ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。日本でも高齢化とともに患者数が急増している。
12人の医師がチェック 207回の改訂 最終更新: 2019.01.07

前立腺がんの手術:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の解説

転移がない前立腺がんで、余命が10年以上と予想される場合には手術が有効な選択肢です。前立腺をすべて取り除く手術です。3種類の手術方法があります。手術法、関連する治療、手術による合併症などについて説明します。

1. 手術するかしないかどうやって決める?

前立腺がんの手術が向いているのは次のような場合です。

  • 期待される余命が10年以上
  • 全身を詳しく調べた結果、転移が見つからない
  • 手術に耐えうるだけの良好な健康状態を有している

次のような方には手術が向いていません。

  • 75歳以上の高齢(施設によって年齢が異なる場合があります)
  • 前立腺がん以外にも病気があり、全身状態がよくない
  • 前立腺以外にがんの転移が見つかった

手術をしない場合は、放射線療法ホルモン療法などが行われます。

前立腺がんの診断は前立腺生検で確定しますが、前立腺生検の前に行う検査があります。

  • MRI検査:磁気を使って全身の断面を映し出す画像検査です。前立腺の評価(場所、広がりなど)に用いられます。

生検で前立腺がんが検出された場合、次に行うことは転移を探すことです。生検の前のMRIですでに転移が見つかっている場合もあります。他の方法でも全身を調べて転移があるかどうかの確認を行います。

  • CT検査:放射線を使って全身の断面を映し出す画像検査です。ほかの臓器に転移がないか、またリンパ節転移の有無などについて評価します。
  • 骨シンチグラフィー:前立腺がんの骨転移を見つける画像検査です。放射性物質を注射して全身を撮影します。骨は前立腺がんが転移しやすい場所です。

以上の検査などで転移がないことを確認した上で、手術による治療を検討します。

手術に最も向いているのは、前立腺がんがあっても、前立腺の周りにがんが広がっていない場合です。周りに広がりがないことを限局性前立腺がんと言います。限局性前立腺がんは、手術すればがんを取り切れる可能性が高いと予想できます。

転移のない限局性前立腺がんをさらに詳しく評価するために、リスク分類が用いられます。リスク分類は、画像検査で見えない微小な転移がある可能性や、治療の効果を予測するためにあります。

リスク分類には3項目が基準になります。

  • 前立腺局所の状態
  • 診断時のPSA値
  • グリソンスコア

3項目の組み合わせにより、限局性前立腺がんを低リスク、中間リスク、高リスクの3段階に分けます。分け方にはいくつかの種類がありますが、ここではよく使われるD’Amicoのリスク分類とNCCN(全米総合がん情報ネットワーク)のリスク分類を示します。

表:D'Amico分類

- PSA[ng/ml] グリソンスコア T分類
低リスク 10以下 6 cT2a以下
中間リスク 10-20 7 cT2b
高リスク 20を超える 8-10 cT2c
  • 低リスクはすべての条件を満たすことが必要。
  • 高リスクは1因子でも満たせば、高リスクとなる。
  • 中間リスクは、低高リスク以外に分類されるもの。

参照:JAMA. 1998:280:969-74.

表:NCCN分類

- PSA[ng/ml] グリソンスコア T分類
低リスク 10未満 6 cT2a以下
中間リスク 10-20 7 cT2b-cT2c
高リスク 20を超える 8-10 cT3a
  • T分類は直腸診による。
  • 超低リスク(very low risk)は、低リスクの中でcT1c、陽性本数が3本未満、各生検スコアの占拠率が50%以下、PSA density(PSAD)が0.15未満のものを指す。
  • 超高リスク(very high risk)は、cT3b以上、primary Gleason patternが5、またはGleasonスコア8-10の陽性生検本数が5本以上を指す。

参照:NCCNガイドライン2016年度版 Ver. 2

D’Amicoの分類とNCCNの分類は日本の臨床現場でも多く用いられています。

手術に最も向いているのは低リスクと中間リスクの人です。

高リスクに分類される人は、低リスクまたは中間リスクの人と比べると、手術後に再発する可能性が高いと判断されます。しかし高リスクに分類される人でも手術でがんを完全に取りきれる可能性は残ります。最終的には医師とよく相談の上に手術を行うかを決定します。

低リスク前立腺がんは手術するべきか?

低リスクの前立腺がんは、前立腺がんの中でも非常に進行が遅いものです。低リスクの前立腺がんがあっても長年生き延びることはかなり期待できます。

低リスクで条件を満たせば、監視療法という方法も選択できます。監視療法とは、前立腺がんと診断されてもすぐに治療を行わず、検査をしっかりと頻回に行うことで、最適な治療のタイミングを計る方法です。

がんがあるのに「すぐ治療しない」ことを選択することで心配になるかもしれません。しかし、低リスク前立腺がんは進行が非常に遅いために、他の死因で死を迎える人は大勢います。たとえば感染症、他の臓器のがん、心筋梗塞脳卒中などは、前立腺がんがあってもなくても起こります。

そこで、低リスクの前立腺がんは手術しても利益が小さいのではないかという意見があります。つまり、低リスクの前立腺がんによる死亡がもともと非常に少ないので、手術をしても死亡を減らすことに繋がらないのではないかということです。

一方で、ある研究では、低リスクの前立腺がんを手術し10年以上の追跡調査を行ったところ、手術を行ったほうが、死亡率と転移をする確率が少なくなったとする報告がなされました(NEJM 2014;380:932-42)。手術を受ける時点で10年以上の余命があると考えられる人に対しては、手術による利益があることが確認されました。

低リスクの前立腺がんの人に手術を行う場合には、その人の余命について考える必要があります。

日本人男性の平均寿命は、80.79歳です。平均余命がどのくらいあるかを調べた表を下に示します。

年齢 平均余命(男、2015年) 平均余命(女、2015年)
65 19.46 24.31
70 15.64 19.92
75 12.09 15.71
80 8.89 11.79
85 6.31 8.40
90 4.38 5.70

参照:厚生労働省「簡易生命表」平成27年

表によれば、日本の男性で平均的に余命が10年以上ある人は、75歳前後までとなります。つまり、80歳以上で低リスクの前立腺がんが見つかった人では、前立腺がんの手術をしない選択肢も有力になります。

また、個人個人の状態によっても期待余命は変わります。ほかの病気(併存症)を抱えている人、体力が落ちている人などは余命に影響があるかもしれません。

年齢、併存症などを含めて、自分が前立腺がんの手術に向いているかどうかを考えることが重要です。

中間リスク前立腺がんは手術をするべきか?

中間リスクの場合、基本的には低リスク前立腺がんと同様で、余命を考慮しながら手術を行うかを決めていく必要があります。

監視療法は中間リスク前立腺がんには一般的には行いません

高リスク前立腺がんは手術するべきか?

リスク分類で高リスクに分類されたときは手術によってがんを取りきれる可能性が低いとされてきました。高リスクの場合は悪性度が高く、検査で明らかな転移が見つからなくても隠れた転移がすでにあることなどが原因と考えられます。そのため、高リスク前立腺がんの治療として、ホルモン療法を併用した放射線治療が主流でした。

近年では、高リスクの前立腺がんに対して、手術でも放射線療法と同等にがんを取り除くことができるとの報告も散見されます。

診断時に十分な評価を行った結果、手術でがんを取り除くことができると考えられる場合は、高リスクに分類されていても手術をする価値があります。評価方法については「前立腺がんの検査で何がわかる?」で解説しています。

2. 前立腺がんの手術はどんな手術?

前立腺がんの手術

前立腺がんの主な手術は、がんを含めて前立腺の全体と精嚢を取り除く手術です。前立腺全摘除術と言います。がんを残さず取り切ることを狙うので、根治的前立腺全摘除術が正式名称です。前立腺全摘除術では前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道を縫合し繋ぎ合わせます。前立腺に近い場所のリンパ節(所属リンパ節)も同時に摘出します。

精嚢(せいのう)は精液の一部を溜めておく場所です。前立腺と精嚢はひとかたまりになっており前立腺がんは精嚢に浸潤をしやすいために、切除する方が根治の可能性が高まります。

尿道は前立腺の中を貫いています。前立腺を摘除するときは、中を通っている尿道も一緒に取り除くことになります。すると膀胱から出ていた尿道は、もと前立腺があった部分で途切れてしまいます。尿の通り道を作るために膀胱と尿道をつなぎ合わせる必要があります。この作業を再建と言います。

リンパ節を切除する目的は2つあります。小さな転移がある場合は前立腺と同時に切除した方が根治の可能性が高くなることと、リンパ節に転移があるのかないのかをはっきりさせることができる点です。後述しますが、リンパ節に転移がある場合は、早めにホルモン療法を開始した方が、余命の延長につながるとされています。

前立腺全摘除術を行うには主に3種類の方法(術式)があります。

  • 開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術)
  • 腹腔鏡手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術)
  • ロボット支援下前立腺全摘除術

基本的にはどの術式を選択しても手術の目的は同じです。つまり、がんが存在する前立腺と精嚢をひと塊りにして切除し根治を図ることです。

開腹手術と腹腔鏡手術、ロボット手術の違いについて以下で説明します。

3. 前立腺がんの開腹手術とは?

前立腺がんの開腹手術は、恥骨後式前立腺全摘除術と呼ばれる術式です。開腹手術では臍(へそ)から下に向かって下腹部の真ん中を10cm程度切開します。

前立腺は骨盤の奥にあります。お腹の表面からは距離があります。また、前立腺の周りにはいろいろな臓器があるので、前立腺の開腹手術では操作を行う場所(術野)が非常に狭くなります。

前立腺のもともとの位置(解剖学的な位置)により、前立腺の手術は難易度が高くなります。加えて前立腺周囲には血管が豊富に存在しています。そのため、出血量も多い傾向にあります。

開腹手術をロボット手術や腹腔鏡手術と比較した時の利点は、前立腺へ到達する際に、腸管を露出せずに直接前立腺にアプローチすることができるため腸への影響が少ない点があります。

4. 前立腺がんの腹腔鏡手術とは?

腹腔鏡(ふくくうきょう)は胃カメラのような内視鏡の一種です。手術で用いるカメラは細くて長い形状をしています。お腹の皮膚に小さな穴をいくつか開けて腹腔鏡を入れます。腹腔鏡でお腹の内臓の隙間(腹腔)を観察できます。

腹腔鏡手術は、お腹にいくつかの穴を開け、腹腔鏡と細長い手術器具を挿入します。手術器具の先はマジックハンドのように操作できます。腹腔鏡を用いて腹腔内をモニター画面に映し出し、それを見ながら手術器具を操作して前立腺の摘出を行います。腹腔鏡手術では操作している場所を直接写しているので、小さい部分まで詳細に見えます。細かく観察しながら操作できるのが腹腔鏡手術の最大の利点です。

また、腹腔鏡手術は開腹手術に比べて出血量を少なくできます。

しかし、腹腔鏡手術の難点は、手術器具の操作が難しい所にあります。手術をする外科医には高い技術が必要となります。腹腔鏡手術で用いる手術器具の動き(可動域)に制限があるために、特に、前立腺を取った後の尿道と膀胱をつなぎ合わせる作業などが難しくなります。

5. 前立腺がんのロボット手術とは?

正式にはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術といいます。日本では、2012年から保険診療となり、現在は前立腺がんの手術の2/3がロボット手術で行われています。正式名称からもわかるようにロボットを用いて腹腔鏡手術を行います。

ロボット手術は、執刀医が3Dのモニターを見て行うことにより、腹腔鏡手術よりさらに進んだ立体視野を手にすることが可能になりました。またロボットには関節が7つもあり人間の手の動きの再現、時には上回る動きを可能としました。

前立腺がんに対するロボット手術は、2012年に日本で保険適用となってから急速に普及しました。ロボットというのは、外科医が操作することで精密に動く機械です。いわゆる人工知能が手術をする訳ではありません。

「ロボットが手術する」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、操作しているのは人間です。また、手術中は常に患者さんの近くに助手の外科医がいて、手術の補助や緊急事態の対応ができるようになっています。

手術に使うロボットとは?

ロボット手術は正式にはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術と言います。「da Vinci(ダヴィンチ)サージカルシステム」という名前のロボットが使われています。執刀医がロボットを操作して前立腺を摘除します。執刀医はコンソール(操作台)に向かって操作します。執刀医の指の動きに連動してロボットの先端が動きます。患者さんの近くには常に助手の外科医がいます。

da Vinciには、現在は3機種があります。

  • da Vinci S
  • da Vinci Si
  • da Vinci Xi

新しい順にXi、Si、Sです。施設により導入している機械は異なります。手術の方法や治療の効果はどれを用いても変わることはありません。ロボットを操作して前立腺・精嚢を摘出し、その後尿道と膀胱を繋ぎ合わせます。


ロボット手術のイメージ

© [2016] Intuitive Surgical, Inc.  (CC BY-SA 3.0)

ロボット手術の利点とは?

ロボット手術が従来の腹腔鏡手術と異なる点は、3点あります。

  • 3Dの視野
  • 自由なカメラワーク
  • 多関節鉗子

尿道膀胱吻合の手術イメージ

ロボットのカメラには2個のレンズが隣り合ってついています。2個のレンズで撮影した画像をコンソールから見ると、ステレオグラムの原理で立体的に見えます。3Dの映画と同じです。

従来の腹腔鏡手術と比較すると、3Dの画像で手術できる点はメリットです。特に前立腺のように体の中の深い場所にある臓器の摘出には、立体感を掴むことが重要です。筆者もロボット手術の経験がありますが、ロボット手術では3Dの世界に入り込みまるで自分がその人の体の中に入って手術をしているような感覚があります。

カメラを執刀医が自分で思い通りに動かせるのもメリットです。専門的な話になりますが、腹腔鏡手術の視野を決める内視鏡の操作は助手が行います。助手は執刀医が見たいところを察して操作する必要があります。執刀医と助手のコンビが経験豊富で息が合っていても、やはり自分の見たい場所は自分でしかわからないところがあります。ロボット手術では執刀医自らが操作台から内視鏡を動かしますので、無駄のないカメラワークが可能になります。

ロボット手術で最大と言っても良い特徴が、ロボットの関節を自由に動かせることです。腹腔鏡手術では、手術器具を動かせる範囲がかなり制限されます。腹腔鏡手術で縫合などの細かい操作をするためには高度な技術が要求されます。ロボット手術では、先端が自由に動く関節を有するために細かな操作の精度が上がり、より確実な手術が可能となりました。

ロボット手術で注意をしなければいけない点は?

ロボット手術では執刀医に触覚が伝わりません。つまり、執刀医の手が直接患者さんに触れてはいないので、切ったり縫ったりするときの手応えを感じることができません。触覚がない点は、ロボット手術が開腹手術に劣る点と言われています。

ほかにロボットの欠点として、故障したり、不具合が生じる可能性があります。ロボットの故障や不具合は非常に少ない確率とはいえ、機械を使用する以上避けることはできません。腹腔鏡手術なら、大抵は腹腔鏡の予備があり、不具合が発生しても交換して手術続行が可能です。ロボット手術では故障の程度によっては手術の続行が不可能になることがあります。その時は緊急に開腹手術や腹腔鏡手術に変更されます。万が一のときは手術方法が変わることについて理解し主治医と確認しておくことが大事です。


 

6. 手術法による差はあるのか?

手術法ごとの治療の効果、手術後のトラブル、手術の後遺症について比較します。

がんの手術においてもっとも大事なことは、がんを取り切り再発させないこと(制がん性)、安全に行うことです。ロボット手術は開腹手術や腹腔鏡手術に比べて制がん性を向上させるとの報告もあります。ただしまだ長期的に経過観察した結果は報告されていません。今後の長期的な結果の報告に注目です。

手術による体への負担(侵襲)は開腹手術が大きく、腹腔鏡手術とロボット手術では差がないとされています。

手術には合併症といういわゆるトラブルがつきものです。お腹を切って操作する以上、どうしても起こってしまうトラブルがあります。そうした避けられないトラブルを合併症と言います。合併症は、なるべく起こらないように工夫がなされていますが、完全にゼロにはできません。

前立腺がんの術式ごとに起こりやすい合併症の種類が少し違います。合併症全体としては、術式によって発生頻度に大きく差がないとする報告が多いです。

前立腺がんの治療後には尿もれなどの後遺症が問題になります。後遺症は手術後の生活の質にも大きく影響します。しかし多くの後遺症は時間とともに改善します。ロボット手術の方が開腹手術と比べて、手術後の回復が早いとする報告が見られます。

 

勃起神経の温存はするべきか?

前立腺の両脇には神経の束(神経血管束)が存在します。神経の束には勃起するために働く勃起神経が入っています。前立腺がんの手術には、神経の束を一緒に取る方法と残す方法があります。どちらがよいかは難しい問題です。

前立腺がんが進行すると前立腺の両脇にある神経の束にがんが浸潤していきます。がんを取り切るということのみを考えれば、両側の神経も一緒に取ったほうががんを取り切る可能性が高いです。しかしながら、神経を取り除くと手術後は勃起できなくなってしまいます。がんを取り切る可能性と勃起する能力が引き換えになってしまうのです。

がんが神経の束に浸潤しているかどうかは手術前にはわかりません。術前の評価で行うMRIである程度は予測できますが、完全ではありません。このため、神経の束を手術で取るべきかどうかは、不確実な情報をもとに判断するしかありません。次の3点によるリスク分類が参考になります。

  • 前立腺局所の状態:術前のMRIで評価
  • PSA値:血液検査
  • グリソンスコア:前立腺生検で評価

勃起神経を残すことを神経温存と言います。神経温存をする手術はさらに2種類に分けられます。左右の神経の束を残す方法を両側神経温存と言います。片方は取り除いて片方のみを残す方法を片側温存と言います。片側温存はがんが存在する場所が左右どちらかに偏っているときに選ばれます。

勃起神経の温存は手術後の尿もれの軽減に有効に働くという意見もあります。

勃起神経を残すかは、患者さん自身のがんに対する考え方やその後の生活とのバランスを考えながら決める必要があります。手術前の状態について主治医からの情報を聞いたうえで、どの方法が自分の考えに近いかよく考えて決定してください。

リンパ節郭清はなぜ必要なのか?

 前立腺がんは進行するとリンパ節に転移します。リンパ節は全身にたくさんありますが、がんは主に近くのリンパ節に転移します。前立腺がんがよく転移をするリンパ節を前立腺の所属リンパ節といいます。

前立腺がんの根治的手術である根治的前立腺全摘除術では前立腺の切除と同時に所属リンパ節の摘除を行います。所属リンパ節をまとめて取り除くことをリンパ節郭清(かくせい)と言います。

前立腺の所属リンパ節

前立腺がんの所属リンパ節は場所によって3グループに分けられます。

  • 外腸骨領域
  • 閉鎖領域
  • 内腸骨領域

それぞれの領域のリンパ節郭清を行います。

リンパ節はリンパ管の途中にある集合地点です。リンパ節を取り残さないように切除するためには、リンパ管を含めて全て切除することが確実な方法です。リンパ管は血管の周囲の脂肪の中を走行しています。そこで実際のリンパ節郭清では、取り除きたいリンパ節がある場所で、血管の周りの脂肪をまとめて取り去ります。

7. 前立腺の手術の合併症は?

 手術は安全を期して慎重に行われますが、手術に伴う悪い結果(合併症)は0%ではありません。手術に伴う合併症について解説します。

根治的前立腺全摘除術に伴う合併症は手術の方法で若干は異なりますが、下に示した通りです。

  • 手術中の出血が多くなる(出血過多)、または手術終了後の出血(再出血)
  • 前立腺周囲の臓器(主に直腸)が傷つく(周囲臓器損傷)
  • 腸の動きが一時的にとまり内容物が溜まる(麻痺イレウス)  
  • 皮膚の下に空気がたまる(皮下気腫)
  • 足などに血液の塊ができる(深部静脈血栓症)

以下ではそれぞれについて解説し、発生した場合の対処法について説明します。

出血

前立腺は小さな臓器ですが、血流が非常に豊富です。時として思わぬ出血をきたすことがあります。前立腺は骨盤の奥にあり手術が行いにくい場所であるので、手術中に一度出血をしだすと止血に難渋することがその理由です。

前立腺がんの手術は、出血を少なく抑えられた場合には輸血が要りません。出血が多くなった場合は輸血が必要になります。輸血するかどうかは手術前には予測しにくく、輸血ができる準備をして手術を始めます。

開腹手術では輸血をすることはしばしばあります。腹腔鏡手術、特にロボット支援手術では輸血をすることは稀です。

手術は止血が十分に行われたことを確認して終了しますが、稀にしっかりと止血を行ったにも関わらず手術の後に出血し緊急の対応が必要になります。状況にもよりますが、緊急手術(止血術)が必要な場合があります。

周囲臓器の損傷

前立腺は直腸に接しています。手術で前立腺を取り除くためには、前立腺と直腸を剥がす作業が必要です。剥がすことを剥離と言います。前立腺剥離の際に直腸に傷がつくことがあります。直腸に穴が開いてしまうこともあります。これを直腸損傷と言います。

わずかな傷であれば手術中に修復し、食事の開始する時期を遅らせることで対応可能です。問題になるのは、直腸の傷や穴が大きかった場合や、手術終了後に直腸の傷や穴が見つかった場合です。この場合には、一時的な人工肛門が必要となることがあります。人工肛門は十分に直腸の傷や穴が閉じたと判断した時期で閉鎖します。人工肛門を閉鎖してからはもとの肛門から排泄できます。人工肛門を閉鎖するまでには、手術後に数か月を必要とすることがあります。

腸閉塞(麻痺性腸閉塞、麻痺性イレウス)

腸はデリケートな臓器です。お腹の手術を行うことで腸が動かなくなることがあります。前立腺がんの手術の後にしばしば発生することがあります。腸の動きが悪いことが原因なので、しばらく食事をやめて腸を休めることで改善することが多いです。腸を動かすことを助けるために漢方を用いることがあります。

腸閉塞を予防するためには歩くことや体を動かすことが効果的です。手術のあとは痛みもありますが、医師の許可する範囲で体を動かしていくことが重要です。

皮下気腫

皮膚の下にある脂肪などの組織に空気やガスが入ることを皮下気腫と言います。皮下気腫は腹腔鏡手術とロボット手術に特有の合併症です。

腹腔鏡手術やロボット手術ではお腹に開けた穴から二酸化炭素を入れて、お腹を膨らませて手術を行います。すると二酸化炭素が皮膚の下に入って留まることがあります。二酸化炭素はしだいに体内に吸収されますので、悪化する様子がなければすぐに治療せず経過観察しながら自然に治るのを待ちます。

深部静脈血栓症

手術操作の影響などで血液の流れが悪くなり、血管の中で血液が固まってしまうことがあります。特に足の静脈に血液の塊ができることがあります。これを深部静脈血栓症と言います。

血液の塊が流れていくと、肺の血管に詰まって肺塞栓症を起こすなど、致死的な状態に陥ることがあります。

深部静脈血栓症を予防するために施設によっては血液を固まりにくくする薬を使用したり、足を持続的に揉む器具を使用することがあります。

患者さんが自分でできる予防策としては歩いたりして体を動かすことが効果的です。

手術後の病理検査とは?

 手術後、摘出した前立腺やリンパ節は病理検査という検査に回ります。病理検査は取り出した組織を顕微鏡で見る検査です。ひとつひとつの細胞まで観察できるので非常に多くの情報が得られます。病理検査では以下のようなことを調べます。

  • どの程度がんが進行していたか
  • どの程度の範囲までがんが広がっていたか
  • がんは取りきれたのか

病理検査の結果は手術後2〜4週間程度で出ることが多いです。この時点で将来的に予後つまり再発の可能性にも見当がつきます。

手術で切り取ったときの切り口(断端)にがん細胞が見つかることがあります(断端陽性)。断端陽性のときは、体に残った部分にもがん細胞が残っていることが疑われます。切り口にがん細胞がないことを断端陰性と言います。あらゆる切り口が断端陰性でなければ、がんを取り切れたとは言えません。

がんが前立腺から外に出ていたり、精嚢に浸潤していたり、リンパ節に転移がある場合は特に注意が必要です。中にはすぐに治療が必要な場合があります。以下でがんが取りきれない理由、手術後に追加治療が必要または考慮される場合について解説します。

なぜがんを取りきれないことがあるのか?

前立腺がんの手術後の結果でがんが取りきれていなかったということは、しばしば見られることです。理由になりやすいことを挙げます。

  • 術前の予測よりがんが進行していた。
  • がんが大切な正常組織の近くにあり、広く切ることができなかった。

前立腺がんの手術は、尿もれなどの後遺症がつきものです。がんをしっかり取れても、尿もれがひどく生活の質が著しく低下してしまうと、手術しなければ良かったと思えてしまうかもしれません。手術時に執刀医は、後遺症をなるべく残さないように、周りの正常組織をなるべく傷付けないように手術しています。

前立腺の近くには排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)があります。前立腺を取り除くときに、尿道括約筋をどれほど犠牲にできるかはミリ単位の世界です。全ての患者さんにおいて尿道括約筋を損傷せずにがんを取りきることは難しいと言わざるを得ません。

がんを取りきれなかったと聞くとがっかりしてしまうでしょう。しかし、前立腺がんは手術で取り切れなくてもまだできることがあります。

前立腺がんには手術の後にも効果の高いホルモン療法や放射線療法などの治療が残されています。ホルモン療法や放射線療法を組み合わせることでがんを長期にコントロールすることは十分に可能です。

8. 手術後の状態と一般的な退院までの経過

前立腺がんの手術は全身麻酔で行われます。術後は問題なければ手術室にいるうちに目覚めます。全身麻酔のときには呼吸を助ける管を気管に挿入するのですが、この管も手術室で抜くことができます。

その後は手術室から集中治療室(ICU)または病棟に移動します。手術の直後は出血などの問題が発生しやすいので、慎重に経過を見ていきます。手術の直後にはドレーンと呼ばれる管がお腹に入っています。また、尿道に排尿のための管(尿道カテーテル)が挿入されています。ドレーンから出てくる液体を観察することで術後の出血などをいち早く察知することができます。

手術のあとは傷の痛みなどもあり体を動かしにくくなりますが、医師の許可の範囲内で、できるだけ体を動かしてください。

手術後1日から2日程度は絶食です(水分は許可されることが多いです)。食事を開始するときには、お腹の動きと相談しながら食事の量や種類を決めていきます。

ドレーンは、出血の危険性がないと判断した時点で抜きます。たいてい手術後2〜4日でドレーンが抜けます。ドレーンが抜ける頃に体の調子が回復に向けて加速します。この流れに乗るように歩いたり、身の回りのことを自分で行ったりしてリハビリに努めることが大事です。

7日前後に尿道カテーテルを抜きます。抜いていいかを判断するために、膀胱尿道造影という検査を行います。膀胱尿道造影では、膀胱と尿道を繋いだ場所がしっかりとくっついていることを確かめます。くっついていれば尿道カテーテルを抜去します。

尿道カテーテルを抜去した直後はほとんどの人で尿もれが起こります。退院してからも紙おむつないしは尿取りパッドを1日に数枚交換する必要があります。尿もれは時間が経つにつれて改善していきます。6か月目までは急速に回復し、その後は緩やかな改善を認め、多くの方が術後1年以内に尿取りパッドの使用枚数が1日1枚程度に落ち着いていきます。

手術で切った傷の抜糸ができると退院となります。抜糸は手術後1週間後前後に行います。

9. 手術後はどんな治療をする?

手術後の治療を決めるには病理検査の結果が重要です。

病理検査は摘出した前立腺やリンパ節を顕微鏡で見る検査です。

次のどちらかに当てはまれば、手術後からホルモン療法を開始した方が良い(余命が長くなる)ことがわかっています。

  • リンパ節に転移がある。
  • 前立腺に隣接する精嚢にがん細胞が入ってきている。

また前立腺がんが取りきれなかった場合や周囲に浸潤を示していた場合には放射線療法も有効な選択肢です。放射線治療を行うことで、余命の改善が認められるとする報告があります。

摘出標本についての説明は、多くの場合、手術後の外来で主治医から教えてもらえます。摘除した前立腺の状態はとても重要な点です。

術後のPSAの値も気になるかもしれませんが、数字で測れるPSAはあくまで指標のひとつにすぎません。

10. 前立腺がんの手術後の生活はどうなる?

手術後の1ヶ月は若干の制限がかかる場合があります。

  • 長時間の自動車の運転は避ける。
  • 自転車に乗らない。

制限の目的は、あまり激しい運動を行わないことや、縫合した場所に刺激を与えないことです。

ひとりひとりの状態に応じて主治医から指導があります。ほかの面では基本的に手術前と同じ生活が過ごせます。

ただし、手術後に尿漏れが出てしまうと生活の妨げになることがあります。次に説明します。

11. 前立腺がんの手術の後遺症とは?

前立腺がんの手術によって手術の後にみられる合併症のことをここでは後遺症とします。術中から術直後までの合併症についてはこのページですでに説明しました。

前立腺摘除に伴う後遺症は主に以下のものです。

尿もれと勃起不全は特に高い確率で発生します。

以下でそれぞれについて詳しく解説します。

尿もれ(尿失禁)

前立腺がんの手術の後にはほとんどの人が尿もれを経験します。尿もれの程度には個人差があります。手術による違いと、患者さんのもともとの状態の違いによって尿もれの程度が決まると考えられています。

手術によって、次のようなことが尿もれの原因になると考えられます。

  • 排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)の機能が弱くなる。
  • 前立腺が取り囲んでいた部分の尿道を取り除くことによって尿道が短くなる。(尿道長の短縮)

手術中は尿もれを極力少なくするように多くの試みがなされていますが、決定的な方法は確立していません。色々な要因が重なりあって手術後の尿もれの程度が決まりますので、手術前にどの程度の尿もれが発生するかを予想することは難しいのが現状です。

患者さんによっても、手術前からある次のような違いが尿もれの程度に影響します。

  • 排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)の強さ
  • 尿道の形
  • 尿道の長さ
  • 肥満

前立腺がんの手術後は1週間程度、排尿のための管(尿道カテーテル)を入れたままにしておきます。尿道カテーテルを抜くためには、手術で前立腺を取り除いたあとの場所がしっかりと繋がっていることが条件です。手術では前立腺と一緒に尿道の一部も取り除き、残った尿道と膀胱を繋ぎ直します。しっかり繋がっていなければ、尿道の途中で尿がお腹の中に漏れてしまい危険です。検査で膀胱と尿道がしっかり繋がっていることを確認した上で尿道カテーテルを抜きます。

尿道カテーテルを抜いた直後は、ほとんどの人で尿もれが起こります。尿もれは危険ではないですが、生活の負担になってしまいます。

紙おむつないしは尿取りパッドをつけて、1日に数回交換する必要があります。尿もれは時間をかけて改善していきます。6ヶ月目までは急速に回復し、その後は緩やかに改善し、多くの人が術後1年以内に尿取りパッドの使用枚数が1日1枚程度に落ち着いていきます。自然に回復が期待できるので、術後6ヶ月までの尿もれは様子を見ることが多いです。

しかしながら、尿もれの改善が満足にいかない場合もあります。手術後6ヶ月以降も尿もれの改善がみられない場合は内服薬で改善を図ります。しかし内服薬の効果については今のところ明確ではありません。つまり内服薬により効果が出る人もいれば効果がはっきりしない人もいます。

尿もれが重症と判断された場合は、手術による治療が考慮されます。根治的前立腺全摘除術後の高度な尿もれに対する手術は人工尿道括約筋(商品名:AMS-800®)埋め込み術です。人工尿道括約筋の埋め込みにより尿もれは完全にはなくなるわけではないですが、約9割程度の人が1日に1枚程度の尿パッドの使用で済むようになるとされています。1日1枚程度の尿パッドを使用する尿もれは根治的前立腺全摘除術後、順調に尿もれが改善した人とほぼ同じ程度です。

手術が向いている条件(適応)は、手術後6ヶ月経過した時点で、1日(24時間)の尿もれの量が400g以上とされています。

尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)は排尿をコントロールする筋肉です。前立腺がんの手術を行なった後は尿道括約筋の機能が弱まってしまい、尿もれを生じる原因の一つになります。人工尿道括約筋は、尿もれを防ぐ機能を人工的に行うものです。

人工尿道括約筋は3つのパーツに分かれています。

  • 尿道を圧迫する部分(シリコン、カフとも言う)
  • 圧迫に使用する液体を貯めておく部分(バルーン)
  • 人工尿道括約筋を動かすスイッチ

3つとも体内に埋め込みます。3つのパーツを埋め込むのに2箇所の傷ができます。手術では尿道の周りにシリコン(カフ)を巻きつけるように埋め込みます。

手術は入院して行います。手術に1時間から2時間ほどかかります。入院期間は1週間程度です。

手術後すぐに人工尿道括約筋を使えるようにはなりません。手術の後6-8週間程度経ってから使用を開始します。使用方法・手順の確認のために使用開始時は1泊2日程度の入院をすることがあります。尿意を感じたら陰嚢に埋め込まれた排尿のスイッチを押して排尿を行います。

 

 人工尿道括約筋の注意点を以下にあげます。

  • 尿もれが全くなくなるわけではない。
  • 機械の不具合で抜去や交換が必要になる場合がある。
  • 排尿するたびに陰嚢のスイッチを押す必要がある。
  • 機械の不具合などで排尿がしにくくなったり(排尿困難)、排尿できなくなる場合(尿閉)がある。

根治的前立腺全摘除術後の尿もれは、重度な場合なら特に生活の負担になってしまいます。人工尿道括約筋は成功率が高く、尿もれの改善を期待できる治療です。根治的前立腺全摘除術後の尿もれにお悩みの方は主治医に一度相談してみると良いでしょう。

人工尿道括約筋肉についてはメーカーが関連情報を解説したサイトを作っています。あわせてご覧ください。

http://www.incontinence.jp/

勃起不全(性機能障害)

前立腺の両脇には勃起をコントロールする神経の束(神経血管束)が存在します。前立腺がんは神経の束に浸潤することがあります。前立腺がんが神経に浸潤しているかどうかを術前に完全に予測することは困難です。実際には、がんを取り残さないために、神経の束を前立腺とともに切除することが多いです。すると手術の後に勃起ができないか、勃起しても性交には不十分な状態になります。

手術後も勃起を維持することを目的として勃起神経の束を温存することがあります。温存に向いている場合(適応)は、がんが神経の束に浸潤している可能性が低い場合です。左右の神経の束を残す方法(両側神経温存)と、がんが存在する場所が左右どちらかに偏っているときには片方のみを残す方法(片側温存)があります。神経の束を残しても勃起の機能が損なわれる場合があります。温存するべきかどうかは主治医と十分な相談が必要です。

神経を温存したにも関わらず手術の後の勃起機能の改善が不十分な場合は内服薬で勃起機能の改善を図ることがあります。陰茎リハビリテーションと言います。

尿道狭窄症

前立腺がんの手術は前立腺を膀胱と尿道から切り離し摘出する手術です。前立腺を摘除した後には膀胱と尿道をつなぎ合わせる必要があります。尿もれを起こすことが多いですが、ときには縫合した箇所が狭くなることもあります。尿道に狭い場所が発生すると、尿が出しづらい、尿が出ない(尿閉)といった症状の原因になります。尿が出ない状態が長時間続くと膀胱や腎臓に悪影響を及ぼします。このような場合は一時的に尿カテーテルを留置したり、内視鏡で尿道を広げたりすることがあります。

脱腸(鼠径ヘルニア)

前立腺がんの手術の数ヶ月後に、足の付け根の部分(鼠径部)にお腹の中の腸などが飛び出してくることがあります。いわゆる脱腸です。鼠径部(そけいぶ)から飛び出す場合を鼠径ヘルニアと言います。鼠径ヘルニアは手術による治療が必要な場合があります。

12. 前立腺がんが再発したらどうする?

前立腺がんは、手術で取りきれた場合でも再発することがあります。前立腺がんの再発には2種類あります。

  • 生化学的再発
  • 臨床再発

生化学的再発は、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAが上昇することです。臨床再発は、CT、MRI、骨シンチなどの画像診断で転移が発見された場合です。

それぞれについて説明します。

生化学的再発とは?

生化学的再発は手術後の血液検査によって判断されます。

手術後に1ヶ月以上間隔を開けてPSAを測定します。0.2ng/ml未満になるのが正常です(「ng」は「ナノグラム」と読みます。1,000,000ng = 1mgです)。

手術後に一度も0.2ng/ml未満とならなければ手術日を再発日と定義します。

手術後に一度PSAが0.2ng/ml未満となりその後上昇してきた場合は、2週間から4週間の間隔を開けてPSAを再度測定します。PSAが2回連続して0.2ng/mlを上回った場合、初回の変化日を再発日として定義します。この場合は、放射線療法による救済治療を行うか、ホルモン治療を開始することとなります。

生化学的再発となった時点で、CT、骨シンチグラフィーにより全身を調べ、再発や転移がある場所を探します。しかし、生化学的再発の時点では、多くは転移している場所を特定することは困難です。

前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAは、他の腫瘍マーカーに比べて再発をかなり初期の段階で見つけることができます。画像に写らないほど小さい再発でもPSAが上がることがあります。

手術後の生化学的再発に対しては、PSAが0.5ng/mlを越える前に放射腺療法を行うことで、余命が改善するとも報告されています。手術後は前立腺がなくなっていますが、前立腺のあった部位に放射線を照射します。

PSAの数値が上昇しても治療法があるので、慌てず、主治医と相談し方針を決定することが重要です。

生化学的再発の意味は?生存はどの程度か?

PSAで生化学的再発が見つかっても、再発の場所がわからないことは多いです。

再発の場所は、前立腺をとった部分の再発(局所再発)か、離れた臓器に転移している(遠隔転移)かに大きく分けられます。PSAだけでは局所再発と遠隔転移を見分けるのは困難です。

PSAは再発があればかなり早くに異常値を示します。画像検査では見えないほど小さい再発や転移でもPSAは反応します。このためPSAの異常を見つけて画像検査をしても場所が特定できないことはよくあります。

手術後再発したときの生存期間は人によって差があり、正確に予測できません。再発後に開始されるホルモン療法や放射線療法によっても大きく影響されると考えられます。再発後でもホルモン療法や放射線療法の治療効果は高く、長い余命を達成することはまれではありません。

PSAが術後も低下しない場合(特殊な場合)

PSAが術後も低下しない場合があります。術後に0.2ng/ml以下に下がらないときは、手術した日を生化学的再発日と定義します。

ホルモン療法や放射線療法を追加治療で行うことでPSAを順調に下げることも可能です。

臨床再発とは?

臨床再発は画像上、転移している部位が指摘できる場合です。前立腺がんが転移しやすいのは以下の臓器です。

  • リンパ節
  • 肝臓

手術前のがんの程度にもよりますが、生化学的再発から臨床再発までの期間は5年から8年とも言われています(JAMA 1999;281:1591-1597)。

多くの場合、臨床再発の前にPSAの上昇が始まります。臨床再発が見つかるときは、すでに生化学的再発の状態にあり、ホルモン療法が開始されていることが多いです。CT、骨シンチなどの画像検査で転移が見つかると臨床再発と診断されます。ほかの場所に転移がないか全身評価を行った上で治療を選びます。

臨床再発を認めた場合は主に2つの治療選択があります。

  • 抗がん剤治療に移行する
  • ホルモン療法で使用する薬を変更する

すでにホルモン療法が行われて、臨床再発を認めた場合は、がんがホルモン療法に対して抵抗性を獲得していると考えられます。実際に行われるのは、抗がん剤治療に移行することのほうが多いと考えられます。抗がん剤については「前立腺がんの治療法は?」、ホルモン療法については「前立腺がんのホルモン療法とは?」で解説しています。

全身評価を行ったうえで骨に転移を認め疼痛などの症状がある場合や脊椎に転移があり神経への影響が懸念される場合は放射線療法を行うことがあります。転移に対する治療は「前立腺がんのステージとは?」でも解説しています。

前立腺がんの再発率は?

前立腺がんの手術の再発率は、リスク分類によって大まかに予測できます。

リスク分類ごとの5年の生化学的再発率の大まかな値は以下です。

  • 低リスク:10-20%が5年間に生化学的再発あり
  • 中間リスク:40%が5年間に生化学的再発あり
  • 高リスク:60-70%が5年間に生化学的再発あり

生化学的再発率は死亡率ではありません。低リスク前立腺がんで言うと、手術後にPSAが下がったままの状態が5年間続く人が90%、5年以内にPSAが異常値を示して生化学的再発と診断される人が10%という意味です。

この数字は1998年の報告を参照したものです。以後の治療の進歩により、現在はもう少し再発が少なくなっている可能性もあります。

生化学的再発があっても再発後の治療をして長生きする人はいます。治療法として放射線療法やホルモン療法があります。

参照:JAMA 1998;280:969-974.