ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。日本でも高齢化とともに患者数が急増している。
12人の医師がチェック 207回の改訂 最終更新: 2020.06.14

前立腺がんの治療の選び方:手術、放射線療法、薬物療法の選び方と再発時の治療

前立腺がんの治療法には手術と放射線治療ホルモン療法、抗がん剤治療などがあります。また、前立腺がんが見つかってもすぐには治療を行わずに、様子を見るPSA監視療法もあります。多様な治療法の中から自分に適したものを見つけるポイントについて説明していきます。

1. 前立腺がんの治療法はどうやって選ぶ?

前立腺がんの治療には次の方法があります。

  • PSA監視療法
  • 手術
  • 放射線治療
    • 外照射
    • 内照射(組織内照射)
  • 薬物治療
    • ホルモン療法
    • 抗がん剤治療

これらの治療法の効果や役割は同じではありません。がんの進行度や悪性度を踏まえた上で、最適なものが選ばれます。

前立腺がんは進行度をもとにすると、「限局がん」「局所進行がん」「転移がん」の3つに分けられます。進行度はいわゆるステージと似たものです。
また、再発のしやすさの目安として、リスク分類が用いられます。

【進行度・リスク分類をもとにした治療法の選び方】

限局がん

前立腺にがんが留まった状態を限局がんと言います。限局がんは次の3つの項目を基準にして、「低リスク」「中間リスク」「高リスク」の3つに分類されます。

  • 前立腺でのがんの広がり
  • 診断時のPSA値
  • グリソンスコア

リスク分類によって、適した治療が異なります。

■低リスク

低リスクの前立腺がんは、がんの悪性度が低く、広がりも小さいので、手術や放射線治療で治る可能性が高いです。一方で、低リスクの前立腺がんは進行が緩やかで、周りに影響を及ぼすまでにも時間があるので、治療しなくても命に影響を与えないこともあります。このため、低リスクの中でも特に危険性が低いと考えられる人にはPSA監視療法と言って、がんが進行するのを待ってから治療をする方法を選択することができます。

■中間リスク

中間リスクの前立腺がんはがんが周りには広がってはいないものの、高リスクに比べるとその広がりは大きくはありません。このため、手術や放射線治療で十分治る可能性があります。広がりは大きくはないとはいえ、周りの臓器に影響を及ぼす手前の段階なので、低リスクの状態と違って、PSA監視療法は行うことはできません。

■高リスク

高リスクの前立腺がんはがんが周りに広がっている状態または、悪性度が高い前立腺がんです。手術では取りきるのが簡単ではない場合があるので、放射線治療が選ばれることが多いです。また、再発率を下げるために放射線治療の前後でホルモン療法が行われるのが一般的です。

局所進行がん

局所進行がんは周りへ大きく広がった状態です。具体的には、前立腺に隣り合った精嚢にもがんが及んでいます。高リスクと同様に手術で取りきるのは難しいと考えられており、ホルモン療法を併用した放射線治療が行われます。

転移がん

転移がんは前立腺がんがリンパ節や他の臓器(肺や骨、肝臓など)に転移をした状態です。転移をしている状態は全身にがんが広がっている可能性が高いと考えられるので、手術や放射線治療といった前立腺だけの治療では不十分と考えられます。手術や放射線治療ではなく、全身を治療できる薬物療法(ホルモン療法や抗がん剤治療)が適してると考えられています。

次にそれぞれの治療の概要について説明していきます。

2. PSA監視療法について

監視療法とは前立腺がんを診断してもすぐには治療せず、治療を行うべき時まで経過観察を行う方法のことです。具体的には、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査や前立腺生検を定期的に行い、根治的治療の最適なタイミングを計ります。

■どんな人が監視療法に向いているのか

全ての人に監視療法ができるわけではありません。「転移がない人」でかつ「進行が緩やかであると可能性が高い人」には監視療法が選択肢となります。

詳しい条件は次のものです。

  • PSAが10ng/ml以下
  • がんの病変MRIで指摘できないまたは確実に前立腺内に留まっている
  • グリソンスコアが6以下
  • 前立腺生検でがんが検出されたのが2箇所以下
  • PSA[ng/ml]÷前立腺の体積[cm3]が0.2以下

PSAの検査値は、血液中のPSAの濃度で、グリソンスコアは前立腺生検によってわかるものでがんの悪性度と強く相関があります。PSAやグリソンスコアについては「前立腺がんの検査」で説明しています。

■監視療法中はどう過ごすのか

監視療法中は、3ヶ月から6ヶ月毎に直腸診と前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの測定が行われます。直腸診やPSAはがんが進行していないかを確認する目安になります。

また、1年から3年ごとに前立腺生検を行い、より詳しく「悪性度(グリソンスコア)」や「広がり(検出量)」の変化が調べられます。生検の結果、「がんの検出量」が増えたり、「グリソンスコア」が高くなっていたりする人は手術や放射線治療が検討されます。

■監視療法に心配はないのか

慎重に経過を見ながら、根治的治療(手術・放射線治療)のタイミングをうかがう監視療法はリスクの低い前立腺がんに対して行うことができ、その間は根治療法にともなう身体への負担がありません。一方で、がんが治るわけではないため、治療を先送りにすることに不安を覚える人もいます。監視療法はがんの進行が極めて緩やかで、生命に影響を及ぼさないと考えられる人に行うものですが、命に危険が及ばないとは言い切れません。監視療法を選びたいものの、がんの進行などの懸念点がある人は、納得できるまでお医者さんと話し合ったうえで監視療法を行うかどうかを決めてください。

3. 前立腺がんの手術や放射線治療について

手術放射線治療は前立腺がんにおいて根治的治療と呼ばれることがあります。根治的治療とはがん細胞を体内から取り去るまたは死滅させることを目的とした治療のことを指します。

根治的治療について

手術では前立腺をすべて摘除することによりがんを体内からなくし、放射線治療は放射線によってがん細胞を死滅させます。手術と放射線治療の効果はほとんど同等と考えられています。ただし根治的治療とはいえ、すべての人で完治するわけではなく、再発してしまう人は一定数います。(手術と放射線治療に関しての詳しい説明は「前立腺がんの手術」と「前立腺がんの放射線治療」を参考にしてください。)

根治療法が向かない人について

身体のコンディションやがんの状態によっては根治的治療が向かない人もいます。

【根治治療が向かないと考えられる人】

  • がんが転移している人
  • 75歳以上の高齢者でかつ前立腺がんが余命に影響しないと考えられる人
  • 全身状態が悪い人 

以上に該当する人には、根治的治療を行っても得られるメリットが少ないため、原則として根治的治療が検討されることはありません。
 

■がんが転移している人
前立腺がんが転移している人は、前立腺だけを治療しても効果が小さいです。転移をしている部位の治療も必要です。前立腺自体と転移巣の両方を治療するには、手術や放射線治療より、ホルモン療法が理にかなっています。ホルモン療法で使われる薬は血液に乗って全身に届くので、前立腺だけではなく転移をしている部位でも効果が現れます。

■75歳以上の高齢者でかつ前立腺がんが余命に影響しないと考えられる人
根治的治療では後遺症を伴うことが多いので、高齢者には根治的治療より身体の負担が少ないホルモン療法が行われることが多いです。ホルモン療法でがんの進行をある程度抑えられれば、効果は十分と考えられます。
ただし、現在の超高齢社会では、高齢者の定義が見直されつつあります。また、年齢よりも身体の状態を評価したうえで治療を選択するという考え方にもとづいて高齢者でも積極的に根治治療を検討することがあります。 高齢者の健康状態を評価する方法として、注目されている国際老年腫瘍学会の評価方法を紹介します。

項目 スコア
食欲不振、消化問題、噛むことまたは嚥下困難により過去3か月で食事量が減ったか 0:著しい減少
1:中等度の減少
2:正常
最近3か月間の体重減少 0:3kgを超える減少
1:わからない
2:1-3kgの減少
3:減少なし
可動性 0:ベッドや椅子の上での動作
1:ベッドや椅子から動けるが、外出しない
2:外出する
神経心理的障害 0:重度の認知症、うつ
1:軽度の認知症、うつ
2:心理的問題なし
BMI(体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]) 0:BMI<19
1:19≦BMI<21
2:21≦BMI<23
3:23≦BMI
1日3剤を超える服薬 0:している
1:していない
同じ年齢のほかの人と比べて、患者自身は自分の健康状態をどのように捉えているか 0:よくない
0.5:わからない
1:よい
2:ほかの人よりよい
年齢 0:85歳を超える
1:80-85歳
2:80歳未満

*スコアの合計が14点以下ならば健康状態に問題ありとする

高齢者に対する根治的治療は一般的ではありませんが、今後高齢者でも根治的治療を行うべきと判断されるケースが増える可能性はあると思われます。

■全身状態が悪い人
持病などのために手術や放射線治療に身体が耐えられないと考えられる人には、ホルモン治療が中心になります。

4. 前立腺がんのホルモン療法について

一般的に、根治的治療(手術、放射線治療)が向かない人には、ホルモン療法が行われます。手術や放射線治療のようにがん細胞をなくしたり死滅させることができませんが、ホルモン療法ではがんが大きくなるのを抑えたり、小さくすることができます。 ホルモン療法について詳しくは「前立腺がんのホルモン療法とは?」で解説します。

5. 前立腺がんが再発した時の治療は?

前立腺がんの再発には2種類あります。

  • 生化学的再発
  • 臨床再発

生化学的再発とはPSAの上昇だけの再発を指します。一方で、臨床再発はCT検査やMRI検査などの画像診断で再発が確認された場合を指します。生化学的再発の後しばらくして臨床再発が起こりますが、その間の期間は5年から8年程度と言われています。

生化学的再発の定義と治療

生化学的再発の定義は手術、放射線治療、ホルモン療法を行った場合で異なります。

■手術療法後の生化学的再発の定義と治療

手術後には再発の有無を確認するために、繰り返し血液検査でPSA値を測定します。手術後1ヶ月以上間隔を開けて最初のPSA測定を行います。以後は2週間から4週間の間隔を開けて繰り返しPSAを測定します。PSAの基準値は0.2ng/mLなので、PSAがずっと0.2ng/mLを下回っていれば再発をしていないと考えられます。

次のどちらかに当てはまれば生化学的再発と診断します。

  • 手術後1ヶ月以上間隔を開けてはじめて測定したPSAが0.2ng/mL以上となる
    • 手術日を再発日とする
  • 手術後にPSAが0.2ng/mL未満となり、その後2週間から4週間の間隔を開けて測定したPSAが2回連続して0.2ng/mL以上となる
    • 連続して0.2ng/mL以上となった日のうち1回目にPSAが0.2ng/mL以上となった日を再発日とする

手術後の生化学的再発が診断された場合は、放射線治療を行うかもしくは、ホルモン治療が行われます。

■放射線治療後の生化学的再発の定義と治療

放射線による根治的治療を行った場合は、照射後のPSAが最も低い値から2ng/mL上昇した日を再発日と定義します。

放射線治療の場合には照射直後にPSAが一過性に上昇する現象(PSAバウンス)がみられることがあり、これは再発ではありません。再発なのかPSAバウンスなのかは経過をみながら判断する必要があります。

放射線治療した人のうち約5%にPSAバウンスが見られ、年齢が低いほど見られやすい傾向があるという意見があります。PSAバウンスが起きやすいのは治療後、約2年弱(21ヶ月)とされています。治療後21ヶ月以内にPSAが上昇しても慌てる必要はなく、PSA値の変動を数回見られます。 放射線治療後に再発を認めた場合は、ホルモン療法を行うか、もしくは経過観察を行うことが一般的ですが、再度根治を狙って手術や放射線治療を追加で行うこともあります。

■ホルモン療法後の生化学的再発の定義と治療

ホルモン療法後の生化学的再発は、PSAの最低値から2ng/mlの上昇が、2~4週間の間隔を開けた測定で連続して認められた場合と定義されます。ホルモン療法後に生化学的再発が認められた場合にはホルモン剤の変更もしくは抗がん剤による治療を考えます。

臨床再発の定義と治療

臨床再発の定義はどの治療法を行った後でも共通しています。

CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィーなどの画像診断で転移が確認された状態が臨床再発です。臨床再発した人に対しては基本的にホルモン療法が行われます。すでにホルモン療法が行われていて転移が確認された場合は、新規ホルモン薬や抗がん剤による治療が行われます。

6. 転移した前立腺がんの治療について

前立腺がんは転移をすることがあります。主に骨や肝臓、肺、リンパ節に転移します。転移をした場合の治療はホルモン療法や抗がん剤治療が中心になりますが、骨転移ではホルモン療法や抗がん剤治療だけではなく、骨を強くする薬などが用いられます。

ホルモン療法や抗がん剤治療については「こちらのページ」を参考にしてもらい、この後は、骨転移に特有の治療法について説明します。

骨転移の治療について

前立腺がん骨転移の治療では、他の場所に転移をした場合と同様にまずホルモン療法を行われ、高い効果が期待できます。ホルモン療法をすでに行っていて効果が小さくなっている人には抗がん剤治療が行われます。脊椎背骨)に転移がある人では、薬物療法(ホルモン療法と抗がん剤治療)に加えて放射線治療も行われます。

ホルモン療法の副作用として骨粗しょう症があります。前立腺がんで骨転移がある場合は、骨転移の治療を進めると同時に骨粗しょう症などの予防もすることが重要です。

骨転移の治療薬としては、骨粗鬆症の予防にとしてビスホスホネート製剤、デノスマブがあり、痛みの軽減や余命の延長効果が見込める治療薬としてRa223(ラジウム223)があります。

■ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®)

ゾレドロン酸はビスホスホネート(ビスフォスフォネート)製剤に分類される薬です。ビスホスホネート製剤は一般的には骨粗しょう症の治療薬として広く使われている薬です。

骨は常に一部が壊されると同時に一部が新しく作られています。骨吸収と骨形成のバランスが取れることで骨の量が一定に保たれています。骨粗しょう症は骨吸収が骨形成を上回っている状態です。骨吸収には破骨細胞、骨形成には骨芽細胞という細胞がそれぞれ働いています。

ビスホスホネート製剤は破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の自滅(アポトーシス)の誘導作用や機能喪失作用を現します。また骨から血液中へのカルシウムの輸送が抑えられ、血液中のカルシウムは骨芽細胞により骨の形成に使われ、血液中のカルシウム濃度の低下がおこります。

以上の作用によりビスホスホネート製剤は骨量や骨密度の改善作用の他、悪性腫瘍による高カルシウム血症の改善効果、がんが骨に転移したことで引き起こされる骨の痛みを減少させる効果、骨折などの骨病変を予防する効果などをあらわします。

ゾレドロン酸は既存のビスホスホネート製剤の中でも強い薬理作用をあらわすことが確認されています。がんの骨転移による疼痛(痛み)の緩和や骨病変予防などにゾレドロン酸が有効とされています。

■デノスマブ(商品名:プラリア®、ランマーク®)

骨に転移したがん細胞は副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)などを放出し骨芽細胞を刺激し、RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)という物質を産生させます。RANKLは破骨細胞(骨を壊す細胞)の形成・機能などを亢進させます。RANKLの作用により、骨を壊す過程(骨吸収)が亢進するほか、骨基質から腫瘍細胞の増殖因子(IGFなど)が放出され、がん細胞の増殖を引き起こします。

デノスマブはRANKLに結合して、RANKLの働きを阻害します。RANKLの作用阻害により、破骨細胞の機能を鈍らせ、全身の骨吸収と局所の骨破壊を遅延させることで骨量や骨密度などの改善作用や骨病変の進行を抑える作用、抗腫瘍作用などをあらわします。

骨粗しょう症の治療ではデノスマブ製剤のプラリア®という注射薬を使います。一方、がんによる骨病変の進行を抑える目的や、多発性骨髄腫などの治療には同じデノスマブ製剤でもランマーク®という注射薬が使われます。

がんの骨転移への治療へ使う場合には通常、4週間に1回の注射によってデノスマブが投与されます。加えてカルシウムとビタミンDの飲み薬を毎日飲みます。

カルシウムとビタミンDは、デノスマブの副作用の対策です。デノスマブの作用によって血液中のカルシウムが不足する低カルシウム血症があらわれやすくなります。そこで、血清カルシウム値が高値である場合などを除き、毎日カルシウム及びビタミンDを飲み薬で補充します。一般的にはカルシウムとビタミンD(及び炭酸マグネシウム)が一緒に配合されているデノタス®配合チュアブル錠を通常「1日1回2錠」服用し継続します。

■ゾレドロン酸とデノスマブ投与中に注意すべき顎骨壊死とは?

ゾレドロン酸とデノスマブは骨転移を有する前立腺がんの治療に重要です。一方で注意しなければいけないのが顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる副作用です。顎骨壊死とは、ゾレドロン酸やデノスマブの投与中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯後の部位の骨がむき出しになったりすることです。顎骨壊死の治療は困難です。顎骨壊死は避けなければいけない合併症の一つです。

顎骨壊死を避けるためには、ゾレドロン酸の投与前に歯科を受診し、必要な歯科治療を行っておくこと、すでにゾレドロン酸の投与中に抜歯が必要になった際は主治医(泌尿器科医)に必ず相談し、ゾレドロン酸とデノスマブの休薬が可能かを確認するといったことが重要です。投薬前には歯科治療の必要性について確認することが多いですが、治療中に抜歯が必要になった場合などは、自己申告しなければなりません。ここは特に注意が必要です。

■塩化ラジウム(223Ra)(商品名:ゾーフィゴ®)

塩化ラジウム(223Ra)は、放射線を出して前立腺がんを攻撃する物質です。塩化ラジウム(223Ra)を注射することで、体の中で前立腺がんに対して放射線照射をすることができます。

塩化ラジウム(223Ra)は骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して余命の延長効果が確認された世界で初のα放出放射性医薬品です。薬の開発過程で行われた試験(臨床試験)では、余命の延長効果に加えて、骨転移を原因とする症状の出現するまでの期間も延長しました。

塩化ラジウム(223Ra)の活性本体であるラジウム223という物質はカルシウムと同じアルカリ土類に分類される金属で、カルシウムと類似した性質を持っています。骨転移巣のように骨代謝が亢進している部位に集まる性質があり、高エネルギーのα線(アルファ線)を放出し、腫瘍細胞のDNA二重鎖の切断作用などにより腫瘍の増殖を抑える作用をあらわすと考えられてます。

注意すべき副作用は好中球減少、血小板減少、貧血などを含む骨髄抑制、吐き気や下痢などの消化器症状、骨痛や関節痛、疲労感、体重減少などです。

また塩化ラジウム(223Ra)の主な排泄経路が糞中であることから、もともとクローン病潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を持っていた人では、炎症性腸疾患の症状が悪化する可能性もあり、より注意が必要となります。

治療のスケジュールは、4週間ごとの注射を、通常6回行います。重い副作用が出た時や、効果が認められず治療の変更が必要と考えられる時には中止されます。

治療効果の判定は、他の治療法とはやや異なり前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAより、画像診断による診断を重視します。CT、MRI、骨シンチグラフィーによる評価を定期的に行うことで治療効果の確認を行います。

塩化ラジウム(223Ra)は放射性医薬品です。投与後に、微量ではありますが体液(主に血液)、糞便、尿に放射性物質が含まれることがあります。本人だけでなく家族や介護者なども第三者に対する放射線被ばくに対する低減策や汚染防止措置に関して理解が必要です。

以下は本剤の投与後1週間(各投与後の最初の1週間)における主な注意事項です。

  • 患者が出血した場合、血液をトイレットペーパーなどで拭き取りトイレに流すこと
  • 患者の尿や糞便に触れる可能性がある場合やこれらで汚染された衣類などに触る場合は、ゴム製などの使い捨ての手袋を着けてから行うこと
  • 患者の血液などの体液が手や皮膚に触れた場合は、触れた箇所を直ぐに石鹸を使いよく洗うこと
  • 性行為は控えること
  • 本剤の投与後2〜3日間は、患者と小児及び妊婦との接触は最小限にすること 
  • 患者の入浴は、その日の最後に行うことが望ましく、入浴後の浴槽は洗剤を用いてブラッシングなどによりよく洗うこと
  • 患者が着用した衣類などの洗濯は、患者以外の家族などの衣類とは別に行うこと
  • 患者の血液や尿が付着したシーツ類や下着類については十分に予洗いをすること
  • 排尿は座位で行うこと(尿の飛散を防止)
  • 排尿・排便・嘔吐などの際、使用後の便器などの洗浄水は2回程度流すこと
  • 排尿・排便後の手は、石鹸でよく洗うこと
  • 患者の排泄物、嘔吐物などが手や皮膚に触れた場合は、速やかに石鹸で洗い、十分水洗すること

他にも例えば患者がオムツや導尿カテーテルなどを使用している場合、これらを取り扱う際には使い捨て手袋を着用して行います。尿パック中の尿をトイレに捨てた後に洗浄水を2回程度流すことなども上記の注意事項に合わせて必要となります。

これらの注意事項を担当医などから事前にしっかりと聞いておき、患者・家族・介護者で共有・理解することが大切です。

7. 前立腺がんの治療ガイドラインはある?

診療ガイドラインは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されています。前立腺がんにも診療ガイドラインがあります。

診療ガイドラインは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されています。前立腺がんにも診療ガイドラインがあります。前立腺がんの診療ガイドラインは日本泌尿器科学会、EAU(欧州泌尿器科学会)、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)、AUA(米国泌尿器科学会)など各学会が作成したものが存在します。
ガイドラインがいくつも存在するのには理由があります。ひとつは、国ごとに病院に行くときの環境などが違うことを考慮しているためです。もうひとつは、医学的に唯一の正解を決めにくいような場合に対して、学会ごとに意見が違うためでもあります。
ガイドラインは治療の助けになりますが、ガイドライン通りに治療を行うことが全て正しいわけではありません。お医者さんは、患者さんの状態が一人ひとりが異なることを考えに入れてガイドラインをアレンジして使っています。
なお、日本泌尿器科学会のガイドラインは無料公開されています。

8. 前立腺がんを治療したいときにはどの科を受診すればよいのか

前立腺がんの治療は泌尿器科で行います。

病院によっては泌尿器科医がいなかったり、非常勤医だけで外来を行なっていたりする場合があります。泌尿器科がない病院に行くと治療できない場合もあるので注意してください。

9. 前立腺がんを治療する施設の選び方

検査を受けた医療機関でそのまま治療を受ける人がいる一方で、施設を変えて治療したいと考える人もいます。施設を自分で選ぶ際の参考点に治療実績数があります。多くの患者さんを治療している施設では、経験が蓄積されているので、適切な治療を受けられる可能性が高いと考えることもできます。また、実際に治療を受けた人が身近にいるなら意見を参考にするのもよいでしょう。

もし、今の施設とは違う施設での治療に興味がある人は、セカンドオピニオンを利用するのも良い手です。セカンドオピニオンとは主治医以外に治療方針についての意見を聞くことです。一般的には主治医に紹介状診療情報提供書)を書いてもらい、他の医療機関に行って意見を聞きます。施設によっては「セカンドオピニオン外来」など専用の窓口を設けています。セカンドオピニオンはより広い視野を持って治療を選択するために有用な手段です。

セカンドオピニオンは、主治医との関係が悪くなるような気がしてなかなか切り出しにくいという話をよく聞きます。医師の立場から言いますと、セカンドオピニオンを求められたからといって関係が悪くなることは全くありません。セカンドオピニオンは当然の権利です。セカンドオピニオンにより最適な治療が選択されるならば主治医にとってもありがたい話です。他の医師の意見を聞いてみたいと思ったならば、遠慮なく主治医にセカンドオピニオンを求めることをお薦めします。

参考:

前立腺がん診療ガイドライン
「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
J Clin Oncol. 2014 Jan 1;32(1):19-26.
泌尿器外科 2014;27:151-153
Lancet Oncol. 2014;15:1397-1406
N Eng J Med.2013;369:213-23
塩化ラジウム(Ra-223)注射液を用いる内用療法の適正使用マニュアル