膀胱炎の基礎知識
POINT 膀胱炎とは
尿を溜める臓器である膀胱に炎症が起こった状態です。主な炎症の原因は細菌感染になります。症状は発熱・倦怠感(だるさ)・筋肉痛・寒気などが主なものになります。膀胱炎の診断は、症状に加えて尿の中にどの程度白血球や細菌がいるかを参考にして、尿の塗抹検査と培養検査で確定します。しかし、細菌の検査で診断がつかない場合は、膀胱鏡検査で膀胱の中を観察して原因をさらに調べることもあります。治療は細菌感染が原因であれば抗菌薬を使用しますが、治療しても再発を繰り返す場合があります。再発予防のために、骨盤底筋体操を行ったり漢方薬を用いたりする場合もあります。膀胱炎を疑っている人や困っている人は、泌尿器科や感染症内科を受診して下さい。
膀胱炎について
- 尿をためる臓器である膀胱(ぼうこう)に
炎症 が起きている状態 - 女性に多い
- 若い女性のうち毎年数%の人に発生する
- ほとんどの場合、
細菌 が尿道から逆流して膀胱に感染することで起こる- 原因は
大腸菌 のことが多い(80%程度) - ほかプロテウス属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、
ブドウ球菌 など - 細菌の量が多かったり、
免疫 力が落ちていたりすると、膀胱炎になりやすい - 女性は男性よりも尿道の出口から膀胱までの距離が短く、細菌が膀胱にたどり着きやすいため、膀胱炎を起こしやすい
- 特に女性では、同じ人が繰り返し何度も膀胱炎にかかることがある
- 原因は
- 尿道カテーテルは感染の原因になりやすい
- 尿が正常に流れていないときは感染しやすい
- 性行為で感染するクラミジアや
淋菌 も原因になる - 細菌以外の原因の例
真菌 感染カンジダ などの真菌(カビ)が原因になることがある- 真菌による膀胱炎は糖尿病などの人で多い
ウイルス 感染(アデノウイルス )薬剤性 抗がん剤 の副作用など- 市販薬では
アレルギー を抑える薬のペミロラスト(商品名アレギサール、ペミラストン)など
- 放射線性(
放射線治療 の副作用)
- 殺精子剤は女性の尿道の周りの細菌叢(フローラ)を変えてしまい、
感染症 を起こす - 尿路感染症が起こりやすい体質が遺伝する場合がある
- 膀胱炎の中でも出血を伴うもの(出血性膀胱炎)や慢性化するもの(慢性膀胱炎)などがある
- 間質性膀胱炎は原因不明で、
抗生物質 は効かない
膀胱炎の症状
- 膀胱が刺激されて排尿に関する様々な症状が出る
- 典型的な症状
- 濁った尿
血尿 - 臭いが強い尿
頻尿 (頻繁に排尿したくなる)- 残尿(排尿後に、立ち上がると少し追加の尿が漏れるように出たり、尿の切れが悪くなること)
- 尿が我慢しづらい(尿意を感じてから、トイレに駆け込むまで、我慢ができないことがある)
- 排尿時の痛み(排尿をするときに、しみるような痛みが出る)
- 下腹部の痛み
- 痛みがなくいきなり血尿が出るなど、一部の症状だけが出ることもある
- 血尿が出ても重症とは限らない
- 出血が多い場合、血の塊が尿に混じることがある
- 尿の色で原因や重症度はわからない
- 上のような症状に加えて高熱がある場合は、腎臓まで感染が進んでいる(腎盂腎炎)可能性がある
- 腎盂腎炎に進んだときの主な症状
- 発熱
- 寒気、ふるえ
- 背中の痛み、腰痛
- 筋肉痛
- だるさ
- 吐き気、嘔吐
- 下痢
- 妊娠中の膀胱炎や腎盂腎炎が
早産 などにつながる場合がある
膀胱炎の検査・診断
- 尿検査、
細菌検査 :尿の中の白血球 数や細菌 がいないかなど調べる- 膀胱炎を疑う症状に加えて、検査で尿の中に細菌(100,000個/ml以上)や白血球が多く存在すれば膀胱炎を強く疑う
- 尿の中に細菌がいても症状を起こさない場合も多い
- 膀胱炎でも細菌が見つからないこともある
- 膀胱炎を繰り返す場合に行う検査:尿道や膀胱などの尿路に異常がないかなどを詳しく調べることもある
超音波検査 膀胱尿道造影検査 - 膀胱鏡検査(
内視鏡 検査)
膀胱炎の治療法
- 軽症なら自然
治癒 する - 水分を多くとって、普段よりもたくさん尿を出すことで、尿ごと病原体を洗い流すことも有効
- 便秘がちな人は、便通の改善も膀胱炎の予防になる
- 便秘が強い人は膀胱炎になりやすい
- 膀胱炎を効能効果とする市販薬の例
- 長倉泌尿煎(ヒニョウセン)
- 腎仙散(ジンセンサン)
- ネオ腎仙湯(ジンセントウ)
- ウチダの八味丸料(ハチミガンリョウ)
- ウチダの五苓散(ゴレイサン)
- ボーコレン(五淋散)や猪苓湯(チョレイトウ)には「膀胱炎」の効能効果はない
- 市販薬には
細菌 を除く効果はない
- 細菌感染が原因であれば
抗菌薬 (抗生物質 )を使用- 大人では、多くの場合は飲み薬の抗生物質で治療可能
- 重症の場合や、特殊な病原体が原因の場合には、点滴の抗生物質を使用することがある
- 抗生物質は原因になった細菌に合う種類のものを選ばなければ効かない
- 膀胱炎に使われる抗生物質の例
- ニューキノロン系抗菌薬
- レボフロキサシン(商品名:クラビットなど)、シプロフロキサシン(商品名:シプロキサンなど)
- ニューキノロン系抗菌薬は妊娠中・授乳中は使えない
- 子供は限られた場合を除いて使えない
- レボフロキサシン、シプロフロキサシンともにジェネリック医薬品がある
- ST合剤(商品名:バクタなど)
- ST合剤は妊娠中・授乳中は使えない
- 子供も使える
- ジェネリック医薬品がある
- セフェム系抗菌薬
- 第三世代セフェム軽抗菌薬にはセフカペンピボキシル(商品名:フロモックスなど)、セフジトレンピボキシル(商品名:メイアクトなど)、セフポドキシムプロキセチル(商品名:バナンなど)、セフジニル(商品名:セフゾンなど)がある
- 第三世代セフェム系抗菌薬は、若い女性で膀胱炎を起こしやすいStaphylococcus saprophyticus(腐性
ブドウ球菌 )などのグラム陽性球菌には効きにくい - 第三世代セフェム系抗菌薬の飲み薬は腸から吸収されにくい
- 妊娠中にはアモキシシリン・クラブラン酸合剤(ペニシリン系抗菌薬、商品名オーグメンチンなど)、セファクロル(第一世代セフェム系抗菌薬、商品名ケフラールなど)などの抗生物質が使える
- ケフラールは授乳中には使えない
- オーグメンチンには添付文書上に授乳中の注意はない
- 特定の抗生物質が効かない
耐性菌 が増えつつある - 抗生物質の治療期間が終了しても症状が続く場合は耐性菌を疑う
- ホスホマイシン(商品名:ホスミシンなど)はある種の耐性菌に対して優先的に使われる
- 子供も使える
- 耐性菌に対して使われる抗生物質にファロペネム(商品名:ファロムなど)などがある
- 子供を想定した製品(ファロムドライシロップ小児用)もある
- 抗生物質は生理(月経)の周期や妊娠しやすさには影響しない
- 抗生物質を飲んで
血尿 が出た場合、もともとの膀胱炎の症状が遅れて出ている可能性がある
- ニューキノロン系抗菌薬
- 膀胱炎に対しては最優先になりにくい抗生物質の例
- マクロライド系抗菌薬
- クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッドなど)
- アジスロマイシン(商品名:ジスロマックなど)
- マクロライド系抗菌薬
- 抗生物質による治療期間は多くの場合3日から7日
- 細菌以外が原因の場合は、原因を避けて自然に治るのを待つことが多い
薬剤性 であれば原因と疑われる薬剤の中止を検討- カテーテルが原因と疑われれば取り除く
ウイルス 性であれば経過観察
- 血尿は感染が収まれば自然に治るので、血尿を薬で止めようとする必要はない
膀胱炎に関連する治療薬
アミノグリコシド系抗菌薬
- 細菌のタンパク質合成を阻害し殺菌的に抗菌作用をあらわす薬
- 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
- タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
- 本剤は細菌のリボソームにおけるタンパク質合成を阻害して抗菌作用をあらわす
- 薬剤によって抗菌作用の範囲に違いがあり、淋菌(淋菌感染症の原因菌)やMRSA(MRSA感染症の原因菌)などに抗菌作用をあらわす薬剤もある
ST合剤
- 細菌などが行う葉酸合成と葉酸の活性化を阻害し増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
- 細菌などの増殖には遺伝情報を含むDNAの複製が必要でDNAの複製には葉酸が必要となる
- 細菌などは自ら葉酸を作り、活性化させることでDNAの複製に使用する
- 本剤は葉酸合成阻害作用をもつ薬剤と葉酸の活性化を阻害する薬剤の配合剤
- 真菌が原因でおこるニューモシスチス肺炎に使用する場合もある
セフェム系抗菌薬
- 細菌の細胞壁合成を阻害し細菌を殺すことで抗菌作用をあらわす薬
- 細胞壁という防御壁をもつ細菌はこれがないと生きることができない
- 細菌の細胞壁合成に深く関わるペニシリン結合タンパク質(PBP)というものがある
- 本剤は細菌のPBPに作用し細胞壁合成を阻害することで細菌を殺す作用をあらわす
- 妊婦にも比較的安全に投与できるとされる
- 開発された世代によって第一世代〜第四世代に分けられる
- 各世代で、各種細菌へ対して、それぞれ得手・不得手がある
- 世代が同じであっても薬剤によって各種細菌に対して得手・不得手の違いが生じる場合がある
膀胱炎の経過と病院探しのポイント
膀胱炎が心配な方
膀胱炎では、頻尿、排尿時の痛み、腹痛など様々な症状が出ます。多くの場合は軽症であり、一般的な内科や小児科のクリニックで十分に対応が可能です。
38度以上など、高熱がある場合には膀胱炎が進行して腎盂腎炎になっている可能性がありますので注意が必要です。
膀胱炎の診断は問診、診察と尿検査で行います。尿検査は試験紙を用いた簡単なものですから、内科のクリニックでも対応可能なところは多いです。レントゲンやCT、超音波といった画像検査では、膀胱炎を診断することはできません。
膀胱炎でお困りの方
膀胱炎の治療は、抗生物質の内服で行います。診断がついた後の治療は、すでにある程度決まったものがありますので、特殊な専門病院でなければならないなどということはなく、病院を探す上で気にするべき大きな差はありません。一般的な膀胱炎であれば、初回に薬をもらうだけで、その後の通院は不要です。
個人輸入などで抗生物質を手に入れて自己判断で飲むのはきわめて危険です。絶対にやめてください。そもそも抗生物質を使ってはいけない場合があります。また適切な種類の抗生物質を選ぶには専門的な判断が必要です。個人輸入で偽物や不純物を含んだ薬を飲んで死亡した事故も多発しています。個人輸入では耐性菌が感染していて効かなかった場合や、副作用が出た場合のケアもありません。膀胱炎は病院に行けば簡単に治る病気です。わざわざ危険を冒す理由がありません。
尿に症状が出るので「性病ではないか?」と思えて病院に行くのに抵抗を感じる方がいるかもしれません。しかし、膀胱炎はどんな人にも、特に女性なら非常に多く起こる病気です。必ずしも性病ではありません。相談をためらう必要はありません。
年に何回も膀胱炎を繰り返す場合や、抗生物質が効かない場合には泌尿器科専門医に相談の上で診療を受けることをお勧めします。
膀胱炎が含まれる病気
膀胱炎のタグ
膀胱炎に関わるからだの部位

