ひゃくにちぜき
百日咳
小児に多い呼吸器系の感染症で、特有の咳発作が特徴
14人の医師がチェック 99回の改訂 最終更新: 2021.11.30

百日咳とはどんな病気?原因、症状、検査、治療など

百日咳は咳が続く病気です。その咳には特徴があります。また、検査や治療に関しても単純にはいかない点があります。このページでは百日咳に関するポイントを説明していきます。

1. 百日咳とはどんな病気なのか?

百日咳はその名の通り、長期間の咳を特徴とする感染症です。日本特有の病気ではなく、世界各国で百日咳は起こり、英語でPertussisあるいはWhooping Coughと言います。百日咳は子どもに起こりやすい病気です。また、生後間もない乳幼児(特に生後12ヶ月未満)で重症になりやすいです。

日本では最近まで決められた一部の医療機関でしか患者数を把握していなかったため正確な数字は分かりませんが、近年は子供だけでなく成人でも患者が見られるようになってきていました。2018年から全ての患者数を把握するようになったため、今後は正確な患者数がわかります。

日本ではワクチン(4種混合ワクチン:百日咳、破傷風ジフテリアポリオ)が定期接種となっているため百日咳の患者数はあまり多くはありません。一方で、世界では年間1600万人が百日咳に罹患し、そのうち19.5万人が亡くなっています。つまり、百日咳の患者を減らすためにはワクチンが非常に重要な手段です。

2. 百日咳は何が原因なのか?原因菌はどんな菌?

百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌の感染です。また、一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)も原因となります。百日咳菌はグラム陰性桿菌に分類されます。グラム陰性桿菌とはグラム染色という方法で菌を染めても染まらない細菌のことで、百日咳の他には大腸菌やクラブシエラ桿菌、緑膿菌などが挙げられます。

百日咳では鼻咽頭や気道からの分泌物が咳やくしゃみに乗って飛散することで感染が拡がります。難しい表現をすると、飛沫感染接触感染が感染経路になります。

3. 百日咳になるとどんな症状が出るのか?

百日咳はその名の通り長く続く咳が特徴的な病気です。咳以外にも痰や発熱などの症状を伴います。また、発症してからの時間によって大きく3つの時期に分けることができます。

4. 百日咳の症状は時期によって3つ(カタル期、痙咳期、回復期)に分けられる

百日咳の感染当初は風邪急性上気道炎)と同じような症状が出現します。その後咳が強くなり息苦しくなっていきます。このように時期によって症状が変わっていくことが百日咳の特徴です。

百日咳の症状が出現する時期は次の3つに分けられます。

  • カタル期(2,3週間ほど)
  • 痙咳期(2,3週間ほど)
  • 回復期(2,3週間ほど)

日本では百日咳に対して定期接種のワクチン(接種することが強く奨められているワクチン)があります。産まれて間もない赤ちゃんが百日咳になると重症化することが多いため、ワクチンも生後3ヶ月という早い段階からの接種が推奨されています。

百日咳のワクチンは予防にも症状を軽くさせることにも有効です。そのため、ワクチンを打っているかどうかで症状の程度が異なることが分かっています。

各々の時期においてどういった症状が出やすいのかについて説明していきます。

カタル期の症状(発熱、喉の痛み、咳、鼻水など)

百日咳の原因微生物である百日咳菌に感染してもしばらくは症状が出ない期間(潜伏期間:7-10日程度)が続きます。その後一般的な風邪の症状が出現します。

風邪の一般的な症状とは、次のようなものを指します。

  • 発熱
  • 喉の痛み
  • 鼻水

百日咳といえば咳が主な症状ですが、この時期の最初にはあまり咳が目立ちません。そして、時間とともに咳が強くなってくることがこの時期の特徴です。

痙咳期の症状(発熱、喉の痛み、咳、鼻水など)

カタル期が終わって痙咳期になると痙攣のような咳の発作が出るようになります。この咳を痙咳(けいがい)と言います。コンコンと短い咳が連続的に起こってから息を吸う時に笛の音のようなひゅーひゅー音が聞こえます。咳は特に夜間に起こりやすいです。

咳以外では次のような症状が見られることがあります。

  • 嘔吐
  • 皮下の出血
  • 眼球結膜の出血
  • 鼻血
  • 発熱

生後間もない乳児や新生児では百日咳に特徴的な痙咳が見られないことがあり、気づいたら十分な呼吸ができない状態に至ることがあります。この状態が続くと、チアノーゼや意識消失へと発展する可能性があるので注意が必要です。また、生後3ヶ月から百日咳のワクチン(4種混合ワクチン)を打つことができるので、早めに受けることで予防につながります。

百日咳が重症になると肺炎や脳炎が起こり、酸欠や痙攣(けいれん)が顕著になることがあります。咳が続いた後に息苦しそうな状態や痙攣が見られた場合には、医療機関を受診するようにして下さい。

回復期の症状(根強い咳、倦怠感など)

激しい発作性の咳が続く痙咳期が終わると、段々と咳が見られなくなっていきます。回復期では少しずつ状態が回復していくのですが、時折咳が見られることがあります。しかし、発作性の咳が続いて息苦しくなるということは見られなくなります。

百日咳の症状について詳しく知りたい人は「百日咳の特徴的な症状について:咳、痰、発熱、喉の痛みなど」を参考にして下さい。

5. 百日咳が疑われたときに行われる検査とは?

百日咳が疑われた場合には、主に次の検査が行われます。

  • 問診
    • 持病の有無
    • 常用薬の有無
    • 自覚症状の有無や程度
    • 症状の出現した時期と進行スピード
  • 身体診察
    • バイタルサイン
    • 視診
    • 聴診
  • 画像検査
    • X線検査
    • CT検査
  • 細菌検査
    • 塗抹検査
    • 培養検査
    • 遺伝子検査
  • 血液検査
    • 抗体検査

百日咳の診断はこれらを踏まえて総合的に行われます。百日咳の診断について「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」で定義されています。生後12ヶ月未満の子どもが百日咳になると重症になる場合があるため注意が必要です。

【百日咳の診断基準】

1.症状による判断材料 1週間以上咳がある状態(1歳未満の子どもであれば咳の期間は問わない)で、以下の特徴的な症状のいずれかが見られる
  • 吸気性笛声(息を吸ったときにヒューヒュー音が鳴る)
  • 発作性の連続する咳
  • 咳き込んだあとの嘔吐
  • 無呼吸の発作
2.検査による判断材料 次のいずれかを満たす
  • 百日咳の培養検査・遺伝子検査(PCR法、LAMP法)が陽性
  • 抗体検査(PT IgG抗体価、IgM抗体価、IgA抗体価)が陽性

上の表の中にある疑わしい症状が1つでも見られた場合に、検査が陽性であれば百日咳と診断されます。また、検査が陽性でなくても、検査が陽性の人に接触した人に疑わしい症状が見られた場合にも百日咳と診断されます。

百日咳の症状について詳しく知りたい人は「百日咳が疑われたらどんな検査が行われる?どうやって診断されるのか?」を参考にして下さい。

6. 百日咳の治療について:抗生物質(抗菌薬)、症状を和らげる薬など

百日咳の原因である百日咳菌に対して有効な抗菌薬は次の2種類です。

  • マクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリシッド®、クラリス®、エリスロシン®など)
  • ST合剤(バクタ®、バクトラミン®など)

しかし、これらの抗菌薬も百日咳に罹患した初期(カタル期)に使用しないと症状を和らげることが難しいです。その場合には、鎮咳薬や漢方薬を用いて症状を緩和します。

また、カタル期以降(痙咳期、回復期)には症状が和らぐことは難しいですが、抗菌薬を使用して治療します。これはほかの人に感染を広げないための意味合いが強く、特に1歳以下の重症になりやすい子どもを守るために重要です。学校保健安全法を基準に考えると、上記の抗菌薬を5日間使用すれば感染性がほとんどなくなったと考えることができます。

百日咳の治療について詳しく知りたい人は「百日咳の治療について:抗菌薬、咳止めなど」を参考にして下さい。

7. 百日咳のワクチン(予防接種)について

百日咳には予防接種があります。インフルエンザワクチンが代表的ですが、感染症には予防接種が存在する一方で、日本国内で接種できるワクチンのある感染症は限られています。

ここに挙げた感染症を見ると、「なんだ結構多いじゃん」と思う人もいると思います。しかし、感染症の種類は数多くあるので、ワクチンで防げる感染症(VPDs:Vaccine Preventable Diseases)はその中のほんの一部です。ワクチンは予防効果が検証された実績のあるものです。多くのワクチンは感染にかからないようにするだけでなく、感染にかかっても重症にならないようにする効果があります。一方で、ワクチンは免疫機構に作用するので、副反応(接種部位が赤く腫れる、熱が出る、身体がだるくなるなど)が出ることがあります。現在行われている予防接種は、予防効果と副反応を天秤にかけて、接種したほうが良いと判断されたもののみになります。そのため、定期接種や任意接種のいずれの種類でもワクチンを受ける方が得られるものが大きいです。

参考までに赤ちゃんの予防接種のスケジュールを次に示します。

【予防接種のスケジュール】

子供の予防接種スケジュールの表

[PDF版はこちら]

一方で、百日咳の予防接種を受けてから10年ほど(4-12年くらい)経つと効果が薄れてしまうことが分かっています。つまり、百日咳ワクチンを接種しても10年経つと無防備になってしまうということです。そのため、過去に予防接種を打った人でももう一度予防接種を受けるようにすることが望ましいです。これには自分自身が感染する問題以外に深いわけがあります。詳細は次の段落で説明します。

集団免疫という考え方

百日咳ワクチンを打つと、百日咳にかかりにくくなり、百日咳にかかっても重症になりにくくなります。実はこれ以外にも百日咳ワクチンの重要な価値があります。

それは集団免疫と呼ばれる効果です。これは多くの人がワクチンにより百日咳に対する免疫を持つことで、周囲にうつさないようにすることです。

【集団免疫のイメージ図】

図:抗体のある人が多いと免疫の弱い人を守ることになる。

つまり、社会全体で感染する人を減らす効果があり、特に1歳未満の重症になりやすい子どもや免疫の落ちている人を百日咳から守ってあげる効果があります。こうした考え方をすると、大人が再び百日咳の予防接種を受けることの価値が見えてきます。

8. 百日咳は大人もかかるのか?

百日咳は子どもに多い病気です。子どものうちにワクチンを打つので、大人はあまりかからない病気です。一方で、最近は大人の百日咳に関して問題視されるようになってきています。

ほとんどの成人は百日咳に対する予防接種を子どもの頃に受けているので、百日咳に感染しにくくなっています。しかし、百日咳の予防接種の効果は10年ほどで減衰してしまうため、成人の百日咳に対する予防効果は万全でなくなっています。そのため、大人の百日咳の発症が近年問題になっています。

大人の百日咳はあまり重症にならないことも多く、場合によっては「単なる風邪かな?」という程度で済むこともあります。これは子どもよりも免疫システムが確立されていることやワクチンの効果が減衰しても少しは残存していること、気道(空気の通り道)が子どもより太いことの影響と考えられます。

ここまでに述べた内容からは大人の百日咳は軽症がゆえに捨て置いて良いように思われます。しかし、百日咳になると重症になってしまう人に感染を広げないために、成人も感染しないようにするべきです。具体的には、感染流行時にはマスクを着用したり、場合によってはワクチンを再接種することも有効です。ワクチンの接種に関しては、百日咳だけに特化したワクチンがない(3種混合ワクチンや4種混合ワクチンがある)ので、接種の要否の参考に医療者にメリットとデメリットを聞いてみて下さい。特に周囲に重症になりやすい人がいる場合には、成人の追加接種を行うと良いかもしれません。

また一般に、妊婦が感染症にかかった時には子どもへの影響を考えなければなりません。TORCH(トーチ)症候群という言葉があります。TORCH症候群とは、妊婦が感染すると子どもに悪影響が出る可能性が高い病気をまとめた総称です。

百日咳はTORCH症候群に含まれていません。万が一、妊娠中に百日咳になっても慌てずに主治医と相談して治療しましょう。ここで一つ大事なことがあります。治療薬の使い方です。

百日咳の治療にはマクロライド系抗菌薬とST合剤の2種類が用いられます。実はST合剤は妊婦に対して安全性が確認できていないため使うことは避けるべき薬です。そのため、治療にはマクロライド系抗菌薬(クラリス®、ジスロマック®、エリスロシン®など)を用いるべきです。

また、ワクチンに関しても注意点があります。生まれたての新生児や乳児が百日咳になると重症になりやすいです。生後3,4,5ヶ月の早い段階でワクチン(4種混合ワクチン)を3回打ちますが、すぐに万全な有効性を発揮するわけではないので、周囲から百日咳をもらわないようにすることが大切です。そのため、周囲の人(ここでは特に家族)がワクチンを受けておくことは赤ちゃんのためになります。海外では妊婦も百日咳予防のワクチン接種を行った方が良いという意見もあり、ワクチン接種について主治医と相談してみると良いでしょう。

参考文献
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会, 小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2017, 協和企画, 2017
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・CDC:Pertussis (Whooping Cough) 
・青木 眞/著, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015