にんちしょう
認知症
記憶障害や、物事を頭で処理する際の段取りや計画を行う能力の低下
10人の医師がチェック 138回の改訂 最終更新: 2020.10.01

認知症の症状:物忘れ・うつ症状・徘徊など

認知症の症状は物忘れに代表される認知機能の低下によって起こる中核症状と、中核症状によって引き起こされる周辺症状があります。認知症では多くの症状が現れ、それらを理解することは症状に対する適切な対応につながります。

1. 認知症の主な中核症状:認知機能障害による症状

認知症は、脳の病的な変化によって脳の細胞が影響を受けて症状を現します。認知機能とは

理解・判断・論理などの知的な行動を司る力のことで認知機能が低下したことが原因の症状を中核症状と言います。中核症状は様々な形で現れます。

  • 記憶障害:物忘れ
  • 実行機能障害:筋道をたてた行動が出来なくなる
  • 見当識障害:場所や時間を把握できなくなる
  • 視空間認知障害:視力に問題はないにも関わらずものをみつけたり認識することができなくなる
  • 失行:目的をもった行動が出来なくなる
  • 失語:言葉の理解や発語が出来なくなる
  • 失認:五感に関する認知能力が正常ではなくなる

中核症状は記憶障害など想像がつきやすいものもありますが、一方で少しわかりにくいものもあると思います。この後それぞれについて説明していきます。

参考:

ベッドサイドの神経の診かた

認知症神経心理学的アプローチ

神経内科ハンドブック

記憶障害:物忘れ

記憶障害は認知症の中心的な症状で認知症のなかでもアルツハイマー型認知症ではほぼ全ての人に現れる症状です。認知症の記憶障害の特徴は進行性に(時間の経過とともに)悪くなっていくことです。

認知症になって記憶障害が起こると患者さんから以下のような症状が現れます。

  • 何度も同じ話をする
  • さっき食事したのを忘れている
  • 薬を飲み忘れる
  • 昨日どこに出かけたか憶えていない
  • 新しいことが憶えられない

認知症による記憶障害は様々な形で現れます。初期では周りの人から記憶障害を指摘されても本人は自覚しないことが多くむしろ記憶障害を恥ずかしく感じて取り繕ったりすることもあります。もし家族などに記憶障害と思われる症状がある場合には、本人の気持ちに気を配りながらなるべく早めに医療機関を受診することをお勧めします。認知症であった場合には早期に治療を開始することで記憶障害の進行を遅らせることも期待できるからです。恥ずかしさから受診をためらうこともあるので、付き添う家族は「物忘れがあるから病院を受診しよう」と直接的に言うのではなく「物を忘れるのは疲れなどの影響かもしれないけど念のため」など本人に配慮したような誘導をすることも大切です。

実行機能障害:問題解決能力が低下する

実行機能障害は、筋道を立てて行動が出来なくなることです。実行機能障害が起こると目標に対して適切な方法を選ぶことが出来なくなります。実行機能障害が起こると以下のような問題を抱えることになります。

  • スーパーで同じものばかり買い込んだりしてしまう
  • 家電製品を操作できなくなる
  • 銀行や役所での手続きができない

実行機能障害は、物事の組み立てが出来なくなるので生活する上で大きな支障を来してしまいます。しかし理解力が失われているわけではないので家族などが付き添いながら手順を紙に書いたりして細かく確認することが行動をやり遂げる上で有効なことがあります。

見当識障害:場所や時間がわからなくなる

見当識は、時間・場所・周りの人などいわば自らの状況を把握することです。認知症では見当織が障害され自分がどこに居るのかや今日は何月何日かなどがわからなくなります。見当識障害が起こると時間や場所がわからないために以下のような行動をとることがあります。

  • 日付がわからない
  • 自宅にも関わらずトイレや風呂にいけない
  • 周りの人を判別できない

見当識障害が起こると自分が一体どこでどんな状況にいるのかがわからなくなり、混乱や不安のために思ってもみない行動をとる原因になります。できるだけ外からの刺激がある方が時間や場所の感覚をしっかりとすることができるので付き添いの人とともに外出して昼夜逆転などをさせないような取り組みが大切です。

視空間認知障害:ものをみつけたり認識することができなくなる

視空間認知障害は、視力には問題がないにも関わらずものを見つけたりする能力が低下する状態です。視空間認知症の症状は以下の例のような状況で現れます。

  • よく知っている道で迷う
  • しまったものが見つけられない
  • 茶碗をいつものところにしまえない

これらの症状は場所やものを見つけられないという原因で共通しています。他にものや場所を認識する力も落ちるので図形を描くのが下手になったり車の車庫入れができなくなるなどの症状として現れることがあります。

失行:目的をもった行動が出来なくなる

失行は、体は動かせるにも関わらず行うべき動作や行為ができない状態のことです。以下は例になります。

  • 服を着ることが出来ない
  • 箸を使って食事をすることが出来ない

失行は以前に出来ていた行動の方法がわからなくなっていることで、体の麻痺などが原因ではありません。周りの人はできるだけ見守りながらまずは自力で行動をするように促します。

失語:言葉の理解や発語が出来なくなる

失語は、言葉に関する能力が失われることです。ここでいう言葉に関する能力とは、「しゃべる・言葉を理解する・文字を読む・字を書く」といった文字に関するものを指します。失語の症状の例として以下のような症状が現れます。

  • 流暢にしゃべれない
  • しゃべる内容が意味不明
  • ものの名前を思い出せなかったり間違った答えをする
  • 聞いた言葉を理解できない
  • 復唱ができない
  • 文字が読めない
  • 字が書けない

言葉に不自由さが現れるとコミュニケーションに障害が現れます。コミュニケーションに障害を感じると他人との関わりに対して消極的になっていき、それが原因で周囲から孤立していると感じて抑うつ状態につながることもあります。失語の人と会話をするときには周りの人は、以下のような工夫をするとよりよい意思疎通ができるようになると考えられます。

  • 失語の症状がある人に話をする時の工夫
    • 抽象的な言葉を避ける
    • 難しい言葉を易しく言い換える
    • ゆっくりと話す
    • ジェスチャーを用いる
    • 繰り返して話をする
  • 失語の症状がある人から話を聞く時の工夫
    • 時間をかけて最後まで話を聞く
      • 多少の間違いについては細かく指摘しない
    • 話が始まらないときにはきっかけをつくる
    • 理解していることを表情やしぐさなどを使って伝える

失語の人と接するにあたって意識することは、なるべく自分で話すことや会話をすることを避けるような気持ちにならないようにする配慮です。失語の人と会話をする場合は工夫が求められ負担に感じることもあると思いますが、そのような助けによって認知症の人はコミュニケーションをとる意欲を高めることが可能になり生活をよりよいものにすることができると考えられます。

失認:五感に関する認知能力が正常ではなくなる

五感を感じる器官(眼・耳・鼻・舌・皮膚など)に問題がないにも関わらず、五感を通じて対象が何かを判断することが出来なくなることを失認といいます。失認には様々なパターンがあります。

  • 線を2等分できない
  • 音は聞こえるものの識別ができない
  • 触っている感触はあるもののそのものの質感がわからない
  • 運動麻痺がなくても体の半分がないように感じる

失認は五感に関わる症状ですが、全てが一度に起こるわけではありません。このため周りの人は、患者さんがどのようなことをできないかを把握して低下している認知能力を補うような工夫をすることが大切です。

2. 認知症の主な周辺症状:認知機能障害以外の症状

認知症は、認知機能障害による中核症状の他に認知機能障害以外の症状が現れ周辺症状と呼ばれます。周辺症状は主に行動の症状と心理の症状に分けられ、BPSDと呼ばれることもあります。BPSDは「認知症の行動・心理の症状」の英語訳であるbehavioral and psychological symptoms of dementiaの頭文字をとったものです。

周辺症状という字面からすると大きな問題にはならない症状と感じられるかも知れませんが、認知症においては中核症状より深刻な事態を引き起こすこともあり適切な治療や対処が望まれます。

周辺症状は中核症状によって引き起こされると考えられていますが、比較的早期にでることや中核症状の先に現れることも珍しくはありません。また1日のうちに変化があるのも周辺症状の特徴の1つです。夕暮れに症状が悪くなることが多く「日没症候群」や「夕暮れ症候群」と呼ばれることがあります。1日のうちで症状の変化があるということは介護をする人にとっても重要な情報です。夕暮れはできるだけ目の届く範囲で介護をするのが望ましいでしょう。

では次に周辺症状を行動症状と心理症状の2つに分け具体的にどのような症状が現れるかを解説していきます。

行動症状

行動症状は、患者さんの行動を観察することにより確認できるものを指し、主に以下のリストのような症状が現れます。

  • 暴言・暴力
  • 徘徊
  • 不穏
  • 性的脱抑制

行動症状は後述する心理症状に比べて薬物療法の効果が乏しいので介護をする上で問題になりやすいです。まずはどのような症状かを知ることが大切です。

■暴言・暴力

認知機能障害が高度な男性やもともと人間関係が不得手な人に多く見られる症状です。認知症の種類でいうとアルツハイマー型認知症より前頭側頭型認知症の方に多いとされています。暴言・暴力が起きると薬物治療の対象と捉えられることが多いのですが、原因を明らかにすることで早期に介入することで薬物治療を行わずによくなることもあります。原因がはっきりしたらそれを取り除くように努力をします。

■徘徊

徘徊は、家の中や外をあてもなくうろうろと歩き回ることです。アルツハイマー型認知症では長い期間に渡り現れることもあり介護者への負担にもなる症状です。なぜ徘徊をするのでしょうか。徘徊は不安や見当識障害(時間や場所を把握する力)が背景にあって起こると考えられています。漠然とした不安があり自分がどこにいるかがわからないとなると不安はさらに増長してしまいいてもたってもいられなくなるのです。

介護に当たる人は徘徊に対してはどのように対応すればいいのでしょうか。まず徘徊を無理に制止しようとすると興奮や暴力といった他の周辺症状の引き金になるので避けた方がよいです。介護する人が付き添って一緒に家の周りを回ったり、声をかけることで関心を他に向けさせて外出を思いとどまるように促すなどの工夫が必要になります。

■不穏

不穏とは字のごとく穏やかではないことを指す言葉です。攻撃性の1つとして現れることが多く怒りの表情や態度、抵抗などを伴うことが多いです。不穏は不安にさせる環境などの原因があることが多くそれを取り除くことが不穏にならないために有効なことがあります。不穏が起きた状況を観察して「同じ状況で起こるか?」などを検討する必要があります。

■性的脱抑制

性的脱抑制は不適切な性的言動から性的問題行動にいたるまでさまざまな程度で現れます。性的脱抑制の背景には、見当識障害(時間や場所を把握する力)や着衣失行(着衣ができない)、陰部の皮膚の病気などがあって、症状が現れるきっかけになっている可能性があります。

心理症状

心理症状は、行動症状と違って患者さんを観察するだけでは診断することはできず患者さんや介護者などと医療者が面接することによって起きていることが確認できます。主な心理症状は以下のリストのようなものになります。

  • 不安
  • 焦燥性興奮
  • 幻覚
  • 妄想
  • うつ症状
  • 無気力・無関心
  • 性格の変化
  • 不眠

心理症状の中でもうつ症状や不安などに対しては抗うつ薬や抗不安薬などを使うことで症状の改善が期待できることがあります。心理症状の中で、イメージが湧きにくい「焦燥性興奮」「幻覚」「妄想」「うつ症状」について掘り下げて説明します。

■焦燥性興奮

苛立ちや焦りを感じることです。焦燥性興奮から周りの人に不満を言ったり、奇妙な音を出したり、無視したりといったものから暴力に至るまで様々な症状として現れることがあります。

■幻覚

幻覚はありもしないものを感じることで幻視が頻度としては最も多いです。幻視は存在しない物が見えることです。幻視は認知症のタイプの中でもレビー小体型認知症に特徴的であって診断を行う際にも重要視されます。代表的な幻視に「幻の同居人」があります。これは現実にはいない人を家の中で見るというものです。

幻覚は他の感覚にも起こりえますが、本来はない音が聞こえる幻聴が幻視に続いて多くその他の幻覚は比較的まれと考えられています。

一部の幻覚(特に幻視)は照明の影響が関与しているのではないかとの推測があり照明の最適化によって症状が落ち着くこともあります。幻覚が現れた場合にはそれが起きる場所の状況などを細かく観察することが症状を改善するきっかけになるかも知れません。

■妄想

本来はない事実に対して誤った判断や確信をしてしまうことを妄想といいます。妄想は様々な形で現れ、主には以下のようなものがあります。

  • もの盗られ妄想
    • 例)家族に財産などを横領された
  • 見捨てられ妄想
    • 例)家族などに見捨てられた
  • 嫉妬妄想
    • 例)配偶者が性的に自分を裏切っている
  • 誤認妄想
    • 例)身近な人が姿はそのままで違う人と入れ替わっている

妄想の対象は家族などの身近な人であることが多く、人間関係の悪化を招いてしまうこともあるので注意が必要です。

■うつ症状

認知症の人はうつ症状に陥りやすいのですがうつ病とは症状の現れ方がやや異なります。典型的なうつ病では悲哀感(悲しみや哀れみ)や罪責感(自分に罪があると感じ責める気持ち)、低い自己評価などの症状が現れます。一方で認知症に伴ううつ症状は、喜びの欠如や身体の不調感が症状として現れやすいと考えられています。

認知症によるうつ症状は抗うつ薬の効果が小さいことが多いのが特徴です。対して、少しややこしいい話ですがうつ病が原因で認知症に似た症状が現れることがあります。この状態では抗うつ薬に対する反応がよく改善が期待できます。このためうつ病と認知症を見分けることが大切です。

3. 認知症の症状とよく似た症状が現れるもの

認知症の症状は記憶障害以外にもいくつかあり多様です。認知症はその症状が多いために見分けなければならない病気も多くなります。ここでは認知症と見分けなければならない主な病気について解説します。

  • せん妄譫妄、せんもう)
  • うつ病
  • 健忘症
  • 診断の場面での過緊張
  • 正常な加齢による変化

上に挙げたものは認知症に似た症状が現れる原因になりえます。認知症ではないので治療法が違ったり、治療が必要ではないこともあります。それぞれについて以下で解説します。

参考:認知症 神経心理学的アプローチ

せん妄(譫妄、せんもう)

せん妄は、軽度から中等度の意識障害に見当識障害(時間や場所がわからなくなる)や記憶障害、言語障害、幻覚などの症状を伴うものです。具体的には以下のような症状が現れます。

  • 話しかけても反応が通常より悪い
  • 見えないものが見えるとの発言がある 
  • 妄想をしていると想像されるような発言が繰り返される
  • 異常に興奮している

せん妄は環境の変化や薬の影響、ストレスなどをきっかけにして現れます。せん妄と認知症の症状は似ているのですが、治療法が異なるために2つの病気を見分ける必要があります。せん妄は一時的なことが多く身体の回復に伴い良くなることが期待できます。しかし症状の原因が認知症の場合は、症状が長引いたり頻繁に出現することもあり症状に合わせて薬の内服が必要なこともあります。

うつ病

うつ病は悲しみ・虚無・怒りといった気分の変化が持続することによって引き起こされる気分障害という病気の中の1つです。記憶力の低下などうつ病では認知症と似た症状が現れることがあるのですがうつ病と認知症では治療法が異なるので両者を見分けることは大切です。

健忘症

健忘症は記憶障害のことを指します。実は記憶には様々な種類があり健忘症で低下するのは過去に体験したことの記憶などです。認知症と異なるのは身体の動きなどについては忘れることはありません。具体的な例としては、認知症の人はしばしば食事の仕方がわからなくなったりすることがあるのですが、健忘症の人ではそのようなことは通常はありません。

診察の場面での過緊張

認知症を診断するときにはまず簡易的な質問形式の記憶力の検査を行うのですが、医師から診察されるということもあってか緊張して上手く答えられずに認知症を疑われてしまうことがあります。

緊張するのは仕方がないのですが、もし緊張していて上手く答えられないのであるならばもう一度評価する機会を得るように申し出たりすることも必要かもしれません。付き添いの人も見ていて普段とあまりにも様子が違ったりする場合には医師にその旨を伝えてください。

正常な加齢による変化

年齢を重ねると記憶などの認知機能が緩やかに低下します。この変化は病気ではありません。

症状によって認知症と加齢による変化は見分けがつきにくい現実的な問題もあります。

一般的には日常生活に支障を来すような認知機能障害は認知症の原因となる病気が隠れていることが多いので、医師は症状の経過や診察、検査などを頼りに認知症かどうかを見分けます。年齢を重ねると記憶障害はじめ認知機能が低下するのは自然な変化です。一方で症状からの判断だけでは認知症ではないとも言えないのもまた事実です。もし認知症かもしれないという心配がある際には医師の診察を受けて調べてもらうことは不安の解消に役立つと考えられます。