ぱーきんそんびょう
パーキンソン病
脳からの命令を伝える物質のドパミンが不足し、体が自由に動かなくなる病気。排便・排尿障害やうつ、認知症を起こすこともある。
15人の医師がチェック 236回の改訂 最終更新: 2023.06.30

パーキンソン病の基礎知識

POINT パーキンソン病とは

ドパミンという物質が不足するため、脳からの命令が全身にうまく伝わらず、身体が動かなくなる病気です。数年かけて徐々に進行していきます。 診断を確定するために、問診・頭部MRI検査・血液検査などを行います。今のところ完全に治る治療法はありませんが、薬物療法によって症状を抑えることができます。手足が震える・表情が乏しくなる・手や足がスムーズに動かなくなる・前のめりになるなどの症状が出た場合は医療機関にかかってください。その際は脳神経内科にかかることをおすすめします。

パーキンソン病について

  • 脳からの命令が全身にうまく伝わらず体が自由に動かなくなる病気
    • 脳の中で命令を伝達する物質のドパミン(ドーパミン)が不足することで起こる
    • 数年かけて徐々に進行する
  • 頻度
    • 日本では約15万人の患者がいると言われている
    • 高齢者の数百人に約1人
    • 60歳代で症状が現れはじめることが多い
    • 女性と比べて男性のほうがやや多い
  • 遺伝するパーキンソン病が存在する
    • パーキンソン病全体の中では少数
    • 遺伝によるパーキンソン病は比較的若い年齢で発症する傾向がある
    • 明確な遺伝関係がない場合でも、家族にパーキンソン病患者がいる人はパーキンソン病にかかる割合がやや高い
  • 症状は似ているが、原因が異なる「パーキンソン症候群」という病気がある
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パーキンソン病の症状

  • 動きに関する症状:代表的な症状は4つ
    • 安静時に手足が震える(安静時振戦)
      • 1秒間に5回(5Hz)程度の震え
      • 丸薬丸め様運動と呼ばれる特徴的な動きになることがある
    • 動きが遅くなったり、動かなくなる(無動・寡動)
    • 腕や足がスムーズに動かなくなる、カクカク動く(筋強剛・固縮)
      • 歩くときに手の振りが少なくなる
      • 字が小さくなる
    • 前のめりに突進するように歩く、倒れそうになっても立ち直れない(歩行障害・姿勢反射障害)
      • 歩きはじめる動作をとりにくい(すくみ足)
      • 転びやすくなる
    • 上に挙げた4つの症状に加えて、表情が乏しくなる(仮面様顔貌)もよく見られる
  • 症状は左右片側から少しずつ始まる場合が多い
    • 手の指先から始まってしだいに体の中心近くに症状が現れ、足の症状が現れ、次いで反対側に広がるのが典型的
    • 唇、舌、顎にも震えが出ることがある
  • 動き以外の症状
    • 脱力、疲労感
    • 感覚障害、痛み、嗅覚消失
    • まばたきが減る
    • 手足がむずむずする
    • 息苦しさ
    • 声が低く、小声になる
    • よだれが出る(流涎)
    • 飲み込みの障害(誤嚥性肺炎に繋がりやすい)
    • 勃起不全
    • うつ、不安症状
    • 睡眠障害
    • REM睡眠時の行動異常
    • 自律神経症状
    • 認知症のような症状
      • 動きに関する症状に加えて認知症を現したパーキンソン病と、レビー小体型認知症は概念としては極めて似ており、同一疾患とみなす考え方もある
    • 幻視
    • 譫妄(せんもう;幻覚や錯覚が起こり、自分がいる場所や日時がわからなくなる)
症状の詳細

パーキンソン病の検査・診断

  • 症状の問診や、複数の検査結果などから診断が行われる
    • 片方の手か足からふるえなどの症状が出現し、次に同じ側の手足、次に反対側の手足といったように順々に症状が進行することが多い
  • パーキンソン病以外の病気がないか確かめるための検査
  • その他の特殊な検査(上記では診断がつきにくい場合に行われる)
    • 心筋シンチグラフィレビー小体型認知症などの疾患と区別するために行う
    • SPECT検査:脳の血流状態を調べる
  • パーキンソン病の重症度の分類としてヤール分類がある
    • Ⅰ度:軽度の震えなどが片側のみにある
    • Ⅱ度:症状が両側にあり姿勢や歩行に影響がある
    • Ⅲ度:動きが遅い、まっすぐ歩けないなどの症状がある
    • Ⅳ度:一人で生活できない
    • Ⅴ度:自力で立ち上がれず常に介助が必要
  • 生活機能障害度も重症度の指標とされる
    • 1度:日常生活、通院がほとんど介助なしでできる
    • 2度:日常生活、通院に部分的な介助が必要
    • 3度:日常生活に全面的な介助が必要
  • ヤール分類Ⅲ度以上かつ生活機能障害度2度以上の人は難病医療費助成制度の対象になる
検査・診断の詳細

パーキンソン病の治療法

  • 今のところ完全に治る治療法はない
  • 主に薬によって症状を抑える治療が基本となる
    • 薬の適量が人によって全く異なるため、通常、少量から開始して時間をかけながら徐々に増やしていく
    • レボドパ製剤かドパミン作動薬で始めることが多い
  • レボドパ製剤
    • レボドパは体内でドパミンに変換される
    • 長期間使い続けると効果のある時間が短くなる(ウェアリングオフ現象)
    • 1日の中でも薬が切れた時間に症状が強くなる(日内変動)
    • レボドパの分解を抑える成分(レボドパ賦活薬)としてカルビドパを配合した製剤(商品名ネオドパストン、メネシット、ヴィアレブ配合持続皮下注、デュオドーパ配合経腸など)
    • レボドパ賦活薬としてベンセラジドを配合した製剤(商品名イーシー・ドパール、ネオドパゾール、マドパー)
    • レボドパ賦活薬としてカルビドパとエンタカボンを配合した製剤(商品名スタレボ)
  • ドパミン作動薬(ドパミンアゴニスト)
    • ドパミン作動薬は体内でドパミンと同様の作用を現す
    • 麦角系と非麦角系に分けられる
    • 麦角系ドパミン作動薬の例:ペルゴリド(商品名ペルマックスなど)、カベルゴリン(商品名カバサールなど)、ブロモクリプチン(商品名パーロデルなど)
    • 非麦角系ドパミン作動薬の例:ロチゴチン(商品名ニュープロパッチ)、ロピニロール(商品名レキップなど)、プラミペキソール(商品名ミラペックス、ビ・シフロールなど)
  • ドパミン放出促進薬
    • アマンタジン(商品名シンメトレル)
      • アマンタジンはインフルエンザの治療薬として使われる場合もある(現在ではまれ)
  • MAO-B阻害薬
    • MAO-B阻害薬はドパミンの分解を抑え、ドパミンの量を増やす
    • セレギリン(商品名エフピーなど)
  • COMT阻害薬
    • COMT阻害薬はレボドパの分解を抑え、レボドパ製剤と一緒に使うことで効果を改善する
    • エンタカポン(商品名コムタンなど)
  • レボドパ作用増強薬
    • レボドパ製剤と一緒に使うことで効果を強くする
    • ゾニサミド(商品名トレリーフなど)
  • アデノシンA2A受容体拮抗薬
    • レボドパのウェアリングオフ現象を改善する
    • イストラデフィリン(商品名ノウリアスト)
  • 抗コリン薬
    • ドパミンの作用を強くする
    • ピベリデン(商品名アキネトンなど)、トリヘキシフェニジル(商品名アーテンなど)
  • ノルアドレナリン前駆物質
    • すくみ足や立ちくらみ、ふらつきなどの症状を改善する
    • ドロキシドパ(商品名ドプス)
  • 各種薬剤には様々な副作用がある
    • レボドパ:長期間使用していると、効果のある時間が短くなったり(ウェアリングオフ)、手足が勝手に動いてしまう(ジスキネジア)などの症状がでる
    • ドパミンアゴニスト:突発性睡眠
      • 強い眠気を伴うこともあるが、眠気がないままいきなり寝てしまうこともある
      • 危険な作業への従事や、車の運転を控える必要がある
    • 抗コリン薬:尿が出にくくなったり、口が乾きやすくなったりする
  • 手術をともなう治療法もある
    • レボドパ製剤で効果が現れている人に適している
    • 認知症がある人、強い精神症状がある人、高齢者には適していない
    • 薬を減らすことができる
    • 深部脳刺激療法 (DBS)
    • 熱凝固手術:淡蒼球破壊術、視床破壊術など
  • DBSの概要
    • レボドパの効果がある人に用いる治療
    • 認知症のある人に行うことは難しい
    • ペースメーカーのように、体内に神経刺激装置とリード(先に電極が付いた針金のようなもの)、延長用ケーブルを植え込む
    • 神経刺激装置には電気回路と電池が内蔵されている
      • 神経刺激装置は胸の皮膚の下に植え込む
      • 電池は数年ごとに交換が必要
    • 神経刺激装置で発生させた電気刺激がケーブルを伝わってリードに送られる
    • リードは脳内に固定され、脳の一部に電気刺激を送る
      • 刺激する位置は視床下核、淡蒼球内節、視床中間腹側核のいずれか
      • リード挿入のため、頭蓋骨に直径14mmほどの穴を開ける
    • リードを植え込んだ状態でテスト刺激を行う
    • まれにテスト刺激で効果が見られず、リードを抜き取ってDBS中止とされる場合がある
    • 手術によって起こりうる問題(合併症)は頭蓋内出血、感染、リードの断線など
    • 電気刺激が原因でめまい・ふらつきなどを起こす場合がある
    • 体外の患者用プログラマ(リモコン)で刺激の入/切を切り替えられる
    • 強力な電気や磁気に近づくと異常な刺激が発生する可能性がある
      • アマチュア無線発信機、溶接機器、全自動麻雀卓など
      • 家庭用電化製品や携帯電話では通常は影響がない
      • MRI、ペースメーカーなど医療機器の使用には注意が必要
  • リハビリテーション
    • 運動療法:関節が硬くなって日常生活が困難になるのを予防する
    • 作業療法:日常生活で行う作業をできなくならないようにする
    • 言語療法:小声にならないよう、飲み込みが下手にならないように行う
治療法の詳細

パーキンソン病に関連する治療薬

レボドパ作用増強薬(パーキンソン病、パーキンソニズム治療薬)

  • レボドパを併用している状況下で、脳内のドパミン作用を増強し、パーキンソン病における手足の震えや筋肉のこわばりなどを改善する薬
    • パーキンソン病は脳内のドパミンが不足しておこる
    • 脳内でレボドパはドパミンへ変化しパーキンソン病の症状改善効果をあらわす
    • 本剤はレボドパを併用している状況下でドパミン放出促進作用などをあらわすとされる
  • ドパミンを脳内で分解してしまうMAO(モノアミン酸化酵素)という酵素の働きを抑える作用もあるとされる
  • レビー小体型認知症におけるパーキンソニズムに対して使われる場合もある
レボドパ作用増強薬(パーキンソン病、パーキンソニズム治療薬)についてもっと詳しく

COMT阻害薬(パーキンソン病治療薬)

  • レボドパ製剤の効き目を高め、パーキンソン病における手足の震えや筋肉のこわばりなどを改善する薬
    • レボドパは体内に入ると脳内へ移行した後、ドパミンへ変化することでパーキンソン病の病態を改善する
    • レボドパは脳内に入る前に分解されてしまうと脳内へ移行できなくなる
    • 本剤はレボドパを分解してしまうCOMTという酵素を阻害し、レボドパの脳内への移行を高める作用をあらわす
  • 本剤と併用するレボドパ製剤の例
    • レボドパ・カルビドパ配合薬(主な商品名:ネオドパストン配合錠)
    • レボドパ・ベンセラジド配合薬(主な商品名:イーシー・ドパール配合錠)
COMT阻害薬(パーキンソン病治療薬)についてもっと詳しく

アデノシンA2A受容体拮抗薬(パーキンソン病治療薬)

  • 脳内の運動機能を低下させる物質の作用を抑え、パーキンソン病における運動機能低下などを改善する薬
    • パーキンソン病では脳内のドパミン量が不足している
    • 脳内の一部の神経細胞ではドパミンが不足するとアデノシンという物質が優位になり運動機能の低下などがおこる
    • 本剤は脳内のアデノシンA2A受容体を阻害し、アデノシンの作用を抑える
  • 本剤は主にパーキンソン病におけるwearing off(ウェアリング・オフ)現象を改善する
    • レボドパ製剤の長期使用により効き目が悪くなり「一旦レボドパ製剤を服用しても次の服用時間の前にパーキンソン病の症状が出てしまう」ことを「wearing off現象」という
アデノシンA2A受容体拮抗薬(パーキンソン病治療薬)についてもっと詳しく

パーキンソン病の経過と病院探しのポイント

パーキンソン病が心配な方

パーキンソン病では、手足が震える、表情が乏しくなる、腕や足がスムーズに動かなくなる、前のめりに突進するように歩くなどの症状が出ます。

ご自身がパーキンソン病でないかと心配になった時、受診の候補としては神経内科のクリニックや病院が適しています。パーキンソン病は、パーキンソン症候群としてまとめられる薬剤性パーキソニズム、脳血管性パーキソニズム、その他の神経変性疾患と見分けるのが非常に難しいこともあり、診断に数ヶ月〜数年かかることもあります。また完治することもないため、治療は数年以上に及びます。そのことを考えると、行きやすい医療機関、相性の良い医師を選ぶのも大切でしょう。

パーキンソン病の診断は問診と身体診察で行われます。パーキンソン病以外の脳の病気がないか調べるために頭部CT、MRIが行われます。パーキンソン病として症状や経過が典型的であれば上記で十分診断できます。診断が難しい場合には心筋シンチグラフィやSPECTの検査が行われ、そのような検査は大きな病院や大学病院でしか行われていません。

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パーキンソン病でお困りの方

パーキンソン病の治療は主に薬剤ですが、完治することはなく、数年かけて徐々に症状が進行していきます。たくさんの種類の薬剤があり、また副作用も多いため、神経内科の医師の下、長年薬剤の調整を行っていくことになります。手術は薬の効果が乏しい場合に限って検討されます。またパーキンソン病に対する手術を行える脳神経外科の病院、脳神経外科医は非常に限られています。普段かかっている医師に紹介してもらうなどする必要があります。

パーキンソン病は手足や歩行の症状が少し進行していく病気のため、進行を遅らせるためにも、あるいは動かなくなってさらに体力や筋力が落ちるのを防ぐためにも、リハビリが大切になってきます。また進行度に応じて杖や車椅子などをうまく使ったりすることや、自宅の改装も必要になってきます。

パーキンソン病では手足や歩行の症状以外にも、認知症やうつ、不眠、便秘、排尿障害などさまざまな症状が出現し、生活に影響が及びます。それぞれに対して早めに気づき、出来る治療や対策を行うことが大切です。

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