じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 197回の改訂 最終更新: 2018.07.20

腎がん(腎細胞がん)の手術:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術など

腎がんの治療は手術が主体です。手術の方法にはいくつか種類があり、がんの大きさや場所などによって最も適したものが選ばれます。また腎がんは転移を起こしていても転移したがんを切除することで、完治できる人もいます。

1. 腎がんの手術の種類

腎がんの手術にはいくつの種類があります。
次のような術式の中から身体の状態やがんの状態を鑑みて最も適したものが選ばれます。

  • 腎部分切除
  • 根治的腎摘除術
  • 腫瘍栓摘除を伴う腎摘除術
  • 転移巣の摘除

これらからはそれぞれの手術について説明していきます。

2. 腎部分切除術:腎がんとその周りを切除する方法

近年、超音波検査などの画像診断が普及したことにより腎がんは小さな状態で発見されることが多くなりました。以前は小さながんに対しても腎臓を丸ごととる根治的腎摘除術が行われていましたが、小さな腎がんが増えたことで、以前は一般的ではなかった腎がんとその周りを切り取る「腎部分切除」が積極的に行われるようになりました。なぜ腎部分切除が積極的に行われるようになったのでしょうか。
次に腎部分切除のメリットについて説明します。


腎部分切除のメリット

腎部分切除のメリットは腎臓を残すことができることです。
人間の身体に腎臓は2つあります。片方の腎臓をとっても多くの人は特に問題を起こさずに過ごすことができると考えられてきました。しかし、近年の研究で腎臓の機能が低下すると、腎臓の働きは保てていたとしても、心臓や血管の病気を増加させることもわかってきました。このため、現在では、腎がんであっても腎臓を残せるのであればなるべく腎臓を残す方がよいと考えられています。この考えが、腎部分切除が積極的に行われる背景の1つになっています。

では次に実際の手術について説明します。

腎部分切除の実際

下の図は腎部分を模式的に表したものです。赤いそら豆のような形をしたものが腎臓で、黄色い部分ががんとして描かれています。

図:腎がんの手術の説明イラスト。

 

腎部分切除は腎がんを正常組織の一部とともにくり抜き、くり抜いた後クレーターのようになった腎臓を縫い合わせる手術です。腎臓は血流がとても多い臓器です。血流が多い臓器をくり抜くのは多くの出血をともないます。
このためできるだけ出血を少なくするような工夫をする必要があります。その工夫はがんの部分をくり抜いている間、腎臓の血流を一時的に止めることです。腎臓への血流がなくなるとがんを取り除く際の出血は少なくて済みかつ、確実に縫い合わせることができます。

とはいえ、腎部分切除も万能な方法ではありません。後述しますが、あまりにも大きな腎がんの場合は部分切除が行えません。腎臓を広く深く切り取ろうとするとと大きな血管を切らざるをえないことがあり、止血が十分に行えないことがあるからです。止血が不十分では当然手術は終えることはできないですし、生命に危険が及びます。腎部分切除が予定されても止血が不十分だと判断された場合には、手術の内容が腎臓を丸ごと取り除く根治的腎摘除術に変更されます。

では、次にどんな人に腎部分切除が行えるのか説明します。

腎部分切除がどんな人にできるのか

腎部分切除術が適しているのは腎がんが次のような条件を満たしている人です。

  • 大きさが4cm以下である
  • 腎臓から外に飛び出ている
  • がんと正常な部分の境界がはっきりしている

がんが小さくて腎臓から飛び出しているほど取り除くのは簡単になります。とはいえ、上の条件をすべてを満たす人は少ないです。このため、腎部分切除が行えるかどうかは、一人ひとりのがんの状態をしっかりと評価した上で判断されなければなりません。「腎部分切除が行えるかどうか」や「腎部分切除の難しさ」を客観的に判断するために「R.E.N.A.L Nephrectomy score」という方法が臨床現場ではよく用いられるの説明します。少し専門的な内容を含んでいるので、ここの飛ばしても理解の妨げにはなりません。
R.E.N.A.L Nephrectomy scoreは腎がんに表のとおり点数をつけます。

【R.E.N.A.L Nephrectomy score】

点数 1点 2点 3点
腎がんの大きさ 4cm以下 4cmより大きく7cm未満 7cm以上
腫瘍が埋まっている程度 半分以上突出している 半分を超えて埋まっている 完全に埋まっている
腎洞との距離 7cm以上離れている 4cmを超えて離れているが7cm未満 4cm以下
腫瘍の位置
お腹側/背中側
記載のみ、ポイントなし 記載のみ、ポイントなし 記載のみ、ポイントなし
腫瘍の位置
縦方向の位置関係

腫瘍が腎臓の上の方または下の方にあり、Polar lineはまたがない

腫瘍がPolar lineと交叉する

腫瘍の半分以上がPolar Lineの内側

または

腫瘍が腎臓の真ん中に線を引いた場合交差する

または

腫瘍が完全にPolar Lineの内側にある

参考:J Urol 2009;182:844-853

R.E.N.A.L Nephrectomy scoreは3から9点の間で点数が付けられます。得点が高いほど腎部分切除は難しいです。つまり、腎部分切除を予定した場合でも、止血ができなかったり、腎臓の修復ができなかったりして、腎臓をまるまるとる手術(根治的腎摘除術)に変更される可能性が高くなります。

腎部分切除は根治的腎摘除術と違って腎臓を残すことができます。
可能であるならば、みな腎部分切除で手術を終えたいものです。しかしながら、腎部分切除はすべての人に行えるわけでではありません。反対に、R.E.N.A.L Nephrectomy scoreの得点が高い場合には腎部分切除を選ぶのではなく、最初から腎臓を全てとる手術(腎摘除術)を選ぶ基準にもすることもできます。

腎部分切除の方法:開腹手術、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術、ロボット支援手術

腎部分切除は開腹手術、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術、ロボット支援手術の3つの方法で受けることができます。それぞれの特徴について説明します。

■開腹手術

お腹を大きく切る手術です。お腹の切り方にはいくつかの方法があります。

  • 経腹膜的到達法
    • 肋骨弓下切開
    • 正中切開 
  • 経腰的到達法
    • 腰部斜切開

お腹の切り方で少し腎臓への到達の方法が異なります。腰部斜切開では骨を少し切断しなければいけない場合があります。
どの手術でも行うことは同じです。これらの方法は腎がんができた位置によって最適なものが医師によって選ばれます。残る傷がどの位置になるかが気になる人は手術の前に聞いてみてください。

■腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、お腹にいくつかの穴を開けそこから内視鏡と鉗子(かんし)と呼ばれる長い道具を挿入し手術を行います。内視鏡は胃カメラのようなものですが、胃カメラよりは太く手術用に作られています。

お腹に穴をまずひとつ開け二酸化炭素を注入してお腹の中を膨らませます。お腹をふくらませることにより手術をする空間ができます。そこから内視鏡を挿入して、お腹のなかを観察します。内視鏡で観察した状態はテレビの画面に映し出されます。その後、お腹にいくつか鉗子を挿入するための穴を開けます。穴が全て開いたところで鉗子という器具を挿入し、お腹のなかでの操作を行います。鉗子の先はマジックハンドのようになっており、ものを切ったり掴んだりができます。
腹腔鏡手術は開腹手術より拡大した視野で手術を行えることは利点の一つです。

後腹膜鏡手術(こうふくまくきょうしゅじゅつ)は腹腔鏡手術とほとんど同じですが、より背中側に穴を開け腸管に影響しない方法で腎臓に到達し手術を行います。腹腔鏡手術に比べるとやや作業をする場所が狭いという違いはありますが、大きな違いはないと考えください。医療機関によっては厳密に腹腔鏡と後腹膜鏡を分けていることもありますが、手術の内容には大差はありません。腫瘍の位置によって腹腔鏡で行うか後腹膜鏡で行うかを決められます。

腹腔鏡手術にしても後腹膜手術にしても手術の内容は開腹手術と変わりません。がんを腎臓の一部とともに切除し、切除した部分を縫い合わせます。縫い合わせる作業は開腹手術より難しいです。このため、腎がんが大きな場合や埋もれている場合は開腹手術が適していると判断されることがあります。

■ロボット支援手術

ロボット手術

© [2016] Intuitive Surgical, Inc.  (CC BY-SA 3.0)

正式名称はロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術といいます。ロボット手術は泌尿器科医により行われる前立腺全摘除術でも保険適応となっています。腎部分切除術は2016年に保険適用になりました。

ロボット手術は、いわゆる人工知能が手術を行う訳ではありません。「da Vinci(ダヴィンチ)サージカルシステム」という名前のロボットを使って人間がロボットを操り手術を行います。上の図のように医師が離れた位置からロボットを操作します。
執刀医のコンソール(操作台)での指の動きに連動してロボットの先端が動きます。患者さんの近くには常に助手の外科医がいて手術のサポートを行います。

少し細かな話ですが、da Vinciは3機種あります。

  • da Vinci S
  • da Vinci Si
  • da Vinci Xi

新しい順にXi、Si、Sです。施設により導入している機械は異なります。手術の方法や治療の効果はどれを用いても変わることはありません。

ロボット手術のメリットとして以下が挙げられます。

  • 3Dの視野 
  • 自由なカメラワーク 
  • 多関節鉗子

ロボット手術は執刀医の手の動きに合わせてロボットが連動して動き手術を行います。ロボットの鉗子は人間より関節が多くあります。この多関節は人間の手の動きを忠実に再現し、時には上回る動きを可能にします。ロボット手術は腹腔鏡の利点に加えて、鉗子の先が自由に動くためにがんを切り取る場面や切り取った後に縫合する場面で人間の手の動きのように器用にできることが利点として考えられています。

手術で使用するロボットなどの特徴については「前立腺がんの手術とは?」でも詳しく説明しているので参考にしてください。

腎部分切除の手術成績

腎部分切除術は7cm以下の腫瘍に対して良好な治療成績を収めています。

  • 5年生存率(死因を腎がんに限った場合):約90-95%
  • 10年生存率(死因を腎がんに限った場合):約90%
  • 局所再発率:約4%

参考:
Eur Urol. 2008 Apr;53(4):732-42

腎臓を丸ごと摘除する根治的腎摘除術に比べて、腎部分切除術は腎機能を温存する点で優れており、がんを再発させないことに関しても遜色がないと考えられています。

部分切除後に再発をした場合は再度部分切除を行うかもしくは腎摘除術を行い根治を目指します。

腎部分切除術の合併症

腎部分切除術の合併症(手術によって引き起こされる問題)は腎摘除術(腎臓を丸ごと摘除する手術)とほとんど同じですが、腎臓の一部を切除して縫合するという作業のために腎部分切除に特有の合併症があります。

  • 尿(にょうろう)
  • 出血

それぞれの合併症について解説します。

■尿瘻

腎臓は尿を作る臓器です。
尿は腎臓の最も内側から流れています。腎臓に埋まったような腎がんに対して部分切除を行う場合はがんを完全に取り除くためにかなり深く切除しなければなりません。このため尿が流れる場所も含めて切除します。がんを取り除いた後、尿が漏れ出ないようにしっかりと縫合を行いますが、縫合が不十分な場合には手術の後に尿が縫い合わせた隙間から漏れ出る場合があります。これを尿瘻と言います。尿瘻が起こると腹痛などの症状が出ます。

尿瘻の治療は体の外から針を刺してお腹の中に溜まった尿を外へ出しす処置や内視鏡(膀胱鏡)を使って尿道から管を腎臓まで挿入する処置を行い自然に尿瘻が収まるのを待ちます。ごくまれなことですが、尿の漏れが多く待っても減少する傾向にない場合は再手術を行うこともあります。

■出血

腎臓はとても血流の多い臓器です。腎臓を縫合した所から出血を起こす場合があります。
多くは自然に出血はおさまりますが、ひどい場合には血管にカテーテルを挿入して腎臓の血管に止血目的で詰め物をしたり、ごくまれですが手術したりすることもあります。

 

3. 根治的腎摘除術とは?

腫瘍が大きく、腎部分切除で腫瘍が取りきれない場合には腎臓を全て切除する根治的腎摘除術を行います。根治的腎摘除術は腎臓と腎臓の周りの脂肪とゲロタ筋膜を切除する手術です。
手術の方法には開腹手術と腹腔鏡手術があります。

どのような手術か?

根治的腎摘除術には、開腹手術と腹腔鏡手術の2通りがあります。どちらの方法でも手術の内容は同じです。それぞれの方法について説明します。

開腹手術

腎がん_開腹手術の種類

開腹手術はお腹を切って手術を行います。腎臓は背中側にあるために、お腹側かも背中側からも腎臓の手術ができます。このため主に「経腹的到達法」と「経腰的到達法」の2つがあります。
またそれぞれでお腹の傷が少し異なります。
手術後に残る傷は気になる人がいると思いますので、代表的な方法を下に記載します。
かなり専門的な内容になるので、読み飛ばしても理解の妨げにはありません。

  • 経腹的到達法:お腹の正面を切って腎臓に到達する方法
    • 肋骨弓下切開(肋骨の約2横指足側を肋骨と並行にお腹を切開して手術を行います。縦ではなく斜めの切開になります)
    • 正中切開(お腹の真ん中を切開して手術を行います。)
    • L字切開、逆L字切開(お腹の真ん中を臍の少し上までまっすぐに切開しそのまま横方向にも切開します。大きな腫瘍に対して行われます)
  • 経腰的到達法:横腹を切って腎臓に到達する方法
    • 腰部斜切開(背中側から肋骨に沿って臍に向かって切開します)

腎がんの大きさを中心に最も適した方法が選ばれます。
手術後に残る傷が気になる人は医師にどのような傷になるかあらかじめ聞いてみてください。

腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術

腹腔鏡手術は、お腹にいくつかの穴を開けそこから内視鏡と鉗子(かんし)と呼ばれる長い道具を挿入し手術を行います。内視鏡は胃カメラのようなものですが、胃カメラよりは太く手術用に作られています。

お腹に穴をまずひとつ開け二酸化炭素を注入してお腹の中を膨らませます。お腹を膨らませることにより手術をする空間ができます。内視鏡を挿入して、お腹のなかを観察します。内視鏡で観察した状態はテレビの画面に映し出されます。その後、お腹にいくつか鉗子を挿入するための穴を開けます。穴が全て空いたところで鉗子を挿入し、お腹の中での操作を開始します。鉗子の先はマジックハンドのようになっており、切ったり掴んだりができるようになっています。

後腹膜鏡は腹腔鏡とほとんど同じですが、より背中側に穴を開け腸管に影響しない方法で腎臓に到達し手術を行います。腹腔鏡に比べるとやや手術をする場所が狭かったりという違いはあります。腫瘍の位置などで腹腔鏡で行うか後腹膜鏡で行うかを決めています。どちらで行っても再発率などは変わらないと考えられています。

合併症

根治的腎摘除術の合併症(手術に伴って起こる問題)で特徴的なものの例を挙げます。

  • 出血
  • 周囲臓器の損傷
  • 腸閉塞(ちょうへいそく)
  • 乳糜瘻(にゅうびろう)
  • 創部感染

 

■出血

腎臓は非常に血流が豊富な臓器です。腎がんが大きくなってきた場合、その血液量はさらに増加します。また腎がん自身が血管を作り出すので腫瘍には多くの血管があります。このため手術のちょっとした操作でも多くの出血をきたしてしまう可能性があります。このために手術中は細心の注意を払って手術を行っています。出血が多くなった場合には輸血が必要になることがあります。

■周囲臓器の損傷

腎臓は多くの臓器に囲まれています。腎臓の周りに小腸、大腸、肝臓、膵臓(すいぞう)、脾臓(ひぞう)があります。さらに腎臓の頭側では横隔膜という構造物があります。横隔膜は肺を囲う胸腔(きょうくう)とお腹側の腹腔(ふくくう)を隔てています。
腎臓を摘出する際にはこれらの臓器と腎臓を剥がす(剥離する)必要があります。その際には腎臓が周囲の臓器に癒着しているために腎臓を囲う臓器の損傷が起きる場合があります。

小腸・大腸を損傷した場合は、損傷した部位が治るためにある程度時間が必要なので、手術後に食事を開始する時期が遅くなることがあります。また損傷が激しい場合には、傷ついた腸を切り取ってつなぎ直すこともあります。
脾臓は止血が難しい臓器の一つです。止血が十分に行えない場合は、脾臓の摘出を余儀なくされる場合があります。
膵臓を損傷した場合は、消化液である膵液が漏れ出てきます。稀ですが膵液の漏れが多いときにはお腹に管を長期間入れて置くことがあります。
横隔膜を損傷した場合の多くは手術中に縫合し、肺を十分に膨らませることが可能です。しかしながら、まれですが肺の虚脱(しぼむこと)が大きいときにはしばらく胸に管を入れておくことがあります。

 

腸閉塞
腸閉塞にはいくつかの種類があります。開腹手術を行うこと手術の後に腸の動きが悪くなることが知られています。これを麻痺腸閉塞イレウス)といいます。ほとんどの人は食事を少しの期間中止して腸を休ませることで改善します。
腸閉塞の症状はお腹が張ったり、腹痛や吐き気を生じることがあります。入院中にこれらの症状を感じた場合には、医師や看護師に伝えてください。

 

■乳糜瘻(にゅうびろう)
左の腎臓の血管の周囲には、リンパ管が集合し乳糜槽(にゅうびそう)というリンパ管の集合体を形成しています。乳糜槽へ流入するリンパ管は多くの脂肪を含みます。手術で乳糜槽が部分的に開放されている場合は、脂肪を多く含んだリンパ液が漏れ出ます。これを乳糜瘻(にゅうびろう)と言います。
乳糜瘻は手術の後数日で起きることが多いです。軽度な場合は食事に含まれる脂肪を少なくすることで対応が可能です。乳糜瘻は数日で改善することが多いです。乳糜瘻の量が多い場合に、ソマトスタチンという薬を投与することで改善をはかります。

Eur Urol.2002;41:220-222

 

■創部感染
お腹の傷に細菌がついて、むことです。手術中開始から創部感染の予防のために抗菌薬が投与されていますが、一定の割合で創部感染が発生します。創部を開放して膿を出すことや抗菌薬によって治療されます。創部感染の発生は糖尿病の人や免疫が弱まっている人などに起こりやすい傾向にあります。傷の深さにより治療期間や治療方法が異なります。

4. 腫瘍栓を伴う腎がんの手術

腎がんは進行すると血管(静脈)に入り込み、血管の中でどんどん大きくなることがあります。血管の中で大きくなったがんを腫瘍栓(しゅようせん)といいます。腫瘍栓は転移ではなく、腎がんとひとつながりになっています。腫瘍栓と同時に腎臓を摘出することができればがんを体からなくすこと(根治)が可能な場合があります。

腫瘍栓とは?

腫瘍栓は腎がんや肝がんに特徴的なものとして知られています。少しわかりにくいと思いますので、下の模式図をまずみてください。

がんは進行すると、血管の中に入り込むことがあります。多くのがんはそこでちぎれて遠い場所へ転移を起こします(血行性転移)。
腎がんでも血行性転移はありますが、腎がんは進行して血管(静脈)に入り込み、血管の中でどんどん大きくなることがあります。これが腫瘍栓で、腎がんの特徴の一つです。腫瘍栓は腎がんが発生した場所からそのまま餅のようにひとつながりの状態で血管の中に入り込んで増殖していきます。腫瘍栓が大きくなる血管は主に腎静脈と下大静脈です。

 

手術の内容

腫瘍栓をともなう腎がんの手術は腎がんの手術のなかでも特に難しい部類に入ります。腫瘍栓がどこまで伸びているかによって手術の難しさは変わってきますが、腫瘍栓を取る作業についてはおおむね変わりません。
腎臓を周りの臓器や血管から切り離して、最後に腫瘍栓が入り込んでいる血管とだけつながった状態にします。そして血管を切り開いて腫瘍栓を血管から引き抜いてがんを摘出します。
腫瘍栓の先端がかなり心臓に近い場合は心臓外科や肝臓外科と合同の手術になることがあります。血管を切り開くこの手術は、出血量も多く体への負担は今までに説明してきた手術とはくらべものにならないほど大きいものです。

腫瘍栓を伴う腎がんの人の生存期間

腫瘍栓のある腎がんの手術について検討した研究は多くはありません。特に日本での手術の結果や生存期間については十分ではありません。このため、ヨーロッパ13施設の集計の報告を参考にして考えてみます。

腫瘍栓の先端の位置を腎静脈内、横隔膜下、横隔膜上の3つに分類してその後の生存期間が調べられました。
研究報告では腫瘍栓の先端の位置が腎臓に近ければ近いほど生存率は高い傾向にありました。腫瘍栓が短いほど、がんは進行してないです。

腫瘍栓の先端の位置 生存期間(中央値)
腎静脈内(78.3%) 52ヶ月
横隔膜下(16.4%) 25.8ヶ月
横隔膜上(5.3%) 18ヶ月

腫瘍栓が長く進行しているほど、生存期間は短くなりますが、長期せ生存のチャンスはあります。厳しいことには変わりはありませんが、医師の話をよく聞いて前向きに治療に取り組むことが大切です。

参考:
Eur Urol.2009;55:452-9

5. 遠隔転移がある場合の腎がんの手術

遠隔転移とは所属リンパ節以外にも転移した場合を指します。
遠隔転移がある場合に手術が検討されることは他のがんでは一般的はありませんが、腎がんは遠隔転移があっても手術が検討されます。
がんが発生した場所を原発巣(げんぱつそう)と言います。転移してできた別の場所のがんを転移巣(てんいそう)と言います。具体的にいうと腎がんの場合、腎臓のがんを原発巣といい、肺や肝臓など他の臓器の場所に転移した腎がんを転移巣といいます。
転移がある腎がんでは、原発巣に対する手術も、転移巣に対する手術も行われる場合があります腎がんの場合は転移があっても原発巣を取り除くことが余命の延長につながることが明らかになっているからです。

転移がある腎がんに腎摘除術を行う効果

転移がある腎がんの患者さんを対象に、腎臓を取り除くかどうかで生存期間を比較した報告があります。インターフェロンは腎がんに効果のある薬物治療です。
 

治療 生存期間(中央値)
腎摘除術+インターフェロン 13.6か月
インターフェロン単独 7.8か月

参考:
J Urol 2004;171:1071-6

中央値というのは平均値ではなく生存期間を長い順に並べたときに真ん中の順位に当たる値です。表のとおり、転移がある場合でも、腎臓を摘除した人のほうが生存期間(余命)が長くなっていました。この研究が広く信頼され、転移がある腎がん患者さんにもまずは手術により腎臓を摘出することが行われています。

現在は手術後にはインターフェロンではなく分子標的薬が用いられることが多いです。手術と分子標的薬の組み合わせに関しては現在、研究が進められています。しかしながら、過去の研究を振り返ると腎臓を摘除することで余命の延長にはいい影響を及ぼす結果が出ているので、現在は転移のある腎がんの患者さんに対してはまず腎臓を摘除してその後分子標的薬による治療を行うという方法がとられています。

 

転移巣の切除:肺転移・骨転移・肝転移・膵転移

腎がんが転移をしやすい臓器は、肺、骨、肝臓、膵臓などです。転移巣を手術で完全に切除することでがんを体からなくすことができれば長期の生存も可能と考えられています。

■転移巣の切除が考慮されるのはどんな人?

腎がんの転移巣の切除は、以下に条件に当てはまる人に検討されます。

  • 体の状態が良好である
  • 転移巣の切除が可能である

転移巣の手術を行う際には体に負担がかかることがあります。手術に望むには体の状態が良好であることが前提になります。加えて転移巣を切除できるこも重要です。
原発巣を切除したあとに転移巣の切除が検討されることも、転移巣と一緒に原発巣を切除することもあります。

■肺転移の切除

腎がんの肺転移の切除後の5年生存率は40%前後とされています。しかしながら、これは完全に治癒切除できた場合(完全に取り切れた場合)のみの統計です。転移したがんを完全に取り切れない場合の5年生存率は低下し8-22%とする報告があります。

参考:
Ann Thorac Surg.2002;74:1653-1657
Ann Thorac Surg.2005;79:996-1003

 

■骨転移に対する切除
骨転移を切除した後の5年生存率は11-15%とされています。肺転移に比べると高いとは言えません。
「骨転移が出現するまでの期間が長い」、「骨転移が一部分だけ」などの条件に当てはまる人は手術の効果が高いと考えられています。

参考:
J Bone Joint Surg Am.2007;89:1794-1801

 

■肝転移に対する切除
腎がんの肝転移に対する切除の報告は多くはありません。生存期間に関しても研究報告によってばらつきがあります。
ある研究報告によると肝切除を施行した場合の5年生存率は38.9%だったとされるものがある一方で、別の報告の報告では肝転移がある場合の1年生存率は38.3%であったとするものもあります。
現在のところどのような手術が有効な肝転移の条件はまだ明らかになってはいません。今後の検討で手術の有効性や適正条件などが明らかになると考えられます。

参考:
World J  Surg.2007;31:802-7
Eur Urol. 2010;57:317-325

 

■膵転移に対する切除
腎がんは膵臓に転移することがあります。
一般にがんの膵臓転移はまれですが、腎がんは珍しいことではありません。膵臓へ転移した場合、5年生存率は手術が可能であった症例で72.6%、手術ができなかった症例でも14%だったという研究報告があります。手術ができた人とできなかった人ではもともとの体の状態は異なるので一概には比較はできませんが、膵臓への転移があっても手術ができれ比較的長い余命が期待できます。

参考:
Br J Surg.2009;96:579-92

6. 腎がんでリンパ節郭清は行うのか

リンパ節郭清とはがんが転移したリンパ節を取り除いたり、がんが転移しやすいリンパ節をあらかじめ取り除いたりすることです。がんの手術では一般的に行われていますが、腎がんでもリンパ節郭清は行われるのでしょうか。

リンパ節転移とは

がんが進行して転移するとき、リンパ管の中に入って周りに転移する経路があります。リンパ管を通じて転移することをリンパ行性転移(リンパこうせいてんい)と言います。

リンパ節転移はどのようにして起こるのか

リンパ管は全身にたくさんあるリンパ節という場所に集まります。風邪にかかったときに首にこりこりと腫れるものに触れた経験がある人は多いでしょう。それがリンパ節です。リンパ節は古い言葉ではリンパ腺とも呼ばれていました。リンパ節は体の外からの異物や腫瘍が全身に広がるのを防ぐ関所のような役割をしています。リンパ節はがんの転移のほか感染や炎症などの原因で腫れて大きくなります。リンパ節の腫大(しゅだい)と言います。がん患者のリンパ節が腫れている場合はそこにがんの転移がある可能性が疑われます。

リンパ節郭清とは

がんがリンパ節に転移した場合、まずがんの発生した場所から近いところのリンパ節が腫れてきます。がんが最初に転移する場所のリンパ節を所属リンパ節といいます。手術の前にリンパ節が腫れていなくても、所属リンパ節を調べると少しのがん細胞が入り込んでいることがあります。そこで、所属リンパ節に転移が見えているかいないかを問わず、手術で全て取り除いておく方法があります。これをリンパ節郭清といいます。

リンパ節郭清で期待される効果は大きく2点あります。

  • 画像上明らかではなかったリンパ節転移を切除できる可能性がある
  • 取り出したリンパ節を検査することで、リンパ節転移の有無の診断が確実になる

がんの手術でリンパ節郭清は多くの場合に有効な方法ですが、腎がんの場合はリンパ節郭清は積極的には行われません。

腎がんでリンパ節郭清を行う場合について

通常の腎がんでリンパ節郭清が行われない理由は2点あります。

  • 腎がんの性質としてリンパ節転移が少ない
  • リンパ節郭清を行っても生存期間の延長にはつながらないことがわかっている

リンパ節郭清をすると手術時間が長くなり身体への負担も大きくなります。また、腎がんで転移することがあるリンパ節は太い血管の周りにあるので、リンパ節郭清を行うのは難しく、血管を傷つける合併症などが懸念されます。このため、必要がない場合には腎がんの人にリンパ節郭清は行われません。
一方で、次の条件に当てはまる場合にはリンパ節郭清を行ったほうが良いという意見もあります。

  • 手術の前にリンパ節が腫大している場合 
  • 原発巣(腎臓にできたもともとのがん)が進行している場合 
  • 腎がんのタイプが乳頭状型腎がんの場合

腎がんはリンパ節への転移は少ないですが、手術の前から所属リンパ節が腫れている場合はリンパ節転移である可能性が大きいと言えます。腫れているリンパ節にはがんがあると考えて切除する方が、治療効果が上がることが想像できます。

また、腎がんはリンパ節転移が少ないとはいえ、腎がん自体が進行している場合は、リンパ節に転移している危険性が高くなるのでリンパ節郭清を行うことに意味があると考えられています。

腎がんのタイプもリンパ節郭清をするかどうかを決めることに関係します。
腎がんの中には頻度は少ないものの乳頭状型腎がんというタイプがあります。乳頭状型腎がんはリンパ管へ入っていきやすい性質があるとされます。乳頭状型腎がんが疑われたときにはリンパ節郭清を行った方がよいと考えられています。

参考:
Eur Urol.2009;55:28-34

7. 腎がんの手術前に行う検査

ここまでは腎がんの手術の詳細について説明してきました。次に腎がんの手術の前にはどのような検査が行われるかを説明します。腎がんの手術前にはがんの状態や身体の状態を確かめるため次のような検査が行われます。

  • 血液検査
  • 超音波検査
  • CT造影CT)
  • MRI
  • 骨シンチグラフィ
  • 腎レノグラム

腎がんの手術後はどんな手術の方法で会ったとしても腎臓の機能が低下することが避けられません。このため、がんの状態を調べることに加えてあらかじめ腎臓の機能について詳しく調べられることがあります。

 

血液検査

血液検査

腎がんの手術では腎臓を摘出したり一部分を切除したりすることを行います。手術の前には血液検査で手術に支障がないかを確認することが一般的です。以下は腎がんの手術前の血液検査で重要視される項目です。

  • カルシウム(Ca)
  • LDH
  • CRP
  • クレアチニン(Cre)
  • ヘモグロビン(Hb)

カルシウム、ヘモグロビン、LDH、CRPは治療後の成績をある程度予測できることが知られているので、転移をしている腎がんで特に重要視されています。
腎がんではカルシウムが上昇するようなホルモンに似た物質を出すことがあり、そのような腎がんは悪性度が高い疑いがあるとされています。LDHは組織破壊を反映する検査値です。がんが活動して組織を破壊しているときにはLDHの数値が高くなります。腎がんの中には様々なホルモンを出して炎症を起こすタイプのものがあります。炎症反応が高い場合は、CRPという値が上昇します。また、炎症をきっかけにしてへモグロビンが低下することがあります。

腎がんの手術では腎臓を摘出したり、部分的に切除したりします。このため腎臓の機能が低下することは避けられません。手術の前後でどの程度腎臓の機能が低下したかを推測するためにクレアチ二ンという血液検査には注目が必要です。

血液検査では、腫瘍マーカーという言葉を知っている方もいるでしょう。
腫瘍マーカーはがんに特徴的な微量の物質です。前立腺がんを調べるときのPSAなど、重視されている腫瘍マーカーもあります。しかし、腎がんには腫瘍マーカーがありません。そのため血液検査のみで腎がんを疑ったり、診断することはできません。

 

超音波検査

超音波検査

超音波検査は腎がんの診断において重要な検査です。しかし、CTからの方がより多くの情報を得ることができます。手術の前には超音波検査が施行される場合があります。次の用途があります。

  • 腎部分切除などで手術中に腎臓の位置や状態を確認する
  • 腫瘍栓を伴う腎がんの手術前に腫瘍栓の位置を確認する

腎部分切除も腫瘍栓を伴う腎がんの手術もともに手術中に超音波検査を行います(術中超音波検査)。手術中のイメージを執刀医が確認するために手術の前に超音波検査を行う場合もあります。手術前に出来る限りの準備をしておくことは重要です。

 

CT(造影CT)

腎がんの確定診断には、CTが有用とされています。腎がんの中でも最も多い淡明細胞型腎がんは、造影CTにおいて特徴的な画像所見(見た目の様子の情報)が得られます。

造影CTでは造影剤を静脈から注射します。造影剤は血管の中を流れていきCT画像において血管を白く映し出します。造影CTにより体の中の血管の様子が見やすくなります。腎臓がんの中でも淡明細胞型腎がんは腫瘍内の血管が豊富です。このため、造影CTで早い段階で腫瘍はくっきりと写ります(早期濃染)。その後、腎臓全体が染まっていきますが、その段階では腫瘍内の造影剤は排出され、周りの正常腎組織より黒く写ります(平衡相でのwash out)。また腎がんと周りの境界ははっきりとしています。腎がんの周りに偽被膜(ぎひまく)というものができるためです。

厳密には腎がんの造影CTはdynamic CTとよばれる撮影方法です。dynamic CTとは造影剤を一気に静脈から体に注入して数回CTで体の中を撮影する方法です。

 

淡明細胞型腎がんの造影CTでの特徴をまとめます。

  • 造影開始後腎臓より先にがんが染まる
  • 腎臓が造影剤により染まってくるころにがんからは造影剤が排出されるので周りより暗く映る
  • がんの輪郭はくっきりとしている

 

淡明細胞型腎がんは造影CTでは特徴的な画像所見を示す一方で、それ以外の腎がんは、特徴的な画像所見はなく診断に悩むことがあります。造影CTでは腎臓に流入する血管の位置や本数も確認できます。手術を行うに際しては血管の走行などをしっかりと確認しておくことは非常に重要です。

 

MRI

腎がんの診療において、MRIは造影CT以上の情報を与えてはくれないと考えられています。腎がんがもともと発生した場所(原発巣)を調べるためにMRIが用いられる場合の例を挙げます

  • 腎機能が低下している、アレルギーがあるなどで造影剤が使用できないため造影CTが行えない
  • 腎臓のがんが小さく、造影CTだけでは腎がんの確定診断に至らない
  • 腎がんが進行して太い血管内に進展し、腫瘍栓を形成しているか評価する必要がある

造影CT検査で腎がんが明らかで手術に必要な情報がカバーされている場合にはMRI検査は省略されることがあります。

骨シンチグラフィー

骨シンチグラフィーは次のような場合に行います。

  • 腎がんが進行している人
  • 骨の痛みがある人

腎がんは骨に転移しやすい性質があります。骨シンチグラフィーは骨への転移をはっきりとさせる検査の一つです。放射線を使って骨の画像を撮影します。

骨シンチグラフィーの精度として次の報告があります。

  • 実際に骨転移がある人のうち、骨シンチグラフィーで骨転移ありと評価された人の割合(感度):86%
  • 実際には骨転移がない人のうち、骨シンチグラフィーで骨転移なしと評価された人の割合(特異度):94%

ただし、腎がんの骨への転移に関しては、CTとMRIを組み合わせた検査で、骨シンチグラフィーによる診断を上回ることができるとの意見が多くあります。このため骨シンチグラフィーを手術前の全ての人に行うことは勧められていません。

しかし、腎がんは大きくなると転移をしている可能性が上がるので、腎がんが進行している場合は全身の骨をくまなく見ることができる骨シンチグラフィーは有用であるとの意見もあります。

PET-CT

PET-CTは放射線を使って全身を撮影できる画像検査です。転移を調べるなどの目的で使います。

腎がんに対するPET-CTは、FDG-PETとCTという2種類の検査による画像を重ね合わせたものです。CTは上の章でも説明しているCTです。FDG-PETについて説明します。

がん細胞はブドウ糖という物質を通常の細胞より多く取り込む傾向があります。FDGはブドウ糖に近い成分です。体にFDGを投与するとブドウ糖と同様にがん細胞が正常細胞より多く取り込みます。FDG-PETでは体内のFDGの分布を撮影することができます。FDGが集まっている部分をがんが疑わしいと考えることができます。がんがなくてもFDGが集まる場所はあるので、ほかの理由ではないかを考えた上で判断します。

PET-CTでは、FDG-PETの画像をCTと重ね合わせることで場所を見分けやすいようにします。

  • FDGを体内に注射します。
  • しばらく安静にして全身にFDGを行き渡らせます。
  • がん細胞にFDGが集中します
  • 全身のFDGの分布を撮影し、CTと重ね合わせます。

腎がんの確定診断に利用される場合はほとんどありません。転移があるかないかの確認のために使用されることがあります。

 

8. 手術の後に注意が必要な腎機能の低下とはなにか

腎がんの手術は腎臓を一部または全て摘出します。このため、手術後には腎臓の機能が低下します。
腎臓の機能が低下するとどのようなことが起こるのでしょうか。まずは腎臓が担う機能について説明します。
腎臓の役割は多岐に渡ります。

  • 尿を作る
    • 老廃物を体の外に出す
    • 体の中の電解質を調節する
  • ホルモンを分泌する
    • 血圧を調整する(レニン)
    • 赤血球を作る指令を出す(エリスロポエチン
    • 体の水分量を調節する(プロスタグランジン)

腎臓の主な働きは尿を作ることです。血液から老廃物を濾過して尿を作ります。尿は老廃物と共に水分を体の外に出す役割を果たしています。体の中の水分が減ると尿が減り、水分が多く摂取された場合には尿が多く作られます。腎臓によって体の水分の量が一定の範囲内に調整されています。また同時に、腎臓は電解質と呼ばれるナトリウム、カリウム、カルシウムやリンなどの物質を一定の量に保っています。

また腎臓はいくつかのホルモンを出し、体の機能を維持する役割もあります。

腎がんの手術を行うと、腎臓の機能が低下することは避けられません。手術のあとはできるだけ腎臓に負担をかけないような生活が望ましいと考えられます。腎臓の機能が低下するとどうなるかを説明します。

 

腎機能低下により現れる症状や検査異常は?

腎機能が少し低下しても症状はほとんどありません。腎臓の機能がかなり大幅に低下した状態で出現する症状はあります。

  • 倦怠感(だるさ)
  • 息切れ
  • 浮腫むくみ
  • 貧血

腎臓の機能の指標となるクレアチニンという血液検査項目があります。腎がんの術後は定期的にクレアチニンを測定し腎機能が低下していないかを確認しています。

正常な腎機能がある人ではクレアチニンはおおむね次の範囲に収まります。(施設により基準値はやや異なる場合があります)

  • 男性:0.5-1.1mg/dl
  • 女性:0.4-0.8mg/dl

筋肉量が多い人ではクレアチニンが高めに出ます。スポーツ選手などでクレアチニンが1.2mg/dl程度でも腎機能低下を疑う必要は薄いと考えていいでしょう。

その他、腎臓の機能が低下するとカリウムの数値が高くなったり、貧血などが起きることがあります。いずれも軽度なら自覚症状には乏しいことが多いですが、大幅な異常があれば、カリウム過剰による不整脈貧血によるふらつきなどが問題になります。

 

腎機能低下を予防するには?

腎がんの手術をすると多少の腎機能低下は避けられません。手術後は残った腎臓を使って生活することになります。腎機能は手術をしていない人でも糖尿病などがあると悪化していきます。腎機能がある程度以上に悪化すると、透析などの治療が必要になり、生活の負担が非常に大きくなります。

腎機能低下を直接的に予防する薬は現時点ではありません。また腎臓の機能は一度低下すると回復することはありません。そこで今ある腎臓の機能を保ちながら生活を続けていくことが目標となります。

腎機能を維持するために効果的と考えられていることがあります。

  • 塩分を取りすぎない食事
  • 適度な血圧を維持すること
  • 生活習慣の改善(肥満解消、禁煙)

食塩の過剰な摂取は腎臓へ悪影響を及ぼすと考えられています。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、高血圧予防の観点から、1日あたりの食塩摂取の目標量を健康な成人男性で8g以内、健康な成人女性で7g以内としています。

糖尿病脂質異常症高脂血症)は腎機能に悪影響があることも明らかです。糖尿病の食事療法を指導された場合はしっかりと守ることが大事です。血圧の維持、肥満解消や禁煙も腎機能を保つためには良い方向に働くと考えられています。

9. 手術後の食事の注意点

手術後の食事では注意をすることが大きく2つあります。
「退院して間もないときの食事」と「腎機能が低下している場合の食事」です。それぞれについて説明します。

退院して間もないときの食事

腎がんの手術は開腹手術でも腹腔鏡手術でも、お腹の中にいくらかの影響があります。
お腹の中には腸があるので、手術の影響で腸の動きが悪くなって腸閉塞(ちょうへいそく)になる可能性があります。腸閉塞は入院中になることもありますが、退院後にも起こることがあります。
腸閉塞を避けるには、手術後の1ヶ月は消化の良いものを、量は少なめに食べることが望ましいと考えられます。病院の食事は厳密にカロリーがコントロールされています。入院中に我慢していたぶん、退院後はついつい羽目を外しがちです。しかし、手術後1ヶ月は周術期といって手術の後遺症(合併症)が発生しやすい時期でもあり注意が必要です。
退院後は少しずつ食事の量や種類を増やしていき元の食事に戻していくことが大事です。焦る必要はありません。腹八分目が肝心です。
腸閉塞を予防する食事は「腸閉塞やイレウスの注意点」で説明しているので参考にしてください。

腎機能が低下していると言われた場合の食事

腎機能が低下していると言われた場合、食事に気を付けなければならないことがいくつかあります。まず塩分を控えめにすることが大切です。塩分は高血圧症の原因として知られています。高血圧症が続くと、腎臓の血管は少しずつ傷んで腎臓の機能が低下します。
一度傷んだ腎臓はその後再生することはないと考えられているので、残された腎臓をできるだけ大切に使っていくことが大切になります。とはいえ、食塩を抑えた食事は難しいものです。医師や管理栄養士に相談すると上手に塩分を抑えた食事をすることができるので、話をしてみてください。

10. 手術後に抗がん剤は必要?

抗がん剤」という言葉は色々な場面で使われます。文脈によって意味が変わることがあるので、まず用語の説明をします。腫瘍を縮小したり余命を延長する薬物療法をすべて「抗がん剤」と言っても、間違っているわけではありません。
腎がん治療において「抗がん剤」と言うときは、細胞傷害性の薬のみを指すことがあります。古くから知られている抗がん剤は細胞障害性の薬です。腎がんに対しては、従来の抗がん剤では目立った効果が得られませんでした。

腎がんに効果がある薬として、サイトカイン療法や分子標的薬があります。
これらは従来の細胞傷害性の抗がん剤とはまったく作用の仕方が異なります。区別を行う意味で腎がん治療においては「抗がん剤」と言った場合、サイトカインや分子標的薬を除くという意味であることが多いです。
しかしここでは分子標的薬を抗がん剤の一部として解説します。

腎がんは診断時に転移があるかないかに関わらず、がんを切除することで余命が延長することが明らかになっています。さらにその後、分子標的薬を投与することで余命が延長することが期待できます。

手術後に分子標的薬が勧められる場合は限られています。

  • 手術後にも転移している部位が残っている場合

腎がんは手術後の画像診断で病変を取り切れたことが確認できた後は分子標的薬による治療を行うことはありません。その理由は分子標的薬による再発予防の効果などが現在明らかではないためです。分子標的薬にも副作用が伴いますので、効果が明らかではない場合は行いません。

11. 術後の通院スケジュールは?

手術の後は、摘出した腎臓を顕微鏡で詳しく観察する病理検査が行われます。病理検査は非常に多くの情報が得られる重要な検査です。病理検査によって腎がんがどの程度進行していたかが最終的に確定します。

病理検査の結果は手術から2-3週間後に報告されます。

病理検査による最終的な診断をもって、術後の通院スケジュールを決める目安にします。

受診のスケジュールは一律に決められていません。各施設によって受診のスケジュールの基準を定めている場合もあります。ここでは海外のガイドラインで提案されている通院スケジュールを参考にして、筆者の経験も交えて解説します。

 

根治的腎摘除術後/腎部分切除後のフォローアップ

腎がんは手術後3年に再発が集中するとされています。再発を早期に発見することで、転移した場所を手術で切除することが可能になったり、抗がん剤による治療も有効になると考えられます。

そこで、手術後は表のスケジュールに沿って定期的に検査を行い、再発がないか監視します。


図:腎がん手術後のフォローアップ例。

再発を診断するのに有用な検査はCT検査です。CT検査は3年間は半年に1回行います。

1年目は3ヶ月間隔で通院し、血液検査や身体診察を行うことで腎機能の推移も確認します。再発が疑わしいものの確定的ではない場合は、画像検査の間隔を短くしたりして慎重に経過観察を行います。

腎がんは時間が経って再発する場合(晩期再発)もあるので経過観察を生涯に渡って行うべきとの意見もあります。晩期再発が起こるのは進行した腎がんの場合が多いので、特に進行した腎がんの場合は長期の経過観察が望ましいと考えられます。

5年目以降の通院スケジュールは、1年または2年に1回画像検査を行うことが一般的です。

再発例または外科的に切除不能の IV 期症例に対するフォローアップ

分子標的薬やサイトカイン療法で治療を行っている場合は、1ヵ月に1回程度は通院して副作用に対応するとともに治療の効果を確認します。CTなどの画像検査を2-4ヵ月に1回程度行います。

転移のある患者さんの場合は、転移している臓器やその程度により病気の進行速度が異なります。症状などを観察しながら適切な通院間隔を決めています。

 

 

12. 腎がんが手術できないのはどんなとき?

腎がんで手術が勧められない場合は限られています。転移がある段階で発見されたとしても
手術で腎臓を摘出することで余命が延長することがわかっています。腎がんで「手術ができない」と言われたときは、手術をしないほうがよい理由があると思われます。
手術は体に負担がかかります。手術による利益が少なければ手術をしないことも考えなければなりません。

腎がんで手術を避けたほうがよい場合の例を挙げます。

  • 全身状態が良くなく手術に耐えられない場合
  • がんの進行が早く、手術による効果が少ない場合

上2つの場合は手術を避けたほうがよいと考えられます。
さらに、腎臓を取る手術を受けないほうがよい人を判断する方法として提案されている基準の一つを紹介します。

  • Karnofsky PS <80% 
  • Hb(ヘモグロビン)値が正常未満
  • 補正Ca(カルシウム)が正常値の上限を上回る
  • 好中球の数が正常値を上回る
  • 血小板の数が正常値を上回る

以上のうち3項目以上が該当する場合は原発巣の摘除による利益が少ないとする意見もあります。
Karnofsky PS(カルノフスキーのパフォーマンス・スケール)は全身状態を表します。0-100%で表記され、「正常で臨床的な症状がない」ときは100%です。80%未満の場合は「自分自身の世話はできるが、正常の活動や労働をすることは不可能」またはそれ以下に該当します。

その他の血液検査の項目は余命が短いことを予想させるものです。血液検査項目は腎がんによって炎症反応が強い場合やホルモンが産生されることにより異常値が認められます。炎症反応が強い場合やホルモンの産生がある腎がんは悪性度が高いとされています。こうした場合には手術をしても利益は少ないのにリスクだけが大きいので手術を勧めないことがあります。

なお、上の基準は転移巣の切除をするかどうかには必ずしも当てはまりません。

手術には利益と不利益が必ず存在します。利益よりも不利益が大きいと予想される場合には、手術をせず分子標的薬により治療を行い、場合によっては緩和ケアに重点を置くことも合理的な判断です。

参考:
Eur Urol. 2014;66:704-710