ぼうこうえん
膀胱炎
膀胱の炎症。若い女性では毎年数%の人に起こる。原因は大腸菌が80%程度
14人の医師がチェック 185回の改訂 最終更新: 2022.03.15

膀胱炎の症状:残尿感、頻尿、発熱、血尿、腹痛、腰痛、排尿痛など

膀胱炎になるとさまざまな症状が出現します。頻尿残尿感、排尿時痛などの症状は膀胱炎で起こることが有名です。このページでは「こうした症状は膀胱炎によるものかもしれない」という疑問について説明していきます。

1. 膀胱炎に前兆はあるのか

膀胱炎になるとさまざまな症状が出現します。排尿時の違和感や排尿時の痛み、頻尿といった症状が初期に感じられやすいかもしれませんが、症状を全く感じないこともあるため、あまり参考にはなりません。特に排尿時に違和感を覚えた場合に、その違和感が持続したときには検査を受けるということが大切です。

たとえばこんなことがあったら診察を受けに行くといいでしょう。

41歳女性の田中さんは特に持病もなく健康だと自認していました。まだ閉経はしていません。ある日、トイレで排尿したあとに違和感を覚えました。数日で違和感はしだいに強くなり、排尿すると熱い感じを覚えるようなってきました。

以下が膀胱炎の初期症状として感じられることがある症状です。

  • 排尿時の違和感
  • 排尿時の痛み
  • 排尿時の熱感
  • 頻尿
  • 残尿感
  • 下腹部痛
  • 血尿
  • 尿の混濁
  • 発熱
  • 吐き気(子どもに多い)

これらに気付いたら、重い症状の前兆かもしれません。しかし、膀胱炎は特に前兆がなくいきなり強い症状が現れることもあれば、まったく症状がないまま知らぬうちに感染していたということもあります。

膀胱炎かもしれないと考えるべきタイミング

上で述べた症状は膀胱炎と関連のある症状です。原因がはっきりとしない状態で先ほどの症状が続く場合は膀胱炎を考えに入れて検査を受けた方がよいです。特に膀胱炎を良く繰り返す人や免疫力の低下している人は膀胱炎になりやすいので注意が必要です。免疫力が低下するとは、ここでは免疫抑制薬による長期治療中などの状況を指します。病院に行くこともなく日常生活ができている人は心配ありません。

また、単純性膀胱炎に限った話ではありますが、さまざまな身体診察や検査よりも膀胱炎かもしれないと疑う自己判断のほうが診断に有用であるといったデータがあります。(JAMA. 2002 May 22-29;287(20):2701-10.)疑わしいと感じたら受診して、数十分程度かかる尿検査を行えば膀胱炎の有無にあたりを付けることができます。

排尿するといつもと異なる違和感がある場合

排尿時に違和感を覚えることがあります。違和感は痛み・かゆみ・熱感・残尿感など様々な形で現れますが、原因には多くのことが考えられます。

排尿時に違和感を覚える病気は以下のものが挙げられます。

これらの病気は併存していることもあります。また、排尿時の違和感は気になりだすと生活の質が下がりますので、早めに治療することが大切です。

膀胱炎に潜伏期間はあるのか

感染が起こってから症状が出現するまでの期間のことを潜伏期間と言います。膀胱炎では、膀胱で感染が起こってから症状がすぐに出てくるわけではありません。しかし、潜伏期間がどの程度なのかは定まっていません。

潜伏期間が一定しない大きな原因は、膀胱炎の原因菌が多種多様であることです。また、排尿能力の程度や尿路異常の有無などにも影響されるため、感染が起こってからいつ発症するかは正確には分かりません。上でも述べたように、違和感を感じた場合には検査を行って、早めの治療につなげることが大切と思われます。

2. 残尿感、頻尿と膀胱炎:尿のトラブルは生活の質を下げる

田中さんは近所の診療所に来ました。症状を説明すると、お医者さんは「すぐにトイレに行きたくなったりしませんか?」と聞きました。そんな症状があるのでしょうか?

膀胱炎になると、排尿したのに排尿しきれた気がしない(残尿感)、トイレに行ったのにまたすぐに行きたくなる(頻尿)といった症状を経験します。これらの症状はすっきりしない不快感だけでなく、気が散ることで生産性を下げてしまいます。

これらの症状はどうして感じられるのか、そして症状が出たときにはどう対処すると良いのかを考えてみましょう。

どうして残尿感が現れるのか

まず最初に膀胱の機能について少し説明します。

  • 腎臓で作られた尿を貯留する
  • 膀胱内に尿が溜まってくると膀胱の壁が伸びて圧力がかかることで尿意を覚える
  • 尿意を覚えると膀胱を収縮させて排尿する

以上が膀胱の主な機能です。

膀胱に尿が溜まって壁が伸張することで刺激を受けて尿意を覚えます。一方で、膀胱炎になると膀胱壁に炎症が起こっています。膀胱壁に起こった炎症は膀胱を刺激しますので、尿が溜まったときに起こる刺激があると同じように認識してしまう場合があります。すると、排尿したあとに膀胱内に尿がなくなっても、膀胱の刺激が残って残尿感を覚えます。

どうして頻尿になるのか

頻尿も残尿感と同じ原因で起こる症状です。膀胱炎で生じる膀胱の炎症が尿が溜まっている感覚を引き起こします。そのためどんなに排尿してもまた尿をしたくなってしまいます。また、膀胱から尿が尿道口へと移動することの刺激が排尿したい気持ちを引き起こすこともあります。

残尿感や頻尿といった尿トラブルがあると、イライラしたり集中力が低下したりします。何度もトイレに行くのも一苦労です。膀胱炎の尿トラブルを感じたときにはどうしたら良いのかわからず困ることも多いと思います。

残尿感や頻尿を感じたらどうやって生活すると良い?

残尿感や頻尿が起こるとトイレに行く回数が増えます。そのため水を飲まないようにする人がいます。しかし、これは逆効果になります。

膀胱炎の原因の多くは細菌感染です。膀胱の中で起こる感染を抑えるためには、膀胱内がきれいであることが大切です。つまり、膀胱内の細菌の数を減らすと膀胱炎が治まりやすいのです。膀胱には排尿で膀胱内の細菌を排出する防御機構があります。そのため尿をたくさん出すことは膀胱炎を治す上で理にかなった行為です。

残党感や頻尿を覚えた場合には以下のことを気をつけてください。

  • 排尿を無理に我慢しない
  • 水をたくさん飲んで尿量を増やす

ただし、水をたくさん飲まないように医者から注意されている人は注意が必要です。例えば透析を定期的に受けている人や心不全のある人は飲水制限があることが多いです。膀胱炎になったら生活に関してもお医者さんに相談するようにして下さい。

3. 排尿時痛と膀胱炎:尿をしたら痛みが走ることで気づく現実

膀胱炎になると残尿感を感じやすくなり排尿回数が増えます。トイレに行ってみると痛みや熱感を覚えたことはないでしょうか。膀胱炎になると排尿時痛をしばしば経験します。

どうして排尿時の痛みや熱感は現れるのでしょうか。

尿をすると痛い膀胱炎

排尿時の痛みや熱感の原因は膀胱に起こっている炎症です。炎症が膀胱の壁を過敏にさせるため、痛みや違和感を感じやすくします。

排尿するときに膀胱内の尿を押し出すために膀胱は収縮します。尿を押し出す際には膀胱壁に圧力がかかるため、膀胱炎で過敏になってる場合には痛みを覚えることがあります。排尿時痛が続く場合は、膀胱炎がある可能性が高いですので医療機関を受診したほうが良いです。

しかし、人それぞれで症状の感じ方は異なります。膀胱炎になってもあまり排尿時痛を感じない人もいるので注意が必要です。

尿をしても痛みを感じない膀胱炎

膀胱に炎症があっても特に排尿時に違和感や痛みを感じない人がいます。膀胱炎になったら膀胱に炎症が起こるのですが、こうした人は膀胱壁が過敏になっても違和感や痛みを感じません。他に血尿や尿の混濁、発熱などの症状が出ることはありますが、全く症状が出ないこともあります。

また、無症候性細菌尿という状態があります。これは尿の中に細菌は存在するのですが、全く症状が現れないことを指します。無症候性細菌尿は尿の中に細菌は存在するけれども感染が起こっていない状態も含みます。多くの場合は抗菌薬治療をすることなく様子を見ることになります。(ただし、妊婦や泌尿器系手術を受ける前の人は治療します。)また、腎結核などの特殊な感染が背景に存在することがありますので、細菌検査などの原因を調べる検査は行うべきと思われます。

症状の出にくい人が膀胱炎が起こっていることに気づくことは簡単ではありませんので、何か違和感があったりそれらが続く場合には受診して検査を受けるようにして下さい。

4. 発熱と膀胱炎:膀胱炎だと思っていたら熱が出てきた

膀胱炎で発熱することはあまり多くありません。もちろん膀胱炎で発熱することはあるのですが、膀胱炎を疑う症状が出ている際に発熱が起こったら病状の進行を考える必要があります。具体的には、以下の感染が関与している可能性があります。

感染症で全身が炎症の影響を受けた状態を敗血症と言います。少し難しくなりますがSIRS(サーズ、全身性炎症反応症候群)という全身が炎症に冒されている状態があります。感染症によってSIRSが起こった状態が敗血症と考えます。SIRSは以下の4つの項目のうち2つ以上が該当する場合に診断されます。

【SIRSを診断する際に用いる項目】

チェックする項目 基準
体温 38度より高いあるいは36度未満
脈拍数 1分間に90回より多い
呼吸数 1分間に20回より多い呼吸数あるいは動脈血中の二酸化炭素濃度が32Torr未満
白血球 12,000/mm3より多いあるいは4,000/mm3より少ないあるいは幼若好中球数が全白血球数の10%より多い

つまり、膀胱炎と思っていたところに発熱が見られたらSIRSの関与を考えるため、以下の症状がないかを確認して下さい。

  • いつもより脈が速い(数えられれば10秒に15回より早いペースで脈があるかを確認する
    • アンパンマンマーチのリズムを参考に考えて、それより脈が早いとおかしいと考える
  • 動悸がする
  • 呼吸が荒い
    • 肩で息をする
    • 息をすると鎖骨の上や肋間がへこむ
    • どんなに呼吸をしても息苦しそう
  • ぐったりしている
  • 意識がはっきりとしない

これらの症状がある場合は感染が重症になっている可能性があるので、医療機関にかかって検査をしてもらいましょう。

5. 血尿と膀胱炎:尿が赤い原因は!?

膀胱炎で尿が赤くなることがあります。膀胱炎になると膀胱壁に炎症が起こり、充血・出血することによって血尿が出ることがあります。

血尿が出た場合は、膀胱炎のオッズ(オッズは確率とは異なりますが、確率が高くなるとオッズは高くなります。)がおよそ2倍になるというデータがあります。(JAMA. 2002 May 22-29;287(20):2701-10.)しかし、いくらオッズが2倍になるとはいえ、血尿が出たから膀胱炎があると直線的に考えることは難しいです。血尿は膀胱炎以外でも起こります。例えば、尿管結石や糸球体腎炎腎がん膀胱がんでも血尿が出ます。また、これらは放っておいて治る病気ではありませんので、血尿が見られた場合は精密検査を受ける必要があります。一方で、先ほどのデータを見ると、血尿がなくても膀胱炎は否定できません。(参考:陰性尤度比=0.9)そのため、「排尿時に違和感や痛みがあるけれど、血尿がないから膀胱炎ではない」とは言えないので注意が必要です。

6. 腹痛と膀胱炎:腹痛の原因は膀胱の炎症だった?

膀胱炎になると腹痛が出ることがあります。腹痛というと胃腸炎や虫垂炎の症状というイメージがありますが、膀胱炎による腹痛も起こりうる症状です。

下痢がないのに腹痛が続いているので検査をして調べてみると膀胱炎だったというパターンは多くの医師が経験するところです。膀胱炎と腹痛はどのくらい関係性のあるものなのでしょうか。

腹痛が出たら膀胱炎なのか?

膀胱炎で腹痛が出ることがありますが、出ないことも多いです。腹痛があるからと言って膀胱炎だとは言えませんし、腹痛がないからと言って膀胱炎がないとは言えません。腹痛の中でも特に下腹部痛が出やすいですが、下腹部痛に限ってもあまり状況は変わりません。下腹部痛がある場合のオッズはほとんど変わらないというデータがあります。(JAMA. 2002 May 22-29;287(20):2701-10.)膀胱炎の診断には、腹痛も下腹部痛もあてにならないということになります。

膀胱炎は下腹部を押すと痛い?

膀胱炎の腹痛や下腹部痛は膀胱の炎症が原因で起こります。腹痛や下腹部痛の自覚よりももっと鋭敏に症状を判断するために、下腹部を押してみるという手があります。下腹部を押すと膀胱に圧力がかかるため、膀胱壁の過敏状態がよりわかりやすくなります。しかし、この方法でも完全ではありませんので、膀胱炎を診断する上で参考とする程度と考えたほうが良さそうです。

7. 腰痛と膀胱炎:膀胱炎の炎症で腰が痛くなる?

田中さんは診察を受けています。お医者さんは田中さんの腰を叩いたり下腹部を押したりしながら全身をくまなく診察していきます。

腰を叩きながらお医者さんは「痛くないですか?」と聞きました。田中さんは特に異常を感じなかったので「痛くありません」と答えました。

それからお医者さんは全身を診察しながら「寒気や震えを感じますか?」と聞きました。田中さんは「寒気も震えもありません」と答えました。

膀胱炎になると腰痛が出ることがあります。また、脇腹(側腹部)が痛むこともあります。腰痛をより明確にするために、背中を拳で軽く叩くことで痛みの誘発(腰部叩打痛)があるかないかをチェックすることがあります。

しかし、これらの痛みは膀胱炎に特徴的な痛みではありません。腰痛や背部痛があろうとなかろうと膀胱炎の診断を決定づけることはできません。これらは腎臓や尿管(腎臓と膀胱をつなぐ尿の通り道)に炎症がある場合に感じられやすい痛みであるため、どちらかというと膀胱炎が進行した腎盂腎炎(じんうじんえん)で現れやすいです。

膀胱炎と腎盂腎炎は同じ尿路の感染症ですので症状は似ていますが、異なる部分も多いです。この2つの感染症を考える際には、以下の3点には特に注目が必要です。

  • 感染している部位が違う
  • 重症度が違う
  • 合併症が違う

これらについて説明を補足していきます。

膀胱炎と腎盂腎炎の感染部位の違い

腎臓で尿が作られてから尿管を通って尿は膀胱に貯留されます。

尿路の解剖のイラスト。尿は腎臓から尿管を通って膀胱に送られ、尿道から排泄される

腎臓の一部である腎盂(じんう)で感染が起こった場合を腎盂腎炎といい、膀胱で感染が起こった場合を膀胱炎といいます。尿の流れから考えると、膀胱よりも腎臓のほうがより上流に位置していますので、腎盂腎炎のほうがより身体の深部で起こった感染となります。

膀胱炎と腎盂腎炎の重症度の違い

膀胱炎よりも腎盂腎炎のほうが重症です。腎盂腎炎では重症の症状が出やすいことに注意が必要です。膀胱炎で発熱することはあまり多くはありませんが、腎盂腎炎では高熱が出ることも少なくありません。また、腎盂腎炎になると悪寒戦慄(寒気とふるえ)という非常に危険な症状が出ることもあります。

【膀胱炎と腎盂腎炎の違い】

  膀胱炎 腎盂腎炎
発熱 あまり出ない 出やすい
悪寒 出ることはほとんどない 出やすい
戦慄(ふるえ) 出ることはほとんどない 出やすい
排尿時の違和感 出やすい 出やすい
背部痛 あまり出ない 出やすい

同じ尿路感染症に分類される膀胱炎と腎盂腎炎ですが、症状からどちらが存在しているのか推定することができます。上の表を参考にして下さい。特に、高熱が出る場合や悪寒戦慄がある場合には、医療機関にかかることをおすすめします。

膀胱炎と腎盂腎炎の合併症の違い

膀胱がん前立腺肥大症などによって膀胱炎になることはありますが、膀胱炎によって合併症が生じることはあまりありません。

しかし、腎盂腎炎の場合は、腎盂腎炎が原因となって合併症を生じることがあります。特に血液中に細菌が侵入する状態(菌血症)の合併には注意が必要です。菌血症は非常に重症な感染症です。抗菌薬治療が必須ですので、必ず医療機関を受診する必要があります。症状や状況から腎盂腎炎を疑った場合は、お医者さんの診察を受けるようにして下さい。