ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。高齢化が進む日本では患者数が急増している。
12人の医師がチェック 329回の改訂 最終更新: 2024.03.08

前立腺がんのステージ:ステージやリスク分類、グリソンスコアなどの解説

前立腺がんの進行度を表す方法としてステージがあります。ステージが進むほど、病気が進行していることになるので、生存率が下がります。
また、前立腺がんには再発のしやすさの目安として、ステージとは別にリスク分類というものがあり、治療を決める上で参考にします。

1. 前立腺がんのステージについて

前立腺がんのステージの決め方には2種類あります。

【前立腺がんのステージ分類の方法】

  • TNM分類
  • ABCD分類

TNM分類は進行度をステージIからステージIVの4つに大別します。ABCD分類でも進行度を4つに大別しますが、表現の仕方がABCDの4つのアルファベットが用いられる点が異なります。ABCD分類がよく用いられることもありましたが、最近ではTNM分類を使うことが多くなっています。

TNM分類について

TNM分類とは前立腺でのがんの広がり(T分類)、リンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)により進行度を評価する方法です。

■T分類

T分類は前立腺でのがんの広がりを表したものです。 がんの広がりは診察(直腸診)や、超音波検査MRI検査によってを用いて前立腺の局所を評価します。以下は詳細な内容なので読み飛ばしても問題はありません。

  • TX:原発腫瘍の評価が不可能
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • T1:触知不能、または画像診断不可能な臨床的に明らかでない腫瘍
    • T1a:組織学的に切除組織の5%以下の偶発的に発見される腫瘍
    • T1b:組織学的に切除組織の5%をこえる偶発的に発見される腫瘍
    • T1c:針生検により確認される腫瘍(たとえば、PSAの上昇による)
  • T2:前立腺に限局する腫瘍
    • T2a:片葉の1/2以内の進展
    • T2b:片葉の1/2をこえ広がるが、両葉には及ばない
    • T2c:両葉への進展

※針生検により片葉、または両葉に発見されるが、触知不能、また画像では診断できない腫瘍はT1cに分類する

  • T3:前立腺被膜をこえて進展する腫瘍
    • T3a:被膜外へ進展する腫瘍(一側性、または両側性)、顕微鏡的な膀胱頸部への浸潤を含む
    • T3b:精嚢に浸潤する腫瘍

※前立腺尖部、または前立腺被膜内への浸潤(ただし、被膜をこえない)はT3ではなく、T2に分類する

  • T4:精嚢以外の隣接組織(外括約筋、直腸、挙筋、および/または骨盤壁)に固定、または浸潤する腫瘍

前立腺がんが進行すると大きくなることが多く、次いで周りの組織に入り込むようにして広がっていきます。がんが周りの組織に広がることを浸潤と言います。

■N分類

N分類はリンパ節への転移の有無を表したものです。リンパ節転移がある場合はない場合に比べて治療が変わります。N分類の評価は主に画像検査(CT検査やMRI検査など)を用います。

  • NX:所属リンパ節転移の評価が不可能
  • N0:所属リンパ節転移なし
  • N1:所属リンパ節転移あり

所属リンパ節とは前立腺から流れ出たリンパ液が行きつきやすいリンパ節のことで、所属リンパ節の場所は決まっています。がん細胞がリンパ液の流れに乗ってリンパ節に入り込むと、その場に定着して増殖を始めることがあります。これがリンパ節転移です。リンパ節転移でも、所属リンパ節ではない離れた場所のリンパ節に転移がある場合は、次のM分類で評価されます。

■M分類

M分類は前立腺から離れた場所への転移(遠隔転移)があるかどうかを表したものです。同じ転移でも、所属リンパ節のリンパ節転移は遠隔転移には含めません。

  • MX:遠隔転移の評価が不可能
  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移あり
    • M1a:所属リンパ節以外のリンパ節転移
    • M1b:骨転移
    • M1c:リンパ節、骨以外の転移

遠隔転移はCT検査や骨シンチグラフィで調べます。遠隔転移がある人には根治的な治療(根治的前立腺全摘除術、放射線治療)は勧められないので、リンパ節転移と並んで、治療法を決める上で重要な検査です。

ABCD分類について

ABCD分類はJewett Staging Systemという臨床病期の別名です。分類に曖昧な点があり、現在はTNM分類が用いられることが多いです。

  • 病期A:臨床的に前立腺がんと診断されず、偶然に前立腺肥大症などの他の病気に対する手術標本で前立腺がんが発見された前立腺に限局するがん
    • A1:限局性の高分化がん
    • A2:びまん性病変または中〜高分化がん
  • 病期B:前立腺内に限局するがん
    • B0:触診では触れず、PSA高値で精査され組織学的に診断されたもの
    • B1:片葉の単発腫瘍
    • B2:片葉全体または両葉にまたがる腫瘍
  • 病期C:転移はないが、がんが前立腺被膜を超えているか、精嚢に浸潤するもの
    • C1:臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの
    • C2:膀胱頸部あるいは尿管の閉塞をきたしたもの。転移はない。 
  • 病期D:転移を有するもの
    • D1:所属リンパ節に転移を有するもの
    • D2:所属リンパ節以外のリンパ節転移、膀胱頸部以外の膀胱、直腸などの隣接臓器への浸潤、骨、肺、肝などの臓器への転移が認められる。
    • D3:D2に対する適切な内分泌療法の再燃

現在でもTNM分類に併記される形で、ABCD分類が使われることがあります。

2. 前立腺がんのステージごとの生存率について

がんの統計'23』(がん研究振興財団)によると、前立腺がんの5年生存率は以下のとおりです。

【ステージごとの生存率(実測生存率:2013年-2014年診断例)】

ステージ 5年生存率
ステージⅠ

89.6%

ステージⅡ

91.1%

ステージⅢ 86.2%
ステージⅣ 51.2%

前立腺がんは早期発見し、しっかりとした治療を行うことができれば生存率が高いがんです(予後良好)。また、ステージ別の生存率からは読み取るのは難しいのですが、転移した人や再発した人でもホルモン療法や放射線療法などの治療によって長期の生存が可能となることは少なくありません。

3. リスク分類とは?

前立腺がんはステージとは別にリスク分類という方法でも評価されます。リスク分類は次の3つの項目を基準に当てはめることによって行われます。

【リスク分類で用いる項目】

  • 前立腺でのがんの広がり
  • 診断時のPSA値
  • グリソンスコア

リスク分類は治療の効果を予測するための方法です。
前立腺がんはリスク分類により、低リスク・中間リスク・高リスクの3つに分けられ、低リスクであるほど手術や放射線治療による根治的治療後も再発しにくいと考えられます。

リスク分類にはいくつかの種類がありますが、ここでは最も普及しているD’Amico分類とNCCN分類について示します。

【D'Amico分類】

- PSA[ng/ml] グリソンスコア T分類
低リスク 10以下 6 cT2a以下
中間リスク 10-20 7 cT2b
高リスク 20を超える 8-10 cT2c
  • 低リスクはすべての条件を満たすことが必要
  • 高リスクは1因子でも満たせば、高リスクとなる
  • 中間リスクは、低高リスク以外に分類されるもの

【NCCN分類】

- PSA[ng/ml] グリソンスコア T分類
低リスク 10未満 6 cT2a以下
中間リスク 10-20 7 cT2b-cT2c
高リスク 20を超える 8-10 cT3a
  • T分類は直腸診による。
  • 超低リスク(very low risk)は、低リスクの中でcT1c、陽性本数が3本未満、各生検スコアの占拠率が50%以下、PSA density(PSAD)が0.15未満のものを指す。
  • 超高リスク(very high risk)は、cT3b以上、primary Gleason patternが5、またはGleasonスコア8-10の陽性生検本数が5本以上を指す。

リスク分類を調べることでそれぞの状態での適切な治療法を選ぶ目安になります。詳しくは「前立腺がんの治療の選び方」を参考にしてください。

参考:
がんの統計'23
前立腺がん診療ガイドライン
「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
UICC TNM分類 第7版、2009年
NCCNガイドライン2016年度版 Ver. 2
JAMA. 1998:280:969-74.