出血性膀胱炎とは?症状、原因、治療、予防について
膀胱に
目次
1. 出血性膀胱炎の症状は?
出血性膀胱炎の症状の一つは血尿です。血尿は少し尿が濃くなったとしか見えないものからワイン色のように明らかに血尿だとわかるものまでその程度はさまざまです。出血性膀胱炎では排尿に関係した症状をともないます。
出血性膀胱炎の血尿がひどくなると膀胱タンポナーデという状態に陥ります。膀胱タンポナーデは膀胱内に血液のかたまりができて排尿ができなくなることです。膀胱タンポナーデの状態に陥ると緊急の処置が必要です。膀胱タンポナーデについての詳細は後述します。
症状は軽症な場合と出血が多い場合で異なります。
初期症状または出血が軽度な場合として以下の症状が出ることがあります。
- 血尿:尿の中に血が混じって変色する
- 排尿時痛:排尿時に痛みが現れる
頻尿 :トイレ(排尿)の回数が増える- 尿意切迫感:とても強い尿意を感じたり排尿後にも関わらず尿意を自覚したりすることがある
残尿感 :尿が出きっていない感じがある
出血がかなり多い時(膀胱タンポナーデ)には以下の症状を自覚することがあります。
- 血尿:ワイン色の血尿や血の塊が出る
- 腹痛:下腹部を中心に持続的な痛みが出る
- 尿閉:尿が出なくなる
どうして膀胱から出血するのか?
膀胱は血流の多い臓器です。膀胱の壁には多くの細い血管が張り巡らされています。放射線や薬剤、感染などの影響で血管が脆くなり出血すると考えられています。
出血量が多くなると膀胱の中で血液の塊ができます。血液の塊は、膀胱の出口を塞いだりして尿が出なくなる原因となります。
尿を出せなくなると膀胱の中には尿が溜まり続けて膀胱が正常な範囲を超えて膨らみます(過伸展)。放射線や薬剤、感染などの影響で血管が脆くなっている膀胱に過伸展が起きると、脆くなっている膀胱の血管に傷がつきます。するとさらに出血しやすくなるため症状がひどくなるという悪循環に陥ることがあります。
出血性膀胱炎に伴いやすい症状:残尿感、頻尿、痛みなど
出血性膀胱炎では、初期症状や軽度な場合の症状と、出血がかなり多いときの症状が違っています。それぞれに分けて解説します。
出血性膀胱炎の初期症状は、肉眼的血尿(見た目で判断できる血尿)や頻尿、排尿痛などです。血尿の原因は膀胱の表面の血管が破れることです。出血しているときには膀胱の壁に傷がついています。傷ついた膀胱に尿の刺激が伝わると排尿痛や頻尿などの症状が現れます。
出血がひどい場合は、膀胱タンポナーデという状態に進行します。以下の順序で膀胱タンポナーデは起こります。
- 出血量が多い影響を受けて、血液が膀胱の中で固まって時間とともに大きくなる
- 大きくなった血液の塊が膀胱から尿を出せなくさせる
- 尿をうまく出せなくなっても、尿は作られ膀胱へ運ばれ続ける
- 膀胱は正常範囲を超えて大きくなる
- 正常範囲を超えて大きくなった膀胱の壁は異常に引き伸ばされて血管が破れ、出血が悪化する
- 出血がひどくなることで血液の固まりはさらに大きくなり膀胱タンポナーデも悪化する
出血性膀胱炎と診断されている人の尿が突然出なくなった場合は必ず泌尿器科や救急科にかかるようにして下さい。
2. 出血性膀胱炎の原因は?
出血性膀胱炎の主な原因は感染や薬の副作用、放射線などですが、その他にもさまざまなことが原因になることがあります。
- 薬剤:
抗がん剤 や免疫 抑制剤を使っているまたは使ったことがある人 放射線治療 :骨盤部に放射線治療を受けたことのある人- ウイルス感染:
アデノウイルス など出血を起こしやすいウイルスに感染している人 - 高齢者
- 出血しやすい人
- 生まれつき(先天的)
- 血液を固まりにくくする薬を使っている
- 肝臓の機能が悪い
慢性的 に尿路感染がある人- 排尿をコントロールする神経の機能が落ちている人(神経因性膀胱など)
- 糖尿病のある人
- 尿路結石のある人
膀胱から出血が起こった場合には、これらの原因となりうるものの存在がないかを確認する必要があります。
出血性膀胱炎の原因:薬剤
出血性膀胱炎の原因になる主な薬剤として以下のものが知られています。
- 抗がん剤
- シクロホスファミド(エンドキサン®)
- イホスファミド(イホマイド®)
- ブスルファン(ブスルフェクス®)
- 漢方薬
- 柴苓湯(サイレイトウ)
- 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
- 柴朴湯(サイボクトウ)
- ペニシリン系
抗菌薬 - アモキシシリン(サワシリン®など)
- アンピシリン(ビクシリン®など)
- ピペラシリン(ペントシリン®など)
- ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
- ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
- 抗
アレルギー 薬- トラニラスト(リザベン®)※
※トラニラストはアレルギー疾患治療薬の他、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療薬としても使われる場合があります。
この中で注意が必要なのはシクロホスファミドとイホスファミドです。
シクロホスファミドは抗がん剤としても免疫抑制剤としても使われることがあり、多発性骨髄腫や悪性リンパ腫、急性白血病、腎移植後などの治療に用いられます。イホスファミドは精巣腫瘍や骨肉腫などに対して使う抗がん剤です。
多くの薬は体の中で
参考文献
・日本臨床.2012;70:432-437
・Stillwell TJ, et al. Cyclophosphamide-induced hemorrhagic cystitis. A review of 100 patients. Cancer. 1988;61:451-7
・Stillwell TJ, et al. Cyclophosphamide-induced hemorrhagic cystitis in Ewing's sarcoma. J Clin Oncol.1988;6:76-82.
出血性膀胱炎の原因:感染(ウイルス・細菌)
ウイルス感染はまれに出血性膀胱炎の原因になります。
ウイルス性の出血性膀胱炎はアデノウイルス(11、21、34、35型)によるものが最も多く、小中学生の男子や
ウイルス性の出血性膀胱炎は、突然赤い出血が出ることや頻尿、排尿痛、感冒症状(発熱、
細菌感染でも出血性膀胱炎は起きますがここでは割愛します。細菌性膀胱炎は「膀胱炎とはどんな病気?原因、症状、治療法など」を参考にしてください。
出血性膀胱炎の原因:放射線
前立腺がんや子宮
放射線が膀胱に当たると膀胱の粘膜が傷害され、放射線性の出血性膀胱炎が起きます。放射線を原因とした出血性膀胱炎は治療が難しいです。治療は、
出血性膀胱炎の原因:高齢者
加齢を重ねると膀胱の壁が薄くなったり血管がもろくなります。加齢による膀胱の変化は血尿の原因になることがあります。
出血性膀胱炎の原因:出血しやすい人
生まれつき血液の凝固因子(血を固める成分)の異常をもつ人で出血性膀胱炎が起こることがあります。血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人や肝臓の機能が悪い人も一度膀胱に炎症がおきて出血するとなかなか血を止めることができません。
出血性膀胱炎の原因:慢性的に尿路感染がある人
慢性的に尿路感染症を抱えている人は膀胱の中に日常的に炎症が起きています。慢性的な炎症は出血性膀胱炎の原因になります。慢性的な尿路感染は細菌を原因とすることが多いので適切な
出血性膀胱炎の原因:神経因性膀胱
神経因性膀胱は、膀胱を縮ませたり広げたりする司令を出す神経や膀胱に尿がたまったことを脳に知らせる神経の機能が低下する病気です。神経の働きが弱くなっているので過剰な尿が膀胱にたまることがあり、膀胱は引き伸ばされて膀胱の壁が薄くなったり脆くなったりすることがあります。脆くなった膀胱は出血性膀胱炎を起こしやすくなります。
神経因性膀胱による出血性膀胱炎を起こさないようにするには過剰に尿がたまらないようにすることが有効です。神経因性膀胱の主な治療は以下のものになります。
- 薬物療法
- 時間排尿:排尿する時間をきめて排尿間隔を一定にする
- 間欠的自己導尿:自分で尿を出す管を挿入して管から尿をだす
神経因性膀胱は初期の段階ではわからないことが多いです。最近尿がたまるのがわかりにくい、尿の勢いが弱いなどの症状がある人は一度泌尿器科を受診して調べてもらうことが望ましいです。
出血性膀胱炎の原因:糖尿病のある人
重い糖尿病が長期間に渡り続くと血管がもろくなります。膀胱の血管がもろくなるとちょっとした影響で出血してしまい出血性膀胱炎が起こります。
また糖尿病がある人はウイルスや細菌などへの抵抗力が下がっているので感染が原因で出血性膀胱炎を起こすことがあります。
出血性膀胱炎の原因:尿路結石のある人
尿路結石症で特に膀胱結石のある人はその刺激で膀胱内に慢性的な炎症が起きています。このために炎症が強くなったり結石によって膀胱の壁に傷がついたりすると出血性膀胱炎が起こることがあります。
3. 出血性膀胱炎の検査は?
出血性膀胱炎の検査は血尿の程度や出血している場所、膀胱の状態を確認することが重要です。これらを判断するためにいくつかの検査を用います。
血液検査
血液検査では出血の程度を推測します。血液検査は血尿の原因の推定や体の状態(肝臓の機能や腎臓の機能)を把握することにも役立つことがあります。
腹部超音波検査
血尿は膀胱がんや
膀胱鏡検査
膀胱鏡検査は膀胱鏡という内視鏡を使う検査です。
膀胱の中を
4. 出血性膀胱炎の治療は?
出血性膀胱炎の治療はまず出血の状態を把握することと止血をすることから始まります。止血の方法にはいくつか種類があり血尿の程度を観察しながら適したものを選びます。軽症なときには
尿道カテーテル
尿道カテーテルは排尿のための管です。血尿の症状が重い時に挿入されます。
膀胱からの出血量が多いと膀胱の中が血液の塊で充満するような状態にまでなることがあります。これを膀胱タンポナーデといいます。膀胱タンポナーデになると排尿ができなくなることがあります。尿を体の外に出すために外尿道口(尿の出口)から管を膀胱まで入れて排尿の道を確保します。
膀胱洗浄
膀胱洗浄は膀胱に入れた管(尿道カテーテル)から血液の塊などを回収する方法です。
管に大きなシリンジ(注射器の筒の部分)を付けて膀胱の中に水(生理食塩水)を入れたり出したりして血液の塊を体の外に出します。
膀胱洗浄を数十回した後の尿の色が正常に近くなれば出血はとまっていると判断できます。膀胱洗浄をしても濃い血尿が続くときには出血が続いていると判断して膀胱持続灌流や手術などを行います。
膀胱持続灌流(ぼうこうじぞくかんりゅう)
膀胱持続灌流は膀胱内に血液の塊ができないようにする目的があります。膀胱の中に血液の塊ができると膀胱タンポナーデという状態に陥ります。膀胱タンポナーデになるとさらに出血が起きて危険な状態になります。
膀胱持続灌流は膀胱の中を持続的に洗浄することで膀胱の中に血液の塊ができるのを防ぎます。
膀胱持続灌流は尿道カテーテルを利用して膀胱の中に水(生理食塩水)を注入してそれを尿道カテーテルから排出することを持続的に行います。
内視鏡手術:経尿道的止血術(Transurethral coagulation)
出血が激しいときには内視鏡手術で止血をします。膀胱内に内視鏡を入れて出血している場所を電気メスで焼くことで止血することができます。
高圧酸素療法(こうあつさんそりょうほう)
高圧酸素療法は大気圧より高い気圧環境で酸素を吸入する治療です。高い気圧環境の中で酸素を吸入すると全身で低酸素状態が改善して、体の傷などを治す力が高くなります。
高圧酸素療法はどの施設でもできる治療ではなく限られた施設でしか出来ない治療です。内視鏡で止血をして後に再び出血する可能性がある場合の予防的な治療です。
参考文献
・宮里朝矩, 他. 放射線性出血性膀胱炎 に対する高気圧酸素治療の臨床的検討. 日泌会誌.1998;89:552-556
カテーテル治療
内視鏡手術を行っても膀胱からの出血が止まらない場合は
手術
ほかの治療で効果が不十分な場合などは出血している膀胱を摘除し尿の出口を作り直す手術を検討することがあります。尿の出口を新しくつくる手術を尿路変更術といいます。尿路変更術の方法には、腸を使って人工肛門のようにして尿をお腹から出す方法や腸を膀胱のように形成して膀胱の代わりとする方法などがあります。
膀胱の摘出や尿路変更術はかなり大がかりな手術になります。このため他の治療を再び試すか手術を行うかどうかは慎重な判断が求められます。手術が必要になる人はまれです。
5. 出血性膀胱炎を予防するにはどうすればいい?
出血性膀胱炎の原因は様々です。原因によっては予防が難しいものもありますが、可能なかぎり予防に有効と考えられる方法を説明します。
薬剤が原因の場合の予防
薬が原因の出血性膀胱炎は水分をしっかりと摂取することが予防に有効です。薬剤性の出血性膀胱炎は尿に排泄された薬の影響で膀胱粘膜が傷つくことが原因です。尿中の薬の濃度が高いほど膀胱粘膜への影響が強くなります。尿を薄めることで薬の膀胱粘膜への影響を少なくすることができます。尿を薄くするにはしっかりと水分を摂取して尿量を増やすことです。
出血性膀胱炎が起こる可能性がある薬を使っている場合は水分の摂取が重要です。
放射線が原因の場合の予防
放射線性膀胱炎の予防は難しいので症状がでた場合に早めに受診をして悪化させないことが大事です。放射線治療から数年たって起きることもあるので注意が必要です。
感染が原因の場合の予防
細菌感染やウイルス感染でも出血性膀胱炎が起きることがあります。感染を完全に防ぐことは難しいので、頻尿や排尿時痛の症状が現れて膀胱炎が疑われるときには早めに医療機関を受診して治療を開始することが大事です。また膀胱炎になった後には飲水量をしっかりと増やして尿量を増やすことも大事です。
神経因性膀胱が原因の場合の予防
神経因性膀胱で出血性膀胱炎があらわれるのはかなり進行したときです。神経因性膀胱をできるだけ早期に治療することが出血性膀胱炎の予防になります。
糖尿病が原因の場合の予防
糖尿病をしっかりと治療することが予防になるかもしれません。糖尿病で
尿路結石が原因の場合の予防
尿路結石のうち特に膀胱結石が出血性膀胱炎の原因になります。膀胱結石を治療することで出血性膀胱炎は予防できます。
6. 出血性膀胱炎が疑われるときにはどうすればいいのか?
血尿などの症状が現れて出血性膀胱炎が疑われるときにはどうすればいいのでしょうか。
軽症であるならば時間がたっても症状は変わらないことが多いです。一方で重症化して受診される人も多くいます。症状が現れた時点では重症化するかどうかの予想はつきません。「尿が濃い気がするな」、「血が混ざっていたかもしれない」など少しでも心配なことがあるのであれば速やかに医療機関を受診して原因を調べることが大事です。