2019.05.21 | コラム

前立腺がんはロボットで治す?:ダヴィンチ手術の利点と注意点

普及しつつあるロボットを用いた手術とこれまでの手術法の比較
前立腺がんはロボットで治す?:ダヴィンチ手術の利点と注意点の写真
(c)PhonlamaiPhoto-iStock.com

「ロボットで人間の身体を手術する」と聞くと、SF映画やドラマの話と思うかもしれません。しかし、実はロボットを用いた手術は身近なものになりつつあり、前立腺がんでは手術の多くがロボットを使って行われています。このコラムでは一般の人にはあまり馴染みがないロボットを使った手術(以下ロボット手術)について説明します。

◆近年、前立腺がんの手術方法が変化している

数年前までの前立腺がんに対する手術の方法は、「開腹手術」と「腹腔鏡手術」が一般的でした。「開腹手術」はお腹を10cm程度切って行う方法で、手術と聞くとこちらを思い浮かべる人が多いかもしれません。一方、「腹腔鏡手術」ではお腹に小さな穴を数カ所だけ開けて細長い器具を挿入して行われます。ロボット手術は2012年に前立腺がんに対して保険適応となり、それ以来日本全国で着実に普及してきています。

 

◆ロボット手術はどのように行われるのか

ロボット手術は正式には「ロボット支援下内視鏡手術」といい、da Vinci(ダヴィンチ)という手術支援ロボットを用いて行われます。もしお医者さんが「ダビンチ」という言葉を使っていたら、ロボット手術のことを指している可能性が高いです。ロボット手術といっても、ロボットがひとりでに手術をするわけではありません。下図のように操作台に座った医師がロボットを操ります。

 

【ロボット手術のイメージ図】

ロボット手術:ダヴィンチを使った手術の様子

© [2016] Intuitive Surgical, Inc.  (CC BY-SA 3.0)

ロボット手術では内視鏡手術と同じく身体を大きく切り開くことはありません。親指の太さほどの穴をいくつか身体に開け、その穴に内視鏡と手術器具が挿入されます。手術器具はロボットの手に当たる「ロボットアーム」に接続されており、操作する医師の手や指の動きと全く同じように動いて、つかんだり切ったりすることができます。

 

◆開腹手術と腹腔鏡手術が抱えている課題とは

ロボット手術は前立腺がんの治療に導入されてから短期間で日本全国に広まっています。ロボット手術が、それ以前に主流であった開腹手術や腹腔鏡手術が抱えている問題を解決してくれるからこうした現象が見られているのだと考えられています。開腹手術と腹腔鏡手術の課題を眺めてみると、ロボット手術の優れた点が見えてきます。

 

開腹手術の課題

前立腺がんの開腹手術ではお腹の真ん中を縦に10cm程度切る必要があります。

しかも、前立腺は身体の奥深い所にあるので、お腹を大きく切っても十分見えないことは珍しくはありません。視野が悪いと手術操作が難しくなり、「出血が多くて輸血が必要になる」「がんが取り切れない」「術後、縫い合わせた部分がなかなかくっつかない」といった不利益につながってしまいかねません。また、下腹部を大きく切るために傷の痛みが強く、身体の負担が大きいことも課題でした。

 

【開腹手術の課題のまとめ】

  • 前立腺は身体の深い位置にあるため、見えにくくい
  • 傷が大きいため痛みが強く、手術後の負担が大きい

 

上の2つの課題は、次に説明する腹腔鏡手術の出現によってある程度解決されました。

 

腹腔鏡手術の課題

開腹手術とは異なり、腹腔鏡手術ではお腹を大きく切ることはありません。お腹に数箇所穴をあけて、鉗子(かんし)と呼ばれる器具と内視鏡を挿入して手術が行われます。内視鏡と呼ばれる小さなカメラを使うことによって、操作している場所がよく見えるようになったので、開腹手術で問題になっていた視野の悪さに悩まされることは少なくなりました。また、傷が小さくて済むようになったおかげで、痛みの心配も減りました。

一方で、腹腔鏡手術にも課題があります。腹腔鏡手術では鉗子という器具が使われますが、この鉗子の扱いがとても繊細で難しいのです。鉗子は長い棒状の器具です。手元のハンドルを操作をすると先端が動いてものをつかんだり、切ったりすることできます。身近なものでは「マジックハンド」や、「高い所の枝を切るはさみ」をイメージするとわかりやすいかもしれません。鉗子の長さは50cmほどあるため、手ぶれが生じやすく、精密な操作は簡単ではありません。また、棒状の鉗子の先は直線的な動きしかできないので、適した角度でものをつかんだり切ったりするのが得意ではありません。

開腹手術の課題を解決した腹腔鏡手術ですが、一方で「手術操作の難しさ」という課題が生じました。

 

◆ロボット手術は腹腔鏡手術とどう違うのか

ここまでの説明で気づいた人がいるかもしれませんが、ロボット手術で行う内容は基本的に腹腔鏡手術と同じです。ですが、2つの方法の違いは操作の精度にあります。

先に述べたように腹腔鏡手術では手ぶれが問題となりますが、ロボットには手の動きが補正するという優れた機能があるので、鉗子がぶれることはありません。また、ロボット手術で使う鉗子は首が自在に曲がるので、腹腔鏡手術では難しかった角度から、ものをつかんだり切ったりすることができます。高い操作性からロボット手術には「がんを上手に取りきる」「臓器をより優しくを扱える」といった効果が期待されています。

ロボット手術の細やかな操作性について、実際の様子を見てもらうと、その繊細な動きがよくわかると思います。ロボット(ダヴィンチ)を使って、折り紙で鶴を折ったり、米粒に文字を書く動画(ダヴィンチ(da Vinci Surgical System)のデモンストレーション)がこちらのページで紹介されていますので、興味がある人は参考にしてください。

 

◆利点が多いロボット手術だが注意点がある

ロボット手術は開腹手術や腹腔鏡手術に取って代わる方法として普及が進んでいますが、万能というわけではありません。ロボット手術を受ける人に知ってほしい注意点を2つあげます。

1つ目はアクシデント発生時に迅速な対応が難しいということです。手術ではアクシデントが一定確率で起こってしまいます。中には開腹手術に変更して対応しなければならない場合もあります。ロボット手術から開腹手術に変更するためには、まずロボットを身体から外さなければなりません。ロボットを外すのに要する時間は数分ですが、アクシデントが深刻な時にはこの数分の間に大事に至ることもあります。開腹手術や腹腔鏡手術に比べてトラブル時の対応に時間がかかってしまうことは知っておいてください。

2つ目はロボットが故障するリスクです。手術用のロボットは精密な機械ではありますが、故障が起こる可能性がどうしてもつきまといます。機械の故障はどんなときでも起こりうるので、手術中に起こることも当然ありえます。故障の程度によってはロボット手術が続けられなくなることがあり、その場合は開腹手術や腹腔鏡手術への変更を余儀なくされます。

 

前立腺がんのロボット手術について開腹手術や腹腔鏡手術と比較しながら説明しました。どんな治療にも優れた点と注意するべき点があります。ロボット手術が広まっている理由を知っていただく一方で、気をつけたほうが良いポイントについても知っていただければ幸いです。

 

執筆者

斎木 寛

参考文献

・「前立腺癌診療ガイドライン」、(日本泌尿器科学会/編集)、メディカルレビュー社、2016年

・「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。