ひゃくにちぜき
百日咳
小児に多い呼吸器系の感染症で、特有の咳発作が特徴
14人の医師がチェック 94回の改訂 最終更新: 2018.02.16

百日咳の予防や日常生活の注意点について

百日咳は周囲にうつす病気です。その感染力は非常に強いことが分かっています。このページでは百日咳の注意点について日常生活を中心に説明していきます。

1. 百日咳はうつるのか?

感染症は周囲に伝染します。伝染力は病気ごとに異なります。例えば、HIV感染症は患者が近くにいるからうつるということはありませんし、日常生活で手を触れた程度でうつることはまずありません。しかし、麻疹はしか)は感染力が強いため、患者が近くにいるだけで周囲に伝染します。

感染症において周囲への伝染力の強さを数字化したものに基本再生産数というものがあります。基本再生産数は1人の感染者が周囲にいる何人に感染を広げるかを数字として表したものです。主な感染症の基本再生産数は以下になります。

【感染症ごとの基本再生産数】

感染症名

基本再生産数

インフルエンザ

2-3

百日咳

16-21

麻疹

16-21

風疹

7-9

水ぼうそう水痘

8-10

おたふく風邪ムンプス

11-14

百日咳の基本再生産数は16-21ですので、1人が感染すると周囲の16-21人に感染を広げるという計算になります。

ここで百日咳の基本再生産数を20と仮定してみましょう。1人が百日咳にかかると20人にうつします。するとその20人が20人にうつして400人になりといったように、感染者は指数関数的に増えていきます。しかし、もし周囲の人がワクチンを打っていれば百日咳をうつされる人の数は減ります。つまり、基本再生産数が20の百日咳も多くの人がワクチンを受けている世界では周囲の20人にうつすようなことはありません。

後ほど詳しく説明しますが、ワクチンは自分が感染しない意味もありますが感染を広めないという意味でもとても重要です。これを集団免疫と言います。

百日咳の感染経路について

百日咳の感染経路は飛沫感染です。飛沫感染では、咳やくしゃみの際にしぶきの中にいるウイルスが周囲に飛び散ることで感染が広がります。

感染症は大きく分けて次の3パターンの広がり方をします。

  1. 空気感染飛沫核感染、ひまつかくかんせん)
    1. 5μm(マイクロメートル、1μmは1mmの1000分の1)未満の大きさの感染源が空中を浮遊してうつる。空気中は1m以上は容易に移動できる
    2. 空気感染する病気の例:結核はしか水ぼうそう水痘)など
  2. 飛沫感染
    1. 5μm以上の感染源が、咳やくしゃみや会話の際に唾液などの飛沫(しぶき)に含まれて飛び散ることでうつる。空気中を短距離であれば移動できる
    2. 飛沫感染する病気の例:百日咳、手足口病インフルエンザマイコプラズマ肺炎アデノウイルス感染症、風疹おたふく風邪など
  3. 接触感染
    1. 患者やその周囲に触れることでうつる
    2. 接触感染の例:ノロウイルス感染症O-157感染症、HIV感染症など

百日咳は飛沫感染ですので、インフルエンザ手足口病などと同じような形で感染が広がります。飛沫感染は咳やくしゃみのしぶきで感染が広がることから、感染している人はもちろんその周囲の人もマスクをすることが重要であるとわかります。

百日咳の感染力について

百日咳の感染力は強いです。先程の基本再生産数の表を見て下さい。基本再生産数は1人の感染者が周囲にどのくらい感染を広げるかを表したものですので、感染症の感染力の強さを近似しているものです。上で挙げた表の中でも百日咳は麻疹と並んで最も大きな数字(16-21)となっており、感染力が強いことがわかります。

百日咳は感染力が強いですが、予防接種によって感染しにくくすることができます。百日咳の予防接種は4種混合ワクチン(百日咳、破傷風ジフテリアポリオ)に含まれます。国内ではこれを4回(生後3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、12-20ケ月)打つ形で定期接種になっています。百日咳は1歳未満でかかると重症になることが分かっているので、この定期接種は忘れないで受けるようにして下さい。

予防接種に関してもっと詳しく知りたい人は「予防接種のコラム」を読んで下さい。

百日咳の潜伏期間について

感染症は感染してもすぐに症状が出ないことが多いです。この症状のない状態を潜伏期間と言います。百日咳の潜伏期間はおよそ7日から10日です。

この潜伏期間が過ぎると、カタル期(一般的な風邪のように鼻水や咳、痰が見られる時期)、痙咳期(咳が段々と強くなって、咳も発作のような特徴的なものが見られる時期)、回復期(2,3週間ほど)と辿って治癒します。

感染しないように特に気をつけたほうが良い年齢はあるのか?

1歳未満の子どもが百日咳になると重症になることが分かっています。そのため、小さい子どもが長く咳をしている場合には気をつけなければなりません。特に1歳未満の子供に関しては、周囲の状況(症状やお休みの有無)と本人の症状を見て、おかしいなと思ったら一度医療機関を受診するようにして下さい。

また、高齢者や免疫力の低下している人も要注意です。咳が明らかに止まらない場合には医療機関を受診することを検討して下さい。また、もし息苦しさや意識もうろうを伴う場合には、必ず受診して下さい。

2. 百日咳かもと思ったら何科にかかれば良い?

百日咳は感染症ですので、感染症科にかかれば間違いないです。また、子どもが発症することが多い感染症ですので、小児科も百日咳の診療に長けています。つまり、感染症科か小児科が百日咳に強い診療科になりますが、感染症科は全国にあまり数が多くありませんので、小児科にかかることが現実的であると思われます。

一方で、百日咳は大人でも感染が起こります。その場合には、感染症内科や一般内科、呼吸器内科にかかると良いです。大人の百日咳は咳以外の症状があまり目立たないことも多いです。また、咳が続く病気は百日咳以外にも心不全気管支喘息咳喘息・感染後咳嗽など沢山あります。咳が全然治らなくて困るときには、検査を受けてみると良いかもしれません。

3. 赤ちゃんが百日咳になってしまったらどうなる?

赤ちゃんが百日咳になった場合には、重症にならないか気をつける必要があります。百日咳が重症になると、肺炎や脳炎などの合併症が出現します。

次の症状が出たときには重症になっている可能性があるので必ず医療機関を受診して下さい。

  • 肺炎によって呼吸困難が起こる
  • 肺炎によって痰が多い
  • 脳症によって痙攣(けいれん)がおこる
  • 脳症によって意識朦朧(もうろう)となる

特に咳が続く状態のあとに痙攣や意識朦朧が起こった場合には、救急車を用いて急いで受診することも問題になりません。

また、赤ちゃんが百日咳にならないためには予防接種がとても重要です。百日咳の予防接種に関しては次の章で説明します。

4. 百日咳のワクチン(予防接種)について

ワクチンとは「感染症の病原体の情報を免疫システムに記憶させることで、感染症にかかりにくくさせるもの」です。すべての感染症に対してワクチンは存在しませんが、百日咳に対してはワクチンが存在します。

国内では現在4種混合ワクチン(百日咳、破傷風ジフテリアポリオの4種類に対して予防効果があるワクチン)が定期接種されています。これを決められた期間で4回(生後3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、12-20ケ月)打つことになります。

百日咳ワクチンの予防効果は?

ワクチンは100%感染症を予防するものではありませんが、予防効果が認められたものが実用化されています。百日咳の予防効果は8割程度と推定されています。数字で分かる通り100点満点の効果はありませんが、百日咳の症状のしんどさや重症化するリスクを考えると、とても重要な医療行為と判断できます。

一方で、ワクチンには副反応という問題があります。一般的にワクチンの副反応は接種部位が赤く腫れる、熱が出る、身体がだるくなるなどですが、ひどい場合には後遺症を残すこともあります。1981年以前の百日咳ワクチン(正確には3種混合ワクチン)はこうした重篤な副反応が報告されていましたが、1981年に改良されてからは重篤な副反応が見られないようになっています。

ワクチンのみならず全ての医療行為に共通することですが、「医療行為で得られるメリットとデメリットを天秤にかけて、医療行為を受けるべきかどうかを判断する」必要があります。百日咳はワクチンを受けるメリットのほうがデメリットを上回っていると考えられています。

集団免疫とは?

百日咳ワクチンを打つと、百日咳にかかりにくくなり、百日咳にかかっても重症になりにくくなります。実はこれ以外にも百日咳ワクチンの重要な価値があります。

それは集団免疫と呼ばれる効果です。これは多くの人がワクチンにより百日咳に対する免疫を持つことで、周囲にうつさないようにすることです。

【集団免疫のイメージ図】

図:抗体のある人が多いと、免疫の弱い人に感染させることが少なくなる。

つまり、ワクチンを打つことは自分だけでなく社会全体で感染する人を減らす効果があり、特に1歳未満の重症になりやすい子どもや免疫の落ちている人を百日咳から守ってあげる効果があります。こうした考え方をすると、大人が再び百日咳の予防接種を受けることの価値が見えてきます。

5. 大人も百日咳になるのか?

百日咳は子どもに多い病気です。子どものうちにワクチンを打つので、大人はあまりかからない病気です。一方で、最近は大人の百日咳に関して問題視されるようになってきています。

成人の感染について

ほとんどの成人は百日咳に対する予防接種を子どもの頃に受けているので、百日咳に感染しにくくなっています。しかし、百日咳の予防接種の効果は10年ほどで減衰してしまうため、成人の百日咳に対する予防効果は万全でなくなっています。そのため、大人の百日咳の発症が近年問題になっています。

大人の百日咳はあまり重症にならないことも多く、場合によっては「単なる風邪かな?」という程度で済むこともあります。これは子どもよりも免疫システムが確立されていることやワクチンの効果が減衰しても少しは残存していること、気道(空気の通り道)が子どもより太いことの影響と考えられます。

ここまでに述べた内容からは大人の百日咳は軽症がゆえに捨て置いて良いように思われます。しかし、百日咳になると重症になってしまう人に感染を広げないために、成人も感染しないようにするべきです。具体的には、感染流行時にはマスクを着用したり、場合によってはワクチンを再接種することも有効です。ワクチンの接種に関しては、百日咳だけに特化したワクチンがない(3種混合ワクチンや4種混合ワクチンがある)ので、接種の要否の参考に医療者にメリットとデメリットを聞いてみて下さい。特に周囲に重症になりやすい人がいる場合には、成人の追加接種を行うと良いかもしれません。

妊婦の感染について

妊婦が感染症にかかった時に子どもへの影響を考えなければなりません。TORCH(トーチ)症候群という言葉があります。TORCH症候群とは、妊婦が感染すると子どもに悪影響が出る可能性が高い病気をまとめた総称です。

百日咳はTORCH症候群に含まれていません。万が一、妊娠中に百日咳になっても慌てずに主治医と相談して治療しましょう。ここで一つ大事なことがあります。治療薬の使い方です。

百日咳の治療にはマクロライド系抗菌薬とST合剤の2種類が用いられます。実はST合剤は妊婦に対して安全性が確認できていないため使うことは避けるべき薬です。そのため、治療にはマクロライド系抗菌薬(クラリス®、ジスロマック®、エリスロシン®など)を用いるべきです。

また、ワクチンに関しても注意点があります。生まれたての新生児や乳児が百日咳になると重症になりやすいです。生後3,4,5ヶ月の早い段階でワクチン(4種混合ワクチン)を3回打ちますが、すぐに万全な有効性を発揮するわけではないので、周囲から百日咳をもらわないようにすることが大切です。そのため、周囲の人(ここでは特に家族)がワクチンを受けておくことは赤ちゃんのためになります。海外では妊婦も百日咳予防のワクチン接種を行った方が良いという意見もあり、ワクチン接種について主治医と相談してみると良いでしょう。

6. 百日咳になったら学校は休まなければならない?出席停止について

百日咳は学校保健安全法施行規則の第二種の感染症になります。百日咳の他には、インフルエンザ麻疹はしか)、流行性耳下腺炎おたふく風邪)、風疹三日ばしか)、水痘水ぼうそう)、咽頭結膜熱プール熱)、結核髄膜炎菌髄膜炎などが第二種の感染症です。学校保健安全法施行規則によれば百日咳になった場合には、次のいずれかを満たすまで出席停止と定められています。

  • 百日咳に特有な咳が消失するまで
  • 5日間の適正な抗菌薬(マクロライド系抗菌薬、ST合剤)治療が終了するまで

このいずれかを満たせば、周囲に感染を広げる危険性が低くなっていると判断できます。また、病状をみて学校医や他の医師が感染を広げる恐れがないと認めた場合にも出席を再開することができます。また、感染を起こしていないが周囲に感染者がいた場合には学校医やその他の医者に相談する必要があります。例えば次のような例です。

  • 家族に百日咳にかかっている人がいる場合又は百日咳にかかっている疑いがある場合
  • 百日咳を発生した地域から通学する場合
  • 百日咳の流行地域を旅行した場合

出席停止の要否や期間に関しては、本人の症状に加えて流行状況やワクチンの接種状況から判断されます。

7. 百日咳の流行はどうやって分かる?

以前の感染症法では、百日咳は定点把握疾患に分類されていました。これは定められた医療機関でのみ流行状況を把握するという意味です。つまり、1週間あたりにどのくらいの患者が受診したかを一部の医療機関で把握します。小児科の定点観察医療機関は全国に約3,000ほどあり、その医療機関からの報告を集めて流行状況が把握されます。

2018年からは、百日咳の流行状況をより正確に把握することを目的として、年令を問わずに全ての医療機関で百日咳の患者数を把握していくこととなりました。ここで百日咳と診断する根拠は検査診断で陽性となった場合です。検査診断とは次のいずれかを満たす場合のことです。

【百日咳の検査診断】

検査による診断
  • 百日咳の培養検査・遺伝子検査(PCR法、LAMP法)が陽性
  • 抗体検査(PT IgG抗体価、IgM抗体価、IgA抗体価)が陽性

つまり、痰や血液を用いて百日咳に感染していることを客観的に証明された場合に百日咳と報告されます。

8. こんな人の百日咳は要注意

百日咳は咳が目立つ病気ですが、重症になることはあまりありません。一方で、百日咳が重症になりやすい人がいます。次に挙げる人たちは百日咳に感染しないように気をつけるようにして下さい。また、風邪のような症状のあとに持続する咳が見られた場合には、百日咳や感染後咳嗽、咳喘息を考えられるため専門家に診察してもらう必要があります。

肺に持病のある人(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患など)

肺に持病がある人は呼吸器感染症が重症になりやすいです。ここでいう肺の持病とは、気管支喘息慢性閉塞性肺疾患COPD)・肺がんなどです。持病によって余力がないため、感染症が治りにくかったり、少しの影響で呼吸機能が症状が出る状態まで低下してしまう背景があります。

肺に持病がある人は、肺感染症の予防に努めることが望ましいです。気をつけるべきことは以下になります。

  • 手洗いを行う
  • 流行時には咳エチケットに務める
  • ワクチンを接種する

百日咳にはワクチンがあります。現在は定期接種で大人であればワクチンは接種済みですが、ワクチンの効果は一生続くわけではありません。感染予防に再接種を行うことも感染予防の観点から重要です。

免疫力の低下している人

免疫力の低下している人は感染症にかかりやすくなります。百日咳は感染症ですので、免疫力が低下していると言われた人は気をつけなければなりません。毎日の中で手洗いやマスクの着用を行いながら、ワクチンを受けたほうが良いのかどうかについて主治医に確認して下さい。

ワクチンを打っていない人

現在は百日咳のワクチンは定期接種になっています。ワクチンをきちんと接種するようになってから百日咳患者が減少してきた背景からも、ワクチンは百日咳の感染症予防にとても重要です。しかし、何らかの理由でワクチン接種を受けられなかった人は百日咳にかかりやすいです。

元来百日咳はとても感染力が強い病気です。基本再生産数(1人の感染者が周囲の何人に感染を広めるか)は16-21という数字で、これは感染力の高い麻疹はしか)と同じ程度です。ワクチンを打っていない人は早急にワクチンを受ける必要があるので、お近くの医療機関に必ず相談して下さい。

赤ちゃん

子どもは百日咳にかかりやすいです。中でも1歳未満の乳幼児は百日咳が重症になりやすいことが分かっています。百日咳が重症になると、痙攣のような咳(発作性に咳き込んで、息を吸うときにひゅーひゅー聞こえる)がひどくなり、息苦しさが増します。また、合併症も起こりやすいです。百日咳の合併症で特に気をつけなければならないのは、肺炎と脳炎です。呼吸困難や意識障害が起こり命に関わります。

赤ちゃんは感染予防のために必ずワクチン(4種混合ワクチン:百日咳、破傷風ジフテリアポリオ)を受けて下さい。ワクチンのスケジュールは次のようになります。

【ワクチンのスケジュール】

図:小児期のワクチン接種スケジュール。

この表を参考に、スケジュールを守りながらワクチンを受けるようにして下さい。万が一、スケジュールから外れてしまった場合には、お近くの医療機関にかかって小児科医に相談するようにして下さい。

【参考】

・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

Pertussis (Whooping Cough) | CDC

・レジデントのための感染症診療マニュアル第3版

・百日せきワクチンに関するファクトシート