にんちしょう
認知症
記憶障害や、物事を頭で処理する際の段取りや計画を行う能力の低下
10人の医師がチェック 161回の改訂 最終更新: 2024.02.16

認知症の原因になる病気の種類

認知症は認知機能の低下による記憶障害などによって日常生活や社会生活に支障をきたしている状態です。認知機能の低下を起こす病気はいくつかありアルツハイマー型認知症などがよく知られています。

1. 認知症を起こす主な病気

認知症は病気の名前ではなく認知機能が低下することを原因として様々な症状が現れている状態を総称する言葉です。認知機能とは、理解・判断・論理などの知的な機能を指します。病気などのために知的な機能が低下した状態が認知症とも言えます。認知症を起こす病気は数多くあります。ここでは主な認知症の原因になる病気を4つ説明します。

これらの病気が認知症の原因のほとんどを占めます。それぞれの病気には特徴があるので個別に説明していきます。

参考:

ハリソン内科学

認知症 神経心理学的アプローチ

神経内科 ハンドブック

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症アルツハイマー病)は、認知症の原因になる病気の中では最も多くその半分以上を占めます。

アルツハイマー型認知症の症状

アルツハイマー型認知症の症状は記憶障害が特徴的です。特に時間的に近い記憶の障害が起き少し前に聞いたことを忘れたり物をおいた場所を忘れたりといった症状を初期に現すことが多いです。この時点で病院を受診する方は少なく記憶障害が進み生活に支障を来すようになってから受診されることが多いです。記憶障害がアルツハイマー型認知症の特徴ですが他にも以下のようなものがあります。

  • 判断能力の低下
  • 見当識障害
  • 行動・心理症状
    • 物盗られ妄想
    • 徘徊
    • 暴言・暴力

これらの症状は、病気が進行するにつれて目立つようになります。アルツハイマー型認知症の症状は、「認知症の症状」でも解説しているので参考にして下さい。

アルツハイマー型認知症の原因

アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβやタウと呼ばれる特殊なたんぱく質が溜まり神経細胞が壊れていくことが原因だと考えられています。時間の経過とともに脳全体が萎縮していき認知機能障害に引き続いて身体の機能も失われていきます。

アルツハイマー型認知症の治療

現在、アルツハイマー型認知症を完治に導く治療法は確立されていません。アルツハイマー型認知症の治療は病気の進行を遅らせるために行われます。進行をできるだけ緩やかにするためには早期の発見と治療開始が大切だと考えられています。このため物忘れなどの症状がある場合には医療機関を受診して調べてもらうことが大切です。

脳血管性認知症

脳血管性認知症脳梗塞脳出血といった脳の細胞に栄養を送る血管の病気の後に現れる認知症です。

脳血管性認知症の症状

脳血管性認知症の症状は多様です。例えば脳梗塞脳出血では出やすい症状が違います。また脳のどの血管に病気が起こったかで症状が異なります。つまり脳血管性認知症とひとくくりになっている病気ですが、人によって認知症の程度は異なります。

脳血管性認知症の症状の特徴の一つに階段状の進行があります。階段状の意味する所は、アルツハイマー型認知症のようになだらかな進行ではなく症状が突然と進行することを指しています。また脳血管性認知症の場合は発症の比較的早期から運動障害と尿失禁が現れることも多いとされています。

脳血管性認知症の分類

脳血管性認知症脳梗塞脳出血の後起こりますが、病気の原因になっている血管の場所などにより現れる症状が変わります。脳血管性認知症は以下のように分類できます。

  • 多発脳梗塞性認知症(皮質性認知症)
  • 重要な部位の単一梗塞による認知症
  • 小血管病変性認知症
  • 低灌流性認知症
  • 出血性認知症 

多発脳梗塞は、大きな血管にアテローム(動脈の内側にたまったコレステロールや脂肪などの塊)や血の塊が詰まって血液の流れが悪くなり脳細胞に障害がでます。脳梗塞が起きた場所によって症状が異なります。

重要な部位の単一梗塞による認知症は、脳の高次機能(注意を払ったり記憶・思考・判断など)を担う部分の一部だけが障害を受けるタイプの認知症です。

低灌流性認知症は心肺停止など脳への血流が途絶えた後に起こる認知症です。認知症の程度は脳細胞の障害の程度によります。

出血性認知症は、くも膜下出血脳出血慢性硬膜下血腫など頭の中の出血の後に起こる認知症です。

脳血管性認知症の治療

脳血管性認知症の治療にはアルツハイマー型認知症などの進行を遅らせるために用いるコリンエステラーゼ阻害薬を進行予防として用いることがあります。また異常行動やうつ症状などの周辺症状に対しては抗精神病薬や抗うつ薬などを用いて治療することがあります。

脳血管性認知症の予防

脳血管性認知症にならないためにはその原因となる脳梗塞脳出血を起こさないことが最も大切です。脳梗塞脳出血を起こさないためには原因となるような病気などを治療することが大切です。脳梗塞脳出血の危険性を高めるものとして高血圧や糖尿病脂質異常症などが知られています。これらの病気をきちんと治療することが脳梗塞脳出血の予防になりひいては脳血管性認知症の予防につながります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳の中にレビー小体という組織が現れる病気で認知症の原因の1つです。レビー小体型認知症は、認知症の症状以外にパーキンソニズムというパーキンソン病で現れる症状や幻視を伴うことが特徴です。

レビー小体型認知症の症状

レビー小体型認知症の症状は、認知機能の低下に加えてパーキンソニズムが現れます。まず認知機能の低下について説明します。レビー小体型認知症アルツハイマー型認知症に比べると認知機能の低下は軽いことが多く、一方で幻視(実際にはないものが見える)や睡眠時に夢の内容に伴って暴れたり大声をあげるなどの症状が現れます。特に幻視はレビー小体型認知症に特徴的な症状なので他の認知症の原因と区別する際に手がかりにもなります。もう一つの特徴であるパーキンソニズムパーキンソン病に現れる特徴的な症状のことで、以下のような症状が現れます。

【主なパーキンソニズム

  • 安静時振戦:安静時に手足が震える
  • 無動・寡動:動作の開始ができないまたはゆっくり
  • 筋固縮(筋強剛):腕や足がスムーズに動かなくなる
  • 姿勢反射障害:姿勢を保てない

認知機能の低下にパーキンソニズムや幻視などの症状が伴って現れると認知症の原因はレビー小体型認知症の可能性が高まります。

レビー小体型認知症アルツハイマー型認知症に比べると認知機能の低下は緩やかなために受診が遅れたりすることもあります。

レビー小体型認知症の治療

レビー小体型認知症の治療は、アルツハイマー型認知症と同様に薬物療法と非薬物療法の2つを組み合わせて行われます。レビー小体型認知症アルツハイマー型認知症と同じく根本的な治療は現在のところ確立されていないので症状の進行を緩やかにするのが目的です。

パーキンソニズムに対する治療は、パーキンソン病と同様にレボドパ製剤やドパミン作動薬などを用いますが幻視が悪化したりするなどの副作用が出やすいので少量から開始して症状に注意をしながら内服する薬の量を調整します。

前頭側頭型認知症(FTLD:Frontotemporal Lobar Degeneration)

前頭側頭型認知症は、脳の中でも主に前頭葉と側頭葉の部分に異常が起こることが原因の病気です。前頭側頭型認知症は、脳の後方の部分に問題が起こるアルツハイマー型認知症とは病気の起こる場所が異なります。

前頭側頭型認知症の症状

前頭側頭型認知症は性格の変化と行動異常が症状の特徴とされています。その一方で記憶や空間認識能力、知覚といった機能は保たれることが多いです。言葉を発することに障害が初期から出ることがあり、滑らかに話せなくなったりします。言葉の理解力に関しては比較的保たれます。また進行するとレビー小体型認知症のようにパーキンソン病に特徴的なパーキンソニズムという症状が現れます。パーキンソニズムについてはレビー小体型認知症のパートを参考にして下さい。

前頭側頭型認知症の原因

前頭側頭型認知症は元々はピック病と呼ばれていた病気です。現在は前頭葉ないし側頭葉あるいはその両方の脳が萎縮することが原因で認知症が起こる病気の総称です。萎縮が起こる原因についてはまだ明らかになっていません。

前頭側頭型認知症の治療

アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症と同様に根本的な治療はありません。またアルツハイマー型認知症レビー小体型認知症は進行をできるだけ遅らせるためにコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンが用いられますが、前頭側頭型認知症に対する有効性は不明でありコリンエステラーゼ阻害薬は症状を悪化させることがあるので治療には推奨されていません。行動異常に対しては選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitor)という薬が用いられ効果が期待されます。ただしこの薬は保険適用外の薬で有効性もまだ確たるものではないので医師と相談しよく注意点を聞いた上で使うようにしなければなりません。

4つの主な病気の比較

認知症の原因となる病気を4つ解説しました。まとめとしてそれぞれの病気を比較してみます。

【4つの病気の比較】

  アルツハイマー型認知症 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症
病気の場所 側頭葉
頭頂葉
様々 後頭葉 前頭葉
側頭葉
主な症状 ・物忘れ
・場所や時間がわからない
・物盗られ妄想
・運動障害
・感覚障害
・幻視
パーキンソニズム
・人格変化
・自発語の減少
・行動異常
人格の変化 時間が経って起こる 起こらないことが多い 早い段階で起こる 早い段階で起こる
経過 ゆっくりと進行 階段状に進行 ゆっくりと進行 ゆっくりと進行

病気が起こる場所はそれぞれの病気によって少しずつ異なります。病気が起こる場所の違いは症状の違いに影響します。

アルツハイマー型認知症は、認知機能の低下の中でも物忘れ(記憶障害)が強く現れます。物盗られ妄想や間違ったことに対する取り繕いなども特徴的な症状です。

脳血管性認知症脳梗塞脳出血などの後に起こる認知症で症状は障害があった血管によって決まるので多様です。体を動かすことに障害が出やすいのも特徴的です。

レビー小体型認知症は後頭葉に多く幻視やパーキンソン病に特徴的な症状であるパーキンソニズムが現れます。

前頭側頭型認知症は早期の人格の変化や行動異常などが特徴的な症状です。

脳血管性認知症を除いて病気はゆっくりと進行していき現在のところは病気の進行を止める治療は確立されていません。脳血管性認知症は、症状が階段のように急に悪くなることが数回起こることがあります。

2. 認知症を起こす比較的稀な病気

ここでは認知症の原因になる比較的稀な病気について解説します。

ビタミン欠乏症:ビタミンの不足

一部のビタミン欠乏(ビタミンの不足)が認知症の原因になることがあります。認知症の原因となるビタミンはB1とB12です。以下でそれぞれについて解説します。

■ビタミンB1 (チアミン)の欠乏

現在は稀ですが、ビタミンB1の欠乏は、強い偏食傾向やアルコールの過剰摂取などが習慣の人に起こることがあり、認知症の原因になります。ビタミンB1の欠乏が原因で起こる認知症は、ウェルニッケ脳症と呼ばれ、意識障害や眼球を外側に動かせなくなる(外眼筋麻痺)、歩行障害(小脳失調の一部)などの症状が急に現れます。

ウェルニッケ脳症はビタミンB1の投与で良くなるのですが、後遺症で物忘れや作り話をするなどの認知症の症状が残ることがあります。

■ビタミンB12の欠乏

ビタミンB12は、神経および血液細胞を正常な状態に保ち遺伝情報を保つ物質であるDNAの生成にも関わる栄養素です。ビタミンB12の欠乏は胃や回腸(小腸の一部)を切除した影響などが原因で起こり、麻痺や位置・重さ・痛みなどを感じる深部感覚の異常などが症状です。ビタミンB12が欠乏するともの忘れ(記銘力低下)や時間・場所を把握する力が落ちる(見当識障害)などの認知症の症状が現れます。ビタミンB12の欠乏が認知症の原因の場合は、不足しているビタミンB12を補うことによって治ることが期待できます。ビタミンB12の補充は、薬を服用したり注射したりすることで行います。

ビタミンB12は胃や回腸(小腸の一部)を切除した人だけではなく動物食品をあまり食べない人にも起きることがあるので注意が必要です。ビタミンB12が多く含まれる食品は、レバーや貝、肉類などです。ビタミンB12の不足が指摘されたり不足する可能性がある人はビタミンB12が多く含まれている食品などを積極的に摂取することをお勧めします。

主な内分泌の病気:ホルモンを出す臓器の病気

内分泌は内分泌腺でつくられたホルモンを放出することです。以下の内分泌の病気は認知症の原因となることがあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺は、首の付根の少し上側にある臓器で新陳代謝を促すホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌する臓器です。甲状腺ホルモンの分泌が低下すると物忘れなどの認知症の症状が現れます。甲状腺機能低下症による認知症は甲状腺ホルモンを薬で内服することによって回復することが期待できます。甲状腺機能低下症の症状は易疲労感(疲れを感じやすい)・寒がる・体重が増加するなどです。甲状腺機能低下症について詳しく知りたい人は「このページ」も参考にして下さい。

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺は甲状腺に接してある臓器で合計4個あります。副甲状腺は体の中のカルシウムやリンの量を調整するホルモンを分泌しています。副甲状腺機能亢進症では血液中のカルシウムの上昇、リンの低下などの反応が起きて、倦怠感(だるさ)や食欲低下、進行すると意識障害などの症状が現れます。認知症も症状として現れることがあります。副甲状腺機能亢進症は、薬物治療や手術など原因に応じて治療をします。副甲状腺機能亢進症について詳しく知りたい人は「このページ」も参考にして下さい。

副甲状腺機能低下症

副甲状腺の機能が低下しても認知症を起こすことがあります。副甲状腺機能低下症が起こるとして副甲状腺ホルモンの分泌が低下するなどして血液中のカルシウムの低下、リンの増加が起きて様々な症状を引き起こし、認知症の原因になることもあります。副甲状腺機能低下症に対してはカルシウムの補充などを行い治療します。

■副腎皮質機能低下症

お腹の中の臓器である副腎は皮質と髄質からなる臓器です。副腎皮質からでるコルチゾールなどのホルモンの分泌が低下することなどにより副腎皮質機能低下症は起こります。副腎皮質機能低下症の症状は様々で疲れやすさを感じること(易疲労感)や脱力感、体重減少などがあり認知症もその1つです。副腎皮質機能低下症に対しては、副腎皮質からでるホルモンを内服薬で飲むなどして治療を行います。

クッシング症候群

クッシング症候群は、副腎皮質で作られるコルチゾールというホルモンが異常に作られてしまうために起こります。クッシング症候群が起こると顔が丸くなることや体幹を中心に脂肪がつくなどの外見上の変化に加えて不眠などが現れます。認知症が症状の1つとして現れることもあります。クッシング症候群の原因は脳の下垂体という部分であったり副腎そのものが原因であったり様々です。原因に応じて適した治療を選びます。

主な感染症

感染症の一部は認知症の原因になることが知られています。認知症を起こす感染症は以下のものになります。

感染症が原因の認知症は、アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症などの認知症を起こす主な病気とは治療に用いる薬などが異なるので検査などを用いて見分けることが大切です。

HIV関連神経認知障害

HIVAIDSエイズ後天性免疫不全症候群)を起こすウイルスです。

HIV感染症が進行すると認知症の原因になることがありHIV関連神経認知障害と呼ばれることがあります。症状は物忘れ(記憶障害)や場所・時間などがわからなくなる(見当識障害)などです。HIV関連神経認知障害は抗HIV薬で治療しますが一時的に症状が悪化することがあり注意が必要です。

神経梅毒

梅毒が進行して神経に影響がでた状態を神経梅毒といいます。神経梅毒の症状には頭痛や麻痺、感覚障害、人格変化などがあり認知症もその1つです。神経梅毒抗菌薬(ペニシリン)などを用いて治療します。

インフルエンザ脳症

インフルエンザウイルスの感染が原因で脳に障害が起こることがあります。インフルエンザ脳症という状態で意識障害や意味不明な言動など認知症に似た症状が現れます。治療は抗インフルエンザ薬を用いて行いますが脳症に対してステロイド免疫グロブリンというものを使うこともあります。インフルエンザ脳症アルツハイマー型認知症などの主な認知症の原因と異なり急激に発症します。

■ヘルペス脳炎

ヘルペス感染のうち単純ヘルペスウイルスが脳に感染して炎症を起こす病気です。体内に潜んでいた単純ヘルペスウイルスが免疫力の低下などをきっかけにして再活性化して引き起こすことが多いです。意識障害や錯乱などの認知症に似た症状が特徴的で他に発熱や頭痛なども現れます。治療は抗ウイルス薬を用います。

主な脳や神経の病気

一部の脳や神経の病気は認知症を起こす原因になります。以下がその病気です。この中でも慢性硬膜下血腫正常圧水頭症は手術により認知症が治る可能性があります。

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫は、頭部の打撲などの後に脳を覆っている硬膜と脳の間に血液が溜まって脳を圧迫する病気です。慢性硬膜下血腫は認知症の原因になります。

慢性硬膜下血腫は、高齢者に多く頭を打って約1-3ヵ月後に発症し症状は急に現れます。症状は、もの忘れ・場所や時間がわからなくなる(見当識障害)などの認知症の症状の他に嘔吐、頭痛、麻痺、尿失禁なども現れます。

慢性硬膜下血腫は、主に手術によって血液の塊を除去することにより改善が見込めます。慢性硬膜下血腫は高齢者に多く起こる病気なので頭を強く打った出来事があってその後に記憶力の低下や辻褄の合わない会話、麻痺などの症状が短期間に現れた場合は慢性硬膜下血腫が起きている可能性があります。速やかに医療機関を受診して調べてもらって下さい。

正常圧水頭症

脳の周りや内部には衝撃を吸収するための液体で満たされているスペースがあります。脳の周りや内部の液体を髄液と言います。

水頭症は、髄液が多くなり脳の内部のスペース(脳室)が拡大する病気です。水頭症になると頭の中の圧力が高くなることが多いのですが、正常圧水頭症は、圧力が正常範囲に留まります。正常圧水頭症は認知症の原因になることがあり、典型的な症状は、認知症に加えて歩行障害、尿失禁です。正常圧水頭症は脳室に多くなった髄液を他の場所に流すためのチューブを挿入する手術などによって症状の改善が期待できます。

脳腫瘍

脳に腫瘍ができると認知症の症状が現れることがあります。脳腫瘍は脳から発生したものと他の臓器にできた腫瘍が脳に転移したケースがあります。脳腫瘍による認知症は、「もの忘れ」というよりは動作が出来なくなったり言葉が出にくいなどの症状が目立ちます。

認知症を起こしている脳腫瘍に対しては状況に応じて手術や放射線、抗がん剤などを用いて治療します。

パーキンソン病

パーキンソン病は脳内の情報を伝達する物質が不足することが原因で、体が動きにくくなったり手足が震えたりする病気です。パーキンソン病が進行すると認知症を伴うことが多くなります。パーキンソン病による認知症はアルツハイマー型認知症などと同様に治すことは難しいと考えられており治療は進行を遅らせるために行われます。パーキンソン病の認知症の治療は、アルツハイマー型認知症などと同様にコリンエステラーゼ阻害薬などを用います。

多発性硬化症

多発性硬化症は、中枢神経(脳や脊髄)が障害を受けることにより様々な症状が現れる病気です。障害が発生するメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、本来は体を守るはずの免疫が自ら体を攻撃してしまうことによって起こる自己免疫性疾患の1つと考えられています。多発性硬化症は、脳にも病気が起こるのでその影響で認知症の症状が現れることがあります。多発性硬化症を治療することで認知症の症状がよくなることが期待できます。

進行性核上性麻痺PSP:Progressive Supranuclear Palsy)

進行性核上性麻痺は、大脳基底核や脳幹の細胞が変化して機能しなくなることを原因とする病気です。典型的な場合は歩けなくなったり転びやすくなったりするなどの症状で発症し、その後運動障害や認知症などが現れます。進行性核上性麻痺には現段階では効果的な治療は確立されていません。進行性核上性麻痺を原因とした認知症には、アルツハイマー型認知症に対して用いられる症状の進行を遅らせるコリンエステラーゼ阻害薬などの効果は認められません。今後、効果的な治療の確立が望まれます。

3. 薬剤性

他の病気の治療で用いられる薬が影響して認知症になることがあります。薬剤性の認知症の症状には以下のような特徴があります。

  • 注意力の低下が目立つ
  • 薬の使用によって認知症の症状が現れる
  • 認知症の原因になっている薬を中止することで症状が改善する

また薬剤性の認知症が起こりやすい人の特徴があり、高齢者や肝臓または腎臓の機能が低下している人、多くの薬を飲んでいる人などに起こりやすいとされています。

またアルツハイマー型認知症脳血管性認知症などすでに認知症と診断されている人は一部の薬によって症状が悪くなることもあります。以下の薬が薬剤性の認知症を起こす主な薬です。

  • 薬剤性の認知症の原因になる主な薬

上に示したように多くの薬が認知症を起こす可能性があります。薬剤性の認知症は薬を中止することで症状が改善することがあるので原因が薬かどうかを調べることは大切です。認知機能の低下で受診した場合には内服している薬を医師に告げるようにしてください。薬剤性が原因かどうかの判断を下すのに有力な材料になります。