際にには「完全に切除できるか」に重きが置かれます。
手術が向いていないと判断された場合は、薬物療法が中心になります。

参考:
Ann Thorac Surg. 2002;74:1653-1657
Ann Thorac Surg. 2005;79:996-1003

骨転移の治療

腎がんの骨転移を切除した後の5年生存率は11-15%とされています。
骨転移が出現するまでの期間が長い場合やた骨転移が一箇所である場合に手術の効果が高いと言われています。
転移している部位や大きさなどの条件を鑑みて手術が適しているかどうかが判断されます。

参考:
J Bone Joint Surg Am. 2007;89:1794-1801

肝転移の治療

腎がんの肝転移に対する切除の報告は多くはありませんが、数少ない中では肝切除を施行した場合の5年生存率は38.9%だったとする報告があります。また、別の報告で肝転移がある場合の1年生存率は38.3%とされていることを考えると、極めて高い数字といえます。
しかしながら、これは別の研究結果であり、単純に「余命が5倍に伸びる」と受け取ってしまうのは早計です。
たとえばこれら2つの研究の結果に差が生まれた理由として、肝転移の状態が異なることが考えられます。肝転移とひとくちに言ってもいくつも転移巣がある場合と、肝転移が一つの場合では状況が異なります。
手術を行う場合には転移している部分を完全に切除することを目標にします。肝転移がいくつもあって手術で取り切れる人は珍しくはありません。つまり、手術できる人は限られいて、肝転移がある人の全員が手術の対象になる訳ではありません。また、肝転移に対して良好な結果が得られるのは手術で全てのがんを取り除くことができた場合と考えられています。

参考:
World J Surg. 2007;31:802-7
Eur Urol. 2010;57:317-325

膵転移の治療

腎がんは膵臓に転移することがあります。
一般的にがんの膵臓転移はまれですが、腎がんは例外的です。また、腎がんが膵臓へ転移していても、5年生存率は手術が可能であった人では72.6%、手術ができなかった人でも14%だったという報告があります。手術ができた人とできなかった人では身体の状態やがんの状態が異なるので一概には比較はできませんが、膵臓への転移があっても長い余命が期待できる場合があります。

参考:
Br J Surg. 2009;96:579-92
泌尿器外科 2014;27:823-827

5. 腎がんが転移したら余命はどれぐらい?

腎がんが転移した人の余命はどれくらいなのでしょうか。転移といっても大きく2つの場合に分かれます。
1つは「腎がんの診断時に転移がある場合」でもう1つは「手術を行った後に再発した場合」です。2つの状態は同じ腎がんの転移になりますが、全く違う状態です。

転移が発見された時期ごとによる生存率と余命の比較

転移が発見された時期に注目して生存率を調べた報告があります。

転移が出現するまでの期間 1年生存率(%) 余命の中央値(月)
診断時 56.1% 15.1
診断から1年以内 65.4% 19.8
診断から1年後 84.1% 43.8

*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値のこと

診断時にすでに転移があった人では1年生存率が低く、余命の中央値は短くなっています。対して、診断から転移出現までが長い人では1年生存率が高く、余命の中央値は長くなっています。

この傾向はもともとの腎がんの発育速度を反映していると考えられます。早く転移が出現した場合のがんは増殖のスピードが早く悪性度も高いと考えられます。しかし、転移が時間を経って出てきた場合は、転移が見つかったあとの増殖も比較的緩やかであると考えられます。

余命には転移が現れた時期の他に体の状態や転移した臓器などの状況も大きく影響してくるので、この数字だけで一人ひとりの余命は言い当てられません。あくまで、転移が現れた時期が余命に影響するひとつの要素になることを示す数字です。

また、転移をした腎がんの治療は薬物療法が中心になります。この報告は腎がんの薬物療法がインターフェロンを中心としたサイトカイン療法が主体だった時代の結果です。インターフェロンより効果の高い分子標的薬が主流の時代になり、腎がんが転移しても以前より余命が長くなっていることも十分に考えられます。

転移のある腎がん患者さんの生存期間の年代別の比較

転移のある腎がんの治療や薬物療法が中心になります。
薬物療法にはサイトカイン療法と分子標的薬の2つがあります。サイトカイン療法は昔から腎がんの治療として行われてきたものですが、近年はより効果のある分子標的薬が薬物療法の主流になっています。
分子標的薬が中心になり転移のある腎がんの人の生存期間は伸びているのでしょうか。
年代別で転移のある腎がんの人の生存期間を調べた研究報告があります。

年代 生存期間(中央値)
2002-2005 9.6ヶ月
2006-2008 12.4ヶ月

*中央値とは余命が長かった順に並べたときに丁度真ん中の順位に当たる値こと

これはスウェーデンで行われた研究報告です。
結果では2002-2005年より2006-2008年の集団の余命が約3ヶ月延長しているというものでした。
余命が延長した理由として分子標的薬が多く使われ始めたことが関係していると述べられています。さらに、現在は2008 年に比べて分子標的薬の種類も増えています。以前より治療の選択肢が増えているので現在ははさらに余命が延びている可能性があります。

現在も腎がんの治療法は日々進歩しています。
説明してきたように、現在は統計として報告されている数年前の数字より長く生きられる可能性はあります。
転移があると告げられると怖くなって数字が気になってしまいます。その気持はよくわかりますが、自らの状態をしっかりと受け止め日々を大事に過ごしていくことが何よりも重要です。
生活を営む上で不安がある場合は、医師に相談してみてください。不安を一つひとつ解消していくことが充実した日々の生活につながります。

参考:
Eur Urol. 2010;57:317-325, BJC. 2013;108:1541-1549