にんちしょう
認知症
記憶障害や、物事を頭で処理する際の段取りや計画を行う能力の低下
10人の医師がチェック 161回の改訂 最終更新: 2024.02.16

認知症の予防法:運動・禁煙・食事など

認知症の予防にはどのようなものがあるのでしょうか。認知症と関係があると考えられている病気や生活習慣などについて解説します。

1. 認知症の危険性を高める原因を治療する

認知症の発症にはいくつか原因となる病気が示唆されておりその病気をしっかりと治療することやその病気にならないようにすることが認知症の予防につながると考えられています。以下が認知症の発症に関係があるとされる病気です。

高血圧症糖尿病は認知症の発症にどのような影響を与えているのでしょうか。この2つの原因に共通しているのは血管に対してダメージを与えるという点です。それぞれの病気について解説していきます。

参考文献
・日本神経科学会/監, 認知症疾患診療ガイドライン2017
・Press D, Alexander D, Prevention of dementia, UpToDate 

高血圧症

高血圧症は血圧が高い状態が続くことで医学的には「収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上」のことです。収縮期はいわゆる「上」の血圧で拡張期は「下」の血圧のことです。血圧が高い状態が続くと血管の壁に負担がかかり時間の経過とともに血管の中が狭くなったり血管自体が硬くなります。これは全身の血管に起こり脳血管も例外ではありません。高血圧症は認知症の中でもアルツハイマー型認知症脳血管性認知症に関係があると考えられています。

脳血管性認知症脳卒中脳梗塞脳出血)の後に起こるタイプの認知症です。高血圧症脳梗塞脳出血の危険性を高めます。したがって脳梗塞脳出血の後に引き続いて起こる脳血管性認知症の危険性も大きくなります。脳血管性認知症を避けるにはその原因となる脳梗塞脳出血を起こさないことが予防につながります。

アルツハイマー型認知症は、大脳皮質などにリン酸化タウ蛋白やアミロイドβ蛋白質が現れることを原因とする病気で、平たく言うと脳の細胞が変化して認知症が現れます。脳血管性認知症と違って血管の病気ではないのですが、中年期の高血圧症アルツハイマー型認知症を発症するリスクを上昇させる可能性が指摘されています。アルツハイマー型認知症の発症のメカニズムは完全には分かっていないのですが、高血圧症が何らかの影響を及ぼしている可能性があります。

高血圧症は無症状なことが多いので治療をしていない人もいるかもしれません。高血圧症は治療しないで放置しておくと認知症だけではなく心臓や腎臓の病気を起こす可能性が高まることが知られています。高血圧症をきちんと治療することは多くの病気に対する予防につながることが期待できます。

糖尿病

糖尿病インスリンという血液中の糖分を細胞に取り込むために必要なホルモンが不足しそのため血液中の糖分が過剰になる病気です。血液中の糖分が過剰な状態を一般的に高血糖と呼びます。

糖尿病になり血糖値が高い状態が続くと血管の内側(血管内皮)が傷つきその後に血管が狭くなったり硬くなったりします。糖尿病によって血管が硬くなると、脳梗塞脳出血の危険性を上昇させ、その後に脳血管性認知症が引き起こされる可能性が高まります。

アルツハイマー型認知症2型糖尿病との関連があると考えられています。糖尿病は2つのタイプがあり、2型糖尿病肥満などの生活習慣が主な原因です。2型糖尿病ではインスリンが効きにくくなること(インスリン抵抗性)や相対的に量が減ることなどが原因で起こります。脳は糖分を栄養にしその取り込みにはインスリンが必要です。インスリンが効きにくくなったりその量が不足すると、βアミロイドという物質が増加してしまいアルツハイマー型認知症の発症を促してしまうなどの仮説が立てられています。

糖尿病は、認知症の発症と関わりがあると考えられています。もし持病に糖尿病があるのであればしっかりと治療することで認知症を発症する危険性を下げることができるかも知れません。

2. 認知症に予防効果がある生活習慣は?

認知症の予防効果のある生活習慣はあるのでしょうか。ここではいくつかの生活習慣と認知症の予防について考えてみたいと思います。

参考文献
・日本神経科学会/監, 認知症疾患診療ガイドライン2017
・Press D, Alexander D, Prevention of dementia, UpToDate 
・Zhong G et al. Smoking Is Associated with an Increased Risk of Dementia: A Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies with Investigation of Potential Effect Modifiers. PLoS One. 2015 Mar 12;10(3):e0118333

運動

定期的な身体活動をする人には認知症の発症が少なかったとする結果がいくつかの研究から報告されており、特にアルツハイマー型認知症の発症に効果があるのではないかと推測されています。一方で運動と認知症の発症には関連が見いだせなかったものもあり運動がどの程度認知症の発症を抑えるかについては決まった見解が得られていません。

とはいえ一定の見解がないからといって運動に効果がないという訳ではありません。定期的に運動をすることは認知症の危険因子である高血圧や糖尿病へはよい影響を与えて脳血管性認知症の原因である脳卒中脳梗塞脳出血)を抑える効果も期待できます。また認知機能以外では運動によって筋力を保つことは生活を営む上で重要です。

いきなり激しい運動を生活の中に取り入れることは難しいものです。できる範囲の運動から始めて少しずつ負荷を強くするなどの工夫をして継続することを意識すると良いかもしれません。

禁煙

喫煙は、アルツハイマー型認知症脳血管性認知症を起こす危険性を上昇させると考えられています。一方で禁煙をした人は喫煙者と比べても認知症になる可能性は低くなるという報告もあり禁煙による効果にも一定の期待はできるかもしれません。

喫煙は心臓や肺の病気を起こす危険因子です。禁煙をすることは認知症だけではなく他の病気に対しても予防効果が期待できます。禁煙を考えているのであれば実行に移すことによって得られる利益は大きいので禁煙に取り組んでみてください。

禁煙には禁煙外来を活用するのもよいでしょう。禁煙外来を行っている医療機関などを参考にしてみて下さい。

余暇活動

余暇活動は、労働以外の時間を使って楽しみなどを追求する行為のことです。余暇活動には知的なもの(ゲーム、映画鑑賞など)や身体的なもの(スポーツ、散歩、エアロビクスなど)、社会的なもの(友人と会う、ボランティア、旅行など)などがあります。

余暇活動は、認知症の発症によく効果があるという報告があり中年期から老年期の余暇活動の効果が期待されています。余暇活動は多様でありその定義も難しいためにどの程度認知症の予防に効果があるかははっきりとはしていません。

とはいえ余暇活動は日々の生活に楽しみを与える不可欠なものです。忙しい中でも余暇活動をすることは認知症のみならず様々なよい効果をもたらしてくれるでしょう。

食事

認知症の予防に効果のある食べ物は長年探し求められていますが、予防に根拠がある食品または食事は現在はありません。とはいえどのようなものに予防効果が期待されて検証されているかは気になる所だと思います。以下のような食品に認知症の予防効果が期待されていますが予防効果を証明したものはありません。

  • 食事スタイル
    • 地中海食
  • 食品
    • ω-3脂肪酸(オメガ3脂肪酸)
    • アルコール
    • ビタミン(B6、B12、葉酸、D、抗酸化ビタミン)

これらの食品は認知症の予防効果について検討されてはいるものの現在の所、認知症を予防するという証拠は得られていません。確かに認知症を予防できる食品があれば魅力的に感じる気持ちは理解できます。しかし、仮に予防に効果的な食品が発見されてもその食品を摂取し続けるだけで認知症を完全に予防することは難しいでしょう。病気を食品だけで予防することはどの病気でも難しいものです。

食事の役割は、当然ながら特定の病気を予防するだけではありえません。食事は日々の活動のために必要なエネルギーを得ることや生活のなかでの楽しみを得るという側面を忘れてはいけません。ある病気を気にするがあまりにバランスを崩したり食事がイヤになっては食事がもつ本来の役割からかけ離れているとも言えるでしょう。認知症の予防効果を期待して特定の食品を摂取し続けることは悪いことではありませんが、少なくとも栄養バランスを保ち精神的な負担を感じない範囲で行うことの方が大切です。