ぱーきんそんびょう
パーキンソン病
脳からの命令を伝える物質のドパミンが不足し、体が自由に動かなくなる病気。排便・排尿障害やうつ、認知症を起こすこともある。
15人の医師がチェック 236回の改訂 最終更新: 2023.06.30

パーキンソン病の治療:薬物療法や脳深部刺激療法

パーキンソン病の治療は薬物治療が中心になります。パーキンソン病は、脳の中でのドパミンが不足することで起こるので、薬物療法では、ドパミンを補ったりします。リハビリテーションなども機能維持において大切です。

1. パーキンソン病の治療の目的

パーキンソン病の治療は、主に症状の改善を目的として行われます。現在のところパーキンソン病を治す治療というものは確立されていなので、薬などを使いながら病気と付き合っていくことになります。パーキンソン病の治療で中心的な役割を果すのが薬物療法ですが、リハビリテーションも機能を維持するにあたり重要です。他にも頭に電気刺激が流れる線を埋め込む手術も治療の選択肢の一つです。

パーキンソン病の治療ではこれらの治療法を上手く組み合わせて症状の改善や機能の維持を目指します。

2. 薬物療法

パーキンソン病の治療は、薬物療法を中心に行われ、症状の改善が期待できます。パーキンソン病は脳の中のドパミン(ドーパミン)という物質を出す細胞が減ることを原因とします。ドーパミンを出す細胞はパーキンソン病ではない人でも年齢とともに減っていきますが、パーキンソン病の人は減少するスピードがとても早いのです。細胞を新たに作ることはできないので、薬物療法では足りなくなったドパミン(ドーパミン)を補うなどします。治療に用いる薬は数種類があります。

【パーキンソン病治療薬】

  • レボドパ(L-ドパ)製剤(ネオドパストン®、メネシット®、マドパー®など)
  • ドパミン受容体刺激薬(ドパミンアゴニスト/ドパミン作動薬)(ビ・シフロール®など )
  • COMT阻害薬(カテコール-O-メチル基転移酵素阻害薬)(コムタン®など) 
  • MAO-B阻害薬(モノアミン酸化酵素B阻害薬)(エフピー®など)
  • ゾニサミド(レボドパ作用増強薬)(トレリーフ®)
  • ドパミン放出促進薬(シンメトレル®など)
  • アデノシンA2A受容体拮抗薬(ノウリアスト®など)
  • 抗コリン薬(アーテン®など)
  • ノルアドレナリン前駆物質(ドプス®など)

パーキンソン病治療薬はいくつも種類がありますが、それぞれで役割が異なります。パーキンソン病の原因は脳内でのドパミンが不足することなのでドパミンを補うことが治療になります。ドパミンを補うことができるのはレボドパもしくはドパミンの代わりに作用するドパミン受容体刺激薬です。

他の薬はドパミンが分解されにくくしたり腸から薬を吸収しやすくしたりして治療の効果を高めます。患者さんの症状や身体の状態を鑑みながら薬を組み合わせます。

以下ではそれぞれの薬について個別に説明します。

レボドパ(L-ドパ)製剤(ネオドパストン®、メネシット®、マドパー®など)

レボドパはパーキンソン病の治療における中心的な役割を果たしている薬です。

パーキンソン病は主に脳内のドパミンが不足することによって引き起こされるため、ドパミンを脳内に補うことでその症状の改善が期待できます。ただし、脳などの中枢神経には血液から薬物などが移行するのを防ぐ役割を果たす血液脳関門(Blood Brain Barrier)という関所のような機構があり、ドパミンそのものは血液脳関門を通過できないためドパミンを服薬したとしてもパーキンソン病の改善効果は期待できません。一方でドパミンの前駆物質であるレボドパ(L-ドパ)は血液脳関門を通過できる性質を持ち、レボドパは脳内のドパミン神経に取り込まれた後ドパミンに変換される特徴があります。

現在ではレボドパ単独成分の製剤(商品名:ドパストン®など)より、レボドパにレボドパの効果を引き上げる成分を配合した製剤が一般的に使われています。

レボドパは脳内のレボドパ脱炭酸酵素(ドパ脱炭酸酵素)によってドパミンへと変換されますが、この酵素は脳だけでなく腎臓や肝臓、小腸などにも存在しています。そのため、投与されたレボドパの一部は血液脳関門に辿り着くまでにドパミンへと代謝されてしまい脳内へ移行できません。カルビドパやベンセラジドはレボドパ脱炭酸酵素を阻害する作用をあらわし主にレボドバの末梢での脱炭酸を抑える一方でカルビドパやベンセラジドは通常用量では脳内へ移行しないため、レボドパの脳への利用率を高める効果やドパミンによる消化器症状などの末梢作用の軽減などが期待できます。

臨床では実際にレボドパとカルビドパの配合製剤(主な商品名:ネオドパストン®、メネシット®)、レボドパとベンセラジドの配合製剤(主な商品名:イーシー・ドパール®、ネオドパゾール®、マドパー®)が使われています。また空腸投与用のレボドパとカルビドパの配合製剤であるデュオドーパ®といった製剤も発売されています。

レボドパは末梢で脱炭酸酵素の他にもCOMT(Catechol-O-MethylTransferase:カテコール-O-メチル基転移酵素)という酵素によっても代謝(水酸基のメチル化)を受けていて、このCOMTを阻害するエンタカポンという薬を併用することでレボドパの脳への移行性をさらに向上させることが期待できます。そのためレボドパの効果持続時間の短縮によっておこるwearing-off(ウェアリングオフ)現象に対してはネオドパストン®などの配合製剤にエンタカポン(主な商品名:コムタン®)を併用する治療などが行われます。近年ではレボドパ・カルビドパ・エンタカポンの3成分の配合製剤であるスタレボ®配合錠が発売され、この製剤によって1回の服用錠数を減らせたり嚥下への懸念を減らせるなどのメリットが考えられます。

また、レボドパとカルビドパの配合製剤には、飲み薬以外にもデュオドーパ®配合経腸用液、ヴィアレブ®配合持続皮下注があります。これらはwearing-off(ウェアリングオフ)現象が起きてしまって病気のコントロールが難しい患者さんに用いられます。体の中に24時間持続的にお薬を投与することで、体の中のドパミンの濃度を一定に保ち、wearing-off(ウェアリングオフ)現象を改善する効果があります。
デュオドーパ®配合経腸用液は、手術によって胃瘻を作り、持続的に直接腸にお薬を投与し続ける治療法です。ヴィアレブ®配合持続皮下注は、2022年に承認されたばかりのお薬で、細い管をお腹など皮膚の下に留置して、管から持続的に皮膚の下にお薬を投与し続けることができます。デュオドーパ®配合経腸用液と比べると、手術をせずに、簡単に持続的にお薬を投与することができる、画期的な治療法です。

レボドパ製剤で注意すべき副作用としては吐き気などの消化器症状、幻覚や衝動制御障害などの精神神経系症状、汗や尿などの着色(薬の一部がメラニンという物質に変化することで黒っぽい着色がみられる場合があります)などがあります。他に頻度はかなり稀とされていますが前兆がない突発的な眠気があらわれる可能性もあります。突発的眠気は他の種類のパーキンソン病治療薬によってもあらわれる可能性が考えられていて注意が必要です。またレボドパは急な減量や中止によって高熱や意識障害などの悪性症候群が起こる可能性もあるため、自己判断での減量や中止は避ける必要があります。

レボドパ製剤などによるパーキンソン病の治療が長期に渡るとwearing-off(ウェアリングオフ)現象と呼ばれる効果持続時間の短縮による症状の日内変動などがあらわれる場合があります。またジスキネジアといって手足や口などが意思に反して動く症状があらわれる場合もあります。副作用のような症状や薬剤の効果の減少など、なんらかの変化がみられた場合は自己判断せず医師や薬剤師へ相談するなど適切に対処することが大切です。

ドパミン受容体刺激薬(ドパミンアゴニスト/ドパミン作動薬)

ドパミンが作用するドパミン受容体を刺激し不足しているドパミンの作用を補うことで症状の改善が期待できる薬で、ドパミンアゴニストやドパミン作動薬などと呼ばれることもあります。

ドパミンアゴニストは化学構造などの違いによって麦角系と非麦角系のタイプに分かれます。パーキンソン病の治療においては一般的に心臓弁膜症などの循環器症状などへの懸念がより少ない非麦角系の薬剤が使われることが多くなっています。

非麦角系のドパミンアゴニストとしてはプラミペキソール(主な商品名:ビ・シフロール®)、ロピニロール(主な商品名:レキップ®)、ロチゴチン(商品名:ニュープロ®パッチ)などが使われています。

また体内で徐々に薬剤成分が放出されるように工夫を施し(通常)1日1回の服用を可能にしたプラミペキソールの徐放性製剤(主な商品名:ミラペックス®LA)やロピニロールの徐放性製剤(主な商品名:レキップ®CR)もあります。また、ハルロピテープ(ロピニロール)という貼付剤もあるので、患者さんの状態にあったタイプの薬が選べます。

ロチゴチン製剤のニュープロ®パッチは通常、1日1回の投与に加え皮膚から薬剤の成分が吸収されるパッチ剤(貼り薬)という特徴を持っています。パーキンソン病では神経変性によって嚥下(飲み込み)の障害を随伴症状として持つ場合があり、薬を飲むことが難しいケースも考えられます。ロチゴチン自体、皮膚からの吸収効率が高いなどの特徴も開発経緯としてありますが、パッチ剤として経皮吸収により薬剤を投与することで嚥下困難な場合などへのメリットが考えられます。

ドパミンアゴニストの中でも注射剤のアポモルヒネ(商品名:アポカイン®)は他の治療薬でオフ症状(薬剤の効果が十分発揮されず症状があらわれている状態)がみられる時の自己注射薬として使われ、速やかなオフ症状改善が期待できる薬です。

ドパミンアゴニストで注意すべき副作用には吐き気などの消化器症状、幻覚や妄想などの精神神経系症状、突発的な眠気、ジスキネジアなどがあります。

薬剤の用量や病態などによっても異なりますが吐き気などの消化器症状や幻覚・妄想などはレボドパに比べると一般的に頻度が高いと考えられています。

麦角系の薬剤では心臓弁膜症などの循環器症状に特に注意し必要に応じて胸部X線検査心エコー検査などを行い経過観察することも大切です。

ドパミンアゴニストはパーキンソン病以外の疾患や症状に対しても有用な薬で、例えば非麦角系のプラミペキソールやロチゴチンがレストレスレッグス症候群の治療に使われたり、麦角系のカベルゴリン(主な商品名:カバサール®)やブロモクリプチン(主な商品名:パーロデル®)が高プロラクチン血性排卵障害などの治療に使われることもあります。

COMT阻害薬(カテコール-O-メチル基転移酵素阻害薬)

パーキンソン病の治療では脳内へ移行した後でドパミンへ変換されるレボドパ(L-ドパ)が中心的な薬になりますが、レボドパは末梢で脱炭酸酵素の他にもCOMT(Catechol-O-MethylTransferase:カテコール-O-メチル基転移酵素)という酵素によっても代謝(水酸基のメチル化)を受けています。またレボドパによる治療が長期になり、ドパミンを蓄えたり再利用する能力が低下するとwearing-off(ウェアリングオフ)現象と呼ばれる効果持続時間の短縮による症状の日内変動がみられる場合があります。

エンタカポン(主な商品名:コムタン®)はCOMTを阻害することでレボドパの脳への移行性をさらに向上させレボドパによる治療の作用持続時間を延長させることが期待できます。そのためwearing-off(ウェアリングオフ)現象に対してはネオドパストン®などの配合製剤にエンタカポン(主な商品名:コムタン®)を併用する治療などが行われます。

近年ではレボドパ・カルビドパ・エンタカポンの3成分の配合製剤であるスタレボ®配合錠が発売され、この製剤によって1回の服用錠数を減らせたり嚥下への懸念を減らせるなどのメリットが考えられます。

エンタカポンはレボドパ製剤の効果を高めるため幻覚・妄想やジスキネジアなどのレボドパによる副作用を助長させる可能性が考えられます。また服用しているとエンタカポンそのものの色が尿に混ざることで尿の色が暗い黄色または赤みがかった茶色に着色する場合があり、この着色自体は健康に影響はないことなどを事前に医師や薬剤師から聞いておくことも大切です。

MAO-B阻害薬(モノアミン酸化酵素B阻害薬)(エフピー®など)

脳内の神経細胞から遊離されたドパミンの一部はMAO(モノアミン酸化酵素)という酵素によって分解されてしまいます。MAOにはA型とB型のタイプがありますが、ヒトの脳内にはB型のタイプが多く存在するとされ、ドパミンは主にMAO-Bによって分解されています。

セレギリン(主な商品名:エフピー®)はこのMAO-Bを阻害することでシナプス間隙におけるドパミン量の減少を抑える作用やシナプスへドパミンが再び回収される再取り込みを阻害する作用をあらわします。これらの作用によってドパミン量の低下が抑えられ、増加したドパミンが受容体の刺激を持続的に高め、ドパミンとアセチルコリンのバランスが調整されることによってパーキンソン病の症状改善が期待できます。

セレギリンで注意すべき副作用は便秘などの消化器症状、不眠、血圧変動、肝機能障害などです。不眠の副作用があるようにセレギリンには覚醒作用が少なからずあるため、服用するタイミングは1日1回であれば通常、朝に服用し、1日2回であれば通常、朝と昼に服用します(治療上の理由などから「1日3回朝・昼・夕」などの服用指示がされる場合もあります)。またセレギリンを脳内でドパミンへ変換されるレボドパ(L-ドパ)製剤と併用する場合はレボドパによる効果を引き上げることが考えられ、幻覚・妄想やジスキネジアなどのレボドパによる副作用を助長させる可能性が考えられ注意が必要です。

新しいMA0-B阻害薬として、エクフィナ®(サフィナミドメトシル塩酸塩)という薬が登場しています。この薬はMAO-Bを阻害する薬ですが、作用に違いがあり、従来のMAO-B阻害薬にはないウェアリングオフ現象の改善効果が期待されています。ウェアリングオフ現象とは、治療薬であるL-ドパの効果が持続しなくなり、症状がよくなる時間帯と悪くなる時間帯が現れることです。
 

ゾニサミド(レボドパ作用増強薬)(トレリーフ®)

ゾニサミドは元々、てんかん(反復性の痙攣や意識障害などの発作が起こる脳の病気)の治療薬として開発された薬です。

その後、パーキンソン病を持つ患者に併発した痙攣発作の治療においてゾニサミドを使ったところ、けいれん発作が治ると共にパーキンソン病自体の症状の改善もみられたことでパーキンソン病への有用性が考えられ、2009年にトレリーフ®の名称でパーキンソン病の治療薬としても承認されています。

パーキンソン病の治療においてゾニサミドは通常レボドパ製剤と併用して使われ、ドパミンを蓄えたり再利用する能力の低下が起因とされるwearing-off(ウェアリングオフ)現象と呼ばれるレボドパの効果持続時間の短縮による症状の日内変動に対しても効果が期待できます。

ゾニサミドのパーキンソン病を改善する作用の仕組みはまだ完全には解明されていませんが、レボドパを併用している状況でドパミンの放出促進作用などをあらわしレボドパの作用を増強及び延長させたり、ドパミンを分解してしまうMAO(モノアミン酸化酵素)という酵素を阻害しドパミン量の低下を抑える作用などが考えられています。

注意すべき副作用として眠気、めまいなどの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、幻覚、ジスキネジアなどがあります。

また冒頭で少し触れたように元々てんかんの治療薬として開発された薬なので、なんらかの治療で抗てんかん薬としてのゾニサミド製剤(主な商品名:エクセグラン®)をすでに服用していて、仮にパーキンソン病治療でトレリーフ®を使うという場合には薬の成分が重複することになるため事前に併用薬を情報を医師や薬剤師に話しておく必要があります。

ドパミン放出促進薬(シンメトレル®など)

パーキンソン病では主に脳内のドパミン不足によって手足の震えなどの症状があらわれます。アマンタジン(主な商品名:シンメトレル®)はドパミンの放出促進作用・再取り込み抑制作用・合成促進作用をあらわしドパミン作動神経系の活動を亢進させることによってパーキンソン病(パーキンソン症候群)の改善効果をあらわすと考えられています。

アマンタジンはパーキンソン病治療の他、高次中枢神経機能低下に対して改善が期待できるとされ脳梗塞の後遺症に伴う意欲や自発性低下の改善などにも使われる場合があります。また元々、抗ウイルス薬として開発された経緯がありA型インフルエンザ治療薬としても保険承認されている薬です(ただし、B型インフルエンザには無効とされることやオセルタミビル(商品名:タミフル®)などの抗インフルエンザ薬の登場により現在、インフルエンザ治療薬として使われるケースはかなり稀といえます)。

パーキンソン病治療におけるアマンタジンで注意すべき副作用に吐き気などの消化器症状、幻覚や妄想などの精神神経系症状、血圧変動などの循環器症状などがあります。

アデノシンA2A受容体拮抗薬(ノウリアスト®)

大脳基底核回路内の線条体-淡蒼球経路(間接経路)で発現しているアデノシンA2A受容体へ作用する薬です。パーキンソン病ではアデノシンA2A受容体が活性化することでこの間接経路の過剰興奮がおこり、大脳基底核経路を通じて運動障害をもたらすと考えられています。

イストラデフィリン(ノウリアスト®)はアデノシンA2A受容体を遮断することでパーキンソン病の症状を改善する薬として世界で初めて開発されたアデノシンA2A受容体拮抗薬になります。

パーキンソン病の薬物治療ではレボドパ(L-ドパ)製剤などによるドパミン補充療法が中心となりますが特に治療が長期に渡ってくると、ドパミンを蓄えたり再利用する能力の低下が起因とされるwearing-off(ウェアリングオフ)現象と呼ばれるレボドパの効果持続時間の短縮による症状の日内変動などが懸念や問題となってきます。これに対してはレボドパ製剤やドパミンアゴニストに加えてドパミンを分解するドパミン代謝酵素の働きを抑える薬などを併用する治療法が一般的に行われています。

イストラデフィリンはドパミン受容体やドパミン代謝酵素に作用しない薬(非ドパミン系に分類される薬)であるため、従来のレボドパ、ドパミンアゴニスト、ドパミン代謝酵素阻害薬などのドパミン系薬剤と組み合わせることで相加的な効果が期待でき、パーキンソン病治療の選択肢を広げるメリットなどが考えられます。

注意すべき副作用としてジスキネジア、便秘などの消化器症状、幻視や幻覚、眠気などがあります。また本剤は主にいくつかの肝臓の薬物代謝酵素によって代謝を受けるため、この代謝酵素に関わる抗真菌薬(イトラコナゾールなど)や抗菌薬(クラリスロマイシンなど)などの薬剤との飲み合わせ(相互作用)には注意が必要です。またセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)というハーブを含む食品や喫煙なども薬物代謝酵素に影響を与える可能性があり注意が必要です。

抗コリン薬(アーテン®など)

パーキンソン病では脳内のドパミン不足によってドパミンとアセチルコリンのバランスが崩れています。抗コリン薬とはその名前の由来にもなっている通り神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑える作用をあらわし、パーキンソン病やパーキンソン症候群の治療においてはドパミンの不足によって相対的に作用が強まっているアセチルコリンの働きを抑えることで症状の改善が期待できます。

抗コリン薬には主に脳などの中枢へ作用する薬と主に消化管などの末梢に作用する薬がありますが、パーキンソン病やパーキンソン症候群の治療には中枢へ作用しやすい傾向があるトリヘキシフェニジル(主な商品名:アーテン®)などの薬が治療の選択肢となる場合も考えられます。

ただし、抗コリン薬ではその副作用に対して注意が必要になります。アセチルコリンの働きを抑える抗コリン作用によって口渇、便秘、眼圧上昇などの眼の調節障害、排尿困難などがあらわれることが考えられます。パーキンソン病が高齢者に多い疾患であることや、眼圧上昇などにより視野が狭くなる緑内障排尿障害などがあらわれる前立腺肥大などの持病を持っていることが多い高齢者、ということを考慮すると抗コリン作用によるリスクは少なくありません。また高齢者に多い疾患のひとつである認知症では脳内のアセチルコリンの働きが低下している場合が多くみられますが、仮にこの状態で抗コリン薬を使用するとアセチルコリンの働きをさらに低下させ病態の悪化などが生じることも考えられます。

このような理由から緑内障、前立腺肥大、認知症重症筋無力症などを持病に持つ場合には抗コリン薬が適さないことが考えられ、もしもこれらの持病を持つ場合には医師や薬剤師に事前に相談しておくことが非常に大切です。

ノルアドレナリン前駆物質(ドプス®など)

パーキンソン病では脳内のドパミン不足により、ドパミンから変換されるノルアドレナリンも不足する傾向にあり、ノルアドレナリンが不足するとすくみ足や立ちくらみなどの症状があらわれやすくなります。

ドロキシドパ(商品名:ドプス®など)はノルアドレナリンの前駆物質で生体内の酵素によってノルアドレナリン(l-ノルアドレナリン)へ変換され中枢及び末梢においてその作用をあらわし、パーキンソン病治療ではすくみ足や立ちくらみなどを改善する効果が期待できます。

またドロキシドパはパーキンソン病治療の他、末梢の交感神経機能を賦活させる作用などによってシャイドレーガー症候群や家族性アミロイドポリニューロパチーといった疾患における起立性低血圧失神、立ちくらみなどの改善や血液透析における起立性低血圧などの改善などにも使われる場合があります。

ドロキシドパで注意すべき副作用には頭痛や幻覚などの精神神経系症状、吐き気や食欲不振などの消化器症状、動悸や血圧変動などの循環器症状などがあります。また頻度は非常に稀とされますが白血球減少などの血液症状、悪性症候群などがあらわれる可能性も考えられ注意が必要です。

3. 薬物療法で知っておきたいこと

パーキンソン病の治療には薬物治療が中心になり、症状を改善する効果が期待できます。パーキンソン治療薬は、効果と副作用のバランスをとるのが難しく、効果が強く出過ぎると生活に支障をきたす原因になってしまいます。薬とは長い間付き合っていくことになるので、薬物治療の知識は深めておきたいものです。ここでは薬物治療中に知っておきたいことをまとめました。

病気が進行すると薬の効果が弱くなる:ウェアリング・オフ現象

パーキンソン病は、薬物療法を開始すると効果が現れて安静時の身体の震え(安静時振戦)や身体の動かしにくさなどの症状は改善します。薬物療法は、パーキンソン病の原因であるドパミンの不足を薬で補うことで症状を改善していますが、根本となるドパミンを出す細胞の減少をくいとめている訳ではありません。つまり現在のところパーキンソン病の進行を止めている訳ではないのです。

時間の経過とともにドパミンを出す細胞は減少するのでその分、必要なドパミンの量は増えていきます。薬によって補わなければならない量が増えると時間帯によってはドパミンの量が不足してしまいます。つまり1日の中でも症状の良い時と悪い時の時間による差が出来てしまうのです。専門的にはこの現象をウェアリング・オフ現象といいます。ウェアリング・オフ現象が起こると、極端な場合ではさっきまで問題なく身体を動かしていたのに突然身体が動かなくなるといったこともあります。

ウェアリング・オフ現象に対してはドパミンを補う薬の他にドパミンが分解されにくくしたり吸収量を上げたりする薬を併用して薬の効果がある時間を延ばして治療の効果を高めます。

パーキンソン病治療薬の効果が強いために出る症状:ジスキネジア

パーキンソン病治療薬の効果が強く出てしまい身体が意に反して勝手に動いたりしてしまうことがあります。筋肉に異常に力が入ることが原因で、この症状をジスキネジアといいます。ジスキネジアの症状は、主に以下のようなものがあります。

  • 体幹をくねらせてねじるような動きをする
  • 繰り返して唇をすぼめる
  • 口をもぐもぐとする
  • 腕をねじるような動きをする

ジスキネジアは、血液中での薬の濃度が高くなっているときに現れると考えられています。症状が軽い場合には様子をみることもありますが、日常生活にも影響が及ぶほど重い場合には、薬の量を調節します。

自己判断での薬の中止はやめましょう

薬の効果がないまたは副作用がでたために、自らの判断で治療薬の内服をやめてしまう人がいます。たしかにパーキンソン病治療薬は薬の調節が難しいことがあり、効果が不十分であったり副作用が強く出ることはあるのですが、薬を自分の判断で中止することはよくありません。

パーキンソン病は薬の内服をやめてしまうと症状が悪くなったり、薬を急に中止することによる悪性症候群という危険な副作用が現れることがあります。このため副作用と思われる症状が現れたときには医師や薬剤師にまず相談してみてください。くれぐれも自分の判断で薬を中止することはしないようにしてください。

他の病気の薬との飲み合わせに注意が必要

他の病気の治療で使っている薬の中には、パーキンソン病治療薬と同時に内服すると薬の作用が通常より強く出たり弱くなったりするものがあります。パーキンソン病治療薬の効果を弱める薬は吐き気止め(メトクロプラミド:商品名プリンペラン®など)やビタミンB6などです。

薬の飲み合わせの悪いものを避けるためにできることはあるのでしょうか。飲みわせの悪い薬を避けるには今から説明する2つのことに注意してください。

  • 市販薬などを安易に内服しない
  • かかりつけ以外の医療機関を受診するときにはお薬手帳を持参し活用する

市販薬にもパーキンソン病治療薬の作用に影響するものが含まれていることがあります。「市販薬なら大丈夫だろう」という安易な考えで内服すると危険なことがあります。できるだけ病状を把握している医師から処方を受ける方が安全です。

とはいえどうしてもかかりつけの医療機関以外を受診しないといけないこともあると思います。そのときにはお薬手帳を持参して医師や薬剤師に自分はパーキンソン病でこのような治療をしていると説明するとよいでしょう。

パーキンソン病の治療に用いる薬は絶妙な加減で決められています。その分少しのことにも影響を受けやすいことを頭の片隅においておきましょう。

4. 手術:脳を刺激する治療(脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation))

パーキンソン病の治療には手術も用いられることがあります。手術というと病気の部分を切除して治してしまうというようなイメージをお持ちかもしれませんが、パーキンソン病に対する手術は少し違います。

パーキンソン病の手術は脳に刺激を与える金属でできた線を埋め込むことです。手術によって埋め込んだ線から刺激を加えることによりパーキンソン病の症状(安静時の手足の震えや身体が動かなくなるなど)を改善します。

不整脈という心臓の病気を持っている人の中には、脈のリズムを正すためにペースメーカーというものを埋め込んで生活をしている人がいます。脳深部刺激療法と心臓のペースメーカでは目的や原理は異なりますが、イメージとしては近いものがあるかもしれません。

どんな人に検討するか?

では脳深部刺激療法はどのような人が検討すればいいのでしょうか?「パーキンソン病治療ガイドライン」を元にして分かりやすい言葉に言い換えて説明します。

  • 薬物治療を行っても改善が不十分な運動症状がある
  • 運動症状が1日の中で変動する
  • ジスキネジアがある
  • 薬の減量を行いたい

主に上のような条件に当てはまる場合には脳深部刺激を行うことを検討してもよいと考えられています。ジスキネジアという難しい用語について解説します。ジスキネジアは、無意識に口や手足が動く症状です。ジスキネジアはパーキンソン病治療薬が効きすぎて現れる症状です。

脳深部刺激療法は、基本的には薬物療法による治療が難しくなった人に対して用いられます。薬物治療の効果が不十分な場合はもとより、1日の中で症状が変動する場合やパーキンソン病治療薬によっておこるジスキネジアという症状がある場合も薬物治療でのコントロールが難しいケースなので脳深部刺激療法による効果が期待されます。

パーキンソン病は治療を開始してから時間の経過とともに薬の効果が弱くなるのですが、薬の効果を維持するために薬を飲む回数が増えたりします。人によっては1日6回も薬を飲まなければならないこともあり、日常生活に支障をきたすこともあります。脳深部刺激療法により望んだ効果が出た場合は薬の量を減らすことも可能になります。このため症状を抑えるための薬の量が多くなっている場合には脳深部刺激療法を検討できます。

手術は身体に負担もかかりますし、薬物療法に比べるとあまり気乗りしない治療法だと思います。しかし手術には一定の効果が見込めるのも事実なので医師から提案された場合には、治療によって得られる効果や起こりうる不利益などを聞いて理解した上で行うかどうかを判断してください。

参考文献
・日本神経科学会, パーキンソン病治療ガイドライン

どんな効果が期待できるのか?

脳深部刺激療法の目的は、パーキンソン病を治したり進行を止めることではなく症状を改善することです。治療の効果がでると手足の震えや身体が自由に動かせないといった症状が軽くなることがあり、日常生活を過ごしやすくする可能性があります。

またパーキンソン病治療薬を内服する量が増えている場合には症状の改善に伴い薬の量を減らすことも期待できます。

どのようにして行うのか?

では実際にはどのようにして脳深部刺激療法は行われるのでしょうか。順を追いながら少し詳細に解説します。

【神経刺激装置の埋め込み手術】

  1. 刺激する場所をきめるために頭に装置(定位脳手術装置)を装着する
  2. 定位脳手術装置を装着したまま画像検査(CT検査またMRI検査)を行う
  3. 画像検査の結果をもとにして脳を刺激する場所を定める

以下は手術室で行います。

  1. 頭に小さな穴を開けて刺激のための線(リード線)を挿入する
  2. リード線が上手く機能するかどうかをテストする
  3. 皮膚の下を神経刺激装置から延長したケーブルを通す
  4. ケーブルとリード線を接続する
  5. 刺激を発生する装置を胸に埋め込んで手術が終了する(神経刺激装置は日をあらためて埋め込むことがある)

どんなことに注意が必要か?

神経刺激装置を埋め込んだ後には効果と副作用のバランスがとれた刺激を送るために刺激の強さの調整が行われます。適切な刺激の強さが決まって傷などに問題がなければ退院になります。入院中、退院後は以下のような症状に注意してください。

  • 手や足、顔にぴりぴりした感じがする
  • しゃべりにくい
  • 神経刺激装置を埋め込んだ部分が赤くなったり痛みがある
  • 頭痛やめまい、ふらつきを感じる

これらの症状がある場合には刺激が強いまたは埋め込んだリード線や神経刺激装置のケーブルに感染や脳内出血脳脊髄液の漏れなどが起こっている可能性があります。症状はこれらの原因がなくても起こることはありますが、リード線という異物が挿入されている状況を考えると大事をとって治療を受けた医療機関を受診することをお勧めします。

また皮膚の下に埋め込まれた神経刺激装置は電池で動いているので5年前後で交換が必要になります。電池の残量は定期的に外来で測定されます。

リード線や神経刺激装置は金属で出来ています。このため磁気を利用する機械には注意が必要です。特にMRI検査は強い磁気を使って身体の中を画像化するので、検査を受けることができないことが多いです。病院で検査が予定されそうならば必ず脳深部刺激療法中であるという旨を医師に伝えてください。

どこで治療できるのか?

脳深部刺激療法は、どの医療機関でも受けられる治療ではなく、限られた施設でのみ実施されています。では治療を受けられる場所はどこで調べればいいのでしょうか。

日本定位・機能神経外科学会のウェブサイトでは脳深部刺激療法などの機能的定位脳手術の施設認定を受けた医療機関を調べることができます。認定を受けた医療機関では、脳深部刺激療法を受けることが可能です。

もし今、治療を受けている医療機関が脳深部刺激療法を行っていない場合には、実施できる施設を紹介してもらうことで治療を受けられます。紹介してもらう際には診療情報提供書という病院間で患者さんの情報を共有するための書類などが必要です。したがってご自分でいきなり医療機関を受診しても望んだ診察を受けられないことがあるので、紹介を希望する場合には担当医に受診の方法を確認してみてください。

5. リハビリテーション

パーキンソン病の症状は、安静時の身体の震えや身体が動かなくなる、手や足の関節がスムーズに動かせなくなるなどの運動に関するものが多いです。これらの症状は時間とともに進行していきます。日常生活を送る上では症状が進行するのを抑えてできるだけ長い間にわたって機能を維持することが大切です。

パーキンソン病の症状に対してリハビリテーションを行うことは機能維持の目的に有効であることが知られています。リハビリテーションには運動療法と作業療法、言語療法の3種類があり、パーキンソン病の人はどれもが重要です。ここからは3つに分けて実際にどんなことを行うか解説します。

運動療法

運動療法は、主に運動機能そのものの回復を目指して、ストレッチや筋肉トレーニングなどが行われます。立ったり座ったりといった動作を繰り返して生活を送る上で必要な筋力を維持します。パーキンソン病の人は病状が進行するとバランスを崩しやすくなり転倒しやすくなるので膝立ちでの移動や片足立ちなどを訓練します。パーキンソン病の人では歩行訓練と呼吸訓練は特に大切なので下で個別に解説します。

■歩行訓練

パーキンソン病になると歩行に障害が現れやすくなります。歩幅が小さくなったり方向転換が困難になったり腕がうまく振れなくなったりします。このため歩行中に転倒しやすくなり怪我などを負う危険性が高まります。

詳しいことは分かっていませんが、パーキンソン病の人はリズムに合わせたり床や地面に目印などがあると歩行がしやすくなることが知られています。この現象を利用してメトロノームや手拍子に合わせて歩いたり歩幅の目印をつけて歩いたりすることなどが訓練に取り入れられています。

■ 呼吸訓練

パーキンソン病になると筋肉が硬くなり、前屈みの姿勢をとるようになります。前屈みの姿勢では、肺の膨らみが悪くなるため呼吸機能の低下につながります。呼吸訓練では姿勢などを正すことや楽に呼吸ができる方法などの習得を目標にします。

作業療法

作業療法では日常的な作業を通して、心や体のケアを行います。

具体的には応用的な動作である手芸や工芸などの作業を訓練します。作業をできるようにすることで健康状態や幸福感の改善を目指します。

■音楽療法

パーキンソン病では一定のリズムを取り入れることでぎこちない運動がスムーズになります。この特徴を活かして音楽に合わせて体を動かしたり、歌ったりする訓練などがあります。歌ったりすることは楽しい気持ちを呼び起こして落ち込みがちな気分を高める効果も期待されています。

言語療法

言語療法では、言葉や飲み込みなどの訓練を行います。パーキンソン病の人は、声が小さくなったり飲み込みの障害(嚥下障害)が起こりやすくなるので訓練で機能を保ったり改善を目指します。

■飲み込みの訓練(嚥下の訓練)

喉の筋肉を刺激するために冷やした綿棒などで舌の奥や喉の周りを刺激するマッサージや口を大きくあけたりすぼめたりすることで顔の筋肉を鍛える訓練が行われます。

■言語の訓練

パーキンソン病の人は病状が進行するとともに口をあけにくくなったり、お腹に力が入りにくくなったりします。そのため声が小さくなり、話し方も単調になります。

小さな声や単調な話し方を改善するために言語の訓練では口をあけて大きな声を出す訓練や文章を読み上げてスムーズな発声をできるような訓練などが行われます。

参考文献
・日本神経科学会, パーキンソン病治療ガイドライン

6. パーキンソン病の治療に用いるガイドラインはある?

パーキンソン病には日本神経学会が作成した「パーキンソン病治療ガイドライン」があります。ガイドラインは病気の治療において耳にすることがあると思いますが、どんなものなのでしょうか。

ガイドラインの目的は、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などです。またガイドラインは数年に1回のペースで中身が更新されており時代とともに最新の治療法などが反映されています。とはいえ医療は日々進歩を遂げているのでガイドラインの更新より先に有効な治療が登場して一般的になることもあります。

またガイドラインは有効な治療を選ぶ指針にはなりますが、一人ひとりの患者さんの状態まで考慮されているわけではありません。治療をはじめ医療には絶対にこれが正しいという選択は少なく、患者さんの状態などを加味して最適な治療を選択しているのです。つまりガイドライン通りに治療することがその人にとって最適にはならないこともあります。

もしガイドラインを目にする機会があり自分と違う治療法の記載を目にして疑問をいだいたのならば、担当する医師にどのような理由で今の治療を行っているかを聞いてみるとよいでしょう。