パーキンソン病の検査:MRI検査・心筋シンチグラフィー・診断基準など
パーキンソン病に特徴的な症状をパーキンソニズムといいますが、他の病気でも現れることがあります。パーキンソン病は症状だけで他の病気と見分けがつかないことがあるので診察や検査を行うことにより診断が可能になります。
目次
1. パーキンソン病の診察や検査の目的
パーキンソン病の診察や検査の目的はもちろんパーキンソン病と診断することなのですが、診断するのは容易ではありません。その理由について説明します。
パーキンソン病とパーキンソン症候群の違い
パーキンソン病の症状は安静時振戦(何もしていないのに身体が震える)や姿勢反射障害(姿勢を保てない)などが特徴的で、パーキンソニズムと言います。実はパーキンソニズムが現れる病気は他にもあります。ややこしいのですが、パーキンソン病以外の病気でパーキンソニズムの症状が現れていることをパーキンソン症候群といいます。
【パーキンソン症候群の原因になる主なもの】
- 脳や神経の病気
- 脳の血管の病気:脳血管障害
- 薬の副作用
感染症 - 脳炎
- 梅毒
上にあげたものはパーキンソン症候群の主な原因です。逆説的な話なのですが、パーキンソン病を診断するときにはパーキンソニズムを引き起こすものがないかを調べ上げて除外する必要があります。様々な病気の可能性を探るために診察やいくつかの検査を用います。
パーキンソン病が疑われるときに行う診察や検査
では実際にパーキンソン病とパーキンソン症候群(パーキンソニズムが現れる病気)を見分けるにはどのような診察や検査があるのでしょうか。以下のものになります。
- 診察
問診 - 身体診察
- 血液検査
- 画像検査
頭部MRI 検査心筋シンチグラフィー SPECT検査
診察では、医師と対話を行いながら病気の原因を探る方法(問診)と医師が動作を観察したり触ったりする方法(身体診察)の両方が用いられます。問診や身体診察はパーキンソン病とパーキンソン症候群を見分けるのに役立ちます。例えば、パーキンソニズムを引き起こすことがある薬を飲み始めた時期と症状の出現が近いとパーキンソン病ではなく薬剤が原因のパーキンソン症候群である可能性が高まります。
とはいえ診察だけでは、パーキンソン症候群の原因となる可能性を調べ尽くすのは難しいので、同時に検査も使います。検査は血液検査や画像検査などが中心になり、ここであげた全てを行う訳ではなく必要なものを選んで用います。
以下ではそれぞれの検査について個別に説明をします。
2. 問診
問診は医師からの質問に答えることで病気の特定につなげます。問診には以下のような質問が用いられます。具体的な例を示します。
【問診の例】
- 症状について
- どんな症状か
- やりにくい動作はあるか
- 痛みはあるか
- 症状はいつから現れたか
- 突発的なのか(日時を指定できるくらい明確か)
- 急に現れたのか
- 徐々に現れたのか
- 症状が現れる原因やきっかけに思い当たるものはあるか
- 症状はどれくらい続いているのか
- 症状の経過
- 悪化している
- 良くなっている
- 悪化したり良くなったりしている
- その他の症状(気になることは全て伝える)
- どんな症状か
- 家族のかかった病気について
- 血の繋がった家族がかかったことのある病気
- 過去や現在に治療している病気
- 入院・通院などして治療した病気について
- 薬についての質問
- 内服している薬の有無や内容
- お薬手帳などを利用してなるべく正確に
- 薬で
アレルギー を起こしたことがあるか
- 内服している薬の有無や内容
- 職業歴
- 具体的な職業
- 職場環境
問診の内容は多いですが、どれも重要です。問診は多くの情報を医師に与えることができます。それはすなわち自分の病気の診断のためにとても重要なことです。問診の答えはできるだけ正確で具体的な方が情報量が多くなります。慌てることなく自分の症状を伝えることが大切です。
3. 身体診察
身体診察は、パーキンソン病の診断において最も重要です。以下の様子を観察したり実際に医師が触って確かめたりします。身体診察で調べることをいくつか挙げます。
- 安静にしているときの様子
- 歩行の様子
- 関節の固さ
パーキンソン病の人は安静にしている時に手足が震えたり身体が左右に揺れたりすることが特徴的です。歩行の様子を知るために、診察では実際に歩いてもらいその様子を観察します。例えば、歩幅が小刻みであったり足をあまり上げず歩いたりするといった様子をみることができます。また医師が直接関節を曲げたり伸ばしたりして動きを評価したりします。
身体診察はパーキンソン病のように脳神経の病気においては診断・病状把握において最も大切です。
4. 血液検査
血液検査だけでは、パーキンソン病を診断することはできませんが、他の病気を除外するのに用いることができます。パーキンソン病に特徴的な症状をパーキンソニズムといいますが、これは他の原因でも現れることがあります。他に原因がないかを探すための手段の1つとして血液検査は有用です。例えば、パーキンソニズムは進行した梅毒で起こることがあり、血液検査で梅毒の可能性について調べることができます。
5. 画像検査
パーキンソン病で画像検査を行う目的は2つあります。
- 症状(パーキンソニズム)の原因になる他の病気がないかを調べる
- パーキンソン病に特徴的な結果があるかを調べる
パーキンソン病で現れる安静時の手足の震え(安静時振戦)や身体の動かしにくさ(無動)、関節がスムーズに動かない(固縮)などの症状はパーキンソニズムと呼ばれます。パーキンソニズムは他の病気でも現れることがあります。画像検査ではパーキンソニズムを起こす病気がないかを確認します。
画像検査では主に頭部の
頭部MRI検査
MRI検査は磁気を利用した検査で身体の中を画像化することができます。パーキンソニズムは脳の血管障害や多系統萎縮症、進行性核上性麻痺などの脳や神経の病気を原因とすることがあります。パーキンソン病は頭部MRI検査などで異常がないことが診断条件の1つです。頭部MRI検査が行えない条件を有する人の場合には代用として
心筋シンチグラフィー(MIBGシンチグラフィー)
心筋シンチグラフィーは、心臓を働かせる
心筋シンチグラフィーはMIBGという物質を用います。MIBGという物質は、ノル
パーキンソン病は心臓での
ややこしい話なのですが、心筋シンチグラフィーでMIBGの集まりが悪いのはパーキンソン病だけではなく、他にもレビー小体型認知症などの病気で同じような検査結果がでることがあります。心筋シンチグラフィーだけでパーキンソン病を診断できる訳ではありませんが、病気を絞り込むという意味で重要な検査です。
SPECT検査
SPECT検査は、脳の血流を評価する検査です。
6. パーキンソン病の診断基準
少し難しいのですが、まずパーキンソン病の診断基準を示します。後で、内容をかみ砕いて説明します。
【パーキンソン病の診断基準】
次の1-5のすべてを満たすものをパーキンソン病と診断する。
- 経過は進行性である
- 自覚症状で以下のうちいずれか一つ以上がみられる
- 安静時のふるえ(四肢または顎に目立つ)
- 動作が鈍く拙劣
- 歩行がのろく拙劣
- 神経
所見 で以下のうち、いずれか一つ以上がみられる- 毎秒4-6回の安静時振戦
- 無動・寡動(仮面様顔貌、低く単調な話し方、動作の緩徐、姿勢変換の拙劣)
- 歯車現象を伴う筋固縮
- 姿勢・歩行障害:前傾姿勢(歩行時に手の振りが欠如、突進現象、立ち直り反射障害)
- 抗パーキンソン病薬による治療で、自覚症状・神経所見に明らかな改善がみられる
鑑別診断 で以下のものが除外できる- 脳血管障害のもの
- 薬物性のもの
- その他の脳
変性 疾患
診断基準についてそれぞれを分けて解説します。
1. 経過は進行性である
パーキンソン病は進行する病気です。症状が徐々に悪くなっているかはパーキンソン病を診断する上で重要です。つまり症状が改善している場合や良くなったり悪くなったりしている場合は、パーキンソン病の典型的な症状ではないので他の病気の可能性を考えます。
2. 自覚症状
パーキンソン病の症状は特徴的で安静時の震えや動作の鈍さ、歩行の遅さなどです。これらの症状は自覚しやすく患者さん本人の訴えで聞くことにできます。自分で感じる症状を伝えてください。
3. 神経所見
神経所見は、医師が診察して得られる結果のことです。パーキンソン病の人を医師が診察すると特徴的な様子が現れます。パーキンソン病は体が上手く動かせなくなる病気で、上記のように様々な動作の中でその様子をみることができます。
4. 抗パーキンソン病薬で症状の改善がある
抗パーキンソン病薬はパーキンソン病に対して使う薬のことです。このページではわかりやすさからパーキンソン病治療薬と呼んでいます。パーキンソン病治療薬を投与するとパーキンソン病の症状は明らかに改善します。パーキンソン病でなければ症状の改善は乏しいです。
このように治療結果を診断に用いるケースを診断的治療といいます。
5. 鑑別診断
鑑別診断は医学用語で特定の病気とそれに似た症状などが現れる病気を見分けるという意味です。
パーキンソン病の場合には、脳血管の病気や薬剤、他の脳の病気でもパーキンソン病と似た
症状が現れるのでそれらと見分ける必要があります。鑑別診断には診察や血液検査、画像検査などを用いて調べます。
7. パーキンソン病の重症度分類:ホーエン・ヤール分類・生活機能障害度
パーキンソン病の病気の重さを言い表す方法に重症度分類というものがあります。重症度分類は治療の方針を決めることや治療の効果を評価することに用いられます。ここでは代表的なヤール分類と生活機能障害度という2つの分類を紹介します。
ホーエン・ヤールの重症度分類
ホーエン・ヤールの重症度分類は、パーキンソン病の症状の現れ方をもとにして重症度を6段階に分類したものです。分類の方法としてパーキンソニズムに注目します。パーキンソニズムは、パーキンソン病に特徴的な症状のことで、安静時の身体の震え(安静時振戦)や動作ができないまたはゆっくり(無動・寡動)、身体がスムーズに動かなくなる(筋固縮)などのことです。典型的な経過では、パーキンソニズムは片側に現れて病気の進行とともに両側で現れるようになります。以下がホーエン・ヤール分類の詳細な内容です。
- ホーエン・ヤールの重症度分類
- 0度:パーキンソニズムなし
- 1度:一側性パーキンソニズム
- 2度:両側性パーキンソニズム
- 3度:軽〜中等度パーキンソニズム。姿勢反射障害あり。日常生活に介助不要
- 4度:高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能
- 5度:介助なしにはベッド又は車椅子生活
ホーエン・ヤール分類は2度までは多くの場合、介助がなくても日常生活を送ることが可能です。3度になると、姿勢反射障害といって1人で立つことが難しくなり、転倒などの危険性も無視できなくなりますが、何とか日常生活は送ることができるレベルです。4度以上になると歩行はなんとかできるものの身の周りのことに関しては介助が必要になります。5度はパーキンソン病が最も進行した段階です。立って歩行することは難しい状況になります。
生活機能障害度
生活機能障害度は、日常生活にどの程度の介助が必要かをもとにしてパーキンソン病の重さを3段階にしたものです。
- 生活機能障害度
- 1度:日常生活、通院にほとんど介助を要しない
- 2度:日常生活、通院に部分的な介助を要する
- 3度:日常生活に全面的介助を要し独立では歩行起立不能
ホーエン・ヤール分類とは異なりパーキンソニズムがどの程度現れているかについての言及はありません。介助に関してもどの範囲を示すかはやや不明瞭です。
生活機能障害度は、ホーエン・ヤールの重症度分類と同様にして難病の医療費助成の対象かどうかの判定に用いられます。生活機能障害度分類で2度以上でかつホーエン・ヤール重症度分類3度以上で医療費助成を受けることができます。
生活機能障害度は医師が判断するので、診察の時には今の生活の様子などを伝えるようにすると現在の状態についてスムーズに判断してもらえると思います。