じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 245回の改訂 最終更新: 2024.04.03

腎臓の腫瘍は腎がん(腎細胞がん)だけではない?良性腫瘍や腎盂がんなどとの特徴について

腎臓にできる腫瘍は腎がんだけではありません。他の種類の悪性腫瘍もできることもあれば、めったに命に影響を及ぼさない良性腫瘍できることがあります。ここでは腎臓にできる腫瘍を網羅的に説明していきます。

1. 腎臓にできる腫瘍の種類について

腎臓に腫瘍がみつかったとしても、詳しく調べないと、腫瘍の性質がわかりません。このため、いくつか検査が行われます。なお、腎腫瘍は腎腫瘤と表現される場合もありますが、ここでは腫瘍と腫瘤を厳密には分けずに腫瘍として説明します。まず、中身の性質をもとにすると、腎腫瘍は大きく4つに分類されます、

  • 充実性腫瘍:固形のかたまり
  • 嚢胞性腫瘍:液体のたまりができる
  • 炎症性疾患:細菌などを原因として炎症が起きる病気
  • 血管性病変:血管のかたまり

さらにこの4つの中に多くの種類が含まれており、詳しく書くと次のようになります。

  • 充実性腫瘍(じゅうじつせいしゅよう)
    • 良性腫瘍
      • 腎血管筋脂肪腫 
      • オンコサイトーマ
    • 悪性腫瘍
      • 腎がん(腎細胞がん)
        • 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん
        • 乳頭状腎細胞がん
        • 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん
        • 透析関連腎がん
      • 腎盂(じんう)がん
  • 嚢胞性腫瘍(のうほうせいじんしゅよう)
    • 良性腫瘍
      • 単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)
      • 非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)
      • 傍腎盂嚢胞(ぼうじんうのうほう)
      • 染色体優性多発性嚢胞腎(じょうせんしょくたいゆうせいたはつせいのうほうじん)
    • 悪性腫瘍
      • 嚢胞性腎がん
    • 水腎症 ※便宜上の分類
  • 炎症性疾患
  • 血管性病変
    • 腎動脈瘤(じんどうみゃくりゅう)
    • 腎梗塞(じんこうそく)
    • 腎被膜下血腫(じんひまくかけっしゅ)・表在性損傷

上にあげたものでも多く感じるかもしれませんが、上記の病気はあくまでも腎腫瘍との区別(鑑別)が必要な主な病気なので、他にもいくつかまれな腎腫瘍が存在します。今回は腎がんの解説なので病名を紹介するに留めます。

小児に発生する腎腫瘍は成人にできやすいものとは異なります。

腎臓の腫瘍は、画像検査で明らかに区別がつく場合もあれば、そうでない場合もあります。腫瘍の種類を診断するには、病理検査(腫瘍の一部を切り取り顕微鏡で観察する検査)が情報量が多く役立つのでよく行われますが、腎腫瘍の場合ほとんど行われません。腎臓の腫瘍の中には出血しやすいものが含まれているので、リスクを考えて画像検査が主体になります。次に大別した4つの種類にそって腎腫瘍について説明していきます。

2. 腎臓の充実性腎腫瘍:AML、オンコサイトーマ、腎がん、腎盂がん

中身まで詰まった固形の腫瘍を充実性腫瘍といいます。充実性腎腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性腫瘍の代表は腎がん(腎細胞がん)です。

【腎臓の充実性腎腫瘍】

  • 良性腫瘍
    • 腎血管筋脂肪腫 
    • オンコサイトーマ(境界悪性とされる場合もあり)
  • 悪性腫瘍
    • 腎細胞がん(腎がん)
      • 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん
      • 乳頭状腎細胞がん
      • 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん
      • 透析関連腎がん
    • 腎盂(じんう)がん

それぞれについて順に説明します。

腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma:AML)

腎血管筋脂肪腫は、脂肪と筋肉で構成される良性腫瘍です。女性に多く、画像検査で発見されることが多いです。良性腫瘍なので、周囲臓器を破壊することはありませんが、大きくなると、腹部膨満感(お腹が張る)、出血(血尿や腹痛)が見られます。症状がある人には治療が必要です。

■画像検査の特徴(専門的な内容です)
超音波検査では比較的わかりやすく、腫瘍が白く描出されます。脂肪成分の有無を確認するのにはCTよりもMRIが有効になることがあります。脂肪成分が明らかな場合はわかりやすいですが、脂肪成分が少なく血管が目立つ場合は腎がんとの区別が難しくなります。

■治療

大きさにより治療法が異なります。

  • 腫瘍の大きさが4cm(意見によって10cm)未満の場合の治療
    • 経過観察
  • 腫瘍の大きさが4cm(意見によって10cm)以上の場合の治療
    • 手術による切除
    • 血管塞栓
    • 分子標的薬(エベロリムス)
  • 腎がんとの鑑別が難しい場合の治療
    • 手術もしくは生検

腎血管筋脂肪腫は小さい場合は問題となることがほとんどないので、経過観察が行われます。一方で大きい場合は、自然破裂することがあるので、手術で腫瘍を摘出しますが、どの程度で手術をすべきかという意見は統一されていません。以前は4cmを超えた時点で手術するべきとされていましたが、良性腫瘍に対して侵襲(体を傷付けること)の大きい手術は慎重であるべきという考えから、10cmまでは様子をみるという意見もあります。腎がんとの鑑別が困難な場合は、正確な診断をするという目的でも手術を考慮する場合があります。他の治療法として腫瘍を栄養としている(育てている)血管の血流を止めてしまい腫瘍を小さくしたり、分子標的薬(エベロリムス)という薬を用いることもあります。

■病気の経過
腎血管筋脂肪腫は良性腫瘍なので転移したり他の臓器に浸潤することはありません。しかし、腫瘍が破裂して出血を起こすことがあり、大量出血の場合は命に危険が及びます。予防として、先に述べた治療が行われます。また、手術を行わない場合でも大きさの変化を確認するために、定期的な画像検査が必要になることがあります。

腎オンコサイトーマ

オンコサイトーマは腎がん(嫌色素性腎がん)と特徴が似ているので区別が必要です。画像検査では嫌色素性腎がんがオンコサイトーマと似た所見を取ることがあり、特に小さな腫瘍の場合は鑑別が難しいことがあります。

■画像検査の特徴(専門的な内容です)
超音波検査での特徴は腫瘍の中心から血管が放射状に分布する車軸状の血管構築です。また、CT検査では「造影早期相で中程度の染まりを呈して、早期排泄相では低吸収になる」「腫瘍の真ん中が黒く映る(中心性瘢痕)」といった特徴があります。

■治療
明らかなオンコサイトーマと診断された場合は経過観察となりますが、腎がんとの区別が難しい場合は、腎がんに準じた治療が行われます。腫瘍の部分を取り出して顕微鏡で調べる検査(病理検査)を行うと、判断材料が増えて診断精度が上がりますが、実際には画像診断で経験のある医師でも判断が難しいことも多いです。

腎がんとの区別が難しいため、オンコサイトーマと診断されてもしばらくは超音波検査などを使って定期的な検査が必要です。検査を続けた結果、病気の部分が大きくなる場合や中身の状態に変化が見られる場合には詳しい検査や治療が必要になります。

腎がん(腎細胞がん)

腎がんは腎臓にできる悪性腫瘍のことです。一般的に腎細胞がんのことを腎がんと呼ぶことが多いです。【腎がんの主な種類】

  • 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん
  • 乳頭状(にゅうとうじょう)腎細胞がん
  • 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん 
  • 透析関連(とうせきかんれん)腎がん

どのがんであっても治療は主に手術が行われます。転移している場合や再発した場合は薬物療法(分子標的薬もしくはサイトカイン療法)を行います。治療に関しては「腎がんの手術」と「腎がんの薬物療法」で説明しているので参考にしてください。

次にそれぞれの腎がんの特徴について解説します。

■淡明細胞型腎がん
淡明細胞型腎がん(淡明細胞型腎細胞がん)は、腎がんの中で最も多いタイプで、70-80%を占めます。淡明細胞という名前は、がん組織にHE染色という方法で色をつけて顕微鏡で観察した時、細胞に淡く色がつくことに由来します。血流の多く造影CT検査でよくわかる特徴があります。また、一部の淡明細胞がんの発生とVHLという遺伝子の異常に関連があることがわかってきています。

■乳頭状腎がん
乳頭状腎がん(乳頭状腎細胞がん)は、腎がんの中で約5%程度を占めるとされています。淡明細胞型腎がんとの区別は比較的容易ですが、良性腫瘍(脂肪成分の少ない腎血管筋脂肪腫、オンコサイトーマ)と見分けがつきにくいことがあります。乳頭状腎がんは顕微鏡による観察(病理検査)でtype1、type2に分類されます。一般的にはtype1の方が再発率や転移する可能性が低いとされています。

■嫌色素性腎細胞がん
嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がんは、腎がんの中で5%程度を占めるとされます。良性腫瘍(主にオンコサイトーマ)との鑑別診断です。

■透析関連腎がん
糖尿病や腎炎などによって、腎臓の機能を失うと、血液透析という治療が必要になります。血液透析を長年続けている患者さんは腎がんになりやすいことが知られており、透析患者さんでの腎がんの発生頻度は透析を行っていない人に比べると10-40倍とされています。また、透析期間に腎がんの発生が関係しており、透析期間が長いほどに腎がんの発生する頻度も上昇します。再発率や転移する確率は低いとされています。

腎盂がん

腎がんに似た悪性腫瘍の1つに腎盂がんがあります。名前は似ていますが、2つは全く違う病気です。

■腎がん(腎細胞がん)と腎盂がんの違いについて

腎細胞がんと腎盂(じんう)がんは発生する場所が異なり、性質も異なります。

  • 腎細胞がん(腎がん):腎臓の実質から発生する
  • 腎盂がん:腎盂から発生する

「腎がん」という言葉は一般的に腎細胞がんのことを指すことが多いです。腎細胞がんは腎臓の実質から発生するがんです。それに対して腎盂がんは腎盂という部分から発生します。腎盂は腎臓と尿管をつなぐ位置にあります。腎細胞がんと腎盂がんでは手術の方法と抗がん剤治療の内容が異なるために、区別(鑑別)が必要です。

■腎がんと腎盂がんの治療法の違いについて

手術の方法が異なります。腎臓を取るという点は腎がんと腎盂がんで共通しています。腎盂がんでは、尿管と膀胱壁を同時に全て切除(腎盂尿管全摘除術)しなければ治療として不十分です。一方、腎がんでは尿管は半分程度しか切除しません(根治的腎摘除術)が治療としては問題ありません。

同じく抗がん剤の内容も異なります。腎盂がん膀胱がん尿管がんと同じ尿路上皮がんに分類されます。腎盂がんに対する抗がん剤は膀胱がんで使用する薬剤と同様です。一方で、腎がんに対しては腎盂がんに効果のある薬には効果がほとんどないとされており、分子標的薬という種類の抗がん剤を選ぶ必要があります。

がんの種類 腎がん 腎盂がん
手術方法 腎部分切除術、根治的腎摘除術 腎盂尿管全摘除術
薬物療法 分子標的薬、サイトカイン療法 膀胱がんに準じた抗がん剤治療

医師から腎臓にがんができていると説明を受けた場合にはそれが「腎がん」なのか「腎盂がん」なのかをしっかりと聞くようにしてください。

■腎がんと腎盂がんの症状や検査結果の違い

腎がんと腎盂がんの症状は共通するものもあれば、異なるものもあります。

がんの種類 腎がん 腎盂がん
早期 症状なし 肉眼的血尿(見た目で赤い)
進行したとき 疼痛、肉眼的血尿、腹部腫瘤感 側腹部痛、肉眼的血尿

腎がんと腎盂がんの症状は似通ったところが多く、このために症状で見分けることは困難です。腎がんと腎盂がんを区別(鑑別)するために、画像検査(超音波検査、造影CT検査、MRI検査)や尿細胞診などが行われます。

がんの種類 腎がん 腎盂がん
造影CT ・早期濃染、平衡相での洗い出しなどの特徴がある
・腫瘍の周りにカプセル(被膜)がある
・造影CTの排泄相で、腎盂内に腫瘍性病変が確認できる
MRI 腎盂に腫瘍性病変なし 腎盂に腫瘍性病変を認める
尿細胞診 陰性 陽性
逆行性尿路造影 腫瘍の描出なし 腫瘍の描出あり

*尿細胞診は腎盂がんでも悪性度が低い場合には、陽性にならない場合がある

区別が難しい場合は、さまざまな検査を組み合わせて、総合的に判断されます。

3. 腎臓の嚢胞性腫瘍(のうほうせいしゅよう)

嚢胞とは中身が水の風船のようなものを指します。嚢胞の中にも色々あります。造影CT検査で造影効果があるものや、中身が単純な水ではなくて濃い濃度のものなど特徴は様々です。

【腎臓の嚢胞性腫瘍】

  • 良性腫瘍
    • 単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)
    • 非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)
    • 傍腎盂嚢胞(ぼうじんうのうほう)
    • 常染色体優性多発性嚢胞腎(じょうせんしょくたいゆうせいたはつせいのうほうじん)
  • 悪性腫瘍
    • 嚢胞性腎がん
  • 水腎症 ※便宜上の分類

水腎症は腎盂という腎臓の一部が拡張した状態を指す言葉なので、嚢胞性腫瘍ではありませんが、他の嚢胞性腫瘍と形が似ているので、便宜上ここでは嚢胞性腫瘍に分類して説明します。

単純性腎嚢胞

単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)は、腎臓に発生した水のような液体を中身とする袋状の腫瘍です。尿細管(にょうさいかん)という尿が流れる管が閉塞することが原因でできると推測されています。診断には腹部超音波検査腹部CT検査が役立ちます。嚢胞の中身がCTに写る濃度(画像上の色の白さ)により中身を推定することができます。腎嚢胞の中身が水成分より濃度が濃い場合や、造影CTで中身が造影される場合には非典型的腎嚢胞と診断されます。単純性腎嚢胞は小児では稀ですが、加齢とともに頻度が増加します。無症状なので治療の必要はありませんが、大きくなると症状が現れます。症状が強い場合は、治療が検討されます。

【単純性腎嚢胞の治療】

  • 経皮的腎嚢胞穿刺術(けいひてきじんのうほうせんしじゅつ)
    • 体の外から針を刺して水を抜く
  • 硬化療法
    • 経皮的腎嚢胞穿刺術を行いその後、水が溜まっていたところに接着効果のある物質を注入し嚢胞をつぶす

どちらも背中から針を刺して治療する方法なので、痛みを伴います。治療後に再発することもあり、治療を複数回行わなければならない場合もあります。

非典型的腎嚢胞

非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)は、中身が液体の袋状の構造物が腎臓に発生する病気です。中身が水成分ではない点が、単純性腎嚢胞と異なります。画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)を組み合わせて性質が調べられ、検査結果は次に説明するボスニアク分類に当てはめられます。

■ボスニアク分類
非典型的腎嚢胞が悪性の可能性があるかを判断する材料としてボスニアク(Bosniak)分類が用いられます。

カテゴリー 内容 良悪性と治療
1 単房性、薄い隔壁、内容は水濃度 良性
2 2つ以下の薄い隔壁、わずかな石灰化、3cm以下の高吸収嚢胞 良性
2F 3つ以上の薄い隔壁、最小限の増強効果、3cm以上の高吸収嚢胞 悪性の可能性は低い(約5%)
3 厚い不整な嚢胞壁や隔壁、最小限の増強効果、粗大な石灰化 悪性の可能性は約50%、手術を考慮
4 嚢胞壁や隔壁から隆起あるいは浸潤する造影される充実部分の存在 悪性とみなして手術を行う

ボスニアク分類の2FのFはfollow(フォロー)の略です。経過観察が必要という意味です。2Fのうち一部は経過観察のうちに悪性の可能性が否定できず手術を行うことになります。悪性である可能性は5%程度と考えられています。手術は可能であれば腎部分切除、腫瘍が大きい場合は根治的腎摘除術が行われます。

■経過と定期検査の必要性について
ボスニアク分類の1、2は良性腫瘍なので、経過観察の必要はありません。2Fに分類された人は定期的に超音波検査や場合によってはCTなどで経過観察を行います。カテゴリー4、5で手術を行い腎がんであった場合には腎がんと同様に再発の有無を確認するために定期的な画像検査を行います。

傍腎盂嚢胞

傍腎盂嚢胞(ぼうじんうのうほう)は、腎洞(じんどう)という場所から発生した、液体の入った風船状の腫瘍です。腎臓の内側から発生した場合は、見分けるの難しいです。造影剤を使わない単純CT検査では水腎症と傍腎盂嚢胞の見分けがつきづらい場合があり、その場合は尿の流れを詳細に観察できる撮影方法(CT ウログラフィー)が行われます。

常染色体優性多発性嚢胞腎

常染色体優性多発性嚢胞腎は患者さんの数が多い遺伝子病の1つで、腎不全(腎臓の機能が低下すること)の原因になります。また、腎臓以外の臓器にも影響が現れます。

典型的な経過では30歳から50歳の間に血尿や側腹部痛をきっかけに、常染色体優性多発嚢胞腎が指摘されます。

初期の状態では腎嚢胞は数個しか発生していないので、単純性腎嚢胞と鑑別することが困難です。検査も重要ですが、遺伝性疾患であるので、家族歴(家族に同じ病気の人がいるか)や血尿などの症状が重要です。症状や患者さんのもつ背景について、医師に詳しく説明してください。常染色体優性多発性嚢胞腎には手術は行いません。腎機能をなるべく維持することが最も大切な治療です。腎機能を維持するには血圧を適正に保ったり食事に気をつけることなどが重要です。

■遺伝について:常染色体優性についての説明「常染色体優性」という言葉は、この病気が遺伝するパターンを示しています。常染色体優性遺伝の病気を発症した患者さんの子どもは、男女にかかわらず50%の確率で同じ病気の原因遺伝子を持って生まれます。原因遺伝子を持っていると必ず発病するとは限りませんが、原因遺伝子を持っている人は発症する可能性があります。また、原因遺伝子を持っていて発病していない人の子どもにも50%の確率で原因遺伝子が受け継がれます。常染色体劣性多発性嚢胞腎は常染色体優性多発性嚢胞腎と似た特徴がありますが、別の病気です。医師から説明があるときには病名をよく聞くようにしてください。

水腎症

水腎症(すいじんしょう)は腎盂という場所が膨らんだ状態のことを指します。結石や腫瘍などによって、腎盂や尿管が塞がり尿の流れが悪くなることが原因です。

水腎症の原因】

水腎症の原因は多岐に渡ります。治療や検査などの詳しい説明は「水腎症の詳細ページ」を参考にしてください。

4. 炎症性腎疾患

炎症性腎疾患は腎臓に炎症が起こる病気のことを指します。腎臓に感染などの炎症が起きた場合、CT検査などの画像検査では腎臓に腫瘍があるように見えます。

【炎症性腎疾患】

それぞれについて説明します。

腎膿瘍

急性腎盂腎炎が悪化すると腎臓に(うみ)の溜まりを作ることがあります。この状態を腎膿瘍(じんのうよう)といいます。感染症にかかりやすい人(糖尿病の人や免疫抑制薬を使用中の人など)が腎盂腎炎になったときには腎膿瘍になりやすいので、特に注意が必要です。画像検査では、膿が腎がんのように見えることがあるので、必要に応じて追加で画像検査を行い詳しく調べます。腎膿瘍は感染症によって起こるので、抗菌薬によって治療されます。また、抗菌薬だけでは不十分と考えられる場合には、ドレナージ(膿を抜く治療)が行われます。

黄色肉芽腫性腎盂腎炎

黄色肉芽種性腎盂腎炎(おうしょくにくげしゅせいじんうじんえん)は脂肪を多く含む肥満細胞によって見た目が黄色のかたまり(結節)を腎臓につくるまれな病気です。尿路感染症膀胱炎腎盂腎炎など)に過去にかかった中年女性に多いとされていることがわかっていますが、詳しい原因については不明です。CT検査や超音波検査といった画像検査を参考に診断されますが、判断が難しい場合は、病理検査(病気の一部分を取り出して顕微鏡で観察する検査)が検討されます。病気の広がりによって治療法が変わります。

  • 病変の広がりが狭い場合(focal form):抗菌薬の投与
  • 病変の広がりが広い場合(diffuse/global form):腎臓摘除術、抗菌薬の投与

腎臓を取り除くのは身体の負担にもなるので慎重に検討されます。このため、最初は抗菌薬による治療が行われることが多いです。

腎結核

腎結核(じんけっかく)は結核菌が腎臓に感染するこ病気です。主な症状は次のものです。

  • 頻尿 
  • 排尿時痛
  • 残尿感
  • 腰痛
  • 倦怠感
  • 体重減少 
  • 微熱、寝汗

診断のために、尿中の結核菌の有無を調べられます。また、腎臓の状態を調べるために、画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)が行われます。治療には4種類ある抗結核薬を6-9ヶ月内服します(高齢者の場合は3剤で治療することもあります)。

【抗結核薬】

  • イソニアジド
  • リファンピシン
  • エタンブトール
  • ピラジナミド(高齢者では省く場合も)

結核を治すには、抗結核薬は決めたとおりに飲むことが鍵になるので、DOTS(Directly Observated Treatment Short Course )と言って治療期間中は医療者の目の前で患者さんが薬を飲み、正しく内服を行っていることを確認する方法が行われます。重症化のために腎臓が機能していない場合は、手術で腎臓を摘出する(腎摘除術)こともあります。結核の治療を詳しく知りたい人は「結核の治療」を参考にしてください。

参考:「ワシントンマニュアル 第12版」

5. 腎臓の血管の病気

腎臓には血管が密に張り巡らされています。腎臓の血管の異常が腎がんと似た形をとることがあります。腎臓の血管の病気はいくつかありますが、腎動脈瘤と腎梗塞の2つが紛らわしい病気として代表的です。

腎動脈瘤

瘤(りゅう)とはこぶのことです。本来は管状の動脈の壁にこぶが発生したものを動脈瘤といいます。動脈瘤は全身の動脈のどこにでも起こりえます。腎動脈に発生した動脈瘤を腎動脈瘤といいます。腎動脈瘤が破裂すると、大量出血することがあり、命に危険が及ぶことも少なくありません。特に15-20mm以上の腎動脈瘤は破裂する危険性が高いという意見があるので、破裂を予防するために治療が検討されます。診断のためにCT検査や血管造影検査(カテーテルを使って血管の形を調べる検査)が行われます。治療が必要な人には、腎動脈瘤塞栓術というカテーテル治療が行われます。この治療では、瘤に細い医療用の針金を詰めて、破裂するのを予め予防します。

腎梗塞

腎梗塞(じんこうそく)は腎動脈が詰まり、血流が途絶えてしまい、血流がなくなった部分が壊死(細胞が死に絶えて機能を失うこと)する病気です。血液の塊ができやすい人や動脈硬化の人に起こりやすいです。腎梗塞が起こると、背中に強い痛みが起こったり、赤い尿が現れます。腎梗塞が疑われる人には画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)が診断のために行われます。血液の塊(血栓)が動脈を塞いでいる場合は、血栓を溶かす治療が行われますが、程度によっては経過観察することもあります。

6. 小児(子ども)に多い腎腫瘍について

子どもに多く見られる主な腎腫瘍には主に次のものがあります。

上記のようにいくつか種類はあるのですが、小児の腎腫瘍はほとんどが腎芽腫ウィルムス腫瘍)です。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)

腎芽腫(じんがしゅ)はウィルムス腫瘍(Wilms腫瘍)とも呼ばれ、ほとんどが子どもに発生します。5歳以下での発症が90%を占め、女児にやや多いです。ウィルムス腫瘍は1.2-1.5万人に1人が発症し、日本では年間80-100人が発症していると推測されます。ウィルムス腫瘍は腎腫瘍の他に筋肉、骨、皮膚、心臓や呼吸器の先天形態異常をともなうことがあります。

ウィルムス腫瘍の代表的な症状と頻度は次になります。

症状 頻度
腹部に塊ができる(腹部腫瘤感) 75-95%
血尿 25%
高血圧 25%
腹痛 不明

最も多い症状である腹部腫瘤感によって見つかることが多いです。また、腎芽腫が疑われる人には次のような画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)が行われ、病気の有無または広がりが調べられます。血液検査や尿検査での腫瘍マーカーはなく、画像検査の結果によって進行度(病期)を分類します。分類の基準と当てはまる人の割合を表に示します。

【National Wilms Tumor Study(NWST)による病期分類(ステージ)と割合】

ステージ 詳細 割合
1 腫瘍が腎に限局して、完全に摘出できたものの、腎被膜や腎洞内部への浸潤がみられない。腹膜播種がない 約40%
2 腫瘍が腎被膜や腎洞に及んだり、血管浸潤がみられるか完全摘出できたもの。リンパ節転移なし 約20%
3 腹部リンパ節、下大静脈など腎外への非血行性腫瘍進展あり、腫瘍摘出後残存あり。摘出時腹腔内播種あり 約20%
4 他臓器転移または腹腔外リンパ節転移 約10%
5 診断時両側性腎腫瘍 約5%

日本では正確なデータがないため、表の割合はアメリカの統計によるものです。ステージ4またはステージ5の腎芽腫はかなり進行した状態ですが、その状態は人によって違います。つまり、ステージ5だからといって必ずしも「末期がん」とは限りません。また、腎芽腫ではステージのほかに病理組織学的診断による分類も治療法や先の見通し(予後)に大きく影響します。

【病理組織学的診断の割合と抗がん剤の効果】

分類 割合 抗がん剤の効果
予後良好群 約90% 効果あり
予後不良群 約10% 効果不良

ウィルムス腫瘍は切除または生検によって採取した組織を顕微鏡で診断(病理診断)することでステージとは別に、「予後良好群」と「予後不良群」の2つに分類されます。「予後不良」という言葉は「見通しがよくない」という意味がありますが、ウィルムス腫瘍の予後不良群でも治療により長期生存が期待できる場合があるので、あまり深刻に受け止めすぎないようにしてください。手術と抗がん剤治療が治療の軸になります。ステージが進行していると、放射線治療が追加されます。

分類 予後良好群 予後不良群
ステージ1 手術+抗がん剤治療 手術+抗がん剤治療+放射線治療
ステージ2 手術+抗がん剤治療 手術+抗がん剤+放射線治療
ステージ3 手術+抗がん剤治療+放射線治療 手術+抗がん剤+放射線治療
(抗がん剤を手術前に行う場合あり)
ステージ4 手術+抗がん剤治療+放射線治療
転移をしている部位への放射線治療
手術+抗がん剤+放射線治療
(抗がん剤を手術前に行う場合あり)
転移をしている部位への放射線治療
ステージ5 下記 下記

ステージ5は、複雑な状態なので、以下で詳しく説明します。ステージ5は両側に腫瘍がある状態です。

両側の腎臓を切除すると、腎臓の機能が失われてしまい、生命維持に大きく関わります。このため、抗がん剤治療によってがんをできるだけ小さくした後に、腫瘍が取り除かれます。腫瘍が大きな場合には複数回の手術が必要になることもあります。

参考:『標準泌尿器科学』『知っておきたい泌尿器のCT・MRI』