膀胱炎になったらどんな検査をする?尿検査、細菌検査、血液検査など
目次
1. 膀胱炎はどうやって診断をつけるのか
膀胱炎はよくある病気ですがその診断は非常に難しいです。ここでは最も一般的な
膀胱炎の診断基準はあるのか
膀胱の中で細菌が感染を起こしたら細菌性膀胱炎になります。しかし、これを証明することは非常に難しいです。明確な膀胱炎の診断基準はありません。
まずは膀胱炎の成り立ちについてもう少し詳しく見ていきましょう。
- 膀胱内に細菌が侵入する
- 膀胱内で細菌が繁殖する
- 繁殖した細菌が感染を起こす
- 感染によって症状が出現する
といった段階を経て膀胱炎は起こります。ここで重要なのは、細菌が膀胱に侵入しただけで膀胱炎になるわけではないということです。膀胱に侵入した細菌が身体の持つ
尿の中に細菌がいるだけでは細菌性膀胱炎の診断はつきません。さまざまな側面から鑑みて細菌性膀胱炎と診断します。診断するときに非常に重要になるポイントは以下です。
- 尿の中に細菌がいる
- 尿の中に
白血球 がある - 膀胱炎を示唆する症状(排尿時の違和感、頻尿、
残尿感 など)がある - 膀胱炎を繰り返しているなどの膀胱炎になりやすい背景がある
細菌性膀胱炎と診断するには、これらの状況を見て総合的に判断することになります。次の章ではどういった検査をするのかについて詳しく説明してきます。
2. 膀胱炎に対して行う尿検査:白血球数、赤血球数、細菌数など
膀胱炎を診断するために行う検査の中でも尿検査と
尿検査の最も大きな利点は、簡易的に検査できることと結果が出るまで時間がかからないことです。尿検査には主に尿定性検査(にょうていせいけんさ)と尿沈渣(にょうちんさ)があります。
尿定性検査は検査用のスティックがあればどこででもできます。また、検査時間も10-30分程度で済みます。
尿沈渣は特殊な装置(遠心分離機と顕微鏡)が必要になりますし、検査時間は1-2時間程度かかることが普通です。
【尿定性と尿沈査の特徴】
尿定性 | 尿沈査 | |
所要時間 | 10-30分程度 | 1-2時間程度 |
検査に必要な機材 | 検査用のスティック | 遠心分離機と顕微鏡(あるいはフローサイトメーター) |
尿定性と尿沈渣では調べる内容が多少異なります。各々の特性について知っておくことは大切ですので、検査の特徴について説明していきます。
尿定性は何を見ている?
尿定性は30分もあれば結果がわかると言う点で非常に優れた検査です。一方で、調べられる項目が限られており、尿の状態を詳しく調べることについては長けていません。尿定性で調べられる項目は次のものです。
- pH:尿の酸性/アルカリ性の傾き
- 酸性:薬剤の副作用、
アシドーシス など - アルカリ性:薬剤の副作用、脱水、尿路感染症など
- 酸性:薬剤の副作用、
- 比重:尿中に含まれるものの量の程度
- 蛋白:尿中に含まれるタンパク質の程度
ブドウ糖 :尿中に含まれるブドウ糖の程度- 潜血反応:尿中に含まれる
赤血球 の程度 - 白血球:尿中に含まれる白血球の程度
- 陽性となる疾患:尿路感染症、尿路に
炎症 を起こす疾患
- 陽性となる疾患:尿路感染症、尿路に
- ケトン体:尿中に含まれるケトン体の程度
- 糖尿病、飢餓、強い嘔吐・下痢など
ビリルビン :尿中に含まれるビリルビンの程度- 陽性となる疾患:肝炎、肝硬変、胆道結石、十二指腸乳頭
がん など
- 陽性となる疾患:肝炎、肝硬変、胆道結石、十二指腸乳頭
- 亜硝酸塩:尿中の亜硝酸塩の有無
- 尿路感染症(ただし、亜硝酸塩を産生する細菌による感染)
これらの検査の精度はあまり高くないため、病気ではないのに陽性という結果(
【尿定性の検査結果に影響を与えるもの】
- 蛋白
- 偽陽性:アルカリ尿、薬剤の影響など
- 偽陰性:強酸性尿、アルブミン以外の蛋白尿など
- ブドウ糖
- 偽陽性:薬剤の影響など
- 偽陰性:アスコルビン酸など
- 潜血反応
- 偽陽性:ミオグロビン尿、蛋白尿、細菌尿など
- 偽陰性:アスコルビン酸、高蛋白尿など
- 白血球
- 偽陽性:ホルマリン
- 偽陰性:高蛋白尿、高蛋白尿、白血球の中でも
リンパ球 の増加、薬剤の影響など
以上のように尿定性では多くのことを調べられます。中でも膀胱炎の診断に役立つ項目は、pH・白血球・亜硝酸塩・潜血反応です。これらの項目が陽性であれば、膀胱炎の可能性が高くなります。
尿沈渣は何を見ている?
尿を遠心分離機にかけて沈澱(ちんでん)した物の性質について顕微鏡を用いて調べる検査を尿沈渣(にょうちんさ)といいます。調べることのできる主なものは以下です。
- 赤血球
- 白血球
- 細胞成分
- 細菌
尿沈渣の検査を用いると、赤血球や白血球の数はもちろん、尿中に含まれる細胞の形状を調べることができます。脂肪円柱が含まれていればネフローゼ症候群が疑われますし、異型細胞が含まれていれば尿路系の
近年はフローサイトメトリーを用いた尿沈渣が行われるようになってきています。フローサイトメトリーを用いると今まで必要だった人力を用いなくても尿に含まれるものを調べることができるため、検査の簡便化が可能となっています。
3. 膀胱炎に対して行う細菌検査
膀胱炎に限らず、
塗抹検査は感染している
培養検査は感染している検体に含まれる細菌を発育しやすい環境に置いて増殖させる検査です。培養すると細菌の数が大幅に増えますので、細菌の名前や
各々の検査には長所と短所があります。
【塗抹検査と培養検査の得手不得手】
塗抹検査 | 培養検査 | |
検査時間 |
|
|
検査でわかること |
|
|
検査でわからないこと |
|
|
*グラム染色カテゴリー
- グラム染色という特殊な方法を用いると、これに反応して色が染まるものを陽性とし、染まらないものを陰性とする
- 細菌の形が丸いものを球菌とし、細長いものを桿菌(かんきん)とする
- 以上の2つの軸から細菌を4つに分類する
- グラム陽性球菌
- グラム陽性桿菌
- グラム陰性球菌
- グラム陰性桿菌
*白血球の貪食像(どんしょくぞう)
- 尿中に白血球と細菌が同時に見られた場合に、白血球が細菌を捕食している様子が見られることがある
- この像がある場合には、見られている細菌が感染の原因菌であることを示唆する
塗抹検査と培養検査は片方のみではどうしても十分でない検査になってしまいます。お互いの不得手な部分を補完する意味で、その両方を行うことが望ましいです。
尿の塗抹検査の上手な使い方
尿の塗抹検査の最も優れた点は、細菌の大まかな特徴がものの数十分で分かることです。これは抗菌薬治療を行う上で、最初の抗菌薬の選択に役立ちます。グラム染色における4つのカテゴリーのどこに属する細菌なのかを判断すると自然と使用する抗菌薬(抗生物質)が絞れてきます。またさらに慣れてくると、もっと詳しくこの細菌はおそらく
尿の培養検査の上手な使い方
たいていの場合、最初の治療を始めてから数日経ってから培養検査の結果がわかります。その結果を踏まえて、最初に用いた抗菌薬を最適化します。つまり、判明した細菌に対して最も有効な抗菌薬に切り替えることになります。
最初に使用した抗菌薬と最適な抗菌薬が一致していることもありますが、培養検査の結果を見てより的確な抗菌薬に切り替えることのほうが多いかもしれません。
血液の培養検査
血液の培養検査は、血液中に細菌がいるかどうかをチェックする検査です。細菌が存在する場合には、培養結果から細菌の種類や抗菌薬(抗生物質)の効き具合も調べることができます。しかし、膀胱炎は尿の感染ですので直接血液で感染は起こっていません。そのため、血液培養検査は全ての膀胱炎に対して必要なわけではありません。
血液中に細菌が入り込みやすい場合に血液培養検査が必要です。膀胱炎で特に血液培養検査を行うべきなのは、腎盂腎炎になっている可能性がある場合と複雑性膀胱炎(尿路に変形がある人や免疫力の低下している人の膀胱炎)の場合です。この2つに該当する場合は、痛い採血を我慢してでも血液培養検査を行うほうが良いです。
また、血液の塗抹検査はあまり行いません。菌血症になっても尿中の細菌と違って血液中の細菌の数は少ないため、塗抹検査を行っても細菌が見つからないことが多いことが理由です。血液の細菌検査の場合は、塗抹検査を行わずに培養検査のみを行うことがほとんどです。
4. 膀胱炎に対して行う血液検査
血液検査をしても膀胱の中が分かるわけではありません。しかし、膀胱炎の人に血液検査を行うことがあります。血液検査では主に次のことを調べます。
- 全身炎症の程度
- 臓器の機能低下の有無
5. 膀胱炎の診断は簡単ではない?
検査結果だけで膀胱炎の診断をつけることはできません。尿の中に細菌や白血球がいて、血液検査で炎症反応が高値であっても膀胱炎と診断することはできません。
一方で、症状だけでも膀胱炎と診断することはできません。どんなに膀胱炎らしい症状が出ても、尿の中に細菌がいなければ他の病気を考えなくてはなりません。
膀胱炎らしい症状があって、尿の中に細菌がいた場合はどうでしょうか。実はそれだけ膀胱炎を疑う状況であっても膀胱炎ではなかったということがあります。それだけ膀胱炎の診断をつけることは難しいのです。
上でも述べていますが、膀胱炎の診断のポイントは以下になります。
- 尿の中に細菌がいる
- 尿の中に白血球がある
- 膀胱炎を示唆する症状(排尿時の違和感、頻尿、残尿感など)がある
- 膀胱炎を繰り返しやすいなどの膀胱炎になりやすい背景がある
これらに加えて、お医者さんは「今起こっている症状は膀胱炎以外に引き起こされたものではないか?」と考えています。膀胱炎と思っていたら実は子宮頸がんだったといったこともまれにありますので、疑わしい症状が出ても膀胱炎と決めつけないことが大切です。
膀胱炎を診断するときは、症状・検査結果・背景を鑑みて総合的に判断する必要があります。