ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。高齢化が進む日本では患者数が急増している。
12人の医師がチェック 329回の改訂 最終更新: 2024.03.08

前立腺がんの放射線療法:外照射・トリモダリティ治療・治療の効果・後遺症・再発などについて

放射線治療は前立腺がんの根治が期待できる治療方法です。その効果は手術と同等と考えられています。前立腺がんの放射線治療の方法には、外照射・組織内照射・トリモダリティ治療(外照射と組織内照射とホルモン治療を組み合わせた方法)の3つがあります。 根治を目的とした治療以外でも放射線治療を行うことがあります。例えば骨に転移した部位に、痛みやしびれを軽減する目的で放射線を照射することがあります。

1. 放射線治療とは?

前立腺がんの根治的治療(がんを治す治療)には手術と放射線治療があります。放射線治療の効果は、手術と同等だと考えられているので、基本的にはどちらでも選ぶことができます。放射線治療は、骨などに転移して痛みやしびれなどを起こしている人の症状を緩和する目的でも行われます。

前立腺がんの放射線治療にはいくつか種類があります。

【前立腺がんの放射線治療】

  • 外照射
  • 内照射:小線源療法(組織内照射)
  • トリモダリティ(外照射と内照射、ホルモン治療の併用)
  • 陽子線治療
  • 重粒子線治療

それぞれの特徴について個別に説明します。

2. 外照射

外照射は放射線を身体の外から当てる治療の方法を指します。外来治療として行われることが多いです。1回あたりの治療時間は20分程度で、36回から40回の通院が必要です。

専門的な話になりますが、放射線治療で用いる放射線の量をGy(グレイ)という単位で表します。前立腺がんの放射線治療は72-80Gyの照射線量が必要です。一度に照射すると正常組織への影響が強くなってしまうので、1回の照射線量は2Gy程度に分散させることが多く、そのため36回から40回の通院が必要になります。休日を考慮すると治療を完了するまでに2か月程度を要します。 また、前立腺がんの悪性度が高くないタイプでは、一回に照射する放射線の量を増加させて短期間で治療を終える方法(寡分割照射・超寡分割照射)もあります。行えるかどうかは医療機関ごとで異なるので、興味がある人は治療を検討している医療機関で確認してみてください。

外照射が行える人

前立腺がんでは悪性度によって適した治療法が異なりますが(詳しくは「こちらのページ」を参考にしてください)、外照射は悪性度によらず選ぶことができます。言い換えると、低リスク・中間リスク・高リスクの全ての人が外照射の対象になります。 低リスクの人では必要となる放射線の量が少なくて済んだり、反対に高リスクの人ではホルモン治療を合わせて行う必要があったりと、リスク分類ごとで方法に若干の違いがあります。

外照射の副作用(有害事象)について

放射線を多く当てれば当てるほど効果が高くなりますが、正常な組織への影響も同時に強くなります。(放射線治療によってあらわれる身体に不都合な症状を有害事象と言いますが、分かりやすさを重視して副作用と呼ぶことにします。) そのため、治療に使える放射線の量には制限がありますが、放射線の量を守ったとしても一定の確率で副作用があらわれてしまいます。具体的には次のような症状が副作用としてあらわれます。

【前立腺がんの外照射治療による副作用(有害事象)】

  • 治療後3ヶ月以内にあらわれやすい副作用(急性期有害事象)
    • 頻尿
    • 排尿時痛
    • 下痢
  • 治療後3ヶ月以降にあらわれやすい副作用(晩期有害事象)
    • 血便(直腸出血)
    • 勃起不全

副作用は徐々に改善していくので、症状を和らげる薬などを使ってコントロールしていきます。急ぎで対応が必要な副作用は多くはありませんが、直腸出血は危険な状態に陥ることがあるので注意が必要です。血便があった人はすみやかに医療機関を受診してください。

強度変調放射線治療(IMRT:アイエムアールティー)について

IMRTという方法の放射線治療が普及してきています。IMRTは外照射の一種ですが、正常組織に当たる放射線を極力少なくすることができるので、副作用を少なくする効果が期待されています。

前立腺がんの強度変調放射線治療(IMRT:アイエムアールティー)について

少しだけIMRTについて詳しく説明します。

放射線は直進する性質があります。このため、がんを狙って放射線照射をすると、放射線が通る前後の正常組織にも放射線が当たってしまいます。そこで、正常組織への影響をできるだけ少なくするために考えられたのが、複数の方向から少しずつに分けて照射する方法です。がん細胞のある位置に照射範囲が重なるように当てることで、狙った部位での照射線量を増やしながら、正常組織に当たる線量を減らせます。

IMRTでは、複数方向からの照射に加えて、照射方向ごとに線量の強弱をつけることによって、照射範囲をデコボコした前立腺の形とうまく一致させることができます。

まとめると、強度変調放射線治療(IMRT)は、線量の強弱をつけた方法なので、治療効果を上げつつも、副作用を抑える効果が期待できます。

3. 組織内照射(内照射・小線源療法)

組織内照射(内照射)は小線源療法とも呼ばれます。正式には「密封小線源療法」といいます。これは前立腺の中から放射線を照射する治療法です。小線源療法でも外照射と同じく、放射線によってがん細胞を死滅させます。

前立腺がんの組織内照射(内照射):密封小線源療法

© Cancer Research UK uploader – Diagram showing how you have high dose brachytherapy for prostate cancer (2015 CC BY-SA 4.0) / Adapted by MEDLEY Inc.

一般的な内照射では前立腺にヨード125という放射性物質を埋め込みます。ヨード125は前立腺の中で少しずつ放射線を出し続けます。

組織内照射が行える人

内照射を行う条件は施設により異なっていますが、低リスクの前立腺がんの人に対して行う施設が多いです。低リスクの前立腺がんに対する治療効果は、内照射と手術とで同等と考えられています。 中間リスク・高リスクの人には内照射に外照射を加えた方法や、さらにホルモン治療を加えた方法(トリモダリティ治療)が必要になります。トリモダリティ治療については後述します。 リスク分類で内照射の条件に当てはまったとしても、前立腺が極端に大きい人には内照射による治療ができないことがあるので注意が必要です。

なお、前立腺がんのリスク分類は「前立腺がんのステージとは?」で説明しているので参考にしてください。

組織内照射の副作用(有害事象)

内照射にも外照射同様に副作用があります。具体的には次のとおりです。

【前立腺がんの外照射治療による副作用(有害事象)】

  • 直腸出血
  • 勃起機能の低下
  • 頻尿
  • 排尿時痛
  • 尿意切迫感
  • 排尿困難

副作用の多くは一時的で、時間の経過と共に改善していきます。一方で、直腸出血はすみやかに治療をしないと、命に危険が及ぶことがあります。便に血が混じるなどの疑わしい症状があらわれた人は、すぐに医療機関を受診してください。

また、内照射は手術や外照射に比べて勃起機能への影響が少ないと考えられてはいますが、時間が経っても勃起機能が回復しないことは珍しくはありません。勃起機能改善薬の使用については担当のお医者さんと相談してください。

副作用以外にも注意点があります。それは、埋め込まれた放射線が与える周囲への影響です。内照射で使われるヨード125は前立腺の中に埋め込まれてるとはいえ、周りにも少量の放射線が漏れ出てしまいます。排尿時や子どもとの接触などに注意点があるので、担当医からの説明をよく聞いてください。

放射線と聞くと不安になると思いますが、放出される放射線量は時間とともに減少していき、すぐに周囲に影響が心配ないレベルに落ち着くので安心してください。

4. トリモダリティ治療(外照射と組織内照射とホルモン治療を組み合わせた方法)

トリモダリティ(trimodarity)治療とは外照射・組織内照射(小線源療法)・ホルモン治療の3つを組み合わせた治療です。高リスクの前立腺がんの人に合った治療法だと考えられています。高リスク前立腺がんは細胞レベルでは前立腺の周囲にまで広がっていることが少なくありません。そこで、外照射と内照射を組み合わせることによって前立腺とその周囲に高い放射線量を浴びせることができ、その効果でがん細胞を死滅させる可能性が上がると考えられています。治療効果は手術や外照射(ホルモン治療併用)と同等と考えられています。

副作用については、外照射や内照射、ホルモン治療について記述した箇所を参考にしてください。ホルモン治療については「こちらのページ」です。

5. 陽子線治療と重粒子線治療

放射線治療の中でも特殊なものとして、陽子線治療と重粒子線治療があります。

陽子線治療

陽子線は放射線の一種です。専門的には水素原子から電子を取り除いたものを高速に加速したものが陽子線です。陽子線は体内に入っても表面近くではエネルギーをあまり放出せずに、停止する直前にエネルギーを放出します。この陽子線の性質を利用して照射することで、周囲の臓器への影響(副作用)を抑えることができるとされています。

重粒子線治療

重粒子線も放射線の一種です。重粒子線とは、炭素イオンを加速器により光速の70%程度まで加速させたものです。陽子線と同様に重粒子線も体内に入っても表面近くではあまりエネルギーを放出せずに、停止する直前にエネルギーを放出します。この重粒子線の性質を利用して照射することで、周囲の臓器への影響(副作用)を抑えることができるとされています。

6. 放射線治療にともなう疑問について

放射線治療についてよくある疑問をまとめます。

ホルモン治療を同時に行うのはどんな場合か

前立腺がんは男性ホルモンがある環境下で増殖しやすくなるので、男性ホルモンの分泌を抑えるホルモン治療が効果的です。悪性度が高い前立腺がんに、放射線とホルモン治療を組み合わせた治療を行うと、再発率が低下することが分かっています。

効果が高くなるとはいえ、放射線治療を行う全ての人にホルモン治療が必要ではありません。ホルモン治療には副作用もあるので、必要のない人には行わないほうが良いです。具体的には、低リスクの前立腺がんに放射線治療を行う場合は、ホルモン治療の必要はありません。 放射線治療に合わせて行われるホルモン治療は、放射線治療が始まる6ヶ月前から開始され、放射線治療が終わった後もしばらく継続されます。

放射線治療の影響で他のがんになる心配はないのか

放射線と聞くと発がんが心配になる人は多いかもしれません。確かに大量の放射線を浴びると発がんにつながることがあります。

前立腺がんの放射線治療の影響で発がんの可能性があるのは主に直腸と膀胱です。がんを発症する危険性が高まると報告した研究が過去にあります。一方で、現在は放射線の照射技術が向上しているので、前立腺がんの放射線治療で明らかに発がんの危険性が高まる可能性は少ないという意見も多く見られます。

どの場合でも、膀胱がん直腸がんは発生しない人が大多数です。すでに見つかっている前立腺がんを治療する効果と比較すれば、ほかのがんが発生する危険性を理由に放射線治療をためらうほどではないとも考えられます。どうしても発がん懸念がある人は手術やホルモン治療など他の治療法に目を向けてもよいかもしれません。

放射線治療後の再発はどのように見つけるか

前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAを上手に使うと、再発を早期に発見することができます。他のがんでは、CT検査などの画像検査で転移を確認した時を再発とすることが多いのですが、前立腺がんでは画像検査で見つかる前にPSAの値の上昇から再発を発見できます。 PSAの上昇によって定義される再発を生化学的再発と呼びます。具体的には、放射線治療で根治的治療を行なった場合、PSAが治療後一番低かった数値から2.0ng/mL上昇した時点で再発とします。再発の定義は手術を行った場合やホルモン療法とは異なります。この点には注意が必要です

生化学的再発はごく初期の再発であるのに対して、CT検査やMRI検査などの画像検査で再発がみつかった場合を臨床再発と呼びます。生化学的再発後に治療をせずに経過をみた場合、平均で5年後に臨床再発に発展したという報告があります。放射線治療後、PSAが上昇して、主治医から再発と告げられた場合、急いで治療にとりかかりたい気持ちに駆られるかもしれません。しかし、前立腺がんは多くの場合、再発しても進行は緩やかです。慌てず、対応をお医者さんとよく相談することが重要です。

放射線治療後の再発に対する治療

放射線治療後の再発に対する治療法は下記になります。

【前立腺がんの放射線治療後の治療】

  • 手術
  • 放射線治療を追加
  • ホルモン治療

根治的治療後の再発に対して再び根治を目的として行う治療を救済療法と呼びます。放射線治療後の再発に対して根治(がんを治すこと)を狙えるのは手術と放射線治療です。

放射線治療を行うと前立腺の周囲の臓器が放射線の影響で互いに癒着するため、救済療法としての手術は、通常の手術に比べて、合併症のリスクが高くなります。

一方で、放射線治療後にさらに放射線治療を追加する方法は、手術と同様に周囲の臓器への影響が大きいと考えられますが、まとまった報告がないためはっきりとした効果や副作用についてはわかっていません。

救済療法では根治を再び狙えますが、合併症などの危険性が高いため、一般的にはホルモン療法で治療を行うことが多いです。男性ホルモンを減らすホルモン治療には高い効果が期待できますが、がんの増殖を抑えることはできても根治は期待できません。がんが大きくならないように様子を見ながらがんと上手に付き合っていくことになります。

参考文献

日本泌尿器科学会/著, 「前立腺癌診療ガイドライン2023年版」, メディカルレビュー社 , 2023 赤座英之/監, 「標準泌尿器科学」, 医学書院, 2014